戦の痕・ストーリー・まとめ
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目次 (戦の痕・ストーリー・まとめ)
①中華海藻/血染の葉
むかし、むかし。
桜の島のとある海岸の小さな村落に、漁を生業とする漁師たちがいた。
彼らは海からの恵みを頼りに、貧しいけれども満足の行く生活を過ごしていた。
ある天気の良い心地よい午後のことだった、それは漁をするのに絶好の天気でもあった。
漁師は静かな海面を見て、身重の妻のために大きな魚を獲るため漁に出ることにした。
もしかすると市場で換金できるぐらい魚が獲れるかもしれない。
彼は丈夫ではないけれど一家を支えている小船を漕いで、青い海の上を進んだ。
海の天気は、子どもの機嫌のようにコロコロと変わる。
先程まで晴れ渡っていた空は、 巨大な獣に呑み込まれたかのように、 気付くと雲に覆われていた。
怪しげな赤色が点滅していて、 彼の鼓動もその点滅に連動するかのように加速していく。
彼は嵐の中、自分の小船にしがみついた。
これが彼が頼れる唯一の物だったから。
青い海に徐々に黒い赤潮が混ざっていくのが見えた。
墨のように海水に広がった赤潮は、 直視できない程濃密で、 腐った匂いを発していて、彼は吐きそうになっていた。
彼は逃げようとしたけれど、 渦にはまってしまい、永遠に光が差さない海底に呑み込まれそうになっていた。
櫂は水流によって折られたため、 彼はただ自分の船があの禁忌の島に流されていくことを見ていることしか出来なかった。
あれは立ち入れば二度と帰れなくなる島。
あれは生賛しか上陸しない島。
あれは、海の怪物が棲む島。
その小島は濃霧の中、 遠目からは生き物のように見えた。
それは錯覚なのか、 それともその島が本当に生きているのかはわからない。
触手のような何かが蠢き、 凄惨な悲鳴を上げていた。
耳元で絶えず鳴り響く声によって、 彼は発狂寸前になっていた。
しかし次の瞬間、彼は忘れられないものを見た。
生き物のような髪が広がっていて、 そしてその細い髪は海草のように形がわからない怪物を絡め、全身血まみれの水鬼が笑っていた。
それは笑いながら、 口から真っ赤な鮮血を吐き出していた。
――水鬼も怪我することがあるのか、 水鬼の血も……赤いのか……
彼はどうしてこんな時にこんな事を思えたのかわからなかった。
しかし彼は目の前の水鬼から目を逸らすことはできなかった。
嵐の中、雨水は地面の赤色を全て海に流し、それは彼が先程見た赤潮となった……
それは……自分の同類と縄張り争いをしているのか......?
突然、湿った髪が身体に張り付いている水鬼がパッとまだ海面を漂う彼の方を見た。
その両目は狂ったような笑みを浮かべていた。
それが真っすぐ彼を見つめていた時、 彼は自分の鼻腔に海底の生臭さに満ちているような感じがした。
それは自分の長い髪を使って、 触手を振り回す怪物たちを引きずって、 血に汚れた海底へと沈んでいった。
おえっ――
船に突っ伏して、吐こうとしたが、 彼は何も吐き出せなかった。
ザバーン――
巨大な波によって船はひっくり返された。
彼が再び目を醒ました時、 傍には彼を心配そうに見つめる人々がいた。
空は晴れ渡っていて、 あたたかい太陽の光が彼を包んだ。
「どうしたんだい?遭難したのかい?」
「命拾いしたな!生きて帰って来れて良かったな!」
「どうしてずっと震えてるんだ?寒いのか?早く服を持って来い!」
彼は自分の歯がカチカチと鳴る音を聞いていた。
カチカチカチカチと、止まらない。
「本当にどうしたんだ?」
「俺は……今年……海神の花嫁にした……あの顔を……見た……」
「花嫁?なっ、何を言っているんだ?! 彼女はとっくに海神に捧げた!」
彼は突然綺麗な格好をするのが好きな少女を思い出した。
あの日彼女が海に送られた時、歪んだその笑顔は彼が見たそれの笑顔と似ていた。
「そ、それはきっと復讐に来たんだ!俺たちに復讐しに来たんだ!!!!!」
――《百鬼録・海の巻――濡れ鬼》
②豚骨ラーメン/捲土重来
むかし、むかし。
桜の島にまだ戦争があった頃。
戦争の引き金は、いつだって単純なものだった。
ある姫をきっかけに……
はたまたある宝がきっかけに……
とにかく、単純な物事が一部の人のせいで、 災難となった。
鳥が低く鳴く頃、 夕日によって赤く染められ、風が吹くとボロボロの服から白い骨が見えた。
枯れた骨と枯れた骨が絡み合い、どちらがどちらかわからなくなっていた。
時間は全ての立場を侵食し、人々はどうして戦争が起きたのかを忘れた。
ここは死の気配に染められた土地。
無念、怨恨、悲哀、 苦痛に染められた土地。
繰り返される戦。
武士が刀を抜くと、 夕日の下一人また一人が倒れた。
鮮血を使って過去を洗い流し栄光を繋ごうとしていた。
しかし彼らは忘れている、 鮮血が冷めれば、 その赤は鈍色になるということを。
再び戦が終わると、 積み重なった死体の間から細い手が伸びた。
それは細く、柔らかい手だ。
腕の方を見ると、 そこには肩に掛けて大きな模様が描かれている。
この赤と黒しかない戦場で一層美しく見えた。
獣のような瞳には人間にはない冷静さがあった、それは無情に周りの全てを見つめた。
赤い液体が毛先からぼたぽたと地面に落ちて、丸い斑点を作った。
切り刻んだことで欠けた刀は、 青白い手によって投げ捨てられた。
「この前の戦場で生き残った人?」
幼い声が笑える質問をしてきた。
「死体ん中から這い出た者なんて、 人であったとしても、今はもう妖怪に過ぎん」
「だけど、だけど……」
「だけど、などなか!覚えとけ!決して戦場に近づくな!誰かがおったとしても、 そりゃ戦場ん怨念が化けて出た妖怪に過ぎん!怪物はアンタば食べてしまうやろう!」
男の子は俯いた。
その夜、大人たちが言っていた物語を思い出して、眠れなくなった。
彼は顔を扉の方に向けて、 扉の外を見つめた。それは至って普通な夜だった。
伝説の中、妖怪が夜行する 「紅夜」ではなかった。
しかし、夜がとっくに妖怪のものになった今、
人間は夜に出掛けることは出来ない。
突然、ある人影が扉の前を横切った。
どうしてか、男の子は体を起こした。
そしてふらふらと扉の外に出た。
暗くて赤い人影のあとをついていった。
荒んだ戦場の傍、 香り高いお酒が真っ赤な屠蘇器に注がれた。
男の子はハッとなった。
彼はどうして自分がこんな所まで付いて来たのかわからなかった、 裸足だったため地面に擦れて痛くなっていた。
「いっーー」
突然聞こえて来た声に反応した人影は振り返った。
男の子は口を抑えて半歩後ずさる。
彼はその人影の肩の綺麗な模様を見た、 そこには四匹の恐ろしい獣がいた。
獣は歪みながら、 ゆるりと肩から出て地面に立ち、療猛な目付きを現した。
「怪物はアンタば食べてしまうやろう!」
昼間の出来事を思い出した彼は、 呼吸がより一層荒くなった。
彼は怯えながら牙をむき出しにしている猛獣を見た。
「キーンッ」
次の瞬間、男の子が目を凝らす前、 その人影は彼の傍を通り過ぎ、刀で風を切っていた。
「ああああああ---!!!」
男の子は叫びながら遠くに逃げた。
幸いなことに、その人影は男の子よりも彼の背後にいたものに興味があったようだ。
男の子は怯えていたが、 我慢できず振り返ってしまった。
暗闇の中刀を振り回しながら、 闇から出てきた
怪獣を一匹また一匹切り裂いていく人影を見た。
その人影の類に液体が飛び散り、暗闇の中、 金色の両目だけが光っていた。
――《百鬼録・人の巻――荒髑髏 》
③いなり寿司/九尾の狐
九尾の狐
むかし、むかし。
山林の中に、ある山が神域として人々に崇められていた。
そこは既に自身の名を失っていて、いつしか神明の名を付けられていた。
そこが強大な力をもつ「神明」が住まう場所だったからだ。
情け深く広い心をもつその神明は、最も心の綺麗な人を選び、その者の願いを叶えるという。
故に、その深山は終日濃霧に包まれていようと、人々がこぞって押しかけた。
しかし、誰も知らない……
その山にいた「神明」は、既にいないということを。
「神明」に仕えていた神使たちは、絶えず彼らの「神明」を彼らの元に戻す方法を考えていた。
遂に、幾度もの実験の後、彼らは彼らが求めていた「神明」を得ることが出来た。
ただ……「その方」は彼らが恋しがっていた、完璧なあの方ではなかった。
彼らにとって、それは大した問題ではない。
きちんと「言い聞かせれば」、彼は彼らの心の中の「あの方」になれるのだと思ったから。
滝行による洗礼。
全ての邪気を払う浄水は彼の穢れを全て洗い流した。
厳しい戒律。
狂った戒律は彼に自分の責務を思い出させた。
当然……それらだけなら……
それらだけだったら……
もしかしたら……今のようにはならなかったかもしれない……
神明は、願いを聞き届け、邪気を払い蒼生を守ることを責務としている……
彼は適任とは言えなかったが、全力を尽くして彼を「稲荷様」と呼ぶ人間たちを守ろうとした。
しかし、彼は思いもしなかった。
自分が傷ついていた時、背後から飛んで来た矢に打たれるとは。
最も敬虔な神使がこの世を去ってから、人々は彼の力を恐れ、その正体を蔑んだ。
しかし、彼らがどれだけ蔑もうと、「妖怪」である彼は「神明」の名を持ったのだ。
彼らの目の前にいる者を、彼らはどうやったって軽んじることは出来ない。
神を冒涜する者は、天地によって誅される。
――《百鬼録・山の巻――稲荷》
④タコわさび/八岐神域
八岐神域
むかしむかし、桜の島の西の方に。
ある小島があった。
小島にはたくさんの石が転がっていた。それらは滑らかなものではなく、踏みつけると草履を突き破る程の尖った石だった。
そんな石しかない、何の変哲もない小島。
稀に島に上陸して金目の物を漁ろうとした漁師がいたとしても、その多くは島を囲う濃霧によって惑わされ、島に辿り着くことすら出来ないだろう。
このように誰も行こうとしない小島には、恐ろしい噂があった。
噂によると、この島には海を呑み込み、巨大な波を引き起こせる怪物が棲みついているそうだ。
幸いなことに、彼は眠りについているらしい。
しかし彼が眠っていることで、彼によって抑えられていた怪物たちは機会を伺っていた。
変わった石だらけの島は、気付けば怪しげな触手が生えるようになった。
濃霧の中、恐ろしい海の怪物が、枷から逃れようとしているように見えた。
恐ろしい眷属たちは、海底から這い出た。
それらは人間に向かって自らの触手を振りかざし、生臭い口を大きく開けた。
人々は逃げ惑った。
たかが人間如きが、どうやって怪物に立ち向かえようか。
故に、彼らはもう一つの怪物のことを思い出した。
彼らはその方を、海神様と呼んだ。
人間はいつもそうだ、自分たちの都合で自分たち以外の存在を「妖魔」にする。
そしてまた自分たちの都合で彼らに「神格」を 与える。
怪物だったものは、神明となった。
彼らは島に鳥居を建て、その怪物を呼び起こそうとした。
怪物に彼らの供え物を受け取ってもらおうとした、そして彼らを守る「海神」になってもらおうとしたのだ。
しかし……彼らが求めていた結果を得ることは出来なかったようだ。
夢を邪魔された「神明」は気まぐれだった。
彼は彼の不在時に島を占領した怪物たちを全滅させた。
紫の液体が彼の傷口から溢れ出たが、彼は表情を変えることはなかった。
その様子は、悪鬼よりも恐ろしかった。
彼の鋭い爪と触手は怪物を貫いた。
その日の海面は、真っ赤に染まっていた。
そして、彼に助けを求めた人間たちは恐れて逃げ帰った。
幸いなことにあ、彼は人間に興味はなかった。
気が向いた時に、人間のかわりにうるさくて醜い怪物を倒したりすることはあった。
もう二度とこの島に上陸しようとする人はいなくなった。
そして気付けば、その島は怪物が神明になる前の名で呼ばれるようになった。
その名は、八岐。
――《百鬼録・海の巻――八岐》
⑤きつねうどん/少年意気
少年意気
むかし、むかし。
神域として崇められた稲荷神山が、まだ「稲荷」の名を持っていなかった頃。
あの時、この山はまだ普通の小山に過ぎなかった。
あの頃、この山は人々から「狐山」と呼ばれていた。
何故なら、この山には数えきれない程の狐が住み着いていたからだ。
大きいもの小さいもの、赤毛のもの白毛のもの。
「狐山」には狐たちと消えることのない霧以外、特に変わった所はない。
しかし狐は猫同様、最も霊性をもつ動物の一つ。
狐が多く集まっている山林は、修練に適している場所だったのだ。
人間にとって長い歳月の中、踏み入れることのない小山に鳥居が見え隠れするようになった。
ある人は、狐の中で最も霊気を持つ狐が修練を経て仙狐になったと言った。
ある人は、仙人が霊気に満ちた山林を見つけ、定住することにしたと言った。
ある人は……
気付けば、山の中に仙人がいることが広まったのだ。
それは善良な心を持つ仙人だった、困った事があったら人々はその仙人に助けを求めた。
そしてその仙人は、「稲荷」として崇められるようになった。
その仙人は、万民を守り全てを見通せる「八咫鏡」を持っていた。
このような宝物は、天地の間の穢れで形成された「怪物」が最も欲する物であろう。
月が赤色に変わる夜、それらは自分らの力が最も強い時を狙って目の前の濃霧を突破しようとする。
しかし、それらがやっとの思いで稲荷山に登りきった時、巨大な狐の傍には刀を持つ白髪の少年がいることに気付く。
よーく見ると、彼の頭頂には人間のものではない獣の耳が二つ付いている。
全身傷だらけになっていても、彼はいつも招かれざる客を嘲笑うような笑みを浮かべる。彼の傍には、「怪物」の残骸が転がっていた。
この時、それらは伝説の中稲荷神には二人の神使がいることを思い出す。
その中の一人は、稲荷神社の前の小さな石像で、口には鍵を銜えている。
伝説によると、それは「八咫鏡」を保管している場所の鍵だ。
そしてその石像の上には、綺麗な白い狐が彫られているそう。
――≪百鬼録・山の巻――狐≫
⑥車海老/守護之約
守護之約
海とはいついかなる時も神秘的な存在だ。
それは命を育むと同時に、命を奪う「妖魔」をも生んだ。
妖魔がどこから来ているのかはわからない。
まるで最初からこの天地の間に存在しているかのようだ。
強大な力をもつ「妖魔」を前にすると、抗う術のない人間は神に祈ることしか出来ない。
彼らは祈り、願い、敬虔に訴えた。
自分らの声で眠りについている神を呼び覚まそうとしていたのだ。
手を上げるだけで、天候をも変えてしまう神。
しかし……彼らはもう長い間あの強大な神を見ていない。
神は彼らを見捨ててしまったのか?
髪は彼らの誠意が足りないと思っているのか?
それとも……
無数の考えが彼らの頭の中で駆け巡った。
一時、人間らは方向を見失い混乱し、狂った。
彼らは海の中に供え物を投げ込んだ。
食べ物、お金……家畜……
穏やかな海はキラキラと輝いている、まるで何も起きていないかのように美しいままだ。
砂浜に打ち付ける赤い波だけが、過去に起きた事を物語っていた。
人間らは絶望な眼差しで月のない空を見上げた。
赤く染っていく空は「紅夜」の始まりを意味した。
「紅夜」は「妖怪」の夜だ。
そして「妖魔」が最も力をもつ夜でもある。
「妖魔」に殺されるくらいなら……
十分な誠意を示せば、海神が帰って来てくれるかもしれない……
人間らの両目は夜色によって赤く染められた。
心の底にある闇こそ、「妖魔」にとってもっとも美味な養分だ。
彼らは両親を失った少女に迫った。
好いていた男の子は女の子の視線から逃げた。
空にある雲には大きな穴が開いていて、赤い丸が見えた。
まるで雲の裏から目が覗いているように見えた。
女の子はもがいたが、海辺に連れて行かれてしまった。
彼女は叫び、呪った。
突然海面が割れ、海水で出来た階段からゆっくりと人影が海面まで歩いて来た。
海から出てきたその者はおどろおどろしい仮面を被っていた。血の気のない顔をしていて、人間らは視線を海辺に打ち上げられた巨大な獣の残骸に目をやった。
青年はゆっくりと腰に差した刀を抜き出し、いつの間にか赤く染まった海面を振り返った。
「どけ」
冷ややかな声は、血の色に染まった夜に警鐘を鳴らした。
人間らは逃げ惑った。
手足が縛られている女の子だけが取り残された。
女の子はボーっと青年の刀が海面を撫でるのを見ていた。水の幕が上がり、その幕の後ろで黒い人影が動くと、透明な幕に赤い花が咲き乱れた。
あまりにも恐ろしい光景を目の当たりにした女の子は声を上げることすら忘れてしまった。彼女はただただ呆然と幕の後ろ、怪物の間を駆けまわる青年を見つめた。
彼女は突然過去の噂を思い出した。
桜の島の海は二つにわかれていた。西は、とある海の妖怪のもの。
そして東は、海神の住処だと。
「……貴方が、海神ですか?」
女の子は勇気を出して、青年に尋ねた。
青年は手を止めることなく刀を振り続けていた、まるでこの問いかけに気付いていないかのように。
空が明るくなり、血に染った夜が明けた時、青年は女の子の方を振り返ってこう告げた。
「某はあの方の護衛に過ぎない。あの者たちに伝えよ、海神は血にまみれた供え物などいらぬと」
――≪百鬼録・海の巻――夜叉≫
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