凜冽を味わう・ストーリー
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目次 (凜冽を味わう・ストーリー)
凜冽を味わう
プロローグ
午後
町の港
灰色の海面上、黒い雲が浮かんでいる。時折稲光が瞬いているそれは、嵐の到来を暗示していた。
モヒート:クソッ!もう半年だぞ、まだ終わんねぇのかよ!これじゃいつまでも出航できねぇだろ!
魚介スープ:はぁ……雨ばかりはどうしようもないでしょ。わざわざ僕を引っ張り出して船を見に来ても何も変わらないよ……ほら、早く帰って二度寝でもしよう。
モヒート:おいっ!あんたいくらなんでも寝すぎだろ?!普通1日に20時間以上も寝るかよ?
魚介スープ:ふわぁ……あなたが毎日早起きするから、眠りを邪魔されて、僕は睡眠不足なの。
モヒート:はあ?いいか、これはトレーニングだ!海賊だったら、毎日ベッドの上でダラダラしてんなよ。
魚介スープ:疲れた……眠い……
モヒート:もういい!俺様はバーに行って来る。
魚介スープ:なに、この前のツケまだ払い終わってないの?まさか……バーに身売りでもした?
モヒート:なーにが身売りだ!あと2日働けば帳消しになるんだ!
魚介スープ:そう。この前のマンガ、仕事上がりに買って来て。
モヒート:はあ?これで何回目だ!あんたを甘やかすつもりはねぇから自分で買いに行け!!!
魚介スープ:ねぇ、待って……土砂降りだよ、それに僕は傘持ってないし。
モヒート:急に降って来やがって!俺も持ってねぇな。いいや、バーに雨宿りしに行くぞ。
午後
バー
薄暗いバーの中で、船乗りたちが話をしていた。嵐は窓によって隔絶されているが、微かに風雨の轟きが聞こえてくる。
カウンターの前、モヒートはつまらなさそうにシェイカーを振っていた。一方魚介スープは隅っこに座り、静かにマンガに没頭している。
船乗りA:なあ、聞いたか?あの豪華客船がもうすぐ完成するらしいぞ!
船乗りB:あの3階建てのクルーズ船か?ははっ、早いな!あんなでけぇ船にどれだけの金をつぎ込んだんだろうな、太っ腹な金持ちもいたもんだ。
船乗りA:あの船、今船員を募集してるらしいじゃないか!この嵐じゃ、まともに出航出来ないだろうけど……おいっ、そこの兄ちゃん!ウイスキーをもう1杯くれ!
モヒート:ほらよ!
船乗りA:おいっ、ここのバーテンダーどうなってやがる、態度悪すぎるだろ!
「ギシッ」という音と共に、バーのドアが押し開かれ、背の高い金髪の女性が入ってきた。彼女の軍服は雨でびしょ濡れになっている。
モヒート:らっ、ラム酒?!……奇遇だな、あんたも飲みに来たのか?
ラム酒:モヒート?ああ、雨宿りに駆け込んだんだ。君は……バイト中か?
魚介スープ:そうだよ。ツケを払うお金がないから、ここでバーテンダーとして働いてるの。
モヒート:おいっ、余計な事言うな!!!コホッ、ちょっと暇だったから、その、ここで手伝いを……
魚介スープ:はいはい、お手伝いね。まあ言い方を変えてもどうせカッコつかないから、諦めた方がいいよ。
ラム酒は黙る事にした。酒を1杯注文し奥のテーブル席に座ると、船乗りたちはまたこそこそと会話を始めた。
船乗りA:なあ、最近この町に変な奴増えてないか?まさかお宝と関係してるんじゃ……
船乗りB:シーッ、声を抑えろ、あいつら全員食霊だぞ……あいつらがお宝を狙い始めたら、俺たちに勝ち目はねぇだろ……
モヒート:おいっ、今なんつった?……お宝……どんな宝だ?!
船乗りA:は?なんで教えなきゃならねぇんだ。
モヒート:そのウイスキー俺が奢ってやるよ、足りなかったらおかわりもだ!
船乗りA:おっ!話がわかるじゃねぇか、酒を奢ってくれる奴は皆兄弟だ!へへっ……実はただの噂なんだが、この町のとある貴族が「失われた宝」の地図を手に入れたらしい……
モヒート:それで?
船乗りA:その後貴族の親子が仲違いをしたみたいで、その時に宝の地図も行方不明になって未だに見つかってないらしいんだ。本当かどうかは知らねぇけどな!
モヒート:宝……楽しそうじゃねぇか!
魚介スープ:待って……なんかイヤな予感がする……まさかまた……
モヒート:魚介スープ、帰ったら支度するぞ!晴れたらすぐに出航だ!
魚介スープ:やっぱり……はぁ……
ストーリー1-2
早朝
町
雲の隙間から光が漏れ出ている。連日の雨で憂鬱の雰囲気に覆われたこの町にようやく普段通りの活気と賑わいが戻った。
モヒート:ほぉ……今日の天気は悪くねぇな。
モヒート:ん?ビラだらけじゃねぇか?ポイ捨てしたのどこのどいつだ、マナー悪ぃな!
突然強風吹き、1枚のビラが舞い上がり、モヒートの顔に張り付いた。
モヒート:ゲッ!……ペッペッ!んだこれ!
モヒート:超豪華客船「トレジャーハンター」号?夢が叶う旅?なんだこれ!
ラム酒:モヒート、どうして暇そうにしているんだ、バーでの仕事はどうした?
モヒート:あー……あっ、あんたか、これから何しに行くんだ?
ラム酒:そろそろ出航しようと思ってな、船の状況を確認しに港に行く途中だ。
モヒート:出航?!そうだ、今日晴れてんじゃねぇか!すっかり忘れてやがった!
ラム酒:経験上、今回のような嵐はとっくに終わってもいいはずだ。もしかしたら何か裏があるのかもしれない。
ラム酒:出航する予定があるのなら、気を付けるんだな。
ラム酒が帽子のつばを押さえ、忠告だけを残して去って行った。金色の長髪と軍服はなびいて、綺麗な曲線を描いている。
モヒート:流石大海賊……後ろ姿もかっけぇ……!
モヒート:俺様も負けてらんねぇ!いざ出航だ!……って、その前に、まず魚介スープのヤツを見つけねぇと!
早朝
公園
公園の一角に木漏れ日が降り注ぐ、魚介スープは気持ちよさそうにベンチに横たわっていた。1冊のマンガを顔に乗せ、ぐっすりと寝ているようだ、
モヒート:こいつ……やっぱりここで寝てたか、おいっ!早く起きろ!
魚介スープ:うるさい……
モヒート:こんな晴れた日に出掛けといて、寝てんじゃねぇよ?!
魚介スープ:うぅ……モヒートか……バーのバイトは?もう上がったのか?
モヒート:チッ!何がバーだ、もう辞めてやる!来いっ、出航するぞ!
魚介スープ:は?今から?……イヤだ、眠い……
モヒート:早く出航しねぇと、失われた宝が取られたらどうすんだ!おいっ!なんでまた横になってんだよ?!
「失われた宝」というワードに反応したのか、隣で丸まって仮眠している流浪者らしき老人が突然ガバっと顔を上げ、不気味に笑い出した。
老人:ヒッヒッヒッ……失われた宝……悪魔!嘘つき!略奪者!
───
⋯⋯
・悪魔?嘘つき?何言ってんだ?
・あんた何もんだ?
・宝について何か知ってんのか?
───
老人は何も答えず、ただ古ぼけた牛皮紙をモヒートに手渡した。その上には奇妙な記号がたくさん描かれている。
老人:ヒッヒッヒッ。……宝はこの町の命を呑み込む……あの悪魔……嘘つき……略奪者め!
モヒート:おい、待て!行くな!この紙切れなんなんだ、宝に関係してんのか?!
魚介スープ:落ち着いて、どうせでまかせだよ……
モヒート:フンッ!とにかく……俺様は必ず宝を見つけてみせる!今から行くぞ!
魚介スープ:うん、健闘を祈る……
モヒート:何祈ってんだ、あんたも一緒に行くぞ!
ストーリー1-4
早朝
町の港
港は人に溢れ、賑やかだった。人々はどうやら何かを期待して待っているようだ。モヒートと魚介スープは人混みに無理やり割り込んで、やっと埠頭に辿り着いた。
モヒート:どいてくれ……俺の船どうなってやがる?!
魚介スープ:こんなに破損しているなんて……嵐のせい?でもなんか違うみたい……
───
⋯⋯
・何が嵐だ!どう見たって人為的な仕業だろ!
・いや……誰かが俺たちの出航を阻止しようとしてんだ!
・クソッ!!!どこのどいつの仕業だ!
───
魚介スープ:他の船もほとんど壊れているみたいだ、あれ以外は……
魚介スープが指した方を見ると、巨大な客船がゆっくりと入港して来た。それを見て、人々はざわつきはじめる。
モヒート:あれが噂の船か?
客船が港に止まると、派手な身なりの男性が甲板に出て、港に集まっている人々を満足そうに見回した。
男性:住民の皆さん、我が「トレジャーハンター」号は本日就航いたします。これを祝して……
男性:本日、先着500名様を無料で招待します!
群衆A:マジで?!乗りたい!押すな!
群衆B:クソガキ、俺を押すな!どけ、邪魔するな!
魚介スープ:ただのクルーズ船でしょ、なんでみんなそんなに必死なの……
魚介スープ:モヒート、なんで引っ張るの……まさか、乗りたいの?
モヒート:俺の直感が、あの船は怪しいって言ってんだ!他の船は全部壊れてんのに、あれだけ無事とかおかしいだろ?!とりあえず乗り込もう!
魚介スープ:ねぇ、本気?……なんでいつも僕を巻き込むの……
辛うじて客船に乗り込んだ後、豪華な設備に目をやる暇もなく、2人は何人もの黒服の男たちによって最下層に追いやられた。
モヒート:どういう事だ?やっぱ何かがおかしい。
魚介スープ:おかしいに決まってるでしょ、タダより高いものはないんだから……
黒服の男:私語を慎め。よく聞け!それぞれ近くの個室に入れ!2人で1部屋だ!
群衆A:どういう事?こんなところに泊まれって言うのか?!
群衆B:そうだそうだ!こんなに狭い部屋に入れられて、何考えてんだ?!ここには他に部屋はないのか?
バンッ--しびれをきらした男は天井に向かって銃を打った。それに怯えた人々は慌てながら、個室の中へと入って行く。
黒服の男:黙れと言っただろう!これ以上ごちゃごちゃ言ったら次はお前らの番だ!
魚介スープ:はぁ……終わった、僕たちは誘拐されたみたいだ。
モヒート:あの野郎ども何考えてんだ?クソッ、鍵掛かってんじゃねぇか?!
魚介スープ:しょうがない、少なくともベッドはあるね。ここまで来ちゃったし、とりあえず一休みしよう……
モヒート:おいっ!こんな状況でよく寝られるな?!
魚介スープ:じゃあ何?逃げるのは後にしようよ、あいつら厄介そうだし。
モヒート:俺たち以外にも大勢の人が捕まってる、老人と子どももいる……
魚介スープ:……
魚介スープ:はぁ、はいはい……助けたいんでしょ、めんどくさいな。あいつらがいなくなってからにしよう。
この時、ドアの外では豪華な服に身を包んだ男性がゆっくりと入って来て、黒服の男たちは彼に一礼をしていた。彼らの会話が微かに聞こえてくる。
黒服の男:オーナー、人数を数えました、合っています。
男性:ははっ、良くやった……下賤な荷物は最下層に閉じ込めるべきだ、クルーズ船の空間を節約しなければな。
モヒート:下賤な荷物?!どういう意味だ!
魚介スープ:あーあ……更にめんどうな事になった……
ストーリー1-6
夜
客船
夜になると、最下層の明かりは全て消され、見張りの男たちも次々と去って行った。
魚介スープ:……
モヒート:起きろ!この野郎、まだ寝る気かよ!
魚介スープ:揺らさないで……吐きそう……
モヒート:ヤツらがいないうちに、早く皆を助けねぇと!
魚介スープ:あのね、もう出航して1日は経ってる、今どこの海域にいるかもわかんないんだよ……
魚介スープ:こんな人数、助けたところでどこに行けばいいの?むしろまずここにいた方が……
───
⋯⋯
・ダメだ!あのおかしな「オーナー」とやらはきっと何か変な事を考えているに違いない!
・ダメだ!この船にはきっと裏がある!
・ダメだ!この人たちを……見捨てられない!
───
モヒート:とりあえずあいつらがいない内に、霊力でドアをこじ開けて、外の情報を探りに行こう。
客船2階は明かりが点っていて、煌びやかな宴会場の中では若い貴族の男女が酒を飲みながら談笑していた。
モヒート:こいつら、なんか「儀式」の話してないか?
魚介スープ:聞き取れない、貴族たちがパーティしてるだけでしょ……
モヒート:なんで俺たちは監禁されてんのに、こいつらは自由に遊んでんだ、絶対におかしい!
魚介スープ:そう……色々と考えるようになったみたいだね……
モヒート:どういう意味だ!俺様は元から頭が良く回るだろ!
魚介スープ:……声がデカいって、僕たちは今潜伏中だよ……
モヒート:……
魚介スープ:あれ?あの人、確か「オーナー」って呼ばれてたっけ。
モヒート:……あいつだ!外に行こうとしてるみてぇだな……行くぞ!あいつを尾行しよう!
魚介スープ:わかったわかった……僕の首根っこを掴まないでよ、自分で歩けるから。
男は客船最上階の部屋に入って行った。後を追うモヒートたちは身を隠せる場所を見つけ、こそこそと窓を通して中の様子を窺った。
モヒート:おい、あいつが持ってるのはなんだ?地図か?
魚介スープ:そうみたいね、でもなんかパーツが欠けてない?
モヒート:シーッ!気をつけろ!
魚介スープ:もう……普通に喋ってよ、急に力を入れないで……頭がもげそうだよ。
モヒート:さっき入って来た黒づくめのヤツが俺たちの方を見てたんだ……なんか「お宝」って言ってないか?!
魚介スープ:ウソでしょ、どこもかしこもお宝だらけかよ……
モヒート:フンッ!俺様の予想通りだろう!この「オーナー」が裏でやっている事は、きっと宝と関係があるんだ!
魚介スープ:予想って……今話を聞いてそう思ったクセに……
モヒート:この件とことん調べてやる!
魚介スープ:はぁ……きりがない……
ストーリー2-2
昼
客船
最下層にある個室内、モヒートはブツブツと独り言を呟きながら、ペンで床に何かを描いていた。
魚介スープ:ねぇ、名探偵モヒート様、もう3日経ちましたよー何かわかりましたかー?
モヒート:うるせぇ!俺の思考を邪魔すんな!……
モヒート:宝、オーナー、貴族……荷物、誘拐、儀式……んあああああ!一体どんなつながりがあるんだ!
魚介スープ:つまんない……マンガも読み終わっちゃったし、もういっそ2人だけで逃げようか。
モヒート:何逃げようとしてんだ?!漢だろう!魚介スープ、今夜も一緒に調査しに行くぞ!
魚介スープ:……
モヒート:……お宝が見つかったら、欲しいマンガ全部買ってやるよ!
魚介スープ:約束だよ。
その言葉が口をついて出たとたん、外からガサガサと音がした。どうやら見張りを交代してるらしい、黒づくめの男たちの話し声が微かに聞こえる。
モヒート:「宴会場」、「仮装舞踏会」……「最後の儀式」?明日には目的地に着くって……
魚介スープ:また何を一人でブツブツと。
モヒート:見張りのヤツらが言ってるんだ……今夜何かが起きるらしいぞ。
魚介スープ:本当に?僕は全然聞こえなかったけど……
モヒート:フンッ!俺様が今まで海上でどれだけ鍛えてきたと思ってんだ、あんたが俺に敵う訳がねぇだろ!
魚介スープ:はいはい、そうですか。
モヒート:おいっ、どういう意味だ?!とりあえず、今晩は宴会場に行くぞ、いいな?
魚介スープ:……
モヒート:死んだフリをしても無駄だ!!!なんでまた目を閉じてやがんだ?!
魚介スープ:わかったってば……どうせ今夜も寝られないんでしょ、今のうちに寝ておかないと。
モヒート:いっ、一理あるな……
夜
客船
舞踏会はまだ始まっていないが、宴会場の外は既に華麗な装飾で飾られている。数人の怠惰な衛兵だけが、タバコを吸いながら入口で無駄話をしていた。
モヒート:仮装舞踏会か、潜り込まねぇと意味がねぇんだよな……
魚介スープ:やめなよ、そのボロボロの服じゃ入口に立っただけで追い出されちゃうよ。
モヒート:はあ?この百戦錬磨の海賊服に文句でもあんのか?!これだからクソガキはよ……大人の男の魅力がわかんねぇんだ!
魚介スープ:……大人の男をなんだと思ってるんだか。
ドンッ--
モヒート:?!
一人の貴族の青年が転んで、ちょうど二人が隠れている隅に尻餅をついた。
モヒート:しまった、バレちまったみてぇだ。
魚介スープ:あんなに大きな声で喋ってたのに、本気で気付かれないと思ってたんだ……
青年:うげっ……お前たち……何でこんな所にいるんだ、舞踏会はもうすぐ始まるぞ……
───
⋯⋯
・こいつもうベロベロじゃねぇか。
・魚介スープ、なんかうまくいきそうじゃね?
・こいつなんか人違いしてねぇか。
───
青年:わかった……それは、竜人の仮装か?はははっ、似てるな!
モヒート:ははっ、わかってるじゃねぇか、俺様は正真正銘の竜人だ!
青年:素晴らしい!竜人、一緒に飲みに行こうぜ、飲みに!今日……俺はバーテンダーの仮装をしてんだ、カクテルを作ってやる……よ……
魚介スープ:気絶した?……やっぱりお酒って良いもんじゃないね……どうする?
魚介スープ:また何をするつもり?
モヒート:俺の今の格好は確かに舞踏会に向いてねぇ、だが……こいつのだったらいけんじゃねぇか!
ストーリー2-4
モヒート:俺の今の格好は確かに舞踏会に向いてねぇ、だが……こいつのだったらいけんじゃねぇか!
魚介スープ:なるほど……バーテンダーか、確かにあなたの本業だしね。
モヒート:チッ!何が本業だ?!
魚介スープ:そうでしょ。
モヒート:着替えたら忍び込むから、どっかで待機していてくれ。何か突発的な事が起きたら、合流しよう!
魚介スープ:わかった、外にいるよ……何もしなくていいよね。
モヒート:そんな訳ねぇだろ!中の動向をちゃんと見張っておけ!
モヒート:なあ、俺が中でこのジェスチャーをしたら、あんたも外でやれよ……何だその顔?!あんたが外で寝てないか確認しなきゃだろ!
魚介スープ:何それダサッ……わかったよ、くどいな、早く行きな。
モヒートは青年から素早く衣服を剥ぎ取り、こっそり近くの部屋に入り仮装した。彼の背中を見つめながら、魚介スープはやれやれと頭を振る。
魚介スープ:大丈夫かな、全然安心できない……まあいいや、少し助けてあげるか……
夜
宴会場
宴会場で音楽が鳴り響くと、仮装した貴族の男女が入場した。入口にいる黒服の男たちは、出入りする客たちを厳かに見つめている。
カウンターの前、バーテンダー姿の青年は手際よくシェイカーを振っていた。綺麗に整えた髪の間からは、「本物そっくり」な竜の耳が見える。
モヒート:あいつ、まさか寝てんじゃねぇだろうな……
モヒートはグラスを掲げ片手でVサインを作ると、窓の外からのっそりと2本の指が見えた。
モヒート:フンッ、サボってねぇみてぇだな。
貴族の女性A:あら?貴方……それは何かの暗号かしら?
モヒート:コホンッ……暗号って何の事だ?なっ何を言ってるのか、わからねぇな!
貴族の女性B:もう、彼を驚かせてしまったじゃない!ふふっ、ごめんあそばせ、妹がご無礼を……
貴族の女性B:それは竜人バーテンダーの仮装?その手つき、実に様になっているわ。
───
⋯⋯
・そうだ、俺は正真正銘の……あー、竜人バーテンダーだ。
・あー……カクテルを作るのは、簡単だからな。
・あ、カクテルを作るのが……小さい頃からの趣味で。
───
貴族の女性A:ふふっ、その衣装とても似合っているわ……一緒に踊ってくださる?
モヒート:踊る?遠慮しとく、俺様は……コホンッ、私は踊りが不得意だ。
貴族の女性A:ふふっ、それは残念だわ。
モヒート:そうだ……もうすぐ目的地に着くそうだが、それは本当か?
貴族の女性A:あら?ご存知ないの?そうよ、むしろ早く目的地に着きたいくらいよ。船に乗るのもう疲れてしまったわ、どんなに豪華な客船でも我が家には敵わないもの。
貴族の女性B:バカな妹、何を焦っているのかしら……今夜の儀式が成功したら、私たちの「願い」は叶うというのに……
貴族の女性A:姉様の言う通りだわ……あら、竜人さん、貴方はどんな願いを願ったのかしら?
モヒート:儀式……願い?まさか最下層にいる人たちに関係あるのか?!
貴族の女性B:ふふっ……面白い方ね、何も知らないフリをするだなんて。その「生贄」たちに関係あるに決まっているじゃない……
貴族の女性B:平民10人を捧げれば、願いを1つ叶えてくれる……この権利を手に入れるのに苦労したわ、竜人さんはいくら払ったのかしら?
モヒート:生贄?!冗談じゃねぇ……よくそんな事を思いつくな?!
耳をつんざくような爆発音の後、客船は激しく揺れた。灯りは点滅し、宴会場には悲鳴が広がっている。
「オーナー」と呼ばれていた男性が宴会場中央の舞台に立ち、ブツブツと怪しげな呪文を唱えていた。
貴族の女性A:きゃあ!……何が起きているの!姉様、「儀式」が始まったのかしら?
男性:ふふっ……「儀式」?
男性:お前ら……貴賤問わず、全部「荷物」……「生贄」だ。宝は全て、私のものだ!
モヒート:宝?!ふざけんな!
モヒート:宝は……俺様のもんだ!おいっ、魚介スープ!仕事の時間だ!
ストーリー2-6
夜
宴会場
嵐が大きな波を立てる。豪華客船はまるで木の葉のように頼りなく海に浮かび、黒潮に流されてぐるぐると回っていた。
数分前まで賑やかな談笑する声に包まれていた宴会場は、今はまるで煉獄のようになっていた。海面から幽霊の如く黒い影が這い出て、波と共に絶望に泣き叫ぶ貴族たちを海へと引きずり込む。
モヒート:堕神?!クソッ、何でこんな忙しい時に!
モヒート:魚介スープ、仕方ねぇ!まずあいつをやっつけねぇと!
魚介スープ:ねぇ、流石に多すぎるでしょ!
嵐の中、舞台中央に立つ男は、傍若無人に跪きながら両手を上げた。おぞましい白い雷光が彼の狂気で血走った目を照らす。
男性:我が主よ!お約束通り、生贄を献上した!貴賤問わず、ここにいる人間は全て……貴方様の食糧だ!
男性:どうか、お姿をお見せください--
───
⋯⋯
・食料だと?!あのイカレ野郎、何言ってんだ?
・狂ってやがる!今すぐ止めねぇと、許さねぇぞ!
・この野郎!全員堕神に捧げるつもりか?!
───
男性:ははっ……私たちを止めるつもりか?不可能だ、我が主が許さない……暗闇の侍者が、主の敵を消し去ってくれるわ!
魚介スープ:堕神がどんどん増えてる!あいつの周りには……結界があるみたい、堕神もあいつに近づけないようだ。
魚介スープ:待って、海面が……おかしい、まさか……
巨大な触手が漆黒の海面の中央から客船にゆっくりと迫って来る。すると、男は興奮のあまり地面にひれ伏し、息を荒げて呪文を連呼し始めた。
モヒート:クラーケン?!
魚介スープ:あいつが召喚してきたのか……手強そう……
モヒート:チッ、恐れる必要はない!クソクラーケン!来いっ!俺様が相手してやる!
魚介スープ:無茶しないで、そいつの気配……他の堕神のとは全然違う。
この時、一隻の船がやって来た、そこには見覚えのある旗がなびいている。甲板の上にいる海軍姿の女性は自ら舵を取っている、金色の長髪が黒い空を背景に輝いていた。
魚介スープ:おいっ、何ボーっとしてんの!後ろ!
モヒート:ウッ……コホッ、雑魚が、俺様の背後を襲うとは!どけ!
ラム酒:おいっ、モヒート!君たちは船の上にいる堕神を片付けろ、外の連中は私に任せるといい!
大きな触手に攻撃され、客船は激しく回転した。怪物の目標は、最下層にあるみたいだ。
ラム酒:私の砲撃が効かないだと!……このままじゃ、客船は沈んでしまう!
モヒート:しまった!最下層には人間たちがいる!
モヒートがそう叫んでいると、細い人影が俊敏に堕神の攻撃をかわし、下に続く階段に辿り着いた。
男は呪文を唱え続ける、まるで悪魔の囁きのようだ。その呪文に呼応するように、海底に蠢く怪物も凶暴化し始めた。
ラム酒:あの男の呪文によって、怪物の周りに結界が形成されているようだ。怪物が完全に召喚される前に、止めなければ!
モヒート:クソッ!あいつの周りにも結界があって、近づけねぇ!
男性:ハハハッ……これ以上足掻くな、下賤な奴らを頂いた後、お前たち食霊も……我が主の晩餐になる。
男性:我が主よ……どうか姿をお見せください!宝の地図の修復をお願いします!
男はボロボロの地図を掲げた。そこにはいくつか見覚えのある記号があった、するとモヒートは何かを思い出した。
───
船乗りA:その後貴族の親子が仲違いをしたみたいで、その時に宝の地図も行方不明になって未だに見つかってないらしいんだ。本当かどうかは知らねぇけどな!
───
老人:ヒッヒッヒッ……失われた宝……悪魔!嘘つき!略奪者!
───
モヒート:あの記号?!あの変な爺さんがくれた紙で見た!まさか……
モヒートは続々と現れる堕神を斬り倒しながら、ポケットから紙切れを取り出して空高く掲げた。ボロボロになった紙は血で汚れているが、見慣れた記号がはっきりと残っている。
モヒート:おいっ!貴様が探してんのは、これか!
男性:宝の地図……何故それを?!渡せ!今すぐ渡せ!
モヒート:ハッ!欲しいのか?じゃあ自分で取りに行きな!
男性:ヒヒヒヒッ……宝……宝は私の物だ!!!
モヒートが紙切れを海に投げると、同時に狂気に陥った男もそれを追って海に潜った。轟音と共に、海中の怪物は激しく動き始め、それは踊っているようにも見えた。
モヒート:わかった!俺様に任せろ!
魚介スープ√宝箱
昼
客船
客船の帆はそよ風の中広がる。太陽が降り注ぎ、甲板は焼けるように熱くなっていた。
激しい揺れの中、魚介スープはようやく目を覚ました。船の舵を取るバーテンダー姿のモヒートは、優雅に片手にグラスを持っている。
魚介スープ:あれ……どうなってるの?……怪物は……
モヒート:おっ、ようやくお目覚めか!怪物どもは俺様が全部やっつけたぞ!
魚介スープ:そっか……
モヒート:そうだ!今は財宝がたんまり載ったこの船を、このモヒート船長が操縦して町に帰っているところだ!
魚介スープ:たんまり?……この船を乗っ取ったの?
モヒート:は?乗っ取ってねぇよ?!俺は海賊だ!自分の実力で手に入れた財宝だ!
魚介スープ:あなたが満足してるならもうそれでいいよ……
モヒート:おいっ……大丈夫か?顔色が悪ぃみてぇだけど、それにさっきまで寝言を言ってたぞ……
魚介スープ:寝言……どんな事を言ってたの?
モヒート:あー、ずっと御侍って言ってた、どんな夢見てたんだ?
魚介スープ:大丈夫……悪夢でも見てたんじゃないかな。
モヒート:そうか!何かあったら、すぐに俺に言えよ!なんせ、俺たちは仲間だからな!
魚介スープ:仲間?……
モヒート:ゴホンッ……だから、俺たちはこれからも同じ船に乗るだろう!お互いの面倒をみねぇとな!
魚介スープ:あなたの面倒なんてみたくないよ……はぁ、めんどくさい……
モヒート:おいっ!どういう意味だ!俺があんたの面倒を見てんだろ!
魚介スープ:うぅ、頭が痛い……
モヒート:あーあ、もう少し休んでろ!霊力の使い過ぎだ……すぐには回復しねぇ。それに、あんたはそもそも俺より体が弱ぇからな。
魚介スープ:そうだね……誰かさんが黙ってくれたら、もっと早く良くなる気がするな……
モヒート:なんだと?!
太陽が沈む頃、モヒートは若い船乗りたちに舵を譲り、魚介スープの隣に腰を下ろした。
モヒート:なぁ、俺様がどうやってあの怪物を倒したのか気にならねぇのか?
魚介スープ:別に。
モヒート:おいっ!少しは興味持て!!!
魚介スープ:はいはい……そんなに話したかったら話せばいいじゃん……
モヒート:フンッ!あのイカレた「オーナー」は、宝の地図を修復するために堕神の召喚をしたんだと、船にいる全員を生贄にしてな!
モヒート:幸い、あいつが持ってた地図の記号に見覚えがあったんだ、あの変な爺さんに渡された紙切れで見たのと一緒!
モヒート:だから俺は紙切れを海に向かって投げた、するとあいつはそれを追って海に飛び込んで行った……実に欲にまみれた狂人だ。
魚介スープ:結局お宝か……
モヒート:そうだ!残念なのが……宝の地図を手に入れたのに、また俺の手から零れていっちまった。
モヒート:少なくとも……「失われた宝」は確かにあるって証明出来たんじゃねぇか!フンッ、必ずや見つけてやる!
魚介スープ:……あんな物の何がいいの、本当にわかんない……
モヒート:どうだっていいだろ!あーこの酒やるよ、俺様からのお礼だ。
モヒート:……うるせぇ!あんたはアルコールが苦手だろ、せっかくノンアルコールのを作ってやったのに!
魚介スープ:うん……確かに、その服を着て、グラスを持ってたら……
モヒート:?!何が言いたいんだ?
魚介スープ:ううん……なんでもない、あなたがバーのツケをまだ払い終わってない事を思い出しただけ。
魚介スープ:その格好なら、このままバーでバーテンダーをやったらどう?
モヒート:クソッ!!!この魚野郎!!!黙れ!!!
モヒート√宝箱
早朝
客船
いつものように太陽が昇る、海面は黄金色に輝いていた。元の静けさを取り戻したが、荒れ果てた甲板を見ると、ここで激戦が繰り広げられた事がわかる。
モヒート:はぁ、厄介な怪物だった!
ラム酒:あの怪物は、古代から存在する巨大な堕神なのだろう、まさか出会ってしまうとは。
モヒート:古代?とんでもねぇヤツを倒したみてぇだな!
ラム酒:そうだ。人間の執念と貪婪に呼応して生まれるとされている、召喚するには100人を生贄にしなければならない。
ラム酒:あの男は、一体どこでそれを召喚する方法を知ったのだろうか。
モヒート:だからあの野郎はずっと儀式だの、生贄だの言って
たのか……フンッ!貪欲でバカな貴族どもが、あいつの言葉を信じるとはな!
ラム酒:人間は往々にして惑わされやすい生き物だ……あの怪物が数千年経っても潜んでいられた原因でもある。
ラム酒:しかし、モヒート。君があの男の儀式を邪魔しなければ、怪物の力が更に増していたことだろう。そうなれば、私たちですら手出し出来なくなっていた。
モヒート:コホンッ……いっ、いや、俺様にとっては朝飯前だ!
モヒート:ただ、あの宝の地図は惜しいな……
ラム酒:宝の地図?
モヒート:いや、大した事じゃねぇ!宝の地図がなくても、俺様はきっと自分の力で「失われた宝」を見つけてみせる!
ラム酒:ははっ、その言葉で思い出した。貴族たちはこの船に乗るために相当な財宝をあの男に渡したらしい、この船には相当な宝が眠っているかもしれない……
ラム酒の命令で、彼女の手下は手分けして客船の部屋の捜索にあたった。
モヒート:さすが大海賊……手下も有能だ。
ラム酒:何をブツブツ言っているんだ。今回の荷物は、君の分もある、前回よりも素晴らしい働きをしたからな。
モヒート:なっ、そんな!俺様には朝飯前だって言っただろ!前回は実力をうまく発揮できなかっただけだ!
海賊A:団長!最下層で人間たちを見つけました、それに食霊も1人!
久しぶりに青空を見た人々は、まだ状況を把握しきれていなかった。怯えている人々は甲板の隅で体を震わせている。ラム酒の手下は、昏睡している少年を運び出した。
モヒート:魚介スープ?!どうした!おいっ、目を覚ませ!死ぬな!
ラム酒:安心しろ、霊力が尽きて昏睡しているだけのようだ……
群衆A:りゅ、竜人…?知ってる……俺らと一緒に監禁されていただろ!あの少年も!
群衆B:彼らが助けてくれたんだ!客船がグルグル回っていた時、あの少年が入って来て、霊力で私たちを守ってくれたんだ!
群衆C:そうだ!君たちのおかげで助かったよ!少年は?無事なのか?
人々はようやく緊張から解放され、モヒートを囲み、魚介スープの安否を確かめ始めた。
モヒート:あー……待て!おいっ!こっちに来るな!俺様のツノを触るなあああ!!!
あっという間に朝日が昇りきった。ラム酒の手下は荷物を全て自分たちの船に載せ、出航しようとしていた。
ラム酒:モヒート、この船は君たちで操縦しなければならないな。
モヒート:あー、問題ない!俺様は全能なトップ海賊だからな!
ラム酒:それは心強い。ふふっ、そうだ……その小僧ももうすぐ目を覚ますだろう、そんな険しい顔して見つめなくてもいい。
モヒート:はあ!け、険しい?そんな事は!……寝言を言っているように聞こえて、少し、気になっただけだ……
ラム酒:案外、仲間思いなんだな……彼が甲板で信号弾を打ったおかげで、私たちは駆け付ける事が出来たんだ。
モヒート:ああ?!まさか仮装舞踏会の時か……こいつ、いつからそんな気が回るようになったんだ。
ラム酒:海賊にとって、風雨も苦境も日常茶飯事だ。仲間たちで支え合う事で、より遠くまで行ける。
モヒート:もっ、もちろんだ!こいつは俺様の支えがねぇと何も出来ねぇ!
ラム酒:では、もういい時間だ。私たちは出発する、次は……また海の上で会おう。
モヒート:ああ!次こそは、宝を見つけてみせる!
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