東安子鶏・エピソード
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目次 (東安子鶏・エピソード)
東安子鶏のエピソード
素直で明るい性格、見た目は弱そうだけど、力は強くてスタミナもある。遠距離飛行ができるため、あちこちで任務を遂行できる。召喚された時から南離印館は朱雀を崇めていたため、その影響を受けている。東安子鶏も朱雀をとても崇拝しているので、南離印館が朱雀の神物らしい情報を入手すると、彼はすぐに探しに行く。
Ⅰ.敬い
光耀大陸が誕生した頃は、天地は混沌としていた。
四方の力から四神君が生まれ、その中の一人である朱雀は南離族に擁護され、南方に棲むようになった。
当時は堕神が横行し、世の中は災難に悩まされていた。
神君である朱雀は、その力で災厄を退け、侵略から民を守っていたのだ。
しかし、神々の戦いの後、朱雀は忘れ去られ、かつての栄光と伝説だけが時代を超えて語り継がれることとなった。
それ以来、朱雀の姿はすっかり消えてしまい、跡形もなくなった。
この話をしていると、抑えきれない悲しみがこみ上げてきて、思わず声を詰まらせてしまった。
僕の話をじっと聞いていた焼餅やタンフールーも、とても残念そうな表情を見せた。
「朱雀様は本当に偉い方なんだね……」
「あの伝説は本当だったんだ!」
「朱雀様に助けられた人々は朱雀様を守り、恩返しをすることを誓い、次第に光耀大陸に自分たちの一族ーー僕たち南離族が生まれたんだ」
「十分な数の神物が見つかれば、朱雀様は力を取り戻し、この世に帰ってくるかもしれないって、いつも長老たちは言ってるんだ」
だから、僕の目標は朱雀様の神物を集めて、朱雀様の足跡を見つけること !
光耀大陸をあちこち飛び回るのは簡単なことじゃない、手がかりを見つけたときよりも見逃した時の方が多い……
でも、どんな小さな手がかりでも、いつか必ず朱雀様の足跡をたどることができると僕は信じている!
物語が終わると、僕は朱雀様の神物と足跡が書かれた巻物を大事に抱えて、焼餅とタンフールーに別れを告げ、竹煙質屋を後にした。
竹煙の主――北京ダックはとにかく掴みどころのない方で、館長は彼と交渉する時、たくさん苦労と法外な報酬を費やしてやっと情報を手に入れられるらしい。
中身が気になりつつも、館長の許可を得るまでは大人しくお使いに徹するしかなかった。
僕では館長を言い負かせないし、戦う実力も彼に敵わないのが残念だ。
館長のお使いではなく、僕も朱雀様を探しに行きたいのに……
印館に戻ると、やはり書斎には松の実酒さん一人しかいなかった。
南離印館の館長である京醤肉糸様は、工夫と知恵があるだけでなく、交渉や管理も上手だが、いつも昼夜問わず行方がわからず、皆に頭を抱えさせている。
松の実酒さんのしかめっ面を見ればわかる。館長はまたどこかへ出かけたのだろう。
急いで巻物を松の実酒さんに渡すと、どうやら巻物は北京ダックに秘法をかけられていて、館長がいないと開けられないらしい。
この時、徹夜で目が充血している松の実酒さんの目は、更に赤くなったような気がした。
「娯楽に溺れ、わがまま放題なのはいい。肝心な時にいつも姿が見当たらないとは……」
毛筆が握り締められ、ミシミシと音がする。なんだか背筋も冷たいような……
何しろ、松の実酒さんは館長を制御できる数少ない方だから、怒るとどうなるかは想像に難くない。
結局、松の実酒さんはため息をつくだけで、机の前に座り直した。
「ご苦労様でした。しばらくはゆっくり休んでください」
助かった……!
書斎を出て、他にすることもなく、雲一つない空を見ていると、思わず見入ってしまった。
「あいやー!これはこれは、東安子鶏ではないか。その顔は、さて何か困っているのかな?」
振り返ると、そこには羊方蔵魚という愉快な男が立っていた。
彫花蜜煎たちから、こいつは無節操な悪徳商人だから、慎重に接するようにと言われている。
そんな詐欺師……朱雀様がいたら、きっと制裁してくれるのに。
しかし、なんと言っても彼も印館の一員だから、僕は朱雀様の末裔としてあるべき風度で、彼の問いに答えた。
「別に困っていないよ。任務を終えたばかりで暇しているだけ」
「そうなのか……では、館長様は今どちらに?ちょうど朱雀に関する情報を持ってきたから、少しは困り果てた副館長の力になれるかと……」
「待って!朱雀様の情報を持っているだと?!」
「コホンッ、南離の者として、朱雀の情報を探すのは私の義務でもあります」
「どんな情報?!コホンッ……僕が館長様たちに伝えておくよ」
「お兄さん……情報を提供したいですが、この情報を手に入れるのにかなり苦労したんですよ。せっかくここまで来たんだから、旅費はともかく、対価として何かを支払ってくれないと……ねぇ?」
この悪徳商人め!
しかし……何しろ朱雀様のことだし……それにこのチャンスを逃がしたら、次はいつ情報が入ってくるか……
「こっ、これだけあれば十分でしょう?!」
興奮はすぐに迷いを打ち消し、僕は歯を食いしばり、ついに財布を開けた。
「ええ、もちろんです。さすがお兄さん、話わかってますね!」
むずむずする拳を押さえながら、彼の話を聞いた。
「玉京の南にある小さな町の人たちは、朱雀が自分たちを救ってくれたと言っていましたよ。極彩色の鳥が空を掠めて飛んでいって、その羽は太陽よりも輝いていたと、なんだか朱雀みたいだと……」
「そう言っている人がたくさんいるから、もしかしたら本当の手がかりかもしれません。真偽を確かめたいなら、お兄さんが自ら調べに行くといいですよ」
朱雀様が庇護する町……
実際に朱雀様に出会えるなんて、なんて幸運に恵まれているんだ!
ニヤついている羊方蔵魚に構う余裕もなく、僕は館長に書き置きだけ残して、鳥の背中に乗って南へと飛び立った。
Ⅱ.信仰
重明鳥の広い背中に寄りかかり、そのサラサラとした羽を撫でると、僕は何故か初めて御侍に会った時のことを思い出した。
朱雀様を探そうとした御侍はまぐれで僕を召喚したのだ。
突然現れた、未知なる力を持つ鳥を連れた少年……
若い御侍は生まれ変わった朱雀様に会えたと勘違いし、大喜びで何人もの客人を呼び寄せ、大騒ぎになった。
その時、僕は朱雀様の功績も、彼の興奮の理由も知らなかった。
ただ、これほどまでに彼を喜ばせることができる人は、さぞかし素晴らしい存在なのだろうと、そう思わずにはいられなかった。
「長老によると、あなたの伴生獣は重明鳥、鶏の形をしていて、鳴き声は鳳凰の如く……伝説の朱雀と似ているが……」
「本当に朱雀じゃないのか……何しろこの鳥の目には2つの瞳孔があるでしょう?しかも色も朱雀様のような赤色ではないし……」
目の前の少年は、しばらく僕と重明鳥を見つめて、悔しそうな顔を浮かべた。やはり、ガッカリしているのだろう……しかし、最後に優しそうな笑顔で僕に接してくれた。
「こんな僕でもそれほど美しい食霊を召喚できたのだから、きっと朱雀様のご加護のおかげだ!」
「これからは君も南離族の一員だ。一緒に朱雀様を探そうね!」
それ以来、御侍は僕に朱雀様の伝説を語り始め、その度に彼は目を輝かせた。
「未だに手がかりは見つかっていないけど、朱雀様は僕たち南離族にもっと良い行いをするよう導いてくださる……」
「僕のような子どもを救い、怪物から人々を守る……朱雀様の輝きが人々を照らしている限り、光耀大陸は不滅だ」
残念ながら、彼が亡くなるまで、その願いが叶うことはなかった。
御侍は晩年の頃も、朱雀様のことを話す時だけはまだ子どものように憧れに満ちた顔をしていた。
「朱雀様を見つけたら……教えてくれよ……信じている……君ならきっと……」
御侍が亡くなった後、僕は重明鳥に乗り、山河を越えて、あちこちを探し回った。
天幕の下、四聖の力が時代を超え、太陽と月と共に輝いている。人々は千年もの間、平和で豊かな生活を送っていたのだ。
その時僕は、もしかしたら神君の名は、単に人々の思いに刻まれた信仰ではなく、境界と時代を超えて迸る力の泉なのかもしれないと思うようになった。
もし、朱雀様のような偉大な方がまだこの世に生きていたら、僕たちのしたことをご覧になれば、きっと喜んでくれるはず……
羊方蔵魚が言っていた場所までまだ少し距離がある。
目的地に着く前に仮眠でも取ろうかと思い、背伸びをした。
ところが、大きな「暗雲」が通り過ぎたようで、目を閉じていても周囲が暗くなったのが分かる。
曇りか雷雨かと思いきや、目を開けると巨大な鳥の形をした機械が目に飛び込んできた。
鳥の頭に立つ人物は、僕に向かって手を振り、鳥の卵のように丸い鳥と言い争うように首を傾げた。
「辣子鶏!貴様また俺様の肉を取り上げるつもりか!?俺の追随者がここにいれば、このクソ機関を燃やしていたぞ!」
「追随者だと?今の自分を見てみろよ!真ん丸に太って、朱雀と呼べる格好じゃねぇだろ!」
「太ってなどない!力が完全に戻っていないだけだ!」
「チッ、鳥の頭がお前の体重で潰されそうになってるぞ!」
「バカな事を言うな!太っていない!東坡肉の料理がうますぎるのが悪い!そうだ!おい、そこにいる鶏の小僧!そうは思わないか!」
「僕の名前は東安子鶏です!」
確かに、この鳥は前回見た時から少し太っているような……
しかし、朱雀様の名を使って人を騙すようなやつらと話す気はない!
朱雀様のイメージを汚すなんて許せない!
しかも、あんなに偉大なる存在が……あんなにうるさい太ったデブ鳥な訳がないじゃないか!
Ⅲ.重明鳥
目の前にいる男性と鳥との出会いにも、紆余曲折があった。
辣子鶏に初めて会った時、僕は彼の火を吹く大きな鳥に追いかけられたのだ。
しかし、鳥型の浮遊城、炎を操る能力、加えて辣子鶏の堂々たる風貌……朱雀様を連想しない方がおかしい……
結果、思わず機械城を見渡していたら……まさか彼に不審者として扱われることになるとは……
事情を理解した辣子鶏は、今と同じように仕方なさそうな表情を見せた。
「……で、あの悪徳商人から聞いた話は、山の麓で誰か捕まえればすぐに聞ける話だったと?そんな言葉に、数ヶ月の給料を使った?朱雀の話になると、何の判断力もなくなるんだな……」
今に思えば、確かにやつの話を疑わずに信じてしまった。ちょっと損したような気もするけれど……
「でも、もしその情報が本当だったら、見逃してしまうと……僕は一生後悔することになるよ!」
辣子鶏はツッコミを入れつつも、慰めるように僕の肩をポンポンと叩いた。
「それなら、俺様が乗せてあげよう。お前が大枚叩いて買った情報が本当かどうか、確かめに行こうぜ」
「この俺がいるのにあの朱雀とやらは偽物に違いない!なぁ辣子鶏!市に美味しいもん食いに行くんじゃなかったのか?」
「気が変わった」
「貴様!じゃあ、終わった後に倍で返してもらうぞ!」
という訳で、騒いでいるうちに、ようやく目的地に到着。
辣子鶏が勢いよく飛び降りると、目の前の賑やかな街を見て、珍しく驚きの表情を浮かべた。
「ここがこんなに賑やかだとは思わなかった……おい小僧、何をそんなに熱心に見ているんだ?」
朱雀の像と朱雀の神廟が次々と現れるが、しかし、それらの模様に少し違和感を覚えた。
「本当に朱雀様なのか?伝説の朱雀様とは少し違う気がする……」
おかしいと思っていると、モフモフ鳥がドヤ顔で飛んできた。
「これだけの物が集まっているのはありがたいが、残念ながらどれも本物には及ばない。俺様こそ伝説の朱雀様だ。おいそこの人間、早く肉を捧げろ!なっ、何をする!」
モフモフ鳥の声が大きすぎたのか、群衆が次々と集まってきて、一瞬にして僕たちを取り囲んだ。
気持ちが高ぶっている群衆は、声高らかに叫んだ。
「朱雀様だ!」
「朱雀様が戻ってきた!」
僕は混乱して周りを見渡したが、ここには辣子鶏と僕以外には誰もいなかった。
彼らは以前の僕と同じように、辣子鶏と朱雀様が何かつながりがあると思ったのだろうか?
そして辣子鶏もこの窮地に直面して少し戸惑っているようだ。眉をひそめて周囲を見渡すと、突然、何かを察したようにーー
「そうか、そういうことか」
辣子鶏は手を伸ばし、僕の肩に止まっている重明鳥を撫でた。
「像に彫られた鳥は、お前の重明鳥に少し似ていると思わないか?」
Ⅳ.立命
そんな……?!
慌てて遠くの像を見ると……金色の羽毛……
何よりも一つの眼球に二つの瞳孔が刻まれていた。
「なあ、その朱雀とやらはこのガキのことか?」
「当然だ!朱雀神君の偉大なお姿を見誤ることはありません!」
「僕……なぜ僕が?」
「朱雀様!お忘れですか?朱雀様は我々を救ってくださったのですよ!」
人混みから抜け出したモフモフ鳥が、翼をはためかせ、僕の方へ寄ってきた。
「小僧!お前も俺の名前を使って人を騙そうとしてるじゃないか!?」
しかし、すぐに辣子鶏に尾羽を掴まれて放り出された。
しかし、モフモフ鳥の言う通り、僕は朱雀様じゃない。
もし、この誤解が朱雀様に知られたら、僕になんて罰を……
「僕は皆さんを助けた覚えはありません……」
緊張して震えながら答えると、群衆からざわめきが起こり始めたが、彼らの目に宿る熱い期待は消えないままであった。
そして、ついに一人の青年が前に出た。
「朱雀様は善行を多く積まれたので、私たちのことを思い出せなくてもおかしくないです……しかし、私たちが今日まで衣食住に不自由なく暮らせるのは、朱雀様のおかげです!どうか私たちと一緒に、この町の賢者に会いに来てください!」
町の人たちはとても熱心に取り組んでくれたので、しばらくは本当のことを話してガッカリさせるわけにはいかなかった……
とにかく、伝説の賢者に会いに行くしかない。
青年が先頭に立つと、他の町人たちも離れず、進めば進むほど人がついてくる。
本物の朱雀様ならば、この熱狂を享受する義理があるが、僕は本物の朱雀様ではない……
「あまり深く考えるな。真実はお前が思っているよりずっと簡単かも知れないぞ」
辣子鶏はとても穏やかな口調で僕をなだめながら、旋回する重明鳥をからかっている。
簡素な敷地内は今人々で賑わっている。
先頭の青年が奥の部屋の扉を叩き、中に案内してくれた。
部屋の中では、老人が机の前に立ち、綺麗な羽と明るい目をした鳥の絵を描いている。
「賢者様が予言していた通り、朱雀様は我らの街に戻ってくださいました!」
絵に集中していた老人が振り向くと、その場で固まってしまった。手から毛筆を落とし、墨が紙に滲んでいても、彼は気付かない。
そしたら、彼の目から涙がこぼれ落ちた。
「朱雀様……私は貴方の言うことを聞き、ここを幸せで平和な場所にしました……」
しゃがれた声ではあったが、そこはかとなく親しみを感じる。
視線を下に移すと、胸元の羽のペンダントが明るく光っている。
一瞬にして記憶が蘇った。
「……明くん?君は……明くん?」
それは遠い昔、御侍が他界したばかりの頃のことだった。
彼は生涯、懸命に働いてきたが、朱雀の痕跡を見つけることはなかった。そして、僕も彼のその願いを叶えることができなかった。
僕は雨に濡れながら、落胆と悲しみが入り混じったまま、重明鳥に乗ってあてもなく飛んでいた。
重明鳥が心配そうに鳴いていたから、まずは着地できる場所を探さなければならないこととなった。
着地点を探す途中、惨烈な光景を目にした。
土砂降りの雨で河川の水が堤防から氾濫し、洪水となって麓の家々を押し倒していたのだ!
その時、突然、御侍の言葉が脳裏に響いた。
「東安子鶏よ。朱雀様が信仰されている理由は、その神通力でも、四聖の肩書きでもない……」
「おそらく今頃、一族の多くはこのことを忘れてしまっているだろうが、覚えていてほしい……」
「朱雀様を尊敬するのは、その壮大な気宇が力となり、南離の栄光を古くから守り続けてきたからだ」
気を取り直し、重明鳥を低空へ移動させ、急流に紛れた人々を探した。
今にも流されそうな流木の破片を握りしめている子どもの声が、空気を伝わって耳に届いた。
「僕の手をつかめ!」
僕は飛び降りると、その子に手を差し伸べた。
幸い、流木が割れる寸前で捕まえ、重明鳥の背中に乗せた。
洪水は止んだが、やることがいっぱいだ。
生存者を探し、負傷者を収容し、新しい住処を探す……
苦労はしたが、救助されてほっとする人々を見るたびに、充実感を感じずにはいられなかった。
僕が最初に救出したのは、明という子どもだった。
残念ながら、彼は災害で家族と笑顔を失っていた。
どうしたら元気になってくれるのかわからなかったので、重明鳥に少年を載せて光耀大陸を飛び回り、途中で何度も朱雀様の話を聞かせた。
幸いにもその話が功を奏したのか、明くんは徐々に元気を取り戻し、明るくなった。
これは、別れの時が来たということでもあった。
「明くん、これからも元気でね」
「みんなを幸せにするんだ、君ならきっとここを平和に暮らせる場所にできる!そうだ、この飾りをあげる。朱雀様はきっと貴方を守ってくれるから!」
この瞬間、全ての謎が解けた──
僕が助けた子どもは、僕が去った後に大人になった。そして僕の言葉を思い出して、人々を連れて新しい土地で生活を再開し、その土地を繁栄させた。
御侍の言う通り、力は受け継がれるものなんだな!
確かに、微笑ましいことだが……
明君はすっかり僕と重明鳥を朱雀様と勘違いして、皆に「朱雀様に助けられた」と伝えてしまったらしい。
人々の熱心で真摯な眼差しを見ていると、どう真相を伝えたらいいか、わからなくなった……
Ⅴ.东安子鸡(東安子鶏)
自分は本物の朱雀神君だと自負するモフモフ鳥は今日言いようのないオチを迎えた。
「ねぇ、辣子鶏……僕はどうしたらいい?」
「なるほど、俺からすると伝説をこのまま残すのもいいと思うぞ」
「そんなことをしたら……朱雀様の名を冒涜することになる!」
「では、明くんを助けたのは誰だ?」
「僕だけど……」
「そもそも、彼が見たのは重明鳥だったよな?」
「はい……」
「だから、みんなに覚えてもらって何が悪いんだ?」
「でも僕は朱雀様じゃ……」
「今、本当のことを言ったら、むしろ彼らをより葛藤させることになるだろう。俺が教えた通りにすれば、彼らはお前のことを覚えてくれるし、朱雀の名も後世に残る。一石二鳥じゃないか?」
しかし、東安子鶏はまだ動揺しているようだ。
一方、モフモフ鳥は重明鳥の柔らかい羽にゆったりと寄りかかり、群衆に擁護されている少年の混乱した表情に感心していた。
「よかろう。彼らを救ったことに免じて、そういうことにしよう」
熱狂的な南離族の末裔である東安子鶏を前にするたびに、喜びと苦しみを感じていたことを思い出さずにはいられなかった。
嬉しいのは数え切れないほどの年月を経て、自分にはまだこんな純粋な従者がいることだ。
彼の服に描かれている紋様も、確かに南離一族独特のものだが、彼の手によってテキトーに描かれたものなのに、依然としてそのまま使われているとは……
苦しいのは……
なぜこの子は自分が本物の朱雀だと信じてくれないということ、何故こんなデブは朱雀様ではないなどと失礼なことを言うのか。
南離族は、ついに人を見た目で判断するような恥ずかしい人間に成り下がったのか!信じられない!許せない!
そう思いながら、モフモフ鳥はまた怒りそうになったが、満腹で立ち上がれないので、地面に転がった。
初めて会った時、東安子鶏は辣子鶏をモフモフ鳥を生まれ変わりだと勘違いして、機関城でこそこそとふらついていたせいで、怪しい侵入者として追い出された。
東安子鶏と辣子鶏が口論しているうちに、モフモフ鳥は偶然にも巻き込まれ、投げ飛ばされてしまったのだ。
「辣子鶏!このチキン野郎!」と叫んだところ、こんな会話が耳に入ってきた。
「投げたのか?!こんなところから?!仲間でしょ?!」
「はあ?お前あいつを庇っているのか?あのデブ鳥が嫌いなんじゃなかったのかよ」
「……確かにデブだし騒がしいし、朱雀様にも失礼なやつだけど、貴方の仲間であることに変わりはないでしょ?」
お前ら覚えとけよと心の中で暴走したところ、突然、空に響く鳥の鳴き声が聞こえてきた。
見上げると、東安子鶏が重明鳥に乗って自分のところに駆けつけてくれたのだ。
しかも、彼は自分が崖から落ちる前に腕を伸ばして抱きしめてくれた。
「……もう大丈夫、デブ鳥、今すぐ連れてってあげる!」
反応する間もなく、すぐに機関城に着地した。
「無事でよかった……おい!喧嘩では勝てないかもしれないけど、仲間を投げ飛ばしたのは君が悪いよ!デブ鳥に謝って!」
「謝る?何故だ?あいつが変なことを言い出したからむしろあいつが反省するべきだぞ。それに、彼は鳥なんだから、飛べるだろ?」
「……えっ?」
東安子鶏はようやくそのことを気づき、その場で固まってしまった。
ほんとバカな末裔だ……
「でも、でも、とにかく!喧嘩したのは僕たち二人で、デブ鳥とは関係ないでしょ?!」
「チッ、謝って欲しいなら、小僧、先に俺を倒せ。さあかかってこい!」
……
思い出を振り返った後、モフモフ鳥は優しい顔で東安子鶏を見つめる辣子鶏を見て、背筋が凍った。
「正直、俺を助けた時にちょっとは感動しただろう?」
辣子鶏は戸惑った。
「東安子鶏のことか?あいつは朱雀を敬ってるだけのバカじゃないか?だが、重明鳥はかっこよくて綺麗だから、気に入った」
「……」
モフモフ鳥は、初対面で辣子鶏が過剰に身構えて火の玉を投げつけてきたことを忘れたフリをして、辣子鶏が東安子鶏から奪い取った重明鳥を同情な目で見ていた。
「いくらなんでも撫ですぎだ。すぐにハゲるぞ」
「でもさ……」
「昔は四聖の宗族は皆、古臭いやつばかりだと思ったが」
「彼のようなバカが増えれば、この光耀大陸に新たな息吹をもたらすかもしれないな」
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