フォアグラソテー・エピソード
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フォアグラソテーのエピソード
高貴な気質で高嶺の花タイプ。うかつに近寄りがたく、その綺麗な顔からは全く表情の変化が読み取れない。
他人とはほとんど会話を交わさない。
実は料理人のことを骨まで憎んでいる。
Ⅰ牢獄
部屋の中には壁しかない。窓からかろうじて外の景色が見える。紺碧の空に星いっぱいの夜。私が見た景色はいつも不完全で、細い影が私の視界を分断する。
それは窓に設置された鉄の窓枠だ。
少し歩くだけで、鉄の鎖が地面と摩擦し、不気味な音が部屋の中で響く。
目的のない日々、この冷たい部屋の中で、私は時間の流れなど感じられない。
退屈で仕方ない時、私は入獄した原因を思い出す。
「本当にバカだった」
思い出す度に、私は心の中で自分を罵る。
あれは複雑な心境になった経験だった。
私が初めてこの世界に召喚された時、目の前に立ったのは城の料理人だった。
私を見た彼はショックを受けたようで、ずっと「ありえない」「私にそんな力があったのか」などと独り言を言い、とてもうるさかった。
そしてなぜか彼が料理人であることを知った時から、私は妙な嫌悪感を抱いていた。
だから、彼が残してくれた第一印象は最低だった。
本来ならば、彼のことを「御侍様」という尊称で呼ぶべきだったが、そうする気にはなれなかった。
彼も呼び方を特に気にしていなかったようで、周りの人たちも「料理人」と呼んでいるだけだ。
私なんかいつも「ねえ」と呼んでいたくらいだ。
Ⅱ脱獄
最近、城は異様な雰囲気に包まれている。
料理人の後ろについていると、いつも暗い視線を感じる。
もちろん、仕事に集中している料理人は不気味な視線には気が付かない。
私は嫌な予感がし、数日後、予感は現実となった。
「どうしてこうなったんだろう……」
料理人は牢獄の部屋の中で歩き回り、焦っているその様子は実におかしい。
「反逆だなんてとんでもない。毎日仕事だけで精一杯だから……」
「とんでもない冤罪だ!」
彼が牢獄でどれほど叫んでも、あの重い鉄扉は開かない。
反逆だなんて、王族が彼を陥れるための言い訳に過ぎない。
本当の理由は、おそらく誇り高い王族には、雑役分際の料理人が食霊を召喚した事実を受け入れられないということだろう。
「ねえ」
私は歩き回っている彼を呼び止めた。
「閉鎖的な環境が嫌いだから、私はここを離れたい」
「え?えええ?でもどうやって……足に鎖が……」
その言葉が終わらぬうちに、私の足に纏う鎖は氷となって砕けた。
私は窓に近づき、同じ方法で鉄枠を取り除いた。
その間、料理人はずっと驚いた顔のまま、言葉を発さない。
しかし私が窓から出ようとした時、彼に掴まれた。振り返ってみると、彼は焦っている顔で私を見つめている。
「フォアグラ……フォアグラ様、私を連れていってください!」
本当にルールを知らない男ね。
よく考えると、あの時彼を連れて牢獄から逃げ出した時、私は初めて人類に触れた……
現在でも、指先にあの時の体温が残っている気がする。
Ⅲ 別離
彼が弱虫であることは最初から分かっていた。
毎日乱雑な厨房で一生懸命働き、貧乏な家庭の子だから、いつも自分の出身を誇りに思う貴族たちに軽蔑される。周りの同僚も最も重くてきつい仕事を彼に押しつける。
そうされても、彼はいつもバカみたいに笑っているだけだ。
しかし料理に関わることになると、彼はいつものどうでもいいという態度から一変し、真面目な顔になる。
料理作りに失敗すると、彼は悲しくなり、そして自分自身に対してストイックになる。
どうしてここまでするのかと聞くと、彼はこう答えた。
「料理を真剣に作らないと、食材に対してあまりにも失礼だ」
その時の真剣な顔とそれが当然だという口調を前にして、私はこれまでの見方を改めた。
だから、こうなった。こういう展開を予想した王族は大量の兵士を外で待機させておいた。目の前にいる多くの敵を前に、私は彼の前に立ち、彼を守ることにした。彼が命令さえくれれば、この両手が血まみれになっても、彼をここから救い出すと決めた。
しかし、一番聞きたくない声が私の後ろから聞こえてきた。
「フォアグラ、もういい。放っておいてくれ」
淡々とした声は、まるで今日はいい日だねなどと言っているかのようだった。
「私には家族も友達もいない。だから、あなたがそばにいてくれた毎日は、本当に楽しかった」
私は振り向こうとせず、彼の表情も見たくない。
今の私は、無力感に支配された。
「もうここまででいいよ。私が死ねばあなたも自由になる」
そんなこと絶対言わないで!固まっていた私はそう思った。
しかし聞きたくない言葉はついに私の耳に届いてしまった。
「フォアグラ、ここから逃げて」
「御侍としての命令だよ」
Ⅳ 誓い
厳重な警備の城の中で突然騒ぎが起こり、冷たい壁を突き抜けて私の耳に届いた。
「何が起こったの?」
耳を傾けると、兵士たちの微かな叫び声が聞こえる。
「敵の侵入?」
部屋の真ん中にある椅子に座っている私はそう思った。
「じゃ、そろそろ出陣の命令も来るでしょう……」
ガチャ。
後ろの鉄扉が開いた。
「こんなに早く来るとは……」
私が後ろに振り向くと同時に、扉が開いた。しかし、来たのは鎧を着ている兵士ではなく、金髪で無気力な表情の少年だ。
私の質問を待たずに、少年は先に言った。
「彼が死んだ」
その瞬間、私は固まった。少年と初めて会うのに、なんとなく「彼」が誰なのかを理解した。
「迎えに来た」
涙が落ちそうな感じがする。
「一緒にここから出よう」
三十年前。
「御侍の命令だよ」
「それがどうしたの?」
私は彼の顔を見ずに冷たい口調で答えた。
こうなることは最初から分かっていた。なぜなら、私の御侍様は弱虫だ。
「全ての兵士を殺して私を救いなさい」などという命令を出せるはずがない。
だから、私もそれなりの覚悟ができていた。
彼の次の言葉を待たずに、私は霊力で彼の周りにシールドを作り、彼を守ると同時に、彼をそこに縛った。
そして、私は飛び上がって敵軍の後方、すなわちこの国の国王がいる場所に飛んだ。
国王の周りの兵士を凍結した後「待っていた」顔をする国王を見つめながら、こう言った。
「彼の一生の安全を保証し、彼を国外に送りなさい。そうすれば、私はあなたの力になりましょう」
国王は私の条件をあっさりと飲んだ。料理人との契約がないと、私を縛ることが無理だということを、彼はよく分かっている。
ずるい国王にとって、この結果は予想通りだ。
私が料理人のそばに戻ると、シールドの中にいる彼は涙目になっていた。
シールドを解除した後、彼は私に近づこうとしたが、待機していた兵士たちに止められた。
彼は歯を食いしばって赤い顔になり、これまで見たことがない表情で私を睨んでいる。
「行きましょう」
これだけの言葉を残し、私は向きを変えて国王のいるところに戻ろうとした。
その時、彼は私を呼び止めた。
私は歩みを止め、彼の声を背後から聞いた。
「待ってて」
「必ず迎えに行くから」
「ええ」
私は振り向いて彼に笑った。
Ⅴフォアグラソテー
現世に召喚されたばかりのフォアグラソテーは、心底から料理人に対する嫌悪感を抱いていた。
どうしてこのような強烈な感情を抱いているのか、彼女自身もよく分からない。
分からないが抵抗できない。だから、彼女はそれを「運命」と呼んだ。
食霊だから毎日御侍につくことが義務だ。彼女は嫌悪感を我慢して自分の使命を果たすことにした。
料理御侍と共に過ごし、しばらくすると彼女は結論を出した。
「私の御侍様はクズ男だ」
才能がなく、料理の腕も中途半端だ。いつも知らぬ間に騙され、結果自分の責任範囲外の仕事もたくさん押しつけられる。
しかし、この石の城の中で、料理を尊敬し、まじめな態度で食材を扱う人は、彼のみだ。
こんな彼を見て、なぜか自分の嫌悪感も徐々に消え始めた。
「いつか立派な料理人になれるかもしれない」
フォアグラソテーはそう思うようになった。
この料理御侍の存在は、彼女の「運命」を変えてくれるかもしれないと感じた。
だから、最後の時、外からの悪意に対し、フォアグラソテーは自分の時間を代償にして彼の死ぬ「運命」を変えることにした。
「待ってて。必ず迎えに行くから」
以降三十年間、この言葉はフォアグラソテーにとって唯一の慰めとなった。
相手が約束を果たすなど、彼女は最初から期待しなかった。才能がない彼にとって、自分を召喚できたこと自体が奇跡だったから。
食霊の力がない彼に、自分を救えるはずがない。
しかし、彼との約束を一度たりとも忘れたことはなかった。
そして、金髪の少年が現れて彼女に手を差し伸べ、彼女を連れて行くと言った。
その瞬間、フォアグラソテーは自分の御侍様を見たような気がする。彼の背後に、バカみたいな笑顔で頭を掻きながら恥ずかしそうに言う幻影を見た。
「ごめん、待たせた」
「大丈夫」
フォアグラソテーはこう答えた。
「絶対来てくれるって分かっていたから」
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