白き狼の願い・ストーリー
◀ イベントストーリーまとめへ戻る
◀ 白き狼の願いへ戻る
目次 (白き狼の願い・ストーリー)
白き狼の願い
プロローグ
朝
雨燕村
臘八節が近づく、晴れた雪の日。人々は来るめでたい日のために忙しなく準備をしていると同時に、収穫の楽しさも享受している。
山々を背にした小さな村は白雪に覆われ、麓にひっそりと佇んでいるが、生気に満ちていた。
蟹醸橙(しぇにゃんちぇん)はきょろきょろと辺りを見回し、道端に生えている野端にも触れながら、好奇心のままに小さな村の景色を満喫していた。
蟹醸橙:この雨燕村は良い所だな、道理で君は毎年一回は帰って来るわけだ!
ヤンシェズ:…………
蟹醸橙:えっと……別に遊びに来たわけじゃないよ、道中一人で寂しいと思って、話し相手になりに来たんだ!
ヤンシェズ:……本当に?
蟹醸橙:もちろんだ!僕たちは兄弟だからな!
ヤンシェズ:……兄弟……
そう呟いたヤンシェズの瞳は、微かに揺れた。この時、近くの屋台から、賑やかな声と講談師の言葉が風に乗ってやって来た。
講談師:雨燕村と言えば、一つだけ知らなければならないものがある!それは――狼神だ!
蟹醸橙:狼神?!なんかカッコイイな!兄弟、早く狼神の話を聞きに行こう!
ヤンシェズがボーっとしていると、蟹醸橙は一目散に屋台の方に向かって行き、あっという間に姿が見えなくなった。
ヤンシェズ:……はあ……
───
講談師:伝説によると、狼神は強い力を持ち、威風堂々な姿であるという。この雨燕村を長年庇護し、ここの安寧を守って来た……
講談師:村民はその恩恵に感謝し、狼神廟を建てた。臘八節の度に獲物を狩って、供物を捧げ狼神の加護を祈った……
蟹醸橙:へぇー!なんか凄そうだな!兄弟、あの堕神ってどんな見た目をしてんだ?
ヤンシェズ:……知らない……
蟹醸橙:長い間ここで生活していたのに、会った事がないのか?この講談師、もしかして嘘をついているのか?
蟹醸橙:それに、狼はみんな獰猛だし、人を食わずに守って神になってくれる奴がいるのか……
ヤンシェズ:狼は、人を食べない……
蟹醸橙:ん?何か言ったか?
ヤンシェズ:……
ヤンシェズはしばらく黙り込んだ。少しぎこちない表情を浮かべると、足早に去って行った。
蟹醸橙:えっ?どうしたんだ?僕また間違った事を言ったのか?……兄弟!待って!
足早に進むヤンシェズを、蟹醸橙は慌てて追った。講談師の最後の言葉を聞かずに――
講談師:しかし、世は儚く、目まぐるしく変化する。かつて人々が敬慕していた狼神は、今やなんと……
講談師:人々が忌避する、悪怪に成り果ててしまった。
ストーリー1-2
蟹醸橙は不思議に思いながらもヤンシェズの後を追って、街を歩いた。ふと開けた土地に堂々とした廟が建っているのが見えた。門の左右には、大きな狼の像が立っていて、蟹醸橙は興奮を抑えきれない。
蟹醸橙:狼神廟!あれがきっと狼神廟だ!
ヤンシェズ:待っ……
ヤンシェズは目を光らせ、何か言おうとしたが、言い終わらないうちに興奮した蟹醸橙に掴まれて狼神廟の方に連れて行かれた。
狼神廟に近づくと、門が閉まっていて、薄っすら埃が被っているのに気付く。随分長い間放置されているように見えた。
石像や壁には不揃いな札がびっしりと貼られていて、その隙間から何かの呪いのような、ぞっとする赤い跡も見える。
蟹醸橙はそれを一目見ただけで背筋が凍り、ヤンシェズの後ろに隠れた。ちょっとした動きで何か禁忌を犯してしまうのではないかと、怯えている。
蟹醸橙:……な、何これ……怖い……さっきの講談師は、臘八節になると村人がお参りに来るって言ってたよな?なのにどうして……
ヤンシェズも目の前の状況を見て、眉をひそめた。門に手をかけようとした瞬間、不意に響いた野太い声によって動きが止められた。
村人甲:おい!何してんだ?!
蟹醸橙:うわっ!おっ、鬼……!
村人甲:騒ぐな、誰が鬼だ?!そこで何してんだ!
蟹醸橙:あれ……人間だ……コホンッ、狼神が祀られているって聞いたから、参拝しようと……
村人たち何人かが真っすぐヤンシェズたちの方に向かって来た、だが参拝の話を聞くと先頭の男は急に怒り始める。
村人甲:お前らよそ者だろ、もう祭祀なんかやってねぇよ。フンッ、何が狼神だ、人を食べる怪物の癖に!
ヤンシェズ:狼は、人を食べない。
ヤンシェズが淡々とそう言うと、紫の瞳は冷たく光った、村人たちはそれを見て思わず身震いをした。
村人甲:……人を食べない?お前たちに何がわかる!
村人甲:この間、村の猟師が臘八節の供物を狩りに山に行ったが、未だに帰って来ないんだ。きっと骨も残ってないんだろうな。
村人乙:そうだ!この前も林の向こうで赤い目の狼を見たと言う人がいた。あの姿とあの声……実に恐ろしい!
蟹醸橙:つまり、獣を直接目撃した人はいないって事か……もしかして狼じゃなくて、別の何かかも……
村人甲:白い眼の狼に違いない!毎年供物を捧げて来たのに、人間が弱いからって、食べるだなんて!
村人乙:フンッ、皆で狼の巣を滅ぼすべきだ!二度と人間を食べられないようにしてやらないと!
村人甲:そうだそうだ!
狼神廟の周りにはいつの間にか多くの人が集まって来ていた。討伐しようとする声が更に激昂し、蟹醸橙とヤンシェズは村人たちに挟まれ、動けなくなっている。
―――
ええと……
・おい、少し落ち着け……
・あの……勢いに任せるのはよくないよ……
・な、何か誤解があるかもしれないだろ……
―――
ヤンシェズ:そんな筈は……
蟹醸橙:え?兄弟、何か言ったか?
蟹醸橙がヤンシェズの言葉を聞き取ろうとした瞬間、ヤンシェズの身体が揺れて、一瞬にして喧騒が止まない人混みの中から消えた。
蟹醸橙:えっ?ヤンシェズ、どこに行くんだ!待ってくれよ!!!
ストーリー1-4
タタタッーー
ヤンシェズは無言で、雪に覆われ雑草にまみれた山道を鈍い音を出しながら進んだ。蟹醸橙もいつもと違う雰囲気の彼に圧倒され、息を切らしながらもただついて行く事しか出来なかった。
蟹醸橙:はぁ、一体、どういう……うわっ!なんで急に止まっ……
蟹醸橙がぶつかった鼻をさすっていると、いつの間にかひっそりとした洞窟に辿り着いている事に気付く。
蟹醸橙:こっ、ここは……
ヤンシェズ:……怖がらないで。
洞窟の中は暗くて先が見えない、だがヤンシェズは手馴れたように躊躇なくそこに入って行った。薄暗い洞窟は静寂が広がっていて、進めば進む程、彼の顔は強張って行く。
やがて二人はある広い空間に辿り着く、しかしそこは何もないおかしな空間だった。
天井から光が差しているため、地面と壁にある真っ赤な跡が鮮明に見えた。血の匂いが霧のように淡く漂っている、明らかに何か争った形跡がある現場だった。
ヤンシェズ:……
蟹醸橙:どういう事?!
ヤンシェズ:危険だ、彼らを探しに行く。
蟹醸橙:待って!誰を探すんだ?
ヤンシェズ:……友だち。
蟹醸橙:友だち?誰の事?こんな所に住んでいる……友だち?
ヤンシェズ:……もう待てない。
ヤンシェズ:彼らに、危険が……
蟹醸橙:はあ???
ガランとした麓に、冷たい風が枯れ葉を巻き上げる音だけが響く。蟹醸橙は辺りを見ながらも、洞窟の血痕を思い出して思わずヒヤリとした。
ヤンシェズは焦った表情で、蟹醸橙に構う余裕もないまま、無言で山の中へと進んだ。
―――
おい……待って!
・どこで探すつもり?
・誰の仕業かわかるか?
・心当たりはあるのか?
―――
ヤンシェズ:………わからない。
蟹醸橙:……やみくもに探してたら、見つかるものもみつからないよ……こんな状況になっても、僕に教えてくれないのか?
ヤンシェズ:……
蟹醸橙:探している友だちって誰?あと、どうして村人たちの言葉に過剰反応してたんだ……僕たちは一緒に死線をくぐり抜けた仲間だろ?なのに言えないのか?君を助けたいんだ!
蟹醸橙:もしかして、兄弟の事が信じられないのか!
ヤンシェズ:ちっ、違う!
ヤンシェズの前に立ちはだかる蟹醸橙は、声を大にして言い放った。揺るぎないその目に見つめられ、ヤンシェズは驚き、喉が詰まって声が出せないでいた。
ヤンシェズ:……わかった……
数時間後――
蟹醸橙:……毎年ここに帰っているのは、狼たちに会いに来るためだったのか……
ヤンシェズ:うん。彼らはずっと……僕のそばにいてくれたから。
蟹醸橙:ごめんな……最初、君の友だちである狼たちを疑って……
ヤンシェズ:……大丈夫。
ヤンシェズ:今は、彼らを探す方が、大事。
蟹醸橙:そうだな!だけどどこに行けば……そうだ!村人たちが言った裏山に行ってみないか!
ヤンシェズ:……怖く、ない?
蟹醸橙:兄弟のためなら、怖いもんなしだ!さあ、行こう!
ストーリー1-6
しばらくして
裏山
元々厳しい冬に狼神の噂も加わり、村人たちはほとんど家から出て来ない。そのせいで裏山が荒涼としていて、蟹醸橙は強張りながらも注意深く探した。
蟹醸橙:ヤン……ヤンシェズ……いるよな……いるなら返事をしてくれ……
ヤンシェズ:……うん。
蟹醸橙:い、一緒に歩こうよ?ここは、あまりに……
ヤンシェズ:手分けした方が、効率が良い。
ヤンシェズ:怖がらないで、僕が、守る。
蟹醸橙:ほっ、本当か……
ヤンシェズ:……はぁ……
蟹醸橙:今ため息をついたか?絶対にため息をついただろ!面倒くさがって僕を置いて行かないでよー!
ヤンシェズ:……
返事が急に途絶えると、目の前の茂みから物音が聞こえて来た。そしてすぐに、雷のような白い影が光、茂みに入って見えなくなった。
蟹醸橙:うわーっ!
蟹醸橙の反応も待たずに、紫色の人影は急いで白い影の方に飛び出し、共に茂みの中に消えた。
蟹醸橙:まさか、本当に怪物を見つけちゃったのか?!
蟹醸橙は手を揉みながら、仲間の援護をしようとして待機していたが。しかしいくら時間が経っても、物音が聞こえてこない。
―――
……
・その場に立ち止まって辺りを観察する。
・近づいて様子を伺う。
・大きな声で呼ぶ。
―――
蟹醸橙の声が森の中に消え、周囲は再び死のような静寂に陥った。
さっきまで恐怖と興奮でいっぱいだった蟹醸橙は心配になり、仕方なく茂みの中に進んだ。
何も音が聞こえない。蟹醸橙はゆっくりと散らばった足跡を通してヤンシェズを探していると、前で何かが動いている事に気付く。
頭を伸ばして見ようとした時、小さな蛇がそばから飛び出してきたため、驚いた彼は慌てて走り出したーー
蟹醸橙:ヤン……蛇がいるうわあああ!!!
ドンッ!
慌てふためく蟹醸橙は枯れ枝に足をとられ、思いっきり転んでしまった。フラフラと顔を上げると、見知った人影が見えた。
彫花蜜煎:こっちから物音がするって言ったでしょ。
羊方蔵魚:さっきのは蛇だっただろ、蟹醸橙の声はこっちから……あいやー、奇遇だな。
彫花蜜煎:ねぇ、まだ春節じゃないよ、頭を地面につけてお辞儀なんかしてどうしたの?
蟹醸橙:はあ?そんな事してなっ……ちょっ、なんでここにいるんだ?!
ストーリー2-2
蟹醸橙:ちょっ、なんでここにいるんだ?!
羊方蔵魚(ようほうぞうぎょ)は軽く咳払いをし、埃のついた服の裾をはたいてから、ゆっくりと口を開いた。
羊方蔵魚:つまり、こういう事です……
───
数時間前
南離印館
彫花蜜煎:蟹醸橙のやつ、仕事が終わったらすぐに姿をくらまして、うち一人で松の実酒に報告させるなんて……
彫花蜜煎:あれ?あそこにいるのは……悪徳商人!
羊方蔵魚:ひぃ!お嬢さん、ビックリさせるな……
彫花蜜煎:やましい事をしていないのなら、怖がる必要なんてないでしょう?
彫花蜜煎:ーーん?なんか蟹醸橙とヤンシェズの声が聞こえるような……
羊方蔵魚:えっ……き、きのせいだろ、ここにいないのに……
彫花蜜煎:ちょっと黙って!声は……この判子から出てる?あなたね!また盗聴なんかして!
彫花蜜煎(ちょうかみせん)は羊方蔵魚の袖からのぞく判子を見つけ、すぐにこの盗聴犯がまた何か悪巧みをしているのではないかと気付いた。
羊方蔵魚:いや……とっ、盗聴だなんて人聞き悪い……俺はただヤンの兄ちゃんが迷子にならないか心配で、あのお方の代わりに見守っているだけだ……
彫花蜜煎:だから黙って!人を食べる……怪物?!
羊方蔵魚:おや……彼らの向かった雨燕村だけど、最近あまり良い噂を聞かないんだ、もしかして……
彫花蜜煎:……ねぇ、悪徳商人、償う機会を与えてあげるぞ!
判子から聞こえる途切れ途切れの声を聞いてら彫花蜜煎は焦って羊方蔵魚を捕まえて外に向かって走り出した。
羊方蔵魚:?!えっ……お嬢さん、そう急ぐな!この箱にまだ宝物がたくさん入ってるんだ!
───
彫花蜜煎:……で、ここに辿り着いたと。
蟹醸橙:つまり……わざわざここまで来たのは……
彫花蜜煎:フンッ、おバカさんがヤンシェズの足を引っ張るんじゃないかって心配だったの、何かあったら松の実酒に何て言ったら良いか。
蟹醸橙:足なんて引っ張ってない!ヤンシェズは……あっ、そうだ!ヤンシェズがいなくなった!
ヤンシェズ:……ここにいる。
蟹醸橙:え?
蟹醸橙が慌てて振り返ると、そこには枯れ葉にまみれ、少し狼狽した様子のヤンシェズがいた。
そして一匹の真っ白い小さな狼が、ヤンシェズの腕の中にいた。服に包まれ、親し気に抱いてくれている少年を舐めている。
蟹醸橙:どうして急にいなくなったんだ!ビックリしたよ!それって……
彫花蜜煎:カワイイ子狼だ!
羊方蔵魚:その見た目なら……良い値段が付きそうだな?……いった!
ヤンシェズは額が赤く腫れた蟹醸橙と突然現れた彫花蜜煎を眺めて、最後に羊方蔵魚を見つめ、子狼を抱きしめ一歩後ずさった。
羊方蔵魚:しまった、ヤンの兄ちゃんの中の俺の評価が……
蟹醸橙が羊方蔵魚の醜態を楽しんでいると、ヤンシェズが何かをつぶやいているのが聞こえて来た。子狼も声を出して、それに応えているように見えた。
蟹醸橙:まさか……会話しているのか?
ヤンシェズ:うん……
羊方蔵魚:ぷはっ……なんだその仙女みたいな特技……
彫花蜜煎:黙って!何て言っているの?
―――
……
・良くない……
・まだわからない……
・怖がっている……
―――
沈黙の後、彫花蜜煎が探りを入れると、ヤンシェズは少し間をおいて、真剣な顔でこう告げた。
ヤンシェズ:助けを求めている。
蟹醸橙:???
ストーリー2-4
裏山
林
世が更け、月が大地を照らしている。山間に声が轟く、一行は子狼の後について、声を頼りに森の中を捜索しながら進んでいた。
蟹醸橙:こんな事で本当にあいつの家族を探し出せるのか?
彫花蜜煎:シーッ、大きな声出さないで。ヤンシェズもこれが狼たちが交流する方法だって言ってたし、きっと大丈夫だよ。
蟹醸橙:でもヤンシェズは狼の群れは襲われて避難しているって言ってただろ……そう簡単に姿を見せるのかな……
羊方蔵魚:狼の群れが攻撃を受けて逃げたという事は、攻撃してきたものが狼に対して明確な敵意を持っているという事だ、子狼の声であいつを誘き寄せる事が出来るかもしれない。
羊方蔵魚:ーーチッ、ヤンの兄ちゃん、俺がこんなに手助けしてあげてるんだから、帰ったら俺の商売の世話もしてくれよ〜
彫花蜜煎:……安心して、帰ったら絶対お世話してあ・げ・る。
羊方蔵魚:いや……お前に世話されるのは別に良い……
羊方蔵魚はそっと汗を拭い、さりげなく速度を落とした。薄闇の中、明るい色が茂みの中を動いているのが微かに見える。それを確認した彼は、目を細め、急にしゃがみ込んで苦しそうに叫んだ。
羊方蔵魚:あいやー!足が痛い!持病が再発したかもしれない……
蟹醸橙:そんな持病あったか?
羊方蔵魚:ああ、寒くなると発作が起きるんだ。それに俺は今日お前らとこんなに山道を歩いて来たし……あいやー痛い!兄ちゃん、俺を背負ってあの石の所で一休みさせてくれないか?
蟹醸橙:え?おお!
彫花蜜煎:……待って!うちがやるよ……うちが連れて来たんだし……うちだってそこまで薄情じゃないよ……
羊方蔵魚:あっ……いやいや、じゃあ自分で……うわっ!お嬢ちゃん、もっとそっと!この石じゃなく、あの石だ、そうそう……
話している間も、羊方蔵魚は辺りを見回していた。しかし先程まで確認出来ていた明るい色を見失った。
羊方蔵魚:(……しまった)
蟹醸橙:おいっ、どこまで行くつもりだ……うわっ……!
蟹醸橙が話していると、突然足元を通り過ぎた得体の知れない何かにつまずいた。彼が文句を言いながら、暗い月光に照らされた岩の方を見ると、隙間から一本……橙色の大きな尻尾が見えた。
蟹醸橙:?!
蟹醸橙はよろめいて逃げようとしたが、慌てて足を踏み間違え、尻尾を踏んでしまった。
蟹醸橙:……
バンッーー!!!
蟹醸橙が反応するのを待たずに、サソリの尾が腰に巻きついてその場から引き離された。凄まじい轟音と共に巨石が砕け、砕けた石が残雪や枯れ葉に混じって煙を上げた。
獣噛み:ガオオオオー!!!
蟹醸橙:うわああーっ!!!なっ、なんだこれは?!
彫花蜜煎:こんなのでそんなにビビってどうするの。無駄口叩いてないで、早くあいつを捕まえよう!!!
彫花蜜煎は羊方蔵魚を投げ捨て、前に飛びかかった。だけど思いがけず蟹醸橙とぶつかり、二人の足が絡まって、地面に倒れそうななるがーー
二人の背中は誰かによって支えられた。振り返ると笑みを浮かべている羊方蔵魚がそこにいた。
蟹醸橙:……足が痛いんじゃなかったのかよ?!
羊方蔵魚:もう痛くなくなった。
羊方蔵魚はそう言って笑いながら手を離すと、二人は不意をつかれ柔らかな草むらに倒れた。彫花蜜煎が不満を漏らす前に、すぐそばから怒号が聞こえて来た。
ヤンシェズが声の方へ向かって、疾風怒雨のような攻撃をすると、怪物は倒れ込んだ。皆が目の前の恐ろしい怪物をしげしげと見ていると、その気配には全員見覚えがあった。
彫花蜜煎:この気配……そうかーー堕神だ!!!
羊方蔵魚:まぁ、これでやりやすくなったな。
獣噛み:?!ちょっと待って……なんで一緒に来るんだ!!!こんなのイジメだ!!!
一行が襲い掛かって来たのを見て、怪物は大声を上げたが、その声はやがて集中攻撃の中に散ってしまった……
凶暴に見えた獣はやがて力を失い、サソリの尾によって押さえつけられもがく事さえ出来なくなっていた。
―――
ぷっはははは!
・正体は子犬だったのか!
・これで僕たちの凄さがわかっただろ!
・これが僕たちを襲った君の末路だ!
―――
獣噛み:誰が子犬だ!俺は獣咬だ!
獣噛み:コホンッ……怪我をしていなければ……回復していたら、こんなに簡単にお前らに倒されるもんかーーひぃ!
二人が話していると、冷たく光る刃が獣咬の首筋に当たり、毛が何本か切られた。
ヤンシェズの目は冷たく、仮面の下にはいつもとは違うオーラが漂っている。その場にいる者たちは、背筋が凍りつくような寒さを感じた。
羊方蔵魚:ははっ、あいつ終わったな、ヤンの兄ちゃんキレてんな〜
ヤンシェズ:どうして、狼の匂いがする。
ヤンシェズ:彼らは、どこ。
ストーリー2-6
ヤンシェズ:彼らは、どこ。
ヤンシェズの口調は氷のように凍っていて、刃は獣咬の皮膚に少しずつ突き刺さり始め、背後のサソリの尾は闇夜に潜む殺し屋のように大きく開いていた。
蟹醸橙:おっ、落ち着け兄弟!!!本当に死んだら何もかもわからなくなるぞ!!!狼たちの無実を証明するべきだろう!
このままでは獣咬がすぐ死んでしまうと気付き、蟹醸橙はキレているヤンシェズを止めた。そばにいた羊方蔵魚は、いつも通りの様子で呑気に口を開いた。
羊方蔵魚:なぁ、そこの堕神くん。お前もこのまま死にたくないだろ、でもこの二人を怒らせちゃったから、もう無理だろうな。
羊方蔵魚:ほらあの桃色の髪を持った女子を見てみろ、あいつはなお前みたいな生物を解剖するのが大好きなんだ。彼女が持つその刃が、今までどれだけの鮮血を吸って来たか……スパッと一瞬で命が消えるんだ。
獣噛み:……
彫花蜜煎:……羊方蔵魚が金儲けのため以外に、こんなに話すのを初めて見たぞ。
羊方蔵魚はゆっくり歩きながら、淡々とした口調だが妖しい雰囲気を漂わせ、獣咬の耳に一文一句ねじ込もうとしていた。
光る刃と毒の尾が目の前に迫っているのを見て、獣咬は震えが止まらなくなり、気絶寸前になっていた。
獣噛み:ああああっあー!その、刃をおろせ!!!言えばいいだろう!!!
―――
正直に白状しろ!
・行方不明になった人たちはどこにいる?!
・何が目的なんだ?!
・狼の群れに何をした?!
―――
獣噛み:ただ肉が食べたいと思っただけだ、結局狼の群れにイジメられて、人間の皮すら舐められてない!!!
獣噛み:狼たちは俺を見ると吠えるし、俺を丸呑みしようとしているみたいだった。怪我してるから勝てなかったんだ、そうじゃなかったらこんな姿になんてなってない!フンッ、あいつらのせいでここ何日ずっと腹ペコなんだよ!
獣噛み:さっきお前らを見つけて、ようやく腹いっぱい食べられると思ったのに、まさかお前ら……全員戦えるなんて……不運過ぎる!!!
蟹醸橙:お前が悪巧みしたからだろ、自業自得だ。
獣噛み:……
ヤンシェズ:狼の群れはどこ。
獣噛み:村人たちを連れて逃げた。フンッ、一人も俺に残してくれないなんて、ケチ……
彫花蜜煎:事情は全部わかった、じゃあケリをつけないとだね。
獣噛み:え?あっ、待って……何をするつも……あああああ!!!!!
その後すぐ
裏山の洞窟
アオーンッ!アオーンッ!
洞窟の中、愉快な遠吠えが響いた。群れに帰った小さな白い狼は興奮した様子で尻尾を振り続けている、そして他の狼たちはヤンシェズの周りを親し気に囲んでいた。
同じように助かったのは、狼の群れと共に洞窟に閉じ込められて出られなくなった村人たちだ。
村人甲:助けて来てくれたのか?本当にありがとうございます!狼神のおかげです!!!
蟹醸橙:おいっ、僕たちが助けたのに、どうして狼神のおかげになってるんだ……それにしても、どうしてこんな所に隠れてたんだ?
村人乙:狩りに行くために山に上ったら、ある怪物に襲われたんだ。幸い狼たちが俺たちを助けてくれて、ここまで送ってくれた。更には食べ物や飲み物まで届けてくれたんだ!だけどここ何日大雪が降っていたから、山道が封鎖されて、ここに残るしかなかった。
羊方蔵魚:はっ、お前らを助けた狼たちは、今お前らの村では駆逐されようとしてるぞ、バカげた話だな。
村人甲:なっ……誤解だ!俺たちが戻ったらすぐに皆にきちんと説明する!
村人乙:そうだ、きっと狼神が狼たちに俺たちを守るよう言ってくれたんだ。村に戻ったら、きちんと祀らなければならないな!!!
蟹醸橙:誤解が解けて良かった!まさか悪徳商人が役に立つ日が来るとはな〜
蟹醸橙:ヤンシェズのおかげで、怪物を捕まえられた。帰ったら豆沙糕たちに教えなきゃだ!!!
彫花蜜煎:あなたの手柄じゃないのに、どうして本人よりも興奮しているのよ。
蟹醸橙:君には分からないよ。兄弟は一心同体だ、兄弟が凄ければ俺も誇らしい!
彫花蜜煎:何それ、恥ずかしくないの?
一行は笑いながら雨燕村に向かった。あたたかな朝日がちょうど冬の朝を切り開き、村全体が静かに目を覚ましつつあった。誤解とわだかまりは、やがて雪と一緒に解けていった。
ヤンシェズ√宝箱
雨燕村
ほのぼのとした陽光が白狼の柔らかな毛を明るく照らしている。ヤンシェズは自分の腕の中で楽しそうに転がる子狼を見て、思わず穏やかな笑みを浮かべた。
男の子:お兄ちゃん……それは……人を噛んだりしない?
男の子の幼い声が聞こえて来た。小さな頭が横から出てきて、不思議そうにヤンシェズの方を見ている。
ヤンシェズ:噛まない。
男の子:あっ、じゃあ、僕も……触って……いい?
男の子:うぅ……でも、僕の事好きじゃないよね……狼神様は、自分から人に近づく事はないって、母さんが言ってた……
ヤンシェズ:いや……あなたの事が、好きみたい。
ヤンシェズがこう言うと、子狼も同意するかのようにまばたきをした。励まされた男の子は目を輝かせ、期待と緊張を胸にそっと手を伸ばす。
ヤンシェズ:怖がらないで。
アオーン、アオーン。
男の子:わあ!触れた!ふわふわで、あたたかい!うわっ、くすぐったいよ~
真っ白な子狼は、すぐに男の子と親しくなって、親し気に彼の腕にすり寄って行った。軽やかな笑い声が、周囲の喧騒に溶け込んでいく。
一方で、聞き慣れた悲鳴も聞こえて来た。ヤンシェズがそちらに顔を向けると、そこには困惑した蟹醸橙がいた。彼の身体には何頭もの大きな狼がおぶさっていて、長い舌で頬を撫でられ、濡れた跡を残している。
蟹醸橙:兄弟!助けてくれ!このまま舐められたら、風呂でも入ったみたいにびちゃびちゃになっちゃう!
蟹醸橙:うぅ、この子たちに言い聞かせてよ……どうして僕だけこんなに舐められるの……!
ヤンシェズ:……コホンッ……
ヤンシェズの頬は微かに赤くなり、ぎこちなく顔を背けた。それを見て、子狼を抱いていた彫花蜜煎は、からかうように口を挟んだ。
彫花蜜煎:あなたは皮が厚くて、ザラザラしているから、好みに合っているからじゃない?
蟹醸橙:嘘だ!僕の肉は柔らかくて良い匂いがするから、好かれてるんだよ!
彫花蜜煎:ぷっ!
蟹醸橙:いや……それも違うな……
彫花蜜煎:本当にバカだね~
蟹醸橙:おいっ!なんでまたおぶさってくるんだよ!ヤンシェズ!!!助けてー!!!!!
気付くと、蟹醸橙はまた何頭の狼に襲われた。完全に狼に囲まれた彼の声は、もう外に届く事はなかった。
ヤンシェズは心の中の笑みを隠す事が出来ず、眉も緩く弧を描いていた。
真っ白な狼は人々に撫でられ、村人たちと仲良く遊んでいた。今の彼らは、危険を追い払う伝説の保護神ではなく、同じ天地に住む平等で友好的な生き物でしかない。
そしてヤンシェズも……自分の居場所を見つけたようだ。
蟹醸橙√宝箱
誤解が解けると、雨燕村は再び和やかな雰囲気に戻り、蟹醸橙たちもこの事件を解決したため、村人たちの歓待を得て、数日間滞在した。
ある日、蟹醸橙はうっかり忘れていた事を思い出した。隅っこで暇している羊方蔵魚を捕まえて、怒りながらこう聞いた。
蟹醸橙:で、どうしてこっそり僕を監視していたんだ?何か企んでいるんじゃ……
羊方蔵魚:ただの職業病だ、わざとじゃない。それとも……何か人に知られたらまずい秘密でもあるのか?俺に聞かれて困るような……
蟹醸橙:……話を逸らすな!
羊方蔵魚:安心しろ、本当にたまたまお前の身体に判子を捺しただけだ。それにお前の声を聞いてどうする?まあ……お前の声は確かにうるさい、聞きたくなくても聞こえてくる。
蟹醸橙:???
羊方蔵魚:更に言うと、俺がたまたま駆けつけていなかったら、お前たちはもうあの獣咬に食い殺されていたかもしれないだろ。だから、まずは俺の先見の明に感謝するべきだ。
蟹醸橙:……うぅ……そう言われると、一理あるかもしれない……
蟹醸橙は頬杖をついて真剣に考え始めた。ぼんやりしていると、誰かに頭を叩かれた。いつの間にか背後にいた彫花蜜煎は腕を組みながら、呆れたように首を横に振った。
彫花蜜煎:はぁ、本当にバカは騙されやすいね。
蟹醸橙:暴力女、また僕を殴ったな!僕はバカなんかじゃない、僕がヤンシェズと一緒に子狼を見つけなかったら、あの偽狼神の尻尾を発見しなかったら、まだ誤解が解けていなかったかもしれないだろ!
蟹醸橙:いや……待って……偽の狼神は獣咬のやつだとしたら……本当に村を守っている狼神って……誰だ……
蟹醸橙:──まさか?!?!?!
蟹醸橙は息を呑んで辺りを見回し、やがてそばにいたヤンシェズに視線を留め、ふと夢から覚めたように飛び起きた。
彫花蜜煎:……あなたの反射神経は光耀大陸を二周出来るみたいね。
蟹醸橙:兄弟!なあ!!!
ヤンシェズ:……僕じゃない……僕はただ……彼らに、少し霊力をあげただけ。
ヤンシェズ:人を守って来たのは、ずっと狼だ。
ヤンシェズは耳を赤くしながらも、真剣な口調で言った。それを聞くと、蟹醸橙はすぐに彼の肩を抱いた。明るい笑い声がすぐそばから聞こえてくると、彼の身体は少し強張った。その情熱にはまだ慣れないが、以前みたいに逃げる事はもうなかった。
蟹醸橙:でも君が霊力を分けてあげなかったら、彼らは村人を守れなかっただろうな!流石兄弟だ!
ヤンシェズ:……うん……
蟹醸橙:そうだ、君らには絶対ここに来たばかりの、村人たちの怖さは伝わらない!あと山登りの険しさも!あの尻尾を踏んじゃった時の怖さも!ヤンシェズだけは全部わかってくれるよな!
ヤンシェズ:うん……助かった……
ヤンシェズ:みんな、ありがとう。
蟹醸橙:礼なんていらないよ!兄弟の役に立てたなら、何て事ないって!狼を探すどころか、例え針の山、火の海だってどこにでもついてってやるよ!
ヤンシェズ:……
蟹醸橙が得意気に言葉をつらつらと並べているのを聞いて、ヤンシェズは思わず口角を上げ、淡い笑みを浮かべた。
蟹醸橙:……流石兄弟だ!……おいっ、後の二人は?僕を無視するなー!
蟹醸橙がやっと話し足りて辺りを見回すと、とっくに二人はいなくなっていた。
そこから少し離れた所で、賑やかな笑い声が聞こえて来る。声は全て風に巻き上げられ、晴れ渡った空に放たれた。
◀ イベントストーリーまとめへ戻る
◀ 白き狼の願いへ戻る
Discord
御侍様同士で交流しましょう。管理人代理が管理するコミュニティサーバーです
参加する