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羊かん・エピソード

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羊かんのエピソード

優しく、神々しい風貌だが、実は執念深く、自己中心的。

他人の負の感情に共鳴しやすい特性を持っているため、いつも苦しんでいる。苦しみから逃れたいがゆえに、悲しみのない世界を創造する事に執着している。この目標を達成するためなら、手段を選ばない。


Ⅰ 空洞

この世界にやって来た瞬間、まるで蜜に浸っているような心地だった。

甘美な喜び、熱烈な期待、抑えきれない渇き……


言い表せないような感情が複雑に絡み合い、潮水のように私を呑み込んでいく。

胸のどこかがあたたかな感覚で満たされる。

見知らぬ顔を一つずつ見ながら、私は彼らに微笑み返さずにはいられなかった。


「やった!やりました!これで儀式は予定通りおこなえます!」

「彼は、本当に巫女様の代わりになるのでしょうか?万が一……」


巫女?代わり?


彼らがこんなにも喜んでいるのは、私が巫女の代わりだから?


「儀式を、早く儀式を始めてください!」

熱狂的な目をした人々によって奇妙な衣装を着せられ、鈴がたくさんついた飾りを手渡された。

その飾りを見つめたまま、どうすれば良いかさっぱりわからない。

ただ不安が胸に広がる感覚だけがあって、それは狂ったように次の行動に移すよう急き立ててきた。


彼らは一体、私に何をして欲しいのだろうか?

手にした飾りを振ってみたが、鈴は鳴らなかった。


「神楽鈴が鳴らない?!」

「ど、どうして、どうしてこんなことに!」

「失敗だーーやはり彼は巫女様の代わりにはなれないーー」

「おしまいだ、私たちはもうおしまいだ!」


胸をギュッと締め付ける圧迫感に実体があるかのように、大きな山となり私の息を詰まらせる。

あまりの落差に訳がわからなくなり、全身が冷水を被ったように冷たくなった。


もう何もかも終わりだ……


ーー氷のように冷たくなった心から果てしない絶望がわき上がる。けれど、私はどうしてそう思うのだろうか?


いつの間にか、涙が頬を濡らしていた。


どうして?

どうしてこんなに悲しいんだ?


怒り、絶望、喪失、憤り……無数の負の感情が襲い掛かってきて、それらがごちゃ混ぜになっていく。

痺れに似た感覚が全身に広がり、胸も苦しくなり、四肢が小刻みに痙攣し出した。


クズ。

役立たず。

死ね!

……


心の底から残酷な悪意が浮かんできた、私はどうしてそう思うのだろうか?

いや、これは私の言葉じゃない。

なら、この「感情」は誰のものだ?


改めて人々に目をやると、彼らの顔から笑みが消えていた。


彼らと目が合った瞬間、気付いてしまった……

__この悪意の源は、私を召喚した人間だ。


最初の温もりは一瞬の幻だったのだ、ささくれ立った悪意こそが常。


消えろ、全部消えろ。

約立たずは死ぬべきだ……

俺たちの感情と期待を無駄にした奴は、この世に存在する資格などない!


悪意のこもった目が赤裸々に私を見つめていた。

途切れることのない負の感情が脳裏に押し寄せ、私は次第に意識を失っていった。


黒い雲は急速に凝結して、墨のような黒い雨が降り注ぐ。


「ああーー!!!手が、手が!!!」

「ここらか逃げろ!黒い雨に触れるな!!!!!」


降り止まない黒い雨の中、悲鳴が絶え間なく聞こえてくる

ただ、先程まであった息が詰まるような恐怖は……

消えた……


全部……

気持ちの悪い感覚は……

全部なくなっていく……


気がつくと、雨は止んだが空は暗いままで、黒い雲が依然として漂っている……


周りには……何故か誰もいない……


私の心は空っぽになった。

先程まで満たしていたもの、狂わしてきたもの、悲しませてきたものは……


もうない……

何も……ない……


私の胸は……何か足りないのではないか……

あの喜びも苦しみも、何もかも……私のものじゃないのか?


Ⅱ 暴走

……

痛い……

痛いよ……

痛い……

誰か、助けて……

助けてくれ……

助けてくれ……

……

殺してやる!

殺してやる!

絶対に殺してやる……

……イヤ!私は、死にたくない……

死にたくない……

……


長い夢から再び目を覚ました時、私はまだ元の場所に立っていた。


夢の中の私は、何度も人を殺し、何度も人に殺されたようだった。

でも、それは私ではなかった。


無数の感情が入り混じり、空っぽになった私の胸を埋めていく。


それから?


それから、黒い雨が世界を染め、私は何も見えなくなった。

私は泣くのを笑うのを繰り返した。


そんな意味のない感情は、今でも胸に残っている。

どうして私はこんなに苦しまなければならないんだ?


「やはり私の占いは当たっていたのか……残念なのは、少し遅れたってことかな」


その言葉が聞こえてきたと同時に、胸には微かな後ろめたさが込み上げてきた。しかしそれ以上に柔らかくあたたかな気持ちがあった。

これが一体どういう感覚なのかはわからないが……私を苦しめるものではなかった。

反射的に顔を上げ、声の主を見た。


「私は最中、優秀な占星術師だ。貴方の名前は?」

「__おっと少しだけ待ってくれ、占ってみよう……豆羹さん?それとも豆餅さん?」


「私は羊かん……」

「コホンッ、おお、羊かんさんか、俺の占いが間違っていなければ、さっきあの人たちを消したのは貴方だろう?ああ……安心してくれ、私に悪意はない」

「……」

「星象が示す通りに、わざわざここに足を運んだわけさ!私と共に星象館に行こう、貴方が抱えている問題を共に解決しようじゃないか」


占星術師と名乗った青年は私に微笑みかける。

その笑顔は熱いものではなかったが、私を安心させてくれた。

それは人間の複雑な感情とはまったく異なるもので、私は思わず彼の言葉に頷いた。


最中は話すのが好きみたいだ、彼がよく見せるだらしなさと自己満足は私には理解できない。

人間が住んでいる町はなるべく避けて移動したが、それでも人間は不意に現れる。


「あいつだ!あいつが村中の人間を殺したんだ!怪物だ!!!」

「怪物が来た!逃げろー!」

「いや、殺せ、みんなであいつを殺すんだーー」


炎のような燃える憎しみと、風のように刺す絶望が、体を付き纏った。

まるで胸が強打されたように息が詰まりわそれに伴う息苦しさに気が遠くなりそうだった。


気持ち悪い、気持ち悪い……

私はここから離れるんだ……


今までの人たちからは、これほどに強い「感情」を感じ取れなかった。

私の中の「感情」は、いつも猛獣のようにいがみ合っていたが、今回ばかりは自分の意識がはっきりしていた。


消えろ、全部消えろ!

私を苦しめる者は、みんな消えてしまえばいい!!!


再び黒い雲が凝結した。一同の狼狽ぶりを見ても、私は愉快な気分にはなれなかった。

恐怖が、絶望が、苦痛が凝り固まって、ただでさえ空っぽの胸を灼いた。


全てを蝕む黒い雨で、この業火を消し、鎮めたかっただけなのに。


「やめろーーそんなことをしたら、もう後戻りはできないぞ!」

「後戻り?どこへ戻るというのだ?皆殺しにしてしまえば、また前に進めるだろう」

「やめてくれ、今回は別に暴走をしていないのだろう」

「……どうして?この悪意は彼らが持ってきたものだ、その源を消すことに何か問題があるんだ?」


そう言った時の最中の表情は、言葉では表せないが、楽しそうな様子ではなかった。


私は間違った事をしているとは思わない。

__間違っているのは私ではなく、私を苦しめる奴らだ。


「はぁ……そう簡単にはいかないと思っていたけど、こうなったら仕方がない、貴方を捕まえるしかないな」

「どうして?」

「安心しろ、感情に左右されない場所にしばらく行ってもらうだけだ……」

「……どうして?悪いのは私ではないだろう!」


疑問をぶつけているが、内心では疑問には思っていなかった。


むしろ、すぐそこにいる人間たちの生き長らえる喜びに取って代わられた。

吐き気を催すような、自己中心的な欲望の入り混じった喜びに、私は息が詰まった。


……人間の罪は深い……

彼らのせいで、この世は苦しみに満ちている。


Ⅲ 同類

その日、黒い雨は降らなかった、だけど周囲の人間たちは同時に奇妙な死を遂げた。

人混みの中に隠れていた何者かが最中をどこかに引きつけて行った。混乱の中、私は彼の姿を確認出来なかった。

ぼんやりと、表情だけ覚えている。


それから、私はこの大地を宛もなく彷徨い歩いた。

しかし、どこへ行っても私は苦しかった。


風の音、雨の音、悲鳴。

何もかもが耳の中でぐるぐると鳴り響いていた。


この地には、そんな絶望的な感情が溢れかえっている。

人間は不幸を作り出し、その不幸がまた新たな絶望をもたらす。


それらの絶望が、今も胸に込み上げてきて、私に安心する隙を与えない。


茜色の空には飛ぶ鳥はない、緋色の大地には累々たる屍があった。血の色に染まった人間たちが殺し合っている。人々はこの煉獄を戦場、赤い戦場と呼んだ……


赤の中、息が出来ない程の「感情」が生まれた……


なんて不吉な色だ。

どうすれば消えるのだろうか?

どうすればこの押しつぶされそうな絶望を取り除くことが出来るのだろうか?


そうだ……あの時と同じように……

この人間たちを消してしまえば、それでいいのではないか?


雨は降り続いている、人間はみんないなくなった。

だけど……胸の痛みは消えない。


黒い雨の中から、一つの人影が少しずつはっきりと見えてきた。遠くからゆっくりと近づいて来ている……


人……間?

いや、胸に伝わってくる子の純粋で穢れのない感情は、人間のものではない。


彼が近づいてくるたびに息が詰まる。

その暗黒に近い絶望が私を襲った。


黒い雨が再び現れ、全てを溶かしてくれると思っていた。

でも……まだ彼はそこにいる。


空っぽの胸が、何かで塞がれたような感覚がする。

私は彼を見極めようと努力した。


顔には血が飛び散っており、長い髪はとっくに赤く染まっている。全身は黒い雨に侵蝕されて、ボロボロになっていた。

だが、彼は叫ぶことも、もがくこともなく、内に秘めた怒りと憎しみだけが溢れた。


少しずつ近づいてくる、一瞬だけはっきりと彼が見えた、だけどーー

どうして、そんな顔をしているのだろう?


「あなたは何者?」

「どうしてこんな時に、笑うの?」


疲れてしまったのか、私はゆっくりと目を閉じた。

先程見えた彼の表情と、赤色の中一際深淵のように暗い目を思い出していた……


「いったい何者なのだろう……」

「どうして知っているの……この行き場のない絶望を……」


世界はゆっくりと真っ黒に染まっていった。

その静かな闇の中で、記憶の中にあった血まみれの笑顔が急にはっきりと浮かび上がった。


「また会ったね……僕は水無月だよ」


……水無月

そうだ、あの日最中をどこかに連れて行った者だ。


「悪行をもたらす報いを人間に与える時が来た、そうだろう?」

「たとえ世界から恐れられ、嫌われても、復讐さえ出来れば、それでいいんだ!」


水無月は微笑んだ、それでも彼の激しい憎悪が感じられた。


彼の過去を詮索する気はない。

しかし、同類に会えたようだ。


この先には地獄への道しかないことを知りながら、そこに向かおうとしている。

私は……苦痛のない世界を作る!


Ⅳ 無光

この罪深い大地には、いつの間にか多くの災厄が起きるようになった。

人間はこれらの災厄を総じて「心災」と呼んだ。


心災が横行する度、水無月は笑って褒め称えた。


「これは巫女様からの罰だ!あいつらが巫女様を殺してしまった罰だ!」


水無月と自分の違いにも、段々と気がついてきた。


水無月は「復讐」に囚われているがわ私は全ての罪を嫌っている。

しかし、それは私たちが共に人間を浄化することへの妨げにはならない。


__私が疲れ始めるまでは。


どうして最中のようなこんなにたくさんの食霊が、人間を守るために必死になっているのかわからない。

彼らは人間に惑わされているのか?これは人間を完全に消さなければ解決出来ないのだろうか?


善良は罪悪に駆り立てられ、食霊は人間に対する愛着を捨てきれない。

私は奴隷となっていた無数の食霊を救ったが、彼らの中で私を認めてくれる者は極僅かしかいない。


__それでも、自分が間違っているとは思わない。

偉大な道を歩むことを誰しもが理解できる訳ではない、いつか人間も苦痛もない世界を作りたい。


人間が次々と災いを、混乱を、苦痛をもたらすのを見て、私は少し疲れていた。

絶えることがない。


更に壮大な計画が必要だ。


……再び目を開けた時、辺りは見慣れた闇が広がっていた。

ここは森で、私はここを「無光」と名付けた。


こここそ、水無月との約束の出発点でもあった。

ここで全体の構想を描いていく。


始めてきた時、ここはただの深い森だった。

ほとんど人影がもない。

嫌いな人間から逃れられる良い場所だ。


「貴方の願いは誰にも邪魔されないことですか?では、その願いを叶えてさしあげましょうーー」

いつだったか、私が一人で彷徨っていると、森の奥から女性の優しい声が聞こえてきた。


そしてすぐに、この森は全ての光を失った。

人間だけでなく、動物すらもここでは生きられなくなった。


そして、その女性の声は時々聞こえてきた。

例え彼女が何を言っても、私は何の感情も湧き上がらなかった。


「兄様、どこにいるんですか?会いたいです……」

「もう支えきれません、兄様、兄様……」


囁くような声が広がり、光のない森を彩る。

私はそれをうるさいとしか思わない。


その時に私は、自分が本当に望んでいる事の一歩手前まで来ていることに、気づいてはいなかった。


Ⅴ 羊かん

戦乱と災禍によって多くの歴史は埋もれていく。

大巫女に仕えた極一部の家系の子孫だけが、一つの伝説を知っている。


人間が神の怒りを買い、天罰を下され、桜の島の土地の半分が失われたという伝説。


幸い、長年神に仕えてきた双子の巫女がいた。

彼女たちは天機に精通し、蒼生を救うため、天に逆らうことを決めた。


彼女たちは天沼矛(あめのぬぼこ)を手に入れ、海と共鳴させた。

そして矛の先端から滴る潮が溜まり、島となった。


半分の土地を失った人間たちは、ようやく新たな土地を手に入れ、それを耕し、生活を始めた。


しかし、神様は自分が作った土地しかこの世に存在することを許さない。


人々が生きていけるように、巫女たちは極めて難しい判断をした。

__彼女たちは自分たちの力で神様を欺くことにしたのだ。


双子の巫女はそれから、離れ離れとなり、それぞれで半分の島を守ることにした。

二人は五十年という期限を約束し、神楽の舞を合図とした。

二つの島を入れ替え、半分は「現世」に浮かび、残りの半分は「黄泉」に隠れる。


「黄泉」の全ては「現世」と変わらない。と伝えられている。

ただ、黄泉にいる時、島に住む人々はあの空高く懸かる月を失ってしまうという……

双子の巫女が作った島を誰も見たことがない、所謂神楽の舞も忘れられようとしている。

人間が知っている歴史の中で、月を失った記録はない。

そして「黄泉」にまつわる全ても、ただの伝説として語り継がれてきた。


「お前が言いたいのはそのくだらない伝説のことか?」

羊かんは疲れていた。水無月が語ったこの物語にも、あまり興味がない。


「いやそれだけではない。僕が伝えたいのは、これは単なる伝説ではないということ。少なくとも大巫女は実在していたんだ」

水無月は爽やかに笑っていたが、それでも彼からは隠れた哀しみと憤りな感じられる。

ただ、時間が経つにつれて、その気持ちはどんどん沈澱していった。


「それに、首領にはどうしても叶えたい願いがあるじゃないか!」


羊かん水無月を見つめたまま、多くを語らなかった。

「より良い世界が欲しいだけだーーもしかしたら、それは人間のいない世界かもしれない」


「だからこそ、巫女様の力を借りる必要がある」

「……巫女?」

「記録者を覚えているか?」

「……いや」

「覚えていないならいい」


「……」

自分は怒っているのではないかとさえ思ったが、胸の中は空っぽのままで感情は冷え切っていた。


「彼らは世界中を走り回っている食霊の集まりで、見たこと全てを記録している」

「それで?」

羊かんはずっと前に納豆と名乗る男性が確かに無光の森に来て、自分に色々と質問していったことをぼんやりと思い出した。


「無光の森で誰かが願い事をしたら叶った、という話を記録したんだ」

「願い事?」

羊かんは自分の願いを叶え、森の光を失わせた柔らかな女性の声を思い出した。

自分の兄を呼び続ける女性の声を。


「具体的な理由はわからないが、この森には確かに双子の巫女の力が、願いを叶えてくれる力があるんだ」

「……しかし、その力が及ぶのはこの森のある範囲だけ、それだけでは足りない」

「安心して、わかったことがあるんだ。心災と願いの力は繋がっている、僕たちは心災の力を使って願いの範囲を拡大出来るかもしれない」


興奮している水無月を見ていると、羊かんはなんとも言えない気分になった。

「しかも最中の奴は、既に知らせを受けて、こっちに向かっているらしい。僕たちはただ餌が掛かるのを待っているだけで良いんだーー」


「ふふっ、それは実に愉快な話だな」

羊かんは無表情ではあるが、どこからともなく湧き上がって来た興奮という感情で胸を満たしていた。



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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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