女児紅・エピソード
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目次 (女児紅・エピソード)
女児紅のエピソード
結婚する日をとても待ち望んでいる。少しばかり恋愛脳。常に自分の妄想にツッコんで来る幼なじみの状元紅に対しては、比較的「暴力的」な一面を見せる。見た目よりずっとしっかりしている。少しだけど、状元紅よりもお酒に強い。
Ⅰ.幼なじみ
「そう言えば、貴方と状元紅は、俺たちの縁を結んでくれた恩人でしたね。あの日、貴方たちのおかげで、堕神から彼女を救うことができたんです……もう二度と会えないと思っていたのに……」
目の前の大男は微笑み、堕神と戦った時の強靭な顔つきから一転、優しげな眼差しで傍らの麗人を見つめた。彼と並んで立つ可愛らしい女性も頬を赤らめ、2人はまるで夫婦のように見えた。
「女児紅(じょじこう)、この招待状と喜糖を受け取ってください!明日、絶対状元紅(じょうげんこう)と一緒に結婚披露宴に来てください!」
「安心して。状元紅兄様が帰ってきたら、話しておきます。絶対にお祝いに行きますよ!」
何度も何度もお礼を言って、ようやく二人は寄り添って帰っていった。
その背中を見ながら、改めて彼らは素敵な夫婦になるんだと感嘆した。
聞いたところによると、二人は幼なじみで、苦しいことも楽しいことも分かち合ってきて、深い絆で結ばれているそうだ。幼い頃から婚約もしていたらしい……
「喜」という赤い文字が書かれた紙に包まれた飴を口に入れる。口の中で甘さが溶け、思考がどこか遠くへ飛んでいった。
朦朧とした意識の中、正気に戻ると、自分がどこにいるのかわからなくなっていた。
さっきまで目の前にあった氷雪はすっかり消え、太陽が燦々と輝き、涼しい風が蓮の花の香りを運んでいた。
また夢……?
急ぐ足音が遠くから近づいてきている。
あたしは急いで目の前の柱の陰に身を隠し、静かに耳を立てた。
「一体、長公主はどこに行ってしまったのでしょう……今日は殿下のところに行くとだけ言って、あっと間に姿が見えなくなってしまった……」
「ああ……公主様と皇子殿下の兄弟仲は良好です。いつも一緒に過ごしている事は知っていますが……殿下はこのところ祭祀の準備に忙しく、誰にも会わないと命じていたが……」
祭祀……
断片的な記憶が、風に吹かれた花の香りのように、あたしの脳裏に広がる。
朦朧としている中、皇子殿下と呼ばれている少年は、足元に平伏す大臣たちを不満げに眺めながら、堂々と風に向かって立っていた。
「何が祭祀だ。年々派手になっているが、天は我ら人間の祈りを聞かず、渇水も洪水も続いているじゃないか!」
「妹よ、貴方も退屈しているだろう?後で、兄様がこっそり連れ出してあげよう」
少年が笑顔で手を差し出してきたので、あたしは本能的に彼の方へと一歩踏み出した。
ところが、足が滑ってしまった――
まばらな蓮が浮かぶ澄んだ湖面に、怯えるあたしの幼い顔がくっきりと映し出していたを目を閉じる間もなく、湖の冷たい水があたしと目、耳、口、鼻を包んでいった……
「……公主!」
再び目を開けると、見慣れたような、そして見慣れないような人影が視界に飛び込んできた――
慌てているのは侍女たちと、途方に暮れている大臣たち……しかし、一番近くにいたのは、あたしと同じくずぶ濡れた、八、九歳くらいの子どもだった。
「良かった、長公主は無事です!」
「この小さな護衛が、間一髪で公主様を救ってくれたおかげです……」
あたしを救ってくれたのは、彼なんでしょうか……しかし、彼の顔を見ることはできなかった。
周りの雑音はどんどんうるさくなり、まるで蜂の大軍の中にいるようで、頭が割れるような感じがした。
せめて、あたしを救ってくれた人が誰なのか、見せて……
あなたは……誰……
「女児紅?」
聞き覚えのある呼び声とともに、その子の小さな体は天をも貫く木のように成長し、やがてあたしのよく知る姿となった――
「状元紅兄様っ?!おかえりなさい……」
彼は相変わらず落ち着いた様子で、しかし服装は外出していたせいか、少し乱れていた。
「どうしてこんなところで寝ているのですか?冬は寒い。そのままでは風邪を引いてしまう」
「すみません……兄様が帰ってくるのを待っていたから、つい居眠りしてしまいました。大丈夫です。食霊は人間とは違って病気にはなりません……」
言い返しながらも、彼が厚手の上着を掛けてくれるのを止めることはなかった。
「病気じゃないのなら、どうしてそんなに顔色が悪いのですか?“顔を見せてください”とかも言っていた……また誰かの夢を見たのですか?」
この時のあたしはまだ夢の中にいたのだ。状元紅の言葉に込められた一瞬の切なさに気づかず、ただ真剣に夢のことを思い出していた。
「確か……初めて“あの人”に会った時の夢だと思います……」
Ⅱ.一緒にいたかった
赤い絹が家の中を彩り、客たちは頬を赤らめて微笑んでいる。
世の中には楽しみな事がたくさんあるのに、何故か光耀大陸の結婚式が一番楽しくて、憧れていた。
長い待ち時間の後、ついに新郎新婦の二人が会場にやって来た。
突然の静寂に包まれ、司会の大きく澄んだ声だけが四方に響き渡った。
「一に天地を拝し――」
紆余曲折を経ながらも、天地はついに恋人たちの巡り合わせを許してくれた。
「二に父母を拝し――」
新郎新婦の両親は、子どもがついに一番大切な居場所を見つけたと、顔いっぱいに喜びを見せた。
「三に夫婦が互いに拝す――」
これからの二人の生活は、きっと順調で幸せになることでしょう……
喜びの涙が知らず知らずのちに目を潤した。それを拭おうと手を伸ばすと、目の前の光景がまた夢のように変わっていった。
賑やかな人たちの姿が消え、年季の入った化粧台が目の前に現れた。
鏡の中のあたしは赤い花嫁衣裳を着ていて、傍らの人は手に眉墨を持ち、あたしの眉をなぞっている。その手にはタコができていて、傷跡だらけなのに、動きは一際優しかった……
心の中に辛く甘い痛みが広がる。まるで傍らの人の大切さを教えてくれているようだった……
でも、埃を被った鏡に、彼の顔は映らなかった……
「どうして他人の結婚式の日に泣いているんですか?」
気がつくと、招待客は既に酒宴に出かけていた。
状元紅だけが手ぬぐいを持ってあたしのそばに立っていて、あたしの涙を拭おうと躊躇っていた。
「大丈夫です……お二人にはお互いがいるから、もう寂しくなくなると思っただけです。きっと後悔がないよう、幸せになれるはずです……」
……
酒宴はとても盛り上がったが、状元紅はあまりお酒が得意ではなかった。
しかし、彼は村の人気者なので、村人たちから何度も祝杯を受けていた。新郎新婦が到着した時には、彼は既に酔っ払っていた。
「今日やっと状元紅に会えました!貴方は俺たちを再び結びつけてくれた恩人だ。本来なら特別な宴席を設けるべきだったが……近頃貴方の姿が見えないから、招待できずに、申し訳ございません!」
「申し訳ない。このところ村のあちこちで堕神が暴れていて今までお祝いに駆け付ける時間が取れなかったのです……」
「そんなこと言わないでください!貴方は村を守ってくれているんですから、みんなも状元紅に感謝しなければ……さぁ、もう一度乾杯しましょう!」
二人が差し出したお酒を無理やり飲み干した頃には、案の定、彼はもう足元がおぼつかなかった。もし、あたしがそばで支えていなかったら、倒れていたかもしれない。
「素敵なご夫婦ですね。俺たちもこんな風に仲良くなれたらいいな……」
顔を真っ赤にした新郎は微笑みながら、状元紅を支えるあたしの手に視線を移した。
「状元紅兄様とは仲は良いけれど、お二人の仲とは違うと思いますよ……」
あたしは肘で状元紅を押しのけようと思ったが、その時既に彼は酔いつぶれて、あたしの肩に倒れ込んだ。二人があたしたちに微笑んで別れを告げるのを、あたしはただ立ち尽くして見守るしかなかった。
「女児紅……」
状元紅を座らせた後、彼はあたしの手を引っ張り、低い声であたしの名前を呼んだ。
「状元紅兄様?お茶を飲んで酔いを覚ましましょう……」
「女児紅……最近夢に出てくるのは誰ですか……貴方はいつも夢の中でその名前を呼んでいる……同じ名前を……」
「名前……?!状元紅兄様、その名前を覚えていますか?」
「覚えて……いない……」
しばらく淀んだ雰囲気の中、状元紅は隠しきれない落胆の表情を浮かべながら、酔った目を見開いてあたしを深く見つめた。
酒宴は終わりに近づき、部屋のあちこちで爆竹が鳴らされ、新郎新婦はまだ人だかりの中にいて、笑いながら客に礼を述べていた。
「あの二人は幼なじみだと聞いたが……貴方と夢の中のあの……幼なじみ、いつから一緒にいたんですか……」
状元紅は呆然と二人を眺め、独り言のようにつぶやいた。
「状元紅兄様はまだ酔っていますね。あれは夢です。真に受けないでください」
「ああ……できることなら、彼のように、貴方の子どもの頃の姿を見て……一緒に……大人になりたかった……」
彼は言い終わると、ようやく眠りに就いた。あたしはその言葉に唖然とし、複雑な思いで胸がいっぱいになった。
Ⅲ.もし、来世があるのなら
最近、状元紅は朝早く家を出て遅く帰ることが益々頻繁になり、常に眉間に皺を寄せて、心配そうにしている。
あたしが心配して声をかけても、まともな返事は帰ってこない。あの日の一件で……彼に、何か心に葛藤が残ってしまったのだろうか。
窓の外を見ると、雪に反射する白い光を見て、あたしは仕方なくため息をついた。
今日も一日頑張らねばと気を引き締め、賑やかな市場へと買い出しに出かけた。
角を曲がったところで、数日前の新婚夫婦にバッタリ出会った。二人は手をつないで話しながら、甘い微笑みを浮かべている。
「女児紅!一人で買い物に来たのですか?どうして状元紅は一緒じゃないんですか?」
「あの……あたしたち……」
何と言っていいかわからないようなあたしの顔を見て、二人はさっと顔を見合わせた後、同情したような目であたしを見返した。
「喧嘩でもしたのですか?もし、彼に話せないことがあるなら、私たちが代わりに伝えてあげますよ!」
「いや、違います。ただ、状元紅兄様の居場所がわからなくて……彼を見かけましたか?」
「あれ、状元紅は最近堕神の退治に忙しいって言ってませんでした?村の外に出ないようにと言いつけられたけど……」
二人の返事を聞いて、あたしは愕然とした。
披露宴の日、状元紅も最近堕神が横行しているようなことを言っていた……
きっと、あたしに心配されたくなくて、堕神退治に出かけたことを言わなかったのだろう。
道理で最近、彼の所在を尋ねると、いつも適当な顔をするわけだ……
そうだ!この前会った時は、わざと右手を見せないように、左手を使って食事をしていた……
もしかして……あの怪物たちにやられたの?
心の中の雑念を抑えることも、目の前で何か言っている二人を気遣うこともできなくなったあたしは、裾を持ち上げて村の外に向かって走り出した。
……
山道はぬかるみ、雪はまだ溶けていない。
冷たい風が頬を掠め、刃物のように身を切りつけた。
ところが、油断していると、足首にチクッとした痛みが走った。
気がついた時には、あたしは雪の上に倒れて、右足はすでに鋭い罠にかかり、どんなに歯を食いしばっても動かすことができなくなった。
雪の粒が落ちてきて、真っ赤な痕が次々と雪に広がっていく。
痛みは一時的に麻痺し、目の前のすべても夢のように、幻想的な真っ赤に溶け込んでいく……
「姫を大陣にお見送りします――」
目の前の赤が、あたしの赤い花嫁衣裳に変わる。ハッと目を覚ますと、地宮の暗闇の中に一人立っている自分がいた。
背後から角笛の音が聞こえ、振り返ると、地宮の外には何千人もの兵士が並んでいた。
先頭の青年は馬に腰掛け、鎧は血まみれ、戦衣は風になびいて、静かにそして悲しげにあたしを見つめた。
なんという懐かしい姿……
残念なのは、逆光のため、どうやっても顔が見えなかった。
遠く離れた城壁の上には、白髪交じりの王兄が立っていた。彼は……また随分と痩せていたようだ。
「大陣、起動――」
青年が座っている白馬が、雲を突き破るように鳴いた。
幼い頃、彼はこの馬に乗り、あたしに乗り方を教えてくれた……
あたしは不器用で馬から落ちそうになったことも、彼も兄に叱られることになったが……結局、口は悪いが心は優しい兄も一緒にあたしに乗馬を教えてくれるようになった。
「大陣が完成した、地宮を閉鎖せよ――」
地宮の扉が轟音とともにゆっくりと閉じられた。
あたしは瞬きをする勇気もなく、ただ目の前の二人の姿を心に刻みつけようと思った。
もし、今日別れてもまた会えるのなら、それは来世になるでしょう。
あたしは、万民のために自分の命を犠牲にしたことを後悔したことはない。ただ、山河と呼ばれるこの大陣が、本当に光耀大陸の山河を守ってくれることを願っているだけ……
でも、胸の中には、まだ少し心残りがある……
普通の妹のように兄と一緒にいることもできず、愛する人と一緒に歳を取ることもできず、まともな結婚式を挙げることすらできなかった。
もし、来世があるのなら……
もし、あるのなら……来世は……
Ⅳ.翻然大悟
「女児紅、早く起きてください……」
悪夢はようやく払拭され、晴れ渡った空の下、一際不安げな状元紅の顔がそこにあった。
「うん……状元紅兄様……」
「どうして一人でここに来たんですか……足の怪我が酷い。村に帰って医者を探しましょう」
俯くと、鋭い歯と牙で覆われたような罠はとっくに真っ二つに割れていて、あたしの足も赤い布で包まれていた。
「薬は持っていないから、応急手当しかできません。早く戻りましょう!さあ、私がおぶるので乗ってください」
そう言って状元紅は急いであたしの前で腰を下ろし、手で首を抱えるように身振りをした。
「あたし……自分で歩けます……うあっ!」
立ち上がる前に痛みが伝わってきて、あたしは再び雪の上に尻もちをつき、ハッと息を呑んだ。
「強がらないでください。早く乗るといい……」
彼は真剣な声で、あたしが何か言いたそうにしているのを見て、どうしようもなくため息をついた。
「馬鹿な子ですね……恥ずかしいのなら、ぎこちないのなら、私を別のものに見立てるといいですよ。馬とか牛とか……犬にでも乗ったつもりでいるといい」
「ぷっ……」
その真剣な表情に思わず笑ってしまい、いつの間にか心の中にあったかすかな疑問が消えていた。
「恥ずかしいだなんて……おぶってくれたことが、ないわけじゃないんですし……」
「覚えていたのか……私たちが初めてこの世に生まれ、何もかもが初めてだった時の事……あの日、貴方は小川を見て、魚を捕ろうとして降りたが……」
「水に落ちて、足を折るところだったから、私がおぶって川を渡ることになったんでしたね」
「あれは、水の中の岩に苔が生えていて滑りやすいって知らなかったからです……あたしも水の中に入るのは初めてだったから!」
「そうだな、山道を一緒に歩いたあの日も、貴方は暗闇が怖くて目が開けられないから、私におぶってもらうしかなかったな」
「あっ、あの時はまだ子どもだったから、怖かっただけです……今はもう怖くないですよ!」
「子ども?女児紅が初めて私の前に現れた時、今と同じ姿だったこと、私はきちんと覚えていますよ」
「そんな、外見で食霊の年齢を判断してはいけませんよ!あの頃はまだ三、四歳の子どもだったのです!」
「ふふっ」
目の前の人物は柔らかく笑ったが、それ以上は何も言わず、何か物思いに耽っているようだ。
「意識を失っていた時、夢を見ていたようですね」
「そうですね……また不思議な夢をたくさん見ました。夢というよりは前世の記憶かもしれません……」
「前世……?」
「はい。夢の中の声は、あたしが前世で多くの心残りを抱えていたことを教えてくれた。もし来世があるのなら、それらをちゃんと取り返そうって……」
そうつぶやくと、夢の中の二人の姿が再び脳裏に浮かんだ。
しかし、予想していた胸の痛みは訪れず、懐かしい安らぎと安心感に変わっていった。
「心残りはあるけれど、彼女は自分の選択に忠実だったから、後悔することはなかったでしょう……」
「何の選択?心残りとは?後悔も、どういうことですか……」
あたしの意味不明な感想を聞いて、状元紅はとても混乱していた。
「いいえ!実は、さっきの夢で、色々と気付いたのです」
「そうか?是非聞かせてください」
「過去ばかりを見てはいけない。今があたしの『来世』なら、目の前の人や物事を大切にしなければいけません!」
「……ふふっ、その通りですね。過去は辿れないが、未来はまだ間に合う」
二人ともしばらく話すのをやめた。飛んできた雪が、彼の髪にいたずらっぽく舞い降りる。
彼の靴は雪を踏みしめているが、その足取りはしっかりとしていて、揺れは一切感じない。
「そう言えば……状元紅兄様、最近いつも右手をかばっていたけれど、怪我でもしたのですか?」
「やはり貴方には隠しきれなかったようですね……大したことないです。もう治っていますよ」
「あなたはいつもそうです!何も教えてくれませんし……今までずっとこっそり堕神退治をしていたのでしょう、あたしが心配するのをわかっていますでしょう……」
「今日、ここに来たのはそのためか……」
「とにかく……今度からはあたしの知らないところでこっそり行動したり、怪我を隠したりしないでください!あたしを連れて戦いに行くのが嫌でも、行き先を教えてくださいね……」
「心配させて申し訳ない……もう二度としない」
「ええ!それでいいです!」
雪も風も激しくなるが、心は安らいでいた。
目の前の人の広い背中にそっと体を預け、家がそう遠くないことを心の中でわかっていたから。
Ⅴ.女児紅
光耀大陸には優秀な人材が多く、当然ながら英雄伝説も多い。
いつの頃からか、村から村へと語り継がれるようになった二人の英雄の物語がある。
男性の方は穏やかで、慎み深く、親切だった。
女性の方は優しく、笑顔で、天真爛漫であった。
二人とも赤い服を着ていて、共に人々を助けながら旅をし、光耀大陸に良い物語をたくさん残していった。
伝説が語られるにつれ、人々は二人の出会いの物語を推測するようになった。
中でも人気があるのは、彼らが幼なじみだったという話だ。
しかし、人々は知らない。彼らの息が合うのは、一緒に育ったからではなく、同じ場所で生まれたからだ。
山河陣が完成して以来、文人や志士たちが、しばしば英霊たちを弔いにやってくるようになった。
そして、誰かが二つの酒甕を持ってきて、地宮に眠っていた英霊を呼び出し、こうして状元紅と女児紅が召喚されたのだ。
食霊は生まれたその日から、一生、御侍に従うことになる。
しかし、この二人には、呼べるような御侍はいないし、当然進むべき目的もなかった。
二人は元に冷たい陵墓を出て、初めて人間の村に辿り着いた。
しかし、かつて平和だった村は堕神によって荒らされ、居場所を失い怯える孤児たちは、二人に加護を祈った。
醜い怪物を前にして、状元紅は初めて剣を抜き怪物を殺し、女児紅は薬と粥を作り、村の老人と弱者の世話をした。
人々は二人を英雄と呼び、二人も、人々の平和で穏やかな暮らしを守るために、心の中で密かに誓いを立てたのだ。
……
「皆さん、この数日はお世話になりました。堕神も退治できたため、そろそろ出発します……」
「それで、行き先は決まったのか?」
「……まだ……今でも決まったことがありません……」
「状元紅兄さん、女児紅姉さん!もう行っちゃうの?隣の村の杏仁ケーキがとても美味しいよ。最近、街で食べ物だけじゃなくて化粧品とかも売ってるみたいだから、一緒に買い物に行こう……」
「まったく!この子ったら、お二人は厄災を鎮めるために、大陸を旅するんだ。あんたの言う食べ歩きの旅をする訳じゃないんだ!」
子どもの言葉に別れの寂しさは消え、村の入口で笑っている人たちを見てわ女児紅さえも思わず明るい笑顔を見せた。
もしかして、次の目的地を隣の村にしてもいいかな?
「確か、あの村は鬼谷の真ん中にあるのでしょう?近くの山には特別な書院があると聞いたことがあります。状元紅兄様、次の目的地はその村にしたらどうでしょう?」
「鬼谷……いいですね、行ってみましょう!」
冬の太陽は万物を照らし、雪までも鮮やかに輝いていた。
遠くに広がる山々はゆっくりと絵巻になり、空は高く遙か遠く、世界は澄んでいる。
目の前の青年は馬上で振り返り、手を差し伸べた。
少女は優しく微笑み、荷物をしっかり背負い直し、陽の光を浴びている目の前の者の方へと、颯爽と駆けて行った。
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