バクテー・エピソード
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バクテーのエピソード
光耀大陸で生まれたが、海を越えて南方に渡った食霊。様々な経験を積み、どんな過酷な環境にも耐えられるような漢となった。
Ⅰ.帰郷
帆がバタバタと音を立て、目の前の港はどんどん近づいてきていた。遠くには連綿と続く翡翠色の三っていう欲が見えた。
船のマストに寄りかかっていた身体は、少しこわばっていた。
「何をぼーっとしている?港に着いたぞ、早く降りよう」
肩を叩かれ、気づけばラム酒が目の前にいた。
深秋早朝の冷たい風に吹かれて、少し目が醒めたようだ。
手荷物を確認して、船員たちと共に下船する事に。
三十年間海で漂流して、ようやくこの土地に帰ってきた。俺が初めて召喚された地ーー光耀大陸。
思いのほかはっきりとした記憶を頼りに、埠頭を通り抜けた。少し歩いた先にある、高い丘に辿り着く。
様変わりしているだろうと覚悟していたが、荒廃した土地を前にするとどうしても感傷に陥ってしまう。
小さな家が脳裏に浮かぶ。南側の窓を見ると紺碧の海を臨めた事や、時々埠頭から轟く汽笛の音も届いた事等、様々な記憶が蘇ってくる。
黄色に枯れている柳の木たちを見ていると、どうしても目頭が熱くなって、目が潤んだ。しばらく立ち尽くすことしか出来なかった。
場所を選んで、抱えていた箱を優しく拭いてから土の中に埋めた。
終わった後に、立ち上がって礼をした。
離れようとした時、初めてラム酒がいつの間にか近くに立っていた事に気付く。
「もう少しいれば良いものの」
「もう十分だ」
ラム酒はそれ以上何も言わなかった。俺の気持ちを汲んでくれたのか、黙ったまま埠頭まで戻ってきた。
「肉骨茶、お前は今後どうするつもりだ?」
「あの時あなたが海賊団に入れてくれたんだ、中途半端に辞めることはしませんよ。しかも今は行く当てもないですし、残って若いもんの手伝いをするのも悪くない」
「そうか。もし構わないのなら、この町を案内してくれないか?」
Ⅱ.海への憧れ
三十年前の光耀大陸
「……そして空は晴れ、青いクジラ数頭が俺らの船についてきた。広いサンゴ礁地帯を抜けた後……」
「それで!それで!」
「何を見たの!?サメは見た!?」
「きっと大きい氷山だよ!」
子供達が幼い声を上げて騒いでいる中、男は話すのをやめた。
「明日続きを話してやろう。今日はもう遅い、二人とももう寝なさい。バクテーも早く休みなさい」
子供達のガッカリした声に思わず吹き出してしまいそうになった。彼らは離れがたそうに部屋を出る前、自分達の父親にいつ海に連れて行ってくれるのか尋ねた。
男は大きな笑い声を上げ、子供達の頭を撫でながら言った。
「時期が来たら、二人を連れて海に出るさ」
子供達の代わりにドアを閉めた。ドアに飾ってある舵輪が揺れていた。まるで愉快な航海を語っているよう。
俺は光耀大陸の船乗り一家に召喚された。父親は経験豊富な船乗り。俺の御侍はこの家の末の息子で、まだ十三歳だった。
この一家は海に憧れが強く、俺はいつも窓際に座り、子供達と共に父親から若い頃の経験を聞いていた。
波に打たれるサンゴ礁、夕日が沈む水平線、サメの凶暴な歯、そして絶海皇女の魅惑的で命を刈り取るような歌声……
俺たちは聞き入った、耳元にはなんだかもうウミドリの鳴き声が響いているようだった。この時から、俺の海への憧れも呼び覚まされた。
二年後、俺達四人はやっと父親が長年連れ添ってきた商船に乗り込む事が出来た。興奮と緊張を携え、陸に別れを告げ、紺碧の彼方に向かって出航した。
時間が過ぎるのは早かった。気付けば俺達の船隊はティアラの半分以上を航海していた。子供達も立派な青年に成長し、その上商隊の主力になっていた。
俺も海での生活に慣れ、波に乗る気持ち良さを享受していた。
俺達の船隊は同行の商船の中でも抜きんでていて、海の世界でも名がしれるようになっていた。商談と依頼もひっきりなしに舞い込んできた。
この日、御侍はパラータの貴族の依頼を受け、久遠海域の奥にある神秘的な小島に行く事になった。
聞く話によると、その島の下には海底城の遺跡があり、公爵は俺達にそこから目面強い財宝を持って帰って欲しいそうだ。持ち帰った暁には、俺達に豪華な報酬の他、補給と船を支給して下さると言ってくれた。
Ⅲ.財宝伝説
海の財宝伝説は人を惹きつける魔力がある。
特に貪欲な権力者や冒険者など。
今流行りの伝説は久遠海域から届いて来た。
伝説では、とある船隊が海域の奥深くで彷徨っていた時、小さな島の下に沈む海底城を発見したと。広大で光を放っており、保存状態も良く、財宝の数も数えきれないという。
しかし、島の周囲には獰猛な海獣が眠っていて、堕神出没しているという。船隊は深入りしていないにもかかわらず、猛獣達の襲撃に遭い、大半の人員が犠牲となったそうだ。
海は永遠に冒険者に事欠かず、今でもまだ誰も財宝を持ち出す事に成功していない。
俺達の船隊は地図の示す地に向かって二日二晩進んだ。重い霧を抜けた時、遂に伝説の島が見えた。
島周辺の海上にはガラクタや布が浮いていた。棲みついている海獣が、先ほど暴れたばかりのようだった。今は眠りについているが、依然と危険な雰囲気が広がり、この航海の危険性を訴えて来た。
俺達の船隊は数が多いため、一席だけ偵察に向かわせる事に決めた。俺は船隊の数少ない食霊として、自然と前衛に打って出た。
俺達の船は注意深く島の後方に回った。幸いにも、後方に行くに連れて海獣の気配は薄くなっていた。突破口としては申し分なかった。
俺は慎重に安全そうな場所を選び、船員に船を潜らせるように指示した。すると船は潜水艦のような姿に変形した。
あれは一生忘れられない光景だった。
広大で壮観な海底城。大迫力なそれはまるで海底の奇跡。深く沈んでいる宮殿と玉座。真珠貝で築かれた城壁。会場から僅かにさす太陽光の光が反射する事によって、真珠貝は美しい光を放っていた。厳かな神殿の姿を保っていた。
全員驚きのあまり息を呑んだ。その上俺は、すぐにでも美しい人魚が、古の調べを歌いながら現れるのではないかとすら感じた。
海底の低い温度のおかげか、建物はもちろん他の品物も保存状態が良かった。
俺達は珍しい財宝を探し始めた。探し当てた物を海上で待っている引き継ぎ船隊に渡すのを数度繰り返していくと、気付けば大きな船が満杯になっていた。しかし、まだ海底城の氷山の一角に過ぎない。
Ⅳ.残酷な波風
俺が最後の運搬を行っていた時、船隊の方から大きな音が響いて来た。砲弾が爆発する音に続いて、海獣の絶叫が聞こえた。
船員の多くは親船の方にいる事を考え、手元の物を放り投げ急いで舵を切って海上に戻った。
残酷な生き物が船隊全てを包み、切り裂いた瞬間、血の色が海面に広がった。船員達の悲鳴と叫び声が空気中に充満し、帆と甲板が切り裂かれ、残骸が散っていた。
これが、俺達が海底城から出た時に見た光景だ。
遠くで、俺たちと一緒に出航したはずの公爵の船が二隻見えた。もう一隻の見知らぬ船と共にこの場を離れていった。
微かに船の上に、長い緑髪の仮面を付けた食霊が見えた。奴は俺達の方を見ていた。
怒り、悲痛と不服の気持ちが一気に込み上げてきた。
「バクテー!海獣の事はお前に頼むしかない、俺は怪我人を助けに行く!」
御侍の声は震えてはいたが、力強く伝わってきた。それを聞いた俺は我に帰り、感情を抑え、残りの砲弾を準備し、襲ってくる海獣を迎え撃った。
砲弾が尽きそうになっていたが、御侍はまだ必死で救助の指示をしていた。俺は歯を食いしばって海に飛び込み、鋭い長刀で海獣と戦い始めた。
更にまずい事に、絶海皇女の姿が遠くに見えた。激戦によって堕神が誘き寄せられてきたのだ。
全員を守り抜くと死ぬ決心をして、俺と残りの二人の食霊は全力で応戦し、危機一髪堕神を倒した。
海面に静けさが戻ったが、血と海の生臭い匂いで満ちて、さらに周囲は濃霧の中に包まれていた。
被害は甚大だった、船隊は五人しか残らず、御侍の父親と兄を含んだ百人余りがこの災難で命を落とした……
俺は傷だらけの体を押して、最後の力を振り絞り、生き残った五人を小さな港町まで送り届けた。
俺が目覚めた時、それが御侍と会う最後の瞬間だった。
捨て身で全員を守っていた御侍の体はもたなかったのだ。
「その時、依頼を受けなければ、良かった……船隊全てを危険に晒すべきではなかった……俺はみんなを守れなかったんだ……」
「海が静かで波がないものだったら、みんなは行かなかっただろう。波風を恐れない人こそ本物の船乗りだ。みんなはそれを成し遂げた。御侍、お前さんの責任ではない」
「ありがとう、バクテー。お前はいつだって俺達が最も信頼する仲間だ。俺の最後の願いは、お前に託させてくれ」
「何でも言ってくれ、きっとやり遂げてみせるさ」
「父、兄の俺の記章を持って、この海で航海を続けて欲しい。俺達を光曜大陸まで連れて帰り、故郷の土地に埋めてくれ」
「俺は信じてる、お前はきっと素晴らしい船乗りになれると」
Ⅴ.バクテー
光曜大陸の致遠商船はかつてティアラで最も有形な船隊の一つだった。信用も遂行能力も随一であった。
しかし致遠船隊はとあるいらの最中ほぼ全滅した。二隻の公爵船だけが幸いにも難を逃れ、財宝を持ち帰ることができた。
当時、海底城の伝説はとても有名だったが、致遠船隊の事件以来、誰もその島に近づこうとしなくなった。海底城に関する憶測は増え、ある人は遺失の古城だと言い、ある人は海獣の宮殿だと言った……
度胸のある者が近くの海域で船から落ちた財宝を拾ったという話もある。その品物の中には奇妙な記号が書かれているものもあったそう。
しかし生き残った人の話によると、連合船隊が財宝を持ち出した時、他の船隊の攻撃を受けたため、海獣を呼び起こしてしまったという。
二隻の公爵船は、他の人を見捨ててでも財宝を必ず持ち帰るように命令されたため、致遠船隊の人だけが残り、最後まで死ぬ気で戦ったとされた。
その日、とある小さな町の町民は海辺で壊れかけの船と、死にかけの人間五人と血まみれの食霊を発見したという話もあるそう……
バクテーは依然としてティアラの海で漂流していた。大小様々な船隊について、色んなことを見て、多くの友人と知り合った。
時間に揉まれ、波風にしこがれ、彼はより成熟し、落ち着き、度量もより大きくなった。
海で得た豊富な経験を活かし、彼はすぐにグルイラオの海軍に参加した。前線で戦う事はなくなったが、後援に下がってもバクテーは変わらず重宝されていた。
ある時、海軍のために開いた宴会で、酒に酩酊した貴族の会話を聞いた時から、彼は最終的に食霊側に立つと決めたのだった。
海軍の今までの勝利の大半は、貴族達を喜ばせる手段の一つでしかなかったのだ。その所謂勝利という物は、大量の食霊の犠牲の上に成り立っていた。
だから彼は決心した、人間の陰謀によって騙されている食霊達を助けると。ラム酒に捕まった時には、既に心の準備は出来ていたのだ。
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