辣条・エピソード
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辣条のエピソード
S系のお姉さま。独占欲がかなり強い。強気な性格とナイスバディで、人に近寄りたいけど近寄りにくいと思わせてしまう。周りの人を魅惑し、調教するのが好きである。
Ⅰ 似た者同士
似た者同士は友達になるか、嫌い合うかのどちらかだ。
目の前で私を止めようとしている食霊を見て、なぜか甘い豆花に言われた言葉を思い出した。
そいつの指さす方向には死んだように静まり返った村があり、何をしようとしているかは言葉でわかった。
「この村を助けたいんだけど、私だけではとても。あなたも人間に召喚された食霊でしょう?」
私はそのきっぱりとした表情に、たちまち昔の自分を思い出した。
自分もかつては、こんなに滑稽なほど無邪気だったんだろうな。
私はその食霊の後ろ、それほど遠くない瓦礫の中で、まるで年寄りのように煙草をふかし、金縁の片眼鏡を掛けまるで王座にでも座っているかのようにのんびりとした奴を見て、眉を吊り上げた。
「あいつに頼めばいいじゃない、私より頼りになるでしょうよ」
そして、少し気まずげな相手が私に返事をする前に。
今まで隠れていた気配が突如として私たちを包囲してきた。
痩せて骨と皮になっている住民たちが私たちに近づいてきた。何も知らない食霊は振り向いて今にも倒れそうな老人を助け起こしている。
手に持った鞭で地面にヒビを入れたら、彼らを撃退するのには充分だった。
みんな、恐れの中に凶暴性を秘めた目をしている。やはり私の予想通り。
このお人好しさんは、絶対にやられるだろう。
絶対に。
「助けちゃだめ、きっと後悔するわ」
「いいえ、それでも、私は人間に召喚された存在。人間の歴史には悪い部分もいっぱいあるけど、きっと伝えるべきこともあるわ。だから、彼らをこのままにしておくわけにはいかないでしょ」
そいつはそう言い終えると、振り向きもせず、明らかに危険な村民たちに向かっていった。
その華奢な背中を見ていたら、ふと苛立ちが込み上げてきた。
あの雪山で出会った単純バカを思い出す。
最近の食霊って、本当にどうかしてる。
まったく救いようのないバカばかり。
Ⅱ 仲間
仲間は数人いる。
みんな麻辣ザリガニが、この貴重な清浄の地に連れ帰ってきてくれた食霊たちだ。
実の弟と喧嘩が絶えないが、私たちの治療をしてくれる甘い豆花。
及び私をここへ連れ戻して、再び生きる意義を与えてくれた麻辣ザリガニ。
「辣条、お帰りなさい。オレの薬材は?」
「うん、後であげるわ。はい、麻辣ザリガニのお酒。」
「ありがとう。そうだ、ここ二日で村がまた邪教に破壊されたんだって?帰ってくる途中で何か見なかった?」
薬材を棚に入れる手が少し遅くなったが、甘い豆花は話すのをやめようとしない。
「なんでも村人を助けようとした食霊を捕まえて……その……天への生贄にするとか?」
甘い豆花はまるで、冗談を言うみたいな口調だった。
「そんなの、信じる人間がいるんだね~フフフ。ま、オレたちの存在だって似たようなものか。」
私はそれに返事をしなかった。
「どこかへ送られるらしいよ。具体的な場所はまだ調べてないけど、人間に騙された食霊となるとね…」
「ああ、そんな奴は助ける価値も、必要もないわ」
私は甘い豆花の話を遮った。甘い豆花が次に何を言うかはわかっていたけど。
あの愚かな連中も、これを機に賢くなってほしいものだ。
それから私は、部屋を離れた。
「人間に騙された食霊…」
甘い豆花のさっきの言葉が、思わず脳裏によみがえる。
フン、そんなの、ただの余計な同情だ。
いつも通りの午後だった。その風や日差しまでいつも通りだった。
すべてを洗い流すような大雨や、おどろおどろしい空模様でもなく。
目の前の景色がぼやけた。ただ胸の中に、どうしても振りほどけない温度を感じた。
再び目覚めた時には、傷口から出た血が地面をべったりと染めていた。
粉薬を簡単に振りかけただけだったが、重いもので体を轢かれた鈍痛を感じた。
意識を取り戻した時に、目の前にいたのは私に背を向け、屋外に座って空を仰ぎながら酒を飲む麻辣ザリガニだった。
「や、気が付いたか。」
「……助けてくれたの……?私の連れていた子は?」
「あの幼い人間か。俺様がお前を見つけた時にはもう死んでいたよ。どの道助からなかっただろうがね」
しばらく話すまで、私は目の前にいるのが麻辣ザリガニだと気が付かなかった。
人間を嫌っているが、食霊に対しては友好的。
敵味方の区別なく、助ける価値があると思った食霊は助ける主義。
傲慢で頑固で、でも自分の信念を持っている。
立ち去ろうとして、呼び止められた。
「おい、どこへ?他に行くあてなんてあるのか?」
人の気持ちなどまったく考えない、あけすけなその物言いに、私は愕然となった。
そうだ、私はもう、どこにも帰れない。
最後に帰る場所も、人間にやられてしまった。
じゃあ私、どこへ行けばいいの?
「フ、お前、人間の死体を抱いていたぜ。そいつだって人間に殺されたのによ。どうだ?俺と一緒に行かないか?人間なんて、存在価値のない生物だ。俺が奴らを消せたら、お前の仇もとれるんだぜ」
その時私が振り返ると、麻辣ザリガニの赤い全身が見えた。自信と傲慢さに満ちた笑顔と、私に向かって差し伸べられた手は、まるで漆黒の世界の中で、鮮やかに燃える炎のようだった。
Ⅲ 飢饉
人類の世界はいつもさまざまな災難が蔓延っている。
人類自ら招いた人災を除いても、彼らの命を奪い続ける天災がある。
そして今年、連綿と続く大雨が村や町を破壊できるほどの洪水をもたらした。
洪水が過ぎた後、死んだ家畜と水浸りな土地は飢饉と言う名の災難を蔓延させた。
私は麻辣ザリガニに付いて数回出たことがある、それは戦争の次に悲惨な光景だった。
破損した死体と全部抜かれた樹皮、そして痩せ切った手を伸ばして何かを掴もうとする人間。
だから私は想像できない、一体どのような執念が、目の前のこの痩せ切った子供をこのような帰らぬ地で一欠片の希望を探しにこさせたのか。
あまりにも痩せすぎたからかもしれない、こいつの目は逆に大きく見えた。
この肥沃な土地を見て、その大きくて明るい瞳は信じられないと言ってるようだ。
そしてすぐ、この虚弱でいつでも気絶しそうなやつはなんといきなり川の中に飛び込んで、私が思ってもいないスピードで一匹の小さな魚を捕まえてからすぐに噛み付いた。
口が真っ赤になった彼を見て、続けさせてはならないと私は思った。
激しい鞭の音に伴って、猛烈に強い風がもたらされた。
強い風に巻かれた竹の葉は彼の頬を掠ってその蝋のような黄色い顔を浅く切った。
明らかに脅かされた子供が私の方をぼうっと見てきた。その眼底にある恐怖を見て私は言い表せない満足感を感じた。
人類という生物は、このような目で彼らが持たない強い力を持っている私たちを見上げるべきだ。
「出て行くか死ぬか、選べ」
ある瞬間、彼の痩せすぎて形になっていない顔にある、あの不純物のない目は、昔のあの目と重なった。
それで気が逸れたせいで、本来彼の体に落ちるはずの鞭が彼の足元に落ちてしまった。
遠くないところにいた甘い豆花がこっちの音を聞いてやってきた。
「何故こんな小さな子供が?どうやってここに?」
「あ、あんたらがここに住んでいる妖怪なのか!お、お、俺に力を貸してくれ!仇を討ってくれ!」
やはり人類だな。どんなに小さな子供でもこうだ。
弟のことを思い出しただろう、甘い豆花が面白がってるような声で、
「仇?」
「そうだ!お願いだ!」
「なぜオレたちがお前の仇討ちを手伝わなければならないのだ?」
「なんでもする、俺の命でもいい!仇さえ討てばいい!あいつら生きていく資格はない!」
その子供の目に宿っている憎しみの深さは、いままで見たことがないほどだ。
大人でもこれほどの深い憎しみはなかっただろう。
でもこれは私に関係のないことだ。だからもう聞きたくない。
それに、麻辣ザリガニがもうすぐ戻ってくるはずだ。彼はこいつを活かすはずがない。
「貴方のような虫けらの命にはなんの価値もない。さっさと失せろ。次会うときは殺す」
彼を更にからかおうとする甘い豆花は、私の興が冷めたのを見て、肩を竦めて私について竹林を出た。
Ⅳ 人類
まさかまたその子供に会うとは思っていなかった。
麻辣ザリガニは帰ってくる度にいつも何かを持ってくる。酒や茶菓子でなくとも、怪我を持って帰ってくる。
しかし今回、彼はカニバサミで私達が追い払ったあのガキの襟を提げて入ってきた。
甘い豆花さえ少し驚いた。まさかああも人間を嫌っている麻辣ザリガニが私たちの住む場所に人間の子供を連れてくるとは。
「さあ言え、なぜ命を対価に俺様たちを雇いたいんだ?誰を殺したいんだ?」
麻辣ザリガニの口もとに浮かべた表情を見ると、どうやら気分は悪くないようだ。
そしてその子供が地に下ろされたら、深呼吸をしてベタなストーリーをゆっくりと語り始めた。
人類の間の紛争は、いつになっても醜くて気持ち悪い。
子供の姉は驚異的な天賦の才を持っていた、彼女は変な力を使って他人の傷を治せる。しかしこのような能力は、乱世の中の権勢のない家庭にとっては、催命の札でしかなかった。
彼の姉は人類を愛していた、だからすべての力を尽くしてできるだけの人を救ってきた。
しかし人類は満足を知らない生き物だった。
利益で釣れないと知った彼らは、脅し、恐喝、強制などの手段を取るしかなかった。
仲睦まじい家庭は支離滅裂し、優しかった姉も気が狂った。
死ぬ前、その眼球を失った目から血が涙のように流れ出した。彼女は弟の痩せ細った懐で泣き喚いて、叫んで、愛していた人類を呪ってた。
彼女は残った最後の力を弟の体に注ぎ込んだ。
その力のおかげで、彼はこの地にやってこれた。呪いのような言葉は未だに幼い子供の心に刻んでいる。
「あの人たち、貪欲で、愚かで、満足を知らないから、生きていくべきではない」
その子供の言葉は、突然私の記憶の中のその人と重なった。
同じように人類でありながら異様な力を持って生まれた、同じように人類を愛していた。
そして同じように、最後は人類に裏切られた。
残ったのは、骨身に染みる憎しみしかなかった。
そして彼らを愛していた人たちは残されて、彼らの憎しみと悔しさを受け継いだ。理性が憎しみに崩されたら、残ったのは復讐の願望しかない。
「ハハハハハ!よく言った!そういうことなら、機会をやらないこともない。辣条!こいつはてめえに任せた!いつか、人類と人類を嫌ってる人類と殺し合う光景を期待してるぞ」
そういうことなら、この虫けらを調教する手間も無駄ではないだろう。
Ⅴ 辣条
辣条は召喚された場所は、極めて平凡な村だった。
彼女の御侍は、どこにでもいるような、笑顔のかわいい普通の女子だった。
臆病だけど、気の強い女の子だった。
女の子は孤児だった。だから辣条の召喚は彼女の孤独な人生に仲間をもたらした。
そしてその女の子も、初めての人の世に来た辣条にとってかけがいのない存在だった。
女子はこの極めて平凡な村の最初の、そして最期の御侍だった。
女の子が辣条を召喚した日から、村は変わった。以前女の子を無視してきた村人達はますます親切になってきた。
自分の変化に気づいた女の子も、知らないうちに自分の肩に降りてきた重荷を背負い始めた。
彼女は料理御侍だから、彼女は愛する人々を守りたいから。
堕神だけじゃなく、農作物を荒らす猪やカラスすら、すべてこの少女の責任になった。
あの時、全土には数少ない食霊しか存在しなかった。
少女は村に利益を作れる傭兵として他の村に怪物退治に派遣されたことすらあった。
来る日も来る日もムチを振り続けてきた辣条の体は徐々に弱くなってきた。
少女はそんな辣条をもう戦わせたくなかったから、勇気を振り絞って意見を述べた。
そして、もう村に利益をもたらさない女の子は、食霊を召喚できる人間として、研究対象として研究室に送られた。
「自らの意志で」研究所に送られた。
辣条が女の子が用意してくれた隠れ場所で、体力を回復し出てきて女の子を見つけた時、彼女はもう変わり果てていた。
残酷な実験のせいで、温和な女の子はほんの少しの刺激でも鋭い叫び声を上げてしまう、怯えて辣条ですら近づけられなかった。
辣条に編んでもらってた三つ編みも、実験のせいで丸刈りにされてしまった。
罵られても言い返すことを知らなかった女の子の口から出た悪毒な言葉、まるで人が変わったかのようだった。
辣条の記憶にあった御侍とは、まるで別人のようだった。
彼女は女の子を連れて逃げ出した。でも女の子の体はすでに壊れ果てていた。
彼女の命を維持していた機械から離れたら、彼女が最も好きな青空の下で、愛してた人々を呪いながら、この世を去った。
辣条はぼんやりと、連日の雨のあと珍しく晴れ渡っていた空を見上げた。
我に返ったあと、鞭で重荷に耐えられずぶるぶる震えてる男の子の足元を打った。
「麻辣ザリガニに任されたからね〜。言うことを聞かないとお仕置きしちゃうよ。ちゃんとしろ!」
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