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パエリア・エピソード

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パエリアのエピソード

幻楽歌劇団のトップ役者。野性的で奔放的なスタイルで多くの者を惹きつける。自由奔放で何者にも支配されない、自分が認めた人や事のために全てを投げ捨てられる。彼女にとって、尊重とはお互いにし合うものであり、さもないと『目には目を、歯には歯を』やられた分はやり返されるないといけない。


Ⅰ友だち

「ファヤ様、国王陛下からのお言葉を改めてお伝えさせて頂きます。陛下はファヤ様の食霊大会でのご活躍を大変お気に召したようです」


「ファヤ様にこの地に残るかどうか慎重に考えてほしいとのことです。もしここに居てくださるなら、ミドガルで最高のステージを用意いたします。これからはグルイラオの者全てが貴方様のステージに酔いしれるでしょう」


華美な燕尾服を身に纏った老執事は態度こそ丁寧だが、背筋をまっすぐ伸ばし、断れない雰囲気を醸し出していた。


「わざわざありがとうございます。しかしこちらからも改めてお伝えさせていただきます。あなた方のサポートは必要ありません。どんなステージだろうと、あたしが立っているステージこそ最高ですわ」


あたしの言葉を聞いて老執事はポカンとしていたが、すぐに笑った。


「ファヤ様、ここまで頑固にならなくても……ステージに上がるチャンスを不意にするおつもりですか?」


「どうしても離れるおつもりでしたら、もう二度とグルイラオのステージに上がれなくなるでしょう」


(あたしを脅す気?)


これ以上何を言っても無駄だと判断し、鼻先で笑いながらトーチロッドを繰り出した。赤紫色の火花が弾け、目の前の老執事に襲い掛かる。


それを見た彼は顔色を変え、踵を返して逃げようとした。あたしは彼を脅かそうと、火花を操って追いかけた。


門から這い出ようとしてた彼の頭を燃やそうとした時、突然アイスブルーの閃光によってあたしのロッドは弾かれた。火花は軌道を変え、地面に落ちて消えた。


老執事はまだ平静を取り戻していないようだったが、何とか立ち上がった。


「ム、ムースケーキ様、助けて下さって誠にありがとうございます!」

老執事は慌てて一礼をして振り返らず外に出ようとした時、玄関でまた別の者にぶつかった。


「うわっ!」


老執事がぶつかった相手、シフォンケーキは肩を揉みながら入ってきた。


「あれは陛下の傍にいる老執事じゃないか。パエリア、話し合いをしたらいいだろ、どうして霊力で彼をいじめるんだ!彼は人間だ!」


「フンッ、あたしは食霊よ。どうして人間なんかを甘やかす必要なんかあるの?それにあたしの御侍はとっくに亡くなっているわ。あたしが誰をいじめようとあんたには関係ないでしょう?この見掛け倒し」


機嫌が悪かったあたしはバカの相手をする余裕はなかった。


「おまっ──ムース!止めるな、今日こそこいつと決着をつけてやる!」


シフォンケーキはあたしの一言で怒ったのか、地団駄を踏んでいた。


「ファヤ」

ムースケーキはそんな彼を抑えながら心配そうにあたしを見つめる。


「……彼らは貴方を脅したの?」


彼の優しい青い瞳を見つめていたら、ゆっくりと怒りが収まってきた。あたしは頷いて、経緯を伝えた。


「あの爺さんは、ミドガルに残らなければステージには立てないと思えと言ってきたわ」


「……酷い」

ムースケーキは眉をひそめる。隣のシフォンケーキも口を噤んだ。


彼らの深刻そうな表情を見てなんだか居心地が悪くなったあたしは、手を振ってこう伝えた。


「もういいわ。グルイラオなんてもう飽きたし、そろそろ別の所にいこうとしていたところよ。その時は、ちゃんとムースとシフォンケーキにお土産を送るわ!」


ムースケーキシフォンケーキは目を見合わせ、複雑な表情をしていた。

あたしは咄嗟に気付いた。


「まさか、あんたたちの御侍もあたしに関する命令をしてきたの?」


「シフォンは関係ない、僕だ……すまない、ファヤ」


そう言いながらムースケーキは目を伏せた。


ムースケーキシフォンケーキは、ミドガルの食霊大会で知り合った食霊だ。


ムースケーキの御侍はグルイラオの姫だ。彼は皇室の指導のおかげで、どんな時でも優雅かつ上品に振舞っている。誰もが彼を好きになるし、彼を褒め称える。最後の決勝戦で、観客からの支持率で彼に負けてしまったけれど、悔しくはなかった。むしろもっと彼のことを知りたいと思った。


シフォンケーキの御侍も貴族だ。ムースケーキとは親友だが、少しもムースケーキの良い所を学べていない。一日中騒がしくて、見た目はいいけれど本当に見掛け倒しだ──


「まあまあ、どうしていつも自分の責任にするんだ!姫がパエリアとの付き合いをやめるように言ってきたのは、お前のせいじゃないだろ!とりあえず本題に入ろう!」


こいつは頭は良くないし甘えただが、性根が良いし人情に厚いから良い友人ではある。


シフォンケーキムースケーキの肩を叩いて慰めながら、あたしの方を振り返って言った。


パエリアムースケーキが聞けないみたいだから、俺がかわりに聞くけど、どうしてミドガルから出ないといけないんだ?」


「他はまだしも、ここはグルイラオの首都、最も栄えている場所だ。欲しいものは何でも揃っているし、ステージもここが一番だろう。お前が皇室専属になりたくないのなら、俺とムースがどうにかしてやれる。これは安心してほしい。ここのステージに興味がないとしたら、じゃあムースと俺を置いていけるのか?だって一人で色んな場所を巡って来たけど、話の合う友だちが出来たのは初めてだって言ってたじゃないか」


シフォンケーキの言葉で心が揺れたけど、あたしは首を横に振った。


「あたしは行かなきゃいけないの」


「一体どうして?ちゃんとわかってる?もしお前がここを離れたら、それは皇室を拒絶したことになる。つまり皇室に恥をかかせたってことだ。姫は絶対にもうムースに会わせてくれないと思う、俺たちが顔を合わせるのはこれが最後になるかもしれないんだぞ!」


「……あたしには行かなきゃいけない理由があるの」


「あるなら言ってみろよ!」


彼らが頑なに聞こうとしているのを見て、あたしは折れた。


「わかった、別に隠さなきゃいけないことでもないから教えるわ」

Ⅱダンス

あたしはパエリア。「ファヤ」はあたしを召喚してくれた御侍がつけてくれた名前だ。


食霊は人間と外見こそ似ているけれど、不老不死と言われる種族だ。


でもあたしからすると、時間は放浪するためのもの、身体は踊るためのもの、そして命は今を楽しむためのものだ。


こんな風に毎日を過ごせるなら、不老不死なんてどうだっていい。


でもいつかあたしが消えてしまう日がやってきて、何か未練があるとしたら、きっとダンスなんだと思う。


あたしが召喚された日、御侍は踊っていた。

残念ながら、あたしはそのダンスの半分しか見れなかった。


その日、あたしは虚空の中で激しい旋律を聞いた。


その瞬間、心臓が鼓動を始め、目を開けると大きなステージが視界に飛び込んできた。


いや、祭壇と呼んだ方がいいかもしれない……その高台の周りには、段ボールで作られたカラフルな人形が並んでいた。


乱雑に積み上げられていた人形は、色んな形、様々な色をしていた。まだ観察を終えていないのに、目の前に炎が立ち上り、人形たちは真っ赤に焼けてしまった。


赤い垂れ幕のように、高台を覆った。


背後から耳をつんざくような叫び声が聞こえてきた。振り返ると、高台の周りは人で埋め尽くされていた。彼らはこの高台を取り囲むように歓声を上げ、あたしには聞き取れない言葉を叫んでいた。


彼らの視線を追って高台を見ると、炎の垂れ幕越しに踊っている巫女が見えた。


赤いロングドレスを着ている彼女は、周囲で燃え盛っている炎よりも熱く激しく舞っていた。


あたしは彼女をぼんやりと眺めていた。彼女はあたしの御侍で、彼女とあたしの間に魂の契約があるのはわかっていた。


彼女の踊りに連動して胸が高鳴る。彼女が危険な状況に陥っていることはわかっていた、助けなきゃと心が叫んでいたけど、足は根が生えたように動かない。


彼女も助けを呼ぶことはしなかった。ただ踊って、踊って、炎の垂れ幕に囲まれていることを厭わず踊った。


目に見えない枠組みから飛び出ようとしてるみたいだった。自分の魂全部を使って踊っているみたいだった。


あたしは耳を壊す程の歓声の中、彼女が自分を燃やしていくのをただぼんやりと眺めることしかできなかった。


最後、完全に炎に呑まれる前彼女はふとあたしの方を見た。


「ファヤ、良い子、ここから離れなさい!」


この言葉だけを残して、彼女は炎の一部となり消えてしまった。


あたしと御侍の繋がりはここで途切れた。ファヤという名前以外、あたしは何も知らない。


だけど半分しか見られていないあのダンスを忘れることはなかった。


美しすぎたそれを、あたしは半分しか知らない。いくら記憶の中の映像を頼りに組み立てようとしても、何かが足りない気がしてしまう。


あのダンスを完成させるために、あたしは色んなところに行った。どこかに素敵な踊り手がいると聞いたら、なりふり構わず会いに行き、教えを請い、切磋琢磨した。でもあのダンスを理解できる人や、あのダンスのような色を出せる人に出会うことはなかった。


そしてこの過程で、あたしの名前を知ってくれる人も増えた。


彼らはあたしのことを放浪のダンサーと呼んだ。あたしのステージを見るために大金を掛け、長い時間待ってくれた。


しかし彼らがそうすればするほど、あたしの人間への失望は増幅した。彼らはお金と時間以外で、何か価値のあるものを出せない。


御侍の半分しか見られなかったダンスの中で、あたしはあるものを見た。どう言葉にしたらいいかわからないけれど、それはお金や時間よりも価値があり、魂を戦慄させてくれる。

それを見つけるためなら、どれだけ時間を掛けても構わないし、どこまでも歩いて行こうと決心した。


そして三か月前、ミドガルに来た時、あたしを奮い立たせるある手掛かりを見つけた。


食霊大会のポスターに、小さな印が描かれているのを見つけた。ドレスの裾を掴んで踊っている人の形のようにも、満開のサフランのようにも見えた。


あたしはこの図案を見たことがあった。御侍が消えた高台、この印が描かれた一部だけ不思議と炎に呑まれずに済んだのだ。


あたしは迷わず大会に参加した。あたしが頑張ったのは、優勝や富のためではなく、大会の創始者に会うためだった。どうしてこの印を使っているのか、あたしの御侍に会ったことがあるのではないか、あのダンスの続きを見たことがあるのではないかと、聞きたいことが山程あったのだ。


「……フッ、だけど大会が終わった後、責任者に聞いたら創始者はもう長年ミドガルに帰ってきていないそうなの。ここでやっと気付いたわ、彼らはその創始者を餌にしてあたしを誘き寄せたってことに。あたしを大会に参加させ、あたしを目玉にチケットを高値で売りさばいてたんだ」


「更に皇室のために踊るよう強制するなんて、バカげた話だわ」

あたしが言い捨てるのを聞いて、ムースはしばらく黙り込んだ。


「ファヤ、君が探していたロックさんは確かにしばらく見ていないし、誰も彼の居場所を知らない。近年の食霊大会は、彼が委託した団体が受け持っている」


あたしは手を振った。

「もう良いわ。いつか彼が帰ってきたら、その時に手伝ってくれれば……いや――シフォンケーキ!きちんと情報収集してよね。もし彼が帰ってきたのに連絡をよこさなかったら、命はないと思いなさい!」


「なんだ?それが人にものを頼む態度か?」


「なに?」あたしは手首を軽く捻る。


「……わかったわかった!手伝えばいいんだろ!こええよ!」


変顔をしたシフォンケーキを見て、また怒りが湧いてきたその時――


「……ファヤ」


しばらく沈黙していたムースケーキが急に声をかけてきた。あたしはシフォンケーキとじゃれ合うのをやめて彼に向き合う。


「これから連絡できなくなるけれど……君を助けたいんだ」


「ありがとうムース……」

彼の誠実な目を見てあたしは心の中でため息をついた。


「でも姫様があたしのことをお気に召さないのなら、無理してあたしと付き合わなくてもいいよ。安心して、あんたはずっとあたしの友人だわ」


ムースケーキは苦笑いした。


「僕の状況を理解してくれてありがとう。僕が言いたかったのは、これから君を助けるのは難しくなるけれど……あのダンスに関して、今の僕に何か出来るかもしれない」


「え?」


「姫様は各国の優秀なダンス講師を招いて、僕に授業を受けさせたことがある……全てを習得したとは言えないけれど、もしかしたら同じ流派のダンスを学んだことがあるかもしれない」


「ファヤ、僕の前であのダンスを披露してくれるなら、もしかすると助けてあげられるかもしれないよ」

Ⅲ狂人

ムースケーキがあたしを助けてくれるって言ってくれて、とても嬉しかった。


シフォンケーキは彼のアコーディオンを手にして、リズムを刻んでくれた。


陽気な音楽が奏でられた。あたしはドレスの裾を掴んで、ポーズを決めてから踊り始めた。ドレスを振りながら、あの日の思い出に浸る。まるであの日に戻ったような気がした。周りで炎が燃え上がっていて、あたしの世界には高台で踊る御侍一人しかいない。


段々と現実を忘れ、自分のダンスに夢中になった……


「ムース?え、泣いてるの?……どこ行くんだ?おいっ――」


突然止まった音楽につられ、あたしも我に返った。気が付くとムースは自分を引き止めようとしたシフォンケーキを振り払い、外に飛び出していった。


驚いたけれど、急いでシフォンケーキの後を追いかけた。だけど入口に着くとシフォンケーキが立っているだけで、ムースケーキはどこにもいなかった。


「ムースは?」

「見てただろ、どっか行ったんだ」

「バカ!どうして追いかけなかったのよ!」

「お前こそバカだ!彼はきっとお前と絶交しなきゃいけないことを思い出していたんだ……可哀想すぎる、姫みたいな御侍に出会ってしまうなんて、プレッシャーが凄いんだ……悲しんでいる時に、友だちに見られたら恥ずかしいだろう……一人にさせてやれ」


「……そんな簡単な話じゃないわ」

「え?」

「……さっき、話していないことがあるわ」

「なんだ……おい、そんな険しい顔をするな、どうした」


あたしは一つ深呼吸してから口を開いた。


「さっき、御侍はこのダンスを踊り終える前に、炎に焼かれてしまったって教えたわね。だからあたしはそこを離れて、このダンスに関する記録を残した……どうして高台を囲んでいた人間たちに聞かなかったか、気にならない?」


「そうだな――」

シフォンケーキは自分の頭を叩く。

「じゃあ今聞く、どうしてだ?」


「その人間たちは全員狂ってしまったわ」


「そうか、狂ったのか……は?狂った???」


そう、狂ったのだ。

あたしは一部始終を全て見ていた。


御侍は高台の上で踊った。彼女の踊るスピードは次第に速くなり、少しずつ紫色の「火種」になっていった。


あの怪しげな火花は彼女が踊っている場所から広がり、カラフルな人形に踊りかかった後、高台を囲む人間たちにも飛び移った。


けれど、その火花が見えたのはあたししかいなかった。彼らは気付かないまま、高台にいる御侍を熱狂的に擁護していた。


彼女が炎に呑まれた後、あたしが我に返って振り向くと、周りの人間たちは狂い始めていた。彼らはたいまつをもって自分たちの家に火を点け、終わりのない炎の中で歓声を上げていた。


彼らは全員理性のない化け物になってしまった。あたしの言葉は一切届かない。どれだけ御侍とあのダンスのことを聞いても答えは返ってこない。だからあたしは謎を抱えたままその狂ってた村を出た。


「ちょっと待て、つまり……さっきのムース……彼もお前のダンスを見たからおかしくなったっていうのか?じゃあ、どうして俺は無事なんだ?」


あたしは首を横に振った。


「あたしは鏡に向かって数えきれない程このダンスを踊ったし、他の人の前でも踊ったことがある。だけどなんともなかったわ……まさか……とにかく、早く彼を見つけないと!」


ゴロゴロゴロ――


シフォンケーキと話し合っていざムースケーキを探そうとした瞬間、雷が鳴った。

顔を上げると、空は雨雲に覆われていた――

もうすぐ雨が降る。


土砂降りは一晩振り続けた。


ムースケーキが行きそうな場所全部を回ったけれど、彼を見つけることはできなかった。


朝になったらシフォンケーキと落ち合う約束をしていたから、急いで家に帰った。


あたしが疲れ切って家に戻った時、一人ぼっちで立っているシフォンケーキが見えた。


彼はあたしが一人で帰ってきたのを見て、絶望した顔で叫んだ。


「どうしよう、本当に消えた!」


あたしは歯を食いしばって、来た道を戻ろうとした。だけど彼に腕を掴まれた。


「何するつもりだ?」


「探しに行くわ!」


「二人でできることは限られている、新聞に尋ね人の提示をしよう!」


「なんですって?」


「皆の力を借りよう!ムースがいなくなったって知ったら、ミドガルの若い女の子たちはきっと自発的に探してくれるぜ!」


「……」


あたしは黙り込んで考えてみたけど、確かに良いアイデアかもしれない。


この時、ギシッっと音が鳴った。音のする方を見ると、ドアが開いていた。あたしとシフォンケーキは同時にドアの方を見ると、中にムースケーキが立っていて、あたしたちを見ていた。


「君たちの声が聞こえてきて……新聞?ちょっと―ー待って!」


シフォンケーキムースケーキに向かって突進し、ムースの肩を掴んで揺さぶりながら叫ぶ。


「お前なあ!どこに行ってたんだ!何かあったのかと思ったぜ!」


「今は無事だが、このまま揺さぶり続けたらどうにかなってしまいますよ」


「えっ!?」


知らない声が聞こえ、シフォンケーキは驚いていた。


ムースケーキの背後から白い髪の男性が現れた。彼は眼鏡を掛けていて、笑顔を浮かべている。そして興味津々にあたしを見ていた。


「はじめまして。あなたがファヤさんですか?」


「どちら様でしょうか?」


あたしは彼の視線に晒されて鳥肌が立った、だけどムースは笑っていた。


「ファヤ、彼こそ君が探していたロックさんだ」


それを聞いて、あたしは目を見開いた。

Ⅳ精霊

ムースケーキは自分がどのようにして出て行ったのか覚えていないと言った。目が覚めたら郊外で迷っていて、自分がどこにいるのかすらわからなかったそうだ。

その時ヴァイオリンの音が聞こえてきて、音のする方へと向かうとある別荘を見つけた。
その持ち主こそロックさんだという。

「まさかミドガルに帰って来てすぐひとを拾うことになるとは思いませんでした」

ロックは笑った。

ムースケーキは照れ臭そうに鼻をなでた。

「お見苦しいところをすみません、昨日は少し様子がおかしかったみたいなんです……」

「だからやっぱりあのダンスに問題があるんだって!」

そう叫ぶシフォンケーキをよそに、ムースケーキはあたしに話しかけた。

「シフォン、僕と先に退散しよう。ロックさんはファヤに大事な話があるみたいだ」

ムースケーキシフォンケーキを見送ると、部屋はあたしとロックだけが残った。


確かに彼に聞きたいことは山ほどある。例えば、どこからあの印を知ったのか、どうして食霊大会のシンボルにしたのか、あの印にはどんな意味があるのか。

だけれど、ロックの方が慌てて先に口を開いた。

「ファヤさん、突然お邪魔して申し訳ありません。ムースケーキから聞いたのですが、食霊大会のシンボルを見かけたことがあるというのは本当でしょうか?」

あたしが頷くと、彼の目が光ったように見えた。

その目を良く知っている、それは謎を探している目だ。

彼はあたしと同じように、謎に囚われている人だとわかった。

「知っていることを全部話すわ。だけど、あんたも知っていることを全て話してちょうだい」

「もちろんです」

そして御侍のダンスとあの炎、それから狂った村人たちのことを全て話すと、ロックの顔色が変わった。

しばらくの沈黙の後。

「……ファヤさん、精霊族の存在を信じますか?」

「……精霊?」

「ええ、貴方の御侍は精霊族と関係があるのではないかと思います」

……

精霊の存在はティアラでは誰もが知っているが、かつての文明に存在した種族だと思われている。人類紀元の始まりは、精霊王朝の滅亡を起点としたものだ。

しかしロックの言葉によると、精霊は消えていない。彼らは正体を隠し、今も生きているという。

ロックがそう確信している理由は、彼自身こそ世間から隠れている精霊郷で生まれ、正体は「ブルーチーズ」という名の食霊だからだ。

ブルーチーズは、精霊に助けられたことがある。その後、精霊が一方的に彼とのつながりを着られたため、彼は彼らの足跡を探しているのだという。

「精霊を探すために、この印をシンボルにしたのね?」

「精霊語で、この印は招集、召喚を意味します。これを見分けられる精霊、或いは私と同じように妖精郷から召喚された食霊を見つけるためにシンボルにしました」

「貴方の御侍はもしかすると難局に対面したため、この印とある精霊魔法を使って無理やり貴方を召喚したのかもしれません。しかしこれは推測に過ぎません、何が起こったかは、村に帰ってみないとわかりません」

あたしは少しだけショックを受けた。何か進展があったのかと思えば、またこんな結果だったとは。

「落ち込まないでください。精霊の文字が出現したことのある場所ですし、私もその村の調査に行こうと思っています。良ければ一緒に行きませんか?」

「どうしてあたしが?」

ブルーのチーズは少し驚いた。

「御侍と自分が、精霊とどう関係しているのか知りたくないのですか?」

「どうでもいいわ、あたしはただあのダンスを完成させたいだけよ」

ブルーのチーズはまた驚いた顔をした。そしてしばらくすると、クスっと笑った。

「過去を忘れて、現在を楽しんでいるのですか……さすが"ファヤ"さん、貴方の御侍が付けたこのお名前は、貴方にこそ相応しい」

あたしは顔をしかめた。
「どういう意味かしら?」

「偶然かどうかわかりませんが」

ブルーチーズはシルクハットをかぶり直し、あたしにウィンクをしてこう言った。

「精霊語にも、ファヤという単語があります」

「精霊語で、ファヤの意味は……"自由"です」

Ⅴパエリア

かつてティアラ大陸のどこかに、閉鎖的な村があった。

そこに食霊はいないため、人々は堕神の脅威に苦しんでいた。

ある日、どこからともなく一人の女性が村にやってきた。長い間客が来なかった村の住民たちは彼女をあたたかく迎え、この村で一番の料理である──パエリアを彼女に振舞った。

女性が美食を満喫していると、村はまた堕神に襲われることとなった。

人々はいつものように家の中に逃げ込んだが、放浪の旅を続けてきた女性は怯えることはなかった。彼女は手に持っていた鈴を振り、不思議なダンスを踊った。すると、堕神たちは逃げて行った。

なんと、女性は流浪の巫女だったのだ。彼女の一族は精霊と人間の混血で、強力な魔法は使えないが、寿命は人間を超えている。彼女たちのダンスは悪念を払い、幸運を祈る。普通の堕神に対抗することも出来、自分の身を守ることが出来る。

女性は一飯の恩を返すため、村のために堕神を追い払った。だけど村人たちには別の思惑が湧き出た。

彼女に、村の守り神として永遠にここにいるよう願ったのだ。

女性はもちろん断った。すると村人たちは彼女を捕え、拘束した。

自分のダンスで凶悪な堕神を退治し、危険が蔓延るこの世から自分の身を守りながら流浪出来ると彼女は思っていた。

しかし、この世で一番怖いのは堕神ではなく、人間の心に巣食う悪だったのだ。

どれくらい拘束され、どんな虐待を受けたのか、誰にもわからない。

結局、女性は妥協した。

彼女は村人を守るために残ることに同意し、一つの祭りを提案した。

彼女は村人たちに、堕神は人間の怠惰から生まれたものであり、堕神が現れないためには自分の家の古い家具や不用品、古物がなければ色とりどりの彫刻を作って火祭りを行えば良いと伝えた。

祭り当日、巫女である女性は祈りのダンスを踊るため村人全員に見に来るように言った。そうすれば、皆が堕神の脅威に怯えなくて済むと。

村人たちは喜んで巫女の提案を受け入れ、高台を建て、火祭りに必要な彫刻や人形を家に敷き詰めた。

準備が整うと、女性は高台に登り、祭りを始めた。

これは特別なダンスだった。

流浪の巫女たちの間で代々伝わっている言葉があった。
「もしある日流浪の権利を奪われたら、この命のダンスで最後の自由を踊りなさい」

誰も女性が何を思っていたのかわからない、満天の火花の中誕生したパエリアだけが彼女の宣言を聞いた。

「ファヤ、ここから離れなさい!」

たとえ燃え尽きても、彼女は自由を貫き通した。

……

……



パエリアは鼻歌を歌いながらシフォンケーキの屋敷に向かった。

彼女は上機嫌だった。

国王陛下の老執事は懲りずにまたやってきて、彼女に更なる報酬を約束すると同時に、拒否したらグルイラオのステージに立てなくすると脅してきたが、彼女はこれを気にも留めない。

ブルーチーズから、彼女が探していた答え──時間よりもお金よりも価値のある、魂に戦慄を与えるもの、「自由」を見つけたから。

長い間、あのダンスの最高の振り付けを探すことに執着してきた。完璧な振り付けを見つけるために、多くの優れた振付師に助言を求めてきたが、いつも物足りなさを感じていた。

あのダンスは御侍の自由への渇望であり、振り付けなんてものはあってはならない、その時々に心境に合わせて臨機応変に踊るべきだと、彼女はやっとわかったのだ。

自由こそ最も大切なものであり、どんな様式化されたものであっても相応しくない。どんなに華やかなステージであっても、強い権力を持った者がいても、彼女を縛り付けることは出来ない。

彼女はシフォンケーキに別れを告げて、すぐにミドガルを出ることを決めた。

彼の屋敷にやって来たパエリアだが、不思議なことに、今日の屋敷の門は閉ざされていて、衛兵が立ち塞がっていた。

「帰れ!帰れ!」

衛兵は彼女が近づくのを見て、すぐさま追い払った。

パエリアは不吉な予感を覚え、門から離れた。そして路地に入り、壁を乗り越えて直接屋敷に入っていった。

普段は歌や踊りに満ちていた屋敷に活気がまったくなかった。パエリアはがらんとしたロビーでシフォンケーキを見つけた。

彼は俯きながら座っていて、まるで別人のように魂が抜けているように見えた。

「ねえ、どうしたの?」

パエリアは困惑した声で彼に問いかけた。

「ファヤ……」
「え?」

パエリアは驚いた、シフォンケーキはいつも彼女のことをパエリアと呼んでいたから、どう見ても様子がおかしい。

「……御侍が……死んだ」
「なんですって?どういうこと?」
「わからない……」
「なら、ムースは?こんな大事、彼は知っているの?」


昔話はいつも唐突に終わる。
パエリアに関するもう一つのステージは、まだ始まったばかりだ……



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