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フォカッチャ・エピソード

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フォカッチャのエピソード

強靭な体格、オーラと驚く程大きな声のせいで、よく恐ろしい存在だと誤解される。実際はバカにされる程とても単純。まるで移動式暖炉のように、行くところがすぐに暑くなるし、注目の的にもなる。「レッドフレイム」のリーダーだが、ある者を探すために「カーニバル」に潜入している。熱血すぎる性格で周りを悩ませているが、決して諦めない、楽観的な所が彼の長所である。


Ⅰ.カーニバルのレストラン

スパイシーなソースが掛かった熱々チキンステーキ、氷がたっぷり入ったぶくぶく泡立つビール

人々は目の前の皿にかぶりつき、グラスを高く上げて談笑している。

話し声と食べ物の匂いが混じり合うーー


これが「カーニバル」レストランの昼のピークだ。


キッチンのコンロはまだ燃え上がっている。

俺は手袋を整理して、大量の料理が乗った二つのトレーを両腕に乗せて、歩き出した。


「よっ、五番テーブルの爆弾おにぎりだ!熱いから気を付けろよ!」

「お客さんが注文した悪魔串焼きと地獄カクテルだ!おい座っててくれ、俺が今持っていく!」

「いらっしゃい!水?それともレモン水がいい?」


「ちょっとお兄さん、こんな黒焦げの料理頼んだ覚えないよ?」

「えーと……あはは……ごめんな、今度はちゃんと火加減調整するから!」


……


「はぁ……」

やっと客足が落ち着いて、この隙に休憩を取った。胸の前で灯る炎の温度も下げる。


だけどすぐに、突然背後で騒ぎが起きた。


怖い顔をしたチンピラたちがカウンターを囲んで、酒瓶をガタガタ鳴らしながら客に絡んでいる。


「あんたら良い度胸してんじゃねーか、リーダー……ウェイターの兄ちゃんが出してくれた酒を捨てただと?!」

「えっ……?でも、このお酒は苦いし……なんか草の匂いがしたし……」

「何言ってんだ!ここで飯が食える事を幸運に思え!痛い目を見ないとわからねぇみてぇだな……」


「痛い目を見るのはお前らだろ!何してくれてんだ!」


ドンッ!ドンッ!ドンッ!


思わず眉をピクつかせ、拳も疼いた。振り向いて一人ずつを拳骨を食らわせてやる。


「俺様を殴ったのはどこのどいつだーー?!わっ、リーダーじゃないですか……おはようございます。あはははは……」

「バカ、もう午後だろうが!申し訳ありません……どうかお許しを……」


さっきまで鼻息を荒くしていたチンピラたちが急に大人しくなったのを見て、客は呆然としていた。

俺は客に軽く頭を下げ知らないフリをしてチンピラたちの横を通り過ぎようとしたが、引き留められてしまった。


「リーダー、レッドフレイムに帰ってきてくださいよ……もう随分経ちましたよ、そろそろ戻った方が良いんじゃないですか?」


禁句が耳に飛び込んで、俺はビクッとなった。慌ててあいつの口を塞いで、全員隅に引きずり込む。


キッチンから誰も出て来てない事を確認して、俺は声を落として警告した。

「シーッ!勝手な事を言うな!俺はここでまだやるべき事がある。お前ら今すぐ帰れ!」


「でも……リーダー毎日ここで雑用しているだけじゃないっすか、勇敢無双のリーダーにそんな事させる訳には!」

「ああ……一理あるな。俺が今やるべき事は確かに雑用じゃない」

「やっとわかってくれたんすね?!ヤッター!今すぐ兄弟たちを呼んで……」

「だからこっからの雑用は全部お前らに任せた。手伝え、バイト代はきちんと出してやるから、トラブルだけは起こすなよ!」

「えっ???どういう事、ちょっとリーダーどこに行くんすかー!」


彼らの呼び止めに応えず、俺は人混みに紛れてさっさとレストランを抜け出した。

彼らの言う通りだ。急がなければならない……


賑やかなカーニバルはまるで華麗で複雑な迷宮だ。ここに何日滞在しても、道はサッパリわからん。

そしれ、俺が探しているものもまったく見当たらない。


めんどくせぇ……店主の機嫌を取るよりもめんどくせぇ。


気が逸れた一瞬、俺は痩せ細った背中にぶつかってしまった。

「うおっ、すまん!ブイヤベースか」


少し痛くなった鼻を撫でながら、目の前の金髪の男の顔を見た。

いつも無感情なその目には微かな戸惑いが浮かんている。


「大丈夫です。なんだか……急いでいるみたいですけど、何かを探しているのですか?」

「えっ?!……いや、なんでもねぇ!あれだ……カニがキッチンから逃げ出したんだ。そいつを探してる!」


俺はテキトーに理由をつけて誤魔化す。

何しろ、俺がこのビルに潜入した秘密に関わることだからな。


この場から逃げようとした時、ブイヤベースが目の前に立ちはだかった。

「緊急の用件なら、手伝わせてください。あなたはわたしの事を助けてくれた、だからわたしもあなたの願いを叶えたいです」

「うーん……カニは捕まえた事はありませんが……小魚たちを使えば……」


……しまった、こいつは本当にこの下手くそな嘘を信じてしまったみてぇだ……


ブイヤベースが独り言を言い始めた。時間がないのに、人通りは増えていくばかり。


俺は歯を食いしばって、彼の腕を引っ張ってーー


薄暗い雑貨屋は静まり返っていて、外に足音が聞こえない事を確認して、俺はやっとホッと一息をついた。


「カニが……こんな所にいるのですか?」

「カニじゃねぇ……!ったく……あのさ『レッドフレイム』って知ってるか?」

「ええ……チンピラ集団らしいですね。アクタックがとても嫌っているそうです」

「……俺が、そのチンピラ集団のリーダーなんだ」


自分の素性をここの人に話すのは初めてだった。心臓がバクバクして、思わず声が小さくなってしまう。

それなのに、ブイヤベースは瞬きをしただけで、動揺する素振りはなくむしろ真剣に耳を傾けてくれている。


「怖くねぇのかよ???」

「怖い?どうして……フォカッチャは良い人だと、わかっていますから」

「……お前なぁ……あー降参だ!」


俺は髪を掻いて、大げさにため息をついた。


「正直に話す。俺はバイトしに来たんじゃねぇし、カニを探しに出て来た訳でもねぇ」


「俺はな……人を探しにここに来たんだ」


Ⅱ.花と雑草

白いハトが空を横切る。

赤レンガの建物から時々本を読んでいる声が聞こえてくる。


フォカッチャお兄ちゃん……」

「大丈夫、今日こそ絶対に解決してやるからな!」


俺はリアの頭を軽く撫でてから、入口に立つ分厚いレンズのメガネを掛けた、イラついた顔をしている男の方へと向かった。


「学費は足りてるだろ?なんで彼女の入学を認めねえんだ?」


男はメガネを上げ、喉が締められた鳥みたいな鋭い声でこう言ってきた。

「貴方たちのはした金を気にするとでも?失礼、何もわかっていないようですね。この学校に足を踏み入れるには相応の能力と地位がないと、無理なのですよ」


「高貴な花を貧しい雑草と一緒に勉強させるなんて事、出来る訳がありません」

「…………」

男は軽蔑の視線でじろじろと俺たちを見る。

俺は一歩前に出てリアを背後に隠した、怒りがそのまま拳となって目の前の気色悪い顔に叩きつけそうになる。


「それがお前たちの言う平等か?バカバカしい。下水道のゴミ以下だ!」


炎の印は急激に温度を上げる。俺は息を殺して、それが噴き出さないようになんとか抑えた。

何かを察知したのか、男の顔に恐怖が広がり始める。


「かっ、勝手な事をしないでください!ここは勉学の聖地です。チンピラが暴れて良い場所ではありません!」

「聖地?ははははっ、笑わせんな!お前たちの聖地なんかよりこの子の勉強机の方が綺麗だ!」


俺が声を張り上げると、男はネズミのように尻込みした。

その時、穏やかな声が割り込んできた。


「モリオ、学校の教師としてそんな事を言うなんて感心しないな。知識の殿堂は誰にでも平等であるべきだ。私達は勉強熱心な子どもをいつでも歓迎しているよ」


スーツを着た優しい顔の男が、俺たちに向けて軽く頭を下げてきた。地位のありそうな人物に見える。

こういう格好をした人は、高級な所でしか見たことがない。


説教されたからか、さっきまで威張っていた男はすぐに作り笑いで謝罪をした後、すぐにこの場から逃げていった。


メガネ男がこの男を「ウォルフォード教授」と呼んでいたけれど、どこかで聞いた事があるような……

「ははっ、お嬢さんとその保護者の方でしょうか。緊張しないでください。私は教授のウォルフォードです。まさか始業式の日にこんな事が起きるなんて、学校を代表して心からお詫び申し上げます」

「いや、こっちこそ助かった!礼を言う!」

「ありがとうございます、ウォルフォード教授……」


教授は親身に俺たちの話を聞いた。偉そうな素振りはなく、リアにも優しい顔で学校について説明をしてくれた。


その光景に俺の曖昧な記憶が突然鮮明になった。


新聞をストーブに投げ込む前に何回も見た事もある、一面に善良そうに笑うスーツ姿の男と子どもたちが写っていたのを。


「待ってくれ、お前がその……スラムの子どもたちを援助して学校に行かせている教授か?!ゴミで……いや、新聞で何度も読んだ!絶対に間違いねぇ!」

「あっ、わりぃ、俺の声が大きくて驚いたよな」


静まった事で、自分があまりに失礼な態度を取ってしまった事に気付き、恥ずかしくなって頭を掻いた。

しかしウォルフォード教授は気にする様子もなく、俺たちにこれまでの慈善活動の経緯を説明してくれた。


「自分の力はまだ弱いけれど、全ての子どもたちが平等に学校に足を踏み入れ、太陽の下で勉強できるようにしたいと思っていますよ」

ウォルフォード教授は目尻に涙を浮かべながらこう言った。


やっぱり、記事の通りだ。


「私たちの学校では、昔から貧しい生徒を援助するシステムがあるんです。モリオが知らないから勘違いをしただけだと思います。リアの事はこの私にお任せください」


教授の言葉は爆弾のように、さっきまであった悩みや不公平を全て吹き飛ばしてくれた。


リアが学校に通えない問題は、こんなスムーズに解決出来るなんて。

リアの笑顔を見て、俺の心には希望の炎が再び燃え上がった。


ふと思い出したかのように、俺は懐にある小包を、ウォルフォード教授に差し出した。

「決まりはよく知らねぇが、学費は渡さねぇと。足りねぇなら、また稼いでくるぜ!」


「気持ちはわかりますが、学費は受け取れません。これは貴方たちが受けるべき”優遇”です」


それでも俺は引き下がらなかった。


「俺たちを助けてくれたんだ、借りは作りたくない。お使いでも、雑用でも、喧嘩でも、俺に出来る事ならお前のためになんだってやる!」

教授は呆気に取られ、数秒後に大声で笑い出した。

「アハハハ、分かりました。そこまで言うのなら……」


「少しだけ手伝ってくださいませんか」


Ⅲ.陽の当たらない場所

それ以来、俺はウォルフォード教授との付き合いが増えた。


あちこちに荷物を運ぶお使い以外にも、たまに喧嘩を売りに来た貴族やお金持ちとのトラブルを解決する事もあった。

俺と同じように彼のオフィスに出入りして、仕事をする人は他にもたくさんいる。


彼らの間で仕事をしていると、妙な違和感を覚える事もあるが、恩人の頼みを断る道理はない。


あの日、教授から頼まれた物を届けて帰った時、俺はふと学校で過ごすリアを見るという彼女との約束を思い出した。


夕陽はあたたかい光を落とし、夜風が吹く。

気持ちの良い天気に、俺の足取りも軽くなった。


カバンを背負った生徒たちは小鳥のように連なって校舎から出て来たが、あちこちを探してもリアの姿はなかった。


広い廊下にはもう誰もいない。突然、どこかの曲がり角からすすり泣く声が聞こえた。


「ハハハハッ!スカートもカバンも破れてる!きったねぇ!」

「貧乏人がうちの学校に通うなんて、恥知らずもいいとこだな!」

「うぅ……あたしは汚くない……本に書いてあった……誰でも学校で勉強する権利があるって……ウォルフォード教授にもそう言われた……」


リアの声だ!?


軽蔑したような笑い声が聞こえて、俺は足を速めた。


廊下の隅には痩せ細った体を丸めているリアと彼女を取り囲む派手な身なりをした生徒たちと散乱しているリアの本や文具があった。


一体……何をしているんだ?


反応するより先に、見覚えのある姿が現れた。


「見ろ、ウォルフォード教授だ!」

「それがなんだ、あいつは俺たちの相手じゃない」

「ウォルフォード教授……!」


お金持ちの子たちがひそひそと話し始める。

リアは顔を上げて、希望を掴んだかのような表情で教授を見た。


教授が現れた事で、俺は安心した。

あのメガネ男を懲らしめるように、生徒たちを懲らしめてくれるに違いない。


だが次の瞬間、ウォルフォード教授はリアの横を通り過ぎ、お金持ちの子たちの前に立ち止まった。


「貴方たちは……ペーター公爵の……」

「コホンッ……遊ぶ時はシャツを汚さないように、帰り道も気をつけてください。どうか公爵に宜しくお伝えください」


……

これまでの公正な姿とはまるで別人のような媚びている姿を見て、俺は固まってしまった。


なんだこれは?!

子どもを助け、知識を尊重する善良な教授がイジメに目を瞑るのか?!


「わかりました!ありがとうございます。教授!」

「ハハハハ、見ただろう?この学校では誰も助けてくれないバーカバーカ!」


「誰が助けないって?クソガキ共!学校をイジメをする場所だと思ってんのか?!」

「うわー!火事だ!あの人燃えてる!逃げろ!!!」


困惑と怒りに押し寄せられ、俺は一時的に自分の感情をコントロール出来ずに燃え上がった……

あの子どもたちが逃げる後ろ姿を見ると頭が痛くなる。


でもあいつらよりももっと大事な事が……


「リア、怖がるな。兄弟たちに見張るよう言っておくからな。これからお前をイジめるなら、公爵だろうが誰だろうが思い知らせてやる!だが、ウォルフォード教授は……どういう事だ?」

「ありがとう、フォカッチャお兄ちゃん……わかんない……ウォルフォード教授はあれから……全然あたしに声を掛けて来ない……あたしも教授に会いに行けなかった……」


頭の中がグルグルしていて落ち着かない。


あいつ……

善良という仮面を被っているだけなのか?


いや、このまま人を疑っちゃダメだ……ちゃんと本人に聞いてみないとわからねぇ!




リアを落ち着かせてから、俺は見慣れた馬車の後ろを追って、派手なビルの前に辿り着いた。


俺はウォルフォードの後を追ってその派手な門を潜ろうとした次の瞬間に高い帽子を被った少年に止められた。


「招待状を見せてください」

「ああ?招待状ってなんだ、俺は人を探しに来たんだ」

「……ここでは招待状を持った貴賓しか入れません。持っていないなら邪魔をするな。次の方どうぞ」


少年は冷たく言い放った後、俺を無視した。

すぐに、教授の姿は目の前の人混みに紛れてしまう。


「あああああ畜生!なんだその招待状とやらは!俺は人を探しに来ただけだ。お前らの仕事の邪魔にはならねぇよ!」

「そんな大声で騒がないでください」

少年は顔も上げずにこう言ってきた。やはり通す気はないみたいだ。


教授の姿が見えなくなりそうで、焦燥感によって胸の炎の印が熱くなった。

もういい、とにかく強行突破だ!


人の少ない場所を見つけて突入しようとした時、甲高い女の声が耳に響いた。


「あら〜待ちくたびれたお客さんが来たみたいだわ。シーザーサラダ、彼を入れてちょうだい」


Ⅳ.レッドフレイムのリーダー

「あなたが、面接に来た人よね〜」

赤い服を着た女は意味不明の笑みを浮かべて、ゆっくりと近づいてきた。


「面接……?」

何を言っているのかはわからないが、潜入するには好都合だった。


「そうだ!俺は面接に来たんだ!早く俺を入れろ!」

「……面接ならこちらへ。急いで、もうすぐ退勤の時間だから」

少年は無表情のままだが、なんとかこのビルに入る事が出来た。


今度こそ、ウォルフォードの奴を見つけて問い質さねばならない。


……


「これが、俺がカーニバルに来た本当の目的だ」

事情を話すと、思っていたよりスッキリした気分になった。ブイヤベースは何故か黙り込んでいる。


「うーん……カーニバルに来て、どれくらい経ちましたか?」

「そうだな、もう一か月になるな」

「一か月……まだ、その人を見つけられていないのですか……」

「……」

俺は言葉に詰まった。


「もしかして……あの人は、もうここから出たのでは?」

「そんな事はねぇ!実は……レッドベルベットケーキにこっそり聞いてみた事がある。カーニバルはたまに貴賓を避難させる事があるんだと」



ブイヤベースの考えを否定し、レッドベルベットケーキのニヤニヤした顔を不意に思い出す。

「避難の意味については、レッドベルベットは秘密だって、お前は知らない方がいいと思うーー」


俺も、そこまで知りたくもねぇし、あの野郎を見つける事こそが俺のやるべき事だ。

そう思って俺はまた拳を握りしめた。


「それに、俺もウォルフォードの写真を使ってシーザーサラダに確認したんだ。”カーニバル”を出たのは見ていないって……」

「シーザーも……毎日門のそばにいる訳ではありませんよ……」

「兄弟たちが後から教えてくれたんだ。あの日を最後に教授は姿を消して、リアも学校から追い出されたそうだ」

「あの野郎は絶対にここに隠れてんだよ!絶対に引っ張り出してやる!人の夢や人生を弄ぶ奴を、俺は絶対に許さねぇ!」


リアだけじゃない、新聞に載っていた子どもたちも……

今思えば手当り次第道具として使われていたのかもしれない。


善良なウォルフォード教授の名を得るための、道具。


人が必死で手に入れようとしている生活を踏みにじるなんて、許せるはずがねぇ!


フォカッチャ……あなたの火が……」

「すまん、また抑えられなかった!ヤケドしてねぇか?」


温度が急激に上がった事に気付いて、咄嗟に拳を引っ込めて振り返ると、ブイヤベースが少し笑っていた。

「わかりました……話してくれてありがとうございます協力しますよ」


「でも……どうして……レッドフレイムのリーダーだと隠すのですか?皆良い方たちですし……きっと理解してくれますよ」

「あっ……まぁ……」


「全部あの大魔王のせいだ……俺がチンピラのリーダーだって知られたら……何日凍らせられるかわかんねぇ……」


「えっ……?」


Ⅴ.フォカッチャ

夜の帳が下りると、次々と光が灯っていく。

カーニバルの中は人々が行き交う。


シーザーサラダが帰り支度を終えて退勤しようとした時、どこか遠くから地鳴りが響いた。それと共に身が凍るような寒気も……


「…………このマヌケ野郎ども!!!ここを遊び場だと思っているのか?!」


バーが荒れている。アクタックの顔色はまるで氷山のようで、一目で世界を凍らせられそうだった。


パリンッ。


アクタックは持っていたグラスを握りつぶした。そのは破片はそばで震えているフォカッチャの足元に落ちる。それを見たフォカッチャはより一層震えが止まらなくなった。


「今日からレッドフレイムを正式にカーニバルのブラックリストに載せる。入れた者も連帯責任で三日凍らす!ーーフォカッチャ?どうしたんだ?」

「えっ、えーと……と、通りかかったんだ!」

「はぁ、ちょうどいい。レッドフレイムの連中はレストランに行くのが大好きだそうだ。見かけたらすぐに知らせてくれ!」

「お、おうっ!わかった!」

「チッ、レッドフレイムのリーダーはとんだ腰抜け野郎だな。自分の組織もうまく管理できないなんて……何震えてるんだ?」

「……震えてねぇよ!俺の手足が速いからだ!ここは俺に任せろ!」

アクタックの言葉を聞いて震えが止まらないフォカッチャは慌てて取り繕った。


「……今日はよく働くな?まさか……」

「別に何も?!俺何も言ってないからな!!!」

「何もないって、またボロジンスキーを怒らせて、避難しに来たんじゃないのか?」

「……そそそそそう!それだ!」


アクタックブイヤベースの後ろに隠れ、震えが止まらないフォカッチャを不審そうに見たが、さっきの自分の態度が怖かったのではと気付き、一つ咳払いをしていつもの表情に戻した。


「そうだ、これをやる。あの子どもが学校に行けるためにバイトしているんだろう?そろそろ会いに行ったらどうだ」

「えっ……?!」

アクタックから差し出されたお金を見て、愕然としているフォカッチャはすぐに気づいた。


光は一筋だけとは限らない。影も一時的なものだと。

彼は幸運にも、このような善意な場所に辿り着いたのだ。


ここまで考えて、フォカッチャの目頭が熱くなった。泣きながらアクタックに突進し、タコのように彼に絡みついた。


「まさか……覚えていてくれたのか……!大魔王……いや、管理者様!お前は本当にいい奴だな!」


「おいっ、何するんだ!放せ!」


不意を突かれて驚いたアクタックは、自分にしがみついている腕を振り払うのに必死で、目の前で涙を流す男がまだ何かを言っている事に気づかなかった。


「どうして……あの野郎を隠しているのかわからねぇが……でも俺は知ってる!お前らは全員良い奴だって!だから……俺も恩返しをする!絶対……絶対に俺の事情にお前らを巻き込まねぇ!」

「は?なんの事だ?……フォカッチャ!鼻水を私につけるな!早くどけ!」


アクタックは顔を顰め、苦しそうな顔でフォカッチャをどけようとしている。

そばで黙って見守っていたブイヤベースだけが、ホッとしたような笑みを浮かべている。


「良い光景です……」


一ヶ月後ーー

男の体は舞い散る文書と共に高い塔から落ちた。


偽装をやめたラザニアは、痕跡を消して闇に隠れようとした時、見覚えのある人影が彼の視界に飛び込んだ。


「最近これで忙しくしていたのね。見つからない訳だわ〜」

「……レッドベルベットケーキ

紅い服の女がにこやかな表情で近づいてくると、怖れ知らずの殺し屋も止むを得ず警戒する。


「あら、かつての雇用主を忘れていないようね。でも……まだ決着がついていない事があるのを、お忘れかしら〜」

「……?」

「ふふっ……依頼人の要求を断るだけじゃなく、依頼人の正体をバラしそうになるなんて。こんなミス、あなたたちの業界じゃ何かしらの罰を受けるべきでは?」


レッドベルベットケーキはいつもの派手な口調のままだが、目を暗い隅に向け、意味深な笑顔を浮かべる。


「どんなに素敵なショーでも、不確定要素があるじゃない~?」

「どういう意味だ」

「知らないでしょう?世の中には使いやすい人形の他に、執念深くて情熱的な犬もいるのよ。噛みつかれたら、大変な事になるわよ〜」


ラザニアは渋い顔をしている、開いた瞳孔が冷たく光る。

対面にいる女は相変わらずどこか楽しんでいるようだった。


「そういう罰の方が、面白い。そうでしょう〜?」



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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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