東璧龍珠・憶絵物語
大漠長風・壱
芳醇な葡萄酒に楽しいダンス。皆が酔う中、彼独り醒めている。
◆主人公【女性】の場合◆
(逆の場合の差分は募集中)
安西四鎮(あんせいしちん)の一つ、亀茲(きじ)古国。
がやがやと賑わう街の中で、西域の服を着ている二人が立ち並ぶ商店の前を徘徊していた。どうやらここにある物全てが彼らの眼を惹きつけるようで、歩いては立ち止まってを繰り返していた。
若
「本当に面白すぎるよ。昔、本で亀茲古国の風景を見てすごく憧れていたんだ。
今日ようやく見に来られてよかった。
ただあなたも一緒に来てくれるとは思ってなかったよ。」
東璧龍珠
「ここに関しては君よりも詳しいですから。
一人で来たら、恐らくまた面倒事が起こるでしょうし。」
『漠上で風言を聴き刃を携えて塵痕を踏む』
千里を追われ初心忘れず
きらびやかな虚像の背後にある
貴方の存在は
彼の心の唯一の真実
【東璧龍珠・大漠長風】
若
「確かにあなたが傍にいてくれれば、私も安心できるね。
ようやく来れたんだから、思う存分遊ぼうよ!」
「ほら見て、野菜、果物、綺麗なアクセサリー、ここにいっぱいあるよ。
見たいものが多すぎて一つ一つ見てる暇がないね。」
「でも見た感じ、やっぱりブドウが一番売られてるみたい。
道理で毎年中原の商人が遠路はるばるここに仕入れに来てたわけだ。」
東璧龍珠
「亀茲国の名物はブドウなんです。
また、ここで「ブドウ」は良い意味を持つため、
地元の人たちは縁起の良い物だと見なしています。」
若
「なるほど、だからブドウを売ってるお店の他にも、
ブドウに関する工芸品が沢山置かれてるんだ。」
若
「わあ、この瑪瑙を見て、ブドウみたいな形に彫刻されてる。
装飾品だけど、どれも色鮮やかで芳醇だ。
生き生きとして、本当に美しい。でも……多分高いよね。」
東璧龍珠
「事件の調査についても長い間学んだから、洞察力もずいぶん鋭くなったようですね。」
「それは極上の西域瑪瑙です。小さい物でも、非常に高い。」
若
「そうだよね、じゃあやっぱり置いておこう……。」
そんな話をしていたのも束の間、突然どこからか数人の人影が現れ、
私に向かって飛び出してきた。
躱しきれないと思った瞬間に、東璧龍珠は私をマントの下に引き込んでくれた。
若
「何があったんだ?」
東璧龍珠
「オレの傍にいろ、勝手に動かないでくれ。」
街角の酒屋の出入口からがやがやと喧噪が聞こえ、あちこちから押し寄せた客が次々と中に入っていった。東璧龍珠は適当に通行人を一人捕まえ、私が聞き取れない亀茲語でひとしきり質問をした。
東璧龍珠
「酒屋は今西域ワインであちこちから客人を宴に招いているようです。
彼らは皆酒を飲みに行ったのでしょう。」
若
「伝説の西域ワイン!行こう、私たちも見に行こう。」
東璧龍珠
「忘れたのか、君は酒を飲んではいけないってことを。」
若
「飲めないけど、何であれ盛り上がってる様子を見れるし、
行こうよ、私たちも行って盛り上がろう!」
「本当に百閒は一見に如かずだ。
この香りを嗅ぐだけでよだれが垂れてしまう。
昔から数多くの文人や詩人たちがこの美酒に溺れてしまうのも理解できた。」
私と東璧龍珠が席に着くと、
酒甕を持った胡人の踊り子たちに囲まれた。
夜光玉杯には美酒が注がれている。
東璧龍珠
「結構だ。オレは飲まないので。」
若
「なんで飲まないの?これ高級な西域ワインだよ。
東司馬が飲まないのなら、いい酒が無駄になってしまうじゃない?」
東璧龍珠
「酒を飲むと仕事に支障をきたす、オレの判断力に影響してしまうんだ。
あいにくだが、今日はこの美酒を飲むことはできない。」
踊り子は酒を勧めても無駄だと悟り、東璧の袖をひょいと軽く引っ張った。
彼女の言葉は聴き取れなかったが、
その動きからおそらく、一緒に踊ろうと東璧を誘っているのは分かった。
若
「行きなよ、さっき一回断ったんだし。
何度も厚意を断ることは、あまり良いことじゃないよ。」
東璧は眉一つ動かさずに「親切な」胡姫から離れ、
振り向いて私をじっと見つめた。
微笑んでいるが、どこか悪戯心が見える気がした。
若
「な、なんで私を見るの?」
金色の瞳が私をじっと見つめてくる。
ついつい不安になってしまうほどの鋭い眼光だった。
東璧龍珠
「あなたの考えが頭に出ているように思えましてね。
どうやら君はオレの踊りを楽しみにしているようですね。
なおかつその光景にほくそ笑んでいるようにも感じます。」
若
「そうじゃないよ……ただ真面目な東司馬様が、
「自分を解放した」ところを見られる貴重な機会だから、
期待して当然でしょう。」
東璧龍珠
「君の提案に応えてあげてもいいんだが、条件があります。
オレと一緒に踊ってくれ。」
亀茲国の伝統楽器――篳篥(ひちりき)と箜篌(くご)の穏やかで優しい音、琵琶の音と太鼓のリズムが交錯し、力強く響く。異国の風情が溢れる音楽の下で、大勢の男女が思う存分歌い、楽しんでいる。まるで天国のようだ。
私は少しぎこちなくリズムに合わせて踊った。東璧龍珠は落ち着き払った様子で余裕があり、その一挙一投足に力強さを美しさ、さらに地元の踊り子の様な雰囲気さえあった。
若
「まさか普段は真面目な東司馬様が、踊りまでもそつなくこなしてしまうとは。」
東璧龍珠
「それについてはまあ、昔の安西大都護府の大司馬である以上、
当然この土地の風土と人情については多少知っています。」
「『郷に入っては郷に従え』ということも、
事件を探る者にとっては時に必要となる能力です。」
若
「この舞踊は美しいけど、動きが本当に難しすぎる……うわ――!」
私は踊り子の動きを真似して脚を上げ、回転する。すると、バランスを崩して倒れかけた。
運良く隣にいた東璧龍珠が俊敏な動きで、
私をしっかりと支えてくれた。
東璧龍珠
「やはり君のバランスの感覚は賞賛しようがないですね。
帰ったら体力訓練でも行い体幹を強化するべきです。」
若
「脚が滑った……味が滑ったの……踊りの真似はできないけど、
こんなにきれいな踊りを鑑賞できるなんて、目の保養にもなるね。」
「皆で団欒し、酒を酌み交わす。
きっと今の亀茲国は安泰で、
人々は平和な暮らし、活気に満ちているんだろう。」
東璧龍珠
「安泰で平和?オレの考えすぎなら良いのだが。」
若
「ん?ごめん、よく聞こえなかった。」
東璧龍珠
「いや、何でもない……。
ところで、君はいつまでそうやってオレに寄りかかっているつもりなんです?」
大漠長風・弐
力を合わせて謎を解く。彼のように、無限に広がるこの砂漠を照らす光になりたい。
◆主人公【女性】の場合◆
(逆の場合の差分は募集中)
夜の帳が下り、ぼんやりと月の光が輝く。
静まり返った夜には怪しく危険なにおいが潜んでいた。
人影が風の如く畑の中を駆け抜け、黒豹の如き速さで暗闇の中へ消えていった。
東璧龍珠は音もなくそっと地下の酒蔵に潜入した。
しかし酒甕の近くから微かに奇妙な物音が聞こえ、
身を潜めていた人影が立ち上がった。
東璧龍珠
「何者だ!?」
素早く鞘から鋭い刃を抜くと、
キラキラと光る刃の先が薄暗い地下を昼間の様に明るく照らし、
身を隠す場所を全て奪った。
若
「斬らないで、仲間仲間!」
東璧龍珠
「なぜ君がいるんだ?
こんな夜中に、ここで何をしている?」
若
「説明しても信じないと思うけど、私は酒蔵を調べに来たんだ。
まさかあなたがこれほど早く来るなんて。」
東璧龍珠
「酒蔵を調べる。」
若
「最初はただふとおかしいなと思っただけなんだけど、
ここに来て自分の推測が正しいと確信した。」
「あなたも疑問に思ったから来たんでしょう?
どうやら私たちは同じことを考えてるんだね!」
東璧龍珠
「ふむ?どうやら何かに気づいたようですね。
君の推理を聞かせてもらおうか?」
若
「最近私は西域と関係のある書籍を研究してるんだけど、
その中にワインに関する知識が沢山載ってるから、
今なら、多少は分かるんだよね。」
「西域ワインの多くはこの地の紫ブドウを原料とし、米を麹としてる。
昔ながらの原始的な方法を採用し、発酵と醸造で完成させるため、
酒の香りの中にはブドウの風味が伝わってくる。」
「今日酒屋の中で見たワインの香りは
人を酔わせやすい珍しい香りを帯びていたけど、
この並々ならない香りが、却って変だなと思った。」
「こんな特殊な香りは明らかに果実と酒の香りなんかじゃない……
おそらくその中には何か他のものが入っていると思うよ。」
「それに、この酒蔵の中でも同じような香りがある。
だから私はここのワインに問題があると推測したんだ。」
東璧龍珠
「素晴らしい、確かな根拠はあります。
君の洞察力と論理的思考能力は大きく上がったようですね。」
「でもそれ以前に、君は一つ重要なことを忘れています。」
反応をする間もなく、
東璧龍珠は近寄ってくると、私の頭にマスクを被せた。
東璧龍珠
「これを破れ、防毒マスクだ。
次から調査を行うとき、まずはしっかりと自分の身を守れ。」
「もしここで君が倒れたら、オレに背負わせるつもりだったのか?」
若
「やっぱりあなたは抜かりないね。
あなたも来たし、一緒に調査をしよう。
なんなら昔のように私が助手になってあげるというのはどう?」
東璧龍珠
「ここは決して安全ではない。
もし何か突発的な事態が発生したら、君はすぐに撤退しろ。
後はオレが対処する。」
若
「私を先に逃がす?
これって、私に足を引っ張られたくないってこと?」
東璧龍珠
「……頭が回るな。」
若
「残念だったね、私は逃げないよ。
時間がないから、やっぱり二手に別れて急いで調査しよう。」
暗く狭い酒蔵は、まるで罪悪と暗闇を育てている温室のようだ。
一本ずつ糸をほどいていくことで、何層にも重なる仮面を被り、
真相の一端を垣間見ることができる。
幸いにも東璧龍珠がいる、
如何なる手掛かりも彼の目から逃れることはできない。
東璧龍珠
「フッ、やはり陰謀があったか。」
東璧龍珠が麻袋を一つ地面に投げ捨てると、開け口から数枚の葉っぱが落ちた。
なんと麻袋の中には花が一杯に敷き詰められていた……。
若
「この花の香りが散布されていたんだ。
なるほど、この不思議な花の香りは、ここから漂ってきたんだな。」
「白いラッパ型の花、とげとげの丸い実、
これは……西域の曼陀羅?!」
東璧龍珠
「まさにそれだ。
この香りを長く嗅ぎ続けると軽くても神経麻痺を引き起こし、最悪の場合……、」」
若
「最悪、ショック死することもある。」
東璧龍珠
「どうやら、やつらは薬物としてこの花を犯罪に使っているらしい。
しかし、花を直接酒の中に入れるのはさすがに目立ちすぎる。
別の目立たない方法で処理しているはずだ。」
若
「そうだね、これを見て、これらの器具はどれも砕くための道具だ。
もしかしたら彼らは花を砕いて粉にしてから、
酒の中に混ぜ込んでいたんじゃないかな?」
東璧龍珠
「その可能性もあるが……オレはここを捜索済みなのに、
花の粉のような物は一切見つけられなかった。」
若
「いや、絶対に私たちが見逃してるところがあるはず……」
ふと思いつき、しゃがみこむと注意深く探索を始める。
そしてついに酒甕の周りの地面から手掛かりを発見した。
酒甕に光が遮られ薄暗くなっていたため、肉眼で見つけるのは困難だった。
若
「見つけた!見て見て、ここに落ちてる白い粉末は花紛みたいじゃない?」
「それに、この粉末の上に足跡が残ってる。」
東璧龍珠
「酒甕の近くにあるということは、偶然じゃない。
まさか君が隠れたところにも気づくほど注意深いとは。」
若
「絶対に糸口をつかめるように神経を研ぎ澄ませる、
これはあなたが教えてくれたことじゃない?
私はただ学んだことを実践しただけ。」
東璧龍珠
「うん、案外素直だな。」
若
「地面だけじゃない、見て、酒甕のふちにも粉末が付いている。
恐らく酒甕に流し込んでいた時に不注意でこぼしたんだろう。」
「もしこれらの粉末が曼陀羅の花粉だったら、重要な証拠となる。」
推測の検証をするため、私は手を伸ばして触ろうとしたが、
東璧龍珠に止められた。
東璧龍珠
「動くな、オレがやる。」
「はっきりしない物を安易に触るのは危険だ。」
東璧龍珠は極細の薬さじを一本取り出し、
酒甕のふちの粉末をかすめ取ると携帯している小皿の上にのせた。
薬さじでいじりながらしばらく観察した後、手で軽くあおいで匂いを嗅ぐ。
東璧龍珠
「この粒は整然として、大きさも均一に見えます。
粉の質は花紛に極めて似ていて、吸い込むと少し眩暈がする……
現時点では曼陀羅の花紛だと判断できます。」
「だがまだもう少し検査を行う必要があります。
とりあえずこの粉末を集めて物証品にしましょう。」
若
「言い伝えによると曼陀羅の花の毒性が最も強い部分は実と葉だ。
花が見つかったということは、私の推測では、
他の部分も絶対にこの付近にあるはずだ。」
「万が一他の人に拾われてしまったら面倒だ。」
東璧龍珠
「残りのことは安西都護府に任せましょう。
今やるべき任務は、
この悪人たちが逃げてしまう前にやつらを法の裁きにかけることです。」
「オレがやつらの注意を引きつけるから、
君は官府に人を呼んで来い。」
若
「わかった。別々で行動しよう。」
東璧龍珠
「ああ、オレは絶対にやつらを逃がさない。」
大漠長風・参
真実はただ1つ。でも私とあなたの未来には無限の可能性がある。
◆主人公【女性】の場合◆
(逆の場合の差分は募集中)
若
「まさか夜明け前に酒屋を一掃できるなんて、安西都護符の手際が本当に速かったね。」
「盗人(ぬすっと)と盗品は押さえた。これで一件落着。
これでようやく亀茲国にも平穏が戻ってくる。」
「今回順調に事件解決ができたのは、君のおかげだけど、
他に何か言うことはない?」
東璧龍珠
「オレを尋問しているのか?」
若
「教えてほしい。あなたが今回西域に来た目的は一体何だったの?
暇つぶしで私に付き添って遊びに来ただけとは思えない。」
「ほら、早く。でももちろんあなたには黙秘権がある!
ただ、これから話すことはすべて法廷での証言になるぞ!」
東璧龍珠
「フッ、まさか君にしっぽを掴まれる日が来るとは。
君が相手では言い逃れができない。」
「確かにオレは用事があってここに来たのです。
つい先日、オレは安西都護符からある密書を受け取りました。」
「それには、最近亀茲国で不可解な窃盗事件が多発しているため、
内密に調査を依頼したいと書かれていたのです。」
「この悪人たちは薬物を混ぜ込んだワインを使って人を気絶させ、
金品を盗んでいたらしい。」
「このワインの効き目は非常に強力で、
被害者が目を覚ましたとしても記憶が混乱してしまうため、
数か月間、官府も確かな手掛かりを掴むことができなかったのです。」
若
「ワインは本来西域の至宝であるのに、
この意地汚い連中は人を殺し財宝を奪うための道具にしていた。
本当にこれほど憎たらしいことはない。」
「なぜそんな重要なことを真っ先に私に伝えてくれなかったの?」
東璧龍珠
「君はずっと亀茲国に憧れていた。
このような薄汚く罪深いことを君に知ってほしくなかった。
多くのことを知ったところで、無駄な心配事を増やしてしまうだけだ。」
「オレは事件の捜査を一人で行い、
君には……滅多に来れない西域の旅を満喫してもらおうと思っていたが、
まさか最終的に君を巻き込んでしまうことになるとは思わなかった。」
若
「私の捜査の実力を認めたんじゃないの?」
東璧龍珠
「まだ足りないところはあるが、依然と比べると落ち着いているし、
君はいざという時にオレが気づかなかった手掛かりも見つけてくれた。」
若
「ほらね、脚を引っ張ってないでしょう。あなたの手助けもできるようになったよ。
それって私が調査力を持ってることの証明だよね。それに、私の目標は助手に
なることだけじゃない、ずっとあなたと一緒に前に歩いていきたいんだ。」
「あなたはもう一人なんかじゃないよ。
事件があれば私も付いていけるようになったから、
これからは二人で助け合えば、事件調査もきっと順調に進められるはずだ。」
「それと、私の腕前を見くびらないでよ。
私は空桑であなたの「地獄特訓」を乗り越えたんだから。
決してあなたが思ってるほど軟弱じゃない。」
「だからもし危険な目に遭ったとしても……心配し過ぎないで、
私も一緒に立ち向かうから。」
東璧龍珠
「フッ、口達者で理屈がしっかりしている……
まさかオレが君に説き伏せられるとは。」
若
「だから今回みたいな事件を捜査する時は、
私をほったらかしにしないでね。」
東璧龍珠
「……約束するよ。」
本音を洗いざらい話すと、私と東璧龍珠の間に沈黙が降りた。
月光が雲の中で見え隠れし、彼の表情はよく見えなかった。
しばらく微妙な空気が流れる。
若
「コホンコホン……見てあそこのブドウ、凄く大きいよ。
ああ、本当に惜しいな、やっと伝説の西域ワインに出会えたのに、
まさかこんな事件に巻き込まれてしまうなんて……。」
東璧龍珠
「ワインは飲みそびれてしまったが、君は西域のブドウを味わえば良い。」
そう言いながら、
東璧龍珠は頭上のつるからいくつかのブドウを無造作に掴んだ。
東璧龍珠
「手を出して。」
若
「どうもありがとう……あれっ…これは…?」
東璧龍珠の手のひらのブドウはいつの間にかアクセサリーに変わっていた。
紫色の瑪瑙のブドウは月明りの下でキラキラと光り輝いている。
それはあの時私が街で気に入ったアクセサリーとそっくりだった。
私はあっけにとられ、手を出し受け取ることも忘れていた。
東璧龍珠
「あの時、だいぶ気に入ったようだったからな?
君の心はお見通しだよ。
表情が分かりやすすぎる。」
若
「でことは、わざわざ買ってくれたの?」
東璧龍珠
「……」
「これは君へのご褒美だ。
今回の事件解決の功績とめざましい成長への奨励さ。」
若
「まさかそんなに私を気にかけてくれているとは思わなかったよ……亀茲国の人は瑪瑙を宝箱と見なしてるって。瑪瑙を誰かに贈る場合、その人は自分にとって、とても大事な人なんだっていう話を聞いたことがあるよ。」
東璧龍珠
「そんなつまらない伝説を読んでいる暇があるなら、
帰って事件の書類をよく研究してください。
今日のところは君を褒めておくが、君にはまだ成長すべきところがたくさんある。」
東璧龍珠の真面目な説教を無視し、構わずに続けて言った。
若
「あなたは一体私をどんな人だと見なしているの?
それになぜこのプレゼントを私にくれるの?
本当に単なるご褒美なの?」
東璧龍珠
「……話を聞いているか?」
若
「真相を求めて根掘り葉掘り聞くことも、
あなたが私に教えてくれたことでしょう。
私はしっかりと胸に刻んでるよ。」
東璧龍珠
「君の質問は相変わらず多いな……なぜこのプレゼントを渡すのか、
君をどう思っているのか……フン、今君の捜査力は進歩しているようだから、
自分で推理してみたらどうだ?」
若
「そんなの推理できるわけないし!
東司馬様はわざと私を困らせてるんじゃないの……。」
東璧龍珠
「分からなければずっと考えていればいい、君が本当に理解できるまで。
どの道、君が気づくまで待っている時間がオレにはあるから。」
若
「……あ、空が明るくなった。
一緒に大砂漠の日の出を見に行こう。」
東璧龍珠
「わかった。」
長い夜もいずれは去り行く、あらゆる霧も夜とともにひっそりと消えていく。
空に再び夜明けが訪れる時、この大砂漠と私たちには新たな光が差し込む。
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