華夜の祭礼・ストーリー・序章~第四章
極楽
序章ー極楽
赤い柵が建物の中の人をさえぎっている。土瓶蒸しが杯をあげる。酒を飲んだために、彼の顔が淡い赤になった。彼は軽く杯を振って眉を担ぎ、窓辺に座って満開の桜を眺めている純米大吟醸を見た。
土瓶蒸し「大吟醸、他の人たちがあんさんが前より元気になったと言ってはりましたよ?」
純米大吟醸「ほう?そう見えるでありんすか?」
土瓶蒸し「昔のあんさんなら、そのような顔は絶対しない。」
純米大吟醸「そうでありんすか……」
土瓶蒸し「そういえば、あの小さな飼い魚はどこにいはるんですか?」
純米大吟醸「たぶんまたあちきの影に潜んでいるでありんしょう~」
土瓶蒸し「まあ、あんさんは飲み続けていてください。私はお姫様のところへまだ用事があるから、お先に失礼。」
純米大吟醸「オヤオヤ、そこまで姫様のことに関心があるなら、あちきの嫉妬心が起こるかもしりんせんよ~」
土瓶蒸し「私のために嫉妬してくれるなら、結構嬉しいですね。」
純米大吟醸「フン、一寸逃れだけは上手でありんすね。」
土瓶蒸しが離れた。窓辺に座っている純米大吟醸は窓辺から離れない。彼は静かな空をじっと見て恍惚になった。
純米大吟醸「……前より……元気か……ふぅー……。」
これは遥か遥か昔のこと。あの時の人類は、まだ知らなかった。彼らが近い将来「魑魅魍魎」に支配され、日常の安寧を失うことを。
あの頃の純米大吟醸は、まだ何もせずに時を過ごしている「極楽」の店主。
あの日目の前に浮かんだ月は、ずっと前から人間の世界から消えていて、不老不死の「妖怪」たちの記憶の中にしか存在しなかった。
純米大吟醸(アラ…………夢か……)
草履を履いた子供たちは倒れている人を容赦なく蹴っていた。
あの人の体は汚くて、じめじめしている。普段なら、純米大吟醸は決して彼のそばに近寄らない。しかしあの闇に煌めく瞳は純米大吟醸の好奇心を起こした。
純米大吟醸「おい?ぬしたちよ、何をしている?」
きれいな声がすぐ子どもたちの行動を止めた。彼らは振り返って、後ろにいた優しい月光に染まる青年を見る。
鯖の一夜干し「ウウ……」
純米大吟醸「ねえ、あちきとちょっと取引をしないかい?この飴とこの人を交換したいのだけど……」
子どもたちは飴を見ると、少し迷った後すぐ自分の「おもちゃ」を放した。飴を取り、逃げる様子はまるで純米大吟醸が後悔することを怯えているみたい。
純米大吟醸は青年の前でしゃがんで、指を伸ばして彼の頬を突いた。
純米大吟醸「人間にとって、ぬしは「妖怪」のような存在でしょう。どうしてそこまで子どもたちにいじめられたでありんすか。」
鯖の一夜干し「ウ――ゴホ――」
純米大吟醸「……怪我が酷すぎて、もうすぐ死ぬでありんすよ。」
鯖の一夜干し「助けて……お願い……」
純米大吟醸「所詮つまらない世界、なぜまだ生きたいのでありんすか?」
鯖の一夜干し「……フ……ゴホ……助けて……お願い……」
純米大吟醸「もしかして、頑張ったら何か面白いことがあると思っているでありんすか?或いは他の理由がありんす?教えてくれれば、助けてあげられるかもしれないでありんすよ。」
鯖の一夜干し「頑張れば……外に……何があるかわかる。頑張れば……いいことが……」
純米大吟醸「……」
答えを聞いた純米大吟醸が少し驚いた。
歌舞伎町の変わらない生活はいつも彼を張り合いのない気持ちにする。あの嘘に騙され続けた女も、あの男の言葉で彼を信用しなくなった。
長い間、純米大吟醸は面白くないと感じていた。まるで自分が空っぽの殻にすぎないかのように、機械的で起伏のない日々を過ごしていた。
この目の前の、狼狽している男の顔には傷口と散乱した髪しか見えない。しかし彼の瞳から、純米大吟醸が見たことのない光が見えた。歌舞伎町に住んでいる人間の目からは見たことのない光だ。
純米大吟醸(きれい……)
純米大吟醸「……それなら、頑張りなんし。もし最後まで頑張れたら、是非あちきにいいことがあるか否か教えてくんなまし~」
鯖の一夜干し「大吟醸様!大吟醸様!もう朝ですから、窓辺で寝ないで起きてください。」
純米大吟醸が自分の記憶から呼び起こされた。彼がじっとして鯖の一夜干しを見る。この遠い昔のことはほとんど彼の記憶の底に封じられていた。
純米大吟醸にとって、この記憶は大した記憶ではない。この後、彼は自分の霊力で救ったこの食霊の姿さえ忘れていた。
鯖の一夜干し「大吟醸様?」
純米大吟醸は鯖の一夜干しの顔をジロジロ見ると、あの煌めく瞳を思い出した。
鯖の一夜干し「……大吟醸?どうしましたか?」
純米大吟醸「鯖、今日は何かいいことがあったんでありんすか?」
第一章ー飲み仲間
大吟醸の飲み仲間か?、或いは旧友か?
夜の桜はそよ風に従ってぐるぐる回って杯の中で淡く波瀾を揺り起こす。繊細な指先が杯の底を軽く触る動きと派手な外観がはっきりと異なっている。その姿は意外にも幾分のんびりしている感じがある。
口元に沿って流れるお酒は鎖骨で少し止まって、幾重の華衣に流れると一本の清く浅い跡を残した。
桜のような美青年が桜の木に寄りかかるが、桜の花に自分の美しさを遮られてはいない。彼が微かに顔を上げる。目付きはほろ酔いしたような感じがある。
突然、影から誰かの姿が現れる。
鯖の一夜干し「月が見えました。」
純米大吟醸「……うん?」
若い忍びは青年の落ちたガウンを引き直す。そして、前の言葉を冷静に繰り返す。
鯖の一夜干し「月が見えました。」
純米大吟醸「来たからにはここまで来なんし。一人で飲む酒は少しつまらないでありんす~」
青年のそばに立つ鯖の一夜干しはいつものように迅速に命令を実行しなかった。彼は眉をひそめている。いつも変わらない表情はいつになく、明らかに嫌を示している。
純米大吟醸「……鯖?」
純米大吟醸「フフ、どうしてそんな顔を?」
純米大吟醸の突いてきた指を避け、鯖の一夜干しは酒瓶を取って大吟醸の杯に酒を注ぐ。
鯖の一夜干し「あの人は、危ない。」
純米大吟醸「フン~」
鯖の一夜干し「……彼と私達は長い間付き合っていますが、彼は自分の目的を少しも漏らしたことがありません。私達は本当に彼と協力し続けるのですか?」
純米大吟醸「目的など……本当に重要なものでありんすか?」
鯖の一夜干し「……しかし……」
純米大吟醸「このくだらない鏡の世界を面白くしてさえくれるなら、これくらいの危険は安い代償でありんす。」
月見団子「そして、君も大吟醸をそばで支えているのでしょう。」
穏やかな微笑む声が二人の後ろから響いた。危険に気づいた鯖の一夜干しがその瞬間、緊張した。純米大吟醸も鯖の一夜干しの姿を見ると笑った。
純米大吟醸「そうでありんすよ、ぬしがあちきのそばにいるから……ええ!なぜ走るか……」
月見団子「彼は恥ずかしがり屋さんです。からかうのはやっぱりやめましょうよ。」
純米大吟醸「からかったのはあちきだけではないでありんしょう。アラ、それは何でありんす?」
いつも何も持たない月見団子は、今回小さいとっくりを持って来た。酒を嗜む人なら、遠い距離でもその芳醇を嗅ぎつけることができる。
月見団子「今回は僕が奢る番だ。さもないとあの人魚ちゃんから文句が出るよ。」
純米大吟醸はさっきのだらだらした様子から一転し、すぐ月見団子の隣に行った。彼が酒の香りを嗅いだ際に、さっきの酔いが消えた。そして目は夜の灯火のように明るくなった。
純米大吟醸「これはこれは、どこから手に入れたか?あちきでもこのような珍品あまり見たことないでありんす。」
月見団子は純米大吟醸にとっくりを渡す。青年がとっくりを抱いて顔をもふもふとほころばせている姿は、まるで天に登る極楽にいるような様子だ。
月見団子「八岐さんのところで手に入れたやつです。彼の島でいい酒がいっぱいできたのだけど、彼があまり好きではない。だから持って来た。」
純米大吟醸「彼のところにある物は確かすべて祭式用具でありんす。ぬしは神様を怒らせて業果を受けるのが怖くないのでありんすか?」
月見団子は純米大吟醸の皮肉に返事せず、ただ酒杯に酒を注ぐ。酒杯の中に真っ暗の空が映っている。目をつぶって、口元を笑わせている彼の表情はますます他の人が読み取れない寒さを混じえている。
純米大吟醸は月見団子の手元の酒杯を奪う。冴える酒が青年の口に流れる。そして口から溢れ出た酒も青年の華服で拭われた。純米大吟醸の笑いが恣意的に、艶かしくなる。まるで地獄の束縛を振りほどいた悪鬼みたい。
純米大吟醸「業果?誰の?あのおかしな神様かい?奴は最初からあちきに天罰を与えていたでありんしょう?」
第二章-夜の話
夜桜の下の囁き。
厚い雲は空を遮る。雲の移動とともに、空もますます暗くなる。
鯖の一夜干しは嫌な顔で歩き、顔が少しふわふわ、ニコニコしている月見団子を見送った。
月見団子「では、人魚ちゃん、また会いましょう。」
鯖の一夜干し「……」
月見団子「その表情全く変わりませんねぇ、そこまで私のことが嫌いですか?一応当時の君を正しい道へ導いてあげたでしょう。」
振り返って「極楽」に戻った鯖の一夜干しを見て、月見団子は「やれやれ」と首を横に振って去っていく。
店に戻った鯖の一夜干しは物憂げに赤い柵に俯せて、行きかう人の流れを眺める。純米大吟醸が上機嫌であの人たちに手を振っている。この様子を見た鯖の一夜干しは仕方なくため息をついた。
鯖の一夜干し「今は、まだ陽射しがある。」
純米大吟醸「鯖、ほら、もうこんな時間だけど、どうしてこんなに人が少ないでありんす……」
今は暮方の頃、空も暗くなっている。本来は客たちが店に集まって賑やかな時間のはずが、人が極めて少ない。
鯖の一夜干し「「百鬼夜行」が始まってから、人間のお客様の数が減ってしまいました。」
純米大吟醸「何だい?お客様が減少するとあちきと一緒に暮らせなくなることを恐れているでありんす?」
既に純米大吟醸の皮肉に慣れた鯖の一夜干しはまた一瞬ぼーっとしていたが、すぐ冷静さを取り戻した。彼は外の人を見ると眉をひそめた。
鯖の一夜干し「ただ……一つだけのことが理解不能。」
純米大吟醸「何のことでありんすか?」
鯖の一夜干し「「極楽」の経営が影響を受けても、彼との協力を続けていることについて、本当に意図がわかりません。」
純米大吟醸「おい……鯖……」
鯖の一夜干し「うん?」
純米大吟醸「質問がありんすが、正直に答えておくんなんし~」
純米大吟醸の体はまだ柵に寄り掛かっている。ほろ酔いして笑っている。誰も彼の媚びるような目つきを拒めない。
鯖の一夜干し(……僕が質問しているでしょう……)
鯖の一夜干し「……うん。」
純米大吟醸が仰向けになって、雲に遮られる暗い空を見る。しかし今の真面目な態度は、鯖の一夜干しが見たことがなかったものだ。
純米大吟醸「鯖よ、もしあちきが空の雲が欲しくなったら、ぬしは取ってくれるかい?」
鯖の一夜干し「…………これは……」
純米大吟醸「くれる?」
鯖の一夜干し「……はい。」
色好い返事をもらった。純米大吟醸は飴をもらった子どものように嬉しくなると、首を傾げてそばにいる鯖の一夜干しを見る。
純米大吟醸「じゃ……もしある日、あちきがこの「金魚鉢」を壊したら……」
鯖の一夜干し「……たくさん人が死にます……」
純米大吟醸「そうそう、たくさん人が死ぬ。では、ぬしはあちきを助けてくれるかい?」
鯖の一夜干し「……本当に、ご希望ですか?」
純米大吟醸「うん、これはあちきが、今最もやりたいことだ。」
鯖の一夜干し「では、代償に問わず、僕は大吟醸の望みを叶えます。」
純米大吟醸は自分の前に膝をついている鯖の一夜干しを見ると、珍しくぼーっとしていた。また急に笑い声が出る。
純米大吟醸「ハハハ――」
鯖の一夜干し「……?」
鯖の一夜干しは純米大吟醸が笑っている理由がわからなかったが、それでも彼を引っ張ってあげる。
立ち上がる力がない純米大吟醸はよろよろした後、しっかり立った。手元のキセルで鯖の一夜干しのあごを軽く持ち上げる。この一つ笑いもない真面目な顔、鯖の一夜干しでも慣れない。
純米大吟醸「鯖よ……時々、あちきでもぬしのことを読み取れなくなる。」
純米大吟醸「大吟醸の要求なら、全部従います。」
純米大吟醸「ぬしはあちきの最も忠誠心のある刀だ。しかしその忠誠心は、いつまで続くか?」
第三章-酔い醒め
半分夢、半分覚め。
また夜だ。町の灯の光が暗い空を赤く染めてしまった。
この「極楽」に出入りする者たちの影は、一般人のようではない。ある物はくつろいでしっぽを揺する。ある物は蠕動の触手を招く。最も普通に見える者は、何歩か歩いた後、自分の長い髪の上に座って、地面から飛んで去った。
鯖の一夜干しは純米大吟醸の影からゆっくり姿を現わす。一緒に姿を現わしたもう一つの物は、匂いが変な迎え酒だ。
この迎え酒の匂いを嗅いだ瞬間、純米大吟醸の本来の得意げな表情が可哀そうになった。
彼は自分の長所を生かすのが得意な男だ。
ただ……一部の人にはあまり効かない。
鯖の一夜干し「迎え酒でございます。」
純米大吟醸「…………グェ――気持ち悪い!飲みたくないでありんす。」
鯖の一夜干し「大吟醸が召し上がらないから、ご気分が悪くなったのでございます。」
純米大吟醸「ぬしはあちきの酒量を信じないのか?」
鯖の一夜干し「いいえ、しかしあそこの方々の量も浅いものでございません。」
純米大吟醸「…………鯖、これは月見が教えてくれたものか?」
鯖の一夜干し「あなたが言ったのです。もう少し彼に習ってもらいたいものです。いつまでもそんなに無口でいないでください。早く飲んでください、もうすぐ冷めますから。」
純米大吟醸「飲まぬ――グ――!!!」
やっと大吟醸にあの匂いが変な迎え酒を飲ませられた。鯖の一夜干しはほっとした。彼は机の上に悪酔いして暴れたりしている純米大吟醸を無視して、散乱した酒杯を片付ける。
純米大吟醸「ぬしのココロは全然痛くないのか!あちきはぬしらのためにここまで働いたために、このように力尽きたのに!」
鯖の一夜干し「人をからかう回数を減らせば、大変楽になると考えます。」
純米大吟醸「フン……あんな奴ら、誰でも面倒くさい。神社と八岐はともかく、あの輝夜姫を守るクソうさぎのことも厄介だ。」
鯖の一夜干しはうさぎの折り紙を碁盤に置いた。隣にはまだ何匹ものかわいい動物の折り紙がある。
鯖の一夜干し「僕に任せてもいいのに。」
純米大吟醸「あちきの目的はあ奴らを殲滅することではない。そしてそうするなら、全然面白くない。」
鯖の一夜干し「……」
純米大吟醸「ハハハハ!!!その顔!」
鯖の一夜干し「面白くなる代償が大吟醸の身の安全なら、高すぎです。」
純米大吟醸「けど、充分な混乱がなければ、この「金魚鉢」を壊すことができぬ。」
鯖の一夜干し「……」
純米大吟醸はあまり鯖の一夜干しの暗黙を気にしなかった。彼はゆっくりと立ち上がって、窓のそばに行って、真っ暗な空を見上げている。
純米大吟醸「そうでありんすね……輝夜姫はもうあちきと離れて久しい。いよいよ彼女をこの空に帰らせる。」
第四章ー刃の光
振るう刃、冷たい光。
酒のお陰かもしれない、純米大吟醸が珍しく未明の前に寝てしまった。部屋を出た鯖の一夜干しは扉を閉めてすぐに、武器を握って後ろの招かれざる客を襲う。だが相手が彼の攻撃を止めた。
鯖の一夜干し「……どうしてまだここにいる?」
月見団子「突然用事を思い出したから戻りました。しかしお二人は何かを相談していたみたい……」
鯖の一夜干し「どれくらい聞こえた?」
月見団子「鯖さんは僕がどれくらい聞いたと思います?」
鯖の一夜干し「……」
月見団子「人魚ちゃん、どうしていつも僕にそんな不機嫌な顔を見せるんですか?いつ君を怒らせることをしましたか?それなら、僕が謝り~」
鯖の一夜干し「そこまで強い実力を身につけたのに、なぜ弱い姿で偽装して他の人に守られることを求める?」
月見団子「誰かに守ってもらいたいなんて、私言ったことないですよね。」
鯖の一夜干し「……」
鯖の一夜干しは自分の武器を取りに戻った。そして冷たい視線で目の前のいつも穏やかな微笑みをする男を見ている。
鯖の一夜干しはずっと、月見団子に初めて会った日のことを覚えている。あの頃の、謎の感情と打診のため、自身の不安が鋭い攻撃になる。
当たったら、致命的でないにしても、確実に酷い怪我になる。
鯖の一夜干し(!!!)
月見団子「久しぶりですね。やはり君は強い。」
鯖の一夜干し「……どうやって避けた?」
月見団子「運がいいだけです。」
鯖の一夜干し「一体何をするつもりだ?」
月見団子「私が何をしたいではなく、君らは何をしたい、だ。僕が君らを助けてあげるでしょうね。」
そして次何回と試したが、鯖の一夜干し自慢の奇襲は全部無駄になった。
そしてこのような斬り合いは、鯖の一夜干しが月見団子を憚る原因になる。
鯖の一夜干し「「極楽」は準備中だから、帰ってくれ。」
月見団子「わかりました。しかし大吟醸に一つの言伝をお願いします。」
鯖の一夜干し「……?」
月見団子「僕の望みは、あの明るい月だけだ。」
鯖の一夜干し「…………明るい月?」
月見団子「大吟醸は知っているよ。」
これまでとは違い、月見団子は鯖の一夜干しをからかわないまま去っていった。鯖の一夜干しは彼の後ろ影を見ながらさっきの言葉の意味を考える。しかし最後まで結論が出なかった。
部屋に戻ってみると、眠っていたはずの純米大吟醸がゆっくりとテーブルのそばに座っていて、歌舞伎町の子供たちの間で流行っている本を読んでいた。
純米大吟醸「むかしむかし、月という名の巫女がいました。」
鯖の一夜干し「……月ですか?」
純米大吟醸「月は山で隠居生活をしていました。ある日突然、世界は赤い炎にのみ込まれ、月は命を捧げて衆生を救ってくれました。巫女の死に神は激怒し、生き物全員に有罪の審判を下し、罪を犯した人々を永遠に離れられない無間地獄に閉じ込めました。」
鯖の一夜干し「……」
純米大吟醸「今は……月を見たことがない人も多いでありんしょう。鯖、ぬしもまた月を見たいか?」
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