【白猫】ユキムラ・思い出
多作なる紋章画家 ユキムラ・サイオンジ cv.杉山紀彰 多作で有名な紋章画家。 神経質な性格だが、破天荒な面も。 |
思い出1
〈ミュゼ・デュ・アンブレーム〉の警備の依頼を終え――
主人公たちは、飛行島へと戻ってきていた。
紋章画家のユキムラ・サイオンジと共に。
ユキムラはどう?……アンタ、いろいろとタイヘンだったみたいだけど……
またたく間に過ぎ去った気もすれば、何十年も苦しみぬいた気もする。
さてここ飛行島では、訪れた人を癒すこともウリにしているわけだけど……
〈太陽の眺望〉は〈写実表装主義〉を否定した〈空想外包画家〉ラトの作品だったが……
実物を見ると違いが良くわかるな。雲は雲。波のように描いては、光を含んだ雲の層までは表現しきれなかったか。
かくいう俺もそうだ。イーゼルは地に立てるもの。その固定観念が、自然と視点の高さを限定する。
だがしかし!この飛行島からなら、望めば〈愚者の塔〉の屋根すら見下ろすことができる!」
その塔はドラゴンよりも高く、〈存在至上主義〉を唱えた彼らしいダイナミックさが――
飛行島に来たひとはね、仕事を忘れなきゃいけないルールがあるのよ!
思い出2
「なぁユキムラ君。
俺が何を言っても『天才』と返したまえ。」
「なんだそれは?」
「ゲームさ。〈天才ゲーム〉とでも呼ぼうか。」
***
***
思い出3
もんしょーがか、だっけ?それについて詳しく教えて欲しいんだけど?
帝国の国旗などを見たことはないか?あれも、紋章の一つだと言える。
だが……画壇で実力が認められるのは、並大抵のことではない。
――俺はまだまだ未熟さ。張り合えるのは、ただ筆の速さだけ……まだ、あいつの……足元にも及ばない……!
「イロメロさん!?」
あぁっ、ピヨピヨ緑ちゃんが落ちちゃう!シュワシュワの茶色さんが支えてあげなきゃ!
そしたら思わずこうしてここに!
思い出4
***
「――このあたりがいいか。」
ユキムラはイーゼルを立てた。
――
「……明かりがなくなった。……誤算だったな……
ちっ……仕方ない。どこか、雨風をしのげそうなところは――」
「…………」
「……ご老人?こんなところで、何を……?……!?」
老人の目の前には、ボロボロになったイーゼルが立てられている……
「…………」
「あなたも……ここで、絵を?」
「…………」
「夜も更けました。よければ、俺と一緒に民家でも探しに行きませんか?」
「……私の家はすぐそこだ。」
「そうでしたか。これは、いらぬことを。」
「若いの。寝泊りしたきゃ、うちのを使って構わん。」
「本当ですか?ありがとうございます。では――
……ご老人。あなたは……?」
「…………」
「今夜は月も出ていない。こんな夜に、一体何を描こうとされているのです?」
「私もそれを、考え続けている。」
「……?」
思い出5
「ユキムラ・サイオンジ…………そうか、あんたが……」
「はい。あなたは……?」
「私はモドゥ。この国で、画家をしていた……
いや……ここがまだ国であった頃、画家だった……だな。」
「それは……?」
「二十年ほど前になるか。この国は滅んだよ。魔物たちのせいでな。」
「!!」
「国王の一族は絶やされ、生き残った国民もよその島へ移っていった……
たまに、旅の冒険家が訪れることはあるがな。画壇でのあんたのことは、それで知ったよ。」
「誰もいない島で……あなたは何をしているのですか……」
「救いを、描こうとしている。」
「救い……?」
「王が存命だった頃、私に命じられたのだ。
じわじわ魔物に侵略され、恐怖に怯える国民たちが、希望を持てるような絵はないか――」
「……一枚の絵で、人々を……」
「…………」
「それで、その絵は?」
「……描けておらん。」
「なんですって……?」
「それから十年後、国は滅び、私に命じた王も、この世を去られた。
……二十年経った今でも、私はその絵を、描けてはいない。」
「三十年もの間、その一枚を描こうとされているのですか?」
「そうだ。」
「失礼ですが……何のために……?」
「さあて、な……」
「あなたはそれでいいのですか。」
「…………」
「描き上げることの叶わぬたった一枚の絵と、心中するおつもりですか?」
「…………」
「何故そんな無益なことを。モドゥさん。画壇に帰ってきてください。
余計なお世話かもしれませんが、俺も少しは口の利けます。」
「私にはもはや、意味のないことだ。」
「何故です!芸術は、鑑賞されることに価値がある!
たとえその絵が完成したとして、誰の目にも触れることはない!絵がかわいそうだと思わないのですか!
素晴らしい絵に罪はない!人々に見られ、称賛される権利がある!」
「……帰るんだな。」
「いいえ。あなたがそのつもりなら、俺にも考えがある。
俺もここには絵を描きに来ました。あなたがその絵を描き上げるのを見届けさせてもらいます!」
「…………」
***
「…………」モドゥ
(……早朝からいるというのに、筆を持ったまま微動だにしない……
こんなことを……三十年も……)
「…………」
――月日が流れた。
ユキムラの周囲には、何枚もの紋章画がうず高く積まれていく。
モドゥの家の中も、ゆきむらの作品で足の踏み場すらなくなった。
しかし――
「…………」
「……モドゥさん。俺はわかりましたよ。」
「…………」
「あなたは描けないんじゃない。描かないんだ。
王に命じられた絵を描くこと……それだけが、あなたと今は亡き国をつないでいる。
その絆を失うのが怖い。だからあなたは、描かないんだ。違いますか?」
「……若いの。あんたは、芸術家じゃないな。」
「なんだと……!?あんたこそ、どこが画家だ!?
日がな一日、筆を持ってぼんやりしてるだけじゃないか!あんたの方こそ、芸術家ではない!」
「わかっとらんな。魔物が巣食うんだよ……!芸術家の心には……!
国民全ての、命を預けられた、私の――魔物を見ても、まだそんなことが言えるかッ!」
思い出6 (友情覚醒)
「モドゥさん!?」
「わかるか!?たかが絵画の一枚に……何千人、何万人の命がのしかかった!
死してなお、安息を、救いを求めるソウルとなって、この筆にしがみついている!
どれだけ重いかわかるか!?」
「――!!」
ユキムラの耳に、何千人もの声が重なり合って響いてくる。
『誰か助けてくれ』
『誰か魔物を退治してくれ』
『誰か勇気を授けてくれ』
『希望を見せてくれ』
『救いをくれ』
人々の叫びは絡まり合い、ねじれながら一つの地点へと収束していく――
――そこには――
「……魔物……!
なんということだ……!あのときの比ではない……!
こんな巨大なものが……一人の人間の心に、巣食うというのか……!」
ガァアアアアァァッ!!!
「若いの!逃げろ!
あんたまで関わることはない!こんなものに押し潰されるのは私一人で十分だ!
ぐぅ!? ぐぅああああああー……!!」
「モドゥさんっ!
……俺はあなたを、誤解していました……
あなたこそ……芸術家だ!こんなところで見殺しにはしない!
うぉおおおおーーーーっ!!!」
***
自分はまだまだ若輩者だと、実感するのも悪いことじゃない。
……俺は、今まで以上に、数多く、様々な紋章画を描いてみたい。
そして、俺こそが史上最高の天才紋章画家であると世間に知らしめてやるのだ!
案外……また手紙を用意しているかもしれないな……
いや、そんなの想定してねーから。
魂を描く者 ユキムラ・サイオンジ
その他