清蒸武昌魚・エピソード
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清蒸武昌魚のエピソード
水のように澄んだ清々しい男性。他者に対する振舞いや言動は優しさを感じさせる。だが、本人はとても意志が強く理知的で、大志を抱いている。純粋さと頑固さと、忠誠心と理想を目指し過ぎるあまり、その狭間で苦しんだりする。そんな不器用で武骨な一面が魅力的。
Ⅰ.布局
「昌武、お前が私のとこに来て、もう三年か?」
彼は盤面へ叩きつけようと手にした黒石を掲げた時、俺へと目を向けてそう語り掛けてきた。その深い眼差しには、既に藻掻く感情は消え去っていた。
「三年にプラスして、一月と二十日ですよ」
既に勝負がついた盤面に視線を落とす。この古ぎつねは、この碁盤同様に死地へと追い込まれたのだ。もう形勢逆転はあり得ない。
「あぁ、随分と細かく覚えているのだな。これほどまでに策略を練り、お前は私についてきた。その日から、私は駒として使われていたようだな」
全力を尽くした古ぎつねは、黒石を盤上に叩きつけて、諦めたように眉を顰めた。
「そうかもしれませんね」
手にした白石を盤面に置く。黒石は、終ぞ敵軍を倒すことができなかった。
状況に甘んずることができねば、邪魔者を排除するしかない。
盤面を見つめて、古ぎつねの表情は硬直したままだが、もう何も言う必要はないだろう。
俺は、慈悲に溢れた男ではない。ましてや手を抜くような真似は主義に反する。彼も運に縋るような人間ではない。
「……その若さには、不似合いな深慮だな。完敗だ」
その語気から、無力感に打ちひしがれているのがわかった。
彼は、終幕した対局への興味を既に失っていた。皺だらけの顔が、なんとも複雑な表情へと変わる。
このような結末になったからだろうか。欺く様に導かれた俺にも、多くの思惑があったのだが。
(もうそれは、すべて俺には関係のないものだ……)
これが、彼と語らう最後の碁となるだろう。
これから進む道に、俺は決して動揺や破綻を築いてはならない。でなければ、すべてが水の泡と化す。
「お前が欲しいものは何だ。地位か?」
彼は鋭い眼差しを向けて呟いた。声は嗄れているものの、この古ぎつね最後の抗拒を見せている。この様子から、悔恨の念が見て取れた。
「貴方は、どう思われますか?」
目の前の古老は悪鬼の如く眼力を宿す。だが、今の俺には何の抑止力もない。
抗拒が、僅かに項垂れる。ようやく燻っていた闘争心を手放せたようで、その体躯を震わせて、ゆるりと立ち上がった。
そのとき、不意に扉が開かれる。品の良い身なりの青年が現れ、その後ろには数人の黒服を纏った男たちが、連なって待ちわびたかのように室内へと入ってきた。
「葉さん、お疲れ様です。良い碁を打てましたか?」
青年は恭しく襟を正し、古老に暖かな視線を向けてそう訊ねる。
そして青年は優雅な動きで手を伸ばす。だが、老人はそんな男の皮肉な仕草に目もくれず、足を前へと踏み出した。
重たい歩みで俺の横を通り過ぎる瞬間、彼はチラリと横目で俺を見る。だがすぐに前を向き、両手を腰の後ろに回して黒服の群れを割って扉から外へと出ていった。
そんな老人の背中を笑顔で見送って、青年が俺の前へと腰を下ろす。その顔には敬意の色が浮かぶ。そして彼は二杯分のお茶を淹れ、ひとつを俺に差し出す。
「さすが昌兄、なかなかの謀略家だな!あの古ぎつねを引きずり下ろすために三年もの間、よく辛抱できたものだよーーククッ、それにしても今回の打ち手は、実に鮮やかだった」
満足気に、したり顔でそう語る彼の笑顔からは、権力に対する野心や金銭への狂気、零和ゲームの勝者としての自信に満ち溢れている。
それは承天会に参入したときの『あの人』と同じであった。
「買い被らないでくれ」
彼の視線を感じながら、終局後の盤面を片付けていた。勝敗が決まったところで、そろそろ次の戦いへと動かねばならない……。
「今の葉派は牙の取れた虎だ。もうオレらに張り合える奴はいないだろうよ?いずれ承天会の全てがオレらの手に落ちるぞ!」そう彼は高らかに笑った。
「なぁ兄弟。お前には、既に次の一手があるよな?」
巨大な組織である承天会は、日常的に天衣無縫に動いている。今回のようなさざ波が立つことは珍しい。ならば当然、この男が良きタイミングで訪れたと思っても無理はない。
だが彼にこうした幻想を与えられてこそ、この対局は続けられる。何故なら俺の手中には、彼ほど優れた駒はいないのだから。
「昌兄、オレはお前に天部を継いでもらいたいと思っている」
やはり大した野心家だ。まずは天部の入手を目論んでいるとは。
この中核部隊の戦力は、承天会の半分を占めていた。そのメンバーは、貴族階級のエリートから選出されて統括されている。
承天会は、貴族階級の直系にあたる血縁者がその名の元に掌握している。この乱世では、武力こそ権利の象徴だ。
天部が承天会にどれほどの影響力を持っているかは、天部を手にするのがどれほど難しいかという事実からも推し量れる。
俺の持ち得る全てを投げ出しても、それを手にするのは無理だろう。それはこの男にも分かっている筈だ。
しかし今、確かにチャンスは巡ってきた。彼もそう思っているに違いない。
「天部はもう、昌兄が手に入れたも同然だ」
俺は碁盤を机の上にそっと戻した。その時、酒を二杯、盃いっぱいに注ぎ、俺へと勧めてきた。
「葉派は貴族階級の中でも、最も重要な柱の一つだ。反乱が起きた今、貴族の勢力は相当弱まっているだろうよ。だが、反乱は昌兄の手によって沈静した。その功績を持って天部を引き継ぐと言えば、不服を申し出る者はいないだろうよ」
そこで彼は盃を手に取る。「ごちゃごちゃ言う奴がいればオレが平伏せさせる。昌兄は順調に事が進んで天部を引き継ぐのを待つだけで良いんだ」
既に舞台は整っている。後は俺の返事を待つだけのようだ。「昌兄、アンタはこの計画をどう思う?」
俺の返事はわかっている、と言わんばかりに、彼は盃と盃を軽やかに当てる。俺はその澄んだ音を黙って聞き入る。
「言い返事を待ってるぜ、昌兄」
Ⅱ.中盤
「今回、葉派の件は随分と大騒ぎだったな。けど、いつものお前はこんなやり方しないよな?」
俺の隣に断りなく座った男が新聞を開き、意味ありげに、だが何事もないかのようにサラリとそう聞いてきた。
暫し『葉派の没落』の見出しの見える新聞を見ていたが、その視線は僅かに上を向き、俺の方へと向けられていた。
「目標は、天部だ」
もしこの世にまだ俺が警戒しない相手が僅かでもいるとすれば、彼ーー金華ハムは、間違いなくその一人だ。
俺の言葉に一瞬驚いた表情を見せるも、彼はすぐに冷静さを取り戻す。
「お前が急いでここに来たのは、そろそろ手に入れられそうだと見ているんだろう?」
「網はもう、完璧に張られた。そう『碎霄』に伝えさせてくれ、いよいよあの大物を引き上げるときが来たんだってな」
「少し待ってくれないか? 承天会はこっちの想像以上に手強い」
「待つ必要は、もうないだろ」
俺はひたひたに注がれたワイングラスを手に取って、勢いよくそれを飲み干した。
長年の潜伏期間に、様々な配置を試みた。これまでの薄氷を踏みながら一歩ずつ進めた歩みは誰かの犠牲を伴っていた。
俺はこの先、御侍が死ぬ直前の光景を忘れることはない。同様に、亡くなってしまった碎霄の仲間たちを忘れることもないだろう。
例えこの先が修羅の道だとしても、俺は最後まで突き進むしかない。
この次にやるべきことは決まっている。己の計画した通りに事を進めることだ。
天部の引き継ぎ、不要な釘を取り除く。そして、俺の側近に挿げ替え、完全に支配下に収める。
『碎霄』には、十分な準備期間を与えて、ようやく最後に『承天会』という猛虎を打ち負かせるのだ。
次に動かすべき駒について考えていると、耳元に灼熱に浮かされた男の言葉が届く。
「承天会を継いだら、いつかあの光耀大陸の神君の座でさえ、俺たち兄弟が交わす些細なものに過ぎないぜ」
その燃え盛る眼差しを見て、まるで九州ーー大陸全域を足元で踏みしめているかのように感じられた。
だが俺にはわかっている。結局それは、黄梁の夢に過ぎないことを。
「そんな日が、いつか来るといいな」
Ⅲ.寄せ
「昌武!!貴様、オレを裏切ったのか?まさか、オレを裏切っていたのか!?」
怒りの形相で、『昌兄』と俺のことを慕っていた青年が喚きだした。
「今のお前があるのは、一体誰のお陰だ?誰が、お前をその立場まで登らせてやったんだ?」
震える声でそう呟き、男はその腕を振り回した。
「このオレだ!!気でも違ったのかなぜオレを裏切った?!」
青年は振り上げた手をテーブルに向けて力任せに下ろした。
「どうやって奴と戦うつもりだ?お前が手にしたのは天部一つだ!天部ただ一つだけだ!よく考えろ!」
その瞳は、疑心と後悔で満ちていた。
「オレ抜きでお前に何ができる?このままでは、頑固な古ぎつねを追い込んで終わりだ!オレは死ぬだけだぞ!」
俺は静かに彼を見つめる。その顔は人の姿を失って、瀕死の獣のようであった。
どれくらい時間が流れただろうか。ようやく彼は冷静さを取り戻し、咳払いをして呼吸を整えた。
「葉さんは貴様を見誤った。オレも……」
「そうかもな」
「貴様……」
青年は顔面蒼白となった。そして溜息をつくと、柔らかな口調へと変わった。
「『人は金銭のために身を滅ぼし、鳥は餌のために滅ぶ』ってやつか。こうなってしまったのは仕方ないが、オレには理解ができない。昌武、お前は賢人だ。何故こんな無謀な真似をする?らしくないぜ」
そこでわざとらしい溜息をついて、懸命に優しい笑みを浮かべた。
「オレの後ろ盾が誰か分かっているだろう。オレがいなかったら、お前はどこにも出てはいけない。良く考えろ」
優しい声色で話すも、その奥には怒りが沸々と煮えたぎっているのがわかる。それでも彼は至って冷静に、丁寧に俺に語り掛けてくる。
「そうだ、よく考えたらわかるだろう。オレたちは長い間待っていた。あの老いぼれたちが、内輪揉めをするのをな!今お前が動けば、またやつらは団結するだろう。お前の手にはたった一つの天部だけ。そんなカードで、どうやってやつらと戦うんだ?」
彼は非常に狼狽している。だが、その瞳に宿る炎は、依然として燃え盛っている。
「お前の行動は、オレたちが長年やってきたことを台無しにしている。わかっているのか、昌武!」
(ここまで来て彼はまだ己の野望を捨てられないのか……?)
おかしなことに、そのような野心のせいで、彼は俺の計画には必要のない捨て駒となった。
「……オレを解放してくれ」
静かに青年は呟いた。
「解放してくれさえすれば、今日のことは不問にする。オレたちはまだ兄弟のままだ。オレたちはまたカードを切るんだ。そして、頑固な老いぼれ共を全員退陣させる。そうすれば、承天会や帝京は我々のものだ。光耀大陸だって、手に入れられる!!」
彼は幾度となく俺に盃を掲げた。今もその時とまるで変わらず、誠実な表情を浮かべていた。
「オレたちが手を組めば、できないことはない。そうだろう、昌武!!」
だが今はそんな彼の誠実さだけでなくその滲み出ていた余裕でさえも、不安な水滴と化して顎まで垂れた冷や汗と共に地面へと落ちて弾け散った。
俺は、そんな彼をただ静かに見つめるしかできない。
(彼が旅立つ前に、最後の道程へと送り出さなければならない……)
年月が経って、多少なりとも彼に情がある。
内心、動揺していないとは言えない。だが、彼を死へと向かわせなければならない時が来てしまった。
俺は最後にもう一度彼を見る。これまで、何度となくこうして視線を交わしてきたが、それもこれが最後だ。ここから離れる準備は済んでいる。
僅かに差し込む光の中で、力なく笑った青年の顔が徐々に崩れていく。俺は、狂気に染まっていく彼の移り変わりを目の当たりにした。
「昌武!!!!いずれお前を殺してやるからな、覚えておけよ!昌武!!!!」
彼はただ怒りに任せて大声で叫んでいる。現状を理解できずに、悔しさを滲ませていた。
「気が触れたな!この狂人が!!」
そんな叫び声を背に俺は部屋から出る。それと同時に閉じられた分厚い鉄扉に遮られて、何も聞こえなくなった。
ーー数日後。『碎霄』の領地にて。
俺がそこに着く前に、金華ハムは既に到着していた。
足を組んでソファに座っていた彼は、俺がドアから入ってきたのを見て、すぐに目を細めて挨拶をする。その様子は、とても心地良さそうだった。
「よっ。早いな、武昌魚」軽やかに金華ハムは手を振った。
「うまいことやったじゃねぇか。承天会もこれで終わりだな!ようやくお前の恨みも晴らせたかーー」
「あの人のためだけじゃない」
俺は彼の話をその言葉に被せて打ち切った。
御侍は間違いなく承天会の手によって殺された。恨んでいるのは事実だが、仇討ちのためだけにこれまでのことをやった訳でない。
「どうせ、この国を変えるためだとか言うんだろ。でもよ、そんなことして、何のメリットがあるんだ?」
そう言いながら、彼は俺のことを気にする様子もなく、両手を頭の後ろに添えて、そのままソファへと寝っ転がった。
これは確かに、彼が考慮すべきことではない。
俺は彼の質問を無視し、自分の机に向かう。そして中から書類を取り出した。
「お前の理想は果てしないな。俺の望みはお前より遥かに現実的だ。手に届くものが欲しいぜ。例えばさぁ、いつになったら俺はお前と戦えるんだ、とかなーーって、お前、どっか行くのか?」
そこで俺は動きを止めて、深呼吸をする。
「盟友に……会いに行く」
Ⅳ.再現
皇太后の背後にある名門は、承天会とこの国を支配する最大の勢力であった。
あの名門の青年は逮捕されーー
承天会の皇太后家、その派閥が崩壊し、宮中での皇太后の派閥も弱まってしまった。皇帝と『碎霄』の戦力には敵わず、一挙に殲滅された。
そうして皇太后は追放され、全ての権力は皇帝の元へと戻った。
煙たい存在を排除し、皇帝はようやく望んでいた座を手にするも、さほど嬉しそうには見えなかった。
「昌武よ」
その声に反応し、そこにいる者が誰かを確認する。
その姿を認めて、俺は彼に向かって一礼をした。
彼は手を振って、その冗長なやり取りを中断させる。
「今回のことは、すべて昌武のお陰だ」
お礼の言葉ではない。凝視するその瞳から、皇帝と呼ばれる人物が俺の価値を評価してくれることが窺えた。
「協力した末の成果です」
俺は冷静さを失わずに、穏やかにそう返した。
「……」
皇帝は目を細める。
彼に会うのは、今回が初めてだった。想像していたよりも、彼はずっと若かった。
俺と彼が『手紙』にて交流を始めたのは、数年前のことだ。とある商人が機関術に長けた食霊の工匠を、皇帝の元に連れてきたのがきっかけだ。
この工匠こそ、佛跳牆によって宮中へと連れられてきた者だった。そして、俺と皇帝の信使となってくれた。
最初の頃は俺を信用していなかった皇帝も、暫くやり取りをした後に俺の計画に乗ってくれた。
俺は、繊細な心を持ちつつも辛辣な手段で実の母親に手を下す冷酷な皇帝を、成熟した年長者だと思っていた。
だが意外にも、彼はどこにでもいる普通の若者であった。
人間性は明らかに至高な権力によって歪曲させられていた。
だが俺にとっては、間違いない人選だった。
「貴方は、何が欲しい?」
数秒の沈黙の後、彼から口火を切った。
ここで俺が適した答えを出せなければ、彼は永遠に安堵することはないだろう。
だが、俺はそのことについては、既に手紙で伝えてある。
最初から、変わらず俺の目的は一つだけだ。
「私も陛下に助力します。承天会の後処理を願いたい」
彼の目から動揺が感じ取れる。
「どのように処理を?」
俺は真っ直ぐに彼を見つめた。
「完膚なきまでに叩き潰す」
皇帝にとっても、俺にとっても、各々の目標を実現するには、盟友がまだ一人足りなかった。
承天会は、既に名門の天下になっていた。
名門の一族たちは宮廷の大臣に繋がっており、若い皇帝の彼には、まだ彼らを根絶やしにする力はなかった。
できるだけ早く対処しなければ、第二の『皇太后』が宮中に送り込まれて、全ては一からやり直しになってしまう。
それ故に、彼は権力を取り戻すための盟友が欠けていた。
俺には、名門たちを抑える身分がない。同時に、国を真に治められる資格を持つ盟友が欠けていた。
俺は、彼の欲する相手に相応しいだろう。
目の前にいる男も、俺の欲する盟友に最も相応しかった。
この同盟がいつまで続くのかはわからない。彼の願望を叶えられるのかもわからない。
けれど、俺は俺の理想への道程が見えた。
だから。
俺は、そのための一歩を踏み出したのだった。
Ⅴ.清蒸武昌魚
清蒸武昌魚と佛跳牆の御侍は親子であった。そのため、ふたりは昔から交流があった。
父と息子は共に実業家だが、ふたりの歩む道は雲泥万里だった。父親は利欲に目が眩んでおり、息子は正道を進んでいた。
ある日、利益に目が眩んだ父親が、家族を深淵へと突き落とすものだった。
父子はふたりとも承天会の手によって死亡。その後、承天会は清蒸武昌魚と佛跳牆を狙った。
いや……むしろ最初から、承天会の目的は、このふたりの食霊だったのだろう。
そして、佛跳牆はこの舞台から退場することを選択した。御侍の死を恨むこともなかった。彼にとって、御侍の末路は意外ではなく想定内のことだった。それよりも……彼は、もっと広い世界を見たいと願ったのだ。
だが、清蒸武昌魚は違った。
御侍の死は耐え忍ぶことを教えた。故に彼は、影に徹したのだ。
承天会討伐を胸に、片時も舞台から離れようとはしなかった。
何時だって彼は密かに活動し、帝京中の人材を集めたーー
承天会に加入させられた者たちの中には、名門たちに虐げられてきた底辺の者もいれば、熱意を抱き現状を変えようとしていた志士もいた……
群衆では目立たない彼らが、清蒸武昌魚の下へと集まって、次第に『碎霄』となったり
彼はそんな中で、辛抱強く待っていた。
耐え忍び、待っていた。『碎霄』が壮大になるのを。『碎霄』のメンバーが帝京中に広がって、それぞれが繋がりを持ち、堅固な網を紡いだら、承天会を一挙に粉砕できる日が来る。その日を、じっと待っていたのだ。
そのことを知って、帝京に関わらないと言っていた佛跳牆は、結局彼を放っておけなかった。
佛跳牆は、己の御侍とは違っていた清蒸武昌魚とその御侍を昔から認めていた。だから大概の場合、清蒸武昌魚に手を貸すことを厭わなかった。
そこで、清蒸武昌魚は、彼から特別なシナリオを手に入れた。
名を変え、承天会に潜入する。そして、内部から一気に打ち砕くというシナリオを。
その後、この国には、清蒸武昌魚という食霊がいなくなり、昌武という帰還兵が存在することとなった。
『碎霄』、『景安商会』、そして金華ハムを含む多くの者たちの力を借りて、彼は5年間潜伏したのだ。
中にある勢力を辿り、徐々にあの巨大な組織ーー承天会を粉砕していく。
彼はこの計画を『碎霄計画』と名付けた。
この計画で、承天会を打ち砕くことに成功した。
しかし、貴族の名門どもから、国を解放するには十分ではなかった。
そこで彼は、皇帝と同盟を結ぶことにしたのだ。
それから暫くして、彼らは各々の目的を果たすために、彼らは協力関係となり、承天会の残党を根治に注力した。
これは、かなり順調だった。
だが、こうした状態が長く続くと、変化が出てきてしまうことは避けられない。
彼らが承天会を壊滅させようとしたそのとき、佛跳牆から特別な情報を得た。
承天会ーーあれは、多くの人にとって巨大な組織だった。だが所詮、あれは氷山の一角に過ぎなかったということだ。
(山の後ろには、山がある……)
「なるほど、『一葉障目』か」
清蒸武昌魚は窓際に立って、表向きは穏やかだが、暗部では風が吹き雲が湧く都を眺める。そして、手にした書物を握り締めた。
「だが、俺は必ず泰山を見よう」
たとえ承天会が排除できても、彼はここでは止まれない。
亡き御侍の理想を胸に、目指すものは『自由と幸福』りそれを手にするまで、清蒸武昌魚は迷わず前に突き進むのだった。
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