【黒ウィズ】ラーミナ・ミレレ
ラーミナ・ミレレ
バックストーリー
北の崖に立つ廃城には、おぞましい言い伝えがあった。
その城に住む一族は、家臣や領民を遊びと称して殺めていたとされる。長い時間をかけ、苛虐的な責め苦を加え、苦しむ姿をいつまでも眺めるのが好きだったとか。そういった逸話から、一族は「血まみれの一族」と呼ばれていた。
彼らは末娘の生まれたその年に、謎の失踪を遂げたという。
それはこの世界でおよそ100年ほど前の記録であり、故に「血まみれの一族」の逸話は昔話の一種と化していた。
だが、いつの頃からだろう。
主を失い、長い時間を掛けて朽ち果て、半ば崩れかけたその城に、「怪物に囚われた少女」がいるという噂が立った。
噂を聞きつけた何人もの勇者や冒険者は、少女を助けようと怪物討伐へ向かい、そして――
……ひとりとして、帰ってはこなかった。
「ぎゃ……あ……」
美しい赤い月が見下ろす、朽ちた城の地下室で、切れ切れの叫び声が上がる。
「怪……物……! 怪物め……」
冒険者は恨みのこもった瞳で、眼前の小さな怪物を見つめた。
血と錆と、死体の匂いに充満した地下室で、美しいドレスに身を包み、柔らかな微笑みを浮かべ、膝に乗る白い猫を撫でながら、芳しい香りのする紅茶のカップを傾ける――。
――少女の姿をした怪物を。
「怪物……ちがうわ。ラーミナ・ミレレ。私の、名前」
怪物――もといラーミナは、ゆっくりとした口調で冒険者の言葉を否定した。ろうそくがゆらめき、背後に映る「血まみれの一族」の肖像画が照らされる。
……その額縁には、ミレレ家という刻印があった。
「私、あなたと 踊りたかったのに」
ガシャガシャと、ラーミナの足元から剣が生まれていく。まるで魔法に疎いその冒険者にとって、眼前の光景は恐怖そのものだった。
そして彼は思い出す。記録にあった末娘の名は、ラーミナだったと。
「何度言っても……」
話し始めた彼女は、ひとつ上品にため息をつくと、カップに残った紅茶を飲み干しこう続ける。
「何度言っても 私に合わせて踊ってくれないから」
不満気に唇を尖らせ、ラーミナはカップを逆さにする。
紅茶の雫がひとつ、地面に堕ちた時。
「もう あなた いらない」
刃の、雨が降った。
その先の事を、誰もしらない。