ガイダンジャイ・エピソード
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ガイダンジャイのエピソード
ちょっとドジっ子な魔法使い。
困った人を見かけたらいつも熱心に助けるが、裏目に出てしまうこともしょっちゅうある。
自分のミスでメソメソしている彼を見ていると、どんな怒りもすぐ消えてなくなる。
Ⅰ 失敗者
「下りろ」
「下りろ!」
「……」
最初は小さかった声が、すぐに大きくなった。
僕は舞台を下ろされた。
後から舞台に立った出演者を見ながら、僕はとても悲しい気持ちになった。
「また失敗……」
床にしゃがみ込み、僕は悔しくて魔法の杖をはじいた。
「あの人たちよりずっといいのにな……」
舞台では演目が続いている。クライマックスでは、客席の喝采はまるで怒涛のようだった。
舞台裏で縮こまっていた。絶えずこみ上げる無力感。
「羨ましい……」
無意識のつぶやき。
あんなふうに、みんなの前で思いっきり自分を表現できればいいのにな。
彼らにあるのは美しい舞台と、興奮する観客。
僕にあるのはボロボロの木箱と、蜘蛛の巣だらけの棟木だけ。
ここは舞台裏、誰も注目しない舞台裏。
僕は、必要とされなかった。
賑やかな時間が終わって、広場にいつも通りの静けさが戻ってきた。僕はイベントの後でめちゃくちゃになった観客席に駆け寄った。
適当な椅子に座り、空っぽの舞台を見つめ、空中に手を伸ばす。
「まずは……次は……」
しばらくすると、両手を下ろし、光が流れる魔法の杖をぼんやりと見つめた。
鼻には鼻水が溜まり、目頭が熱くなってくる。
「僕も舞台に立ちたい……」
Ⅱ 慰めと励まし
今までに何度失敗したことだろう。
広場で呆然と一夜を過ごすと、翌朝パイナップルケーキがすっ飛んできた。
僕は自分のしたことの愚かさに、その時ようやく気が付いた。
「ごめんなさい……」
僕が謝る前にパイナップルケーキは僕を抱きしめた。
「気にしないで」
僕の頭を撫でながら、パイナップルケーキは今までと変わらない、小さな声で慰めてくれた。
「さ、帰ろう。」
「ガイダンジャイ、自分のした過ちをわかっているね?」
御侍様の少し厳しい声が書斎に響く。
僕は椅子の上に縮こまり、熱いお茶をすすりながら、うなだれて御侍様の顔を見ることもできない。
「は……はい。」
弱々しい声で答えた。
いつも優しい御侍様は、食霊を叱る時はとても厳しいのだ。
「言ってごらんなさい」
感じる鋭い視線から、御侍様がひどくお怒りであることがわかる。
「……手品師のオーディションにはもう行きません。」
「違う!」
厳しい声に、僕は全身を震わせた。
「手品をするのはいいが、食霊としての責任を忘れてはダメだろう」
「今まで私は食霊の趣味について口出ししたことはなかったが、ここまでとなると許すわけにはいかぬ」
「それに、もう何度もオーディションに落ちているんだ、自分の才能がないことも知っているだろう」
「……」
それから書斎を出るまでに言われたことは、よく覚えていない。
僕はずっと、涙が落ちないように頑張っていた。
御侍様は僕のためを思ってくださっているのだ。
それに、僕が悪かった。
だけど……とても悔しいんだ。
食霊の本分は堕神を駆逐することだ。御侍様の受ける委託が増えるほど、より責任の重い任務を任されるようになる。
余計なことを考える時間はない。
だから手品師になるという夢は、心の片隅にそっとしまっておくことにした。
そうして、しばらくたったある朝、パイナップルケーキがやってきた。
「ほら、マンゴープリンのコンサートチケット」
カラフルな紙切れを僕の前に差し出す。
「え?」
突然差し出されたプレゼントに、僕は言葉を失った。
「あれで諦めるあなたじゃないでしょ?行きなよ」
パイナップルケーキはチケットを僕の手に押し込んだ。
「頑張ってガイダンジャイ。あなたならきっとできるわ」
「あ……あ……ありがとう、パイナップルケーキ」
パイナップルケーキの懐に飛び込み、ぎゅっと抱きしめられる。
いつも僕のそばにいてくれて、夢を応援してくれるパイナップルケーキは、本当にいい人だ。
だけど、手を離すより前に、ある問題に気が付いた。
「でも、御侍様は……」
「……」
パイナップルケーキの表情は一瞬固まったが、すぐに元に戻って、静かにこう言った。
「大丈夫、私から言っておくから。」
「ほ……本当?」
パイナップルケーキは僕に何か隠しているような気もした。御侍様を説得する自信がないのかと不安になって、僕は言う。
「ダメなら……もういいよ。君が御侍様に叱られちゃう」
「大丈夫よ」
パイナップルケーキはもう一度僕の手を握って言った。
「安心して」
本当か何度も聞いた後、申し訳なさと感謝を抱えて、僕は家を抜け出した。
今度こそ、自分の行く道を見つけたい。
Ⅲ 苦渋の心
家から出て、僕はチケットに書いてある場所に従って、一刻も休まずに隣の町に着いた。
昔ここに来たこともある。たまに御侍様と一緒に道具を買ったこともある。
あの時はまだ人が多くなくて、今のような賑やかさはなかった。
目の前の光景を見て、少し落ち込んだ。
「マンゴープリン…きっとすごい人だね?」
と囁いて、手の中のチケットを強く握った。
パイナップルケーキの話で盛り上がった気勢は、今下がっている気配がする。
不安のせいか?それとも恐怖のせいか?
夜はすぐ来た。
人々は軽い衣装を着て、ケミカルライトを持って、喋ったり笑ったりして、あるところに向かっている。
僕は人波に従ってステージの前に来て、指定の位置に座った。心の中の興奮を抑えながら開幕を待っている。
重苦しい音が鳴って、会場は全部暗闇に沈んだ。
ざわざわしている人の群れも静かになった。
そして、ステージに明かりが突然灯った。
ステージの中央に一人が出た。
たわむ黄色のスカート、地面まで垂れ下がる巻き髪、そして、元気いっぱいの可愛い顔。
「こんばんは~来ちゃった!」
きれいな声は放送によって全広場に響き渡った。
「マンゴープリンで~す!皆さん、私のこと想ってた〜?」
「はーい!」
周りの人が耳をつんざくような声で答えた。広場全体が盛り上がった。
僕がずっと抑えている感情は簡単に高められた。心臓が勝手にドキドキしている。
明かりがちらちらし始め、ステージの下に煙が溢れ出した。
その歌声は穏やかになったり、高らかになったり、マンゴープリンもステージの上で踊り始めた。
目の前の光景はだんだんぼやけていく。
「もし僕もこんな風になったら…」
華麗な夢の炎の演出は燃えるどころか、むしろ、もっとゆらゆら揺れていく。
「僕もこんな風に……」
口ではまだ渇望を言っているが、理性は悪魔のように頭の中に囁いてくる。
「僕は……」
何も考えるな。君はこのようになれない。
苦渋が口元と胸に満ちた。
Ⅳ 再び燃えた夢
歌声が止まった。叫んでいた人も休憩した。
すべてが平静になった。この時の僕の心のように。
欲望を演じる火種はまだ消されないが、消失の端になりそうだ。
方向を見つけられると思ったが、見つけたのは絶望だった。
現実との差がずっと守っていた強情を切った。
頭が下がって、涙が目から流れそうだ。
こんな時に、周りの人が突然僕から離れて、ざわざわと何か叫んでいる。
僕は呆然と頭を上げて、ステージ上のマンゴープリンが微笑んでこちらを指していることに気づいた。
「今日プリンはとても嬉しいです!みんなにプレゼントを贈りたいです」
といって、スタッフにマイクを渡せと合図した。
「あなたの気持ちを私に言って。今日はあなたが特別ですよ~」
おぼろげな状態から意識が戻った。僕はマイクを受け取って、マンゴープリンを見た。
揺らめいた火種が止まった。急に壮大になれるように見える。薪を入れたようだ。
沈みそうな思いがまた盛り上がった。
わけのわからない考えが僕の頭を占拠した。
「僕…」
言おうと思ったが止まった。
しばらくした後、僕は気持ちを整理してもう一度口を開けた。
「僕は、あなたのような人になれますか?」
「へっ?」
マンゴープリンは戸惑う顔をして、周りの人も疑惑の声を出した。
僕は後ろの杖を上げて、手品を披露しようとしていた。
だけど慌てすぎて、失敗してしまった。
周りの人は笑った。
僕は悲しく頭を下げたが、胸の中の激しい情緒によりまた上げた。
「プリンさん、こんな僕でも、あなたのようなステージの上で思いっきりパフォーマンスができる人になれる?」
嘲笑の声がどんどん耳に入ってくる。
顔がとても熱いけど、歯を食いしばって立って、ステージ上のマンゴープリンをじっと見ていた。
彼女の答えを期待していた。
たとえ…
たとえほしい答えがなくても。
「なれるよ」
体が震えた。目を大きく見開いた。
「なれるよ」
ステージ上の人がもう一度言ってくれた。
「どうして、なれないなんて言うの?誰にでも夢を追う権利があるんだから!それに、成功する権利もね!」
この時、彼女の声と彼女の笑顔、全部肝に銘じた。
「必ず成功する!」
どこからの勇気か知らないが、僕はマイクを上げて大きい声で答えた。
「マンゴープリンさん!必ず成功してみせる!」
Ⅴ ガイダンジャイ
ガイダンジャイとパイナップルケーキは同じ御侍様に従っている。
彼女はいつも優しいけど、重要な問題では決していい加減にしない。とくに食霊への教育はとても厳しい。
ガイダンジャイが離れたしばらく後。
パイナップルケーキの背後に御侍様の姿が現れた。
「これで本当にいいのですか?」
パイナップルケーキが後ろに向かって御侍様を見た。
「彼の気が済まないなら、 機会を与えましょう」
御侍様はパイナップルケーキの頭を撫でて、いつもと違って真剣に答えた。
「でも、でもマンゴープリンはどんなに優秀なのか知ってるよね。万が一の場合、彼はショックを受けて怖くてもうステージに行けなかったらどうしよう 」
「そんな勇気もないなら、諦めるのもいいことです」
御侍様はきっぱりとパイナップルケーキの話を切った。
「自分の夢に責任を負って、自分の選択にも責任を負って、それは命の基本の素養です」
パイナップルケーキはわかったようなわからないような様子で領いた。そしてすぐ頭を上げて、しっかり言った。
「私は御侍様のお嫁さんになりたい」
「え?」
ガイダンジャイはマンゴープリンと交流した後、相手の肯定を手に入れた。
成功者である先輩からの肯定を手に入れた。
ガイダンジャイは再び自信を持った。同時にいままでのない渇望も加わった。
数ヶ月の修練の後、彼はようやく方法を見つけて、演出はやっと成功した。
順調なスタートによって、その次もうまく進めた。
ガイダンジャイは心の中でずっとマンゴープリンへ感謝していた。
一方、あるステージ裏。
「ね!!!あんなことをやらせないでくれる?」
小さく可愛い少女が、 ステージ上と全然違う態度でスタッフに怒っている。
「ラッキー観客を選びたくないの!今後のライブでこのコーナー、外せない?」
スタッフの驚いた顔を見て、マンゴープリンは何か意識して、またいつもの様子に戻った。
「御侍様だけに言いたいんだもん〜」
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