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【白猫】流星のエンブレム Story 前編

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん
2017/03/31




目次


Story1 苦悩

Story2 花の都の島

Story3 二人の紋章画家

Story4 センセーショナルガール

Story5 過去からの手紙



登場人物


多作なる紋章画家
ユキムラ CV:杉山紀彰
モンショー少女
イロメロ CV:村上奈津実
夭折の天才紋章画家
アイザック CV:山崎健太郎






story1 苦悩



「遊山玩水、花鳥風月……自き虎、は、空を仰、ぎ……

…………

ああぁ……! 違う違う違う違うっ! そうじゃない、そうじゃないんだ!

これも!

これもっ……!!

俺の血が流れていない! 俺の魂を――映していない!」


 ユキムラはツメを噛みながら、アトリエをせわしなく動き回る。


「<ソウシュウ>は乗り越えるのに10年掛かった。俺はまだ半年……あと9年以上もこうしていなければならないのか?

ふざけるなふざけるなふざけるな! 人生には限りがある。一分一秒も無駄にせず作品を世に送り出さねばならないのだ!」

「お邪魔します、ユキムラ先生。」

「だが今、ここに積まれているモノは何だ? これは俺の作品などではない。模様がついたただのチリ紙だ!」

「せ、先生……!」

「そこの君、俺のチリ紙で鼻をかめ。かまないなら出ていけ!」

「先生、私です! 正気に戻ってくださいっ……!」

「……何だ君か。ずいぶんと久しぶりじゃないか。」

「その様子ですと、まだ作品は……?」

「俺を笑ってくれ……多作で知られたこの俺が、もう半年も新作を出していないんだからな……」

「一日に10枚も仕上げる方が異常だったんですよ。心と体がバランスを取っているんでしょう。」

「死はいつだって我々を狙っている。人生とは、白分か思っているほど長くはないのだ……」

「アイザック先生の事、ですか……? そうだ。今日はもちろん行かれるのでしょう?」

「どこにだ。」

「お忘れですか? 先生の回顧展、今日からでしょう。」

「……ああ、そうだったか……」

「遺作も展示されるみたいですし――……む?」

 画商は床に散らばっている<紋章紙>の一枚を拾い上げた。

「これ……中々イイ感じじゃないですか? なんだ先生。やっぱり描けるんじゃ――ああっ……!」

 ――

「ああっ……!」

「全く! 破っても破っても破りきれん!

このダメ紋章どもを全て細切れにしてくれる奴がいたら、俺はいくらだってそいつに金を払うんだがな!」

「わかりました、わかりましたよ。私が悪かったですから。」

「今日はもう描かん! ……奴の遺作を見に行く。

……ああ、全くアイザックの奴め。さぞかし世界中の紋章ファンを集めているんだろうな。……持てよ、回顧展という事はあの紋章も――」

「……この調子じゃ、作品をいただけるのはまだ当分先かな……」




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story2



花の都の島――

建築、音楽、美術、文芸――あらゆる芸術の中心地であり、また芸術によって発展してきた、美しく華やかな島。


<ミュゼ・デュ・アンブレーム>

世界でも名高き、紋章のみを展示する美術館。

展示物はどれも超一流であるが、もっとも特徴的なのは――

才能ある面家の発掘に力を入れている美術館である、という事。

『館長から声がかかった瞬間に、その者は一流の仲間入りを果たす』

そう言われているほどにステータスが高い美術館で、主人公たちは警備の仕事についていた。


……紋章って、たんに国とかを表す記号ぐらいにしか思ってなかったけど。

立派な芸術として認知されているんだね。知らなかったわ。

……たしかに、見てて真にせまるものかあるわ。

そう思わない? 主人公。

で、そーゆう、芸術性にしゅがんを置いた紋章を描く人を、<紋章画家>って呼ぶんだっけ。

そうそう。それで、彼らの中でも天才と呼ばれていたのが――

今日の回顧展の主役。しばらく前に亡くなったアイザック・リヴィエールね。

まだ22だったそうじゃない。……病気って、こわいわね。

でも、こうやってたくさんの人に見てもらえて、アイザックさんも喜んでいるんじゃないかしら。


「高笑いをしながらな。」


『みなさん、俺の紋章はすごいでしょう? 穴があくほど眺めてくださいね。もっとも――

本当に穴をあけられてはたまりませんがねえ! ハッハッハァ~♪』


――てな員合にな。……どれ、これが奴の遺作か――

あ! 列から出ちゃダメよ!

……うん?

<ユキムラは、アイザックの遺作の紋章をゆっくりと指でなぞる。>

さわっちゃダメだってー!怒られるのアタシたちなのよー!

確かにいい紋章だ。<ボディズム>に懐疑的な目を向けつつ、氾濫するポップカルチャーを形而上学的に解釈、それらをビビッドな色彩でまとめ上げたという訳か。

あ、あの、すみません。他のお客様もいらっしゃるので――

だが……何故だろうな。何かが、物足りないんだ。……求めすぎか? アイザック。

困ったわ……

俺はいつも、お前に期待していた。

次はどんな作品で、俺を打ちのめしてくれるのだろう、ってな。……だが、それももう、なくなってしまった。

……思い出すな、あの頃を……



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story3 二人の紋章画家



 奴と出会ったのは、俺が画壇デビューを果たした時だった。


「史上最年少での<ミュゼ・デュ・アンブレーム>への展示が、しかも二人同時に決まりましたが、ご感想は?」

「大変光栄に思っております。ですがまたまだ紋章画家としては未熟者でございますので、これからも身を引き締め――」

「かたっくるしい挨拶だな、おい。……ユキムラと言ったか?

俺と同時にデビューした事は認めてやるが、お前じゃ俺の才能には勝てないぞ。」

「何……!?」

「俺はジェニー。つーまーりー?

芸術の神に愛された、選ばれし人間なのだからなあー!!

まあどうしても紋章で食っていきたいというのなら? せいぜいこの俺様に、頑張ってついてくる事だな!!

ハッハッハ、ハッハッハッ。ハーッハッハッハァ! 笑いすぎて腹が痛いぜ!」

「貴様……!」


 ――イヤな奴だった。


 ***


「先日の<バーグリース>では、紋章画におけるこれまでの最高落札額を更新しましたね!」

「できれば美術館に落札してほしかったがね! 俺の紋章は愛好家がワイン片手に眺めるような、俗な作品では決してないのだ。

……それよりも、このユキムラ君にインタビューしてあげたまえ。

何せ、かの有名な美術誌<トリール>に、この若さで取り上げられたのだからな」

「あっ! そ、そうでしたね……」

「ま、俺はデビューしてすぐに載ったがね! アハハハハ、アーハッハッハッ!」

「…………」


俺とアイザックは画壇でのスターダムを駆け上がっていった。いくつかの名誉ある二つ名が、俺にもつくようにはなったが――

<天才>という称号だけは、いつまでもアイザックのものだった……


 ***


「……どれも素晴らしい作品だよ! 全部うちで買い取りたいんだが、いいかね?」

「ありがとうございます」

「やあ、それにしても君はすごいね。まだ若いのに、これだけの紋章画をこれだけの早さで描けるんだから」

「それが自分の武器であると信じておりますから。……では、またお願いします」


 ***


「おや……ユキムラではないか。」

「アイザック。」

「また作品が売れたのか? 稼ぐよなあ。」

「お前が言うなよ……」

「しっかし……毎日毎日、よくもまあ大量生産できるよな!

そんなに必死こいたって、俺にはかなわないぞ?」

「うるさいな! クソ……いいか、アイザック!

俺はお前より多くの紋章をこの世に残してみせる! これだけは、絶対に譲れんからな!」

「アハハハハ! 顔真っ赤だぜ、ユキムラァ!

クフフ……おま……ホントさぁ……飽きもせずに頑張るよなぁ……プクプクプクプク!

また腹が痛くなってきたよ! アーッハッハッハ! ハライタハライタ!」

「お前ぇ……!」

「描くのは楽しいか? ユキムラ。」

「ああ……? そりゃ、楽しいさ。」

「結構。」

「いきなり何だよ。」

「二人で、このクソつまらん画壇を引っかき回してやろうじゃないか?

ハハハハハハァ!!」


 ……本当にイヤな奴だったが……


「…………」

「恐ろしい病です。若い人でも発症してしまう。しかも悪い事に、急性でした。……たった二日で、彼は……」

「……起きろ、アイザック……

寝てる場合じゃないだろ。俺とお前で、画壇を変えてやるんじゃなかったのか。

世界を変えるんじゃなかったのか。

ほら、いつもみたく俺をおちょくってみろ。……どうした。起きろよ。

起きろっ!」

「死者に何をするんです!」

「何が死者だぁっ! こいつはまだやれる! やらなきゃいけないんだ!

まだまだっ……! この世に作品をっ……! 残して……

のこ……して……」


 ***


<夭折の天才紋章画家>。……そんなクソカッコイイ二つ名まで手に入れて、お前は逝ってしまった……

本当に、イヤな奴だよお前は……――ん?

<我に返ったユキムラが振り返ると、大勢並んでいたはずの客が、いつの間にか姿を消していた。>

……何だ? みな、どこへ行ったのだ……

美術館から発表があるとかで、みなさんそちらへ行きましたよ。

すごい勢いだったわね。アタシたちも行きたいけど、ここ動けないし……

……確かに、外が騒がしいな。行ってみるか……


ヘンな人だったわねえ。ブツブツと、ひとりで……

……あの人も、紋章画家なのかな?

ねえ、館内には誰もいないし、アタシたちも行っちゃおうか?

ダメだよ。泥棒はそういう時に来るんだって館長さんがいってたじゃない。

う~……気になる~……




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story4 センセーショナルガール



記者会見、か……?

では早速、イロメロさんに登場していただきましょう。

イロメロです!!

それまで無名だったあなたが、たった一夜にして一流紋章画家の仲間入りを果たせた理由は!?

館長さんにバーンしたらブワー! ということです!

昨夜、イロメロさんがいきなり現れて作品を見せてきたんですよ。いやあ、その美しさに泡吹いて倒れちゃいましてね、私。

しかも、聞けばアイザック先生の妹さんというではありませんか。これはもう必然だと思いましたね。

……何?

<ミュゼ・デュ・アンブレーム>デビューの最年少記録が塗りかえられた訳ですが、今どのようなお気持ちですか!?

はい! ぬりぬりしてみました! にいちゃ~~~~ん!! 見てるぅ~~~~!?

15歳という異例の若さでの画壇入りをとのように感じられますか?

ガダンってなんですか!?

…………

で、では、本日より展示されるデビュー作を解説していただきましょうか。

それではまず、題名を教えてください。

『チロチロランランとんでけプウ』です!

……は?

え、えっと、この紋章は、かつての<ヴィダゴイズム>を彷彿とさせる優美な曲線が特徴的ですが――

そうですね。<ポスト符号派>と<ネオ夢想主義>からの影響も見受けられるように思いますが?

ですから、そんなムツカシイ事は知りません! なんですかネオムソ・ウシュギて!

まず、このイチバン外のぐるりとした線ですねー。これはアレですね。落ちてきたんですね。空の色が。

ヒョワ~~~て。ヒュワ~~~てくるんですよ。それをムニョンとやってやったわけですね。

で、真ん中のコレは、草原をこよなく愛するオレンジさん夫婦ですね。

オレンジさん夫婦はいつも一緒なんですけど、時々ケンカしちゃうんです。だから仲直りさせてあげたくって。

オレンジさん夫婦とは……オレンジ色の事ですか?

で! で! で! この下のほうのニャフニャフしたやつは、あたしの腕をはい上がる頭の中のあたしです。

あたしの中のあたしか、あたしをヒャーヒャーとヒャーするもんで、じゃあそうかい! と、ヒャーをニャフニャフさせたわけです。

「「「…………」」」

オレンジ夫婦さんの周りをピャーするコレはうすーいレッド、そしてこゆーいホクロがギャーンと叫ぶゆえに、ピャリピャリとした食感が――



 ***



「何だったんだ、あいつは! ……どうやら今日、画家デビューしたらしいが……」

「イロメロです!!」

「うわあーびっくりした!」

「あなたがユキムラさんですね!?」

「そ、そうだが、何故俺の名前を……」

「あたし、にいちゃん……アイザックのラ・シェリーな妹です!」

「そういえば……! 会見の時に言っていたな!? あいつに妹がいるって事は知っていたが……」

「あたしー、物心ついた時から世界中でお絵かきしてたんで! 会うのはもちろん初めてでしょう!」

「…………

アイザックの回顧展の初日に、その妹が紋章画家デビュー、か……

なぁ……会見を聞いていたが、お前、大丈夫か? <ヴィダゴイズム>なんて、素人でも知ってるぞ。」

「そんなことよりユキムラさん! あたし、にいちゃんからのお手紙を預かっているんです!」

「……何だって?」

「少し前に、あたしのところにとどいたんです! 死んでから送ってくるなんて、さすがにいちゃんですね!

回顧展が開催されたらわたしてくれと、あたし宛の方に書いてありまして!」

「……何を考えてるんだ、あいつは。」



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story5 過去からの手紙



ユキムラヘ――


俺が死んだ後に俺からの手紙を受け取って、お前はきっと、さぞ驚いている事だと思う。

俺は今、病の苦しみと襲い来る死への恐怖を懸命にこらえながら、この手紙を書いている。

お前には、伝えたい事がある。俺がいなくなった後の世界で生きるお前に……


「…………」


伝えたい……! 伝えなくてはいけない……! お前には……!


「くっ……! アイザック……!」


ブザマ、だなぁ?


「……え?」


わかってるぜ? ユキムラァ。お前が――

俺が死んでスランプになってるって事はなぁー!

ウピャーーーパパパパパ! スランプ、スランプ、スランのプゥゥゥゥ!!


「…………」


わかるに決まってるさ。俺、お前の親友だもん。……ホント、俺がいないとダメだなぁ……!

ウプ、ウプププププ……プハーーーーハッハッハァ、ハッハッハッハッハッ失礼。

……おいおい待てよ、ユキムラ。君はこのままでいいのかい? よくないね、よくはないよね。

だって今、回顧展やってるだろ。また俺が話題になる訳だろ。つまり、お前の出る幕なんて1ミリもないって事。

かわいそうなユキムラ君。死んだ奴にすら負けるの巻。


「…………」


あ、あとな? そのタイミングで、俺の妹デビューさせるから。もう会ってるだろ?

言っておくが、妹の才能は俺より何倍も上だ。恐らく、世界中の誰もが知るような紋章画家になるだろう。

ますますブザマなユキムラ君になるって訳だな。あーもう駄目、腹が痛すきて笑えない。


「…………」


悔しかったらハハッ、描いてみなハハハハハー! やっぱ笑っちゃうハハー!


俺より。



「……なあ、聞いてもいいか?」

「はい!」

「もしかして、だが……お前がデビューしたのは……」

「にいちゃんの嫌がらせです! だってあたし、いわれなきゃデビューなんて――」


「クソがあああああぁぁぁああああぁ

 あぁあああぁぁあああぁぁああぁぁ

 あああああぁぁあああぁあぁあ!!」


「うわーーー!!」

「アイザックアイザックアイザック! そうだお前はそんな奴だ! 死んでからも俺をおちょくるお前は確かにアイザックだ!

ア、アイ、アイザッ……! アイザックァァァーーーー!!」


「でも安心してください! そのスランプ、あたしがなんとかしますから! そのためにこの島にきたんです!」

「なんとか!? ビューンとかパーンしか言わないお前に何が出来るってんだ!!

お前に紋章芸術の何がわかるってんだーー!!」

「ではあたしの紋章画をごらんくださーい!!」

「ああ!? どうせ稚拙な――

……美しい……」


 ユキムラの目から涙がこぼれ落ちる!


「な、なんっ……! 何と、何という……!

この滑らかでみずみずしい曲線! これはまさしく、<メリザンド・バラチェ>の再来……いや、それ以上だ!

色彩は高遠にして豊澗、<抽象略印主義>とも<写実表象主義>ともつかぬ構図はその事新しさの中に無視できない人間の回帰的心理を内包して――」

「ちょっとユキムラさん! なにいってるかさっぱりわかんないです!」

「……認めよう。確かにお前は天才だよ。あのバカ兄貴よりもな。」

「んじゃあ、あたしのいうこと、信じてくれますね!?」

「……本当に、何とかなるのか? スランプを……脱出できるのか?」

「モチモチロンロン!

『なんとなくなんとかなる』があたしのモットーですから!」

「不安だ……」




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