桜餅・エピソード
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桜餅のエピソード
朗らかで思いやりにあふれた少女。
誰かが落ち込んでいるのを見ると、空から桜の花びらを降らせて、すべての悩みや苦しみを、その花びらと一緒に消しさってくれるらしい。
Ⅰ煩悩
いつも他人の相談役である私は最近ある悩みを抱いている。
なぜか、最近の御侍様はいつも奥歯に物が挟まったような言い方をするのだ。
私が聞くと、御侍様はすぐ話題をそらす。
「私にも教えられない悩みなのかな?」
そう思うと、私はちょっと落ち込んだ。
しかし御侍様を困らせたくないので、私は不安を隠すことにした。
たぶん御侍様は私を心配させたくないから、言わないのだろう。
あるいは私に教えても何にもならないからだろう。
不安に苛まれた心を慰めようとしたが、逆効果。
ますます不安になった。
「一体どうすればいいのだろう?」
Ⅱ溝
私は人の悲しむ顔を見たくない。明るい顔が好きだから、周りの人の悲しい気持ちに気付くと、いつも花びらの雨を召喚して愁いを取り除く。
こうして私は、料理御侍の間で大人気の存在となった。
当初は、人々の好意に感激し、大したことをしたわけでもないのに人気があることに恐縮していた。
あの件がなかったら、私はずっとそんな気持ちに浸っていただろう。
ずいぶん前のことだが、私はまるで昨日の出来事のようにはっきり覚えている。
その日、私は重傷を負った。しかし御侍様の傷はもっと重く肉体だけではなく、心にも傷を受けていた。
「くそ……」御侍様は血を吐いた。
「くそ!!!」
「くそ!!!!!!!!」
私は慰めの言葉を持たなかった。堕神の襲撃によって家族を失ったばかりの人には、どんな言葉も慰めにはならない。
だけど、みんなが好きなあれならばまだできる、そう思った。
私は痛みを耐えて手を差し、残っているわずかな霊力で桜の花びらを召喚し、悲しんでいる人のそばに降臨させた。
「パン!」
はっきりと響く頬を叩く音。
私は顔を抑え、信じられない気持ちで相手を見つめた。
「お前……何をしている!私をバカにしているのか!……ゴホ」
「食霊は不死身だから、いい気になっているんだろう!」
御侍様の目は真っ赤になり言葉から強烈な憎しみが滲んだ。
「ゴホ……何なんだよ、そんな気持ちがあるなら……私の家族の代わりに死んでしまえ!」
Ⅲ温暖
その後、あの日の件は特に気にしなかった。激怒で正気を失った時の言葉で、私はただとばっちりを食らっただけだ。
だから、あの日以降、私は相変わらず落ち込んだ人々のために花びらの雨を召喚し、話し相手を必要とする人の話を聞いてあげる。
そして、私は現在の御侍様に出会い、また似たようなことが起きた。
私は血まみれの御侍様を見つめ、どうしたらいいか分からずに手も足も出ない。
先ほどの堕神との激戦で、彼らは多くの仲間を失った。御侍様の親友も亡くなった。
今の私は、どうすれば御侍様の心の傷を癒せるだろう。
私には治療の力も強大な力もない。できるのは花びらの雨を召喚するぐらいだ。
しかし、花びらの雨を召喚しても嫌われるだろう。
あの時のように。
「なあ……」
横になっている御侍様の声が聴こえ、私の思考は中断した。
「私より困った顔をしているじゃないか」
「花びらを召喚しないのか?実は……ゴホ、あれ結構好きだよ……」
目を開ける力も残っていないのに、なぜ花びらの雨を見たいの?
不思議に思ったが、私はすぐ御侍様の言う通りにした。
空を覆わんばかりの桜の花びらは、私の髪に、御侍様の顔に、そして死せる者たちの身体に、ひらひらと舞い落ちた。
「あの世への旅で桜がお供すれば、彼らもきっと喜ぶだろう?」
御侍様は花びらをひとひら手に取り、目を閉じて小さな声で言った。
目の奥が熱くなる。ずっと抑え込んできた思いが次から次へと湧いてきて、彼の言葉がそれらを一瞬にして昇華してくれた。
「あなたが生きていてくれて、本当によかった。」
Ⅳありがとう
だから、今の御侍様に避けられると、私はすごく不安だ。
ネガティブなことを考えたくないけど、自分の気持ちは抑えられない。あの日あまりにも暖かいものを手に入れたから、失うのが恐い。
しかし、やはり私の考えすぎみたい。
ある晴れた日の朝、御侍様はケーキを持って私の目の前に現れた。
「誕生日おめでとう!」
「あなたを召喚した日を誕生日にしたんだ。ちょっと勝手かな?」
御侍様は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「人は誕生日を楽しく過ごすものなんだ。だから、そんな気持ちを体験してもらいたくて」
「あのさ、最近どんな味のケーキにするか、何を用意したら喜んでもらえるかずっと迷っていたんだ。だから少し冷たくしちゃってた。ごめんね、サプライズをばらしたくなかったんだ。」
「あの……気に入った?」
「もちろん」
桜の花びらが私の心の中で舞い上がっている。
Ⅴ 桜餅
王歴200年から王歴300年の間、料理御侍と堕神との戦いが白熱段階に入った。
最初はされるがままであったが、今の人類は効果的な対抗手段を手に入れたため、今や積極的に堕神に攻めかけるようになった。
形勢逆転。
堕神は人類の生活エリアから追い払われたが、命を落とした料理御侍も数知れない。
人々が悲しむ時、ある桜色の影が悲しみに包まれる者の群れに混ざり、袖を振って桜の雨を召喚し、人の心を慰める。
桜の色のおかげで、多くのひとは心の安寧を取り戻した。
しかし、一人の食霊に堕神がもたらした苦痛を完全に取り除くことができるはずがない。
長年の戦争の中で、家族を失った料理御侍はついに憎しみに負けて理性を失い、その矛先をある意味で堕神と同質な存在である食霊に向けた。
しかし、人の心を解する桜餅は耐えた。言葉の悪意に落ち込むときもあったが、人類の悩みを取り除こうという初心は、いつかきっと人々の心に届くと、彼女は信じている。
そしてある人が黙々と努力する彼女にこう言った。
「私の最期まで一緒にいてくれて本当にありがとう」
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