いちご大福・エピソード
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いちご大福のエピソード
まるでこの世に生まれたばかりかのような純真な心をもち、何事に対しても興味津々。
Ⅰ お茶会
鳥居私塾の女子寮。
たい焼きお姉ちゃんと桜餅お姉ちゃんはいつものようにあたしをつれてお茶会を開いている。
「あれ食べたい~」
あたしは枕を抱いて桜餅の懐に寄りかかって、小さな声でねだる。
「はい、あげる」
桜餅がたい焼きから受け取ったお菓子をあたしの前に持ってくる。
「ありがとう、桜餅お姉ちゃん」
小さな口でお菓子をかじる、甘い味が口の中でとろけて、あたしは思わず目を細めて幸せな声を漏らした。
「うんーー美味しいなの!」
こんなふうに二人のお姉ちゃんと一緒に座って、お喋りして、彼女たちが作ったお菓子を食べる時間、あたしは大好き。
お兄さんとその友達の悪い関係を、自分のお菓子で仲直りさせた、たい焼きのお話が好き。
桜の花とお菓子である人を介護した、桜餅のお話も興味がある。
お菓子はこの世界で一番素晴らしくて、みんなを元気にするものだと思う!
「おちびちゃんがお菓子を全部食べ尽くしちゃうね」
話してるうちに、桜餅がお菓子に夢中なあたしの頭を叩いて、「食いしん坊」と笑った。
「うーー」
慌てて最後の一口を飲み込んで、あたしは言い返す。
「あたしのせいじゃない。お姉ちゃんが作ったお菓子が美味しすぎるのが悪いんだもん」
「わたしのせい?」
桜餅が面白そうにあたしのお腹を撫でる。
「ここが太るよ」
「あはは」
たい焼きがあたしをみて笑った。
「お菓子とお姉ちゃん達の、どっちかを選ばないといけなくなったら、どっちを選ぶ?」
「うぅーー」
あたしは困ってる感じで口を尖らせて、おそるおそる頭をあげて。
「両方じゃダメ?」
「お菓子はお姉ちゃん達と同じなのか、じゃあこれからお姉ちゃん達は君にお菓子を作らないぞ~」
「うぅーーダメ……」
「冗談だよ。ふふ」
Ⅱ 強く
最近、桜餅お姉ちゃんとたい焼きお姉ちゃんと一緒にお茶会を開いていないから、あたしはとても悲しい。
皆自分の用事に忙しいみたいで、たまにあっても一言挨拶するだけ。
お姉ちゃん達に、悩みが増えたようだ。
どうしよう?
ふたりを喜ばせるにはどうすればいいのか、頑張って考える。
考えながら、あたしは私塾の裏庭に入って、角を曲がって、厨房の前にやってきた。
厨房の門をみて、一つの考えが頭の中で浮かんできた。
これまではずっとお姉ちゃん達に作ってもらってたけど、どうして自分で作らなかったの?
お菓子は人を喜ばせるもの。
もしあたしがお菓子作りを勉強して、お姉ちゃん達に作ったら、喜んでもらえるかな?
あたしは大きく拳を振って、厨房に入った。
さわがしい音が厨房の中から響く。
鍋やらお椀やらがあちこちととび回る。
小麦粉が宙で舞う。
卵の黄身がテーブルから垂れる。
あたしは知ってる限りの知識を総動員してお菓子作りに勤しんだ。
約一時間後、あたしは初めてのお菓子作りを終えた。
だいたい順調だった。最後にオーブンからお皿を取り出す時、オーブンが爆発したことを除けば。
「誰かいるのか?!」
その時、さんまの塩焼きが木刀を持ってドアを押し開けて入ってきて、部屋の真ん中に立ってるあたしを見る。
「先生?」
あたしは困惑しながら彼を見た。
お皿を高く持ち上げて、聞いてみた。
「お菓子食べる?大福が作ったの」
「……え?」
それをみて、さんまの塩焼きはしばらく固まった。それから無意識にお皿からお菓子をとって口に入れた。
「美味しい?」
あたしは期待に満ちた目で先生を見上げる。
見たのは、真っ青になった先生の顔だった。
「……」
Ⅲ 慰め
「うううーーごめんなさいなの」
あたしはしゃがんで小さな声ですすり泣く。
「もう泣かなくて大丈夫だよ」
さんまの塩焼きは屈んであたしを抱きしめる。
「大したことじゃないから、大丈夫だよ」
「ううーーでも……あたしが作ったお菓子がまずいから」
あたしは悲しそうに言う。
「それでも先生は全部食べてくれた」
「ま、まずくなかったよ!元気出して、大福!」
さんまの塩焼きがあたしの背中をポンポンして、慰める。
「で……でも、あたしのせいで厨房がこんなになって」
気持ちが少し収まってすぐ厨房のことを思い出した。
「お姉ちゃんのお菓子はみんなを笑顔にしたけど、あたしのお菓子は……ううううーー」
「後で片付ければいいよ、大福はいい子だから、もう泣かないで」
さんまの塩焼きの声は相変わらず優しく、彼の腕に抱かれた猫も、あたしを慰めるようにあたしの頭を撫でる。
「うぅーー」
先生があたしに付き添ってずっと慰めてくれたから、あたしはようやく落ち着いてきた。
目を擦りながら、小さな声で先生に聞いてみた。
「先生、あたしには、お菓子作りの才能がないのかな」
「そんなことはないと思う。一回試しただけでしょう?」
先生はあたしを慰めながら何かを思い出したように言った。
「大福、みんなに聞いてみてはどうかな?」
「……いいの?」
先生の話を聞いて、あたしは少しためらった。
「みんなあたしのこと嫌いにならないかな?」
「嫌いになんてならないよ。大福は、どうしてお菓子を作りたいの?」
「お姉ちゃん達を喜ばせるため……」
「うんうん」
先生はあたしの肩を掴んで、真剣な目であたしを見た。
「大福がこんなに頑張ってるのは、全部お姉ちゃん達のためだから、みんなが君を責めるはずはないよ」
先生の肩にいる猫も鳴いた。
「……わかった」
あたしは涙を拭いて、先生を見上げた。
「先生ありがとう」
さんまの塩焼きにお礼を言って、あたしはお姉ちゃん達の部屋に向かった。
Ⅳ お食事会
先生が言ってたように、目的を言ったらお姉ちゃん達は怒らなかった。しかもあたしにお菓子作りの手順とコツ、それから注意事項を教えてくれた。
たい焼きがあたしにお菓子の焼き方を教えてくれた。
桜餅はあたしにデザートのつくり方を教えてくれた。
刺身はあたしにお菓子を綺麗に作るコツを教えてくれた。
いつも授業に出ないどら焼きすら教室に戻って、あたしにアドバイスをくれた。
やっぱり、みんなお菓子が大好きなんだ。
あたしはもう悲しまず、皆の教えをメモして、次のお菓子作りに挑戦しようと思った。
数週間後。
私塾の休憩室。
「みんな食べて~」
あたしは自信満々に出来上がったお菓子を持ってきた。
みんな輪を囲んで次々と口に運ぶ。
あたしが一番気になるのはお姉ちゃんたちだ。
二人があたしのお菓子を食べた後の表情をみて、あたしはようやく安心できた。
「どうだ!僕の言った通りだろ、僕の教えた方法で作ればきっと美味しくなるって」
どら焼きが得意顔で感想を言う。
「これは僕が教えたことですよ」
刺身が困惑する。
「ぬぬ、功労を横取りするつもりか」
「いえ……僕はただ……」
「ちょっと、あなたたち騒がないで」
みんなすごく嬉しそう。それを見てあたしも嬉しくなった。
やっぱり、お菓子はみんなを喜ばせるものなんだ。
ずっと悩んでたお姉ちゃん達がこんなに楽しそうに笑ってるのが一番の証拠。
「桜餅お姉ちゃん~あたしも食べる」
そう言って、桜餅の懐に飛び込んだ。
皆一緒にお喋りして、一緒にお菓子を食べるの、大好き。
Ⅴ いちご大福
桜の島の北島のとある場所に、桜の木の森がある。その中にあまり知られていない学舎――鳥居私塾がある。
普通の学舎と違うのは、塾の学生が全員食霊だということ。
そこにいる食霊の大半は子供の外見をしていて、皆一人の、青年の食霊が面倒を見ている。
先生として。
塾のたった一人の先生として、さんまの塩焼きの毎日の任務は彼らに生きるための必要な知識、外の世界の常識、そして一番重要な、正しい価値観を立てる方法を教えることだ。
でもそれ以上に、先生として彼には避けられない責任がある。
それは……
やんちゃではないけど、よく面倒事を起こす子供達の面倒を見ることだ。
無意識に面倒事を引き起こす方がずっと厄介だった。わざとではないからキツく責めることもできず、可愛い子供達を責めるのが忍びない心もある。
「先生先生、あたしが植えたお花、綺麗?」
「うん、綺麗だね!ってこれマタタビ!?」
「マタタビって何?え、どうしたの?」
「待て、刺身!また僕の妹にちょっかいをかけただろう!」
「そんなことはしてません!」
「先生、あの二人を止めて……」
もちろん、面倒事はそれだけじゃない。
招かざる客の到来もある。
「……」
先生って、大変なんだね。
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