イースターエッグ・エピソード
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目次 (イースターエッグ・エピソード)
イースターエッグのエピソード
内気なため、自分のエッグの中に隠れるのが好き。自分の得意分野に関しては譲らない。
メカニックとして普段はみんなの武器の修理、調整を担当している。更には幻晶石または霊力で駆動するメカを作れる。イースターエッグ自身の戦闘力はあまり高くないが、彼のメカは高い戦闘力を誇る。
Ⅰ .笑顔の温度
僕の御侍さんは凄いですよ!
国で一番の職人です!
彼は年を召しているけれど、彼の腕は各地に知れ渡っているんです。
僕らの町の住民全員、彼を敬っているけれど、彼は一度たりともそれを鼻に掛けた事はない。
お隣さんの針の折れた時計も、複雑な機械も、彼の手にかかれば、全部完璧に元通りになるんです。
彼は精巧なおもちゃを作るのも得意です。これが、町の子供たちに大人気。
彼にとって、子供たちの笑顔こそ最高の報酬なんだそう。
各地から多くの人が、彼の技術を学びにやってくる。その人たちに対しても、彼は包み隠さず全部を教えてあげます。
そして、彼にはとても優秀な弟子が二人います。二人とも彼の元から巣立ち、一人は有名な飛行船のデザイナーになり、もう一人も有名な職人になりました。
彼はいつも二人の事を誇りに思っています。
僕もいつか彼が誇れるような存在になりたい。
御侍さんは誰に対しても、温かな笑顔を浮かべる。
「御侍さん、どうしていつも笑っているんですか?」
彼は自分のひげを触りながら笑った。
「エッグよ、君は他の人の笑顔を見たら、どんな気持ちになるんだい?」
「そうですね…嬉しいです!そして温かい気持ちになります!」
「その通りだ!毎日楽しく過ごしたいのなら、まずは周りの人を喜ばせるんだ。そして、他の人を喜ばせる最も簡単な方法は、笑顔を見せる事だ、分かったかい?」
「はいっ!」
精密なカラクリの制作を御侍さんに依頼する人も多く、彼は丁寧に制作したあと、何かしらの面白い機能を加える事もあるんです。
「じいさん!おっ、俺の目覚まし時計に何をしたんだ!今日、こいつ自分で梁に上って、俺の体に落ちてきたんだけど!」
「ほっほっほ、エリちゃんから君がいつも寝坊して遅刻すると聞いたのでな。この特別な目覚まし時計があれば、もう寝坊は出来ないだろう、ほっほっほ」
みんな、この髪を直す暇もなく飛び込んできた青年を取り囲んで、温かい目で見守って笑った。その青年も自分の頭を触りながら、なんだか恥ずかしそうに笑い出した。
みんなの笑顔に取り囲まれて、冬なのに暖かさを感じた。
僕は絶対御侍さんのような人になる。
僕も必ず周りの人に、温かな笑顔をもたらす事が出来る人になる。
Ⅱ .師弟の約束
またクリスマスがやってきた、御侍さんの弟子たちはいつもこの日に集まってくる。
これは彼ら師弟が交わした約束だ。
例えまだ一人前になっていなくても、例えどこにいたとしても、みんな同じ気持ちで繋がっている。
「ほーら、ウサギちゃんよぉ!コイツに帽子を持って来てやれ!歌う帽子をなっ!ガハハハハッ!」
「シッシッ、この野郎、エッグを苛めるんじゃない」
「ガハハッ、フワフワして面白いからよぉ!」
御侍さんは手近にあったコップを目の前の弟子に投げつけた。投げられた男はちっとも怒っていない、笑いながら隣で一言も発さない人に抱き着いた。
この二人こそ彼の自慢の弟子たちだと、御侍さんは教えてくれた。
笑い上戸な方は奇才だ。類まれな才能を持っているがわ変わった性格の持ち主で子どものような人だった。
もう一人は冷淡な性格だ。飛行船の有名なデザイナーで、彼の隣にはボーっとしている食霊がいた。
「二人とも食霊がいるのによぉ!俺だけいないっ!」
「はいはい大人しくしろ。幻晶石をやるから、もしかしたら召喚出来るかも知れんのお」
御侍さんの厳しい顔は数秒ももたなかった、弟子たちに囲まれているからかすぐに満面の笑みに変わった。
御侍さんは楽しすぎて飲みすぎたようだ。冷淡な方の弟子は自分の食霊にもう一人の酔っ払いを担がせていた。ぼくは御侍さんのかわりに二人を外まで見送った。
「ヒクッ!ウサギちゃあん、ヘヘッ!ちゃんと爺さんの面倒を見ろよぉ!ヒクッ!爺さんは、お前に任せたぜ!」
「はいっ!ぼく、頑張ります!」
「じゃあまたなっ!」
「さようなら!」
去って行く彼らの後ろ姿を見つめながら、ぼくは少し落ち込んだ。
御侍さんの弟子にも食霊がいるって聞いて、友だちになれるんじゃないかと、とても楽しみにしていたのに。
まさか彼と彼の御侍さん、二人ともちょっと冷淡なひとだとは思わなかった。きちんと挨拶することが出来なくて、チャンスを逃してしまった……
ぼくは自分の頬を両手で強く叩いて、拳を握りしめて自分を奮い立たせた。
「イースターエッグ!今度こそ、絶対に彼と友達になろう!」
Ⅲ .善と悪
クリスマスが終わると冬もすぐ過ぎ去って行った、街路樹にはもう薄緑色の芽が生えてきた。
気温も少しずつあったかくなってきた。
ぼくはエッグに乗って屋根の上の雪を掃除してから、ポストに届いた新聞を持って部屋に戻った。
御侍さんは新聞を読んで、珍しく険しい顔をしていた。
彼はぼくが淹れたコーヒーを一口飲むと、次の瞬間噴き出してしまった。
「エッグ、何を入れたんだ?!」
彼のリアクションを見て、ぼくは持っていたレシピを見直した。
「レシピの通り、全部入れましたよ!グラム単位まで正確に!」
「……エッグよ、何かを作る時は心を込めないといかん。ただ設計図通りに作ってもダメだ、食べ物もそうさ。ゴホッ、ところで本当に何グラムのシュガーを入れたんだ?」
「レシピに少々って書いてありましたので、ぼくは……うぅ……少々?」
ぼくは自信なさげに後頭部をかいた。御侍さんはそんなぼくを見て一つため息をついてから、ぼくの頭を撫でた。
「エッグよ、料理も、機械作りも、時計修理も、何もかも全て自分の心を込めなければならん。設計図やレシピが作品に与えるのは形だけだ、真に作品に魂を込めるのは、君の心なんだよ」
「わかり……ました……」
「そうだなぁ……エッグよ、自分の考えをもって、自分で選択出来るようにならないと」
「……はい、わかりました」
一息ついて、ぼくはさっき御侍さんが険しい表情をしていたことを思い出した。
「御侍さん、さっきはどうしたんですか?」
「あぁ、少し前にお金のない人々を助けていた義賊がいたことは覚えているか?」
「はい!」
「彼らが捕まったのだ」
彼らは噂のヒーローだった。
ぼくたちの国の年老いた国王は、既に国全体を管轄する気力がなくなっていた。そこで、彼は国を多くの領地に分けた。
どの領地にも領主がいる。
一部の領主は守銭奴ではあるけど、悪いことをしたりはしない。
だけど、やはり悪い領主というのはいるもので……
噂によると、とある義賊たちが自分たちの素早い身のこなしや変わった技を使って、悪い領主たちが民から吸い上げたお金を奪って、貧しい人々に配っているという。
彼らはまるで貧しい人々の心の中に射す一筋の光のようだった。
だけど今、この光は捕まってしまった。
御侍さんはしおれていた。
新聞を読みながら、一晩中ため息をついた。
「善悪というのは、権勢のある者によって決められるものなのか?」
このような憂鬱な日々は意外にもそう長くは続かなかった。
今日も、ぼくはいつものように御侍さんのために新聞を取りに行った。
御侍さんがこんなに気持ちよく笑っているところを見たことがなかったし、笑いすぎて腰も立たなくなっていた。彼は目尻に浮かぶ涙を拭って、しばらくしてからようやくいつもの笑顔に戻った。
「やはり、機会というのは人間に楽しさをもたらすものだな!」
御侍さんの言葉の意味がわからなかった。だけど次の瞬間、彼はぼくに部屋に戻るよう催促し始めた。
「早く荷造りをしなければなっ!」
Ⅳ. 選択
御侍さんに催促されて急いで荷造りを終えたぼくたちは、夜のうちに住んでいた国を出た。
ぼくたちはずっと歩いて、国境すらも越えた。その道中で、御侍さんの笑い上戸の弟子が捕まった話を聞いた。
ぼくは心配していたけれど、御侍さんは何か思うことがあるのか、あごを触っていた。
「御侍さん、彼は……大丈夫でしょうか?」
「彼を信じているよ、私の弟子だからなぁ!」
ぼくは自信満々な御侍さんの笑顔を見て、頷いた。
ぼくたちは別の国の比較的裕福な町に辿り着いた。御侍さんの素晴らしい腕によって、小さな店をオープンしてすぐに居場所が出来た。作ったおもちゃを売って、お客さんの物を修理することを生業にした。
「御侍さん、どうしてぼくたちは国を出なきゃいけなかったんですか?」
「あいつは偽物の体に自分の名前を刻んだ。もしあいつに見つけられなかったら、きっとかわりに私たちが面倒に巻き込まれていただろう」
ぼくはその言葉に頷いてから、自分のエッグに新しい機能を付けようと真剣に作業を始めた。
「チリンーー」
「はいっ!いらっしゃいませ!何かお探し……あっ!無事だったんですね!良かったです!」
「ガハハハッ!ウサギちゃんよぉ!また会えたなっ!」
ぼくはこの町が大好き。
この平穏な町は、大きな都市と違って劇は観れないし祭りもない。そして、商品も物が揃ってない。
だけど見尽くせない程の風景があるし、親切な友人たちがいる。
いつもぼくのことを「ウサギちゃん」と呼ぶあの人も近く町に住んでいる。彼は好きな女の子が出来て少し落ち着いたみたいだ。
御侍さんはその様子を見て安心していた。
ぼくたちの小さな店も、御侍さんの経営によってますます有名になっていった。
何かが壊れると町の人たちはすぐにぼくたちを頼ってくる、御侍さんは新しい弟子もとった。
クロワッサンさまがぼくの所に来なければ、ぼくはきっとずっとこのまま生活していただろう。
いつの日からか、郊外でより多くの堕神が出現するようになった。御侍さんが改良してくれたエッグがあるから、そこまで処理に困ったことはなかった。
だけど、怪物の出現頻度は前と比べるととても高くなっていた。
前までは、法王庁が定期的に強い食霊を派遣してぼくの町の堕神や、近くの食霊のいない町を牛耳る強い堕神のボスを退治してくれていた。
けれど、もう長い間来てくれていない。町の人から、法王庁で何か事件が起こったと聞いた。
増え続けていく堕神に不安が募る。
不安がピークに達した時、クロワッサンさまがぼくの前に現れた。
白い馬車がぼくたちの店の前に止まった。堕神の脅威に怯えていた町の人たちは、馬車に飾られた法王庁と紋章を見てホッとした。
クロワッサンさまは町の人たちの好奇の視線を気にすることなく、ぼくたちの店に入って来た。
彼は壁際に置かれたぼくのエッグを見て驚いた。
「……食霊と共に誕生した武器の形態を改良出来る者を見たことがありません。彼らの見間違いかと思っていましたが、まさか本当だったとは」
ぼくは怪訝そうに彼を見つめた。
「物体その物に対する認識を改めることが出来れば、ぼくたちと共に生まれた武器の形態ももちろんぼくたちの認識に伴い修正することが出来ますよ」
クロワッサンさまは冷淡そうに見えるが、彼の視線からは優しさが感じ取れた。
「自分の力を使って、より多くの人を守りたくはないですか?」
ぼくに差し出して来た手を見てから、躊躇いながら振り返って御侍さんの方を見た。
御侍さんはぼくの頭を撫でて、微笑みながら言った。
「エッグよ、それは自分で決めなさい。君は正しい選択が出来ると信じているよ。私は君の選択を応援する」
ぼくは御侍さんの優しい笑顔を見て、真剣に頷いた。
今度こそ、ぼくは自分で正しい選択をするんだ。
Ⅴ. イースターエッグ
「フィッシュアンドチップス、止まりなさい!また病床で物を食べましたね!!!」
法王庁の医務室からヴァイスヴルストの怒号が飛んで来た。部屋から飛び出したフィッシュアンドチップスは、自分の背丈よりも高い箱を運んでいたイースターエッグにぶつかってしまい、部品が床一面に散らばった。
通りすがりのキャンディケインはイースターエッグに駆け寄り、共に部品をかき集めた。この惨事を引き起こした張本人はというと、急いでイースターエッグを盾にし、彼の背後に隠れた。
イースターエッグは飛んで来たメスをギリギリのところで躱し、一つ身震いをした。
「フィッシュアンドチップスーー!!!」
「あっ、あの……フィッシュアンドチップス……」
「イースターエッグどきなさい!あなたは無関係なのですから!」
「うわあああーーウサギちゃん助けて!先生に殺されてしまいます!!!」
騒がしくて平和なこの生活を、イースターエッグは気に入っていた。
穏やかで、のどやか。
こんなに平穏だから、忙しい筈の皆は法王庁本部に集まっている。
こんなに平穏だから、いつも傷だらけの仲間で埋まっている医務室は空いている。
医務室を汚されて怒っていたヴァイスヴルストをなだめて、イースターエッグはやっとホッと一息をついた。キャンディケインとフィッシュアンドチップスの助けのもと、散らばった部品たちを集め自分の実験室へと運んだ。
キャンディケインはイースターエッグの傍に座り、彼女のステッキが磨かれ綺麗になっていく様子を真剣に眺めていた。彼は最後にリボンを綺麗に結んであげた。
「わぁ、綺麗!イースターエッグありがとう!クロワッサンさまに見せて来ます!」
キャンディケインは自分のステッキを受け取ると、背伸びをしてイースターエッグの頬に感謝のキスを贈った。そして、スキップしながら彼の実験室を後にした。
イースターエッグは自分の頬を手で包んで目を見開いた。キャンディケインの後ろ姿が見えなくなってしばらくしてからようやく我に返ることが出来た。
実はその一連を横でずっと見ていたフィッシュアンドチップスは眉を上げ、笑いながら肘でイースターエッグをつついた。
「おいっ!見惚れたのか?ヘヘッ、キャンディケインは可愛いでしょう!」
「い、いえそんなっ!」
「はははっ、大丈夫ですよ!みんな彼女のことが可愛くて仕方がないんですから!ポーカーフェイスなクロワッサンでさえ、彼女の前では表情が崩れてしまいますからね」
「……いえ……ぼくはただ……その……」
「ははははっ、もういじめたりしないですよ!俺の剣のメンテナンスは順調ですか?」
「あっ!もう終わってます!今取ってきますね!」
夜、空には満天の星が輝いていた。風に吹かれて動く雲を見て、涼しい夜風を浴びながらイースターエッグは目を閉じた。
フィッシュアンドチップスは隣から彼の肩を叩いた。
イースターエッグの御侍は驚くほど長生きをした。クロワッサンの手配のもと、ヴァイスヴルストの丁寧な世話もあって、ずっと健やかに過ごしていた。
彼は病気を患うことなく、弟子たちが見守る中、愛したこの世から去った。
法王庁はとても良い場所だった。クロワッサンは法王庁の庇護下にある全ての地区に食霊を派遣し、パトロールさせている。
イースターエッグは一か所に長く留まることは出来なかったが、料理御侍がいない地区の助けになっていた。
彼は信じている。彼のこの選択は、きっとより多くのひとにあたたかな笑顔をもたらすことが出来ると。
そんな日がやってきて、もし彼の御侍が再び彼の前に現れたとしたら、きっと安心した笑顔を見せてくれるだろう。
「イースターエッグ?また御侍のことを考えているのですか?」
「はい……フィッシュアンドチップスは、御侍さんのことを想ったりしませんか?」
「もちろん想いますよ!そして想えば想うほど、彼らが愛したこの世界を彼らの代わりに守らなければという気持ちになります!いつか彼らが再びこの世界にやって来た時、この世界は今よりも美しい世界になっていて欲しいです!」
「はいっ!きっとそうなりますよ!」
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