月餅・エピソード
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月餅のエピソード
生き生きとした少女。
毎日元気ハツラツで、落ち着きがない。
普段からイタズラを好み、誰かがそのイタズラにひっかかったときは得意げな表情を見せる。
怒られたときは相当落ち込んでしまう。
Ⅰ 寂しい月
「中秋節、大団円……」
「桂花を愛で、満月を拝み……」
「孤独な影一つ……」
「一人酒で、寂しい夜を過ごす……」
「こら!!!クソガキども!!!」
「わぁ、出た、お化け〜」
「怖い、逃げろ〜!」
「誰がお化けだ!!!」
「あたしは食霊、食霊よ!!!」
「ふぅ……」
木下で延々と童謡を歌っている子供たちを追い払い、あたしは夜の風で冷たくなった鼻をすすり、また木の上に戻る。
木の幹に寄りかかり、夜空で白く光る満月を眺め、傍の盃に手を伸ばし一口啜った。
「孤独な影一つ……」
「一人酒、寂しい夜を過ごす……」
先ほどの童謡が無意識にあたしの喉から流れ出し、憂鬱になったあたしは盃の桂花酒を一気に飲み干した後、不満いっぱいに呟いた。
「まったく、一体誰が暇つぶしに書いた歌詞なの〜」
「そう、今日一人でいるのはあたしだけなの!」
自暴自棄に叫んだが、あたしに応えてくれるのはただ風にそよぐ葉っぱの音だけだった。
「本当につまらない……」
酔いが回り、目を細めて横になった。
空の月は相変わらず、こんなに明るくあたしを照らしている。
「ねえ……お月様……」
目の前の景色がぼんやりし始めた。
「あなたも寂しさを感じる?」
睡魔が襲ってきた。あたしは深い眠りに落ちていった。
Ⅱ 面白いゲーム
五年前。
「月餅!!!」
「うわ!え〜御侍様?どうしてこんなに早く戻ってきたの〜」
仕事に集中していたあたしは、突然耳に響いた声にびっくりして飛び上がった。顔を上げて前を見ると、用事のために出かけていた御侍様が戻ってきていた。
あたしはそわそわしながら笑顔を作り、彼が机の上の物に気づく前に、それらを袖の中に隠そうとした。
しかし、なんどもあたしに「やられた」経験のある御侍様は大股であたしの目の前までやってきて、机の上にあったものを彼に見られてしまった。
「早く戻ったのは、お前が毎日何をしているのかを見るためだ」
御侍様の顔は少し怖かった。
「お前は、どうして一日中、悪戯をする道具ばかり作っているんだ?」
厳しい顔をしてはいたが、あたしを叱る口調には甘やかすような口ぶりも混ざっていた。
セーフセーフ。あたしはホッとしてすぐ元気一杯に答えた。
「へへ、ずっと家にいるのもつまらなくて、御侍様を喜ばせられるような玩具を作っているんだ〜」
「驚かせるものじゃなかっただけで、十分ありがたい」
御侍様は額を押さえてため息を漏らした。
あたしは舌を出して、すぐに机の下のものを御侍様が見えないところに隠した。
あたしの御侍様は誠実で、真面目過ぎる男だ。
彼があたしを召喚した時、あたしを見ながら何度も頭を振って言った。
「こんなか弱い少女をどうして戦いに参加させることができよう?」
その後、堕神が突如襲撃してきた中で、自分が弱くないことを証明したが、御侍様はまだでんでん太鼓のように首を振っていた。
「ダメだ、ダメと言ったらダメだ」
そしてあたしは彼に『保護』された。
「つまらないな〜〜〜」
あたしは毎日広い家の中を走り回って、御侍様の帰りを待っている。そのうち、暇つぶしのため『いたずら』と言う名のミニゲームを始めた。
毎日御侍様が帰る前に、様々な『サプライズ』を用意するのだ。
毎回あたしがどんなに勝手なことをしても、御侍様は怒らない。ただ仕方なくあたしと一緒に悪戯の後片付けをするだけ。
だから、あたしは心の底からこのゲームが好きになったのだ。
Ⅲ 伝わってきた凶報
今回は出かけてから、御侍様がずっとずっと帰ってこない。
元々がらんとしていた部屋は、あたしの孤独な心の中でさらに寂しさを増した。
「一体どうしたんだろう……」
あたしは家の入口に立ち、入口に続く小石の道を眺めてぼんやりとしていた。
「もしかして、この前のいたずら、やり過ぎちゃったのかな……」
気分は最低だった。頭の中で御侍様の出かける前の言葉、行動をすべて何度も思い出し、あたしが見逃したかもしれない微かな異常を探した。
でも残念なことに、何も見つけることはできなかった。
いつになく落ち込んだあたしは、うずくまり両膝の間に頭を埋めた。その時、そう遠くないところから誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。
あたしはすぐ顔を上げ、少しずつ近づいてくる人物を見ながら、勢いよく突進していった。しかし、近づいてみると、その人は御侍様じゃなかった。
でもあたしはその人を知っていた。彼は何度か家に来たことがあった。御侍様の仕事の仲間のようだった。
「御侍様は?」
彼が何も言わないのを見て、あたしは尋ねた。
「彼は……」
雲の後ろに隠れていた明月が顔を出した。柔らかな月光が照らす、明るい夜、目の前の人物の真っ白な顔がはっきりと見えた。
思わず緊張し、彼を促した。
「早く言って、御侍様は?」
「彼は……死んだ……」
突然、何も聞こえなくなり、その言葉だけが空中に繰り返し響き渡った。
Ⅳ 最後の希望
もし自分と契約を結んだ料理御侍が死亡すると、相手が死んだ瞬間、契約の力が解除されたことを感じるはずだ。
しかしあたしは、まだ御侍様の力が残っているのを感じていた。
「ナイフラスト……」
低い声で目的地の名前を繰り返し、足を速めた。
「ここか……」
目の前の雲にも届くほど高い雪山を眺めた。
寒さが風と共にあたしの皮膚に入り込む。凍え切ったあたしは歯を食いしばり言葉を発することもできない。
御侍様の仲間の話によると、彼らはこの山の中で連絡を絶ったということだ。
「遺体さえ見つからないのに、どうして死んだなんて断定したの!?」
あたしは怒り心頭で、一歩踏み出し、足を深い雪に沈め、山頂を目指した。
どれぐらい歩いたかわからない。
ただ山頂と自分の距離はちっとも縮まっていないように感じた。
振り返ってどれくらい歩いてきたのか見ることもできなかった。自分が諦めてしまうのが怖くて。
冷たい風は唸りを上げ、一度もう一度と吹き付け、骨まで染み込む寒さはあたしを飲み込もうとしているようだった。
頭にあるのは一つだけ。
「彼を見つける」
この思いだけは消さない。
「イチゴイチゴ、見て、あそこに人がいない?」
「え?ホントだ……」
「わ!転んだ!大丈夫かな、早く行かなくちゃ!」
「分かった、兄さんも転ばないように気を付けて」
渾身の力が寒さに吸い尽くされ、意識も失いかけたところで、遠くから二つの人影があたしに向かって走ってくるのが見えた。
「た、す……」
ああ、声が出ない。
「たすけ、て……」
その二つの影がどんどん近づいてくるのを見て、疲れ果てたあたしは瞳を閉じた。
「御侍様……」
Ⅴ 月餅
王歴300年、光耀大陸のとある古都に住んでいた料理御侍は「月餅」と言う名の食霊を召喚した。
しかし、この料理御侍は頑固で融通が利かず自分が召喚した戦闘のための食霊が、若い少女であるのを見ると、彼女を残酷な戦争に参加させることを嫌がった。
そして月餅は毎日家で、自分の御侍様の帰りを待っていた。
繰り返される平凡の日々の中、彼女はいたずらで自分の生活に楽しみを添えるようになった。
いたずらのおかげで、彼女は自分の御侍様は頑固ではあるが、心の優しい人だと言うことに気付いた。
平凡な日々に笑い声が加わると、月餅の待ち続ける寂しい心も満たされるようになった。
しかし楽しい日々はあの凶報を知らされた時に、終わった。
自分が御侍様を失ったことを信じない月餅は、御侍様が事故に遭った場所に来て希望を探した。
しかし、彼女は途中で気を失い、通りかかった食霊に救われた。
意識を取り戻した月餅は、巨大な氷に封じられた御侍様を目にした。
頑固で心優しい御侍様は、この肌を刺す寒さの雪山で、命がけで、ある食霊を守ったのだ。
「どうしてこんなことに……?」
月餅は日夜再び会えることを待ち望んでいた姿を見つめ、低く呟いた。
「ホントにバカなんだから……」
月餅は笑っていたが、彼女の瞳には涙が溢れていた。
「ポンー」と音がして、料理御侍を封じていた氷は粉々に砕けた。
月餅が氷から落ちてきた御侍様を受け止めると、自分の身体から氷に封じられ消えずにいた契約のカが、徐々に散っていくのを感じた。
「帰ろう」
月餅は料理御侍を、一緒に貴重な日々を過ごした家に連れ帰った。
それ以降、中秋節の日にだけ、元々賑やかだった家の中から声が聞こえてくる。
それは月餅が祝日を祝う声だ。
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