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絵巻の欠片・ストーリー

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絵巻の欠片

編集注記①:nilについて、正しくは腐乳の為、書き起こしでは腐乳で統一

編集注記②:羊方蔵魚のセリフで「俺は……」が頻出しているのでセリフ入れ替えバグで正しく表示されていない可能性が有り。


プロローグ

ある日

南離印館


 雨上がりの湿った空気が少し苔の生えた泥を覆い、柔らかな春の匂いが広がった。しかしその穏やかな時間は、すぐに踏み潰されてしまった。

 敷居を一歩跨ぐと、その足は軟泥の中に沈み込んだ。気を取り直した羊方蔵魚(ようほうぞうぎょ)は、懐にくるまっていた物を確認した。

 真っ赤な絹の中に、白くキラキラしている銀が山盛りにあった。それを見て彼は眉を上げて喜んだ。


羊方蔵魚:ふぅ……よしよし、全部揃ってるみたいだな……明四喜(めいしき)の旦那の頼みにはいつも肝が冷えて、ビクビクしちまうが、へへッ……やっぱり金は良いもんだな〜

ヤンシェズ:……

羊方蔵魚:おや?これはこれはヤンシェズの兄ちゃん、なんだ、俺に何か用か?

ヤンシェズ:この間の……

羊方蔵魚:この間?ああ〜この間渡した軟膏のことか?使ってくれた?

ヤンシェズ:まだ使ってない。タンフールー……

羊方蔵魚:あいやー!今日は実に良い天気ですな!なのでまた日を改めてお話ししましょう、それじゃあ先に失礼しますぜ、さらばー

ヤンシェズ:待って。

羊方蔵魚:かん、勘弁してください!この間貴方にお売りしたタンフールーは確かに金の延べ棒二本の価値なんてありませんでしたが、代わりに金の延べ棒二本出しても買えない貴重な軟膏をあげたじゃないですか!

ヤンシェズ:……あれは、もういい。

羊方蔵魚:私は誠心誠意尽くしております……え?もういいんですか?

ヤンシェズ:うん……まだある?

羊方蔵魚:申し訳ありません!延べ棒はもうないです!

ヤンシェズタンフールー、まだある?

羊方蔵魚:え???

ヤンシェズ明四喜様、気に入った。

羊方蔵魚:おやまあ!あの八方美人で古狐のような明の旦那がまさか本当にあんな子どもっぽい物が好きだなんてなあ!

ヤンシェズ:?

羊方蔵魚:(しまった、こいつが明四喜にぞっこんなの忘れてた……しかもあの明四喜タンフールーが好きだなんて、本気で信じてるのかよ……)

羊方蔵魚:いや……つまり……明の旦那は初心を大事にしていて、童心を失わないお方だなあと……

ヤンシェズ:うん、良いひと。

羊方蔵魚:……あんたがそう思うなら、それで良いけど……

ヤンシェズタンフールー

羊方蔵魚:ああ……さすがの俺でも、それを持ち歩いたりはしないよ。

ヤンシェズ:一緒に取りに行く。

羊方蔵魚:あいやー、あいにくこれから書画展に行くつもりなんだ。

ヤンシェズ:書画展?

羊方蔵魚:そうだ、年に一回しか開催されないから逃したら大変だ!ヤンの兄ちゃん安心しろ、明日俺が自らタンフールーを届けに行ってやる!さらばー

ヤンシェズ:まっ……もういない……足速い……


ストーリー1-2

午後

書画展


羊方蔵魚:(はぁ……書画展と言っても、絵を売買するだけの集会場じゃないか……本当に今の人は……いいや、俺とは関係ない!俺は業界の情報を収集しに来ただけだ!)


 十五分後、羊方蔵魚はお金の代わりに一枚の絵を手に入れていた。彼は頭をしきりに横に振りながら、ぐったりしていた。


羊方蔵魚:あぁ……名も知れぬ貧乏絵師の作品ですら買いたくなるなんてな、この書画展は本当に……末恐ろしい、末恐ろしいな!

羊方蔵魚:まあ、これは自分の収集品として残しておくのも良いな。しかも、良い絵師が多い程、俺の商売も更にうまくいくもんだーー

八宝飯:この嘘つき!悪徳商人!

 

 空っぽになった銭袋を見つめながら自分を慰めていたら、怒りに満ちた声が飛んで来た。羊方蔵魚は驚いて、咄嗟に逃げる準備をし始めた。


羊方蔵魚:あれ?普通に買い物してただけなのに悪徳商人呼ばわりされるのはおかしいだろ?

画商:兄ちゃん、デタラメを言うな。俺たちは信用で飯食ってんだ!

羊方蔵魚:……なんだ、俺のことじゃないのか……

 

 声がする方に視線を向けると、一人の少年が画商と言い争っているのが見えた。面白そうに見えたからか、羊方蔵魚は野次馬しに向かった。


八宝飯:じゃあ言ってみろよ、この絵はどっから来たんだ?

画商:それは……お前には関係ないだろ!買うのか、それとも買わないのか?買わないなら商売の邪魔をするな!

八宝飯:あんたな!それは亡くなったばかりの老人の墓から盗み出した副葬品だろ!よく売れるな!ほら、出るとこに出てもらうぞ!

画商:な、何言ってんだ!お前こそ嘘つきだろ、デタラメな話を作って俺から金を盗もうとしてるんじゃないのか!

八宝飯:誰があんたの金を欲しがるかよ、オイラはお金をたくさん持ってんだ!

羊方蔵魚:おぉ、金持ちか……へへッ、そうだ……


 パチンッーー


八宝飯:!

羊方蔵魚:これはこれは、黒くんではないか?もうこんなに大きくなったのか?

八宝飯:黒くん?誰だそれ?

羊方蔵魚:あんただよ、もう俺のことを忘れたのか?

八宝飯:あんたは……


―――


・大丈夫大丈夫、すぐに思い出すよ!

・……俺だよ俺、俺!

・俺のことを忘れたのか?兄弟よ、傷つくぜ……

―――

羊方蔵魚:ほらほら、久しぶりに会ったんだし話そうぜ。

八宝飯:なっ……あんたなんか知らねぇよ、うわっ!


 肩を組んだまま去っていく二人を見て、画商は眉をひそめた。


画商:おかしな奴しかいないのか、今日はついてないな!

(明転)

八宝飯:はなせ!人違いだ!

羊方蔵魚:いっ……噛むなよ!はなしてやるよ……ふぅ……追って来てないようだな。

八宝飯:何がだよ。

羊方蔵魚:兄ちゃん、この界隈のもんじゃないだろ?

八宝飯:そうだけど。なんだ、この界隈には人を追いかける決まりでもあんのか?

羊方蔵魚:ははは……兄ちゃんは冗談がうまいな。人を追いかける決まりはないが、さっきの奴は怒らせちゃいけない!

八宝飯:あの悪徳商人のことか?

羊方蔵魚:そうだ。あいつを怒らせたら、川に沈められても文句言えないよ!

八宝飯:やっぱり悪党だったのか、なら早く懲らしめてやらないと!

羊方蔵魚:ちょちょちょっと待って……懲らしめるよりも、まず人助けをしなければ!

八宝飯:人助け?どういうことだ?

羊方蔵魚:ゴホンッ、助けるのは、あーあの悪徳商人と手を組んでる絵師だ……

八宝飯:それで?もったいぶるなよ、一気に話せないのか?

羊方蔵魚:(……でっち上げながら話してるんだから、一気に話せる訳がないだろ……)

羊方蔵魚:あーそうだ……実は、こういう事があって……


ストーリー1-4

深夜

とある邸宅


青年絵師:師匠、ここまで来たならはやり僕と一緒に行きましょう!王権や富貴から逃げて、この地獄から逃げ出して、のんびりとした生活を……

老人:その気持ちだけで十分だ……師は金目の物を持ってはおらぬ、せめてこの絵だけは持って行きなさい。

青年絵師:師匠!

老人:早く行きなさい!

……

(明転)

羊方蔵魚:その後青年絵師は色んな絵を描いたが、全てあの悪徳商人に売るしかなく、一切お金を稼げなかった。遂には路頭に迷ってしまい、恩師から貰った彼の宝物を俺に託したんだ。

八宝飯:これのことか?

羊方蔵魚:その通りだ。

八宝飯:……気の毒だな……

羊方蔵魚:(突貫工事で作った穴だらけの話を良く信じられたな……俺の絵の腕が上がったのか、それとも話が上手くなったのか……)

羊方蔵魚:しかしこの絵を高値で売れたら、あの絵師はしばらく食いつないでいけるだろうな。あの悪徳商人に関してなら、兄ちゃんがわざわざ手を出さなくても必ず天罰が下るさ。

八宝飯:……そうだな、悪人を捕まえるのはそもそもオイラの仕事じゃないし……わかった、その絵買った!

羊方蔵魚:(よしっ、手持ちの贋作がまた一枚減ったぞ〜)

羊方蔵魚:あの苦労人の絵師にかわって、命の恩人に御礼を申し上げます。

八宝飯:恩人だなんて、オイラのことは八宝飯(はっぽうはん)って呼べばいいよ。

羊方蔵魚:こんな気さくな方は珍しいですな……俺は羊方蔵魚だ。

八宝飯羊方蔵魚?なんか聞いたことあるような……あっ!

羊方蔵魚:おや?どうしたんだ?

八宝飯:えっ……い、いや……

八宝飯:うわ、しまった、お金が足りないみたいだ。

羊方蔵魚:それは……

八宝飯:こうするのはどうだ?もし時間があるなら、オイラと一緒に家に来てくれないか?それに……


―――


・あの絵師の話をもっと聞きたいんだ。

・あんたと友だちになりたくてな!

・あんたともっと話してみたいんだ!

―――

羊方蔵魚:それは……そうだな、そうしよう。

(明転)

 羊方蔵魚八宝飯の後ろについて、大人しく歩き続けていたが、心の中は穏やかではなかった。

羊方蔵魚:(危ない橋をいつも渡ってるんだ、慎重にいかないと足をすくわれる……)

羊方蔵魚:兄ちゃん、まだなのか?

八宝飯:もう着いたぞ、ここだ。

羊方蔵魚:!

八宝飯:どうしたんだ?早く入って来な!

羊方蔵魚:こ、ここは……

八宝飯:へへっ、ここは地府だ〜


ストーリー1-6

午後

地府の入口


張三:違います!本当に私じゃないんです!濡れ衣ですよ!お許しください!

油条:黙れ、ここでは騒ぐべからず。

羊方蔵魚:あれは……まさか!黒無常が命を取ろうとしているところか?!

八宝飯:無常は悪人にしか手を出さない……はぁ、どうして大人しく日々を過ごさず、人を騙したりするんだろうな、他人だけじゃなく自分も害してさ。

羊方蔵魚:は、ははっ……そうだな、馬鹿者しか人を騙したりしないよな……

豆汁:あら〜八宝飯、新しい悪人を連れてきたの?賢そうな見た目してるし、ひとを騙すのが上手そうだね!

羊方蔵魚:あ……いや、そんなことは……しませんよ……

豆汁:嘘つきかどうかは、後で調べたらわかるよ!

羊方蔵魚:白……白……

豆汁:あらあら、きみ面白いね。まだ忘憂湯を飲んでいないのに、話し方を忘れちゃったの〜

羊方蔵魚:白無常様、私……いえ、あのわたくしめは、善行しかしていません、誰かを害したことなんて、そんな!

豆汁:あれ?どうしてそんなに怯えているの?何か後ろめたいことでもあるの?

羊方蔵魚:俺は……

八宝飯:ははっ、兄弟、そんなに緊張すんなって、冗談だよ。黒無常とか白無常とかで呼ばないでやってくれ。目の前にいるのは豆汁(とうじゅう)で、さっきいたやつは油条(ようてゃう)だ、全員オイラの身内だよ。

羊方蔵魚:ふぅ……それなら安心だ。ゴホン、豆汁……の姉さん、初めまして。私は羊方蔵魚です、誠実な良いひとですよ。

豆汁:……?

八宝飯:はははっ、姉さんって……はははははっ。

羊方蔵魚:お、私何か間違えました?

豆汁:きみのその両目、いらないなら、わたしにくれてもいいよ〜


―――


・姉さんは、冗談がお上手ですね……

・何か間違えていたのなら、お許しください……

・勘弁してください!命だけは!

―――

八宝飯豆汁、それ以上脅かすな、これから面白いものをコイツに見せに行くんだ。

豆汁:面白いもの?まさか彼が……

八宝飯:そうだぞ、へへへッ……

羊方蔵魚:なっ、なんの話だ?面白いものって?八宝飯、俺をどこに連れて行くつもりだ……余計怖くなってきたぞ!!!

豆汁:フフフッ、良い所だよ〜

八宝飯:そうだ、良い所だ!

(明転)

地府正殿


張三:勘弁してください!濡れ衣です!私の話を聞いてください!

 羊方蔵魚八宝飯に案内されて正殿の端に座った。先程見かけた怪しい悪人が土下座したまま裁かれているのを見て、口が引きつった。

羊方蔵魚:……これがさっき言ってた、面白いものなのか?

八宝飯:そうだぞ、世間の不平不満を聞き届け、正義を貫く、これが我が地府の目的だ。

羊方蔵魚:(これを「面白い」と思うなんておかしいだろ!しかし……裁かれてるこの悪人なんだか見覚えが、まさか……いやいやいや、縁起悪いこと言うな!面倒事に巻き込まれるのはごめんだ!)

猫耳麺:判官さまは「粛に、聞かれていない時は口を閉じるように」と仰っております!

羊方蔵魚:(偉そうな判官だな、自分で口を開かず、代理の小僧を使うなんて……)

八宝飯:鳳爪は口がきけないから、いつも猫耳ちゃんが彼女の代わりに伝言しているんだ。

羊方蔵魚:そうか……それは特殊な判官だな……

猫耳麺:判官さまは「西町の大工の死は、一体誰の仕業だ?正直に話せ」と仰っております。

張三:判官様、私は大人しく商売をしているだけで、あの者に恨みもありませんし、あの者の死は私には何の関係もありませんよ!

猫耳麺:判官さまは「今更弁解するつもりか!あの者の食事に毒を入れたのは、まさかお前の双子の兄弟なのか?」と仰っております。

張三:それは……私……あっ!羊方蔵魚?判官様、こいつです!こいつの仕業です!

羊方蔵魚:は?俺?!

張三:お前だ!お前のせいで俺はこんな目に、灰になってもお前の顔だけは忘れない!

猫耳麺:デタラメを言うのはおやめなさい!

張三:判官様!デタラメではありません!その大工を死に至らしめたのは、この羊方蔵魚です!


ストーリー2-2

張三:その大工を死に至らしめたのは、この羊方蔵魚です!

羊方蔵魚:あっ、あんたいい加減にしろよ!

張三:ふざけんな!お前がどんだけの悪事をしてきたか、自分の心に聞いてみろよ!

羊方蔵魚:俺は……

猫耳麺:判官さまは「二人とも黙れ!」と仰っております。

羊方蔵魚:……

猫耳麺:是非は判官さまが判断いたします。張三、どうして羊方蔵魚があの大工を死に至らしめたと思ったのですか?

張三:羊方蔵魚とあの大工は手を組んで私からお金を騙し取ったんです。その後私は途方に暮れて、大工に薬を飲ませ、意識を失っている間にお金を奪い返そうとしたら、まさか……

張三:そうだ、あの薬は羊方蔵魚が売ってくれたもんだ!

羊方蔵魚:嘘をつくな、俺が売ったのは毒薬なんかじゃない、ただの小麦粉な!大工がそれを飲んでピンピンしてるのを見て、改めて毒薬を買いに行って仕込んだんだろ!

張三:お、お前毒薬までもが偽物だったのかよ!判官様、全て聞いておりましたか?早くこの嘘つきを裁いてください!

猫耳麺:判官さまは「私に命令するなんて、良い度胸じゃないか!」と仰っております。

羊方蔵魚:そうだそうだ、不敬だぞ!しっかり罰せなければな!

猫耳麺:「お前のことを言ってないとでも思っているのか?」うぅ……鳳爪さま、この言い方は流石に……

羊方蔵魚:……

猫耳麺:ゴホン……判官さまは「羊方蔵魚、どうして張三を騙したのか?」と聞いております。

羊方蔵魚:この悪徳商人は大工から木彫りを格安で仕入れ、高値で売って儲けた金を全部自分の懐に入れているんです。あの大工は自らの命を絶とうとしていたため、私はそれを見かねて、それで……

八宝飯:それで張三の金を騙し取って、大工に渡したのか?


―――

……

・騙してませんよ!金持ちから巻き上げた金で、貧乏人を助けているだけです!

・それは、元々あの大工の金ですから!

・えっ……はい、その通りです!

―――

八宝飯:でもあんたも商人だろ、あの大工と協力して木彫りを上手く売れば金を稼げるのに、どうして張三から騙そうとしたんだ?

羊方蔵魚:この張三は物を高額で転売しただけでなく、人も殺しています。こんな奴をのさばらせるなんて、許せなかったのです。

張三:お前……

猫耳麺:もう良いです。判官様は「ここは喧嘩する場所ではない。無常よ、彼らを連れて収監せよ」と仰っています。

油条:ハッ!

羊方蔵魚:これは……濡れ衣ですよ判官様!

八宝飯:ここで叫んでもしょうがないぞ。

羊方蔵魚:あんた……わざわざ俺を地府に連れて来たのは、捕まえるためだったのか?

八宝飯:やましいことがないなら、何を恐れる必要があるんだ?

羊方蔵魚:俺は……

油条:歩け!

(明転)

地府の牢屋


羊方蔵魚:(はぁ……寒いしなんか湿気もすごいし、ひとが居れる場所じゃないだろ……早く逃げ出さないと……)

 羊方蔵魚は牢の中から油条を見つめ、大袈裟に笑い出した。

羊方蔵魚:そこの兄ちゃんよ、物分りが良さそうな顔してるのは見た時からわかっていたんだ、俺は本当にやってない、無実だ!

油条:地府は決して間違った判決を下さない。無実であれば、いずれ釈放してやる。

羊方蔵魚:そ、それはもちろんです……ただ急用がありまして、今すぐここから出なければならないのですよ!

油条:急用とは?

羊方蔵魚:(おっ、食い付いた!)

羊方蔵魚:あの……最近子猫を拾いまして、私が家にいないと餓死してしまうやもしれません……

油条:……

羊方蔵魚:(しまった、やっぱこんな理由じゃ……)

油条:猫か……

羊方蔵魚:うん?

油条:触ってもいいか?

羊方蔵魚:え???


ストーリー2-4

編集注記:nilについて、正しくは腐乳の為、書き起こしでは腐乳で統一

羊方蔵魚:はぁ……油条の兄ちゃんはわんころやにゃんこ以外の話にはまったく反応しない、騙そうと思っても出来ない……どうしたら良いんだ……

腐乳羊方蔵魚羊方蔵魚はどいつだ?

羊方蔵魚:わっ、私がそうです!

腐乳:おまえか?あたしについてきて。

羊方蔵魚:わ……私は家に帰れるんですか?

腐乳:家に帰る?うぅ、そうとも言えるかも……家に帰るつもりでついて来い。

編集注記:ゲーム内ではリュウセイベーコンですが、前後の文脈から正しくは腐乳の為、書き起こしでは腐乳で統一

羊方蔵魚:?

 羊方蔵魚はピンとこないまま、腐乳(ふにゅう)について牢屋から出て行った。 

羊方蔵魚:(他に良い選択肢なんてないしな……)

張三:羊方蔵魚、また会ったな。

 地府から出られると思った羊方蔵魚は、憎しみに満ちた顔をしている張三を見て取り乱した。

羊方蔵魚:どういうことですか?い、家に帰してくれるんじゃなかったんですか?どうして……

張三:家に帰る?焦るな、今から実家に帰してやるよ!

油条:判決が下された。羊方蔵魚、張三、共に有罪、直ちに刑を執行する。

羊方蔵魚:え?待ってくれ、俺は無実だ!えっ……こ、この鍋はなんですか?

腐乳:おまえらを油で揚げるための鍋だ!

羊方蔵魚:助けて、助けてください!もう二度としません!


―――

……

・はぁ、来世ではちゃんとしたひとになれよ。

・今さら、オイラも助けてあげられないよ。

・こうなると知っているなら、どうしてあんな事をしたんだ?

―――

腐乳八宝飯、これ以上あんなやつと話すな!嘘つきめ、鍋に入っちゃえ!

 すぐに、張三と羊方蔵魚はそれぞれの鍋に突き落とされた。しかし、彼らのその後の反応はまったく違った。

羊方蔵魚:ブクブク……

張三:あああ!助けてください……

腐乳:助けて欲しいの?じゃあおまえに殺された人は誰が助けてくれるの?

張三:ど、どうして私だけなんですか?羊方蔵魚も罰せられるべきです!

八宝飯:一緒にすんな。あいつはひとを騙したり、脅かしたりするだけだ、あんたは人を殺したんだぞ!

張三:もっ、もう……しません……

 張三の声がどんどん弱くなっていく。声が聞こえなくなってから、油条は鍋の上に立って中を覗いた。

油条:気絶したか。

腐乳:しばらく放っておこうよ。人の金を騙し取って、人の命を奪った罪だからね、まだまだ色んな方法で裁かないと。

八宝飯:こんな悪者、地府の刑罰を受けただけで悔い改めてくれるかどうか……

腐乳:悔い改めない?じゃあ永遠にここから出られないよ。

八宝飯:そうれもそうだな。羊方蔵魚、聞こえたか?改心しないとここから出られないぞ。

油条:おかしい。

八宝飯:そうだな、しばらく経つのに全然声が聞こえない。

油条:……浮き上がって来た。

八宝飯:浮き上がって来た?どういう意味だ?

油条:……見ろ。

 八宝飯が急いで階段を駆け上がると、鍋にはうつ伏せになっている羊方蔵魚が浮かんでいた。まるで落ち葉のように、生気がない。

八宝飯:おいっ!死ぬな兄弟ーー!!!

腐乳:し、死んたのか?!


ストーリー2-6

一時間後

八宝飯の部屋


八宝飯:息はあるか?

豆汁:安心して、ビックリして気絶してしまっただけ。

八宝飯:ふぅ……なら良かった……

 八宝飯は改めて羊方蔵魚の顔色を見て、ようやくホッとしたのか寝台の端に腰を下ろした。

豆汁:どうしてそんなに心配しているの?人を騙していたのは事実だし、本当に死んじゃっても当然の報いだ。

八宝飯:まあ……そうだけど……

豆汁:好きにしな〜それとも、規則に従って黒ちゃんに引き渡す?

八宝飯:え?そこまでしなくても良いだろ。地府に連れてきたのも、これから悪事をしないように、少し脅かしてやろうとしただけだし……

八宝飯:それに、悪い事ばかりしている訳でもなさそうだし……

豆汁:違うの?かれが騙してきた相手は張三だけじゃないよ。

八宝飯:だけど騙してきた相手は全員悪人だ、しかも……

八宝飯:書画展で絵を買う時、貧乏絵師に同情しているからか、多めにお金を払っていたのをオイラは見たんだ。そんな善意を持っているコイツは、そこまで悪人じゃないと思う。

豆汁:もし買った絵を高値で転売していたら?そしたらあの張三と同じじゃない?

八宝飯:でも……でも……

豆汁:まあ、ゆっくり考えなさい。先に行くね。

八宝飯:うん……

羊方蔵魚:……本当のことを言うと、ほぼあの姉さんの言うと通りだ。

八宝飯:め、目覚めていたのか?

羊方蔵魚:ああ、とっくにな。

八宝飯:あの……本当にごめん、今回は少しやり過ぎた、そこまでするつもりはなかったんだ……

羊方蔵魚:(俺が先に騙したのに、逆に謝られちゃった。これでまだこいつのことを恨んでたら、それこそ悪人になってしまう……)

羊方蔵魚:今更隠すつもりはない……俺は嘘をついていたんだ、この絵はあんな高値はつかない。

八宝飯:それは別に良いんだ……

羊方蔵魚:良いのか?


―――

……

・これでおあいこだ!

・謝ってくれたんなら、許してやるよ!

・オイラが買ったのはその物語であって、絵じゃない。

―――


八宝飯:ただ、これからもう人を騙さないで欲しい。

羊方蔵魚:……

八宝飯:良い人たちを助けたいなら、他にも色んな方法がある。わざわざ人を騙してまで自分の手を汚す必要はないだろ?

羊方蔵魚:……その通りだな、俺が浅はかだった。

八宝飯:納得してくれたなら良いよ。そうだ、約束していた金だ。

羊方蔵魚:ああ、これが言っていた絵だ。

 羊方蔵魚は銅貨を懐に入れてから、嬉しそうに絵を見つめている八宝飯を見て笑い出した。

八宝飯:あれ?この絵は見せてくれた奴と違う……

羊方蔵魚:そりゃそうだ、全部俺の嘘だからな!

八宝飯:!

羊方蔵魚:俺を弄んどいて、あんたの話を聞く筋合いはないだろ?あんたはこの安もんを買うことで、教訓を買ったって思えば良いだろ。今後はもう騙されんなよ!

 羊方蔵魚が走って行く方向を眺めてぼんやりしている八宝飯は、まだ状況が飲み込めないでいた。

八宝飯:……まさか、あの絵師の話まで嘘だったのか?

腐乳八宝飯豆汁から騙されたって聞いたから、泣いてるか見に来てやったぞ!あれ?本当に泣いてる?

八宝飯:泣いてない!

腐乳:はいはい、泣いてない泣いてない……これが騙されて買った絵なの?普通じゃん。

八宝飯:おかしい。

腐乳:おかしいにきまってんじゃん、この絵があんな高値な訳ないじゃん、よく騙されたね……

八宝飯:いや、この絵に見覚えがあるんだ、あの書画展の貧乏絵師が描いた奴じゃ……

(明転)

 一方ーー

羊方蔵魚:はぁ……悪徳商人も楽じゃないな、せっかく本物を買ったのに、すぐにひとに売っちゃうなんて。しかも少しの儲けもないしな……

羊方蔵魚:「善には善の報い、悪には悪の報い」か……その通りだな……

 チャンッーー

 五十枚の銅貨が箱に投げ捨てられた音を聞いて、貧乏絵師は顔を上げた。颯爽と去って行く後ろ姿を見て、目から希望の光が溢れた。

青年絵師:師匠の絵は良い持ち主に巡り合えたみたいですよ……


羊方蔵魚√宝箱

数日後

羊方蔵魚の書斎


ヤンシェズ羊方蔵魚

羊方蔵魚:あれ?ヤンシェズの兄ちゃんじゃないか、どういう風の吹き回しだ?

ヤンシェズタンフールー

羊方蔵魚:え?ああ……そうだった、忙しすぎて忘れていた……

ヤンシェズ:はい。

羊方蔵魚:はいよ!銀貨一枚で、タンフールーを一袋。更に軟膏もつけてやるよ!

ヤンシェズ:いらない……

羊方蔵魚:持っておいてくれ、そうじゃないとまた地府に行く夢を見ることになる……

ヤンシェズ:わかった……その絵……

 羊方蔵魚はその言葉を聞いて、急いで机に置いてあった絵を背後に隠した。

羊方蔵魚:あいやーヤンの兄ちゃん、見苦しい物を見せてしまったな。やはり俺は贋作を描く能しかない、自分で描いても……

ヤンシェズ:良い絵。

羊方蔵魚:えっ……ははっ、お褒めの言葉ありがとうございます。

ヤンシェズ:どうして。

羊方蔵魚:……どうして急に自分の絵を描き始めたか?

ヤンシェズ:うん。

羊方蔵魚:そうだな……どうしてだろうな。

羊方蔵魚:ははっ、退屈していたから、普段やらないことをやってみただけかもしれない……

(明転)

 三日後の書画店――

羊方蔵魚:人助けだと思ってな、俺が合図をしたらこの絵をあいつにタダであげてくれ。

書画店店主:どうして金にならんことを……まあ良いだろう、あんたには世話になってるからね、今回は手伝ってやるよ。

羊方蔵魚:助かるよ!じゃあ隠れてるから、合図は見てくれよな!

書画店店主:わかったわかった、面倒くさいな……

八宝飯:おお……広くはないけど、絵はいっぱいあるな……

書画店店主:よぉ、お客さんいらっしゃい、絵を買いに来たのかい?

八宝飯:そうだ……これは……

 チャンッーー

八宝飯:何の音だ?

書画店店主:えっと、最近ねずみに悩まされてるんですよ、お気になさらず……この絵ですか?申し訳ございません、既に予約されちゃってます……他の絵はどうでしょうか?

八宝飯:そうか……じゃあ……これは?

書画店店主:これも売れません。

八宝飯:……じゃあ、これ?

書画店店主:おや、この絵は良いですよ、タダであげます!

八宝飯:え?タダってことあるのか?

書画店店主:この絵師は暇を持て余していてね、描いて遊んでるんだ、値段はつかない。

八宝飯:しかし……タダでは受け取れない、銅貨十枚ぐらいは払わせてくれないか?

書画店店主:良いって良いって、早く持って行ってください……

八宝飯:どうか受け取ってくれ、その絵師に紙でも買って、もっと絵を描いてもらいな。気に入った。

書画店店主:これは……

八宝飯:受け取らないとオイラの面子が潰れてしまう!

書画店店主:……変な奴しか来ねぇな……

羊方蔵魚:ぷっ……

 八宝飯は楽しそうに店から出て行った。羊方蔵魚は我慢していた分、大きな声で笑い出した。

書画店店主:笑うな!こういう面倒事はもう勘弁してくれ……ほら、あんたの金だ。

羊方蔵魚:はぁ……タダでくれるのに貰わない馬鹿がいたんだな。

書画店店主:似た者同士だろ、二人揃って面倒事を持ってきやがって!

羊方蔵魚:ははは……苦労をかけた。

羊方蔵魚:やっと心配事が片付いた……さて、あの墓泥棒の悪徳商人をどうしてやろうかな?

 羊方蔵魚は銅貨を懐に入れて、ずる賢い笑顔を浮かべた。また新たな華麗な「ペテン」を模索し始めた。


八宝飯√宝箱

数日後

地府の牢屋


八宝飯油条!新しく手に入れたお宝を見てくれよ!

油条:……すまない、まだ仕事がある。

八宝飯:また新しい悪人が来たのか?

油条:そうだ、お前が以前言っていた人だ。

画商:クソッ……羊方蔵魚から買ったこのボロ靴を履いてなかったら、絶対に逃げ切れてた、捕まる訳がなかった!あのペテン師が、罰を受けるべきなのはあいつだ!

八宝飯:屁理屈だな、全部自業自得だろ。

画商:お前は、あの書画展にいた黒くんとやらじゃないか!

八宝飯:……

油条:黒くん?

八宝飯:……気のせいだ、気にするな……

 その画商は更に弁解しようとしたが、次の瞬間にはもう油条によって牢屋に入れられていた。どう足掻いても無理だと気付いたのか。それ以降大人しくなった。

豆汁:牢屋にいるなんて珍しいね、どうしたの、まさか獄卒に転職しようとしてるの?

八宝飯:獄卒なんて、油条を探しに来ただけだ……豆汁ちょうど良かった、さっき手に入れた良い絵を見てくれ。

豆汁:うん……悪くはないね……魚羊?変な名前。

八宝飯:本当だ、気づかなかった……魚……羊……この名前……

豆汁:どうしたの?

八宝飯羊方蔵魚を思い出した……もしこれはアイツが描いた絵なら……いいや、そんな訳ないな……忘れよう……

豆汁:ふふっ、それじゃあ、わたしの忘憂湯を飲んでみない?俗世の全てを忘れて、生まれ変わることを保証するよ。

八宝飯:……そのヘンテコな薬湯なんて飲まないよ。

豆汁:ヘンテコな薬湯なんて酷いね。黒ちゃんを見てみなよ、わたしの薬湯を飲んでからまともになったでしょう?

油条:飲んだことない。

八宝飯油条豆汁はあんたをバカにしてるんだ、ここは怒るべきだ。

豆汁:そんなことないよ。八宝ちゃん、わたしと黒ちゃんの仲を引き裂かないでくれない、わたしたちは仲良しだよ、そうよね?

油条:……

リュウセイベーコン:珍しい、全員いるみたいだな。

八宝飯:リュウセイ、おかえり。

リュウセイベーコン:ああ、落ち着いたら話を聞いてくれ。人参様が何か情報を掴んだらしい。

八宝飯:なんだ?またどんなお宝だ?

リュウセイベーコン:ああ、今回は……

 その場にいる者たちは詳細を話し始めた。その全ては絵に捺されていた判子を通して、聞かれているとは露知らずに……

(明転)

 書斎で、羊方蔵魚は椅子の上でくつろぎながら、笑顔で盗聴用の判子を弄んでいた。

羊方蔵魚:兄弟よ、俺の絵を貰ったんなら、たまに地府のこそこそ話を聞かせてくれても、良いよな?

羊方蔵魚:へへっ、今度の宝探しは俺も連れていってくれよ〜




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