君山銀針・エピソード
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君山銀針のエピソード
旅する女侠客、夢回谷でロイヤルゼリーに出会って倒される。彼の実力に感服し、夢回谷に残り、いつか彼を倒す事を誓う。夢回谷で、ロイヤルゼリーに挑みながら、人々のために堕神退治をしている。
Ⅰ.道は一を生み
「道長様、貴方の魔除けの札を求めれば息子の病気は治ると仰いましたよね?」
「勿論、彼の病気は既に治っておる」
「しかし息子はまだ高熱に侵され、ずっと昏睡して目を覚ましてくれません!」
「それはその子の体が弱すぎるからです。廻天の札をあと三枚求めると良いでしょう」
「三枚、また三枚ですか。お金を騙そうとしているのでは!」
「私共の青龍観は青龍神君の術法を受け継いでいるのです。詐欺を働こうものなら、開祖様が顕現し天罰が与えられるでしょう」
――開祖様?
某は静かに虚空から出て、堂々と語っている御侍君の肩を軽く叩いた。
御侍が振り返ると、某は抱拳礼をしてから口を開こうとした。しかし彼は持っていた茶碗を落とした。
「おおおお前――」
彼は目を見開き、しばらく手を震わせていたが何も言葉にできなかった。そして白目を剥いて、足をピンと伸ばした状態で動かなくなった。
「かっ、開祖様が顕現なされた!開祖様が顕現なされた!」
御侍と会話をしていたご婦人も座り込んでしまい、次の瞬間病気の子どもを抱えて慌てて走り去って行った。
「えっ……」
これは一体どういう事?
某は一瞬呆気に取られ、すぐに彼女を追いかけた。
「待ってくだされ」
「あっ!」
ご婦人は某が一瞬で彼女の横に飛んだ事に驚き、更に強く子どもを抱きしめて歩く速度を上げた。
某はついて行くしかなかった。
「待たれよ、某はそなたの子を救う事が出来る!」
この言葉を聞いて、ご婦人はやっと足を止めた。
しばらくして。
某によって堕神の気を浄化された子どもを抱えて、ご婦人はすぐさま飛ぶように走り去って行った。
某は茫然としながら来た道を戻った。
道観に戻ると、そこは荒れていた。御侍君は地面に横たわったままだった。
某は綺麗な椅子を探して座り、始まったばかりなのに狂ってしまった自分の人生について考え始めた。
この時、どこからか人が現れた。
その人の年齢は某とそう変わらないように見受けた。顔立ちは綺麗で、身綺麗にしており、端正な姿をしていた。
ただ顔には赤い跡がいくつか見えた――まるで寝相が悪く、どこかに押し付けて跡が出来たように見えた。
彼はそれを隠そうともせず、袖を持って地面で寝ている御侍君を観察し始めた。
「この人は死んだのか?」
某は頷いた。
「某が彼を驚かせて死なせてしまった」
「彼は神の名を騙ったから、報いを受けただけじゃ。そなたが気に病まなくても良い」
「しかしながら、某は彼を守るために存在する」
「彼は人間、そなたは霊物。どこにその縁があるのじゃ?」
「彼は御侍、某は食霊、これは生まれながらの使命である」
「ほお?」
彼は軽く笑ってから、某に向かって歩いてきた。
「小さな霊物よ、名はあるか?」
「某の名は君山銀針と申す」
「君山銀針、ここには“生まれながら”という言葉はない、霊物にもそのような安っぽい使命はない」
「そなたは?」
「私は……これじゃ」
彼は背筋を伸ばして、人差し指で御堂の上に掛かっている額を指した。
「そなたが開祖様でしょうか?」
「私は弟子を取った事がない」
「それは……」
「しかし、そなたを最初の弟子にしてやっても良いだろう」
Ⅱ.一は二を生み
某は君山銀針、食霊だ。
某は某の師匠と共に道観に住んでいる。
この道観の元の持ち主は某の御侍君だった。しかし師匠は某に、世を欺き名誉を盗む輩を忘れよ、視野を広げて修行せよと言った。
「師匠、視野というのはどう広げたら良いのでしょうか?」
「“家の掃除が出来ないものは、どうして天下の掃除が出来るのか?”まず今踏みしめている土地から広げていくと良い」
師匠は一本の箒を投げてきた。
日々掃除を繰り返した事で、この道観についてわかった事がいくつかある。
この道観の名は「青龍観」と言い、建てられた時期は不明。
道士が何代にもわたってここに住みつき、青龍神君の門派を継承したと自称し、多くの信者を有していた。
多くの人が苦労を厭わず、舟や馬車やらに乗ってきて、神君の加護を祈願するために参拝した。
特に御侍君が亡くなった後、かのご婦人が自分の村で体験談を話してからというもの……
「開祖様が顕現した、しかも女だったわ!」
この事が広まり、より多くの参拝者を集める事となった。
しかし師匠は、某に人前に出ないよう命令した。
信者が来ている時、某は箒を持って遠くに隠れるしかない。心の中で、ポイ捨てしないでくれと祈るばかり。
隠れそびれた際、一瞬だけ信者に姿や顔を見られた事で、逆に奇跡だと言われるようになり、祈祷や助けを求めに来る人は増える一方となった。
しかしながら、師匠本人は道観の中にはいない。彼は長い夢から醒めたばかりで、何か用事を済ませるため放浪しに出掛けていた。
箒を持って隠れている某は、御堂で民衆の願いを聞いて、心の中で彼らに同情した。
大変な思いをしてまで来ている事を考え、紙と墨を取り出し――彼らの願いを書き記した。
一月後、師匠はやっと帰ってきた。
某は願い事を集めた冊子を興奮しながら師匠に渡した。しかし彼は少し捲っただけで、頭を横に振った。
「君山、掃除すら出来ていないのに、字の練習をしている場合ではないじゃろう」
「師匠、掃除はきちんとしておりますぞ……それはどういう……えっ、師匠、焼かないでくだされ!」
某は叫びながら冊子を守ろうとしたが、既に紙屑しか残らなかった。
顔を上げると、師匠はまた箒を某に渡してきた。
「見ろ、まだ掃除出来ていないじゃろう?」
Ⅲ.二は三を生み
某は師匠に腹を立てた。
掃除を止めて、道観にある蔵書閣に籠った。
道士たちは代々青龍神君の名を騙って詐欺を働いてきたが、彼らは青龍神君に関する伝説をなんだかんだ集めていたようだった。
今までは日々掃除に励んでいたため、見る暇はなかった。
一体どうしてこんなに多くの人が彼を敬うのか確認してやろうと思い、某は書物を見始めた。
「伝説によると、遥か昔の光耀大陸、天は黒く地は黄色、宇宙は広大であり、混沌の中に霊脈が満ちていた。四方に神が誕生し、それぞれ青龍、白虎、玄武、朱雀と呼ばれた」
「四神は各一つの方面を治め、神族衆生の命脈を支えた……」
素早く信者が語ってきた前日譚を読み飛ばし、「青龍観」の文字を探した。
そしてやっと見つけた。
某は書巻を持ち上げ、物語を細かく読み始めた。
これは青龍神君と悪魔が戦う物語だった。
光耀大陸である時、悪魔が生まれた。
四神がそれに対抗したが、誰も勝つ事は出来なかった。最終的に青龍神君が衆生のために、自らを犠牲にし、悪魔を鎮圧して、平和をもたらしたとされる。
この物語の作者が誰なのかはわからないが、文章は生き生きとしており、挿絵もあって、非常に素晴らしかった。
某は気付けばその物語にハマり、最後まで読み込んだ。
「青龍神君の体は山脈となり、悪魔を永生光耀大陸の地下に鎮圧し、天下太平をもたらした」
某は感動して涙が止まらなくなった。
顔を上げると、外は既に夕暮れ。
某は跳び起きて、御堂に戻り彼を探した。
「師匠、某は心得ました――」
扉を開けて入ると、師匠は背伸びをしていて、疲れている様子だった。
「ほお、何を心得たのじゃ?」
「……いえ、師匠もしお疲れなら、早めにお休みくだされ!」
この場を去ろうとした時。
「戻れ」
師匠が風を起こし、某は彼の目の前まで引っ張られていった。
「どうしていつも半分しか言わないんじゃ?」
某は大人しく座るしかなかった。
「某はただ、師匠の体調が宜しくないと思い、些細な事で煩わせたくなかっただけです」
師匠は少し黙ってから口を開いた。
「何を知ったのじゃ?」
「某は……」
「手に持っているのは何じゃ?」
「これは……」
某に悩む隙も与えず、懐の冊子は気付けば師匠の手に渡った。
彼がそれを捲っているのを見て、某は隣で感想を言い始めた。
「当時、師匠はご自分の体を使って悪魔を鎮圧し、光耀大陸に千年にも渡る平和をもたらした。某は目の前の人の苦しみだけを見るのではなく、傷が癒えたばかりの師匠が救いたくても救えない心情を汲まねばなりませんでした」
「師匠安心してください、弟子である某が修行に励み、霊力を増やし、一日でも早く師匠の憂慮を分担できるようになってみせます。苦しんでいる民衆の願いを叶えてあげようと――いった!」
頭を殴られた。
師匠は扇子を畳み、その冊子を開いて、挿絵を指さした。
「そのバカげた考えは一旦置いておいて。まずこの上に描かれているのは誰なのか教えてくれ」
某はその挿絵を見た。鋭い牙を露わにした壮年の男性二人が雲間で戦っていた。
「この白い服を着た者が師匠で、この黒い服を着た者が悪魔ですぞ。自分の顔もわからなくなりましたか?」
「私か?私はこんな姿をしておるのか?」
「これは絵です。絵に文句を言っても仕方ないのでは?全ての物語で、師匠はこのような姿をしておりますぞ。それもそうですし――」
某は手を上げて上を指した。御堂に置かれている青龍神君の像は、目を見開いて、牙を剥き出しにし、笑っているとも笑っていないとも言えない表情で某たちを見ていた。
師匠は突然黙り込んだ。
少しして、彼は真面目な顔で某を見て口を開いた。
「愛弟子よ、私はずっと嘘をついておった。私は青龍という醜い化け物ではない」
Ⅳ.三は万物を生む
某は君山銀針、食霊だ。
某と師匠は仙山の上の道観の中に住んでおる。
この仙山は君山と言う。水に囲まれており、伝説によると青龍神君と悪魔が戦った場所とされている。
某の師匠は少し前に、自ら青龍神君であると教えてくれた。
しかし今は自分が言った事を否定している。
「悪魔大戦だの、体を犠牲にして鎮圧しただの、全てあの醜い化け物がやった事じゃ、私とは関係ない。私があの人間らの願いを叶えてやらんのは、そうしたくないからであって、私の体調とはなんら関係ない」
体面を気にしすぎているだけなのかと思った。意固地にならないように説得しようともした。
時間はある、某も努力を続けようとしている。
しかし師匠は袖を振って、某に一言だけ残し、また遠くに行こうとした。
「師がこれ以上何かを話しても意味がない。もう少し経てば自ずとわかるだろう、そなたは掃除を続けよ」
一日だけ帰ってきて、師匠は某に腹を立ててまた旅に出てしまった。
某は神話が書かれている冊子を片付けて、引き続き箒を持って掃除を始めるしかなかった。
少し前の日々と何ら変わりはない。
某は依然として毎日掃除を続け、毎日真剣に信者の願いを書き記した。
しかし今回、それを師匠に渡して処理してもらうつもりで書いていない。修行を続けていつか下山の許可を貰った時に、自分の力で少しずつ実現させていければと思って書いている。
こんな目標を掲げて、某はより一層掃除に力を入れて、意識的に自分の霊力の修練も始めた。
信者たちの言葉から、山の麓は安全ではないと知った。
千年前現れた悪魔は鎮圧されたが、新たに堕神という敵が現れたのだ。
それだけではない、光耀大陸の戦火は消える気配がない。この戦乱の時代に、飢餓、殺戮、堕神、全てが生霊を脅かしていた。
天下に沙が広がっている、民衆は山を背負っている。
某は早く下山し、彼らの願いを叶えてあげたい気持ちでいっぱいだった。
その日までは。
黒い服を着た人影がふらふらと御堂の中に入ってきた。
道観にやってくる人の中に喪服を着た人間も少なくはないため、意外ではなかった。
意外なのは、その人は御堂に入って参拝するでもなく、お香を上げるでもなく、石を取り出して像に向かって投げ始めた。
某は姿を現して止めようとしたが、師匠の言いつけがあったため我慢した。
幸いなのは、御堂でお香を上げていた他の信者たちがすぐにその人を制止してくれた。
某がホッとしたのも束の間、その人は大声で叫び始めた。
「放せ!この疫病神を壊してやる!」
「トチ狂ってこんな所までやってきたのか!青龍神君は慈悲深く私たちを守っているじゃないか!そんな侮辱を口にするんじゃない!」
「慈悲深い?彼女がもし慈悲深いのならどうして私の前に顕現した!」
某はそれを聞いて、彼女が誰なのか思い出した――あの日病気の子どもを連れてきたご婦人だ。
「彼女が顕現しなければ、息子は病死になるだけだった。官吏に攫われて生贄にされる事はなかった!溺れ死ぬ事はなかった!」
……彼女はなんと?
「この恩知らずが!あんたの子は仙縁があったんだ!神君の傍に送られて世話を出来るなんて幸せ者だろう!神君が気に入ってくださったから、雨を降らせてくれたんだ。こんな良い事に文句を言うなんてな!」
……生贄?雨乞い?
「神君が雨を降らせなかったら、何人死んでた!あんたの子ども一人の命で私たち全員の命が助かったんだ!」
「そうだ、そもそもあんたの息子の命は神君が救ったのだろう?」
「神君の御前で何を喚いてるんだ?早くここから連れ出せ!」
周りの信者たちは一斉に彼女を連れ出そうとした。
何かまずい事が起きる前に、急いで箒を彼らの前に投げた。
信者たちは驚いて、足を止めた。
「青龍神君が顕現なされた!」
「神君が顕現なされた!」
人々は騒ぎ始めて、箒に向かって参拝を始めた。
切羽詰まった状況で、某は他に方法が思いつかず、隠れたまま声を発した。
「雨乞いなど、今後もうしなくて良い!雨が降ったのは神の御業ではない!青龍神君は仙童なぞ受け入れた事はない!人の命を粗末にするな!」
言葉を聞いた人々はざわついた、しばらくして、勇気のある人が口を開いた。
「貴方様はどちら様ですか?青龍神君でしょうか?」
「某は……違う」
「では、他の神仙でしょうか?」
「神仙、でもない」
「じゃあなんの妖怪だ!」
「某……某は……某はここの掃除の精だ!青龍神君は我が主!」
「ははははっ……」
信者たちはなんとこれを聞いて笑い始めた。
「私たちが参拝しているのは願いを叶えてくれる本当の神仙だ。あんたみたいな掃除の精なんて、掃除してれば良い、口出しするな!」
「皆さん――青龍神君が我々に雨をもたらしてくれたのは事実だ!自分たちで見た全てを信じるのか、それともこの掃除の精を信じるのか?」
「もちろん青龍神君だ!」
「青龍神君を信じるに決まってるだろう!」
姿を現そうとしたその時、突然、晴れていた空は曇り始め、青龍観の中に雷が落ちた。
その瞬間、人々は悲鳴を上げ始め、彼らはやっとあのご婦人を放し、あちこちに逃げ始めた。
もうしばらくして、あのご婦人も悲鳴を上げながらふらふらと去っていった。御堂にはポツンと箒一本だけが残った。
空が晴れた。
某は箒を拾い、屋根の方を見た。
「師匠、帰ったのですね」
師匠は某の目の前に降りた。
「今度こそわかったじゃろう?」
某は俯いた。
「また一人傷つけてしまった、某があの子を害した」
「そなたがあの時救わなかったとしても、彼は死んでいたじゃろう。気に病まなくて良い」
「……師匠はいつも某のせいじゃないと仰る」
「この世の出来事で、絶対間違っている事などない」
師匠は袖を持って天を見上げた。
「何が間違っているか言わなければならないのなら……この世の力をいくつかに分けた者に問わなければならないじゃろう……どうして不平等に力を与え、争奪させたりしたのかと」
晴れたばかりの空から、鈍い雷の音が聞こえて来た、まるで何かに応えているかのように。
「人間の参拝とやらは全て、強者の力を崇めているだけに過ぎん。自分のために使おうとしているだけじゃ。しかしもたらせた奇跡とやらは、大概気まぐれに過ぎないという事を彼らは信じてくれない」
「力の差がある程度離れてしまうと、弱者は強者の施しを素直に受け取れないものだ」
「しかし、このまま皆の願いを無視するしかないのでしょうか?」
「そうだ、目をくれるな」
某の疑いの眼差しの中、彼は箒を拾いまた某に渡してきた。
「天下の沙、民衆の背にある山。そなたは強者として、沙を掃く人になりたいか?それとも山を移す仙になりたいか?」
「自分の身分をきちんと考えられるようになれば、下山しても良い」
Ⅴ.君山銀針
光耀大陸の中央には、大きな沢があり、そこは雲夢沢と呼ばれた。
雲夢沢の中央には、小さな山があり、そこは君山と呼ばれた。
伝説によると、千年前、多くの霊族が衰退し、人間の国が勃興したばかりの頃、光耀大陸に悪魔が現れた。それが侵犯した場所は草木が生えず、猛獣も息絶え、霊族は続々と堕化し、理性を失った。
危機一髪の時、東方の神である青龍が光耀大陸に降臨し、四方の力を招集し、力を合わせて悪魔を鎮圧した。
青龍神君と悪魔は光耀大陸の中心部で数か月に渡って戦い、暴風雨、雷鳴、洪水を引き起こした。
数か月後、そこに雲夢沢が形成され、一説によると雲夢沢の下に封じられているものこそ悪魔とされている。
雲夢沢で唯一水面から姿を出している山峰こそ、当時青龍神君が立っていた場所とされる。
青龍神君を記念するため、人々はここを君山と命名した。
――それはまだ堕神と食霊がいない時代だった。
千年後、光耀大陸の人間はより一層蜂起し、霊族は世間から離れ、ほぼ完全に消え去ったように見えた。世界は穏やかに見えたが、新しい危機が襲い掛かってきた……最終的に堕神と食霊が現れ、この大陸で新たな戦乱が引き起こされた。
君山銀針は食霊と堕神が誕生してからそれ程経っていない世界に生まれた。
彼女は、君山の上にある青龍観の道士によって召喚された。道士は青龍を伝承する者として代々その名を語ってきた。過去の霊族に関する物語は、とっくの昔に元々あった抑止力はなくなっており、今や術法や門派の商機や旗印にされている。
彼らは心から神明の存在を信じている訳ではない。それらを謳って商売する事しか考えていない。
そのため、君山銀針が突然現れた時、その道士は後ろめたさから急逝した。
一方で、長い夢を見ていた青龍神君は新たな力の影響によって呼び起こされた。
彼は真新しい、遠古の時代とは異なる霊族の力を感知したため君山銀針の傍にやってきた。
彼は君山銀針との会話の中で、食霊は確かに霊族ではあるが、過去の他の霊族と大きな違いがあったと気付いた。
彼らは先天的に人間を助ける気持ちが植え付けられており、契約が消えてもなおその気持ちは消える事はない。
しかし、それは彼らがやるべき事ではない。
よって、青龍は君山銀針の考えを矯正する事にした。君山銀針には、生きとし生けるものは全員平等であり、誰かが贔屓されるべきではないと知ってもらおうとした。
例え人間の数が今一番多くとも、そうであってはならない。
霊族は時代の強者として、弱者の願いを個別に叶えて行く事ではなく、この時代の発展を妨げるものを解決しなければならない。
阻害しているのは堕神だとしても、それとも他の何かだとしても、どうするかは君山銀針が下山してから考える事である。
彼は君山銀針にある問いかけをした――
「天下の沙、民衆の背にある山。そなたは強者として、沙を掃く人になりたいか? それとも山を移す仙になりたいか?」
仙人は山を移す事は可能だ。しかし数人の道を通れる様にする事しかできない。山はそこにあるままだ。
沙を掃く人は、長い旅に疲れ果てつぶさに苦しみをなめる事もあるが、この世界全体の清潔を知らず知らずのうちに維持している。
君山銀針は最終的に、下山し普通の沙を掃く人になろうと決めた。
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