リスリー・思い出

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思い出1

ある、雨上りの日……。

キャトラ

あれ？

水たまりになんか落ちてる？

ハンカチ……かしら。

キャトラが布きれ(？)に近づくと

ソレはいきなりうごめき始めた。

？？？

ぶぐぶぐぶぐ……

キャトラ

ぎにゃー！？

なにこれー！？

？？？

ぶぐぐ、ぷるぷるぷる……！

水しぶきをまき散らしつつ、

布きれの固まり……いや、

ぬいぐるみが、立ち上がった！

リスリー

『なにこれ』とは失敬な。

ワタシはリスリー！

＜ぬいぐるみ騎士＞でアール！

キャトラ

ぬいぐるみがしゃべった！？

てゆーか、泥飛んできた！

リスリー

ふっ、細かいことを

気にしないでクレタマエ。

リスリー

だいたい、キミも

しゃべるニャンコなのでアール。

キャトラ

なによ、せっかくどろんこの中から

見つけてあげたのに。

偉そうねぇ。

アイリス

なんだか、

ボロボロみたいですけど……

どうしたんですか？

リスリー

ワタシは<ぬいぐるみ騎士>！

吹っ飛ばされても投げつけられても

大丈夫……なのでアールが。

キャトラ

ふーん、

材質的に水とかに弱そうよね。

リスリー

ふっ。

英雄には欠点が

つきものなのでアール。

アイリス

なるほど、雨に降られて、

水を吸って

泥まみれになっちゃったんですね。

リスリー

そのとーりでアール。

こればっかりは、

いたしかたないのでアール。

アイリス

もし、よろしければ、

汚れを落としましょうか？

キャトラ

いいの？

そんな、わけわかんないの

拾っちゃって。

リスリー

おお、お嬢さん、

なんとも心優しい！

リスリー

それに比べてこのニャンコは

性悪っぽいのでアール！

キャトラ

アンタに言われたくないわよ！

アイリス

まあまあ、ふたりとも。

せっかく出会ったわけですし、

仲良くしましょうよ。

リスリー

お嬢さんがそう言うなら、

ワタシもニャンコには

礼をもって接するのでアール。

キャトラ

まったく。ゲンキンなんだから。

アイリス

ふふ。

じゃあ、リスリーさん。

お洗濯しましょうか。

リスリー

え？

きれいにするって、マサカ……？

アイリス

さあ、泥を洗い流しましょうね。

リスリー

わー！

ふたたび

ずぶ濡れなのでアール……！

リスリー

ぶぐぶぐぶぐ……

思い出2

リスリー

ふう、やれやれ、

ひどい目にあったのでアール。

アイリス

どうしたんですか、

リスリーさん……！？

その腕は！？

リスリーの右腕がもげて、

中からぬいぐるみの綿が

はみだしている。

キャトラ

ちょっと、

アンタそれ大丈夫なの！？

大ケガしてるじゃない！

リスリー

ふむ、この程度、

ドウということはない。

日常茶飯事なのでアール。

リスリーは、平然として、

自分の右腕を

もう片方の手で持っている。

キャトラ

もしかして、

ぬいぐるみだから、

いたくない、とか？

リスリー

左様でアール。

もう一度、ツギハギすれば

元に戻るのでアール。

キャトラ

へえー。なんだか便利な体ねえ。

アイリス

でも、そんなになってしまうなんて

もしかして、

激しい戦闘をしたんですか？

キャトラ

そういえば、アンタ、

<ぬいぐるみ騎士>だったっけ？

リスリー

そのとおり！

魔物から子どもたちを守って

八面六臂の大活躍だったでアール。

アイリス

それで、

魔物にかじられてこんなことに？

リスリー

いや、ウデがもげたのは、

私がコドモたちの人気者すぎて、

取り合いになったからでアール。

リスリー

『これ、面白いから

ひっぱってみよー』とか、

コドモたちは無邪気なのでアール。

キャトラ

それ、

イタズラっていうんじゃないの？

リスリー

コドモたちと遊ぶのも

<ぬいぐるみ騎士>のつとめ！

このくらいかまわないのでアール。

アイリス

でも、

腕がとれちゃってますけど……

リスリー

ワタシの体は

自分で修復可能なのでアール。

全然平気でアール。

リスリー

だが、人間は壊れたら

元に戻れないのでアール。

ゆえに、守らねば、でアール。

キャトラ

へえ、じゃあ、

アタシのことも守ってくれる？

リスリー

ニャンコは……

かんだり、なめたりしてドロドロに

されるから苦手なのでアール。

キャトラ

失礼ね！

アタシはそんなことしないわよ！

リスリー

世の中にはニャンコ専用の

ぬいぐるみもあるのでアール。

彼らに遊んでもらうのでアール。

キャトラ

しないっていってるでしょーが！

思い出3

今日はいい天気だ。

物干では、

洗濯物がはためいている。

リスリー

ふう。やれやれ。

乾くまで辛抱なのでアール。

……リスリーも

一緒にはためいている。

キャトラ

リスリー、アンタまさか、

また泥の中につっこんだの？

リスリー

ニャ、ニャンコ！？

しばらく

近寄らないでほしいのでアール。

キャトラ

なによ、失礼ね。

アタシ、なにもしてないでしょ？

リスリー

ネコ科の生き物なんて、

ろくでもないのでアール。

キャトラ

なんの動物かわからない

アンタにいわれたくないわ！

アイリス

まあまあ、ふたりとも。

リスリーさん、

なにがあったんですか？

リスリー

実は、さっき

グレイルジャガーに

気に入られてしまい……

リスリー

なめられたり

ガジガジされたりと、

とても大変だったのでアール。

アイリス

ああ、それで、

またドロドロになったんですね。

キャトラ

だからって、

アタシまで遠ざけなくたって！

リスリー

だって、この高さは、

ちょうどニャンコの

狙いやすい場所でアール。

キャトラ

そういわれれば……って、

そこまで見境なくないわよ！

アイリス

でも、キャトラ、

しっぽふりふりしてるわよ？

キャトラ

はっ！

つい、血が騒いじゃって！

リスリー

やれやれ、コドモたちだけでなく、

ケモノたちにもモテモテとは……

リスリー

美形ぬいぐるみも

ツライのでアール。

キャトラ

むしろ、子どもたちには

別の理由でモテてるんだと思うわ。

リスリー

ああ、はやく

乾いてほしいものなのでアール。

思い出4

キャトラ

ねえ、リスリー、

前から気になってたんだけど……

リスリー

どうしたのでアール？

ニャンコ、まさか、

またワタシを狙って……！？

キャトラ

違うわ！じゃなくて！

キャトラ

なんでアンタって

そんなにボロボロなの？

リスリー

ふっ、コドモたちにモテまくり、

ケモノにもモテまくり……

その結果でアール。

キャトラ

ほんとに！？

リスリー

冗談でアール。

キャトラ

もう、

こっちはまじめに聞いてるのにー。

リスリー

ニャンコよ、以前、ワタシが

『なんの動物かわからない』と

言っていたでアールな？

キャトラ

あ、うん、言ったけど……

リスリー

ワタシの体は、仲間たちから

少しずつわけてもらったもの

なのでアール。

キャトラ

えっ？

リスリー

まだ<ただのぬいぐるみ>だった

ワタシは、火事によって

燃え尽きかけていた……

キャトラ

火事ですって？

リスリー

当然、動けないワタシの体は、

ほとんど燃えてしまったでアール。

しかし……

リスリー

奇跡が起きたのでアール！

リスリー

かわいがってくれた主を

助けたい気持ちが、

ワタシに力を与えたのでアール。

リスリー

動けるようになったワタシだったが

あいにく、体がほとんど燃えて

手足もなくなっていた……

リスリー

しかし、なんとかして、

主を追いかけなければ！

リスリー

あせるワタシに、

仲間のぬいぐるみたちの声が

聞こえてきたのでアール。

リスリー

『僕の手を使って！』

『私は足をあげる！』

『あの子を守ってあげて！』と。

リスリー

ワタシは、その声に応じ、

焼け残った仲間たちの体を

すこしずつツギハギして……

リスリー

<ぬいぐるみ騎士>となり

よみがえったのでアール！

キャトラ

なるほど、それで、今の姿に……

アイリス

大変だったんですね……

リスリー

いや、それより、

心配なのは

ワタシの主でアール。

リスリー

幸いにも、命は助かったが、

きっと、今頃どこかで

心細い思いをしてるはずでアール。

キャトラ

その子の手がかりは、

なにかないの？

リスリー

わからないのでアール……しかし！

リスリー

この<ぬいぐるみ騎士>が、

必ず見つけ出して

あげるのでアール！

アイリス

そういうことなら、

私たちも協力しますね。

思い出5

雨の降り続ける日。

リスリーは憂鬱そうな顔(？)で、

窓から空を見上げる。

リスリー

ハア……こうジメジメすると

気分がすぐれないでアール。

キャトラ

アンタ、湿気に弱いもんねー。

リスリー

気持ちが沈むと、

昔のことを

思い出してしまうのでアール……

…………

……

火事の中、

少年の泣き声が響いている……

リスリー

(ああ、ワタシに

力があれば……！)

リスリー

(ワタシに力があれば、

この子を助けられるのでアール！)

ぬいぐるみたちは、

幼い少年に覆い被さっていた。

たとえ動けなくても、

身を挺して

少年を助けるかのように……

リスリー

(かわいいだけでは、

この子を救えないのでアール！)

リスリー

(ただ、かわいがられる対象では、

大切な人を守れないのでアール！)

リスリー

(ワタシが燃え尽きたとて、

この子が助かるのなら……！)

リスリーの願いはかなえられた。

少年はぬいぐるみたちにかばわれ、

ひとり生き残った……

リスリー

その後、焼け跡から、

泣きながら歩き去った主を見て、

ワタシは願ったのでアール。

リスリー

たったひとりになってしまった、

彼を、守れるようにナリタイと！

キャトラ

リスリー……

リスリー

ふう、雨の日は

気持ちまで湿気ってしまって

よくないのでアール。

リスリー

心なしか、

アタマが重いのでアール……

アイリス

大丈夫ですか？

リスリー

こんなときには……

リスリー

アタマのワタの交換でアール！

キャトラ

なんでじゃー！

リスリー

湿気ったワタは

交換するにかぎるでアール。

リスリーは、

頭から白い綿を

引っ張りだしはじめる。

リスリー

あたらしいわたをつめれば、

きもちはりふれっしゅであーる。

キャトラ

頭ぺったんこなのに、

よくしゃべれるわね……

アイリス

リスリーさん、もしかして、

無理してるのかも……

キャトラ

そ、そうかなあ……？

リスリー

まったく、すこしも！

むりなどしてないであーる！

アイリス

ほら、やっぱり。

キャトラ

ほんとに……？

リスリー

なにをいう、わたしは、なにもー！

キャトラ

ああ、もう、

ムリしなくていいから！

思い出6

リスリー

おお、暖かい。

まるで、あの子に

抱きしめられているような……

リスリー

そうか、わかったのでアール。

リスリー

ワタシは、<ぬいぐるみ騎士>！

すべての

コドモたちの味方でアール！

アイリス

リスリーさん……

リスリー

あの日、ワタシは

気づいていたのでアール。

リスリー

強くなければ

愛するモノを守れないと。

リスリー

どこかにいるはずの

あの子のもとにたどり着き……

リスリー

そして、

あの子を今度こそ

守ってみせるのでアール！

キャトラ

やれやれ、

ようやく

アンタらしくなってきたわね。

リスリー

ワタシは誓うのでアール。

このボタンの目にかけて！

リスリー

昔、ワタシの目が取れたとき、

あの子が自分の服からこのボタンを

つけてくれたのでアール。

アイリス

へえ、じゃあ、リスリーさんの目は

その子とおそろいのボタンで

できてるんですね。

キャトラ

アタシとアイリスの

リボンと同じね♪

リスリー

ウム、きっと彼を探し出せるように

ワタシのこのボタンの目は

あるのでアール。

リスリー

ワタシの体の一部となった

仲間たちにも、これからも

力を借りるのでアール。

リスリー

そして、伝えるのでアール。

ワタシたちがどれだけ

あの子を大好きなのかを！