【白猫】パステル・思い出
パステル・クールベリル cv.前田玲奈 色彩豊かな風景を描く画家。 祖父との約束を果たすため人物画の練習をしている。 | ||
2014/11/28 |
思い出1
飛行島の端っこに、色とりどりの華やかな服装をした少女が立っている。
一つ目の消失点はあそこで決まり、二つ目はあそこ……
ああ、でもこれだとパースが急になるかな―――
ちょっとアンタ! はやまっちゃダメよ!
えっ!? 急になにっ?
う、うわ! お、落ちる落ちる!
えっ、ええっ!?
――なーんてねぇ♪
もう! おどかさないでよ!
急に声をかけちゃったアタシが言うのもなんだけど……
こんなところで何をしてるんですか?
ここから風景を描きたいと思ってね~。ここまで空に溶け込んだ<オリオンブルー>はなかなかないよ~。
なるほど。絵描きさんなんですね。
そっ♪ 私はパステル。こう見えて、けっこー名の知れた風景画家なんだ~。
そんでぇ~。気晴らしに塔のてっぺんで絵を描いていたら――
なんか空に島が浮いてるっ!? おもしろそう! 行ってみよう!
と、ノリで来ちゃったってわけ。
アクティブね~。
ん~、この島から見える風景は最高なんだけど構図が決まらなくてねぇ~。
どうしよっかなぁ……たとえば――こうして視点を変えてみるとどうなるかなっ――とぉ!
と、パステルが元気いっぱいに飛行島のふちでブリッジをする。
むむむ…なんのこっちゃ?
なんのこっちゃってなんのこっちゃ!
それこそなんのこっちゃ!?
バカやってる場合じゃないわね。主人公止めて!あの子が島から落ちないように!
ねえねえ、そこの君ぃ~。暇なら私を肩車してよぉ~♪
こらこらこら! そんなことしたら余計危ないってばっ!
いいじゃん、いいじゃん。減るもんじゃないし。お邪魔するよ~♪
おっ! 高い高い~♪ うんうん、いい構図いい構図♪
よ~し、このまま描くからあんまし動かないでね~。っ、とと、と……
グラグラしちゃ描けないよ~。
あっ――――――!?
落ちた……
思い出2
いやー、この間は危なかったねぇ♪ 恐怖で顔が<あさぎいろ>になっちゃったよ~。
まったくよ! ついでにその例えよくわかんないから!
めんごめんご~♪ おわびにこの絵が完成したらプレゼントするよ~。
あら、キレイな絵ね~。キャンパスの上でほんとに花が咲いてるみたい。
もう少し待ってね~。あとは花弁をちょいちょーいと塗るだけだから。
よくこんな色が出せるわね~。
それはね~。まあ、見てて♪
パステルが左手を掲げると、パレットに埋め込まれた石が輝く。
パステルは巨大な筆先でパレットをなぞり、濃い赤紫色を宿らせると――
その筆をキャンバスに向けて力強く走らせ、花弁の影を色鮮やかに染めていった。
よーっし! これで完成っと♪
今のはなんですか?
これは<色彩のルーン>って言ってね。
人や自然のソウルから色を感じとって引き出すことができるんだ~。
たとえば、空にパレットをかざすと――こんなふうに<そらいろ>が生まれるの。
便利ね~。それさえあれば絵の具は必要なさそうね。
そそっ♪ いつでもどこでも絵が描けるんだ~。
なんでそんなもの持ってるの?
8歳の誕生日のときに、画家だったおじいちゃんがゆずってくれたの。
そのときから絵を描き始めたんですか?
もっと小さいときから描いてたよ~。いろんなところに落書きしてよく叱られたけどね~。
絵を描くことが好きでしょうがないのね。
そうなの、そうなの♪ 白い壁とか、白い食器とか、白い風船とか、白いものはなんでもキャンバスに見えちゃうんだ~。
ふんふん。
だから、キャトラを見て思ったの。
その光沢感のある白い毛並みを虎模様に塗ってあげたいって。
キャ虎……
アイリス……今、ぜったい変な想像したでしょ?
させないからねっ!
思い出3
ねえパステル~。風景ばっか描いてて飽きないの~?
飽きないよ~♪
たまには似顔絵なんてどう? アイリスをモデルに描いてみせてよ~。
えっ? 私?
うーん……久しぶりに、描いてみよっかな……
はやくはやく~。
じゃあ、アイリス……<色彩のルーン>の力で、あなたの心から色を分けてもらうね。
それはどういう……?
パステルはアイリスにパレットを向けたかと思うと――
赤、青、黄色、緑……と多彩な色を引き出して筆に宿す。
すっご~い!
これが色彩のルーンの力なのね!?
巨大な筆はキャンパスを駆け回り、アイリスの似顔絵を描いていく。
よーっし、完成!
完成っ! ……って……
何よ、この気味の悪い色は……? アイリスはこんなんじゃないわよ!
あいたたた。<もえぎいろ>に<うつぶしいろ>を混ぜたような色になっちゃった……ちょっとぉ……
風景画はあんなにキレイなのに、どうしてこうなっちゃうのぉ?
……自然から分けてもらった色でなら、キレイな絵が描けるんだ。
でも、人の心から色を分けてもらうとどうしても上手く描けなくて……
人の心ってさ、悲しみの<あお>だったり、喜びの<きいろ>だったり、怒りの<あか>だったり――
いろんな色が複雑に混ざり合ってるんだよね。だから上手く色を操れないんだと思う。
絵の具でやっちゃダメなの?
それはやりたくないんだ……
約束したんだ。このルーンを使いこなして、おじいちゃんを超える人物画を描けるようになるって。
おじいちゃんが色彩のルーンで描く人物はいつもキラキラしてて、心の素晴らしさを伝えてくれた。
誕生日に私の似顔絵を描いてくれたんだけど……そこにはまるで、私の心があるみたいで……
ルーンを譲ってくれたおじいちゃんの想いに応えるためにいつかこれを使いこなしてみたいんだ。
思い出4
どうしよ、どうしよ!
騒がしいわねぇ。何があったのよ?
国王陛下から絵の依頼を受けたの……
すごいじゃな~い! なのに、なんでがっかりしてんのよ?
それが…色彩のルーンを使って王女様の肖像画を描くことになってね……
それは困りましたね……
私の絵のファンらしくてね。
……けど王女様、私が人物を描けないって知らないから……あいたたた……
断るにも断れない状況ね~。
んがぁー! どうしよぉ! もしも失敗したら、国外追放されるかも~!
時間があるかぎり、練習しましょう!
えっ?
やるだけやってみようじゃない。
私たちをモデルにしてください。付き合いますよ。
……そうだ……よね。うん、みんなありがとう!
よーし! こうなったら、特訓開始だ! 描いて描いて描きまくるっ!
そうと決まればまずは構図を……
うーん、そうね……アイリスはそこに座って!
はい!
やっぱり、立って!
はいっ!
キャトラは逆立ちして!
こ、こうかしら!
主人公はアイリスの後ろに立って笑って! もっと笑って!
もっと!
っもっとぉおおおおおおおおおお!
ぜったい上手く描いてやるううう!
思い出5
ふう…これで460枚目か……
似顔絵、だいぶ上手くなってきたわね~。
これじゃダメだ……
ちゃんと描けてるように見えるけど?
そうなんだけど……そうなんだけどさぁ。
なんか、表面的というか心がないっていうか……
やっぱり……おじいちゃんみたいには描けないよ……
何がダメなのかしらね~。
とにかく練習あるのみです――
!? いたた……
アイリス、大丈夫?! どうしたの?
いたたた……足がつっちゃった……
ずっと同じポーズとってたからね……少し休みましょう。
ごめんね、みんな……私のせいで……
私は大丈夫です……気にしないでください!
ありがとうアイリス……でもね……
もう無理だよ……間に合わないよ……
パステルさん……
何度描いても……心の色がわからないんだ……
人の心は複雑で……色んな感情が混ざり合って黒くなる……
考えれば考えるほどわからなくて黒くなる……いまの私の心は、真っ黒だ……
おじいちゃん……ごめんね……約束……果たせそうにないよ……
思い出6
なんて……キレイな光なの……
これは心の色……いや…<色>じゃない……<光>……
赤……オレンジ………黄色……
緑……青……藍色……紫……
心はまるで<虹>みたいだ……
パステルさん……何かつかんだんですね。
……あはは。もうだいじょうぶ……大丈夫だよ。
<心>は真っ黒なんかじゃない……
怒りも、喜びも、悲しみも、ちゃんと見つめて全部重ねて束ねれば……
虹のように輝くんだ! 私、描きたい!
みんなの絵を……みんなの心を描きたいっ!
色彩のルーンが七色の光を放つ。
パステルが筆を大きく振るたびに、ルーンから飛び出した光の虹が嬉しそうにそれを追いかける。
筆がキャンバスの上を無邪気に駆けまわり、そこに}主人公たちがきらびやかに描かれていく。
――できたっ!
そこには燦然と輝く主人公たちの笑顔があった。
どう……かな?
素敵です。これが私たちの心の色なんですね。
つられて笑顔になるわ~。
ありがとう。みんなのおかげだよ。
おじいさんの絵より上手く描けた?
まだまだおじいちゃんの絵にはかなわないよ……
でも、いいんだ。今は、目の前にいてくれる人の心をありのままに描き出したい……ただそれだけだよ。
そんじゃあ、そろそろ行くね。
さっさと王女様に素敵な似顔絵を描いてきてあげなさい。
戻ったら練習再開するわよ~。
ふふっ。新しいポーズを考えて待ってますね。
うん♪ 楽しみにしてるよ~。
よ―――――っし! みんなの心をカラフルに描き出してみせるよ!
その他