月見団子・エピソード
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月見団子のエピソード
儒雅で優しい青年はいつもすべての人のことを考えているようで、自分は戦う力がないと自称していますが、口もとの笑顔は彼がそんなに簡単ではないと感じられます。
Ⅰ.旦那
「どけ!」
「ボス、全身ケガだらけじゃないですか!あーらら!」
「どけ!!!ムカつく!!」
外の騒がしい声は馴染み深く血相を変えたような声でした。
私の心の中に表現しようのない気持ちが沸き上がりました。
「またどうされたんですか?」
廊下に出たら、案の定怪我だらけの明太子を見つけました。私は手を伸ばして、彼の顔の傷を容赦なく突きました。
「また、タコわさびと喧嘩したんですか?」
「うっ――痛い痛い!壺の中に潜るしか能がないクズバカアホ!今度は絶対自分の壺がどこにあるか分かんないぐらい殴ってやる!うっ、痛いって!!」
「痛いのが分かるならもう喧嘩なんか売りに行かないでください。毎回共倒れして帰ってくるんですから」
目の前にいる、背は大きくないが、一際乱暴な男のおかげでため息が出てしまいました。
彼は明太子、私と同じ食霊です。
桜の島の夜がますます長くなっていき、食霊たちも自分たちの力が貪欲な人間たちを遥かに超えていることを認識するようになり、段々と、この桜が満開している土地は人間たちだけの物ではなくなっていきました。
食霊たちは各々仲間を誘っては勢力を結集し、この土地の夜を分け取りました。
私たちの人間と異なる外見と超越した力は、人間の心に恐怖を与えました。
『同族で無ければ、その心は必ず異なる』
これは光耀大陸から伝わった古書に書かれていた言葉です。
やはり……どこにいても、人間は強い力のある生き物の存在を許容できないのですね。
ここでは、私たちは人間から「妖怪」と呼ばれています。
夜に、桜の下に集まってお酒を嗜むだけでも、彼らにとっては恐ろしい噂になりえます。
――逢魔が時、百鬼夜行。
戦争が終わってから、戦争で大きな力を発揮した食霊は、辺境の小さな町に分散されたり、御侍が拘留され軟禁されたりしました。
混乱の最中、私は駐屯していた町を離れました。
その後、私は善悪が共存している歌舞伎町に住みつきました。そしてその時、目の前にいるこのドタバタとした男が私の前に来ました。
「おい!お前、見た感じ結構強い奴か!オレと勝負しろ!もしオレが勝ったら、お前はオレの子分になれ!」
「良いですよ、貴方についていきましょう」
「明日夜の百鬼夜行の時に戦お……えっ!?えっ!!!!?戦わなくて良いのかっ!!?」
「大丈夫です。私は戦向きの食霊ではないので、貴方を倒せない」
「ははははは!気持ちがいい!お前気に入ったぞ!今日から!オレがお前を守ってやる!ははははは!」
計画より少し早いですが、やってきたチャンスをみすみす逃すわけにはいきません。
Ⅱ.計画
全ては我が計算の通りだ。
ただ、元々サポートするのはもっと大人しい、決断力がもっと高い人のはず……
うむ……目の前の枕を抱えながら枕を噛んでいる子どもっぽい人、やはりどこか間違ったか。
仕様がない、私は枕を引いて彼の頬を揉む。
「明太子さん」
「ボスと言ってくれ!」
「はいはい、ボス、また武器を買う軍資金で缶を買ったんですか?」
「フフン、今回はなあでかい壺を買った、そして職人たちに内部の仕掛けを頼んだ!タコわさびは絶対逃げられない!あっ――!」
ひとしきり肉体説教した後。
私の前に土下座している明太子は頭を揉みながらぶつくさと文句を言う。
彼の渋々な様子を見る私は、皺を寄せる。
「まあ、今回限りは許してあげます。」
後ろの握りこぶしを作って誓う奴はどうでもいい。今は軍資金不足の問題を解決しなければならない。
あの人に金を借りるのか……
――あの人の揶揄の笑顔を思い出す時に、さっき明太子を絞めた手が少し痒くなった。
――まあいい、あとでもう一回明太子を絞めよう。
大吟醸の店に行こうと思うが、短い昼に乗じて外に行く人類たちは私を見つけた。
「おや!月見さん!お宅の子は本当に餓鬼大将だよ!前回あの子が喧嘩した時、うちの店の看板が取り壊された」
「月見兄ちゃん!明太子は花子のはごをひったくった!」
「月見、僕は従妹がいる……ほら……もうすぐ二十歳になるから……彼女も月見のことが気になるから……」
私は苛立つ気持ちを抑えて、この人たちに丁寧に返事して別れた。
やっと大吟醸の店に来た。この時まだ眠たい彼は私を追い立てるかもしれない。
店の扉を軽く叩いた。
だいぶ経った後、一つの冷たい声が響いた。
「まだ準備中ですから、後でお願いします」
「月見団子と申します」
長い間向こうは何も返事をしなかった。そして私は通りすがりの人たちに気づかれて、昼にそんな場所に遊びにきたなどと非難された頃、扉はやっと開かれた。
「応接間へ」
鯖の一夜干しは相変わらず私に冷たい態度で接する。
私はあまり気にせずに直接に応接間に行く。
応接間にいる大吟醸は相変わらずだらしない姿をしている。彼はだらだらと鯖の一夜干しに寄り掛かっている。
「あら、今日はずいぶん早いな~もしかしてあちきのことを思ってたのか?」
Ⅲ.協力
完璧に大吟醸が吐き出した煙を避けるのは簡単なことではない。彼は私を見ながら、恣意的な笑いをする。
少し悪いけど、認めざるを得ない。
この伊達姿、人類が彼に一目惚れしたのは当然のことだ。
彼も私の視線を受け入れているので、私を気にすることなく、ただ鯖の一夜干しに寄り掛かり、好奇の目で私を見る。
「まさか本当にあちきを見にきたのか?これはこれは、大変光栄なことだ。鯖、ちょっと酒とつまみを持ってきなんし。ちゃんと月見を招待しなければならないな」
鯖の一夜干しの顔が少し不機嫌になったが、また大吟醸の指示に従う。彼は警告する目で私を睨み付けると内室に行く。
私は彼に優しい笑顔を見せた。しかしこの他の人にとって完璧な営業用笑顔はこの「人魚」に効かない。
私と鯖の一夜干しの動きを見た大吟醸は机にうつ伏せになって笑った。彼はお茶を私の前に出して、尋ねる。
「ぬしはいつも彼をじゃらすから、あいつはずっと、ぬしは好ましい者じゃない、気をつけなければならぬと言う」
「大吟醸さまも彼をじゃらしたことがあるでしょう、まあ彼の話もあながち間違いではありません」
酒のかわりに私と大吟醸はお茶を飲む。
「って、わざわざ『極楽』に足を運んだ理由は何だい?あちきの睡眠時間は大切なものだ。よく眠れないと肌が荒れてこのきれいな顔も光を失う」
駄々をこねるような彼の口振りに、私は一瞬なんと言おうかわからず、酒杯の中の茶を飲む。
「今回は、お金のためでございます。」
「ぷっと、またあのチビのため?月見よ、本当に彼奴に尽くしてるんだな……あちきの金は安いものじゃない……」
最後のからかいを無視した私は、言葉の中に警告を感じ取り、目を擦る。
「計画を忘れること決してございません。ただしこいつは不確定要素からもっと注意すべきです」
「月見、知っているか……ぬしがあのチビに対する関心と包容は、あちきがぬしに対する認知を超えた。本当に……彼の影響を受けなかったか?」
「……」
「やりたくなければ、鯖に手伝いに行かせようか?安心しなんし。あちきが彼奴の痕跡を跡形もなく消そう」
「その必要はございません。彼のような存在は他の人に警戒心を緩めさせる最も良い手段でございます」
大吟醸は何かを考えているような真面目な表情をするため、私は珍しく少しいらいらした。雰囲気がますます重くなった時、彼は急に笑ってしまった。
「ふふ――ハハハハハ!この顔、やっぱりぬしはあのチビのことを心配している!」
大吟醸の笑い声とともに、鯖の一夜干しもつまみと酒を持って戻った。
「ほらほら、そんなに緊張しないでくんなまし。お供して一杯飲みましょう~酒がなくなったら鯖と一緒に物置に取ってきなんし」
大吟醸は自分で笑う涙を拭き、私に向かって酒杯を挙げた。
「さあ、あちきの盟友よ」
Ⅳ.月
桜の島の夜は早い。さっきまでまだ明るかった風景は、すぐ暗い闇を浴びる。
しかしこの夜空にはあの優しい月がいない。
酒杯の中も、月の模様を映さない。
大吟醸は私を送り出した。彼は扉の枠にもたれて頭を横にして、真っ暗な空を眺めていました。
「ぬしも彼女に会いたいだろう」
「ええ」
「その日は遠くない」
まだ返事がないうちに、いつも明太子のそばにいる奴があたふたと走ってきた。
「月見さん、た、大変だ!」
「ん?」
「旦那がまたタコわさびと喧嘩した!」
「……喧嘩しなかった日があります?」
「いいえいいえ!今回は本当に死ぬほどやっただ!お願い、早く様子を見に行こう!!!」
「やれやれ……大吟醸様、では失礼」
大吟醸と別れた後、私は突然の客と一緒に「極楽」を出る。
私は深手を負った明太子を自分の住所に運んで戻って、丁寧に彼の怪我を治療する。
「どういうことです?普段からずっと喧嘩してますけど、まだ手加減してますよね。今日は一体どういうことです?」
「あのクズ、人類が滅びても構わないと言った!確かに悪い奴ばかりだが……」
「……人類が大切だと思いますか?」
「いいや、やつらが俺たちの争いに巻き込まれることが嫌いなだけだ。フン!弱者を虐めるのは俺のような強者がするべきことじゃねえ!クソ――優しくしろ!」
残された包帯と薬を片付けると、私は窓際に戻った。
外の景色は月がいた時と同じ、何も変わらない。桜の花びらは風とともに、この夜空で舞っている、川の辺に無数の蛍が光っている。
美しいものはまだ美しい。
後ろにいる明太子は私の向かいに座ると、私と同様に空を仰ぎ見る。
「月見、お前の『月見団子』はあの月のため作られたものらしい。でも時間がずいぶん長いから、俺は彼女の姿を忘れてしまった。一体どんな様子だろうな」
「……そうですねずいぶん長い、私も……」
「あのさ、月のことが好き?」
「ええ、好きです。彼女に会うためなら、代償はどんなことでも構わない」
「そうか、ならば俺はなんとかしてお前をもう一度彼女に会わせる!」
「旦那……」
「へへ、月見には色々世話になってるから、お礼をしなければならないな。大丈夫、月のことは俺に任せろ!絶対に彼女に会わせると誓う!」
「……はい!ありがとうございます。」
私は明太子の真面目な表情を見ていると、はっとした。
できる限り、このことには手を出さないでほしい。
最初から私たちの道は異なるものだ。
いくつの代償でも、どんな犠牲でも、必ずあの月に会う。
Ⅴ.月見団子
「崇月」のリーダーは明太子と呼ばれる身長が低い人物だ。
そして二番目は大人しい御曹司みたいな人物だ。
明太子が怪我したり、他の人と衝突したりする度に、彼を治療してあげたり、その後片付けも彼だ。
月見団子がいなければ「崇月」は強い組織にならないと言っても過言ではない。
激情的な明太子に対し不満を持つメンバーは、月見団子に、代わりにリーダーに、と推薦の意思を表したことがある。しかし月見団子はそんな彼らをびしびし叱り付けた。
だから真実を知らない人間たちは、月見団子はあの変人たちに最も優しい人と思う。
こんな和気藹藹とした月見団子は、鯖の一夜干しに警戒されている。
純米大吟醸の後ろにいる鯖の一夜干しは色々な者に出会ったが、月見団子だけ彼にこんな不安を抱かせた。
鯖の一夜干しは月見団子の暗殺を試みた。でも結果は当てが外れ、この戦闘力が低いと自称する男に対する攻撃は全て無駄になった。
月見団子と純米大吟醸の関係について、真実を知らない人類たちの間ではいつでも汚い噂が流れている。
一人は大人しい紳士、もう一人は艶かしい花魁。
身元の共通点がない二人はまさか出会った。
「月見、明太子と組織の他のメンバーをこの計画に巻き込んでも大丈夫か?」
純米大吟醸は気無精に往来の人を見ながら、後ろの月見団子に聞く。
「鯖ちゃんも同じでしょう」
「違うぞ。あちきがどんなことをやっても彼は後悔せずあちきのそばにいる」
「時たま、お二人の関係が羨ましいと思いますね」
純米大吟醸は首を傾げて、自分に酒をゆっくり注ぐ月見団子を見ながら少し真面目に返事する。
「ぬしには譲らないぞ」
月見団子は苦笑いをしながら、酒を飲む。
「はいはい」
マッチが擦られ、白い煙は純米大吟醸の唇から出て、彼自身を囲んだ。
純米大吟醸の様子を見る月見団子は、理由は知らないが、脳内に「綺麗」と言う言葉が浮かんだ。
目の前の男に対して「妖しい」で形容すればちょっと俗気。「奥ゆかしい」「華麗」も合わない。「綺麗」は最も相応しい。
純米大吟醸はこっそりと、ぼーっとしている月見団子の隣に行って、彼の眉宙を軽くデコピンする。
「あちきは全ての人の心が読めるが、ぬしの心だけ何を漏らすと気がする。一体何を求めるか?教えなさいよ。あちきはぬしの望みを叶えようぞ……」
この色気混じりの声は強い誘惑を起こす。月見団子は純米大吟醸の動いている指先を握って、純米大吟醸に恍惚の笑みをさせる。
この微笑みは、かつて見た月と同じく、冷たく優しい。
「私が求めるのは、いつかもう一度あの月を抱きしめること」
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