お餅・エピソード
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お餅のエピソード
鬼退治をする騒がしい男の子。自分より大きな大槌を武器にしている。少しおっちょこちょいで、ヤンチャだけど、素直でいつも元気満々。五大吉兆の一人、希望を象徴している。伝承では、彼を見かけた人は逆境の中から新たな希望を見つけられるとされている。
Ⅰ.鬼殺
見渡す限り谷間が縦横に走っている平地は荒れ果てていた。
大きく起伏する地面に合わせて、鬼の甲高い咆哮が耳元で響く。
力を込めて大槌を叩きつけると、叩かれた鬼は悲鳴を上げて倒れた。周りでは埃が舞い上がる。
「コホッーケホコホッ……」
カッコよく決めようと思ったら、不注意で埃を吸い込んで、思わず咳き込んじゃった。
ぼくは大きな石の上に力なく横たわって、大槌をテキトーに近くに投げ捨てた。
あぁ……疲れた……
腕が重いよ……
まあ、ぼくでさえこんなに疲れているんだから、ぼくの大槌もゆっくり休ませておかないと!
寝転がって休憩しながら、今日殺した鬼の数を指を折りながら数える。
いち、に、さん、し……
あーもうっ!疲れた!やめた!
「いつになったら鬼を絶滅させられるんだろう!」
「いつか悪い鬼を一撃でやっつけられたらな、そしたら楽になるのに」
真っ青な空を見ていると、意識がどっかに飛んで行った。
こんな鬼殺しの場面を、ぼくは何度経験してきたんだろう。
「悪鬼なんて、全部殺しちゃえばいい」
鬼を殺す__それがぼくの生まれもった本能だ。
だけど……誰も教えてくれない……
ぼくは何のために鬼を殺しているんだろう?
覚えている限り、なんか……ずっと一人だったような。
毎日、こうして「悪鬼」たちと戦っている。
どこから来て、どこに行けばいいのかすらわからない。
毎分、毎秒。
毎日、毎夜。
鬼を殺す危険も、追い払う苦労も怖くない。
ただ……ぼくは何のために殺し、何のために歩いてきたんだろう。
この頭が痛くなるくらいこんがらがった考えをやめようとした時、ぼくは欲しかった答えを見つけた!
Ⅱ.疑問
ぼくは大槌を担いで、みんなの称賛の声に出迎えられながら家に帰った。
「小さな英雄が帰ってきたぞ!怪我はないか?」
「お餅、疲れたでしょう。ちょっとうちでお茶でもしていかない?」
「お前のおかげだ、でないとまた鬼に畑を荒らされていただろうな」
「やっぱりお餅の笑顔が一番の癒しだな」
僕は手を振りながら、仕事で忙しいのに笑っている大人たちに向かってあいさつした。
毎日みんなの笑顔を見るのが、ぼくの一番の楽しみだ。
思い返してみれば、鬼を殺した後、みんなの笑顔を見ただけで嬉しくなる。
これがどういう気持ちなのか、ぼくにはわからなかった。
ちょっと変だけど、とても好きな気持ちって事だけはわかる。
ボロボロの草屋の前を通ると、気になって引き返した。
やっぱり変だ……
確か、ここには素敵な家があったと思うけど?
「お母さん、どうしてみんなはあいつのことを褒めるの?うちもこの間、あいつにこわされたじゃん」
「シーッ!バカな事を言うな!お餅は私たちの英雄なのよ!ごめんね……子どもの言う事だから気にしないで」
その幼い声からは、不満と疑問が伝わってきた。
ぼくは鼻をなでた。
ぼくはみんなを救っているんだよね……?
……そうだよね?
ぼくがやった事は……間違っていないよね……?
Ⅲ.心魘
「ドンッ!!!」
紫色の煙の中、ぼくが大槌で空気を殴る音が響いた、いつもより大きな音だった。
ぼくの呼吸音も、いつもよりも激しい。
周りには悪い鬼の死体が転がっている、だけど目の前にいるこの悪い鬼だけ……
どうしても倒せない!
大槌で消せたと思ったら、また目の前で集まって固まる。
すぐにこの異様な場所から離れたけど、あの死なない悪い鬼はぼくについて来た!
「しつこいな!怒るぞ!」
再び霊力を消耗して攻撃する。
「クッ……クククッ!諦めろ、お前は逃げられない、私を殺すことも出来ない」
悪い鬼の声が、ぼくの背筋を凍らせる。
「……諦めろだなんて、ぼくが死んだ時に言え!」
悪い鬼への嫌悪から、迷わず大槌を振りかぶって叩きつけると、地面にまた大きな穴が出来た。
やっと終わった……
「クククッ!無駄だ、どうして鬼殺しにこだわる?」
「何か意味はあるのか?」
「他人に破壊をもたらひているのに、まだ続けるのか?ククッ」
「黙れ!ごちゃごちゃうるさいな!!!」
わき上がる怒りに、ぼくの思考を乱された。
「ドンッ!ドンッ!ドーンッ!」
大槌を次々と地面に向かって叩いた、絶え間なく大きな轟音が響く。
気がつくと、悪い鬼はいなくなっていた。
ぼくは大槌を抱えて、荒い息をしていた。
軽く頭を横に振って、疲れた体を引きずって村へ戻る。
村の大人たちの笑顔と思いやりを浴びて、ぼくの肩の力が抜けた。
もう……鬼殺しを辞めようかな……
ハッとなって冷や汗が止まらない、頭を振って変な考えを追い出す。
クラクラする……
ああもう!もう考えたくない!とりあえず寝よう!
Ⅳ.救済
目が覚めた時、鬼が村を襲いに来ていた、あちこち混乱している。
暗雲が村の上空に立ちこめていて、不安が募る……
人通りの多かった場所も、今はもう焼け野原になっている。
レンガやガレキが波みたいに広がって、顔にぶつかってきた……痛い。
笑い合っていた人々から笑顔が消え、凄惨で悲しい助けを求める声を上げている。絶望が広がっていく!
ダメだ……助けに行かなきゃ!
大槌を振り回すと、またあの嫌な鬼が現れた。
「お前は破壊する事しかしらない、お前のやっている事に意味があるとまだ思うのか?」
「見ろ!お前がそいつを助けても、そいつはお前の善意を受け入れたりしない!」
振り向くと、あの日疑問を浮かべていた子どもが燃えた板の下敷きになっていた。
胸が引き裂かれるように痛む。
「無駄な事をするな!もうそのままでいい!これで……」
「本当にうるさいな!どいて!」
ぼくは鬼の影を大槌で蹴散らして、素早く子どもを助け出した。
「クククッ!お前はまだ分からないのか!私を殺すことは出来ない!お前のしたことは、私のと何が違う?お前が台無しにしたものは戻ってこないだろう、そいつらはお前に感謝などしない!」
ぼくが助けに行かないと、彼らは二度と帰っては来ない。
彼らの笑顔を二度と見る事が出来ないだろう。
「そんなのは……嫌だ!」
「ククッ……く、クソッ!お前は……クソ!!!」
大槌を握り締めながら、自分の心がやっとわかった。
鬼の悲鳴を無視した。村に害をなす鬼を消すのが、最優先だから!
「この一撃は、傷つけた人々のためだ」
「この一撃は、壊した家のためだ」
「最後の一撃は……」
邪魔者の鬼の影がなくなると、大槌を振るのも楽になった!
「最後の一撃は、うるさいからだ!」
全てを解決すると、村はいつも通りの様子に戻った。
ぼくは疲れたまま大槌に寄りかかって、不意に震えた……
「ありがとう!お兄ちゃん!」
子どもは笑いながらぼくに言った。
今回、あの幼い声からは感激と感謝しか聞こえなかった。
暗雲が散って、金色の日差しが大地に降り注ぎ、真っ青な空が見えた。
陽射しに当たると、体がぽかぽかしてきた。
嫌な鬼の影も消えたみたいだ。
その時、初めて気が付いた……ぼくはきっと彼らだけでなく、ぼく自身も、救ったんだと。
Ⅴ.お餅
これは、むかしむかし、桜の島にあった話。
堕神の脅威にさらされていたある村は、幼い外見のお餅によって救われた。
彼は過労のあまり堕神に惑わされ、自分に疑問を抱くようになった。
しかしお餅は最後の最後に自分を救済し、元の彼に戻る事ができた。
「おや!お餅、おかえり!」
「寒いから、早く部屋に入って体をあたためな」
「今日はお正月だ!早く餅を食べに来て!」
お餅は人々の熱意と感謝の気持ちに囲まれた。
彼が反応するよりも早く、気づけば賑やかな人だかりの中心にいた。
大きな笑い声は村中に響き渡っているようだ。
人々の心からの笑顔を見て、お餅は彼が何のために鬼を殺しているのかを悟った。
人を守るためだけではない。
もっと守りたかったのは人々の素直な、幸せな笑顔だったのだ。
彼を見た人は、絶体絶命の中から希望を取り戻すという。
彼に救われる人は増え続けている。
お赤飯に迎えられ、お餅は家族のような温かさを感じさせるこの場所に入った。
人間の皇室に属する「観星落」という組織で、占い、天文、時刻、暦法、情報などの権職がある場所。
「これから宜しくお願いします」
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