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ワンタン・エピソード

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ワンタンのエピソード

気ままに暮らす青年。

自身が飼っている飩魂(とんこん)といつも一緒にいる。面倒を嫌い、何でも飩魂にやらせる。

飩魂こそが彼なのではないかとみんな疑っている。



Ⅰ 人の子として

私はワンタン

御侍はまだ小さい頃に私を召喚した。


私が目を開けると、色が白くて可愛らしい人形のような子供がいた。

幼い彼は無理にまじめな表情を作っていたが、瞳の奥には隠しきれない興奮がのぞいていた。


彼はまだ丸みの残る手を私に向かって伸ばし、こらえきれずに愛らしい笑みをこぼした。


「きょうから僕がお前を守ってやる!」


舌足らずな声でそう話す幼い子供の姿に思わず吹き出してしまった。そして彼の手を握り、その清らかな目を見つめた。


「分かった。よろしく頼むよ」


きらびやかな装飾、高価な衣服。

私にははっきりと分かった。

この子は決して普通の家の子供ではないと。


しかし彼の身分は私が思ったより、はるかに高いものだった。





この国で最も地位の高い男、それが彼の父親だった。


彼には数十人の兄弟がいた。

その頃母親である王妃の、彼を見る目になぜ心配の色が浮かぶのか、その理由が私には分からなかった。


まだ子供だった彼は、お話の中に出てくる市場やあめ細工、砂糖菓子などに強い憧れを抱いていた。

そんな彼にキラキラと輝く大きな瞳で見つめられると、私は思わず手を差し伸べてしまうのだった。


「そんなに興味があるなら、連れて行ってあげようか?」


クルクル回るランタン、多種多様なゲーム、全てのものがそれまで宮廷を出たことがなかった彼の心を魅了した。

そのキラキラとした笑顔を見ていると、私も自然と頬が緩むのだった。


突然、小さな手が私の手から離れた。

高貴な出で立ちをした少年は、自分の身を挺して幼い物乞いの子を守り、その子を殴ったり蹴ったりしていた者たちをにらみつけた。


「そんなことしたら危険だぞ」

「でも放っておけないよ!」


強情な眼差しに困惑しつつ、柔らかなその髪を撫でてやった。


市場の明かりは深夜まで灯っていた。

遅くまで歩き回って疲れた彼と私は川辺に並んで腰を下ろした。冷たい川の水に足を浸し、灯籠流しが遠ざかっていく光景を眺める。


「なあ、さっきはどんな願い事をしたんだい?」

「……他人に話せば効きめがなくなるって

いうじゃないか……教えない……」

「私は君の食霊だぞ。人間じゃない。言ってみな、願いを叶えてやれないとも限らないぞ」

ワンタンには無理だよ」

「話してみなよ」


「ぼ、僕はいつか桃源郷を見つけ出して、そこで母さんと一緒にひっそり暮らしたいんだ。友だちが会いに来てくれたり、退屈すれば市場に出かけたり……兄さんたちと争ったり、父さんに怒られることを心配せず、静かに生きたいんだ……」


そう話した時の彼の表情が、私は今でも忘れられない。その天真爛漫でうれしそうな顔は普通の子供とまったく違わなかった。


しかし、幸せな時間は長くは続かないものだ。


宮中へ戻ると、上品で穏やかな彼の母親が初めて激しい怒りを見せた。ただ激しく怒りながらも、目の周りをわずかに赤くしていたことで内心の心配を隠しきれていなかった。

彼女は従者を全員、部屋から退出させた上で御侍を自分の目の前に跪かせた。


そして懲罰用の板で我が子の太ももを激しく打った。

ただ、手が震えているせいで、何度やっても板をしっかりと握ることはできなかった。


一回、二回、手は震えていたが止めるつもりはないようだ。

しかしとうとう、彼女は化粧が台無しになるほど顔中を涙で濡らし、歩けないくらいに腫れ上がった我が子の足を抱いて泣き崩れた。


「私はあなたに謝らねばなりません。あなたを王家に生んだせいで選択肢を与えてやれませんでした。でもあなたは王の子です。母は怖い、本当に怖いのです……お願い……普通の人の暮らしを求めるのはもうやめて……いい?そしてこれからもしっかりと生きて。約束よ」


彼の母親はとても優しかった。

彼に普通の子供が持つ全てのものを与えようとし、他人行儀になるからといって敬称を使うことさえ止めた。


ただ、部屋の入口に立っていきさつを目撃した私は、彼の兄弟の一人が、家族の愛情を忘れた者に殺されていたことを知っていた。


まだ幼い彼は、どれほど厳しい罰を受けようと、一度も泣いたことがなかった。

しかし母親の暖かい胸の中ではポロポロと涙を流し、大声を上げて泣いた。


彼は握りしめたこぶしを緩めた。

まるで自分の夢をあきらめて手放すかのように。

そしていつも誇り高く上を向いていた顔が項垂れて下を向いた。


私は……間違ったことをしてしまったのだろうか……


Ⅱ 家臣のために

子供は日増しに大きくなって少年となり、やがて堂々とした青年へと成長した。

幼い頃のあどけない笑顔は徐々に消え、代わりに諦めや悔しそうな表情に支配されていった。


彼は寝食を忘れて勉学に励み、常に何かを変えようと努力を続けた。


それを傍で見守っていた私は、疲れて机で寝てしまった彼に毛布をかけてやることくらいしかできなかった。


机の上の竹簡(ちくかん)はどんどん積み重なっていき、栄養補給のためのチキンスープは冷えて油が固まっていた。


ランプの明かりの中、竹簡に記された悲しい知らせを読んだ彼は、感情を押し殺し、目を赤くして上を向いた。


彼の親友が兄たちの争いの犠牲になったのだった……

しかし彼には友の死を悼むことさえできない。どこにスパイが潜んでいるか分からないから。


力のない地方役人が、宦官(かんがん)たちと結託した勢力に対抗することなどできるはずもない。

その友は権力争いの犠牲となったのだ。


御侍が事情を知った時、かつて詩について心ゆくまで語り合った彼の若い友はすでに骨となって城の外に埋められていた。


見ていられなくなった私は、飩魂を使ってそばにいた召使いを全て退去させた。

広い部屋に二人きりになった。


子供の頃のように彼を胸に抱き、その頭を優しく撫でた。

もう人前で涙を見せることなどなかった彼はこの時、私の服を固く握りしめて言った。


「僕は兄さんたちや、父さんみたいな人間になりたくないんだ」

「……そうはならない。私がいるからそんなことにはならないさ」

「僕はあの人たちと争いたくないんだ。ただ普通の人や親しい人の幸せを守りたいだけなのに、それが許されないの?……どうして……どうしてなんだ……」

「私と逃げよう」

「いやだ、僕は逃げない。あの人たちに負けを認めるようなことは絶対にしない。でもお前には見守っていてほしい……

僕が罠に嵌らないよう……この国をあの、忠臣の命を奪うような者たちに渡してはいけないんだ」


胸の中の彼はまだ震えて、目の周りを少し赤くしていたが、深く息を吸って顔を上げ、しっかりとした口調でそう言った。


かつて自分の夢を諦めた悲しみから目を腫らして泣いた子供は、初めて私と会った時に宣言したように、名もない人たちを守ると誓った。

しかし力を持たない王子である彼は、親友の死さえすぐに知ることはできなかった。


この国の王子として、生まれたときから平民たちが得られない特別待遇を受けてきたなら、それ相応の責任を負わなければならない、と彼は言った。

そして、自分は父の家臣であるだけでなく、普通の人たちの家臣であり、その普通の人たちを守りたいと考えるなら、もっと大きな権力を手に入れる必要があると語った。


権力はまるで洪水や猛獣のようなもの。

望もうが望むまいが、それを手にするものは徐々に飲み込まれていく。


私は彼の食霊として傍を離れず、彼の本当の気持ちを守っていこう。


私は彼の目を見て気付いた。

あの頃、母親に抱かれ、世界を失ったかのように大声で泣いていた子供は、もう立派な大人に成長したということに。


親友が描いた桃源郷の風景画を彼はずっと手元に残している。


私もあの絵が好きだ。

我々が目指している桃源郷は同じ景色をしている。


彼は時々、あの絵をぼうっと眺めていることがある。まるで幼い頃に諦めた夢を哀悼するかのように。


彼はその日、絵を戸棚の奥深くにしまい、鍵をかけた。


Ⅲ 君主というもの

あの日から、御侍は変わった。


彼は他人のことを適当にあしらったりするような人ではなかった。

だがあの日から、彼は媚びへつらう事を学んだ。かつて私たちが敵視してきた卑しいやつらをも、次第に丸め込んでいった。


私たちを見下し虐めてきた兄たちが気付いたとき、彼はすでに彼らが敵わないほどまでに成長していた。


そして私にははっきりと見えた。万人の上に立つ帝王が。以前の不満な視線も次第に称賛に変わっていった。


今彼の踊る姿が以前の厳粛だった姿より好ましいと言う奴もいたが、私だけが知っていた、夢の中で彼がきつくひそめた眉間は、もう広がることはなかった。


私は彼の傍で、彼が簡単に他人の生死を決め、指先が軽くテーブルを叩きながら、どうやって他人を自分の罠におびき寄せるか考える様子を見てきた。


彼はもう弱者を見ない。

私は彼の綺麗な手が徐々に黒く染まっていくところを見てきた。

私の記憶の中の、かつての素直な少年は、徐々に底が見えない腹黒い人物に変わっていってしまった。


もし私が彼のテーブルの下の手が依然として震えたままなのを見ていなかったら、恐らく私もかつての仲間たちのように、袖を振って立ち去っただろう。


私はこの子が頂点まで登って万人に敬われ、少しずつかつての彼がもっとも嫌う人間になっていったのを、ただ見てきただけだった。


私は彼の変化を止められなかった。

それが彼が選んだ道だから。





ついに年老いた帝王が死に、かつての兄はピエロのように、もう巻き返すことはできない。


彼はもうすぐ慣れ親しんだ薄色の上着を脱いで、華麗な墨色の立派な服装に替えて、盛大な冠を束ねて、その至高の座に登っていく。


私を阻んでいる衛兵を見て、私はどうしようもない笑みを浮かべた。


「彼は何を言った?」

「へ、陛下は『長い間ご苦労だった。帝位の座に就いた今、

もうあなたのことは必要ない!長年付き添ってきたことを思い、もうここを離れていくといい。二度と帰ってくるな』と言いました」

「それだけ?」

「……若様、悪いことは言いません。早く行きましょう。帝王の考えは推測を許容できない。あなたは知りすぎたんです。この追放も、帝王の恩赦と考えたほうがいいでしょう」

「わかった。最後に一回だけ会わせてくれ」



私は願った通り、明日になれば帝王となるこの人の目の前にやってきた。階段に座って泣きながら笑ってる人を見て、初めて会ったときのようにしゃがんで、彼に手を差し伸べた。


「一緒に行こう」


泥酔しているその人に私の言葉が聞こえたかどうかは判らない。


彼は私の袖を掴んで、頭を低く下げた。脚の下の柔らかい絨毯の上に丸い染みが落ちる。

まるで自分を哀悼しているように。

あるいはかつて哀悼することすらできなかった友人たちのための埋め合わせのように。


「結局俺も父上や兄上たちのような奴になったな」

「一緒に行こう」


子供のように泣いた後彼は頭を上げて、笑った。


ワンタン、おまえはもう行け」


結局私は彼がその座に座る様子を見ることができなかった。


Ⅳ 友というもの

まだ遠くへ行っていないうちに、彼専属の近衛が私に向けて恭しく歩いてきた。

彼は私に整然としている小包みを渡してきた。その小包みの中には一重ねの厚くない銀票があった。

この少ない財産は、彼が黒く染まる前のすべての財産。銀票以外に、小包みの中には一通の分厚い手紙もある。


私は一軒の旅館を見つけた。まだ店に入っていないうちに、給仕が迎えに出てきた。


「若様、あるお客様があなたに最も良い客室を残しました。

僕はそのためにここであなたを待っていました」

「うん?」

「そのお客様から伝言を一つ預かっています」

「どんな?」

「『今の彼は友達を守る力を手に入れた。

もう心配しないでほしい』、と」

「……ありがとう」


彼が私に用意した客室に入った。

すべての内装が私の以前の部屋と同じで、香炉の中の匂いでさえ私の好きなあの珍しい匂いだ。


テーブルに座って、私はあの分厚い手紙を開封した。


手紙の中の彼は私の記憶の中の彼だった。私と並んで河辺に座って、水に脚を浸していたあの彼だった。

全力で偽装した見た目は水で洗い落とされていた。


あの乞食を身を挺して守った衝動的な少年は、何も変わっていなかった。





長い手紙は私達が知り合ってからのことをすべて記録していた。彼は私さえすでに覚えていない細かい出来事を全部覚えていたのだ。


しかし、この読んでいて思わず笑みをこぼす手紙は突然終わった。


最後の一ページを開くと、震えた筆が手紙を墨点で汚して、いくつかの文字が円形の水の跡で溶けてしまっている。


私は見えた気がした。

あの独りぼっちになることを恐れている子供が、涙を我慢しながら私を送り出すこの手紙を書いている光景を。


彼が皇帝の座に座っている自分を私に見せたくない理由は、私だけが覚えているから。

あの、かつて笑いながら母親を連れて隠居したいと私に言っていた彼を、あの乞食のために怒っていた彼を、覚えているから。


彼は彼の最も嫌いとする奴になってしまった。彼は彼の最も嫌いな事をやった。

しかし彼は後悔しなかった。


約束を果たせなかったあの絶望を二度と味わわないために、こうするしかなかったから。


彼はかつて自分の無力のせいで一人の親友を失った。だが今の彼は、守りたいすべてを守れる力を手に入れたのだ。


目が潤んできて、文字がぼんやりし始めた。大きく開いた目を押さえて涙をこらえ、私は深く息を吸って手紙を読み終えた。


うまく隠せたと思っていた考えが、まさかとっくに彼に気付かれていたとは。

私が、彼があの絵を凝視していたことに気付いていたように、彼も私があの絵に憧れていたことに気付いていたのだ。


彼は自分のために長く私を傍に縛ってきた。

しかし、もう私を解放する時が来たのだ。


彼は死ぬまで、夢見た桃源郷に行けないだろう。想像していた山水が見れないだろう。

しかし、彼は同じ夢を見てきた私に、自由を与えてくれた。



「覚えておいてくれ。

たとえ外で気ままに生きていても、

私のことを見ていてくれ。

私は怖いのだ。一人でここに居る私が、いつかあいつらのようになってしまうことを」



抑えきれなくなった涙が、ぎりぎり読める文字を完全に読めないほど溶かしてしまった。



「わかった、そうする。必ずそうする」


Ⅴ ワンタン

ワンタンの国の近くには、光耀大陸といった大きな土地があるといわれている。

そこには数えきれないほどの有名な山や川がある。たくさんの名も知れない桃源郷もある。


もしワンタンに選ばせるのなら、彼は決してこの小さな宮廷の中で生まれることを選ばなかっただろう。


しかし、彼はこの宮廷の中で現れただけじゃなく、そのつまらない環境で一人の子供の良心を、二十年以上守ってきた。


その子供は母の細心な教えで育ち、ワンタンの導きで徐々に成長し、やがて人々に畏怖され、尊敬される帝王になった。


彼は果断な手段で、この国家を蝕む寄生虫どもを一掃し、無数の毒癌を抜いて、傷口を引き裂いてでも傷口の深い所に根付いている腐った根を抜いていった。


この厳しく何事も彼の目をごまかせない帝王が、かつて山と川を歩く平凡な人生を望んだ子供だとは、誰も知らなかった。


この子供は徐々に成長し、やがて責任を負える青年になった。

よく庭で呆然とするワンタンを見て、彼は強くこぶしを握り締めた。


彼は知っていた。もし彼が居なかったら、ワンタンはこんな場所に束縛されて、呆然と徐々に視線から流れて出て行く雲を仰ぐことはなかっただろうと。

たとえ傍にワンタンしか残っていないとしても、どれだけ惜しくても、彼はもう決めたのだ。二十年以上付き添ってきたこの友人に自由を与えると。


嬉しいことに、ワンタンが行った後、時々あの丸々な飩魂を遣って手紙を送ってくる。たまにはおやつと一緒に、たまには自分の平安を告げる手紙も。


毎回の手紙の最後に、ワンタンはいつも真剣に彼に教えた。最近の外の世界はまた彼のおかげで少し良くなった、と。





少年は青年に成長して、青年は徐々に老いていった。

時には半月で一通、時には3日で一通、手紙が止まったことなどなかった。

皇帝も時々身の回りで起きた面白いことを手紙で彼に話したりした。帝王が息絶えた時ですら、彼の手にはまだ乾いていない墨の跡があったが、テーブルの上に手紙はなかった。


帝王の手紙の頼みを叶える為かもしれない。二人は一度も再会を言及しなかった。

ワンタンの記憶に残ってるのは、ずっとあの川辺に座って脚で水を蹴る少年だった。


ワンタンは悲しみで傍で縮んでいる飩魂を撫でてやり、手に持っている途中で切れた手紙を見てから、頭を上げて彼が帝位に就いてからだんだんと賑やかになってきた市場を見た。


突然彼の目に入ったのは、黒ずくめの長髪な男が仕方ない顔で、隣の満面の笑みの女の子の手を引いて街を歩く様子だった。

ワンタンは我慢できず笑ったあと、市場から離れた。


後ろの黒ずくめの男は何かを感じたように振り向いたが、去っていくワンタンには気付かなかった。



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ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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