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稔歳之佑・ストーリー・サブ1~14

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作成者: 時雨
最終更新者: 時雨

#include(稔歳之佑・ストーリー・サブ1~14,)

※誤植等が多いため、文脈的に正しいと思われる部分を差し替えたものを表記しています。

1.波風が立つ茶屋・三

この悪徳商人を見れば見るほどおかしい……


数日前

南離印館


 彫花蜜煎は、地に積み上げられた品物を3度目数え終わると、やっと安心して腰を伸ばし、汗を拭いた。


彫花蜜煎:もう問題ないよ!片児麺様、これらの書画は、副館長が最近集めた骨董品で、全部ここにあるよ。

片児麺:うん、お疲れ様。座って、お茶を飲みましょう。

彫花蜜煎:へへ、わかった!


 彫花蜜煎は、豆沙糕が渡してきた茶碗を受け取った時、ノック音がタイミング悪く軽く鳴った。厚い暖簾の外から、ニヤニヤ笑っている見覚えのある顔が入ってきた。


彫花蜜煎:悪徳商人?!なんでここに?

羊方蔵魚:なんでどこにでもあなたがいるんだ!こっちが聞きたいよ……

彫花蜜煎:え?なんだって?

羊方蔵魚:エヘン……ただ、偶然に感動していただけですよ。

片児麺:今日は客人を招待していませんが、なんの用事でいらしたんですか?

羊方蔵魚:実は、明旦那の使い走りとして来たんです。片児麺さんにお願いがあり。

片児麺:副館長……?私の助けが必要とはなんでしょうか?

羊方蔵魚:へへ、片児麺さんの画工は秀逸で、古画を修復するのが得意と聞いています……この件は全光耀大陸でも片児麺さんに頼るしかないですよ。

片児麺:……


 一時間後、羊方蔵魚は満足げに鼻歌を歌いながら絵巻を抱えて去っていったが、彫花蜜煎は彼の背中を見て眉間にしわを寄せずにはいられなかった。


彫花蜜煎:この悪徳商人を見れば見るほどおかしい……ものすごくニヤニヤしてた、まさか今回もなにか企んでいるんじゃ?

彫花蜜煎:しかし……副館長様は全部選び出すように言われたはずなのに、どうしてまた彼に一枚だけ預けたのでしょう……

彫花蜜煎:あれ、片児麺様……?大丈夫ですか?

片児麺:……なんでもありません、ちょっと考え事を。

豆沙糕片児麺様は疲れているのでしょう。絵の修復は疲れますから、温かいお茶をお召し上がりください。

片児麺:ええ、でも絵の中の風景は……まあ、次に副館長に会ったときに、その理由をしっかり聞いておかないといけないようです。



2.波風が立つ茶屋・四

少陽山、玄武宮……全てが昨日のようでした。


数日前

地府


 暗い地下室の中で、幾つかの幽燭が冷たい光を放ち、大陣の中の若者は目を半閉じていて、蒼白な顔の半分が闇に隠れていた。


猫耳麺高麗人参様、城主様が到着しました……

猫耳麺高麗人参様……?

辣子鶏:……

猫耳麺:また寝てしまいましたか……

猫耳麺:城主様、もうしばらくお待ちください。高麗人参様は長く寝らないはず、せいぜい一時間でしょう。

辣子鶏:この野郎は……いつからこうなった。

猫耳麺:もう一ヶ月以上でしょうか。

辣子鶏:またあの男と関係があるのか……

辣子鶏:猫ちゃんは出てくれ。俺がここで彼をみまもる。


 重厚な玄関の扉が再び閉まり、冷たい匂いが漂う塵が舞い上がった。辣子鶏は重々しい表情で向こうにある大臣椅に座った。

 どれほどの時間が経ったか、眠っていた青年がゆっくりと両眼を開けて、瞳の中にぼんやりとした波を浮かべた後、また静けさが戻る。


高麗人参:来てくれましたか……城外の山河陣……

辣子鶏:わかってる、また壊れた石碑を修繕するんだろう……大丈夫、後で出発する。

高麗人参:……今回の状況はもっと厄介かもしれません。大陣の四角に不安定な兆候が現れました。八宝飯たちを先に一か所に修理させたが、残りは……

辣子鶏:ちょっと待て……大陣のことは今聞きたくない。お前、最近眠る時間がますます長くなってるってわかってるのか?

高麗人参:大丈夫……心配する必要はありません。

辣子鶏:なにが大丈夫だって!?いつまでこの大陸に閉じ込められているつもりだ?いずれ、お前の霊力は尽きてしまうぞ!

高麗人参:わかっているでしょう……これは吾自身が立てた誓い、たとえ本当にその日が来たとしても……

辣子鶏:……やめろ!

高麗人参辣子鶏、さっき夢を見ました。昔の日々を……少陽山、玄武宮……全てが昨日のようでした。

辣子鶏:……

辣子鶏:まあいい……まったく変わらない頑固者だ。昔と同じ、なにも変わっていない。

高麗人参:そなたもそうでしょう……少しも変わっていません。

辣子鶏:……ここでこれ以上話しても無駄だ、大陣を修復しに行く。お前は……自分を大事にしろ。

高麗人参:安心して……吾は必ず生き残ります。少なくとも……その日までは……


 玄鉄の扉が閉まり、幽霊の影のようにゆらめくろうそくはつぶやきと暗闇とともに徐々に暗くなった。


3.波風が立つ茶屋・五

浄化?


数日前

聖教


 彫刻された燭台は暖かい光を揺らし、カーテンは暖かさに満ちて、窓枠から吹きつける冷たい風と対照的だった。

 木の扉がそっと開けられ、うっとうしい化粧品の香りに、ハイビスカスティーは不快そうな表情を浮かべる。さっきまで自分の横に寄りかかっていた少年も、するりと屏風の陰に隠れた。


ハイビスカスティー:聖女?最近、私の部屋に出入りするのがますます勝手になってきたな。こんな遅い時間になんだ?

チキンスープ:お休みを邪魔して申し訳ございません……失礼しました。聖主様、お話があります。

ハイビスカスティー:……言え。

チキンスープ:聖主様が再びこの世に現れた時、ご指示に従い儀式を準備しましたが、慌ただしさの中で大事なことを失念しておりました……

ハイビスカスティー:ほぉ?大事なこととは……なんだ。

チキンスープ:……浄化です。

ハイビスカスティー:浄化?

チキンスープ:そう……浄化のされていない身体が聖主様の聖なる力に耐えることができず、様々な症状が出るかもしれません。それも妾が心配していることです。

チキンスープ:妾はあらゆる手段で方法を探り、ようやく手がかりを見つけました。

ハイビスカスティー:話してみなさい、どうやって浄化するんだ?

チキンスープ:当然、聖主様のお体を天地の一番純粋な力で浄化することです……

チキンスープ:とある天地の加護を受けた場所を見つけました。そこは山河陣の力に養われ、山の精霊にも守られて、そこで生まれた子供も純粋な霊力を持っています。

チキンスープ:しかし、まずその子供たちの血を使って実験をしなければなりません。効果があれば、それを採取し続けて……聖主様の体を浄化するための入浴剤として使います。

ハイビスカスティー:山河陣……山の精霊……ふふ、もし本当に効果があれば、試してみたいな。

チキンスープ:妾はもう手下を手配しました、もうすぐそこに着くでしょう。聖主様は良い知らせをお待ちください。

ハイビスカスティー:それは良い……聖女はやはり頼もしい。私がなにも心配しなくてもいい……

チキンスープ:聖主様、お褒めくださって光栄です。聖主様のために尽力いたします……もう遅いので、お先に失礼します。

ハイビスカスティー:ちょっと待て――

チキンスープ:聖主様、他になにかご命令はありますか?

ハイビスカスティー:次は、ノックを忘れないように。

ハイビスカスティー:刺客と見誤り、誤って聖女を傷つけるならまだしも、もっと深刻なことが起こったら……困る。


チキンスープ:……聖主様の教えを謹んで覚えておきます。



4.波風が立つ茶屋・六

きっと無事です!


数日前

ある村


 夜が更け、寒風が強くなってきた。女児紅は暇そうに机に置いた赤いろうそくを触っていると、木の扉が開く音をようやく聞こえた。


女児紅状元紅兄さん、やっと帰ってきましたね!

状元紅:こんなに遅く、どうしてここに来たのですか?

女児紅:張おばさんの代わりにいくつかの自家製の酒を送ってきました、あなたがここ数日手助けしてくれたことにお礼をしたいって……ところで、今日はどうでした?

状元紅:まだ手がかりは見つかっていません……今朝、自分の子供が夜中にいなくなったと言った村民がいます。年越し料理物の当難事件と関係があるかもしれません。

女児紅:子供の失踪……

状元紅:この村は人里離れた場所にあり、年末になると野獣や盗賊が現れることが多い。しかし、今回はいつもと違うなにかがあるようです……

女児紅:確かにおかしいですね……状元紅兄さん、明日一緒に調査に行きましょう――

状元紅:だめだ、今回はもっと危険な事態が起こる可能性があります。ここでじっとしていてくれ……

女児紅:いくらなんでも、あたしも食霊ですよ、野獣や盗賊なんて……たとえ堕神だとしても、あたしに戦う力はあります!

状元紅:ダメです!

女児紅:なんで……状元紅、あたしはそんなに弱いと!?

状元紅:もちろん違います!ただ、本当に私たちふたりとも対処できない危険があったら……とにかく、あなたが危ないことになるより、私のほうが……

女児紅:や、やめて――そんな不吉なこと!きっと無事です!

状元紅:……


 しばらくの沈黙の後、女児紅はなにかを思い出したように、袖から真新しい赤い剣穂を取り出し、さりげなく状元紅の前に押し付けた。


女児紅:あなたの剣穂、古くなったでしょう。今日は暇だったので、新しく作ってみました……

状元紅:……ありがとう、よくできている。

女児紅:まあまあですよ……暇でしたから、適当に作っただけです……

状元紅:……待って、なにか焦げ臭い匂いがしませんか?

女児紅:しまった!あなたと話すのに夢中で、肉じゃがを煮込んでいることを忘れていました!

状元紅:……?

女児紅:張おばさんが作る米酒は村でも有名で、おつまみがないといけませんから。……あなたも毎日早起きして遅く帰ってくるから、またなにも食べていないんでしょう?

状元紅:肉じゃが……あなたが自分で作ったんですか?

女児紅:もちろんです……あつつ!ふぅ……もう立ってないで、早く手伝ってください!



5.波風が立つ茶屋・七

これが地府のプロだったのか。


深夜


マオシュエワン:暗い……ここはいったいどういう場所だ。おい、八宝飯、羅針盤はまだ直っていないのか?

八宝飯:変だな……完全に故障してしまったのか、この森に入ったときは大丈夫だったのに。

マオシュエワン:待って……前からなにか音が!


 蔓や葉が絡み合う森の奥、赤い服と黒い髪の姿が現れ、ふたりに向かって移動しているようだった。


マオシュエワン:……女の幽霊!?

八宝飯:下がれ、オイラが守ってやる!妖魔を払いのけるのは、オイラのような地府のプロに任せりゃいい……

マオシュエワン:くそっ!誰が怖がるか!守られる必要なんてない!

八宝飯:うわ、そんなこと言ってる場合じゃない……彼女が来る……

八宝飯:天と地よ、妖魔と幽霊は去れ、退け!退け!妖魔退散!

マオシュエワン:……

八宝飯:な、なんで効かないんだ?あああ――近寄るな!!

女児紅:よかった!やっと生きてる人を見つけました!

八宝飯:……!?

八宝飯:幽霊じゃなかったのか……

女児紅:幽霊……?

マオシュエワン:ぶはははは……

マオシュエワン八宝飯、あんたさっきの芝居はすごかった。これが地府のプロだったのか、ふはははは……

八宝飯:黙れ!あんたになにがわかる……あれはリュウセイから学んだ、プロの悪魔祓いの真言だ!!

マオシュエワン:ははは、リュウセイ渓に騙されたんだろう、臆病者!

八宝飯:この野郎……!

女児紅:ちょ、ちょっと、ふたりとも、喧嘩はやめて、あたしはさっきのこの森で……あの、散歩していたら、迷ってしまいました……おふたりは出口を知っていますか?

八宝飯:お嬢さん、こんな深夜にこんなところで散歩するのは、どういう趣味なんだ……

八宝飯:まあいい、ちょうどオイラたちも出口を探しているんだ、ついて来てくれ。



6.暖かな春の息吹・一

なんとも……実際、貴方と不才はあまり変わりません。


深夜

地府


 明四喜は静かに大陣の真ん中で眠っている青年を見つめ、視線がわずかに動いた。しばらくして、青年はやっと疲れた表情で目を開けた。


高麗人参:来てくれたか……

明四喜:不才を呼んだのは、また山河陣の為か。

高麗人参:……いったい山河陣になにをしました。

明四喜:今の貴方の状態では、やるべきことは陣から出て、霊力を回復することです。……どうでもいい事件を調査することではありません……

高麗人参:どうでもいい事件?吾たちは、なにを犠牲にしてきたか、わかっているのに……これは彼の望みではありません。

明四喜:……言ったはずです、彼の苦労を無駄にはしないと。


 相手のとらえどころのない薄笑いを見て、陣の中にいる青白い青年は眉を寄せた。


高麗人参:……あの日から、陣の中の英霊たちが次第に消えています。そなたも知っていますよね、このままでは、山河陣は……天幕も崩れるでしょう。

明四喜:あの日……?もう彼に会ったんですね。

高麗人参:そう……ただ彼はもうあの「彼」ではない。昔のあの人は亡くなってしまったのに、なぜ執着を?

明四喜:執着?

明四喜:長年この大陣を守り続け、自分を犠牲にしてもそれを維持している……不才よりも貴方の執念はよほど深いでしょう。

高麗人参:それは……約束です。

明四喜:……

高麗人参:それでも止めないのであれば、地府はそなたを敵にするしかありません……吾が生きている限り、この大陣を守るために最善を尽くします。

明四喜:ふふ、なんとも……実際、貴方と不才はあまり変わりません。もしかしたら、同じくらい哀れかもしれません。

明四喜:失礼します……お元気で。



7.暖かな春の息吹・二

あなたも主がいるんだ。どんな人?


深夜

聖教


 頬に冷たくて粘り気のある感触が伝わってきて、ピータンは突然目を覚ました。目の前には、小さな蛇が2匹真っ赤な舌をちらつかせ、その上から冷たい視線を送る少年がいた。


ピータン:……

蛇スープ:ここで寝て、ください。

ピータン:ああ……頭が……痛い。

蛇スープ:青ちゃん、シロちゃん。

ピータン:なにを……なさるんですか。

蛇スープ:あなたを噛んだら、また眠れる。もう痛くない。

ピータン:いやだ……あっちへ行ってください!

蛇スープ:どうでもいい、もう知らない。


 夜風が吹いてきて、ピータンは血管が脈打つ頭を抱えて、やっと自分が少年と一緒に屋根の上に座っていることに気づき、そして2匹の蛇が自分の手を舐めようとしているのを見えた。


ピータン:……あなた、どうしてここに。

蛇スープチキンスープが、部屋にいる。いや。

ピータン:うう……ああ……痛い……

蛇スープ:あなた、病気だ。

ピータン:大丈夫です……

蛇スープ:あなた、さっき、夢の中で「主」って言った。あなたも主がいるんだ。どんな人?

ピータン:主……うっ……

蛇スープ:ひどい病気、だよね。

ピータン:主……主……僕はいったいなにを。

蛇スープ:あのやぶ医者を……探してあげる。

ピータン:……どうして……僕を……助けるのですか。

蛇スープ:青ちゃんと白ちゃんは、あなたがすきだから。



8.暖かな春の息吹・三

今日はあなたこそおかしいよ、旦那様。


 盛夏の書院で、蝉の声が鳴り響き、目の前に微笑む女が大きなスイカを割っている。


蛇腹きゅうり:雪掛……?

雪掛トマト:あら、やっと起きたのね〜良く眠っていたみたいで、邪魔したくなかったのよ。

雪掛トマト:さっき市場で買ってきたスイカは甘く熟していたの。井戸から取り出したばかりで、冷たくて美味しいよ。食べてみて――

雪掛トマト:え、寝ぼけているのかしら?ちょっと見せて……

蛇腹きゅうり:!!


 目の前の人が身を乗り出して、自分の額にそっと手を当てた。その指先がほんのりと冷たい水滴がついているのに、蛇腹きゅうりの耳の先が、思わず熱くなった。


雪掛トマト:もしかしたら、暑さのせいかもしれないわね。次回は昼食後に寝坊しないように気をつけてね〜

蛇腹きゅうり:雪掛……あんた、なんだかおかしい……

雪掛トマト:え?どこがおかしい?

蛇腹きゅうり:今日……あんたが妙にや、優しい……

雪掛トマト:あら、わたしはいつもこんな感じじゃない。今日はあなたこそおかしいよ、旦那様。

蛇腹きゅうり:な、なに?!旦那様?あんた……また冗談を言っているのか……またからかっているのか?

雪掛トマト:ふふ……まったく、からかうなんてしないよ〜

雪掛トマト:ほら、スイカを食べなさい。

雪掛トマト:ところで、なにを握っているの?汚いから、さっさと捨てて――


 蛇腹きゅうりは見おろすと、手には光がいまにも消えそうな松明を握りしめていた。その瞬間、暗い記憶が風のように心に駆け込んできた。

 目の前の女性はまだ微笑みながら優しく話しているが、とっくに不気味な蝉の音に溶け込んでいた。ゆらゆらと音楽が鳴り響き、辺りの景色が水面のように波打ち、ぼやけていく……



 暗い地宮の中で、みんなはそれぞれ寝転がって眠っていて、蛇腹きゅうりも夢を見ていた。彼は火が消えている松明を握り、苛立った表情をしている。


蛇腹きゅうり:これは……なんという変な夢だ……



9.暖かな春の息吹・四

なんで俺にもそんないい「父上」がいないんだあああ……


 昼の授業が終わり、生徒たちが書院を出て笑い合っているのを見て、先生の顔をしている餅米蓮根は少し緊張が解けたが、その時窓から一人の影が急に窓から身を乗り入ってきた。


羊方蔵魚:なかなかいい授業だったぞ。

餅米蓮根:うわっ!い、いつからそこに隠れたのですか……

羊方蔵魚:ふふ、さっきぶらぶらしていたら、たまたまここで授業しているのを聞いたので、面白そうだと思ってしばらく聞いていた。

餅米蓮根:でも、雪掛姉さんは山から降りる前に、部屋の中にいるようにって言ったじゃないですか……

羊方蔵魚:あれは冗談だよ。お客さんを足止めするなんて、鬼谷書院のもてなし方だとは思えないだろう?

餅米蓮根:そ……そうですか。

羊方蔵魚:当然。餅米蓮根だろう?若いのに絵が上手いなあ、どこで習ったんだ?

餅米蓮根:うん、書道や絵の描き方は……父さんから教わったんです。

羊方蔵魚:お父さん?

餅米蓮根:……私の以前の御侍です。

羊方蔵魚:そうか、お父さん……そういえば、あの親父も手取り足取り、俺に絵を教えてくれたな……あっ!なんでまた昔のことを思い出したんだ。

餅米蓮根:あなたも絵を描けるんですか?

羊方蔵魚:もちろんさ!正直なところ、ちょっと有名な画家だぞ。

餅米蓮根:本当……?どんな作品がありますか?

羊方蔵魚:えっと……実はね、光耀大陸の歴代の名家の作品を全部描いたことがあるんだ……

餅米蓮根:うーん、つまり……模写しかできないんですね。

羊方蔵魚:なにが模写だよ!これは職人芸だよ……!あ、そういえば、今、俺はちょうど助手が欲しいんだ。興味あるか?

餅米蓮根:助手……?

羊方蔵魚:そうだよ。この書院の給料も少ないだろう、ここで先生をやるのは、才能を無駄にしていると思わないか?俺と一緒に騙……稼ごう!

餅米蓮根:だめです……

羊方蔵魚:本当にいいのか?儲かったら、美味しいものをたらふく食べさせてやるよ。

餅米蓮根:いいえ、書院に残ります。院長との約束ですし……父さんの望みでもあります。それに……

餅米蓮根:父さんは、私がお金に不自由はないと言いました……私を書院に送る前に、玉京の家、畑、店を私の名義にしました……

羊方蔵魚:……!?

餅米蓮根:それがどれくらいの価値があるのかは分からないけど、父さんの言うことは、いつも正しいです。

羊方蔵魚:……

餅米蓮根:大丈夫ですか?急に顔が青くなりましたよ?え?え?なんでないてるんですか?

羊方蔵魚:うう……神様、なんで俺にもそんないい「父上」がいないんだあああ……



10.暖かな春の息吹・五

お久しぶりです……可愛い子。


 静かな部屋中に芳香が漂い、片児麺は古画の研究に没頭していたが、寒さで頬を赤く染めた豆沙糕が暖簾をめくり、太った伝書鳩を両手で抱えて入ってきた。


豆沙糕片児麺様、書院からお手紙が届きました。

片児麺:うん、この鳩は……前回会った時よりずいぶん丸くなったようですね。

豆沙糕:そうなんです、さっきいきなり肩に乗ってきた時、私もびっくりしました!うーん、書院の食事はきっと美味しいんだろうな……

豆沙糕:しかし今回、その方から新しい書画は送られてこなかったようです。


 片児麺は手紙を静かに読み終えると、笑って机の前の燭の上に置いた。その瞬間、貴重な便箋が火の舌に溶け込んだ。


片児麺:書院は最近、ずいぶん賑やかになったようですね、一気に新人が集まってきて……あの方も喜んでいるはず。

片児麺:……

片児麺:……豆沙糕、どうしてそんなに私を見つめているのですか?

豆沙糕:うーん、片児麺様がようやく笑ったからです!ここ数日、副館長様が持ち帰った書画の修復に忙しく、いつも不機嫌そうだったので。

豆沙糕:やはり、あの人から手紙を受け取るたびに、片児麺様の気分は良くなるみたいですね!

片児麺:……あの、豆沙糕、先月書院から送られてきた書画を整理しましょう、もう数日遅れてしまったので、今日中に急いで送ってください。

豆沙糕:はい!今すぐ行きます!

豆沙糕:ちょっと待って、私の便せんも持ってきて……先日のあの絵に問題があるかもしれないので、ちょぅと手紙で彼に伝えます……

豆沙糕:はい!


 豆沙糕が去って書斎に入ったのを見送り、片児麺は思わず唇の端を上げ、机の上に太った鳩のふわふわし顔をそっと撫でた。


片児麺:お久しぶりです……可愛い子。



11.暖かな春の息吹・六

そのうちなにか面白いことが聞けるかも……


 活気のある骨董品街のはずれで、羊方蔵魚が歩きながら、買ったばかりの古画を眺め、なにかをつぶやいた。


羊方蔵魚:この絵の用紙と印鑑……やはりあの宝の地図とそっくりだな……

羊方蔵魚:ふふ、素晴らしいビジネスチャンスだ……書院のカモどもが、この絵をいくらで買ってくれるのか。

羊方蔵魚:おっと――


 考え込んでいる羊方蔵魚は、街の角から突然現れた少年にぶつかってつまずいた。


村中孩童:すみません……ちょちょっと待って!その手に持っている絵……どこで手に入れたの?

羊方蔵魚:え、おいおい……いきなり他人のものを触るな!これは俺が買ったばかりの絵だ!

村中孩童:うーん、ちょっと古く見えるけど、本当にそっくりだ……お兄さん、絵を売ってくれないかな?

羊方蔵魚:ガキ、この絵は高いぞ。お兄さんは用事があるから遊んでる時間はないんだ。

村中孩童:ちょっと待て、銀2両で……足りるか?

羊方蔵魚:……!?

村中孩童:足りないのか……じゃあ、銀三両だ……!今日はこれしか持ってないんだ……

村中孩童:それでも足りなければ、家に帰って盗む……もらうしかないんだ。だめだ、父さんに会ったら……

羊方蔵魚:もういいもういい!この坊ちゃん、本当に品があるんですね。ほら、この絵は売ってあげるよ!

村中孩童:ふぅ……よかった。これで祠堂のこともバレないはずだ……

羊方蔵魚:祠堂って……?


 羊方蔵魚は詳しく聞こうとしたが、子供は絵を抱えて一目散に去ってしまった。


羊方蔵魚:へへ、十数銭で買った絵が、こんな高値で売れるなんて、今日は本当に運がよかった……鬼谷書院の連中は、こんな簡単に騙されないからな。

羊方蔵魚:まさかこんな小さな村で、子供でもこんなに金持ちになれるとは、あの子供が言った祠堂って、なにだろう……?

羊方蔵魚:ともかく、あらかじめあの絵に手を加えておいてよかった。へへ、そのうちなにか面白いことが聞けるかも……



12.暖かな春の息吹・七

彼にマーキングしておくべきだった……


深夜

鬼谷書院


 誰もいない庭に忍び込んだ羊方蔵魚は、中庭の岩場に忍び寄り、爪先立ちで湖中にある書閣を眺めた。

 建物の中にある宝物に思いを馳せていた時、暗い影が忍び寄ってきた。


羊方蔵魚:助け……

ヤンシェズ:黙れ。

羊方蔵:ん……んん……

羊方蔵魚:ふぅ……ヤンシェズ!?俺を殺したいのか……

ヤンシェズ:うるさい……

羊方蔵魚:おい、手加減してよ……声を小さくすればいいだろう、な、なんであんたがここに現れたんだよ!

ヤンシェズ:あなたこそ、……なんでここにいる。

羊方蔵魚:ええと……それは話せば長くなる。

ヤンシェズ:……また盗みか。

羊方蔵魚:な、なにが盗みだよ!?おいおい、そんな納得した顔しないでくれよ……

ヤンシェズ:……

羊方蔵魚:はあ、正直に言おう。実は俺、この書院の裏山で不思議なことに遭遇したんだ。偶然にも、ここの食霊たちに助けられた。

ヤンシェズ:食霊……

ヤンシェズ:「白酒」という人は、……いるか?

羊方蔵魚白酒……名前は聞いたけど、会えなかった……

ヤンシェズ:……彼はどこだ?

羊方蔵魚:ひっ――いてててて!そ、そいつは麓の村にいるはずだ、今書院のほかの連中も全員そこにいるんだよ。

ヤンシェズ:麓の村……


 ヤンシェズはなにかを考え込むようにつぶやくと、振り向きもせずに屋根の上に飛び上がり、夜の闇に消えた。羊方蔵魚は腫れた手首を撫でて、仕方なさそうに舌打ちした。


羊方蔵魚:なんだ……ヤンシェズは本当にどんどん乱暴になっていったな、まさか明の旦那はこんなのが好きなのか……?それにしても……

羊方蔵魚ヤンシェズはいったいなにをしに?なんで白酒を探すんだ……こんなに速く走られたら、ついて行くこともできない。彼にマーキングをしておくべきだった……次回は、必ず!



13.暖かな春の息吹・八

ただ……彼の演技を静かに見ているだけ。


深夜

鬼谷書院


 一日のいたずらが終わってご機嫌なクラゲの和え物は、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら帰って寝ようとしていたが、書閣の前を通りかかった時、見覚えのある人影がコソコソと歩いているのが見えた。


羊方蔵魚:今度は……順調に入れるだろう……


 クラゲの和え物は一瞬固まったが、すぐにいたずらをしそうな「邪悪」な表情を浮かべた。計画を実行する寸前、ふと背筋が寒くなるほど見慣れた視線を感じた。


クラゲの和え物:!!


 ふと振り向くと、金駿眉が向かいの小部屋で窓にもたれて、感情が読めない笑みを浮かべて書閣を眺めているのを見えた。


クラゲの和え物:(ひっ、金駿眉に見つかるところだった……こいつ、またなにか悪いことを企んでいるようね……)



 そう思ってクラゲの和え物は君子危うきに近寄らずと思い、こっそりと金駿眉のところに向かった。


クラゲの和え物:ねえ、金駿眉、あいつがまた門を見張ってるのに、あなたは見てるだけなの?

金駿眉:ふふ、彼は気にしなくていい……

クラゲの和え物:この前、犬小屋の穴からこっそり書閣に侵入しようとしたら、捕まってしまった。さらにその前、窓からそこに入ろうとしたる、川に落ちて溺れるところだった……うーん、それから、さらにその前のことも……

クラゲの和え物:あいつ、頭おかしいんじゃない。書閣にはただのがらくたと字画しかないのに、すごい執着だね?

金駿眉:なんのためにかはどうでもいい……ただ、彼が自分のすべてを出し尽くすのを見るのは面白いと思うだけだよ。ついつい見てしまう。

クラゲの和え物:ふん、本当に悪いやつ……あなたも人をからかうのが好きなんてね。

金駿眉:からかってるわけじゃない。ただ……彼の演技を静かに見てるだけ。

クラゲの和え物:へへ、それなら――

金駿眉:また悪だくみか?

クラゲの和え物:最近はちょうど書院には一緒に遊んでくれる新しい子供がいなくて、あいつは頭が良くなさそうだけど、一緒に遊ぶのは面白そうね……

金駿眉:ふふ、悪ガキだな。

金駿眉:あんまり遊びすぎないよいにね。一応書院のお客さんだから。

クラゲの和え物:えへへ……安心して、院長様!



14.今日はいつの日か・一

お前が彼女そばにいてくれるなら、俺も安心だ。


 大晦日が近づき、賑やかな通りや路地はイルミネーションや花飾りで飾られ、状元紅はたくさんのお正月用品を持って、屋台から離れようとすると、思いがけず見慣れた人物に出会った。


状元紅:また会いましたね。

白酒:……

状元紅:あなたも……年越しの買い物にしているのでしょうか?

白酒:いや。

状元紅:……


 気まずい沈黙が流れ、ふたりは近くの豊富な商品を陳列した屋台へ視線を向け、その静寂を、行商人あいの大きな声が埋めていく。


白酒:……今日は一人なのか。

状元紅:ああ……女児紅は家の中で掃除をして、近所の人たちと一緒にお年越し料理のために豚や羊をさばいています。

白酒:豚や羊を……彼女はそんなことができるのか?

状元紅女児紅は村に長く住んでいるので、それらのことに慣れています。それに、彼女は見た目よりも弱々しくないんです。

白酒:知っている……彼女は弱々しくない。

状元紅:まるで最初から彼女を知っているような口ぶりですね。

白酒:……

状元紅:……実はずっと聞きたかったのですが、以前女児紅とは知り合いですか?

白酒:いや、俺と彼女とは知り合いではない。

状元紅:でも、あなたに関することを口にすると、女児紅は別人のようになってしまいます。

白酒:恐らく、俺を一人の故人と間違えているだけだろう。

状元紅:故人……?

白酒:でも、彼女はいつか気づくだろう。

状元紅:あなたが彼女やその故人となんからのかかわりがあるかはわからないが、言いたいことは言います……

状元紅:前回、あなたが助けてくれたことは、私はちゃんと覚えています。でも、もし将来あなたが彼女に危害を加えたら……私は許しません。

白酒:……

白酒:ふ……お前が彼女のそばにいてくれるなら、俺も安心だ。

状元紅:……?

白酒:俺は用事があるから、長居はできない。お前も早く帰れ――

白酒:後、豚や羊をさばくのは、次から女の子一人ではやらせないように気をつけろ。

※誤植等が多いため、文脈的に正しいと思われる部分を差し替えたものを表記しています。

1.波風が立つ茶屋・三

この悪徳商人を見れば見るほどおかしい……


数日前

南離印館


 彫花蜜煎は、地に積み上げられた品物を3度目数え終わると、やっと安心して腰を伸ばし、汗を拭いた。


彫花蜜煎:もう問題ないよ!片児麺様、これらの書画は、副館長が最近集めた骨董品で、全部ここにあるよ。

片児麺:うん、お疲れ様。座って、お茶を飲みましょう。

彫花蜜煎:へへ、わかった!


 彫花蜜煎は、豆沙糕が渡してきた茶碗を受け取った時、ノック音がタイミング悪く軽く鳴った。厚い暖簾の外から、ニヤニヤ笑っている見覚えのある顔が入ってきた。


彫花蜜煎:悪徳商人?!なんでここに?

羊方蔵魚:なんでどこにでもあなたがいるんだ!こっちが聞きたいよ……

彫花蜜煎:え?なんだって?

羊方蔵魚:エヘン……ただ、偶然に感動していただけですよ。

片児麺:今日は客人を招待していませんが、なんの用事でいらしたんですか?

羊方蔵魚:実は、明旦那の使い走りとして来たんです。片児麺さんにお願いがあり。

片児麺:副館長……?私の助けが必要とはなんでしょうか?

羊方蔵魚:へへ、片児麺さんの画工は秀逸で、古画を修復するのが得意と聞いています……この件は全光耀大陸でも片児麺さんに頼るしかないですよ。

片児麺:……


 一時間後、羊方蔵魚は満足げに鼻歌を歌いながら絵巻を抱えて去っていったが、彫花蜜煎は彼の背中を見て眉間にしわを寄せずにはいられなかった。


彫花蜜煎:この悪徳商人を見れば見るほどおかしい……ものすごくニヤニヤしてた、まさか今回もなにか企んでいるんじゃ?

彫花蜜煎:しかし……副館長様は全部選び出すように言われたはずなのに、どうしてまた彼に一枚だけ預けたのでしょう……

彫花蜜煎:あれ、片児麺様……?大丈夫ですか?

片児麺:……なんでもありません、ちょっと考え事を。

豆沙糕片児麺様は疲れているのでしょう。絵の修復は疲れますから、温かいお茶をお召し上がりください。

片児麺:ええ、でも絵の中の風景は……まあ、次に副館長に会ったときに、その理由をしっかり聞いておかないといけないようです。



2.波風が立つ茶屋・四

少陽山、玄武宮……全てが昨日のようでした。


数日前

地府


 暗い地下室の中で、幾つかの幽燭が冷たい光を放ち、大陣の中の若者は目を半閉じていて、蒼白な顔の半分が闇に隠れていた。


猫耳麺高麗人参様、城主様が到着しました……

猫耳麺高麗人参様……?

辣子鶏:……

猫耳麺:また寝てしまいましたか……

猫耳麺:城主様、もうしばらくお待ちください。高麗人参様は長く寝らないはず、せいぜい一時間でしょう。

辣子鶏:この野郎は……いつからこうなった。

猫耳麺:もう一ヶ月以上でしょうか。

辣子鶏:またあの男と関係があるのか……

辣子鶏:猫ちゃんは出てくれ。俺がここで彼をみまもる。


 重厚な玄関の扉が再び閉まり、冷たい匂いが漂う塵が舞い上がった。辣子鶏は重々しい表情で向こうにある大臣椅に座った。

 どれほどの時間が経ったか、眠っていた青年がゆっくりと両眼を開けて、瞳の中にぼんやりとした波を浮かべた後、また静けさが戻る。


高麗人参:来てくれましたか……城外の山河陣……

辣子鶏:わかってる、また壊れた石碑を修繕するんだろう……大丈夫、後で出発する。

高麗人参:……今回の状況はもっと厄介かもしれません。大陣の四角に不安定な兆候が現れました。八宝飯たちを先に一か所に修理させたが、残りは……

辣子鶏:ちょっと待て……大陣のことは今聞きたくない。お前、最近眠る時間がますます長くなってるってわかってるのか?

高麗人参:大丈夫……心配する必要はありません。

辣子鶏:なにが大丈夫だって!?いつまでこの大陸に閉じ込められているつもりだ?いずれ、お前の霊力は尽きてしまうぞ!

高麗人参:わかっているでしょう……これは吾自身が立てた誓い、たとえ本当にその日が来たとしても……

辣子鶏:……やめろ!

高麗人参辣子鶏、さっき夢を見ました。昔の日々を……少陽山、玄武宮……全てが昨日のようでした。

辣子鶏:……

辣子鶏:まあいい……まったく変わらない頑固者だ。昔と同じ、なにも変わっていない。

高麗人参:そなたもそうでしょう……少しも変わっていません。

辣子鶏:……ここでこれ以上話しても無駄だ、大陣を修復しに行く。お前は……自分を大事にしろ。

高麗人参:安心して……吾は必ず生き残ります。少なくとも……その日までは……


 玄鉄の扉が閉まり、幽霊の影のようにゆらめくろうそくはつぶやきと暗闇とともに徐々に暗くなった。


3.波風が立つ茶屋・五

浄化?


数日前

聖教


 彫刻された燭台は暖かい光を揺らし、カーテンは暖かさに満ちて、窓枠から吹きつける冷たい風と対照的だった。

 木の扉がそっと開けられ、うっとうしい化粧品の香りに、ハイビスカスティーは不快そうな表情を浮かべる。さっきまで自分の横に寄りかかっていた少年も、するりと屏風の陰に隠れた。


ハイビスカスティー:聖女?最近、私の部屋に出入りするのがますます勝手になってきたな。こんな遅い時間になんだ?

チキンスープ:お休みを邪魔して申し訳ございません……失礼しました。聖主様、お話があります。

ハイビスカスティー:……言え。

チキンスープ:聖主様が再びこの世に現れた時、ご指示に従い儀式を準備しましたが、慌ただしさの中で大事なことを失念しておりました……

ハイビスカスティー:ほぉ?大事なこととは……なんだ。

チキンスープ:……浄化です。

ハイビスカスティー:浄化?

チキンスープ:そう……浄化のされていない身体が聖主様の聖なる力に耐えることができず、様々な症状が出るかもしれません。それも妾が心配していることです。

チキンスープ:妾はあらゆる手段で方法を探り、ようやく手がかりを見つけました。

ハイビスカスティー:話してみなさい、どうやって浄化するんだ?

チキンスープ:当然、聖主様のお体を天地の一番純粋な力で浄化することです……

チキンスープ:とある天地の加護を受けた場所を見つけました。そこは山河陣の力に養われ、山の精霊にも守られて、そこで生まれた子供も純粋な霊力を持っています。

チキンスープ:しかし、まずその子供たちの血を使って実験をしなければなりません。効果があれば、それを採取し続けて……聖主様の体を浄化するための入浴剤として使います。

ハイビスカスティー:山河陣……山の精霊……ふふ、もし本当に効果があれば、試してみたいな。

チキンスープ:妾はもう手下を手配しました、もうすぐそこに着くでしょう。聖主様は良い知らせをお待ちください。

ハイビスカスティー:それは良い……聖女はやはり頼もしい。私がなにも心配しなくてもいい……

チキンスープ:聖主様、お褒めくださって光栄です。聖主様のために尽力いたします……もう遅いので、お先に失礼します。

ハイビスカスティー:ちょっと待て――

チキンスープ:聖主様、他になにかご命令はありますか?

ハイビスカスティー:次は、ノックを忘れないように。

ハイビスカスティー:刺客と見誤り、誤って聖女を傷つけるならまだしも、もっと深刻なことが起こったら……困る。


チキンスープ:……聖主様の教えを謹んで覚えておきます。



4.波風が立つ茶屋・六

きっと無事です!


数日前

ある村


 夜が更け、寒風が強くなってきた。女児紅は暇そうに机に置いた赤いろうそくを触っていると、木の扉が開く音をようやく聞こえた。


女児紅状元紅兄さん、やっと帰ってきましたね!

状元紅:こんなに遅く、どうしてここに来たのですか?

女児紅:張おばさんの代わりにいくつかの自家製の酒を送ってきました、あなたがここ数日手助けしてくれたことにお礼をしたいって……ところで、今日はどうでした?

状元紅:まだ手がかりは見つかっていません……今朝、自分の子供が夜中にいなくなったと言った村民がいます。年越し料理物の当難事件と関係があるかもしれません。

女児紅:子供の失踪……

状元紅:この村は人里離れた場所にあり、年末になると野獣や盗賊が現れることが多い。しかし、今回はいつもと違うなにかがあるようです……

女児紅:確かにおかしいですね……状元紅兄さん、明日一緒に調査に行きましょう――

状元紅:だめだ、今回はもっと危険な事態が起こる可能性があります。ここでじっとしていてくれ……

女児紅:いくらなんでも、あたしも食霊ですよ、野獣や盗賊なんて……たとえ堕神だとしても、あたしに戦う力はあります!

状元紅:ダメです!

女児紅:なんで……状元紅、あたしはそんなに弱いと!?

状元紅:もちろん違います!ただ、本当に私たちふたりとも対処できない危険があったら……とにかく、あなたが危ないことになるより、私のほうが……

女児紅:や、やめて――そんな不吉なこと!きっと無事です!

状元紅:……


 しばらくの沈黙の後、女児紅はなにかを思い出したように、袖から真新しい赤い剣穂を取り出し、さりげなく状元紅の前に押し付けた。


女児紅:あなたの剣穂、古くなったでしょう。今日は暇だったので、新しく作ってみました……

状元紅:……ありがとう、よくできている。

女児紅:まあまあですよ……暇でしたから、適当に作っただけです……

状元紅:……待って、なにか焦げ臭い匂いがしませんか?

女児紅:しまった!あなたと話すのに夢中で、肉じゃがを煮込んでいることを忘れていました!

状元紅:……?

女児紅:張おばさんが作る米酒は村でも有名で、おつまみがないといけませんから。……あなたも毎日早起きして遅く帰ってくるから、またなにも食べていないんでしょう?

状元紅:肉じゃが……あなたが自分で作ったんですか?

女児紅:もちろんです……あつつ!ふぅ……もう立ってないで、早く手伝ってください!



5.波風が立つ茶屋・七

これが地府のプロだったのか。


深夜


マオシュエワン:暗い……ここはいったいどういう場所だ。おい、八宝飯、羅針盤はまだ直っていないのか?

八宝飯:変だな……完全に故障してしまったのか、この森に入ったときは大丈夫だったのに。

マオシュエワン:待って……前からなにか音が!


 蔓や葉が絡み合う森の奥、赤い服と黒い髪の姿が現れ、ふたりに向かって移動しているようだった。


マオシュエワン:……女の幽霊!?

八宝飯:下がれ、オイラが守ってやる!妖魔を払いのけるのは、オイラのような地府のプロに任せりゃいい……

マオシュエワン:くそっ!誰が怖がるか!守られる必要なんてない!

八宝飯:うわ、そんなこと言ってる場合じゃない……彼女が来る……

八宝飯:天と地よ、妖魔と幽霊は去れ、退け!退け!妖魔退散!

マオシュエワン:……

八宝飯:な、なんで効かないんだ?あああ――近寄るな!!

女児紅:よかった!やっと生きてる人を見つけました!

八宝飯:……!?

八宝飯:幽霊じゃなかったのか……

女児紅:幽霊……?

マオシュエワン:ぶはははは……

マオシュエワン八宝飯、あんたさっきの芝居はすごかった。これが地府のプロだったのか、ふはははは……

八宝飯:黙れ!あんたになにがわかる……あれはリュウセイから学んだ、プロの悪魔祓いの真言だ!!

マオシュエワン:ははは、リュウセイ渓に騙されたんだろう、臆病者!

八宝飯:この野郎……!

女児紅:ちょ、ちょっと、ふたりとも、喧嘩はやめて、あたしはさっきのこの森で……あの、散歩していたら、迷ってしまいました……おふたりは出口を知っていますか?

八宝飯:お嬢さん、こんな深夜にこんなところで散歩するのは、どういう趣味なんだ……

八宝飯:まあいい、ちょうどオイラたちも出口を探しているんだ、ついて来てくれ。



6.暖かな春の息吹・一

なんとも……実際、貴方と不才はあまり変わりません。


深夜

地府


 明四喜は静かに大陣の真ん中で眠っている青年を見つめ、視線がわずかに動いた。しばらくして、青年はやっと疲れた表情で目を開けた。


高麗人参:来てくれたか……

明四喜:不才を呼んだのは、また山河陣の為か。

高麗人参:……いったい山河陣になにをしました。

明四喜:今の貴方の状態では、やるべきことは陣から出て、霊力を回復することです。……どうでもいい事件を調査することではありません……

高麗人参:どうでもいい事件?吾たちは、なにを犠牲にしてきたか、わかっているのに……これは彼の望みではありません。

明四喜:……言ったはずです、彼の苦労を無駄にはしないと。


 相手のとらえどころのない薄笑いを見て、陣の中にいる青白い青年は眉を寄せた。


高麗人参:……あの日から、陣の中の英霊たちが次第に消えています。そなたも知っていますよね、このままでは、山河陣は……天幕も崩れるでしょう。

明四喜:あの日……?もう彼に会ったんですね。

高麗人参:そう……ただ彼はもうあの「彼」ではない。昔のあの人は亡くなってしまったのに、なぜ執着を?

明四喜:執着?

明四喜:長年この大陣を守り続け、自分を犠牲にしてもそれを維持している……不才よりも貴方の執念はよほど深いでしょう。

高麗人参:それは……約束です。

明四喜:……

高麗人参:それでも止めないのであれば、地府はそなたを敵にするしかありません……吾が生きている限り、この大陣を守るために最善を尽くします。

明四喜:ふふ、なんとも……実際、貴方と不才はあまり変わりません。もしかしたら、同じくらい哀れかもしれません。

明四喜:失礼します……お元気で。



7.暖かな春の息吹・二

あなたも主がいるんだ。どんな人?


深夜

聖教


 頬に冷たくて粘り気のある感触が伝わってきて、ピータンは突然目を覚ました。目の前には、小さな蛇が2匹真っ赤な舌をちらつかせ、その上から冷たい視線を送る少年がいた。


ピータン:……

蛇スープ:ここで寝て、ください。

ピータン:ああ……頭が……痛い。

蛇スープ:青ちゃん、シロちゃん。

ピータン:なにを……なさるんですか。

蛇スープ:あなたを噛んだら、また眠れる。もう痛くない。

ピータン:いやだ……あっちへ行ってください!

蛇スープ:どうでもいい、もう知らない。


 夜風が吹いてきて、ピータンは血管が脈打つ頭を抱えて、やっと自分が少年と一緒に屋根の上に座っていることに気づき、そして2匹の蛇が自分の手を舐めようとしているのを見えた。


ピータン:……あなた、どうしてここに。

蛇スープチキンスープが、部屋にいる。いや。

ピータン:うう……ああ……痛い……

蛇スープ:あなた、病気だ。

ピータン:大丈夫です……

蛇スープ:あなた、さっき、夢の中で「主」って言った。あなたも主がいるんだ。どんな人?

ピータン:主……うっ……

蛇スープ:ひどい病気、だよね。

ピータン:主……主……僕はいったいなにを。

蛇スープ:あのやぶ医者を……探してあげる。

ピータン:……どうして……僕を……助けるのですか。

蛇スープ:青ちゃんと白ちゃんは、あなたがすきだから。



8.暖かな春の息吹・三

今日はあなたこそおかしいよ、旦那様。


 盛夏の書院で、蝉の声が鳴り響き、目の前に微笑む女が大きなスイカを割っている。


蛇腹きゅうり:雪掛……?

雪掛トマト:あら、やっと起きたのね〜良く眠っていたみたいで、邪魔したくなかったのよ。

雪掛トマト:さっき市場で買ってきたスイカは甘く熟していたの。井戸から取り出したばかりで、冷たくて美味しいよ。食べてみて――

雪掛トマト:え、寝ぼけているのかしら?ちょっと見せて……

蛇腹きゅうり:!!


 目の前の人が身を乗り出して、自分の額にそっと手を当てた。その指先がほんのりと冷たい水滴がついているのに、蛇腹きゅうりの耳の先が、思わず熱くなった。


雪掛トマト:もしかしたら、暑さのせいかもしれないわね。次回は昼食後に寝坊しないように気をつけてね〜

蛇腹きゅうり:雪掛……あんた、なんだかおかしい……

雪掛トマト:え?どこがおかしい?

蛇腹きゅうり:今日……あんたが妙にや、優しい……

雪掛トマト:あら、わたしはいつもこんな感じじゃない。今日はあなたこそおかしいよ、旦那様。

蛇腹きゅうり:な、なに?!旦那様?あんた……また冗談を言っているのか……またからかっているのか?

雪掛トマト:ふふ……まったく、からかうなんてしないよ〜

雪掛トマト:ほら、スイカを食べなさい。

雪掛トマト:ところで、なにを握っているの?汚いから、さっさと捨てて――


 蛇腹きゅうりは見おろすと、手には光がいまにも消えそうな松明を握りしめていた。その瞬間、暗い記憶が風のように心に駆け込んできた。

 目の前の女性はまだ微笑みながら優しく話しているが、とっくに不気味な蝉の音に溶け込んでいた。ゆらゆらと音楽が鳴り響き、辺りの景色が水面のように波打ち、ぼやけていく……



 暗い地宮の中で、みんなはそれぞれ寝転がって眠っていて、蛇腹きゅうりも夢を見ていた。彼は火が消えている松明を握り、苛立った表情をしている。


蛇腹きゅうり:これは……なんという変な夢だ……



9.暖かな春の息吹・四

なんで俺にもそんないい「父上」がいないんだあああ……


 昼の授業が終わり、生徒たちが書院を出て笑い合っているのを見て、先生の顔をしている餅米蓮根は少し緊張が解けたが、その時窓から一人の影が急に窓から身を乗り入ってきた。


羊方蔵魚:なかなかいい授業だったぞ。

餅米蓮根:うわっ!い、いつからそこに隠れたのですか……

羊方蔵魚:ふふ、さっきぶらぶらしていたら、たまたまここで授業しているのを聞いたので、面白そうだと思ってしばらく聞いていた。

餅米蓮根:でも、雪掛姉さんは山から降りる前に、部屋の中にいるようにって言ったじゃないですか……

羊方蔵魚:あれは冗談だよ。お客さんを足止めするなんて、鬼谷書院のもてなし方だとは思えないだろう?

餅米蓮根:そ……そうですか。

羊方蔵魚:当然。餅米蓮根だろう?若いのに絵が上手いなあ、どこで習ったんだ?

餅米蓮根:うん、書道や絵の描き方は……父さんから教わったんです。

羊方蔵魚:お父さん?

餅米蓮根:……私の以前の御侍です。

羊方蔵魚:そうか、お父さん……そういえば、あの親父も手取り足取り、俺に絵を教えてくれたな……あっ!なんでまた昔のことを思い出したんだ。

餅米蓮根:あなたも絵を描けるんですか?

羊方蔵魚:もちろんさ!正直なところ、ちょっと有名な画家だぞ。

餅米蓮根:本当……?どんな作品がありますか?

羊方蔵魚:えっと……実はね、光耀大陸の歴代の名家の作品を全部描いたことがあるんだ……

餅米蓮根:うーん、つまり……模写しかできないんですね。

羊方蔵魚:なにが模写だよ!これは職人芸だよ……!あ、そういえば、今、俺はちょうど助手が欲しいんだ。興味あるか?

餅米蓮根:助手……?

羊方蔵魚:そうだよ。この書院の給料も少ないだろう、ここで先生をやるのは、才能を無駄にしていると思わないか?俺と一緒に騙……稼ごう!

餅米蓮根:だめです……

羊方蔵魚:本当にいいのか?儲かったら、美味しいものをたらふく食べさせてやるよ。

餅米蓮根:いいえ、書院に残ります。院長との約束ですし……父さんの望みでもあります。それに……

餅米蓮根:父さんは、私がお金に不自由はないと言いました……私を書院に送る前に、玉京の家、畑、店を私の名義にしました……

羊方蔵魚:……!?

餅米蓮根:それがどれくらいの価値があるのかは分からないけど、父さんの言うことは、いつも正しいです。

羊方蔵魚:……

餅米蓮根:大丈夫ですか?急に顔が青くなりましたよ?え?え?なんでないてるんですか?

羊方蔵魚:うう……神様、なんで俺にもそんないい「父上」がいないんだあああ……



10.暖かな春の息吹・五

お久しぶりです……可愛い子。


 静かな部屋中に芳香が漂い、片児麺は古画の研究に没頭していたが、寒さで頬を赤く染めた豆沙糕が暖簾をめくり、太った伝書鳩を両手で抱えて入ってきた。


豆沙糕片児麺様、書院からお手紙が届きました。

片児麺:うん、この鳩は……前回会った時よりずいぶん丸くなったようですね。

豆沙糕:そうなんです、さっきいきなり肩に乗ってきた時、私もびっくりしました!うーん、書院の食事はきっと美味しいんだろうな……

豆沙糕:しかし今回、その方から新しい書画は送られてこなかったようです。


 片児麺は手紙を静かに読み終えると、笑って机の前の燭の上に置いた。その瞬間、貴重な便箋が火の舌に溶け込んだ。


片児麺:書院は最近、ずいぶん賑やかになったようですね、一気に新人が集まってきて……あの方も喜んでいるはず。

片児麺:……

片児麺:……豆沙糕、どうしてそんなに私を見つめているのですか?

豆沙糕:うーん、片児麺様がようやく笑ったからです!ここ数日、副館長様が持ち帰った書画の修復に忙しく、いつも不機嫌そうだったので。

豆沙糕:やはり、あの人から手紙を受け取るたびに、片児麺様の気分は良くなるみたいですね!

片児麺:……あの、豆沙糕、先月書院から送られてきた書画を整理しましょう、もう数日遅れてしまったので、今日中に急いで送ってください。

豆沙糕:はい!今すぐ行きます!

豆沙糕:ちょっと待って、私の便せんも持ってきて……先日のあの絵に問題があるかもしれないので、ちょぅと手紙で彼に伝えます……

豆沙糕:はい!


 豆沙糕が去って書斎に入ったのを見送り、片児麺は思わず唇の端を上げ、机の上に太った鳩のふわふわし顔をそっと撫でた。


片児麺:お久しぶりです……可愛い子。



11.暖かな春の息吹・六

そのうちなにか面白いことが聞けるかも……


 活気のある骨董品街のはずれで、羊方蔵魚が歩きながら、買ったばかりの古画を眺め、なにかをつぶやいた。


羊方蔵魚:この絵の用紙と印鑑……やはりあの宝の地図とそっくりだな……

羊方蔵魚:ふふ、素晴らしいビジネスチャンスだ……書院のカモどもが、この絵をいくらで買ってくれるのか。

羊方蔵魚:おっと――


 考え込んでいる羊方蔵魚は、街の角から突然現れた少年にぶつかってつまずいた。


村中孩童:すみません……ちょちょっと待って!その手に持っている絵……どこで手に入れたの?

羊方蔵魚:え、おいおい……いきなり他人のものを触るな!これは俺が買ったばかりの絵だ!

村中孩童:うーん、ちょっと古く見えるけど、本当にそっくりだ……お兄さん、絵を売ってくれないかな?

羊方蔵魚:ガキ、この絵は高いぞ。お兄さんは用事があるから遊んでる時間はないんだ。

村中孩童:ちょっと待て、銀2両で……足りるか?

羊方蔵魚:……!?

村中孩童:足りないのか……じゃあ、銀三両だ……!今日はこれしか持ってないんだ……

村中孩童:それでも足りなければ、家に帰って盗む……もらうしかないんだ。だめだ、父さんに会ったら……

羊方蔵魚:もういいもういい!この坊ちゃん、本当に品があるんですね。ほら、この絵は売ってあげるよ!

村中孩童:ふぅ……よかった。これで祠堂のこともバレないはずだ……

羊方蔵魚:祠堂って……?


 羊方蔵魚は詳しく聞こうとしたが、子供は絵を抱えて一目散に去ってしまった。


羊方蔵魚:へへ、十数銭で買った絵が、こんな高値で売れるなんて、今日は本当に運がよかった……鬼谷書院の連中は、こんな簡単に騙されないからな。

羊方蔵魚:まさかこんな小さな村で、子供でもこんなに金持ちになれるとは、あの子供が言った祠堂って、なにだろう……?

羊方蔵魚:ともかく、あらかじめあの絵に手を加えておいてよかった。へへ、そのうちなにか面白いことが聞けるかも……



12.暖かな春の息吹・七

彼にマーキングしておくべきだった……


深夜

鬼谷書院


 誰もいない庭に忍び込んだ羊方蔵魚は、中庭の岩場に忍び寄り、爪先立ちで湖中にある書閣を眺めた。

 建物の中にある宝物に思いを馳せていた時、暗い影が忍び寄ってきた。


羊方蔵魚:助け……

ヤンシェズ:黙れ。

羊方蔵:ん……んん……

羊方蔵魚:ふぅ……ヤンシェズ!?俺を殺したいのか……

ヤンシェズ:うるさい……

羊方蔵魚:おい、手加減してよ……声を小さくすればいいだろう、な、なんであんたがここに現れたんだよ!

ヤンシェズ:あなたこそ、……なんでここにいる。

羊方蔵魚:ええと……それは話せば長くなる。

ヤンシェズ:……また盗みか。

羊方蔵魚:な、なにが盗みだよ!?おいおい、そんな納得した顔しないでくれよ……

ヤンシェズ:……

羊方蔵魚:はあ、正直に言おう。実は俺、この書院の裏山で不思議なことに遭遇したんだ。偶然にも、ここの食霊たちに助けられた。

ヤンシェズ:食霊……

ヤンシェズ:「白酒」という人は、……いるか?

羊方蔵魚白酒……名前は聞いたけど、会えなかった……

ヤンシェズ:……彼はどこだ?

羊方蔵魚:ひっ――いてててて!そ、そいつは麓の村にいるはずだ、今書院のほかの連中も全員そこにいるんだよ。

ヤンシェズ:麓の村……


 ヤンシェズはなにかを考え込むようにつぶやくと、振り向きもせずに屋根の上に飛び上がり、夜の闇に消えた。羊方蔵魚は腫れた手首を撫でて、仕方なさそうに舌打ちした。


羊方蔵魚:なんだ……ヤンシェズは本当にどんどん乱暴になっていったな、まさか明の旦那はこんなのが好きなのか……?それにしても……

羊方蔵魚ヤンシェズはいったいなにをしに?なんで白酒を探すんだ……こんなに速く走られたら、ついて行くこともできない。彼にマーキングをしておくべきだった……次回は、必ず!



13.暖かな春の息吹・八

ただ……彼の演技を静かに見ているだけ。


深夜

鬼谷書院


 一日のいたずらが終わってご機嫌なクラゲの和え物は、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら帰って寝ようとしていたが、書閣の前を通りかかった時、見覚えのある人影がコソコソと歩いているのが見えた。


羊方蔵魚:今度は……順調に入れるだろう……


 クラゲの和え物は一瞬固まったが、すぐにいたずらをしそうな「邪悪」な表情を浮かべた。計画を実行する寸前、ふと背筋が寒くなるほど見慣れた視線を感じた。


クラゲの和え物:!!


 ふと振り向くと、金駿眉が向かいの小部屋で窓にもたれて、感情が読めない笑みを浮かべて書閣を眺めているのを見えた。


クラゲの和え物:(ひっ、金駿眉に見つかるところだった……こいつ、またなにか悪いことを企んでいるようね……)



 そう思ってクラゲの和え物は君子危うきに近寄らずと思い、こっそりと金駿眉のところに向かった。


クラゲの和え物:ねえ、金駿眉、あいつがまた門を見張ってるのに、あなたは見てるだけなの?

金駿眉:ふふ、彼は気にしなくていい……

クラゲの和え物:この前、犬小屋の穴からこっそり書閣に侵入しようとしたら、捕まってしまった。さらにその前、窓からそこに入ろうとしたる、川に落ちて溺れるところだった……うーん、それから、さらにその前のことも……

クラゲの和え物:あいつ、頭おかしいんじゃない。書閣にはただのがらくたと字画しかないのに、すごい執着だね?

金駿眉:なんのためにかはどうでもいい……ただ、彼が自分のすべてを出し尽くすのを見るのは面白いと思うだけだよ。ついつい見てしまう。

クラゲの和え物:ふん、本当に悪いやつ……あなたも人をからかうのが好きなんてね。

金駿眉:からかってるわけじゃない。ただ……彼の演技を静かに見てるだけ。

クラゲの和え物:へへ、それなら――

金駿眉:また悪だくみか?

クラゲの和え物:最近はちょうど書院には一緒に遊んでくれる新しい子供がいなくて、あいつは頭が良くなさそうだけど、一緒に遊ぶのは面白そうね……

金駿眉:ふふ、悪ガキだな。

金駿眉:あんまり遊びすぎないよいにね。一応書院のお客さんだから。

クラゲの和え物:えへへ……安心して、院長様!



14.今日はいつの日か・一

お前が彼女そばにいてくれるなら、俺も安心だ。


 大晦日が近づき、賑やかな通りや路地はイルミネーションや花飾りで飾られ、状元紅はたくさんのお正月用品を持って、屋台から離れようとすると、思いがけず見慣れた人物に出会った。


状元紅:また会いましたね。

白酒:……

状元紅:あなたも……年越しの買い物にしているのでしょうか?

白酒:いや。

状元紅:……


 気まずい沈黙が流れ、ふたりは近くの豊富な商品を陳列した屋台へ視線を向け、その静寂を、行商人あいの大きな声が埋めていく。


白酒:……今日は一人なのか。

状元紅:ああ……女児紅は家の中で掃除をして、近所の人たちと一緒にお年越し料理のために豚や羊をさばいています。

白酒:豚や羊を……彼女はそんなことができるのか?

状元紅女児紅は村に長く住んでいるので、それらのことに慣れています。それに、彼女は見た目よりも弱々しくないんです。

白酒:知っている……彼女は弱々しくない。

状元紅:まるで最初から彼女を知っているような口ぶりですね。

白酒:……

状元紅:……実はずっと聞きたかったのですが、以前女児紅とは知り合いですか?

白酒:いや、俺と彼女とは知り合いではない。

状元紅:でも、あなたに関することを口にすると、女児紅は別人のようになってしまいます。

白酒:恐らく、俺を一人の故人と間違えているだけだろう。

状元紅:故人……?

白酒:でも、彼女はいつか気づくだろう。

状元紅:あなたが彼女やその故人となんからのかかわりがあるかはわからないが、言いたいことは言います……

状元紅:前回、あなたが助けてくれたことは、私はちゃんと覚えています。でも、もし将来あなたが彼女に危害を加えたら……私は許しません。

白酒:……

白酒:ふ……お前が彼女のそばにいてくれるなら、俺も安心だ。

状元紅:……?

白酒:俺は用事があるから、長居はできない。お前も早く帰れ――

白酒:後、豚や羊をさばくのは、次から女の子一人ではやらせないように気をつけろ。


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