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孟婆湯・物語

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一 片時も忘れず・壱

◆主人公【男性】の場合◆

(逆の場合の差分は募集中)

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孟婆湯:あいつをしっかり捕まえておけ。記録によると、あいつはもう半月ほど逃げ回っている。

孤魂:離せ! 俺が彼女の傍にいないと……彼女の元に帰らせてくれ!

孤魂:彼女と約束したんだ……永遠に彼女から離れないって!

孟婆湯:死んだ時点で君は既に約束を破った。この世を徘徊し続けても、君の怨念を深める以外の何にもならない。

孤魂:お前らに何がわかる! 彼女はまだ俺のことを覚えている! 俺のことを愛している!

孟婆湯:君ら人間の感情は、確かに私にはわからないかもしれない。

孟婆湯:だが、これだけはわかる。君が彼女の傍に居続けても時間の流れと共に、君を忘れていくのを見守るしかできないだろう。

孟婆湯:そして、君は更に苦しい淵へと堕ち、人に災いをもたらす怨霊になる。

【選択肢】

・可哀想……

・彼は忘れたくないだけなのに。

選択肢

可哀想……

孟婆湯:今の君は鬼使いだ。彼に同情したところで、君の仕事には意味をなさない。

孟婆湯:鬼使いとして、私たちの役目は陰陽の平衡を維持すること。そして……

孟婆湯:彼をできるだけ早く開放し、生まれ変わらせることだ。

彼は忘れたくないだけなのに。

孟婆湯:なに馬鹿なことを言っている?

孟婆湯:人間は死後、孟婆湯を飲んで、奈何橋を渡り、輪廻に戻らなければ、陰陽の平衡は保たれない。

孟婆湯:それに、彼にとっても、忘れることこそが一番良い解脱法だ。

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孟婆湯:鬼使いよ、令に従え。船を忘川に入らせ、魂に孟婆湯を飲ませ給え。

 無情な命令が下されると、傍にいた鬼使いは孤魂の頬を掴む。孟婆湯を無理やりに彼の口に注いだ。

 孤魂は足搔いたが、暫くすると視線が恍惚になった。彼は無意識に鬼使いの後を追い、船に乗って、遠くへと行き去った……

 忘川の水面に波が立ち、岸に一枚の小さな石を流す。

【選択肢】

・あれは何かな?

・相思石?

選択肢

あれは何かな?

孟婆湯:『相思石』だ。人間の執念が凝結してできたものだな。

孟婆湯:君も見たことがあるはずだが。

相思石?

孟婆湯:覚えているか。

孟婆湯:『相思石』だ。人間の執念が凝結してできたものだな。

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孟婆湯:あれらは大抵『忘川の底』に沈んでいるが、波に岸まで流されることもある。しかし最近、相思石の数がかなり減っているようだ……

孟婆湯:君が聞きたいことならわかっている。

孟婆湯:記憶の箱が相思石を受け入れられない原因は、記憶より執念のほうが遥かに重いからだ。凝結されたらすぐに忘川の底へと沈んでしまう。

孟婆湯:まあ、そうした重荷を外せるなら、人間にとっても良い事だろう。

【選択肢】

・人間はそうは思わないかも?

・違う考え方もあるけど、知りたくない?

選択肢

人間はそうは思わないかも?

孟婆湯:人間の心を推し量る必要はない。

違う考え方もあるけど、知りたくない?

孟婆湯:……君はまた何か、妙なことを企んでいるな?

孟婆湯:とはいえ、幽冥司を一度爆発させた君だ。今更何をしても私は驚くことはない。

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孟婆湯:君の言いたいことならわかっている。

孟婆湯:君の任務も既に半分済んでいるから、今なら空桑で暫く暮らすことも不可能じゃない。

孟婆湯:鬼城も空桑に入ったらしいな。

孟婆湯:良いだろう。彼が鬼使いの役目をきちんと果たしているかどうか、確かめに行こう。

孟婆湯:いくぞ、○○。




鬼城麻辣鶏:なっ、なんで貴様まで空桑に来るんだ!

鍋包肉:無情公子、空桑へようこそ。公子の部屋は、若様の命で既に準備が整っております。こちらへどうぞ。


鍋包肉:無情公子。幽冥司の休憩時間は三界とは異なると聞きましたが、それは事実でしょうか?

孟婆湯:鬼や霊は深夜に出没するから、鬼使いも深夜に任務を実行するしかない。

鍋包肉:では、昼と夜がひっくり返ってしまってしまいますね。そうなりますと空桑の生活を等身大に体験することは難しいかもしれません。

鬼城麻辣鶏:まあ、空桑の夜も悪くないぞ!

鍋包肉:そういえば鬼城さん。近頃、食魂からあなたの隣室から引っ越したいとの申し出が相次いでおります。

鍋包肉:理由は……深夜にあなたの部屋から、妙な物音が頻繁にするからだそうです。

鬼城麻辣鶏:俺様に活動場所を変えて欲しいならそう言えばいいだろうが。あの宮殿なら広さ的に申し分なさそうだぞ――

【選択肢】

・鬼城、それは止めてほしいな!

・部屋で一体何してるの……

選択肢

鬼城、それは止めてほしいな!

鬼城麻辣鶏:なんだァ、空桑じゃあ筋トレも満足にさせてくれないのか?

部屋で一体何してるの……

鬼城麻辣鶏:知りたいのか? なら今夜、俺様の部屋に……

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孟婆湯:鬼城、控えなさい。

孟婆湯:郭執事。スケジュールの問題なら、私のほうで解決策を考えておこう……

【選択肢】

・それは大丈夫

・いい考えがあるよ!

選択肢

それは大丈夫

孟婆湯:そうか?

鬼城麻辣鶏:まさかお前、俺様と夜の密会を……

孟婆湯:鬼城、これ以上若に対して無礼を続けるのなら、閻魔大王様にお伝えして、君を幽冥司に送還してもらうぞ。

いい考えがあるよ!

孟婆湯:ふむ? それはどういうことだ?

孟婆湯:原則的な問題に及ばなければ、私は受け入れても構わない。

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鍋包肉:先ほど、若様と相談して決めたことがありまして。

鍋包肉:若様はあなたたちが休憩時間を無理矢理調整することを望んではいません。それはあなたたちを困らせることであり、鬼使いの仕事に支障が出る可能性がありますから。

鍋包肉:ですので、あなたたちが空桑にいる間、空桑は夜食制度を実行します。

孟婆湯:夜食制度?

孟婆湯:それは……良い考えだ。

孟婆湯:孤魂はよく深夜に出没する。その時間だと、私たちも幽冥司の任務を果たせる。

孟婆湯:○○、よく解決策を出してくれた。

鬼城麻辣鶏:そうか! じゃあ俺様もパジャマ姿の○○を楽しみに……

鬼城麻辣鶏:イテェな! 今、誰か俺様を蹴ったな?!


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二 片時も忘れず・弐

◆主人公【男性】の場合◆

(逆の場合の差分は募集中)

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若い食客:あぁ、李爺! また飲みに来たのか!

李爺:空桑の酒はうまいからな! ここで働いてる奴らも、顔がいい若造ばっかりじゃ!

李爺:おや? この兄ちゃんも新入りか!

孟婆湯:……。

李爺:うちの嫁が生きてたら、ここの敷居を踏み潰すほど頻繁に来てたじゃろうな!

若い食客:李爺、また奥さんのことを人にべらべら喋ってるのかい?

李爺:嫁が亡くなってから、かれこれ十数年間じゃ。しかも最近うちの豚児は反抗期で、わしの相手をしてくれないんじゃ。これはもう外の誰かに聞いてもらうしかないじゃろう?

孟婆湯:十数年も前のことなのに、まだそんなにハッキリと覚えているのか。

李爺:もちろんじゃ! 目を閉じれば、頭に浮かぶのはぜーんぶ彼女の顔じゃ……

孟婆湯:一人で二人の記憶を背負うのは、疲れるだろう。

李爺:そうじゃな! 息子はまだ幼い時分、母に会いたいと大泣きしていた。あやつが泣いたときは、嫁のことを話してやるんだが、いつのまにかわしも泣いてしまい……最後は逆にわしが慰められていた……

孟婆湯:そういうこと、忘れたほうが楽に暮らせるのでは?

李爺:お前は、わしに彼女を忘れたほうがいいと…… いっそ新しいお嫁さんも貰えばいい、とでも言うつもりか?

孟婆湯:そうです。

李爺:そりゃあ違うぞ、若造。いいか、その忘れたい記憶こそが、わしを今まで支えてくれたのじゃよ。

孟婆湯:苛まれるような記憶は、荷物にしかならないはずだが。

李爺:嫁が亡くなった時はな、彼女と共に逝こうと思ったこともあった……

李爺:じゃが、わしらの子はまだ小さかった。わしまであの世に行ってしまったら、誰がわしらの存在を覚えていてくれる?

李爺:君はまだ、真に惚れ込むような相手とまだ出会っていないのだろうな!

李爺:断言してもいい。そいつと出会ったら、君も忘れたくなくなるぞ!

李爺:そいつのどこにほくろがあるか、と言ったことまで、な……。

若い食客:おいおい、李爺! また随分飲んでんな! どうせ奥さんの足に二つのほくろがある話でもしてんだろ? 何遍も人に話すことじゃないよ!

孟婆湯:あの世に逝って孟婆湯を飲めば、この記憶もなくなるだろうに……

李爺:わかっている。だからこそ、今頑張って覚えているんだ。

孟婆湯:……理解しがたいことだな。



孟婆湯:あなたは……

孟婆湯:何をしていたんだ?

孟婆湯:泥まみれになるなんて、まるで餓鬼だな。

孟婆湯:またどこぞの洞窟にでも落ちたのか?

【選択肢】

・これは労働人民の勲章だ!

・水をやったり、花を植えたりしてた……

選択肢

これは労働人民の勲章だ!

孟婆湯:とにかく、顔を拭け。

水をやったり、花を植えたりしてた……

孟婆湯:こんな真夜中に花を植えていたのか。

孟婆湯:君も随分呑気なものだ。

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孟婆湯:ここでしばらく休むのも悪くないだろう。

孟婆湯:もし郭執事が早く寝るように促してきたら、私を盾にしないことだな。

孟婆湯:鬼使いの任務は終わらない。郭執事の訓練は空に昇るよりも難しい。空桑は九重天にどれくらいの借金が云々……

孟婆湯:君の愚痴を聞いているうちに、空桑の事情が嫌なほど脳に入ってくる。

孟婆湯:今夜は何の愚痴だ?

孟婆湯:またそういう話なら……

 無情はしばらく考えて、袖から一壺の湯薬を取り出した……

孟婆湯:この『一口飲んだら悩みを忘れる』薬を試したらどうだ?

孟婆湯:今日……この提案をした者には断られたが……

孟婆湯:私は、これは正しい方法だと思っている。

 目の前の者から怒りを感じた無情の声が、無意識に小さくなる。

孟婆湯:どうだ……?

鍋包肉:若様、ここでしたか。そうだと思いましたよ。

鍋包肉:おや? タイミングが悪かったようですね。

鍋包肉:無情公子が持っているのは……

 鍋包肉は無情が持っている壺と、その隣で目で必死に合図を送る者を見て、すぐに事情を理解したようだ。呆れた様子で頭を縦に振った。

【選択肢】

・孟婆湯を奪う

・とある方向を指差して、鬼城の名前を呼ぶ

選択肢

孟婆湯を奪う

孟婆湯:……!!

鍋包肉:若様、何を――

とある方向を指差して、鬼城の名前を呼ぶ

孟婆湯:奴はどこだ?

孟婆湯:あなたは――一体何をっ!

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鍋包肉:若様! 何を飲まれたのですか!



孟婆湯:郭執事、彼は……?

鍋包肉:どうして彼にあんなものを飲ませたのですか。

孟婆湯:記憶は確かに剥離されていなかった。そのようなことになるとは……

鍋包肉:無情公子、ご自分で確かめてください。彼が忘れたことは、おそらく公子様と関わっております。

孟婆湯:私と……?

 部屋に入った無情は、普段と変わらない様子でベッドに座っている者の姿を確認したが――

【選択肢】

・あれ、君は……

・あれ?どこのイケメンさん?

選択肢

あれ、君は……

孟婆湯:冗談はやめろ。私のことを覚えていないのか?

あれ?どこのイケメンさん?

孟婆湯:……。

孟婆湯:孟婆湯に知能指数を下げるような効果はないはずだが……

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孟婆湯:曼、君は記憶を失っていない。私を誑かそうとしても無駄だ。

孟婆湯:何故そんな目で私を……

【選択肢】

・曼って?誰のこと?

・人違いじゃないかな?

選択肢

曼って?誰のこと?

孟婆湯:……曼という名を忘れたのか?

孟婆湯:有り得ない、そんなはずは……

人違いじゃないかな?

孟婆湯:まさか……曼という名を忘れたのか?

孟婆湯:違う、有り得ない……

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鍋包肉:無情公子。もし大した記憶ではないなら、今無理やり思い出させなくてもいいでしょう。

孟婆湯:たっ、大した記憶では……

鍋包肉:若様。この無情公子は先日、若様が幽冥司から空桑に連れ帰ってきた食魂です。覚えていませんか?

【選択肢】

・幽冥司……?

・食魂……蓮花将軍?

選択肢

幽冥司……?

孟婆湯:孟婆荘も、覚えていないのか?

孟婆湯:そんな……覚えていないなんて……

食魂……蓮花将軍?

孟婆湯:それしか覚えていないのか?

孟婆湯:どうしてこんな……

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孟婆湯:私に関することだけを忘れてしまったのか?

孟婆湯:まさか、私は何か大切なことを見落としていたのか……

【選択肢】

・出会いからやり直そうよ

・君が覚えていればいいじゃない

選択肢

出会いからやり直そうよ

孟婆湯:以前君が言った言葉も……全部忘れたのか?

孟婆湯:忘れたくないとはっきり言い切ったのは誰だ?

君が覚えていればいいじゃない

孟婆湯:私が覚えていればいいか……でも……

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孟婆湯:ダメだ、やはり幽冥司に行ってくる!

孟婆湯:私は記憶の長廊で探してくる。何か大切なことを見落とした可能性が……

孟婆湯:或いは……母上に聞いてみよう!

鍋包肉:無情公子。恐れながら、若様は公子様と幽冥司のことだけを忘れてしまったようです。それなら、若様を連れて一緒に行ったらどうでしょう?

鍋包肉:もしかしたら、幽冥司の景色を見れば何かを思い出すかもしれませんし。

孟婆湯:君の言うことにも一理ある。

孟婆湯:曼、私と一緒に幽冥司に行くぞ!


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三 片時も忘れず・参

◆主人公【男性】の場合◆

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無情は記憶を失ったその人を連れて、忘川の流れに沿って進んだ。両岸の景色がよく見れるように、彼は霊力で船をゆっくりと動かす。


孟婆湯

「曼、忘川両岸の彼岸花は、私が一番好きな花だ。あの時、君は毎日私の為に花を集めてくれていた」

「ここで君とよく散歩をしていた。覚えているか?」


振り向いた孟婆湯は茫然としたままの同行者を見て、その表情を更に曇らせた。


孟婆湯

「まあ、急ぐこともないか……」

「あのときもそうだったな。君は孟婆湯を飲み、すべての記憶を『記憶の箱』に奪われた。」

「いま思えば、今朝君が目覚めたときも、あのときみたいだったな……」

「こんなこともあった。ある日君は、白黒無常に深い穴に落とされた。私は半日かけてようやく君を見つけた。その後、私たちはずぶ濡れになって孟婆荘に戻った……」

「毎夜、君は私を起こしに来た。母上以外に私を起こせるのは君だけだった。君は私の好きな吸い物を作れるからな……」

「私の寝癖は、君と私だけの秘密だったな……」

「だがこれも……いまの君は忘れているのだろう。」


孟婆湯は同行者に手を貸して船から降ろす。そしてふたりで花畑に入ったとき、彼は何故かその手を離したくないと感じた。


孟婆湯

「そのあと、君は記憶の長廊に忍び込んで、記憶の箱を開いた。その結果、霊力が暴走して、幽冥司の半分が壊れた……」

「ずっと君の傍にいた食魂たちが、そんな君を落ち着かせた……」

「その様子を見たとき私は、これまでの自分が抱いたことのない感情を抱いていることに気づいた……」

「今思えばそれは……おそらく『羨ましい』という感情だったのだろう」

「私はそれまで、あのような感情を味わったことがなかった」

「この先が孟婆荘だ。君はここでじっと待っていてくれ」

「私は君の記憶を探してくる」



孟婆湯

「い、いや、そこまでは……」

「ここにはないようだ……」

「一体どこにある!」


無情が袖を振り、傍にある棚を倒した……


???

「情ちゃん? ……どうした?」


孟婆湯

「母上?」


孟婆

「貴方が『空桑の若』を連れて帰ってきたと殊児に聞いて、会いに来たんだ」

「まさか、あなたがまっすぐここに―― 記憶の長廊に行くとは思わなかったよ……」


孟婆湯

「すまない、母上。挨拶をせずに悪かった」


孟婆

「それで、何があった?」


孟婆湯

「……」

「昨晩、曼が孟婆湯を飲んでしまった。そして私に関することをすべて忘れてしまったんだ」


孟婆

「ふむふむ、それで悩んでいたのか?」


孟婆湯

「母上。何故……そんなに嬉しそうなんだ?」


孟婆

「情ちゃんが、そんなに焦っている様子を見たのは初めてだ」

「あなたたちの日々を、彼だけが忘れたことが受け入れがたいのだな。だったら、貴方も孟婆湯を飲んで、彼と一緒に忘れればいい」


孟婆湯

「私は……私は、忘れたくはない」


孟婆

「忘れたくない? まさか、そんなセリフが貴方の口から出るとは」

「だったら貴方は……このあと苦しみ続けることになる」


孟婆湯

「その苦しみこそが、私が○○とのすべてを見届けた証だ」

「もし彼の記憶が見つからないなら、私は…… 私たちのことをずっと彼に語り続ける。彼が思い出す時まで」

「彼が忘れたことを、私が覚えていよう」


孟婆

「どうやら、あなたはもう幽冥司の皆に、『無情無欲』と呼ばれていた無情じゃなくなったようだ」

「情ちゃん、私はさっき空桑の若と会った。彼は記憶を失ってなかった。貴方は焦りすぎて、彼の記憶が見えなかったのか?」


孟婆湯

「ならば、どうして彼は私に関することが思い出せないのだ……彼は――」


静寂に包まれた記憶の長廊に、突然大きな物音が響いた――


孟婆湯

「○○、どうして君が?」

「一人でここまで来たのか? ん? ちょっと待てよ……」

「何故……お前は道がわかった?」


【選択肢】

・無情様、どうかお許しください!

・も、孟婆様、助けてください……

選択肢

無情様、どうかお許しください!

孟婆湯

「……正直に話せば、罰を軽くしても良い……」

も、孟婆様、助けてください……

孟婆

「ああ、急に思い出した。私は閻魔と約束があるんだ」


孟婆湯

「母上、お気をつけて」

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孟婆が出ていくと、記憶の長廊にふたりだけ残される。


孟婆湯

「君が本当に、忘れてしまったと思った……」

「こんなに心が搔き乱されたのは初めてだ……」

「この感情は、どう言葉にしたらいいのか……」

「焦り、冷静さを失い、不安に苛まれ……何もできない」

「これは、今まで私が味わったことのない感情だ」

「先ほど母上は、いっそ私も君のことを忘れて、二人で出会からやり直せばいいと言った」

「そのとき、私は初めて気づいた。『君のことを忘れたくない』ということに。」

「たとえ覚えているのが私だけだとしても、たとえそのことに苦しめられたとしても……」

「それでも、私は忘れたくないと思ったのだ」

「フッ。こんなことを言えば皆に笑われるだろう。そんなこと、自分でもわかっている」

「人を変える力……○○、それが君の特別なところだと思う」

「用事はなくなったな。空桑に戻ろう」

「勿論……一緒にだ。私は、君を見張り続けなくてはならない。君がきちんと鬼使いの役目を果たしているかどうかを、な……」


二人は振り向いて、共に光の中へと歩いていく。

そんな中、二、三回の会話を交わす。そのときの無情は、かつての冷静な孟婆荘の若荘主に戻ったように映った――

まっ赤になったその両耳以外は。


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