りんご飴・エピソード
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りんご飴のエピソード
明るく好奇心が強い、思考回路が活発、新しい物事に触れるのが好き。いつも自信満々で、勝負欲が強い。かつてはグルイラオの各地で学び歩いた事があるため、様々な分野の知識に精通していて博識。日暮探偵社のエース探偵。
Ⅰ.潜入
My name is りんご飴、ご覧の通り探偵さ。
今は警視庁の記録保管室にいるの。
今の状況は少し芳しくない。
記録保管室の棚はほぼ全部捜査したけど、目的の物はまだ見つからない。
これじゃない……
あれも……
返送して潜入してからもうニ十分は経つ、いつ誰がここを通るかわからないから、急がなくちゃ――
ゴホッ、改めて言わなければ言っておかないと、私は決して怪しい者ではない。
私は探偵。
勿論、こっそりここに潜入したのも理由がある。
私はある記録を探している、それに私の御侍さんの死亡の真相が記されている可能性が高い。
彼の事件は明らかに何かが隠されている。でもどうしてか、どんなに聞いても警視庁の関係者は「警視庁の判断に基づき、彼の死因は自殺だと認定します」としか言わない。
――なら自分で調査するしかない。
私は必ず真相を見つける。
深呼吸して、私は再び集中して記録が置かれている棚を捜索した。
しかし、まだ数冊しかチェックしていないのに、外から足音が聞こえてきた。
カツ、カツ、カツ。
音はますます近くなった、誰かがここに来る。
……大丈夫、りんご飴、落ち着いて。
着ている制服は完璧、そんな簡単にバレるはずはない。
私は棚の影に隠れ、記録の隙間から外の様子を監視した。
ガチャッ――ドアが誰かによって開けられた。
「――あれ?人がいるのですか。すみません、取りたいものがあるんですが!」
相手は一人の若い巡察だった。
私は心臓の鼓動を必死で抑え、手元の記録を元の場所に戻して、また新たな記録を抜き取った。
今の私は巡察、記録をチェックしていてもおかしくはない。
「君、何を探してるんだ?俺も手伝おうか?」
彼は欲しい物を見つけたようだった。軽い口調で聞いて来た、そのせいで私の心臓の鼓動は更に速くなった。
「いいえ、わざわざ手伝って頂かなくても――」
「そんなこと言うなよ。同僚だしさ、お互いに助け合うのは当然だろ!」
彼の足音が私に近づいてくる。数秒後、一つ長い影が私の足元に現れた。
彼は私の背後で少し沈黙していた。
そして――
「君……ちょっと、うちにこんな小さな女性巡査いたか?」
彼の声には明らかに疑念が含まれていた。
しまった……しまったしまったしまった!
バレた!
心で警笛が鳴り響いた、私は手元の記録を捨てて外に逃げようとした。
しかし慌てていると、私は足元の本に躓き、ひっくり返りながらも手で何かを引っ掴んだ……
「うわ――――?!」
「えっ?!?!」
バタンッ――
Ⅱ.巡査
「いたたた……おいっ、止まれ、どこに行くつもりだ?!」
この隙に逃げようとした所、あの巡査の反応は思っていたよりも速かった。
私がまだ立ち上がる前にガシッと掴まれて、掴まれた手首が痛い。
「痛っ!」
「えっ?!ご、ごめん!」
彼は手を少し緩めたが、放そうとする気配はなかった。
「痛い所があれば言ってくれ、手当してあげる。だけどまず一緒に取調室に来てくれてか――うえっ?!」
彼は突然素っ頓狂な声を出して驚いてしまった。彼の視線に沿って、見ていくと。
……?!
あああっ!ス……スカートが……!
「えっごごごごめん!」
彼は顔を背けたが、その顔が一瞬で真っ赤になっていたのが見えた。
見てないって?!か、彼は完全に……
「……きっ……君っ……」
私は慌ててスカートを直した。頭にたくさんの言葉が浮かんだが、何も口には出来なかった。空気を一口吸う度に、鼻先と頬が熱くなっていくのを感じた。
「ありえない!君たち巡査って、どいつもこいつも……!」
彼のせいではないとわかっていたが、何か熱い物が止めどなく胸の内から湧き上がってくる。気付けば視界がぼやけてきた。
過去の無念、今の窮迫、身体の痛み、全てが合わさって、私に告げてきた、私はまた失敗したんだと……
失敗した……
また失敗した……
少し前は落ち込み過ぎて親友に心配されて、今はまた……
折角警視庁に潜入出来たのに、目当ての記録は見つからない上に、こんな風に捕まってしまうなんて……
人生の汚点を無駄に増やして、また抹茶さんたちに迷惑を掛けて……
「えっ……な、泣かないで!こ、これは事故だ、すぐに忘れるから……いやいや忘れるのもあれだ、とにかくごめん!あと、あの……」
「き、きききき君は俺のせいで巡査が全員悪者だとは思わないで欲しい!そんな人じゃない、皆正義の心を持ってるんだ!絶対に悪い事はしない――勿論俺もだ……えっえっと、どう言ったらいいんだ!とにかく手伝える事があれば言って!絶対に助けてやるから!あああ泣かないで!」
「君たちは助けてなんかくれない……私の御侍さんの事件は未だに真相はわかってないのに、君たちは自殺と断定した……誰もこの事件を調査してくれない……」
彼の顔から心からの謝罪が見えたからか、まだ心のつっかえが取れてないからか、考えていた事は全部涙と共に口から出てきてしまった。
だけど彼に言って何になる?彼も巡査だ、巡査は助けてくれない……私を助ける権利もない……
少しずつ自分を落ち着かせて、涙を拭った。
本当に、こんな風に泣くとは、私はどうしてこんなにも弱くなってしまったんだろう。
「ごめんなさい、こんな事を言うべきではなかった。たとえ他の人が何をしたとしても。でも今日は私が過ちを犯した……取調室に連れて行ってください」
洟をすすって、両手を出して手錠を掛けられるのを待っていた。だけど待っていた感触は一向にやってこなかった。
「待って、今なんて言った?君の御侍が亡くなったのに誰も調査してくれない?!しかも自殺だと断定された?!」
彼は手錠を出さなかった、ありえないという気持ちが顔中に書かれていた、そして私を長い事見つめた。
「ありえない!規定により事実はきちんと伝えなければならない、そんな事するはずがない!」
「君……君のせいにはしてない……ただ……巻き込まれない方が身のため……」
「俺のせいかどうかは関係ない、まず教えてくれ!一体何があったんだ?!もし君の話が本当なら、絶対に最後まで調査してやる!俺は、絶対に、こんな事を許さない!」
Ⅲ.高い壁
「調査?君が……助けてくれるの?」
彼はただの巡査に過ぎない、どうやって私を助けるの?
「あぁ、勿論だ!本当に誰かがこんな事をしているのならな。言っただろ、警視庁と俺はこんな事を許したりしないと!」
彼の表情は揺るぎなかった。
「君……君は、私が嘘をついているとは思わないの?」
「嘘をついているのか?」
「いや!」
「じゃあいいだろ?もし最後まで調べて嘘だとしたら、そのまま取調室行きだ。もし嘘じゃなかったら、真相を隠していた巡査が取調室に入る事になる……」
彼の笑顔は少しヘラヘラとアホっぽいが……
なんだか妙に信頼できるような……
軽くスカートの裾を握った。
今回……私は本当に真相に一歩近づけるんじゃないか……?
「シッ――」
外から足音と話し声が聞こえて来たー―誰かがくる!
私が反応する前に、目の前の巡査くんは私の口を塞ぎ、隅に連れて行った。
ドアが開かれた。二人の巡査が部屋の奥の方へと向かい、棚で何かを探していた。
「あーあった、副総監が欲しがってたのはこれか?」
「そうそうそう、それだ、間違いない!」
「全部自殺事件じゃないか……こんな奥の重要書類棚に入れてどうした?」
「知らないよ。とにかく副総監は誰かがこれらの事件を探っている気がすると言って、記録を傍に置いたほうが安心だろうと、持ってくるように言われたんだ」
「……」
警視庁副総監。
彼は……自殺事件の記録を持ってどうするつもりだ?
探っている人がいる……それって……もしかして私の事……
二人の巡査はいくつかの記録を持って部屋から出ていった。前に出ようとする衝動と理性が戦っている時、肩が叩かれた。
「そんなに震えて、大丈夫か?」
「私の御侍さんの記録……」
「えっ?まさか彼らの手に?」
「うん、多分あの中にあると思う……助けてくれるのありがたいけど、これからの事は、手出ししない方が良いと思う!」
「……」
彼は長い沈黙に陥った。
私は項垂れて、ここを離れようとした。
少しだけ糸口は見つかったけど、真相の前に立ちはだかる壁は更に高くなっていった……こう認識した所で足取りは重くなった。まさに離れようとしたその時、背後から驚きの声が聞こえてきた。
「ダメだ、俺も一緒に調べる!」
Ⅳ.迷い
近頃、町ではずっと大雨が降っていた。空は沈んでいて、人の気持ちも沈ませた。
簡単な調書を取って、住所を残したら、あの巡査くんは私を帰してくれた。
彼の名前はカツ丼と言うらしい、調査結果が出たら会いに来てくれるみたい。
彼の目に映る揺るぎない光が、私にもう一度信じようという気持ちにさせた。
カツ丼はたまに私の所へやって来て、調査の進捗を伝えてくれる。
実際にはあまり進捗はないけれど。
彼の言葉から、巡査として誇りを持っている、正義を信じて揺るがない気持ちが滲み出ていた。
しかし、ある日から突然、カツ丼は来なくなった。
次の日も……その次も日も……
まさか何かあったのだろうか……
私のせいで何か面倒事に巻き込まれていなければいいけど……
――ふぅ。
――りんご飴!ダメ!他人に頼るだけじゃダメだ!知り合ったばかりの人も助けてくれてるのに!自分も努力しなければ!
頬を叩いて、かき氷と一緒に次の計画を練った――だけど、まだ良い方法は見つかっていない。
今唯一の手掛かりは、警視庁副総監だけ。
町で暮らす一般市民が簡単に会える人ではない。
思考はここで止まり、それ以上の進展はなかった。
どんなに心配や煩悩を抱えても、生活は続く。
依然として雨が続いていた。
私は傘を持って買い出しに向かった。
数歩歩いて、すぐに見覚えのある姿を見かけた。
その人に近づくと、それはカツ丼だった。
彼は雨の中傘もささずに雨に打たれていた。
その様子に驚いた、一体どうしたんだろう。
まさか本当に何かあった?
私は慌てて駆け寄った。
「カツ丼!」
彼は顔を上げて私の方に向かって歩いて来た。足取りは重そうだった。
「大丈夫?」
私は腕を軽く上げて、彼を傘に入れた。
「りんご飴……ごめん」
「……うん?」
声が小さくて、まるで力が全部抜かれたようだった……
「副総監に会いに行ったけど、何も聞き出せなかった」
「ほ、本当に会いに行ったの?!直接?!大丈夫なの?!」
この時私はやっと気付く、彼が誇っていた制服を着ていない事に。
「彼は……彼ははっきりさせない方が良い事件もある、好奇心を出さずに生きた方が良いと……だけどこれは間違ってる、これは警視庁の規定に反してる……」
「記録を持っていった二人はもうすぐ昇進するらしい。彼は俺に、もし俺も昇進したいならそうしてくれると。彼の言う事をちゃんと聞けば権利と金をくれると……」
「だけど警視庁はそんな場所であってはならない!」
「こんな事で昇進できるなんて、俺は何年も何をしてたんだ……?!彼らは本当にこの場所を守れるの?警視庁ですらああなら、どこに本当の正義があるんだ……俺は……」
彼の目には迷いしかなかった。
迷いと共にあるのは、失望、そしてどうしていいかわからない無力感。
まるで……かつての私みたい。
彼を通してかつての自分が見えたからか、私は彼を放っておけなかった。空いた手で彼の手首を掴んだ。
「一緒に来て!」
Ⅴ.りんご飴
桜の島のある町の、平々凡々な街道の、ある居酒屋の上に、こんな探偵社があった。
調査依頼を承るだけでなく、周囲の住民を助ける存在でもあった。彼らは毎日雑用の手伝い、子どもの面倒やペット探しをしていた。
社長の抹茶はデスクの前で静かにお茶を飲んで読書をしている。看板娘のかき氷はいつも焼きたてのクッキーでお客様を招待する。もう一人は……
エース探偵として自称しているりんご飴は、いつもぶつぶつと「これは探偵の仕事じゃない!」と愚痴りながらも、責任もって全ての依頼をこなしていた。
今日も同じく、りんご飴は見つけたねこを飼い主に渡していた。出掛ける前に整えた髪には木の葉っぱが数枚付いていた。
依頼人の笑顔を見ると、彼女はもう自分の狼狽した姿は気にならなくなる。
「Bye!もう見失わないでね!」
「りんご飴は良い子でしょう?」
抹茶はソファーに横たわって息を荒くしているカツ丼にお茶を出した。
疲れて息が上がっていたカツ丼はお茶をゴクゴクと飲んだ。その後彼にとっては少し意外な言葉が聞こえてきた。
「彼女は強い」
「強い?彼女が?」
カツ丼は頭を傾げながら、保管室で見た大粒の涙を落とすりんご飴を思い返した。
「無理してでも、彼女は最も元気な姿を見せようと努めている」
「落ち込む時も、たまに泣く事も、迷う事もあるが問題はありません。最終的に自分の方向性を見失わなければ良いのです」
「……」
自分の方向性か……
「ほら、貴方も彼女に助けられて、見失っていた方向性を見付けられたのでしょう?」
カツ丼はわかったようでわからない感じで頷いた。
「りんご飴には、一人助手が足りません」
「うっ……?」
「どうですか?興味はありませんか?」
「待って待って!何の話をしてるの、助手?!こいつが?彼を連れてきたのは、探偵の仕事を通して彼を導こうとしただけで――」
「ちょっと待って、どうしてそうなるんだ?抹茶さんもう少し考えて?!」
依頼人を見送った後、りんご飴はすぐさま謎の会話をしていた二人の傍に行った。
「私の"ワトソン"はこんなアホじゃいや!ダメ!」
「待って誰がアホだって?!」
二人の喧嘩が始まろうとした瞬間、入口の風鈴が鳴った。
かき氷は新聞紙を持って事務所に入ってきた。
彼女が淡々と話す内容に、全員が静かになった。
「警視庁副総長が亡くなったって……」
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