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稔歳之佑・ストーリー

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作成者: 時雨
最終更新者: 時雨

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※公式の誤植修正待ち中です。

その他、誤字脱字等ありましたら修正の程よろしくお願いします。


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稔歳之佑・ストーリー・謎めき幽地 完了

稔歳之佑・ストーリー・再び立てる波風 完了

稔歳之佑・ストーリー・山の精霊の昔話 完了

稔歳之佑・ストーリー・サブ1~14 完了

稔歳之佑・ストーリー・サブ15~28 完了

稔歳之佑・ストーリー・サブ29~42 完了


稔歳之佑

目次 (稔歳之佑・ストーリー)

メインストーリー

※誤植等が多いため、文脈的に正しいと思われる部分を差し替えたものを表記しています。

稔歳之佑

別れもまたいつか出会う・謎めき幽地・一

約束の期限が早められたようです。


茶屋館

個室


 茶炉から出る煙が細く立ち、漆黒の木で彫られた屏風を回り、重いカーテンを覆う。部屋の中からかすかな言葉は聞こえるが、全てが飲み込まれてしまう。


明四喜:聖女様、お茶も飲み切ったし、昔話も話し終えたところ……そろそろ、他の話をしましょうか。

チキンスープ:ふふ、明四喜様の目はごまかせないようですね。この度、明四喜様にお願いしたいことがあります。

明四喜:おや?どうやら……なにか面白い計画があるようですね。詳しくお聞かせください。

チキンスープ:以前から、明四喜様の情報網がとても強いと聞いております。光耀大陸の上下をすべて把握しているみたいですが、一つの小さな情報を提供してくれませんか?

明四喜:情報?難しいことでありませんが……ご存知の通り、情報は不才が苦労して手に入れたもの。聖女様はなにと交換されるおつもりですか?

チキンスープ:長年の友人ですから、交換というのはあまりにもみずくさいでしょう……それに、今回は明四喜様が大昔に約束してくれたものに関係しています。

明四喜:……?

チキンスープ:そう、お待ちかねの……「彼」が帰ってきました。


 パリンと、天青釉の茶碗が地面に落ち、粉々に割れ、それを見てチキンスープは軽く笑った。しかし、目の前の人を見ると、彼の眼の底にある波紋はもう消えていた。


明四喜:ふふ、約束の期限が早められたようです。聖女様は教中の事務で忙しく、私に知らせるのが今になったのですか?

チキンスープ:彼が目覚めると、すぐに明四喜様のところへ連れてくるつもりでしたが、思いがけないことに……

チキンスープ:玄……白酒は目覚めると、聖教で大暴れしまして。妾の部下の半分が彼にやられてしまいました。

明四喜:確かにあの性格ですからね……今、彼はどこに?

チキンスープ:安心して、人を遣わして彼の動向を常に監視しています。最近は鬼谷書院の近くにたどり着いたみたいです。

明四喜:鬼谷書院……?

チキンスープ明四喜様もあの場所について、少しは知っているでしょう……ちょうど今日、妾が欲しい情報が鬼谷書院に関係しています。

チキンスープ:聖主様は約束を果たしてくれました。今度は貴方が約束を守る番でしょう……

明四喜:それは当然……お茶が冷めましたね。新しいものを沸かし、話を続けましょう。


 個室の外で、2、3人の茶客たちが重ねたカーテンの中を覗き込んでいるが、屋根の上に飛び上がった黒い影に驚き、足早に逃げ出した。急いでいたため後ろにいた通行人にぶつかってしまう。


羊方蔵魚:いってぇ……足を踏むなー!なんなんだよ……

ヤンシェズ:……

羊方蔵魚:……あんたか。道理であの人が鬼を見たような顔をしたわけだ……

羊方蔵魚:エヘン、ヤンの兄ちゃん、屋根の上にしがみついて、なにをしているんだ……?……景色でも見ているのか?

ヤンシェズ:……守衛。

羊方蔵魚:ほう、じゃあ、明の旦那がこの中にいるのか?ちょうど良かった。後で、彼に会わせてくれないか?

ヤンシェズ:……断る。

羊方蔵魚:はあ?ヤンの兄ちゃん、つれないな。

ヤンシェズ:明様は今日、……あなたとの約束はない。

羊方蔵魚:そうか……ほら、最近あの糖葫芦の店主さんが新しい味を出したらしいよ。俺、ちょうど数本持っているから……

ヤンシェズ:……


 話している間に、カーテンがわずかに揺れ、一人の黒衣の女性が出てきた。帽子のつばが顔を覆って、その顔はよく見えない。彼女は立ち止まらず、急いで去ってしまった。


羊方蔵魚:え、女……?明旦那があんな人を好きだとは思わなかった。

ヤンシェズ:彼女は……違う!!……でたらめを言うな。

羊方蔵魚:わかったわかった、もう怒るな、俺が悪かった。ヤンの兄ちゃん、ほら……どうにかならないか?

ヤンシェズ:……絶対に断る。

羊方蔵魚:え?本当に怒ってるのか?ヤンの兄ちゃん?本当に悪かった。明の旦那はあんな普通の女に興味を持つはずがなだろう!

ヤンシェズ:……うるさい。


 ヤンシェズは腕を組んで、目を閉じて扉に寄りかかり、羊方蔵魚がどんなに騒いでも聞こえないふりをした。その時、カーテンの向こうから男性の声が聞こえた。


明四喜:入りなさい。

羊方蔵魚:あいよ!


明四喜:さっきから騒々しい声が聞こえてきたが、貴方でしたか。

羊方蔵魚:さすが明の旦那、耳がいい!ええと、この前あなたに指示された情報収集の件だが、あまりうまくいかなくて……ちょっと相談したくって。

明四喜:聖教の件ですか。その件ならもう結構です。

羊方蔵魚:え?もういいのか?でも、情報料の残りは……

明四喜:お金は払いますが、調査対象を鬼谷書院に変えてください。

羊方蔵魚:了解した!あの鬼なんとか書院って聞いたことがある。聖教よりもずっと近づきやすいや!

羊方蔵魚:それと、旦那……聞きたいことがあって。

明四喜:おや?あなたにも知らないことがあるんですか。

羊方蔵魚:へへ……これだけはどうにもならない。最近片児麺が部屋に閉じこもって、一切客に会わないって聞いたんだけど、旦那はご存知ですか?

明四喜片児麺?昨日、彼女と豆沙糕が庭で雪丸と遊んでいるところを見かけましたけど。

羊方蔵魚:あの小娘たち、わざと騙していたのか……

明四喜:はは、彼女たちとは仲がいいですね。

羊方蔵魚:はあ、ご冗談を。話は終わったので、お邪魔はしません!旦那はゆっくりお茶でも飲んでいてください。情報のほうは私に任せて!



#include(稔歳之佑・ストーリー・謎めき幽地,)

※誤植等が多いため、文脈的に正しいと思われる部分を差し替えたものを表記しています。

謎めき幽地・二

下には……なにかあるのか?


数日後

鬼谷書院


 夕暮れが近づくと、鳥たちも森に帰っていった。最後の生徒たちがそれぞれ家に帰り、雪掛トマトは学舎の門を押し開けると、庭で「一触即発」のふたりが庭で向き合っているのが見えた。


蛇腹きゅうり:あんたが素手で俺の鞭だと、俺があんたをいじめたと言われるだろ!

老虎菜:俺のナックルダスターをなめるなよ!

蛇腹きゅうり:それじゃ手加減はしないぞ。くらえ!

雪掛トマト:また始まった……老虎菜、彼と修行する時間があるなら、わたしと踊ってくれないかな?

蛇腹きゅうり:何度も言ったろ、光耀大陸には「対戦中は口出し無用」という言葉がある。つまり、他人が手合わせしている時は口を挟んではいけない!

雪掛トマト:もう、調子に乗って……


 ふたりは手合わせを続けるが、しばらく勝敗はつかないようだ。雪掛トマトはいつも通り、踊りの練習で疲れた足を軽くたたきながら、階段の前に座っていた。

 ドカンーー鈍い音が、書院の外から聞こえてきた。3人は動きを止め、お互いを見た。


老虎菜:今のは、なんの音だ……

蛇腹きゅうり:俺にも聞こえた。裏山のほうからの音がしたような……

雪掛トマト:裏山……もしかして野獣?

蛇腹きゅうり:野獣?

雪掛トマト:冬の山では狩猟は難しいから、野獣は山から降りて、人を襲うことが多いわ。わたしも旅の途中で出会ったことがあるの。

蛇腹きゅうり:もしそうなら、書院にはまだたくさんの子供がいる……まずい、老虎菜、一緒に見に行くぞ!

雪掛トマト:待って、わたしも行く!


 森の中にある小道は曲がりくねって、淡い月明かりを隠し、その間には乱れた足跡が辛うじて見える。3人はなにか得体の知れないものの跡を追うが、奥に進めば進むほどおかしい感じがした。


蛇腹きゅうり:おかしい、見ると……野獣が一匹だけではなく、大きいのと小さい足跡がある……まさか、3匹の家族だったのか?

雪掛トマト:なにを言っているの、これはわたしたちの足跡でしょう、私たちは戻ってきたの。

蛇腹きゅうり:……暗くて、よく見えなかっただけだ。

雪掛トマト:いいよいいよ。あなたが真面目な顔してお馬鹿なことを言うのも慣れてるから。

蛇腹きゅうり:……

老虎菜:おい、前に金色の光が見える……あれはなんだろう?

蛇腹きゅうり:とりあえず声を出さずに、道を回って確認しよう。


 寒い夜、少し離れたところに、古いカシの木の下で微かな光が現れ、青々とした葉の間に、幽霊のような人影がぼんやりと見える。


???:面倒だな!早く開けてくれ…もう間に合わん。

雪掛トマト:そこの怪しい奴は誰?

???:はあ?わっ!


 ドカン――塵が大きな音を立てて舞い上がり、休んでいる夜烏を驚かせた。

 短い叫び声は夜の闇に消え去り、もう一度見ると、謎の人影はすでに消えていた。


雪掛トマト:ええと……これはいったいどういう……えっ、な、なによ!手を放して!

蛇腹きゅうり:き、急に……ぶつかってきたから、受け止めようと思っただけだ!……老虎菜、あんたも見ただろう!

老虎菜:え、見てないよ……


 雪掛トマトは不機嫌そうに衣服を直し、蛇腹きゅうりを不満げにちらりと見て、古木の方へ小走りで向かった。

 古木はいつの間にか棘のある蔓に覆われ、巨大な根元が折れた部分には、ちょうど一人が通れるくらいの隙間があった。


蛇腹きゅうり:この亀裂はなんだ?下には……なにかあるのか?

老虎菜:これを見てくれ……


 老虎菜が破れた紙片を差し出した。紙の端はまだ微かな光が放たれ、水墨画の山がぼんやり見える。


雪掛トマト:絵……?

老虎菜:おかしいな、これはさっき突然現れた蔓にぶら下がっていた……


 ピシッ――ブーツが枯れ枝を踏むかすかな音は、静寂のなかでは特に耳障りだ。蛇腹きゅうり老虎菜は警戒して背筋を伸ばし、雪掛トマトを背後にかばった。

 フクロウが悲しげに鳴き、月明かりが木々の間を漏れ、木々のあいだに一つの黒い影がぼんやりと見える。


雪掛トマト:あの怪しいやつ!今度は絶対に捕まえるわ!


謎めき幽地・三


雪掛トマト:あの怪しいやつ!今度は絶対に捕まえるわ!


 言い終わらないうちに、蛇腹きゅうりが握っている硬い鞭が風を切って飛び出したが、それは長剣に阻まれた。剣を持って現れたのは狩猟服を着た若者だった。


状元紅 :誤解があるようです。私は道に迷ってここにたどり着いただけで、悪意はありません。

雪掛トマト:えっと……蛇腹きゅうり、人を間違えたみたいね。この人はさっきのやつより、かなり背が高いわ。

蛇腹きゅうり:そうか……すまない。

状元紅:かまいません。先程この辺りで物音がしたから、野獣が出たのかと思って調べに来たんです。

雪掛トマト:野獣……?こんな時間に山に登って、狩りをするつもり?

状元紅:いいえ……麓の村民に頼まれて来ました。冬になってから、村の中で年越し料理が盗まれるようになり、最近では子供も行方不明になっている……

状元紅:野獣が冬の山で餌を探す場所を失っているのかもしれない……それとも、堕神かもしれない。


 ゴゴゴ――

 その時、地下から鈍い音が響き渡り、木の裂け目から、わずかな金色の光が漏れ出し、木の葉が飛び散り、濃い雲が月を遮った。


状元紅:これは……

雪掛トマト:やはり、この地下になにかへんなのがありそうね……下に行ってみようか?

蛇腹きゅうり:下には危険があるかもしれないから、俺が先に調べてくる。安全だと確認できたら、後から降りてきてくれ。


 蛇腹きゅうりは笠を背中に掛け、軽快に裂け目に飛び込んだ。しばらくすると、地下から彼の声が聞こえてきた。


蛇腹きゅうり:確かにここは怪しいが、今のところ危険はないはずだ……降りてきていいぞ!


 埃が収まると、深く曲がりくねったトンネルのあいだを金色の光が流れ、石壁に暗い影が不気味に浮かび上がっている。


状元紅:まさかここにこんな地下道があるなんて……石壁の図案を見る限り、相当な労力が掛かっているようです。

蛇腹きゅうり:おかしい、この場所は書院からそんなに遠くないのに、この地下道に関する噂は一度も聞いたことがない。

雪掛トマト:光耀大陸の偉い人は自分のために、生前密かに陵墓を建てることを好むと聞いたことがあるけど、まさかこの場所も……

蛇腹きゅうり:そういえば、さっき俺たちが見たあの怪しい人は……墓荒らしかもしれないな?

雪掛トマト:えっ、わたし、なにかに踏んだかも……

雪掛トマト:なつめ?なんでこんなところに?

老虎菜:食べ物!?どこだ!!!?

蛇腹きゅうり:待て、老虎菜、落ちているものは食べてはいけない……ま、まだこんなにたくさんあるのか……ピーナッツピーナツ

老虎菜:良い匂い……

蛇腹きゅうり:え―、老虎菜、どこに行くんだ?!

雪掛トマト:あいつ、食べ物を見るとなにも考えられなくなるのね……


 暗い壁の間に突き出た石の台があり、香ばしい匂いが漂い、老虎菜を誘い込んだ。蛇腹きゅうりも彼の後を追い、松明を近づけると、石台の上に脂ぎった子豚がおいてるのが見えた。


蛇腹きゅうり:なぜここに子豚の丸焼きがあるんだ……?

老虎菜:これは……食べられるだろう。

雪掛トマト:だめにきまってるでしょ!あまりにも怪しすぎる……罠かもしれない……


 子豚の丸焼きの芳醇な香りが一行の鼻をつき、しばらくの沈黙の後、全員が黙って唾を飲み込んだ。

 老虎菜は思わず手を伸ばし、石台に触れた途端、左右の石垣が突然揺れ始めた。


状元紅:気をつけて!!罠です!!


 揺れが止まり、ぐらぐら揺れていた一行は壁にてをついてなんとか立ち上がったが、目の前にはすでに老虎菜の姿はなかった。


雪掛トマト:まずい……老虎菜!!

蛇腹きゅうり:くそ―、本当に罠だ!老虎菜、どこにいる!

状元紅:落ち着いてください、この場所の地形は複雑で、恐らく他の罠もあります……


 突然、状元紅の表情が真剣になった。深い地下道の向こうから鋭い足音が聞こえ、残った薄暗い金色の光が蛇のように曲がりくねった長い黒い影をいくつか映していた。

 みんなは黙りこみ、壁に背をつけ、お互いに目配せをしたが、赤い人影が軽やかに飛びかかってきた。


女児紅状元紅兄さん、やっと見つけました!


謎めき幽地・四

……そんなに多くの道具を持っているなんて、やはり墓荒らし?


女児紅状元紅兄さん、やっと見つけました!

状元紅女児紅?どうしてここに……

女児紅:もちろん心配……もちろん毎日最近こっそり山に入って、何をしているかも教えてくれないからです!

状元紅:いい加減にしなさい、危ないって言ったのに……

女児紅:危ないってちゃんとわかっているんですか!これを見つけた時、あなたがなにかあったのかと思って……


 女児紅は懐中の赤い剣穂を取り出し、怒ったような顔をしていたが、声が詰まっていた。


状元紅:これは……

八宝飯:おい、あんたもずいぶん無茶するよな。森の中で迷子になっていたところだったろ。オイラたちに出会ってよかったぜ。

マオシュエワン:そうだ、でも彼女もなかなか目がいいな。あんたが木の根元に落とした剣穂を一目で見つけたんだ。そのおかげで、俺たちがこの地下道を発見したってわけさ。

状元紅:おふたりは……?

八宝飯:オイラたち……ええと、ちょっとした用事でそこに来たんだ!

雪掛トマト:用事?まさかあなたたちが墓荒らし……

マオシュエワン:はは……墓荒らしって言い方は新鮮だよね。八宝飯、あんたには似合うんじゃねぇか?

八宝飯:似合わねぇよーあんた、いったい誰の味方だ!

蛇腹きゅうり:ごめん、この子は異国から来たもので、光耀大陸の礼儀をよく知らなくて、悪気はないんだ。気にしないでくれ。

状元紅:それに、今は喧嘩する場合ではない……

雪掛トマト:忘れるところだった!急いで老虎菜を見つけないと――

状元紅:まずは焦らないでください……老虎菜はそのまま消えるわけがない。その仕掛けが地下道の他の空間に繋がっているかもしれません。

八宝飯:仕掛け……?オイラたちが来た時、仕掛けなんてなかったぞ……

八宝飯:しかし、この地下道は確かに奇妙だ、さっきオイラの羅針盤も使えなくなった……待て!羅針盤が回っている!

マオシュエワン:やっ使えるようになったのか?毎回毎回調子がおかしくなっちゃって。辣子鶏に直してもらわないか?

八宝飯:オイラのコンパスに問題があるわけじゃない!ここは風水的に良くないって言っただろう?

八宝飯:あれ、羅針盤が指している場所は、私たちの足の下?

マオシュエワン:下?地下に来たのに、まさかこの地宮の下にもう一つの地宮があるってことか?

蛇腹きゅうり:そうだ!前に道がなくなったけど、この仕掛けが下の地宮に繋がっているかもしれない!

女児紅:でも、どうやって下に行くんですか?入り口らしいものは見当たらないけど。

八宝飯:オイラたちに任せて!


 八宝飯はシャベル、つるはし、スコップなどの大道具を取り出し、石壁を慎重に叩き、最終的に1箇所の位置を決定し、マオシュエワンを軽くうなずいた。


雪掛トマト:……そんなに多くの道具を持っているなんて、やはり墓荒らし?

八宝飯:ど、道具が揃っているからといって、墓荒らしとは限らないだろう!?

八宝飯:さあ、後ろに下がって、怪我したら責任は取れないよ――マオシュエワン、火雷弾だ!


 ドカン――石壁と地面の接合部に穴が開き、かすかな光の柱が差し込まれ、細かい土煙が上がっている。その中には、異様な雰囲気が漂っているようだった。


状元紅:この地下道はやはり単純でないようですね。

女児紅状元紅兄さん、後ろ!!

八宝飯:!!!なんでこんなときに堕神が!


謎めき幽地・五

これらの動きをつなげると……踊りよ!


地宮の奥


 堕神を処理した後、みんなは地下路に沿って地宮の奥深くにたどり着いた。松明が暗い石壁を照らし、長い影と短い影を映す。


雪掛トマト:待って、前から水の音が聞こえるわ!

八宝飯:水の音?オイラは聞こえないけど……

蛇腹きゅうり雪掛トマトは水源の音に対する判断力が一般人よりも鋭いから、彼女について行こう。

雪掛トマト:そう、わたしはパラータに長く滞在したことがあるの。砂漠で水源は死活問題だからね!

マオシュエワン:なるほど!じゃあ早く案内してもらおう!


 曲がりくねった狭い道を抜けるとわ前方の石壁の上からニョキニョキと鍾乳石がぶら下がり、近くに流れている暗い川の中まで伸びている。


女児紅:本当に川がある……でも、前に進む道はまた塞がっています、あっ――

状元紅:なにかありましたか?

女児紅:さっき……川に青い影が浮かんでいた気が……

雪掛トマト:まさか、また堕神!?

女児紅:いいえ……人みたい。鎧も着ていました……

状元紅:鎧を着た人……?そんなはずは、暗いから間違ったのではる


 八宝飯マオシュエワンは無言で視線を交わし、先程まで女児紅が立っていた場所を探った。砕けた石の間に、数枚の朽ちた石碑が埋まっているのを見つけた。


八宝飯:道理でこの地下道は変だと思った、石碑はこの下にある……まさかこんな近いところにあるなんて。

マオシュエワン:こんなところに隠されていたのか……さぁ、石碑は見つかった。さっそく仕事だ!

八宝飯:はあ、そもそもこれは辣子鶏の仕事だったのに……まあいいや、マオシュエワン、刻刀を持ってくれ、そっちのやつら任せた!

女児紅:あの……なんの話ですか?


 ふたりは女児紅の質問には答えず、代わりに石碑に符文を刻み始めた。青い光が曲がりくねった文字から溢れ出し、蛍火のように散った。


状元紅:これは……?

八宝飯:気にする必要はない、ボスに頼まれた仕事だ、すぐに終わる。


 話している最中に、最後の石碑も刻み終わり、かすかな光が暗い川に流れ込み、ゆっくりと渦を巻いていく。

 激しい水流は中心の渦に吸い込まれ、しばらくして大きな平らな石道が現れ、先程通った地下道とはほぼ同じだった。


蛇腹きゅうり:道がまた現れたけど、これもなにかの仕掛けか?

雪掛トマト:あなたたちはどうやってその石碑に仕掛けが隠されているのを知ったの?

八宝飯:ええと……運がよかっただけ。

雪掛トマト:ん?ちょっと怪しいな……

八宝飯:な、なにも怪しくない!さあ、早く行こう。


 一行はそのまま道を進み、蛇腹きゅうりは後ろを振り向き、雪掛トマトを促そうとしたが、彼女は怪訝な表情で、なにかを考え込んでいた。


蛇腹きゅうり:なにを考えている?あんた、さっきから怖がる様子が全くないけど。

雪掛トマト:ここは私にとって怖い場所ではないわ。昔、砂漠に数日間迷い込んだこともあったのよ。その時、話し相手すらいなかった。

蛇腹きゅうり:そんなこともあったのか!一度も教えてくれなかった……女の子だったら、きっとたいへ――

雪掛トマト:ちょっと待って、松明を貸してくれる?

蛇腹きゅうり:なんだ……?


 雪掛トマトは松明を天井の石壁に近づけ、その光が彼女の瞳に反射されて、輝きを放つ。蛇腹きゅうりは思わず見とれていたが、我に返り覗き込んだ。

 ざらざらした石壁には、奇妙な人型の模様がびっしりと刻まれており、そのひとつひとつが異なる姿をしている。


蛇腹きゅうり:なんだこれ、ちょっと変わってるような……

雪掛トマト:これらの動きをつなげると……踊りよ!

蛇腹きゅうり:踊りだったのか……さあ、早く行こう。でないと……雪掛?


 雪掛トマトは頭上の石壁をじっと見つめ、その模様に触れようと手を伸ばしていた。

 蛇腹きゅうりが、彼女を止めるように声をかけようとしたが、みんなが驚きの声を出す暇もなく、地下路は突然回り始めた。


謎めき幽地・六

村民たちのものが……なぜここに?


祭壇

地宮の奥


 カチッ――重たい石壁が閉じられ、一行は冷たい青石の地面に座り込んだ。


八宝飯:あいたたた!マオシュエワンのクソ野郎の、オイラから降りろ!

マオシュエワン:あ、道理でこんなに硬かった……え、ここはまたどこだ?

八宝飯:まさか、また仕掛けか?この地宮の構造は複雑すぎるだろう……

雪掛トマト:わたしがさっき、石壁に触れたからか……?

蛇腹きゅうり:……ここは仕掛けがいっぱいで、油断できない。むやみにこの場所の物には触れない方が良さそうだ。

雪掛トマト:ちょっと待って……あそこ、なにか動いているの?


 松明が照らされない暗闇の中で、かすかな光と、動物が息を吹き出しているような音が聞こえる。


八宝飯:ひっ――、あの緑の光がするのは……まさか、堕神!?

マオシュエワン:おい!雪丸、勝手に動くな――


 フェレットはマオシュエワンの腕から素早く飛び出て、暗闇の中に潜り込んだ。光と影の境界線に、いくつかの毛玉がついに現れ、ひゅんひゅんと鳴いて、みんなの近くに寄ってきた。


女児紅:これは……虎の子?かわいい……

雪掛トマト:これは老虎菜の虎の子だ!なんでこんなところにいるの?老虎菜は……

女児紅:あれ、なにか様子がおかしい、よちよち歩いてます……お酒の匂いもする!

雪掛トマト:……本当だ、どれだけ飲んでいたの……

マオシュエワン:雪丸、ようやく捕まえた!おっと、ここの地面に人が倒れている!

雪掛トマト:!!


 火の光が暗闇の隅を差すと、ほっぺたが赤く染った老虎菜が酒壺を抱えて深く眠っていた。彼の側にある石台には、贅沢な料理が散らばっていた。


雪掛トマト:よくもみんなを心配させて、自分はこんなところで食い散らかしているとは……ねえ、老虎菜、早く起きて!

蛇腹きゅうり:……力を入れすぎだぞ。


 ぼんやりと目覚めた老虎菜は、顔に少し赤い跡がついていた。彼はしばらくぼんやりして、やっと目が覚めた様子で、思わず驚きながら喜んだ。


老虎菜:夢じゃなかった……本当にお前らだ!よかった!

雪掛トマト:……あなたね、自分で飲むのはいいけど、トラたちにこんなに飲ませるのはどういうこと?

老虎菜:ええっ、ト、トラ、お前ら、俺の隙を見て酒を飲んだな!

蛇腹きゅうり:トラのことはともかく、食べることばかり考えて、なんで俺たちを探さなかったんだ。どれだけ心配したか分かっているのか?

老虎菜:ごめん……俺が食べ物に弱いのお前も知ってるだろ……

状元紅:失礼ですが、食べものの中に、焼きダックや豚肘、牛肉の煮込みが含まれていましたか?

老虎菜:な、なんで知ってるんだ?


 さっきから状元紅老虎菜の周りにある食べ物を確認していて、真剣な表情になっている。


女児紅状元紅お兄さん、なにか問題がありますか?

状元紅:これらの食べ物……それに先の子豚の丸焼きも含めて、村民たちが盗まれた年越し料理と合致しています。

蛇腹きゅうり:村民たちのものが……なぜここに?

老虎菜:これは…他人の家の食べ物だったのか?知らなかった……たくさん食べてしまった……


 みんなは興味深く残りの食べ物を調べ始めた。老虎菜は申し訳なさそうに頭を垂れ、雪掛トマトが静かに立ち止まり、優しく彼の肩を叩いた。


雪掛トマト:悪気はなかったんだもん……問題が解決して、私たち書院に帰ったら弁償すればいいでしょう。

老虎菜:……うん!必ず調べてみせる!

八宝飯:みんな、こっちを見てくれ、この石台の後ろに、祭壇画あるみたいだ!


謎めき幽地・七

もしかして……この絵、祭壇と関係あるのか?


八宝飯:みんな、こっちを見てくれ、この石台の後ろに、祭壇があるみたいだ!


 それを聞いたみんなは松明を持って、石台の後ろに行くと、テーブルのような四角い小さな祭壇を見つけた。


マオシュエワン:あんた、目がいいな……

八宝飯:ふふ、もっと小さいものでも見えるぞ。例えば、誰かさんが出かける前に寝ぼけて、ボタンを間違えてしまったとか……

マオシュエワン:あ――なんで早く言ってくれなかったんだ……!

八宝飯:わざとやってるのかと思ったから。なかなか個性的で、似合っているぞ。

マオシュエワン:もういい……黙れ!!

状元紅:……この祭壇は埃で覆われている。しばらく使われていないようですね。

女児紅:あれ、状元紅兄さん、これを見てください。そこに……奇妙な模様があります?

蛇腹きゅうり:気をつけろ!むやみに触ってはいけない、また仕掛けがあるかもしれない。

女児紅:す、すみません……ちょっと忘れてました、え……祭壇が光ってる?


 祭壇に刻まれた模様から薄い金色の光が溢れ出し、ぼんやりとしたリボンになって、人々の周りに絡まり、ついに老虎菜の腕に止まった。


老虎菜:これは……どういうことだ?

雪掛トマト老虎菜、もしかして懐になにか隠しているの?

老虎菜:ないよ……肉まんや鶏の太ももは全部戻したのに……

老虎菜:あっ、そうだ!さっき拾ったあの古い絵……


 老虎菜は懐から敗れた紙片を取り出した。絵の墨が金箔で覆われているように輝き、祭壇から漏れる金色の光よりも眩しくなっている。


女児紅:あれ、この絵にも祭壇と同じ模様が描いてあります!

雪掛トマト:おかしいね、拾った時にはこんなものはなくて、ただ普通の山水画の欠片だったのに……

老虎菜:もしかして……この絵、祭壇と関係あるのか?

女児紅:……この祭壇を開けられるかもしれません。祭壇に置いてみたらどうです?

蛇腹きゅうり:でも……

マオシュエワン女児紅さんの言うとおり、もうずいぶんとこの地宮を彷徨っている。試してみよう!最悪でも、仕掛けが俺たちを下の階まで連れて行くだけだろう!

八宝飯:うん……オイラの経験では、こいいう祭壇はほとんど地宮の要所だ、本当に開けることができれば……一度試してみる価値がある!

蛇腹きゅうり:それなら、老虎菜、絵を俺に渡してくれ……みんなは足元に注意するんだ。もし仕掛けが動いたら、回避してくれよ!


 蛇腹きゅうりは祭壇の前にやってきて、みんなに退くように合図し、金色に光る紙片をそっと台に張り付けた。

 一瞬の静寂の後、地宮は金色の光に包まれ、暗く陰鬱なこの場所をまるで昼間のように照らし、耳をつんざく轟音が鳴り響いた。

 石壁の隠し扉がゆっくりと開き、埃が舞い上がり、水のような涼しい月光がまっすぐに射し込んで、野草や枯れ葉の新鮮で湿った匂いを運んできた。


雪掛トマト:あそこが出口みたい!


 みんなは待ちきれずに、急いで秘密の扉をくぐり、狭い石道を抜けると、最初に見た古いクスの木が目の前に現れた。

 月明かりが薄く、カササギが鳴く。一行が振り返って見ると、石の扉と地下道は蔓のように生えた木々に覆われ、痕跡がなくなっていた。


再び立てる波風・一

偶然知り合った旧友だよ。


深夜


マオシュエワン:よかった!やっとあの変なところから抜け出せた。

八宝飯:はあ……とにかく、なんとか任務は終わったようだ。早速ボスに報告に行こう。

蛇腹きゅうり:ちょっと待って。あんたら、この森から出る道を知ってるのか?

八宝飯:もちろん……えっ、あんたたちも道に迷ったのか?

蛇腹きゅうり:ああ……そうだ、さっきまでこの森をさまよって、もう東西南北の区別もつかない……

八宝飯:羅針盤がある。オイラたちに聞いて正解だったな。帰る場所が山ほどの方向にあることか覚えているか?

蛇腹きゅうり:さっき書院から来たんだけど……山の南西側にあるはずだ!

八宝飯:えっ?こんな田舎に書院があるのか……南西側、つまりあの方角だ!

蛇腹きゅうり:感謝する!

女児紅:書院?まさか鬼谷書院の人ですか?書院の先生たちはみんな博学だって、村のおじいちゃんがよく話してました。あなたたちはもしかして?

雪掛トマト:そうよー、あれ、女児紅ちやまんいい体型してるわね。今度書院に来たら、私が踊りを教えてあげるよ!

女児紅:踊り?鬼谷書院は踊りも教えているのですか?

蛇腹きゅうり:おいおい、またそれかよ……女児紅さん、時間があるならいつでも書院にいらっしゃい!

女児紅:よかった、状元紅兄さんも一緒にいきましょうね!

状元紅:うん、でも今日は村に戻らないと……調べなければならないこともたくさんあります。

八宝飯:山に登るときにちょうどその村を通りすぎたし、一緒に行こう!

状元紅:お願いします。


 皆と別れた後、30分ほどで蛇腹きゅうりたちは書院に戻った。風で庭で吹き、竹林が揺れ、一人で石のテーブルをの前に座っていた金駿眉は物音を聞いて、薄笑いを浮かべながら、埃っぽい一行を眺めていた。


金駿眉:あなたたち……夜中に遊びに出かけたのか?

蛇腹きゅうり:えっと、詳しく説明すると長くなるが、ちょっとしたトラブルがあった……でも無事だった。

金駿眉:最近書院付近も穏やかじゃないみたいだね……

金駿眉:そういえば、あなたたちが外出していたとき、絵巻を持っている見知らぬ食霊に会ったかい?

蛇腹きゅうり:見知らぬ食霊は何人か会ったけど……

雪掛トマト:絵巻は……もしかして、あの絵の切れ端?蛇腹きゅうり、まだ持っているよね?

蛇腹きゅうり:ああ、これだ、ほら……

金駿眉:……?


 皆は蛇腹きゅうりが持っていた紙切れを見た。しかし羽のように薄い紙片に、わずかな泥がついているだけで、なにも残っていなかった。


雪掛トマト:そんな!そこに描かれていた風景や符文……全部消えてしまった。

金駿眉:……この絵はどこで手に入れたの?

雪掛トマト:裏山の森で、そうだった……そこにコソコソした人影を見えたけど、あっという間に消えてしまった。

金駿眉:そうか……裏山か……

蛇腹きゅうり:もしかして、その人物を知っているのか?

金駿眉:残念ながら、わたしもしらない……わたしは人に頼まれて、あの人物を探そうとした。

蛇腹きゅうり:誰に頼まれたんだ?

金駿眉:南離印館、片児麺

雪掛トマト:えっ、南離印館の人たちと知り合いなの?

金駿眉:ふふ、偶然知り合った旧友だよ。

蛇腹きゅうり:……金駿眉、この件を俺に調査させてくれないか?

雪掛トマト:えっ、またなにするつもり?

蛇腹きゅうり:もちろん、自ら南離印館に行って情報を聞きに行く。明け方に出発する!


再び立てる波風・二

この茶屋は、いつから武館になったんだ?


翌日

茶館


 真冬の厳しい寒さの中、窓外は厚い雲と風雪に覆われている。小さな茶屋の中、真鍮の燭台には生灰が厚く降り積もり、揺れるろうそくの光が室内を暖めている。


雪掛トマト:外に出たときは晴天だったのに、あっという間に雪が降り出した……どうやらしばらくは止まなさそうね。

老虎菜:ちょうどいい……うーん……お腹を満たしてから出発しよう。お兄さん、お菓子をもう10人前ください!

雪掛トマト:……もう、あずき餅20皿、なつめ菓子15皿、砂糖蒸しチーズを10箱食べたでしょう……

蛇腹きゅうり:さらに牛乳糕10皿。

老虎菜:なるほど、道理で半分しかお腹が満たされていないんだ……お兄さん、後10人前追加!

老虎菜:ん?雪掛、お菓子全然食べてないけど、お腹すいてないのか?

雪掛トマト:もういいよ、わたしは……お菓子の名前を聞くだけでお腹がいっぱいになっている。

蛇腹きゅうり:そうか、でもさっきから、ずっと唾を飲み込んでいるみたいだけど。

雪掛トマト:ちょっと、なにでたらめ言ってるの!?

蛇腹きゅうり:少しお菓子を食べるぐらいじゃ、踊らないぐらい体重が重くならないのにって思っただけで……おい!なにをするんだ――

雪掛トマト:ちゃんと食べなさい――こんなに食べ物があっても、口を塞げないの?

老虎菜:ねえ、雪掛、この栗粉糕はあんまり甘くないから、一口食べてみてをこれからも長い旅が続くから、空腹でいるわけにはいかないだろう!

雪掛トマト:それは……一理あるね、ちょっとだけ食べる。

蛇腹きゅうり:……同じ言葉なのに、他の人には丁寧に話しているが、俺に対しては攻撃的になるんだな。

雪掛トマト:ふん、わたしに礼儀正しく接すれば、当然わたしも丁寧に接するわ。でも、誰かさんの態度がなってないから。

蛇腹きゅうり:あんた……もういい、なにも聞こえなかったことにする。

店小二:お客様方、本当に申し訳ありませんが、当店は半時間後に閉店します。お菓子が揃ったら、お早めにお会計をお願いします。

蛇腹きゅうり:閉店?でも、まだ日は暮れていないぞ。

店小二:お客様はこの辺りの人ではないですよね。実は……ここの店は夕暮れなると、すべて閉まってしまいます。

店小二:お客様、日が暮れる前に宿泊先を探したほうがいいですよ。遅くなると大変ですから……

蛇腹きゅうり:どういうことだ?

店小二:まあ、最近村中で事件が起こっているからです……

店小二:みんなが山の中に年獣がいるだと言っています。暗くなると、食べ物や子供たちを攫うために山から降りてきますよ、そいつに遭遇すると、大変なことになります。

雪掛トマト:年獣?なにそれ?

老虎菜:伝説によると、大晦日が近くになると、人々を傷つける怪物らしい……道中に爆竹の破片が落ちているのも理解できた。

店小二:そうですね、村の家々は年獣を追い払うまめに、爆竹を燃やしているんですが、あまり効果はなくて……とにかく、お客様たちは気をつけた方がいいですよ。


 そんな話をしているうち、隣で皿が割れる音が聞こえてきた。不気味な黒い服を着た何人かの男たちが、一人の客を問い詰めていて、足元にある腰掛けをいくつか蹴り倒した。


店小二:え―、お客様たち、みんな仲良くしましょうよ。そんなに怒らなくてもいいですよ!

黒装束の男:あっちへ行け!邪魔をするな!

店小二:うわ!


 黒い服の人が店員を蹴り飛ばし、店員は避けきれずに後ろに倒れた。そこへ、蛇腹きゅうりが素早く飛び込んで彼を受け止めた。


蛇腹きゅうり:あんたたち、もうほどほどにしとけよ。

黒装束の男:また何処から来た空気の読めないヤツだ。腹いっぱい食べて、余計な世話を焼きたいのか?

老虎菜:どうして知っているんだ?実は本当に腹いっぱい食べたぞ――体を動かすのにちょうどいい!


 乱闘になるが、店の物を壊さないように気を配った蛇腹きゅうりたちは、自由に動けず、しばらくは勝負がつかなかった。

 ガチャン――剣が扉に突き刺さり、冷たい風が雪とともに吹き込まれた。剣を持って入ってきたのは、白髪の見知らぬ食霊だった。


白酒:この茶屋は、いつから武館になったんだ?

黒装束の男:!!

#include(稔歳之佑・ストーリー・再び立てる波風,)

※誤植等が多いため、文脈的に正しいと思われる部分を差し替えたものを表記しています。

再び立てる波風・三

白酒……そんな名前じゃない……


 目の前に立つ食霊は剣を構えて立ち、その眼底には怒りの色があり、その姿はとても威厳に満ちていた。黒い服の人たちは食霊に圧倒されて、慌てて動きを止め、後ろに退って、逃げ出した。


雪掛トマト:なんだよ、口だけね。もう逃げたの?

蛇腹きゅうり:あいつらは変な格好をしている、なにか別の目的があるのかもしれない。

蛇腹きゅうり:ああ、そうだ。ところで……英雄さん?助けてくれてありがとう。名前は何と呼べばいい?

白酒白酒。別に英雄ではない。たまたま通りかかっただけだ。

老虎菜:おっ!あんたと剣、すごくいいね!あいつらは、これを見ただけで怖がって逃げていったんだ。

白酒:さっきこのお嬢さんが言ったように、あいつらは口だけの連中だ。

蛇腹きゅうり:でもあんたの剣は見るからに普通のものじゃない。剣に怯えているというより、あんたを恐れているでは?

白酒:それは考えすぎた、あと者たちと面識などない。

蛇腹きゅうり:それは失礼……最近はどこも不穏だから、気を配らないと。

白酒:かまわない。お前が言う不穏とは、近隣の村のことか?

蛇腹きゅうり:その通り……


 ギイ――、茶屋の木戸がまた開けられ、若い男女が一本の傘を差して入ってきた。若い男が少女の肩に降った雪を丁寧に払い落とそうとしている。


状元紅:天気が良くなくて、明日また来ようと言いましたが、こんなに大雪になって……食霊は病気にかからないとはいえ、あなたは寒さが苦手で……

女児紅:わかってますから……途中からずっと私に小言を言ってますよ。もう聞き飽きました!このお店の桂花糕を食べたいんだもん。

雪掛トマト女児紅状元紅!どうしてここに……

女児紅:雪掛姉さん!状元紅兄さ見て、鬼谷書院の人たちですよ!

状元紅:ちょっと待って……気をつけてくれ――!


 小走りに駆け寄ってきた女児紅が足を滑らせたが、しっかりと誰かの腕の中に収まった。

 女児紅は気がつくと、慌てて服を直した。しかし助けてくれた相手が見えた時、感謝の言葉が詰まって出てこなかった。


女児紅:あ……あなたは……

白酒:次回は気をつけて歩け、お嬢さん。

状元紅女児紅、大丈夫ですか……?ありがとうございました。

白酒:無事だ。……ここでしばらく時間を費やしてしまったので、旅を続けなければならないのだが…ええと……

白酒:そこの……お嬢さん?

状元紅女児紅、どうかしましたか?もう手を離していいですよ。


 自分の服をしっかりと握りしめている少女を、白酒は呆れたように見つめた。彼女うつむいたまま、そばにいる状元紅にいくら説得されても一切動かない。


白酒:お嬢さん、俺を誰かと間違えたのか。

状元紅:……?


 その言葉を聞いて、女児紅はようやく頭を上げたが、そのかすかに青くなった頬には、ひどい涙の跡が残っていた。白酒は眉をひそめ、静かに目をそらして、窓枠の外に一つの色を溶け合った白雪の天地を遠くに眺めた。


白酒:お嬢さん、人違いだ。

女児紅:人違い?いいえ!あなたはあの人……あなたは……誰?

白酒:……俺は白酒だ。

女児紅白酒……


 店内は静まり返り、誰も声を出せなかった。ただ、ろうそく台から聞こえるプチプチという音だけが響いていた。

 ふたりは立ち尽くし、白酒は動かず、少女の瞳に光る輝きも次第に消えていき、やがて落胆したように手を下げた。


女児紅白酒……そんな名前じゃない……

白酒:光耀大陸に来てから、他人と間違われることはよくあることだ……お嬢さん、執着しなくてもいいことはある。


 白酒はみんなに軽くお辞儀した後、振り返って茶屋を出て、白い雪の中に消えていった。

 そのまま呆然と立ち尽くす女児紅に、状元紅は口を開こうとしたが、結局、言葉を飲み込み、ただ、女児紅の頭を撫でることしかでなかった。


蛇腹きゅうり:……女児紅さんは少し休んだ方がいいかもしれない。俺たちも用事があるので、邪魔しないようにするよ。ところで、日も暮れそうだ、早く帰った方がいいぞ。

状元紅:ああ……ありがとうございます。先に行っててください。


再び立てる波風・四

こんな大雪の日に、お客様が来られるとは思いませんでした。


庭院

南離印館


 日差しはまだ弱いが、風雪が次第にやんで、庭園は白一色に包まれた。みんなが躊躇っている頃、曲がりくねった廊下から高貴な気質をもつ男性が歩いてきた。


明四喜:こんな大雪の日に、お客様が来られるとは思いませんでした。

蛇腹きゅうり:お邪魔した。俺たちは鬼谷書院の者で、片児麺さんはどこに住んでいる?

明四喜:ふふ、鬼谷書院か……片児麺は普段は口数が少ないのに、人脈は広いですね。

明四喜:この廊下に沿って行けば、雪だるまを作っている小さな子供がいる場所に片児麺が住んでいます。

蛇腹きゅうり:感謝する!

明四喜:どういたしまして。雪道は滑りやすいので、足元にお気をつけください。


 明四喜は微笑みながらうなずき、そして優雅に振り返って去っていった。みんなは廊下に沿って進み、雪で覆われた枯れ竹の中に、やはり小さな子供が雪だるまを作っているのが見えた。


蛇腹きゅうり:あの……

豆沙糕:うわ―、誰!?

蛇腹きゅうり:あの……怖がらないで、俺たちは悪い人じゃない。

豆沙糕:びっくりした…あの、印館でみなさんを見たことがないようですが、なにかお手伝いできることはありますか?

蛇腹きゅうり片児麺さんがここにいるときいたんだが?尋ねたいことがあるので。

豆沙糕片児麺様は今部屋にいますが、でも……今日はお客様が訪れると言っていませんでした。みなさんは……

蛇腹きゅうり:俺たちは鬼谷書院の人間だ。いきなり訪問するのは礼儀にかなっていないが、きちんとした理由がある。伝えてくれないかな?

豆沙糕:うん、片児麺様は昼間から起きているはずです。中に入って少々お待ちください。


 孔雀色の香炉からほんのりとした香りが漂っており、新しい墨の味が漂っていた。部屋の内装は古風であるが優雅で、壁に掛けられた書や絵はいたって上品だ。


豆沙糕:皆さん、少しお茶やお菓子を召し上がってください。片児麺様がすぐに参ります。

蛇腹きゅうり:ありがとう……ちょっと、老虎菜

老虎菜:うーん……美味しい!このお菓子……うーん、特別な味がする……

蛇腹きゅうり:失礼した……この友人は特にお腹が空きやすいので。

豆沙糕:大丈夫、これは私が作った梅花糕です。もしお好みでしたら、もう少し持ってきましょうか?

老虎菜:ほんとか!とても美味しい――茶屋の職人よりも10倍以上美味しい!

豆沙糕:いや、そこまで大袈裟ではないでしょうが……えへへ、でも褒めてくれて嬉しいです。少々お待ちください、今すぐに取ってきます。

雪掛トマト:……老虎菜のやつめ、美味しいものを見たら口が回るようになるね。普段とは全然違うじゃない、まったく……

蛇腹きゅうり:あんただって嫌いじゃないだろ。老虎菜はいつもあんたが作ったパラータお菓子が美味しいと言ってくれるんだろ。

雪掛トマト:ふん、当然よ。誰かさんも食べてみたいなら……褒め言葉を言えば、喜んであげるよ。

蛇腹きゅうり:それはいい、俺にはそういう興味はない。

雪掛トマト:空気を読め。

老虎菜:ええと……みんなも食べてみない?本当に美味しいんだよ……あれ?なんで誰もしゃべらないんだ。


 その時、内室の珠簾が半分開き、上品な女性は戸惑いながら淡々とみんなを見た。


蛇腹きゅうり:お嬢さんは……片児麺ですね。

片児麺:ええ。みなさん、はるばるどういうご用件で……もしかして金駿眉が……

蛇腹きゅうり:院長は元気だ。心配かけてすまない、今日来たことは他の用件がある。

片児麺:……それはよかったです。なら、どんな用件でしょうか。

蛇腹きゅうり:院長様に手紙を書いたと聞いている。ある人が絵巻を持って鬼谷書院に来るって……その経緯を知りたいと思っている。


再び立てる波風・五

金駿眉の友人は、私の友人同然です。


蛇腹きゅうり:院長様に手紙を書いたと聞いている。ある人が絵巻を持って鬼谷書院に来るって……その経緯を知りたいと思っている。

片児麺:少し前に、ある人から壊れた古代の絵巻を修復して欲しいと頼まれたことがあったんです。

片児麺:修復が終わったとき、その絵に描かれている風景が書院付近に似ていることに気づき、不安を感じて院長様への手紙で言及しましたりその方を……見つけたのですか?

蛇腹きゅうり:見つかっていない……しかし数日前、書院の裏山で奇妙な黒い影と…これを見つけた。


 そう言って蛇腹きゅうりはその前老虎菜が拾った紙切れを取り出した。


片児麺:……私が間違っていなければ、この紙はあの絵巻で使われたものと同じ素材でしょう……

雪掛トマト:やはりすごいね!こんなこともわかるとは……これはやはりあの絵巻の一部かしら。

片児麺:……でもこの紙にはなにも描かれていないよあに見えますね。

雪掛トマト:話すと長くなるけど、この紙には元々風景画の一部が描かれていたんです。でも、わたしたちが書院に持ち帰った時、今のような状態になってしまって……

蛇腹きゅうり:ああ、あの絵巻はきっとただならないものだ……あ、そういえば、その人が修復を頼んできたと言っていたがわその絵の様子を覚えているか……

片児麺:覚えています。少しお時間をいただければ、描くこともできます。

蛇腹きゅうり:それはよかった!なら……

片児麺:ここでしばらくお待ちください、描き終わったらお渡ししますので。

蛇腹きゅうり:ああ、ありがとう!ひとつ借りを作ったと思ってくれ!

片児麺:その必要はありません。金駿眉の友人は、私の友人同然です。


 半時間も経たずに、片児麺は絵巻を持って出てきた。彼女は絵巻を梨花木の机の上に軽く広げ、濃淡のついた風景が紙の上に現れた。

 みんながよく見ると、風景の中央には荘厳な古木が描かれて、その根っこが複雑に絡まり、非常に奇妙な形をしている。周りに霞んでいる雲も、意味深長なトーテムのようにも見える。


雪掛トマト:この古木らどこかで見たことがあるような……見て、あの山の後ろにある木に似ていない?

蛇腹きゅうり:確かに少し似ているようだ。そういえば……この雲の形は、祭壇に描かれていた模様を思い出させるな。

雪掛トマト:そうだった……絵の欠片を祭壇に近づけた時に、紙にこのような模様が現れたのを覚えている。

片児麺:当時、私も絵の筆致が奇妙だと思いました……でも、私たちに修復を頼んできた人も、その原因は知らないようで、彼は絵の風景が書院の近くにあると聞いたら、急いで去ってしまいました。

蛇腹きゅうり:やはり……この絵にはなにか秘密が隠されているようだ。もしかしたら、まずは裏山に行って調査しなければならない。

雪掛トマト:そうだね、じゃあ今すぐ出発しよう!

老虎菜:ん……もう行くのか?もう少し食べさせて……。

片児麺:皆さん、待って……豆沙糕……

豆沙糕:はい!片児麺様のご指示通り、これらを用意しました。

片児麺:ええ、旅が遠くて、雪もまた降るかもしれません、これらのお菓子を持って行ってください。

老虎菜:はは、よかった!南離印館の人たちは本当に親切だよな、道理でうちのボスとは友達なわけだ!


数日後

鬼谷書院森


雪掛トマト:ふぅ……やっと着いた。雪の降る山道は本当に大変ね。それに……わたしの錯覚か、このクスの木は前回見た時よりも枯れているみたい。

蛇腹きゅうり:本当だ、しかし大雪が連日降っているから、枝が曲がってしまったかもしれない……


 みんなが話している間、絡み合った枝が揺れ、新雪が降り、やがて少女の赤い頬があらわれた。


女児紅:あら、本当にあなたたちだったんですね!さっき私も状元紅兄さんと話してました、こっちから人の声が聞こえたみたいで、書院の人かと思いました。

状元紅:また会えたね、あなたたちもあの事件を再調査しに来たのですか……

雪掛トマト:そう!……新しい手がかりを手に入れたから、試してみたくなって。

状元紅:良かった。ここ数日この辺りを調査したがらどうしても地宮に行く方法が分からなくて……皆さんにはなにか考えがありますか?

蛇腹きゅうり:もしかしたら……この絵巻が教えてくれるかもしれない。


 蛇腹きゅうりは、包みから絵巻を取り出し、ゆっくりと広げた。しばらくすると、絵の中にある不気味な雲が金色に輝き、命があるように動き出した。


雪掛トマト:現れた……!あの金色の模様!


 ドカン――木の根が激しく伸び縮みし、大地が痙攣する脈打つ血管のように、突然割れ目が開き、たくさんの堕神が湧き出てきた。


蛇腹きゅうり:危ない――!


再び立てる波風・六

私はもう決心しました……兄上、命令を下してください!

 木の根周辺の堕神を倒した後、割れ目から金色の光が漏れ出し、深く曲がりくねった暗い地下道を映し出した。一行は考える暇もなく、地下道を進んでいった。


雪掛トマト:おかしい……今回の地下道は以前と少し違うような気がする。

蛇腹きゅうり:今回も真っ暗じゃないか、どこが違うんだ……そうだ、あんたらはもうなにも触らない方がいいぞ、また仕掛けが作動したらまずい。

状元紅:ちょっと待って――前になにかあるみたい。

老虎菜:豚足の焼ける匂い……!?

女児紅:えっ、本当!あそこは食べ物がいっぱいある……違う!人が、あそこに倒れています!


 皆は慎重に松明を地面にうずくまる人に近づいたが、そこには目を閉じ、青ざめた青年がいた。


老虎菜:彼はまだ生きているのか?

蛇腹きゅうり:まだ息はある……でも非常に弱っているな。どうしてここに……


 蛇腹きゅうりは身をかがめ、その若者の肩を軽く揺すり、彼の顔を叩いたが、彼は全く反応しなかった。しばらくすると、彼の鼻の奥から微かにいびきが聞こえた。


雪掛トマト:なによ……こいつ、ただ寝てるだけよ。

老虎菜:彼も俺と同じように、ここで大食いした後、眠り込んだのかな?

状元紅:もしかして、彼は村で年越し料理が盗まれた事件と関係があるのですか?

女児紅:いい匂い……みんな、変な香りがしませんか?

老虎菜:うん……確かに!ただ……食べ物の匂いじゃないみたいだけど……

蛇腹きゅうり:まずい……この香りはダメだ!


 一瞬にして香りが深い地宮に満ちて、ゆっくりとみんなの鼻先をくすぐり、突然眠気を誘い一斉に地面に倒れこむ。

松明は地面に落ち、火はかすかに消え、暗赤色の灰はまた優しくひらめいている。夢魔は人々の顔に登り、幽玄で、奇妙でいて甘美な匂いがする……

 その中の一人のまつげが微動し、涙のしずくが落ちた。それは無言のため息のように、いにしえの深夜に落ちていく。

 ……


青年玄武:コホン……なぜここに来た……

長公主:兄上、山河陣のことを聞いた、私は……入陣人になりたいと思います。

青年玄武:コ……だ、だめだ!そのことは私が手配する、コホン……

長公主:いいえ、私は玄武国の長公主……天下の人々の幸福を考える責任があります……

長公主:その上、皇兄は病床に倒れながらも悩み苦しんでいる。私は心が痛いのです。幼い頃から父と兄上に守られて育ちわ今こそあなたたちのためになにかをする時です。

青年玄武:言っただろう……だめだと。

長公主:私はもう決心しました……兄上、命令を下してください!


 ドン――少女は頑なに唇を噛みしめ、青砖(※黒レンガ)の床に頭を強く打ちつけ、白い肌に血の痕跡が浮かんだ。玄武の目には苦渋の色があらわれ、立ち上がって彼女を支えた。


青年玄武:コホンコホン……あなたはもう子供ではないのに、聞き分けがない。

長公主:兄上が許可しなかったら、ここで頭を打ちつけて死ぬつもりです。

青年玄武:わかった……許可しよう……コホンコホン、私もすべてを処理したら、あなたについて行く。

長公主:兄上、ありがとうございます……

青年玄武:……

長公主:兄上、自分を責めないでください。もしも天下の人々のためなら、私は喜んで自分を捧げます。


 暗い過去が徐々に夢の渦に巻き込まれていく、女児紅は苦しげな表情を見せ、震える睫毛から涙が流れ落ち続けている。

 この時、静まりかえった地宮の中から、かすかな音楽がみんなの耳に飛び込んできた。それは鳥や蝉の鳴き声のようで、夢の網にひっそりととらえられてしまった……


再び立てる波風・七

あれは、夢だったのですね……


  静かな音楽が混沌を切り裂き、雪掛トマトの閉じたままの目が急速に動き、額からは薄汗が出て、まるで力を入れているみたいだ。


 深い夢の中、雪掛トマトは書院の階段の前に座っていた。熱い夕日の余韻が中庭にこぼれ、すべてのものをぼんやりと包み込んでいた。

 手合わせが終わったふたりは地面に座り、ウグイスの啼く声が聞こえるが、その終音が突然不気味な音色に急変してしまった。


雪掛トマト:……ねえ、ふたりとも、鳥の鳴き声が変だと思わない?

蛇腹きゅうり:鳥の鳴き声?普通のウグイスじゃないのか?

老虎菜:俺も変な音は聞こえなかった。

雪掛トマト:違う!ちゃんと聞いて――あれは曲の調べだよ!

蛇腹きゅうり:……ダンスの練習をしすぎて、数羽の鳥の鳴き声から曲を作れるようになったんじゃないか?そうだ、夜の授業もあるんだろう?なんで俺たちと話しているんだ?

雪掛トマト:シー!……声を出さないで……


 目の前の人はなにかをつぶやいているが、声はだんだん風に消えていき、鳥の啼き声とともに歪んだ音楽に変わっていく。

 雪掛トマトの頭の中に絵が浮かぶみたいだ。彼女はゆっくりと目を閉じ、石壁に映る火の光が現れ、音楽に合わせて人形のような記号が石壁に舞い上がって、彼女も自然に手足を動かす。

 音楽は哀しく訴えるように響き、音符が青石の地面に打ち落とされたみたいだ。暗い夕焼けが混じり合い、雪掛トマトはふと目を覚ました。


雪掛トマト:今の……夢だったの?

雪掛トマト:みんな、どうしたの……ねえ、蛇腹きゅうり老虎菜!起きて……


 雪掛トマトは、地面に寝そべるみんなを心配そうに揺らすが、みんなは動かない。音楽は静かに響き続け、見えない手が琴の音を奏で、鈴を鳴らしているようだ。


雪掛トマト:そうだ、先程の夢で……私は石壁に描かれた踊りを踊った……それって、つまり?


 雪掛トマトは深呼吸をして、目を閉じた。不思議な模様が暗い川の波間に現れた、彼女は腕を上げ、つま先を伸ばし、優雅な川の波紋が夢の帳を揺らしていた。

 音楽は時に遠く、時に近くなり、雪掛トマトは足先の踊りを止めなかった。一回転した後、一番近くにいた蛇腹きゅうりが少しずつ目を覚まし始めた。


蛇腹きゅうり:ひっ……頭が痛い……雪掛トマト?にが起きたんだ?さっきまであなたは……

雪掛トマト:良かった、石壁に描かれた踊りは本当に悪夢を解除する効果があったんだね!

蛇腹きゅうり:……踊り?悪夢?そういえば、さっきの不思議な香り……また、なにかの罠なのか?

老虎菜:うーん……お前を食べちゃダメ!あ、でも食べたい……お腹が空いた……

蛇腹きゅうり:……やっぱり、夢の中でも食べていたんだ……老虎菜、起きろ―!

老虎菜:え?俺、また寝ちゃったのか?

蛇腹きゅうり:あの奇妙な香りのせいだ……あんたがその前昏睡したのも、そのせいかもしれない……ただ、あの時は食べ物に夢中になりすぎて、気づかなかったかな。

老虎菜:そうだったのか?雪掛トマトはなにをしているんだ?なんでこんな時に踊っているのか?

蛇腹きゅうり:彼女の踊りには、悪夢を解除する効果がある。彼女が救ってくれた。


 雪掛トマトの旋回する足先が地面を蹴り、もう一つの場所に飛んできた。お互いに寄り添っている状元紅女児紅もゆっくりと目を覚ました。


女児紅:兄さん……!

状元紅女児紅?私はここにいる……

女児紅状元紅兄さんだよね……

状元紅:どうしたんです?夢でも見ましたか?心配しなくていい、すべては嘘ですから……

女児紅:夢?あれは、夢だったのですね……

状元紅:……ああ……


 音楽がやんで、雪掛トマトは息を整え、動きを止めた。しかし、地面にはまだ一人眠っていることに気づいた。


蛇腹きゅうり:あいつ、まだ起きないのか……

雪掛トマト:わたしはもう全部の動きを一回踊り終えたし、音楽もちょうど止まっているはず、それなのに……

蛇腹きゅうり:違う……聞け――まだ終わっていない!


 清らかな鈴鼓の音が響き、流れるような弦楽器の音色が再び始める。音がどんどん近づき、薄い光を反射する岩壁に細長い黒い影が映った。


蛇腹きゅうり:怪物!?みんな気をつけろ――


再び立てる波風・八

うさぎ……?


蛇腹きゅうり:怪物!?みんな気をつけろ――

雪掛トマト:ちょっと待って……あいつ、人を傷つけるつりもはなさそうだよ……

蛇腹きゅうり雪掛トマト、なにをしてるんだ、危険だ!


 雪掛トマトがふりかえって、蛇腹きゅうりに静かにするように合図をした。口元まで出かかっていた叫びを、蛇腹きゅうりは眉をひそめて飲み込んだ。そして、その黒い影に目をやると、あれはまるでリズムに合わせているように、左右に揺れているのを見えた。


蛇腹きゅうり:まさか……こいつも踊っているのか?

老虎菜:これは……奇妙だ……


 雪掛トマトは何歩か前に進むと、影は後ろに縮こまり、音楽が途切れた。雪掛トマトはちょっと考えて、その場に留まり、足先で先程の踊りを再現した。


蛇腹きゅうり:本当だ……雪掛トマトの動きに合わせて踊っている!

老虎菜:気をつけろ!出てくるぞ――

老虎菜:……?


 薄明かりに照らされて、隅のほうにうずくまっているのは、小さな白うさぎだった。そのうさぎの耳はかすかに動かし、雪掛トマトの足元にそっと飛んできた。


雪掛トマト:うさぎ……?

白うさぎ:キィ……

状元紅:まだ霊力が残っているようです。かなり衰えてはいるが……ただのうさぎではないはずです。

蛇腹きゅうり:まさか、うさぎの山精?違うな、体中の霊力は純粋で、むしろ……


 白うさぎが辺りを見まわすと、うさぎ耳はがっくりとうなだれた。あれはゆっくりと地面の食べ物の中に移動し、器用に青菜の茎を一本選んで齧り始めた。蛇腹きゅうりはちょっと呆れて、またつぶやきながら頭を振った。


蛇腹きゅうり:……むしろ山の神に似ている。


 衣服のこすれる音がタイミング悪く響き、一行が振り返ると、目を覚ましたばかりの見知らぬ食霊が老虎菜に抑えつけられていた。


老虎菜:こいつは目を覚まして逃げようとしている!

羊方蔵魚:いたたた―すごい力だ。手加減してくれ!

状元紅:あなたは何者だ?年越し料理の盗難や子供の失踪について、なにか知っていますか?

羊方蔵魚:な……なにが年越し料理だ?子供?お、俺はなにも知らないって!英雄のみなさん、見逃してくれよ。

雪掛トマト:ねえ、言い訳しても無駄よ!先日、古木のそばでコソコソしていたのはあなたでしょう?この絵、知ってる?

羊方蔵魚:……!?

羊方蔵魚:えっと、ここは薄暗くてよく見えない……?……近くで見せてもらっていいかい?

雪掛トマト:ほら――これでよく見えるでしょう?

羊方蔵魚:ちょ……ちょっと待って……ちゃんとみてみます……


 羊方蔵魚は作り笑いをしながら、首を伸ばしその絵巻をじっくりと見つめた。しばらく考えた後、彼はなにかを悟ったような表情を浮かべた。


羊方蔵魚:あのぉ、皆さん、これは誤解ですよ。さっきの絵巻は、俺が偶然手に入れた宝の地図だったんで……

蛇腹きゅうり:宝の地図……?いったいどういうことだ?本当のことを話せ!

羊方蔵魚:え!ちょっと、ちょっと!ムチを使わないですださいよ…そして、このたくましいお兄さん……俺の上から降りていただけませんか、息が詰まっちゃうんです……

老虎菜:うるさい、小細工はよせ!

羊方蔵魚:こわいなぁ……こんなにか弱い俺に、なにができるというんですか。

老虎菜:……じゃあ、おとなしくしていろ!

羊方蔵魚:あいよ――ありがとうございます、楽になりました……

状元紅:さて、早く話してください――ここの食べ物がちょうど村から盗まれた年越し料理で、あなたがちょうどここに横たわっていることを、どう説明してくれますか?

羊方蔵魚:私も皆さんと同じようにこの場所に迷い込んだ可能性はあると思わないのか……


山の精霊の昔話・一

口が軽い……なんだか怪しい!


羊方蔵魚:私も皆さんと同じようにこの場所に迷い込んだ可能性はあるとは思わないのか……

雪掛トマト:迷い込んだって?この絵巻を持ってここに来たのは、明らかに計画された行動でしょう!

羊方蔵魚:えっと、実は俺も偶然にこの絵を麓の村民から手に入れたんですり絵に描かれている場所に宝物が隠されていると知って、運試しに来たたまけ。

羊方蔵魚:でもあの日、俺が古木のそばに来たら、木の根元から金色の光が出てきて、俺がうっかりそこに落ちちゃったんです。絵もなくしちゃって……

羊方蔵魚:そしてここに来たんですが、なかなか出口が見つからず……いつの間にか眠ってしまって……

雪掛トマト:それだけ……?書院になにか企んでいるの?裏になにか秘密と勢力とかあるんでしょ?

羊方蔵魚:本当にそんなことはないんです!俺はただの絵売りなんで……ちょっとお金を稼ぎたかっただけですよ、そんなことができるわけないでしょう。お願い、英雄様、許してください。

雪掛トマト:口が軽い……なんだか怪しい!書院に連れて行ってしっかり取り調べなきゃ!

羊方蔵魚:おっと……お姉さん、許してください!言うべきことは全部言いましたよ。

蛇腹きゅうり:うーん……こいつの見た目はちょっと怪しいけど、大した実力はないみたいだな。

羊方蔵魚:やっぱりお兄さん……じゃなくて、それでこそ英雄好漢。それに、この地宮には俺のほかに、あの小さなうさぎもいるでしょう。もしかしたら、あいつが犯人だったら?

雪掛トマト:ばかばかしい!そんなことあり得ない……

女児紅:うさぎ?えっ、あのうさぎ、いなくなりました!?

羊方蔵魚:そうだろう?!あのうさぎは絶対に怖くて逃げたんです!ふん、あいつが山の妖怪かもしれませんよ、可愛らしい外見で、お嬢さんたち(黙そうとしてるんじゃないのか……あーっ!

雪掛トマト:うるさい!黙って!

女児紅:雪掛姉さん!そっち見て……


 地宮の天井から極めて薄い光線が降り注いで、牛乳みたいに暗い場所に広がり、小さな祭壇が光と影に包まれてみんなの前に現れた。

 祭壇の上には、表情が穏やかな小さなうさぎの石像が彫られている。頭をうつむき、足を曲げて、休んでいるみたいだ。


雪掛トマト:祭壇……?なんでうさぎの像があるのか……

状元紅:この祭壇は前に見たものと非常に似ているようですし、出口へ通じる仕掛けかもしれません。

雪掛トマト:一理あるね……そうだ、あの絵巻を使ってみよう!


 雪掛トマトが絵巻を広げると、金色の光が紙から徐々に流れ出し、小さな石うさぎを金色の彫刻みたいに照らした。複雑な符文が絵巻と祭壇の上に同時に現れ、みんなは息を飲んだ。

 輝く光が暗い地宮を照らし、壁には繊細な彫刻と壊れた宮灯が走馬灯のように一瞬現れ、また浮かび上がる光と影の中に隠れていった。

 地面がわずかに揺れ、石垣の裏にある秘密の扉が重く開き、寒くて湿った空気ざ静かに流れ込んできた。全員が地下路を通りすぎると、再びクスの木の下にやって来た。


蛇腹きゅうり:やはり、通路はまた消えてしまった。

雪掛トマト:絵巻の景色も……全て消えてしまった。

羊方蔵魚:まあ、どうせ珍しくないんだから、宝物とかは全部嘘だったんですよ、なくなっても残念なことでないさ!

状元紅:ところで、山の下の村民から絵巻を手に入れたということですね。その村民に、他にどんなことを言われたか覚えていますか?

羊方蔵魚:それは……よく覚えていません。なにか家宝だとか言っていたような……あの老人はちょっと頭がおかしいんで、俺を騙すためにでたらめを言ったと思います。

状元紅:わかりました。みんな、私はもう一度村に戻らないといけないようです。失礼します。

羊方蔵魚:俺も帰らないといけないんで、失礼し……ええ――

雪掛トマト:逃げないで、とりあえず書院までついて来なさい!まだ事情聴取は残っているんだから!

羊方蔵魚:まだわからないことがありますか……いたたた!はいはい、行きます、行きますから――

羊方蔵魚:スッ――

雪掛トマト:今度はどうした?

羊方蔵魚:あの地宮で寝過ぎたかもしれない、頭がクラクラして……足がうまく動かなくて、この山道を歩くのは無理です……

雪掛トマト:また小細工をしようとする……老虎菜

羊方蔵魚:やめてやめて!お兄さん、許してください!来るな――え……?

老虎菜:頭がクラクラするなら、よく休んで。書院までは遠くないから、お前を背負っていてもすぐ行ける!

羊方蔵魚:待って……背負ってくれるのはいいけど、頭を下に向けないでくださいよ。これはもっとクラクラするじゃないか!


 悲鳴が薄暗い林の間に響き渡り、曲がりくねった小道の間に消えていった。風に揺れる古いクスの木の影に、小さな黒影が飛び出したかと思えば、月光に照らされない暗闇に消えた。


山の精霊の昔話・二

この絵に描かれているのは、忘れ去られた山の精霊のようです。


数日後

鬼谷書院


 午後、薄い日差しが木の枝の陰で揺れながら、新しい窓紙に描かれた。部屋の中で眠っている羊方蔵魚は快適に寝返りを打ち、軽やかに入って来た小さな姿に気づかなかった。

 頬の痒みに夢が邪魔され、羊方蔵魚が不機嫌そうに手を振って、目を開けると、目の前に策士ぶった大きな笑顔が現れた。


羊方蔵魚:このガキ、またあんたか……今、俺の顔になにを……

クラゲの和え物:イヒヒッ、ただのかわいい虫だよ。

羊方蔵魚:……!?


 羊方蔵魚が身を起こし、自分の顔をがさがさと掻いたが、なにも見つからなかったので、安心する。しかし目の前に、クラゲの和え物が楽しそうに笑っているのを見て、彼は少し腹が立ってきた。


羊方蔵魚:こいつ、またからかってるのか!

クラゲの和え物:ふふ、なにもしてないもん。虫だけだよ。あなたが臆病なだけ!

羊方蔵魚:いくらなんでも俺は書院の客人だ。もう少し大切に扱えよ!……まあいい、ガキにはにを言っても無駄だ。俺は寝るから他で遊んでこい。

クラゲの和え物:もう寝ちゃたまめ。こんな時間だよ。ねえー、つまんない。みんながあの状元紅とかいう奴の相手で忙しそあだから、ここに遊びに来たの。

羊方蔵魚状元紅……?なにしに来たのだ?

クラゲの和え物:何枚かの絵を持ってきたよ。雪掛姉さんになにかを聞きたいらしいね。皆でもう半日それを研究しているの。あれ、もう起きるの?

羊方蔵魚:ああ、急に目が冴えたよ。ちょと重要な用事を思い出したから、一人で遊んで来なさい!

クラゲの和え物:えーっ!!


 枯れ木が殺風景な庭で、みんなは石卓の上に広げられた数枚の絵巻を囲んで、細かく研究している。


蛇腹きゅうり:これらの絵は古そうだな、なにが描かれているかよくわからない。

状元紅:よく見てください、この絵に使った紙と印象は、例の絵に非常に似ていませんか。

雪掛トマト:へえ、そんなんだ!どこで入手したの?

状元紅:数日前、村が祠を修理したとき、神棚の下から偶然見つけた。村でも誰もその由来を知らない。

老虎菜:俺は、この絵がうさぎに似ていると思うけど……

雪掛トマト:うさぎ……?確かに。でも、わたしたちは絵に詳しくないから、専門家に見てもらう必要があるかもしれないわ。

羊方蔵魚:おお、専門家はまさにここにいるじゃないか!

雪掛トマト:なにしに来たの?またなにか企んでいるんでしょう?

羊方蔵魚:あのさ、雪掛さん、この前の誤解はもう解けたでしょう?偏見を持つのはだめだよ。今回はみんなの悩みごとを解決するために来たのさ!

老虎菜:そうだった、羊方蔵魚は前から絵を売っていたんだ。本当に専門家かもしれないぞ!

羊方蔵魚:そうだ、そうだ。俺は絵を売るだけでなく、あらゆる名画や文物も研究しています。業界でもちょっと有名なんですよ……絵を見せてもらえないかな?

状元紅:そういうわけなら、ぜひご覧ください。

羊方蔵魚:ありがとう!


 羊方蔵魚はテーブルの前に寄り、絵巻に手を当て、しばらく息を止め、なにかを感じ取っているようだった。


雪掛トマト:どう?

羊方蔵魚:めでたい……お祭り……?

雪掛トマト:なにを言っているの?

羊方蔵魚:ほう、どうやら、この絵に描かれているのは、忘れ去られた山の精霊のようです。

#include(稔歳之佑・ストーリー・山の精霊の昔話,)

※誤植等が多いため、文脈的に正しいと思われる部分を差し替えたものを表記しています。

山の精霊の昔話・三

もしかしたら、あいつは本当に強いやつかもしれないな。


羊方蔵魚:ほう、どうやら、この絵に描かれているのは、忘れ去られた山の精霊のようです。

状元紅:山の精霊……?私もしばらくその村に住んでいますが、他の人からそんなことを聞いたことがありません。

羊方蔵魚:絵の前でめでたいとか、お祭りとその言葉を言った人がいるのなら、なにか知っているはずです。

状元紅:……?

羊方蔵魚:その、そういえば、以前骨董品市場で似たような絵を見たことがあることを突然思い出しました。売り手がそれは山の精霊だと!だから、詳しく知っている人がいるはずです。

状元紅:だとしたら、村の中になにかを知っている者もいるかもしれません……

蛇腹きゅうり:ああ、そうだ。村で起こっていた怪事件の調査は進んでるか?手伝う必要は?

状元紅:書院が村民に配った年越し料理はもう村民たちに渡しました。私が今回来たのも村民たちに代わって感謝の気持ちを伝えるためです。

老虎菜:食べ物がいきわたってよかった!あれは書院に貯蔵されていたお年越し料理で、お正月にここに泊まるのは俺たちだけだから、そんなに食べられないんだ。村民たちへのお詫びをかねてちょうどよかった。

状元紅:ああ……最近、怪事件はおさまったが、行方不明になった子供たちの事件はまだ進展がない。

蛇腹きゅうり:私たちは結果的に地宮に2回行ったが、年越し料理以外には子供たちの痕跡は見つからなかった……もしかしたら彼らは他の場所に隠れているのかもしれない。

状元紅:私も泥棒や強盗の仕業だと疑ったが、その場合、相手は金目当てのはず。しかし、村にはまだ身の代金の知らせは来ていません。そんな単純ではないかもしれません。

羊方蔵魚:もし、この絵に描かれている山の精霊が本当に地下宮殿に関係値しているのであれば、その子たちは地宮に捕らわれていることはなかったはずです。

雪掛トマト:どうしてそんなに確信があるの?

羊方蔵魚:絵に描かれている山の精霊が教えてくれました!絵の中のものに感情がある。俺の長年絵を見てきた経験からすると、この精霊はきっと善き獣に違いない。

雪掛トマト:……

蛇腹きゅうり:ところで、子供たちが村から消えたということは、その間に村に見知らぬ人が現れてませんてましたか?

状元紅:……そういえば、あの日茶屋で出会った黒衣の人たちと食霊はとても怪しかった。

雪掛トマト:そうよ、あの黒衣の人たちは邪気が強すぎる、良い人には見えないね!

状元紅:私もこの件について重点的に調査します。時間も遅くなりましたから、先に帰ります。今日はお世話になりました。

蛇腹きゅうり状元紅さん、遠慮しないでくれ。なにか問題あったら俺たちを呼べばいいです。俺たちも時間のある時は学院の近くを詳しく調査するから!


 状元紅を送り出した後、庭は暮れていき、みんなそれぞれに考え事をしていた。


老虎菜:あの山の精霊は本当に地宮の中に隠れているのか?そういえば、地宮は荒れ果てていたが、昔はとても華やかだったことはわかる……もしかしたら、あいつは本当に強いやつかもしれないな。

雪掛トマト:山の精霊は……本当に存在したのなら、なんらかの記憶が残されているはず。

蛇腹きゅうり:……また閉じこもるのか。

雪掛トマト:なによ、一緒に調べたいの?でも蛇腹きゅうりは書閣の古文書が理解できないかもしれないよ〜

蛇腹きゅうり:ふん、勉強しすぎないように注意してあげただけだ。本を何冊も読まないうちに、気絶したら……俺はあんたを運び出す羽目になる。

雪掛トマト:心配してくれてありがとうございます!この前はただの事故よ。今回はきっとご迷惑をかけませんわ!みんな、わたしは失礼するね。

羊方蔵魚:あれ、雪掛先生は踊りを踊っているんじゃないですか、古書の研究もしているんですかる

蛇腹きゅうり:あいつが本業を怠っているからだ……彼女はもともとここで文化や歴史を教える先生だ。書院のために何冊も異国地方誌を編纂してくれたが、それ以上に踊りを教えたいようだ。

老虎菜:そうだよ、それにあの踊りは本当に難しいぞ。あ、羊方蔵魚、雪掛はお前に踊りを教えようとしなかった?

羊方蔵魚:うっ、彼女に教わらなくて本当によかった……

老虎菜:もしかしたら、彼女はあなたがまだ弱っていると思っているだけで、体調が良くなってから教えてくるかもしれないぞ。

羊方蔵魚:心配いらない、体調が良くなったらすぐ帰るつもりだから……

羊方蔵魚:そういえば、先程書閣の話をしていたけど、書院を歩き回っているけど、書閣をみたことがない。そいつはどこにあります?

老虎菜:書閣は庭の西側の假山のそばにある。とても遠いところだよ……でも中には古書や古画、骨董品がたくさんある。普段は鍵がかかっているが。

羊方蔵魚:古画……?おお、俺も入って見学できますか?

蛇腹きゅうり:あれは書院の私有財産だから、外客は入れないと院長様が言っていた。

羊方蔵魚:ほほう、この書閣にある宝物は本当に特別だねぇ……

蛇腹きゅうり:悪知恵を働かせないように忠告しておくぞ。うちの院長は怖いからね。

羊方蔵魚:もちろん、もちろん!金駿眉様のご名は以前から聞いているし、心配しなくても大丈夫ですよ。


山の精霊の昔話・四

精霊ありけり、深き洞窟にて閑居せん……


書閣


 明るい灯りが静かな廊下を照らし、部屋中には淡い本の匂いが漂っていたが、そこに軽い足音が響いて平穏な空気を打ち破った。


蛇腹きゅうり:こんな時間なのにまだがんばっているんだね。

雪掛トマト:あなたどうして来たの……今何時?

蛇腹きゅうり:午夜の時間だよ、時計の音が聞こえなかったのか?

雪掛トマト:まだ午夜か……まだまだ早いわ。

蛇腹きゅうり:……こんなに本がたくさんあるのに、いつまで探すんだ?俺が手伝おうか。

雪掛トマト:ふん、なんでそんなに親切なの?なにか企んでる?

蛇腹きゅうり:親切だとわかっているなら、その減らず口をよせ……まあ、書院や村の人々に関わることだから、俺は手をこまねいていられないんだ。

雪掛トマト:わかった、私も助けてくれる人を困らせるつもりはないわ。ほら、この棚には光耀大陸の古今地方誌だから、そこから役に立つ情報を探さかないといけないの。

蛇腹きゅうり:そんなに……?干し草の山から針を探すようなものではないか?

雪掛トマト:うん、確かに大変だよ。時間があったら、金駿眉に言っておこう。生徒たちと一緒に整理して、索引を作ろうかな。……そうすれば、生徒たちも古典を多く学べるようになるよ。

蛇腹きゅうり:ふん、先生っぽいとこもあるんだな。踊りのこと以外なにも考えていないのかと……

雪掛トマト:ちょっと、生徒に踊りを教えるのも授業の一部なんだよ!踊りには土地の文化や歴史が詰まってるんだからね!まったく、なんにもわかってないんだから……

蛇腹きゅうり:わかった、わかった、浅はかだったよ。よし、早速手を付けないと、いつまでたっても調べ終わらないよ。

雪掛トマト:ふん、ではそっちの棚を任せるわ、私はこっちを探す。


 部屋は再び静寂に包まれ、さらさらと本をめくる音だけが残される。ろうそくの炎が揺らめき、時間が過ぎていく。もうどれほど時間が経っているか、雪掛トマトは疲れた目をこする時、横にいる人が突然驚きの声を上げた。


蛇腹きゅうり:雪掛、これを見てくれ!遠くの山々がそびえ立ち、草木が美しく……精霊がなんとかって――これはなにを書いているのだ?

雪掛トマト:精霊ありけり、深き洞窟にて閑居せん……と絵の中に書いてある。精霊は輝かん。黄金の宮殿で道をさまよい、音楽が奏られ優雅に舞が舞われん。美味なる食物と酢を供え、祭儀を行わん。歳除の夜、永遠に恵みもたらさん……

蛇腹きゅうり:もしかして……あの山の精霊を記録したものだろうか?見る限り、この地域の村民たちからも崇拝されたようだ。

雪掛トマト:そう、ここには歳除の夜に祭儀が行われることが明確に記されている……今の時期に近いわ。

蛇腹きゅうり:今では山の精霊についての言及する人はいなくなり、祭儀も廃止されているだろう。最近起こった怪事件も地下に隠された山の精霊と関係があるのか?

雪掛トマト:この祈祷の言葉から見ると、山の精霊も邪悪な獣ではなく、この地域の豊作を守る善神として崇拝されていたみたいね……

蛇腹きゅうり:これだけの情報では判断がつかない。もう少し探してみよう……


 ガシャッ――書閣の扉が力強く開けられ、老虎菜が勢いよく入ってきた。


老虎菜:おい、蛇腹きゅうり、ここにいたんだな!早く、いい知らせがあるんだ!

蛇腹きゅうり:なんの知らせだ?

老虎菜状元紅からの伝言が届いた。行方不明の子供たちが全員見つかったぞ!

雪掛トマト:本当!?よかった……でも、状元紅が帰ったばかりじゃない、こんなに早く?どこで?

老虎菜:あの、彼は自分が見つけたわけじゃないって――

蛇腹きゅうり:だったら誰が……?

老虎菜:俺も不思議に思ったが、彼はそれ以上なにも言わなかった、今は子供たちの世話で忙しいはずだ。

雪掛トマト:おかしいわね、わたしたちが何日も探していたのに、なかなか進展がなくて……どうして急に見つかったのる

蛇腹きゅうり:それなら、俺たちも行ってみよう。きっと状元紅は手伝いが必要なはずだ。

雪掛トマト:うん、今すぐ出発しよう!


山の精霊の昔話・五

昔のことには執着する必要はないと、わかってほしい。



 山の麓にある小さな村には灯りがともり、ぼろぼろの服を着た無邪気な子供たちが村の入り口に集まり、駆けつけた親族たちとの再会を待っていた。

 再会する人々は、時折悲しい涙を流すこともあり、書院の数人はその光景を見て静かになる。すると、人ごみの中で見覚えのある赤い姿を見つけた。


蛇腹きゅうり状元紅……やっと見つけた。

状元紅:あなたたち……

雪掛トマト:伝言を聞いてすぐに山を下りた。子供たちが見つかったことは本当によかった!でも、彼らを連れて帰ってきたのは誰だったの?

状元紅:あの白酒という食霊でした。

蛇腹きゅうり白酒……?

状元紅:彼はあそこにいる……女児紅が彼に言いたいことがあると言って、私はしばらくここで待っています。


 状元紅の少し心配そうな視線を追うと、薄暗い片隅で、女児紅白酒の裾を執拗に引っ張っているのが見えた。しかし、白酒は面倒くさそうなようすだ。


老虎菜:いや、女児紅さん……泣いてるんじゃないのか?

雪掛トマト:あいつ、まさか女児紅ちゃんをいじめてるんじゃないよね?だったら懲らしめてやらないと――

状元紅:話を終わらせた方がいい……女児紅のあんな表情を見たことがない、本当になにか大事な話があるのかもしれません。

蛇腹きゅうり:今の状況や前回の感じを見ると、女児紅さんが必死に白酒と話をしているように見えるが。

雪掛トマト:彼らは……いったいなにを話しているのかしら……


 みんなが話している時、白酒が手を振り、女児紅は足元がよろめき、地面に座り込んで、目の中の涙は切れ糸のように流れ出て止まらなかった。

 状元紅の目から火花が飛び散り、急いで少女を抱きしめる。顔を上げると、彼の目には抑えきれない感情が溜まっていた。


雪掛トマト:ちょっとあなた!女の子をいじめてどういうつもり?

蛇腹きゅうり:雪掛、待ってくれ!


 鋭い氷雪が怒りの刃に変わり、白酒に向かう。白酒は平然とした顔で剣を振りかざし、鳴り響く音の中で氷の刃をかすめ、そのまま雪掛トマトと方向に襲い掛かった。

 3人とも驚いたが、火花が散る中、硬い鞭と鉄拳がたけだけしく迎え撃つ。


老虎菜:おい、女の子に手を出すなんてどういうつもりだ?

白酒:……戦いたいなら遠慮なく、3人一緒でもいい。

雪掛トマト:あなたは……!?

状元紅:その前に、私たちは決着をつける必要があります。

白酒:お前が望むなら、いつでも相手をする。


 2本の剣が抜かれ、刃の光がふたりの顔を雪のように冷たく映し出した。雪掛トマトはなにか言おうとしたが、背後で蛇腹きゅうりに袖を引かれた。

 状元紅の表情は粛然としており、冷たい殺意が眉間に沸き上がるが、柔らかい手に剣を執る腕を引っ張られた。女児紅は憂いた表情を浮かべ、軽く首を振った。


女児紅状元紅兄さん、勘違いです……彼は私に手を出したわけではありません、自分で転んだだけです……

状元紅:あの日地宮から帰ってきてから、あなたはずっと落ち込んでいたのは……あの人のせいですか?

女児紅:……いいえ、あなたにわからないこともあります。


 女児紅は黙って頭を垂れ、この状況を見た状元紅はため息をつき、手にしていた剣を引っ込めて目の前の白酒を見た。


状元紅:もういい、行ってくれ。

白酒:悪気はなかった。今日も子供たちを連れ戻すために、ここに来ただけだ。

白酒:それから、女児紅さん、言っただろう……昔のことに執着する必要はないと、わかってほしい。

女児紅:でも……今と過去の区別がつかなくなってしまいます……

白酒:ただ今ここにいるすべてが事実だ……他にも用事があるので、失礼する。

蛇腹きゅうり:待って……あの子供たちをいったいどこで見つけたんだ?


山の精霊の昔話・六

またうさぎ……これらの怪事件はやはりあの地宮と関係しているのか?


蛇腹きゅうり:待って……あの子供たちをいったいどこで見つけたんだ?

白酒:裏山の洞窟にいた。

雪掛トマト:裏山の洞窟……?この数日間、私たちは後山のあちこちを捜索していたけど、そんな場所は見つからなかったはず……

蛇腹きゅうり:裏山の地形は複雑だ。近くの村民でも山に薬草を採るときに迷うことがある……どうやって見つけたんだ?単に偶然山に行っただけか?


 みんなに質問されて、白酒は不機嫌そうに眉をひそめたが、説明をするつもりはないようだった。


白酒:そういうことについて、俺が理解できるまで答えることはできない。失礼。

雪掛トマト:ちょっと待て!――もう、礼儀知らずめ!もう行っちゃうの!?


 雪掛トマトが怒って足をドンドンと踏み鳴らすも、柔らかく小さな手が裾を引っ張ってくる。


村中孩童:お姉ちゃん、あの人……悪い人じゃないよ。彼は僕たちを救ってくれた。

雪掛トマト:そうだ。さっきは混乱していて、なにも聞けなかったけど……坊や、誰があなたたちを連れ去ったか覚えている?いったいどこにいたの?

村中孩童:わからないんだ……誰かに殴られたら気絶したような気がして、気がついたらお兄さんに連れて帰ってもらってたんだ。

蛇腹きゅうり:殴った人の顔を覚えているか……?

村中孩童:覚えてない。仮面を被っていたような……あ、そうだ、気を失った後、ずっと夢を見ていたんだ。

雪掛トマト:……どんな夢?

村中孩童:ずっと不思議な音楽が聴こえて、夢の中の場所が村に似ているような、似ていないような……毎日美味しいものもたくさん食べて……

老虎菜:お腹が空いているから、そんな夢を見たんじゃないか?俺もそんな夢を見たことがある!

村中孩童:でも、一番すごいのは、二郎と花ちゃんも同じ夢を見たって!それに、食べものも全部同じだったんだ!

老虎菜:そ……そんなこととあったのか?

村中孩童:うん、だから、そんなに怖くなかった……すごく楽しい夢だったし!

雪掛トマト:みんなの体に怪我はなさそうだし、不幸中の幸いとしよう……

村中孩童:あ、そうだ、夢の中で美味しいものを届けてくれたのは小さなうさぎだったよ。両親を思い出して、悲しくなると、うさぎさんが遊んでくれたんだ!

雪掛トマト:うさぎ……?


 その時、みんなの近くで心配そうに手を振っている夫婦を見て、少年は急いで彼らに別れを告げた。みんながためらいがちに顔を見合わせ、それぞれ考え込んでいた。


蛇腹きゅうり:またうさぎ……これらの怪事件はやはりあの地宮と関係しているのか?

雪掛トマト:あの子達がなにも知らないのは残念ね…あの洞窟に行って確認しよう!

状元紅:まあ、そうするしかないでしょう。仮面の男たちがわざわざ子供たちをさらったのに、なにもしていなかったのは、別の目的があるのかもしれません。

女児紅:私も、皆さんと一緒に行きます。

状元紅女児紅、あなたは村で休んだ方がいいのでは?

雪掛トマト:そうね、日も暮れるし山道は危ないし……先程も……女児紅さんはここでゆっくり休んで!

女児紅:みんなの足を引っ張らないようにします、子供たちがなにか起こったのか調査したいです……それに、自分に関係することを解明したい。この旅が役に立つかもしれません。

状元紅:……それなら、私について来なさい。

女児紅:はい……


 山道の途中まで行くと、露が濃くなり、月が雲に隠され、薄牛乳色の霧が目の前を包み込む。まるでカーテンのように重なり合って降ってくる。


蛇腹きゅうり:霧が出てきた……前が見えにくいから、ちゃんと前の人に、ついて行くんだ。

老虎菜:この霧は怪しいぞ。先程まで晴れていたのに。

女児紅:あそこに……なにかが走っていきました!

状元紅:みなさん、気をつけてください、堕神か野獣かもしれない。このような霧の日は注意して対処しないといけません。

雪掛トマト:違う……見て、あれは……


 霧が立ちこめ、草木が揺れている。少し離れたところで、白いうさぎが一歩ずつ後ろを振り返りながら跳ねている。時々、耳を軽く動かして、後ろにいる人たちの愚かさを嘆いているようだった。


女児紅:うさぎです……どこかに案内しようとしているのでしょうか?

状元紅あのうさぎです。でも、前回よりもっと小さく見えますが……あのうさぎについて行きましょう!



山の精霊の昔話・七

なにかをこちらに伝えようとしているのかしら。


 白うさぎを追って密林を回ると、やがて目の前がパッと開けて、霧が晴れてくる。わびしい月の光に照らされて、山洞の入り口が藤の蔓に覆われた様子がはっきりと見えた。しかし、振り返ってみると、白うさぎに姿は消えていた。


状元紅:洞窟です。あのうさぎはわざと私たちをここに導いたのですか?

雪掛トマト:この洞窟はうまく隠されているね。私ちが数日探してもみつからなかったのは不思議じゃはいわ。中に入りましょう!


 みんなは洞窟の入り口を隠そうとする草や蔓を払いのけ、洞穴に入った。その中には大きな穴があぬた。洞窟の天井の裂け目から漏れてくる淡い光が、なにもない空間をさまよい、薄暗い中に立ち現れた細長い黒影をほのかに照らした。


蛇腹きゅうり:誰かいる!

白酒:お前ら、ここを見つけたのだな……

雪掛トマト:なぜまたあなたなの?ここで子供たちを見つけたんでしょう?どうしてまたここに来たの?

白酒:調査のためだ。

雪掛トマト:……?

白酒:お前らも調査に来たのなら、ご自由にどうぞ。ただし、邪魔はしないでほしい。

雪掛トマト:傲慢なやつ。まあ、あっちに行って見よう。


 みんなはそれぞれに、洞穴の中を石や木々をよく調査していたが、突然、雪掛トマトが驚いた声を上げた。


雪掛トマト:早く来て、見つけたよ!

蛇腹きゅうり:……?なにを見つけたって?

雪掛トマト:ほら!壁に描かかれたものを見て!

蛇腹きゅうり:見覚えがあるな、地宮の絵と似ているぞ!?状元紅、こっちを見てくれ!


 状元紅が松明を持ち上げると、火光に照らされ、石壁の模様の間に緑の蛍光が点滅し、古代の幽霊が蘇っているようだ。


状元紅:間違いない……祭壇に描いてある模様です!

女児紅:……まさか、こおと地宮が関係している?そういえば、先程はうさぎがここへ案内してくれたけど、もしかしたらここと地宮は繋がっているかもしれない!

老虎菜:でも、地宮の祭壇は絵巻がないと開かないはずだし、俺たちも絵巻を持っていないよ。

白酒:この石壁の向こうになにかあるなら、剣で斬ればいい。

雪掛トマト:ちょ、ちょっと!無茶しないでよ!


 白酒の腰に掛けた剣はまだ鞘から出ていなかったが、壁から金色の光が溢れ出しやみんなが一斉に動きを止めた。すると、白うさぎが影から飛び出してきた。


白うさぎ:きゅっ、きゅっ……

女児紅:うさぎちゃん……またあなたね。

雪掛トマト:なにかをこちらに伝えようとしているのかしら。

老虎菜:なんだか怒っているように見えるなあ、悪口を言っているみたいだ……時々、トラたちもこんな顔をするから。

白うさぎ:きゅっ!


 みんなが困惑していると、白うさぎは耳を振り、呆れたように身を転がし、壁に向かって何度か跳び、やっと壁の一番下の模様に触れた。その時、まばゆい金色の光が溢れ出した。

 洞窟全体が一瞬黄金の光に包まれ、輝かしい宮殿みたいに照らされる。石壁全体がゆっくりと揺れ始めた。


蛇腹きゅうり:本当に仕掛けだ……!

白うさぎ:きゅっ、きゅっ!


 洞窟では瓦礫が落ち、轟音が絶え間なく響いている。石壁の間の隠し扉がゆっくりと開き、そこから正体不明の物体がいくつも転げ落ちてきた。


状元紅:あれは……人ですか!?


山の精霊の昔話・八

あいつらはやはり逃げ道を確保していた。


 地面にもがいている何人か縄で縛られ、口の中に布を詰め込まれたまま嗚咽していて、顔も歪んで紫色になっていた。


蛇腹きゅうり:この人たちの服装から見ると、山賊みたいだけど……

雪掛トマト:確かに、良い人には見えないね。彼らを解放して、聞けばわかるよ!


 自分を縛っている縄が切られたのを見て、山賊たちは震えながらひれ伏して地面を頭でゴンゴンと叩き始めた。


山匪:英雄の方々、お願い、助けてくれ!も、もう二度としません!

雪掛トマト:なにをしたの、さっさと言いなさい!

山匪:お、俺たちはあいつらに脅されて利用されて、子供たちを連れ去った……俺たちも騙されていたんだ!

状元紅:村の子供たちを誘拐したのはあなたたちでしたか!?……誰の指示?言いなさい!

山匪:英雄様、手を出さないでください!言います、言います!

山匪:数十日前、あの黒服の人たちが突然やってきて、俺たちと取引を……山の下の子供たちをここに誘拐すれば、報酬をくれると。

白酒:黒服……なんのために子供を?

山匪:……こ、この子たちを使ってなにか儀式をするだって言って。俺たちはお金を稼ぎたいだけで……詳しくはわかりません。

状元紅:儀式……?あの子たちになにかしたのですか!?

山匪:それは……本当にわかりません。彼らが来たとき、俺たちは外に見張れと追い出されました……

山匪:ただ一度だけ、彼らが細い針で子供たちの血をとっているのを見ました……でも数滴だけ……

雪掛トマト:ちくしょう、あいつら……他には?他になにを知ってる?

山匪:そ、そういえば子供たちは、小さい頃から霊力に祝福されて、非常に清らかな存在だと言っていたような……それ以外には、本当になにも知らないんです。

蛇腹きゅうり:なら、あんたらはなぜここに縛られていたんだ?

山匪:数日前、俺たちは洞窟で休んでいたのですが、いつの間にかその暗い部屋に落ちてしまい……目が覚めると、手足を縛られていたんです……

山匪:英雄の皆様、ごめんなさい!神様の怒りにふれ罰を受けたんです。本当に反省してます!

白うさぎ:きゅっ、きゅっ!


 山賊たちは悲鳴を上げながら頭を地面に打ちつけるのを見て、そばにいる小さなうさぎは憤りの声を上げ、軽蔑したように横を向いた。


状元紅:あなたたちの罪はそう簡単に帳消しにはできません……一緒に山を下りて府衙に行きましょう。

山匪:え、英雄様――

蛇腹きゅうり:おとなしく起きろ!力が残っているのなら、役所の裁判官に弁解するんだな。


 言い逃れはできないことがわかると、地面に伏していた山賊の目には冷酷な色が現れた。彼は突然飛び上がり、手にした冷たい光る曲刀で一番近い女児紅に迫った。


状元紅:……!?


 他のみんなが反応する前に、白と赤のふたつの影が女児紅の前を素早く遮り、カランという音の中、曲刀は鮮血の赤とともに落ちた。

 山賊は顔を押さえて地面を転げ回り、白酒は無感情に剣を振り上げたが、状元紅に軽くそれを受け止められた。


状元紅:まだ真相がわからないので、彼を残しておかなければならない……

雪掛トマト:待て……彼ら、なにかおかしい。


 這いつくばっている山賊たちは、恐ろしい形相をして、口の端から泡を吹いていたが、やがて声も出なくなった。


白酒:彼らに手を出す必要はなかったようだ。あいつらはやはり逃げ道を確保していた。

状元紅:あいつら……あの黒服の人たちを知っているのですか?

白酒:……なにも申し上げることはない。

状元紅:……あなたが言わなくても、私は引き続き調査します。

状元紅:さっきは……助けてくれてありがとう。


 状元紅は軽く礼を言い、白酒はうなずいたが、女児紅は複雑な目つきを避けていた。彼は剣を収めるとら一人去っていった。


雪掛トマト:なんでまた……一人で行ってしまったの。え、この石壁の上に、うさぎの石像が?


 全員が雪掛トマトの指指す方角を見ると、荒々しい石壁の真ん中に、一匹の石うさぎが彫られていた。それは祠の上に鎮座し、信者の崇拝を受ける神のように尊厳な姿を見せていた。


終わり・旧友との再会

山の精霊がそんなにたくさんのことをしてくれたのに、みんなに忘れさられたなんて。なんだか、かわいそう……


数日後

鬼谷書院


 一年の最後の授業が終わり、生徒たちは小鳥のようにざわめきながら荷物をまとめている。雪掛トマトは子供たち一人ひとりに「帰り道は気をつけて」と注意を促し、それでも心配しながら校門まで見送る。


蛇腹きゅうり:もういいよ、皆遠くに行ってしまったぞ。

雪掛トマト:あなた、どうしてここにいるの……

蛇腹きゅうり:そんなに子供たちが恋しいのか?年が明けたら会えるじゃないか。

雪掛トマト:彼らが心配なのよ。この間のこともまだ解決してないし、もっと注意しなきゃ。

蛇腹きゅうり:安心しろ、状元紅によると、あの件から村は警備を強化し、昼夜パトロールが行われるようになった。

雪掛トマト:ならよかった……


 話している間に、近くの山道に2、3人の姿が現れ、彼らは手を振りながら歩いて来たみたいだ。


雪掛トマト:あの人たちは見覚えがある……八宝飯たちよ!?

蛇腹きゅうり:本当だ!それに大きな猫に乗っている子供もいる……

八宝飯:良かった、嘘じゃなかったんだ。この荒れ野には本当に書院があるんだね!久しぶり!

蛇腹きゅうり:あんたら、どうしたんだ?

マオシュエワン:それは、誰かさんが前回の仕事をうまくこなせなかったので、石碑の修理を続けるために戻ってきたんだよ。

八宝飯:自分は関係ないみたいな言い方しやがって……そうだ、オイラたちは今日、高麗人参からの伝言も預かっているんだ。

雪掛トマト高麗人参……?

八宝飯:ええと、つまり地府のあの閻魔大王だよ。

蛇腹きゅうり:あなたたちは地府の人だったのか?!そうか……

八宝飯:その通り、先に身分を隠したのも本意ではなく、高麗人参に地府の情報を漏らしてはいけないと指示されてたんだ……

蛇腹きゅうり:問題ない。俺も地府についてはある程度知っているから、あんたらのやり方もわかる。

八宝飯:ふふ、でもオイラは高麗人参に言ったんだ。書院のみんなは正直な人たちだって……そうだ、預かっている伝言も、あの日地宮で起こった怪事件と関係があるかもしれない。

八宝飯:猫耳ちゃん――

猫耳麺、おふたりさん、こんにちは。高麗人参様の言葉を、僕が代わりにお伝えします。「鬼谷近くの山野に霊力が豊かな宝地があり、偶然その地に一匹の霊獣が生まれたことがある」

雪掛トマト:霊獣……?地方誌に載っている山の精霊のことかしら?

猫耳麺:その通りです。かつては地元の山民に崇拝されていたことがあり、その後、山河陣もこの地を陣眼のひとつとして設置していました。ふたつの力が合わさり、その霊獣がもっとも強い時には、一般的な食霊も超えるほどの力を持っていたそうです。

蛇腹きゅうり:山河陣……書院の近くには山河陣の陣眼があったのか。

雪掛トマト:それは凄い陣法なの?

蛇腹きゅうり:光耀大陸の天幕をつなぐ大陣という話だ。

雪掛トマト:やっぱり鬼谷の風水はいいのね……道理で金駿眉がここに書院を建てたわけだ。その後は?

猫耳麺:その後、麓の戦乱が頻発し、民も流浪しているうちに次第に山の神を祭る伝統は廃れ、加えて最近は山河陣も……とにかく、ここ数年、あの霊獣の霊力も急速に衰えています。

猫耳麺高麗人参様も眠っているうちに偶然、山の精霊と交流し、たぶん……その精霊が人参様に接触したのでしょう。

雪掛トマト:山の精霊はなにを言ったの?

猫耳麺:昔、人々が地宮を修繕したとき、山の精霊は地宮の入り口をいくつかの絵巻の中に封印し、村の尊敬される長老に託しました。

猫耳麺:毎年の正月、人々は地宮で儀式を行い、食べ物を備えますが、最近は誰も訪れていないそうです。

猫耳麺:山の精霊は自分の力が次第に失われていることを知っていますが、麓の人々が山洪や台風、野獣や毒虫から守るため、自分の霊力を使い続けています。

猫耳麺:残った微かな霊力を維持するために、山の精霊は村民から年越し料理を少し盗んでいました……そのことについて、彼も申し訳ないと思っているようです……

雪掛トマト:年越し料理……?地宮にある食べ物は、山の精霊が自ら盗んできたのね……

猫耳麺:うん、でもほとんどの年越し料理は肉で、山の精霊が食べられるものが少ないんだって……昔の人々は彼がうさぎの精霊だと知っていたから、いつも野菜や果物を供えていました。

雪掛トマト:うさぎ!?

八宝飯:そうだよ……オイラたちが地宮で見た小さなうさぎは、山の精霊の霊力が衰えた姿だろう。

蛇腹きゅうり:それなら……彼は山賊がいる洞窟に俺たちを案内してくれた。黒服の人たちがなにをしようとしているのか知ってるか?

猫耳麺:彼もよく知らないみたいだけど、あの黒いやつらにちょっとした罰を与えて、寝ている子供たちにも食べ物を与えたって。でも、精霊の力は限られていたから、最後は一人の食霊が子供たちを救い出してくれました。

雪掛トマト:そうだったんだ……あのうさぎの精霊は、今でも地宮にいるの?

猫耳麺:僕もよくわかりません。人参様が教えてくれたのは、山の精霊は以上を話した後、力を使い果たしたみたいで、眠りに落ちました。

雪掛トマト:山の精霊がそんなにたくさんのことをしてくれたのに、みんなに忘れさられたなんて。なんだか、かわいそう……(※一部文章が欠けている可能性があります)

八宝飯:それは簡単だよ!山の精霊の話をもう一度村で広め、信仰が戻れば、彼は必ず復活する。

雪掛トマト:そうだね……蛇腹きゅうり、急いで麓に行って、このことを状元紅たちに伝えよう!


波風が立つ茶屋・一

……彼らは今の白酒とはもう縁がない。


大晦日前夜

聖教


 暗い部屋の中、華麗なカーテンから儚げなろうそくの光が少しだけ漏れている。チキンスープは寝台に半ばもたれかかって、目を閉じている。

 カーテンが突然開けられ、目の前の冷たい表情の男が上から見下ろした。男の後ろには、入り口にいたはずの黒服の者たちが地面に倒れている。


チキンスープ:あら、白酒様……お久しぶり。今日はどういったご用事でしょうか?

白酒:鬼谷書院の近くの村で起こした事件は、お前らがやっていたのか。

チキンスープ:ふふ……なにを言っているのかわかりませんが、こんな深夜に女性の部屋に入り込むなんて、無礼では……?

白酒:時間がないんだ。くだらない話はやめろ。

チキンスープ:ふふ、まったく、相変わらず冷たいですね。

チキンスープ:聖教の仕業だという証拠は、見つかっていないのでは?妾が認めるとでも?

白酒:ふん、どうせまたあの聖主のためにやったのだろう。

チキンスープ:……そのような機密事項、貴方が聖教の一員にならない限り、教えられませんことよ。

白酒:次にこんな汚らわしいことをするのなら、許さん。

チキンスープ:残念ですが……

白酒:?

チキンスープ:聖教に協力しないと決めていても、あの山河陣を維持するのは無理よ……

チキンスープ:なにせ、貴方の亡き友人が、貴方のために聖主と交わした約束ゆえ。


 ろうそくの火がチキンスープの顔を照らしたり彼女は明るく微笑みながら、目の前にいる男の瞳に影が浮かび上がるのを、おもしろそうに眺めていた。


白酒:亡き友人……彼らは今の白酒とはもう縁がない。

白酒:山河陣に関しては……それがなくても目的を果たせる。その前に、聖教はおとなしくしていた方がいい。

チキンスープ:もちろん敵になるのは嫌ですね……いつか、また協力できるかもしれませんわ。

白酒:そんな日がくることはない。


 目の前の男が冷淡に剣を収めて去っていくのを見て、チキンスープは再び榻(※トウ:牀榻、寝台)の上に横たわった。握りしめていた彼女の指先も、徐々に緩んでいった。


チキンスープ:本当に……困ったこと。こんないい機会なのに、あの無能たちはなにもできないとは……


同時刻

鬼谷書院


 鬼谷に、時々爆竹の音が聞こえ、書院には灯りがともり、みんなは明日の大晦日の宴に必要なものを準備するのに忙しかった。


雪掛トマト:ふう……光耀大陸に来てから初めて迎える新年だ。大晦日の宴の準備がこんなに手間がかかるとは思わなかったわ。

蛇腹きゅうり:春節は家族が集まる日だし、今回の大晦日の宴はいつもより多くの人がいる。当然、手間もかかる。

雪掛トマト:そうね……今回は状元紅や地府の人たちも招待したし。金駿眉片児麺も呼んだと言ってたし。ところで、白酒も来るかな?

蛇腹きゅうり:昨日、八宝飯たちも一緒に茶屋で白酒に会ったんだ。彼は俺たちの招待状を受け取ったみたいだから、来るはずだな……

蛇腹きゅうり:もし手伝いたくないなら、休んでいいから。ここでぐずぐずしてると邪魔だぞ。

雪掛トマト:ふんっ、活躍するチャンスをあげてるんじゃない、わたしが遅いと言うのなら、自分でやってみてよ。

蛇腹きゅうり:そもそもあんたの助けは必要ない……余計なお世話だ。

雪掛トマト:それなら自分で用意しなさい!

老虎菜:……もう、雪掛が疲れるのを心配しているくせに、素直になれないのかな?

蛇腹きゅうり:なにをバカなことを!早く手伝いに来い!



別れもまたいつか出会う・波風が立つ茶屋・二

懐かしい顔がたくさん見えて、ついつい感慨にふけってしまったんです。


大晦日夜

鬼谷書院


クラゲの和え物:ガウーー!!

クラゲの和え物:大猫、もう一日中寝てたじゃない、一緒に遊んでよ!

猫耳麺:えっと……蕎麦はちょうどお腹がいっぱいになったところだったので、寝てしまったのかもしれません。

クラゲの和え物:でも、耳が動いたよ。きっと聞いていたはずだよね。あたしを騙してる……まあいいや、騙してくる大猫も可愛いかも!

クラゲの和え物:猫耳ちゃん、書院に残ったら?毎日大猫と遊べる!

猫耳麺:あわっ、そ、そんなに強く頭を抱えないでください。

金駿眉:よせ、諦聴をここに引き止めたら、地府の高麗人参様ら反対するだろう。

クラゲの和え物:ふん……でも、猫耳ちゃんを後数日ここに泊めさせてもいいでしょう。

金駿眉:じゃ、自分で頼みなさい。


 金駿眉は笑いを浮かべ、目の前の子供たちが遊んでいるのを見ていた。少し離れたところにいた八宝飯も仕方なさそうに首を振った。そして振り返ると、彼は誰かとぶつかってしまった。相手もあくびをしながら立ち止まり、半秒間ほど動けなかった。


八宝飯羊方蔵魚……?おい、なんで逃げるんだ!

羊方蔵魚:あ、兄貴、久しぶり、へへ……なんの用で来たんだい?

八宝飯:もちろん年越しの食事を食べに来たに決まってるじゃないか。そうでなかったら……なんのために来たと思ってるんだよ?

羊方蔵魚:ふう……そういうことか、俺はてっきり……なんでもない、縁があれば千里を経ても出会える!年越しの食事を食べに来たんだ!

八宝飯:ちょっとと待って、なんでオイラを見ると逃げたがるんだ?なにか悪いことでもしたのか?

羊方蔵魚:誤解だよ、俺は……今はちょっと嬉しくて、つい……

羊方蔵魚:ああ、なんてこった……!……あのお嬢さんたちも来たのか!兄貴、ちょっとトイレに行ってくるから、失礼するよ!

八宝飯:えっ……?


 羊方蔵魚が一目散に裏扉から出て行った。八宝飯は新しい客たちに目を向けたら、そこには南離印館のみんなが金駿眉と話をしていた。


金駿眉:待っていたよ。どうぞごゆっくりお過ごしください。片児麺さん、こちらは……?

片児麺:こちらは南離印館の副館長、明四喜です。

明四喜:書院の名を久しく仰いでおりました、招かれもしないのに来てしまって申し訳ございません。

金駿眉明四喜さんですか。わたしも片児麺の手紙であなたのことは聞いている。ようこそ、歓迎するよ。今日の宴は質素なものだけど、どうぞお召上がりください。


 ふたりは挨拶しながら、お互いを探り合う視線を交わした。明四喜の視線がさりげなく席の者たちを一瞥し、一瞬、落胆の色を浮かべた。


金駿眉:どうやら明四喜さんには、書院に知り合いがいるようだね。

明四喜:懐かしい顔がたくさん見えて、ついつい感慨にふけってしまったんです。

金駿眉:ふふ、それなら、どうぞお席にお着きください。


 杯を交わし、酔いが回る頃、爆竹のにぎやかな音とともに、書院の外は騒がしい音が聞こえて、村民たちがお年越し料理のいっぱい入ったかごを担いで、入ってきた。


状元紅:これは……

村人:この前のことでお礼を言う機会がなかったので、村人たちで考えたけど、お礼の品物がなくて……だからこうして自分たちで作った料理を持ち寄って、お祭りを盛り上げたいと思います。

老虎菜:ああ、すごく嬉しい!豚肘、子豚の丸焼き、魚の煮付け……え、この野菜と大根は……?

村人:これは山の精霊に供えるために持ってきたものです。数日前、ようやく地宮を開けるための最後の絵巻を祠堂で見つけたんですが……

村人:村のお年寄から 山の精霊を召喚するには、祭りの前に特別な踊りを踊る必要があると聞きました……

村人:最近、山の精霊が山から降りてきて食べ物を盗むことはなくなった……その踊りはもう伝承されていないのですが、やはり試してみようと思って……

雪掛トマト:祭りの踊り……なんで思いつかなかったの!?わたしは以前、その踊りを見たことがあるわ、みんなに教えてあげる!必ず踊れるようになるまで教えるわ!

村人:それはよかった!お願いします。



 灯りに包まれた書院は、活気にあふれた歓声と笑い声が絶えない。みんなが座って拍子を叩き、子供たちもそばで雪掛トマトと踊りのステップをぎこちなく真似している。


蛇腹きゅうり老虎菜、あのスカートは雪掛トマトに似合っているだろう。この光耀大陸の女の子みたいに。

老虎菜:えっ、なんて?聞こえなかったよ!

雪掛トマト:ねえ、おふたりさんも食べてばかりいないで、一緒に踊りましょう!餅米蓮根ちゃんも一緒に!

餅米蓮根:え――は、はい!


 パァン――華麗な花火が夜空を彩り、みんなの楽しい笑顔を照らした。雪掛トマトのスカートが舞い上がる裾が美しい弧を描き、まるで夜空に輝く花火のように美しい。

遥かな山々に太鼓と笑い声が響き、草木も踊るように揺れ、今年も豊年になり、天下泰平することを祝福している。



エピソード-サブストーリー名 

#include(稔歳之佑・ストーリー・サブ1~14,)

※誤植等が多いため、文脈的に正しいと思われる部分を差し替えたものを表記しています。

1.波風が立つ茶屋・三

この悪徳商人を見れば見るほどおかしい……


数日前

南離印館


 彫花蜜煎は、地に積み上げられた品物を3度目数え終わると、やっと安心して腰を伸ばし、汗を拭いた。


彫花蜜煎:もう問題ないよ!片児麺様、これらの書画は、副館長が最近集めた骨董品で、全部ここにあるよ。

片児麺:うん、お疲れ様。座って、お茶を飲みましょう。

彫花蜜煎:へへ、わかった!


 彫花蜜煎は、豆沙糕が渡してきた茶碗を受け取った時、ノック音がタイミング悪く軽く鳴った。厚い暖簾の外から、ニヤニヤ笑っている見覚えのある顔が入ってきた。


彫花蜜煎:悪徳商人?!なんでここに?

羊方蔵魚:なんでどこにでもあなたがいるんだ!こっちが聞きたいよ……

彫花蜜煎:え?なんだって?

羊方蔵魚:エヘン……ただ、偶然に感動していただけですよ。

片児麺:今日は客人を招待していませんが、なんの用事でいらしたんですか?

羊方蔵魚:実は、明旦那の使い走りとして来たんです。片児麺さんにお願いがあり。

片児麺:副館長……?私の助けが必要とはなんでしょうか?

羊方蔵魚:へへ、片児麺さんの画工は秀逸で、古画を修復するのが得意と聞いています……この件は全光耀大陸でも片児麺さんに頼るしかないですよ。

片児麺:……


 一時間後、羊方蔵魚は満足げに鼻歌を歌いながら絵巻を抱えて去っていったが、彫花蜜煎は彼の背中を見て眉間にしわを寄せずにはいられなかった。


彫花蜜煎:この悪徳商人を見れば見るほどおかしい……ものすごくニヤニヤしてた、まさか今回もなにか企んでいるんじゃ?

彫花蜜煎:しかし……副館長様は全部選び出すように言われたはずなのに、どうしてまた彼に一枚だけ預けたのでしょう……

彫花蜜煎:あれ、片児麺様……?大丈夫ですか?

片児麺:……なんでもありません、ちょっと考え事を。

豆沙糕片児麺様は疲れているのでしょう。絵の修復は疲れますから、温かいお茶をお召し上がりください。

片児麺:ええ、でも絵の中の風景は……まあ、次に副館長に会ったときに、その理由をしっかり聞いておかないといけないようです。



2.波風が立つ茶屋・四

少陽山、玄武宮……全てが昨日のようでした。


数日前

地府


 暗い地下室の中で、幾つかの幽燭が冷たい光を放ち、大陣の中の若者は目を半閉じていて、蒼白な顔の半分が闇に隠れていた。


猫耳麺高麗人参様、城主様が到着しました……

猫耳麺高麗人参様……?

辣子鶏:……

猫耳麺:また寝てしまいましたか……

猫耳麺:城主様、もうしばらくお待ちください。高麗人参様は長く寝らないはず、せいぜい一時間でしょう。

辣子鶏:この野郎は……いつからこうなった。

猫耳麺:もう一ヶ月以上でしょうか。

辣子鶏:またあの男と関係があるのか……

辣子鶏:猫ちゃんは出てくれ。俺がここで彼をみまもる。


 重厚な玄関の扉が再び閉まり、冷たい匂いが漂う塵が舞い上がった。辣子鶏は重々しい表情で向こうにある大臣椅に座った。

 どれほどの時間が経ったか、眠っていた青年がゆっくりと両眼を開けて、瞳の中にぼんやりとした波を浮かべた後、また静けさが戻る。


高麗人参:来てくれましたか……城外の山河陣……

辣子鶏:わかってる、また壊れた石碑を修繕するんだろう……大丈夫、後で出発する。

高麗人参:……今回の状況はもっと厄介かもしれません。大陣の四角に不安定な兆候が現れました。八宝飯たちを先に一か所に修理させたが、残りは……

辣子鶏:ちょっと待て……大陣のことは今聞きたくない。お前、最近眠る時間がますます長くなってるってわかってるのか?

高麗人参:大丈夫……心配する必要はありません。

辣子鶏:なにが大丈夫だって!?いつまでこの大陸に閉じ込められているつもりだ?いずれ、お前の霊力は尽きてしまうぞ!

高麗人参:わかっているでしょう……これは吾自身が立てた誓い、たとえ本当にその日が来たとしても……

辣子鶏:……やめろ!

高麗人参辣子鶏、さっき夢を見ました。昔の日々を……少陽山、玄武宮……全てが昨日のようでした。

辣子鶏:……

辣子鶏:まあいい……まったく変わらない頑固者だ。昔と同じ、なにも変わっていない。

高麗人参:そなたもそうでしょう……少しも変わっていません。

辣子鶏:……ここでこれ以上話しても無駄だ、大陣を修復しに行く。お前は……自分を大事にしろ。

高麗人参:安心して……吾は必ず生き残ります。少なくとも……その日までは……


 玄鉄の扉が閉まり、幽霊の影のようにゆらめくろうそくはつぶやきと暗闇とともに徐々に暗くなった。


3.波風が立つ茶屋・五

浄化?


数日前

聖教


 彫刻された燭台は暖かい光を揺らし、カーテンは暖かさに満ちて、窓枠から吹きつける冷たい風と対照的だった。

 木の扉がそっと開けられ、うっとうしい化粧品の香りに、ハイビスカスティーは不快そうな表情を浮かべる。さっきまで自分の横に寄りかかっていた少年も、するりと屏風の陰に隠れた。


ハイビスカスティー:聖女?最近、私の部屋に出入りするのがますます勝手になってきたな。こんな遅い時間になんだ?

チキンスープ:お休みを邪魔して申し訳ございません……失礼しました。聖主様、お話があります。

ハイビスカスティー:……言え。

チキンスープ:聖主様が再びこの世に現れた時、ご指示に従い儀式を準備しましたが、慌ただしさの中で大事なことを失念しておりました……

ハイビスカスティー:ほぉ?大事なこととは……なんだ。

チキンスープ:……浄化です。

ハイビスカスティー:浄化?

チキンスープ:そう……浄化のされていない身体が聖主様の聖なる力に耐えることができず、様々な症状が出るかもしれません。それも妾が心配していることです。

チキンスープ:妾はあらゆる手段で方法を探り、ようやく手がかりを見つけました。

ハイビスカスティー:話してみなさい、どうやって浄化するんだ?

チキンスープ:当然、聖主様のお体を天地の一番純粋な力で浄化することです……

チキンスープ:とある天地の加護を受けた場所を見つけました。そこは山河陣の力に養われ、山の精霊にも守られて、そこで生まれた子供も純粋な霊力を持っています。

チキンスープ:しかし、まずその子供たちの血を使って実験をしなければなりません。効果があれば、それを採取し続けて……聖主様の体を浄化するための入浴剤として使います。

ハイビスカスティー:山河陣……山の精霊……ふふ、もし本当に効果があれば、試してみたいな。

チキンスープ:妾はもう手下を手配しました、もうすぐそこに着くでしょう。聖主様は良い知らせをお待ちください。

ハイビスカスティー:それは良い……聖女はやはり頼もしい。私がなにも心配しなくてもいい……

チキンスープ:聖主様、お褒めくださって光栄です。聖主様のために尽力いたします……もう遅いので、お先に失礼します。

ハイビスカスティー:ちょっと待て――

チキンスープ:聖主様、他になにかご命令はありますか?

ハイビスカスティー:次は、ノックを忘れないように。

ハイビスカスティー:刺客と見誤り、誤って聖女を傷つけるならまだしも、もっと深刻なことが起こったら……困る。


チキンスープ:……聖主様の教えを謹んで覚えておきます。



4.波風が立つ茶屋・六

きっと無事です!


数日前

ある村


 夜が更け、寒風が強くなってきた。女児紅は暇そうに机に置いた赤いろうそくを触っていると、木の扉が開く音をようやく聞こえた。


女児紅状元紅兄さん、やっと帰ってきましたね!

状元紅:こんなに遅く、どうしてここに来たのですか?

女児紅:張おばさんの代わりにいくつかの自家製の酒を送ってきました、あなたがここ数日手助けしてくれたことにお礼をしたいって……ところで、今日はどうでした?

状元紅:まだ手がかりは見つかっていません……今朝、自分の子供が夜中にいなくなったと言った村民がいます。年越し料理物の当難事件と関係があるかもしれません。

女児紅:子供の失踪……

状元紅:この村は人里離れた場所にあり、年末になると野獣や盗賊が現れることが多い。しかし、今回はいつもと違うなにかがあるようです……

女児紅:確かにおかしいですね……状元紅兄さん、明日一緒に調査に行きましょう――

状元紅:だめだ、今回はもっと危険な事態が起こる可能性があります。ここでじっとしていてくれ……

女児紅:いくらなんでも、あたしも食霊ですよ、野獣や盗賊なんて……たとえ堕神だとしても、あたしに戦う力はあります!

状元紅:ダメです!

女児紅:なんで……状元紅、あたしはそんなに弱いと!?

状元紅:もちろん違います!ただ、本当に私たちふたりとも対処できない危険があったら……とにかく、あなたが危ないことになるより、私のほうが……

女児紅:や、やめて――そんな不吉なこと!きっと無事です!

状元紅:……


 しばらくの沈黙の後、女児紅はなにかを思い出したように、袖から真新しい赤い剣穂を取り出し、さりげなく状元紅の前に押し付けた。


女児紅:あなたの剣穂、古くなったでしょう。今日は暇だったので、新しく作ってみました……

状元紅:……ありがとう、よくできている。

女児紅:まあまあですよ……暇でしたから、適当に作っただけです……

状元紅:……待って、なにか焦げ臭い匂いがしませんか?

女児紅:しまった!あなたと話すのに夢中で、肉じゃがを煮込んでいることを忘れていました!

状元紅:……?

女児紅:張おばさんが作る米酒は村でも有名で、おつまみがないといけませんから。……あなたも毎日早起きして遅く帰ってくるから、またなにも食べていないんでしょう?

状元紅:肉じゃが……あなたが自分で作ったんですか?

女児紅:もちろんです……あつつ!ふぅ……もう立ってないで、早く手伝ってください!



5.波風が立つ茶屋・七

これが地府のプロだったのか。


深夜


マオシュエワン:暗い……ここはいったいどういう場所だ。おい、八宝飯、羅針盤はまだ直っていないのか?

八宝飯:変だな……完全に故障してしまったのか、この森に入ったときは大丈夫だったのに。

マオシュエワン:待って……前からなにか音が!


 蔓や葉が絡み合う森の奥、赤い服と黒い髪の姿が現れ、ふたりに向かって移動しているようだった。


マオシュエワン:……女の幽霊!?

八宝飯:下がれ、オイラが守ってやる!妖魔を払いのけるのは、オイラのような地府のプロに任せりゃいい……

マオシュエワン:くそっ!誰が怖がるか!守られる必要なんてない!

八宝飯:うわ、そんなこと言ってる場合じゃない……彼女が来る……

八宝飯:天と地よ、妖魔と幽霊は去れ、退け!退け!妖魔退散!

マオシュエワン:……

八宝飯:な、なんで効かないんだ?あああ――近寄るな!!

女児紅:よかった!やっと生きてる人を見つけました!

八宝飯:……!?

八宝飯:幽霊じゃなかったのか……

女児紅:幽霊……?

マオシュエワン:ぶはははは……

マオシュエワン八宝飯、あんたさっきの芝居はすごかった。これが地府のプロだったのか、ふはははは……

八宝飯:黙れ!あんたになにがわかる……あれはリュウセイから学んだ、プロの悪魔祓いの真言だ!!

マオシュエワン:ははは、リュウセイ渓に騙されたんだろう、臆病者!

八宝飯:この野郎……!

女児紅:ちょ、ちょっと、ふたりとも、喧嘩はやめて、あたしはさっきのこの森で……あの、散歩していたら、迷ってしまいました……おふたりは出口を知っていますか?

八宝飯:お嬢さん、こんな深夜にこんなところで散歩するのは、どういう趣味なんだ……

八宝飯:まあいい、ちょうどオイラたちも出口を探しているんだ、ついて来てくれ。



6.暖かな春の息吹・一

なんとも……実際、貴方と不才はあまり変わりません。


深夜

地府


 明四喜は静かに大陣の真ん中で眠っている青年を見つめ、視線がわずかに動いた。しばらくして、青年はやっと疲れた表情で目を開けた。


高麗人参:来てくれたか……

明四喜:不才を呼んだのは、また山河陣の為か。

高麗人参:……いったい山河陣になにをしました。

明四喜:今の貴方の状態では、やるべきことは陣から出て、霊力を回復することです。……どうでもいい事件を調査することではありません……

高麗人参:どうでもいい事件?吾たちは、なにを犠牲にしてきたか、わかっているのに……これは彼の望みではありません。

明四喜:……言ったはずです、彼の苦労を無駄にはしないと。


 相手のとらえどころのない薄笑いを見て、陣の中にいる青白い青年は眉を寄せた。


高麗人参:……あの日から、陣の中の英霊たちが次第に消えています。そなたも知っていますよね、このままでは、山河陣は……天幕も崩れるでしょう。

明四喜:あの日……?もう彼に会ったんですね。

高麗人参:そう……ただ彼はもうあの「彼」ではない。昔のあの人は亡くなってしまったのに、なぜ執着を?

明四喜:執着?

明四喜:長年この大陣を守り続け、自分を犠牲にしてもそれを維持している……不才よりも貴方の執念はよほど深いでしょう。

高麗人参:それは……約束です。

明四喜:……

高麗人参:それでも止めないのであれば、地府はそなたを敵にするしかありません……吾が生きている限り、この大陣を守るために最善を尽くします。

明四喜:ふふ、なんとも……実際、貴方と不才はあまり変わりません。もしかしたら、同じくらい哀れかもしれません。

明四喜:失礼します……お元気で。



7.暖かな春の息吹・二

あなたも主がいるんだ。どんな人?


深夜

聖教


 頬に冷たくて粘り気のある感触が伝わってきて、ピータンは突然目を覚ました。目の前には、小さな蛇が2匹真っ赤な舌をちらつかせ、その上から冷たい視線を送る少年がいた。


ピータン:……

蛇スープ:ここで寝て、ください。

ピータン:ああ……頭が……痛い。

蛇スープ:青ちゃん、シロちゃん。

ピータン:なにを……なさるんですか。

蛇スープ:あなたを噛んだら、また眠れる。もう痛くない。

ピータン:いやだ……あっちへ行ってください!

蛇スープ:どうでもいい、もう知らない。


 夜風が吹いてきて、ピータンは血管が脈打つ頭を抱えて、やっと自分が少年と一緒に屋根の上に座っていることに気づき、そして2匹の蛇が自分の手を舐めようとしているのを見えた。


ピータン:……あなた、どうしてここに。

蛇スープチキンスープが、部屋にいる。いや。

ピータン:うう……ああ……痛い……

蛇スープ:あなた、病気だ。

ピータン:大丈夫です……

蛇スープ:あなた、さっき、夢の中で「主」って言った。あなたも主がいるんだ。どんな人?

ピータン:主……うっ……

蛇スープ:ひどい病気、だよね。

ピータン:主……主……僕はいったいなにを。

蛇スープ:あのやぶ医者を……探してあげる。

ピータン:……どうして……僕を……助けるのですか。

蛇スープ:青ちゃんと白ちゃんは、あなたがすきだから。



8.暖かな春の息吹・三

今日はあなたこそおかしいよ、旦那様。


 盛夏の書院で、蝉の声が鳴り響き、目の前に微笑む女が大きなスイカを割っている。


蛇腹きゅうり:雪掛……?

雪掛トマト:あら、やっと起きたのね〜良く眠っていたみたいで、邪魔したくなかったのよ。

雪掛トマト:さっき市場で買ってきたスイカは甘く熟していたの。井戸から取り出したばかりで、冷たくて美味しいよ。食べてみて――

雪掛トマト:え、寝ぼけているのかしら?ちょっと見せて……

蛇腹きゅうり:!!


 目の前の人が身を乗り出して、自分の額にそっと手を当てた。その指先がほんのりと冷たい水滴がついているのに、蛇腹きゅうりの耳の先が、思わず熱くなった。


雪掛トマト:もしかしたら、暑さのせいかもしれないわね。次回は昼食後に寝坊しないように気をつけてね〜

蛇腹きゅうり:雪掛……あんた、なんだかおかしい……

雪掛トマト:え?どこがおかしい?

蛇腹きゅうり:今日……あんたが妙にや、優しい……

雪掛トマト:あら、わたしはいつもこんな感じじゃない。今日はあなたこそおかしいよ、旦那様。

蛇腹きゅうり:な、なに?!旦那様?あんた……また冗談を言っているのか……またからかっているのか?

雪掛トマト:ふふ……まったく、からかうなんてしないよ〜

雪掛トマト:ほら、スイカを食べなさい。

雪掛トマト:ところで、なにを握っているの?汚いから、さっさと捨てて――


 蛇腹きゅうりは見おろすと、手には光がいまにも消えそうな松明を握りしめていた。その瞬間、暗い記憶が風のように心に駆け込んできた。

 目の前の女性はまだ微笑みながら優しく話しているが、とっくに不気味な蝉の音に溶け込んでいた。ゆらゆらと音楽が鳴り響き、辺りの景色が水面のように波打ち、ぼやけていく……



 暗い地宮の中で、みんなはそれぞれ寝転がって眠っていて、蛇腹きゅうりも夢を見ていた。彼は火が消えている松明を握り、苛立った表情をしている。


蛇腹きゅうり:これは……なんという変な夢だ……



9.暖かな春の息吹・四

なんで俺にもそんないい「父上」がいないんだあああ……


 昼の授業が終わり、生徒たちが書院を出て笑い合っているのを見て、先生の顔をしている餅米蓮根は少し緊張が解けたが、その時窓から一人の影が急に窓から身を乗り入ってきた。


羊方蔵魚:なかなかいい授業だったぞ。

餅米蓮根:うわっ!い、いつからそこに隠れたのですか……

羊方蔵魚:ふふ、さっきぶらぶらしていたら、たまたまここで授業しているのを聞いたので、面白そうだと思ってしばらく聞いていた。

餅米蓮根:でも、雪掛姉さんは山から降りる前に、部屋の中にいるようにって言ったじゃないですか……

羊方蔵魚:あれは冗談だよ。お客さんを足止めするなんて、鬼谷書院のもてなし方だとは思えないだろう?

餅米蓮根:そ……そうですか。

羊方蔵魚:当然。餅米蓮根だろう?若いのに絵が上手いなあ、どこで習ったんだ?

餅米蓮根:うん、書道や絵の描き方は……父さんから教わったんです。

羊方蔵魚:お父さん?

餅米蓮根:……私の以前の御侍です。

羊方蔵魚:そうか、お父さん……そういえば、あの親父も手取り足取り、俺に絵を教えてくれたな……あっ!なんでまた昔のことを思い出したんだ。

餅米蓮根:あなたも絵を描けるんですか?

羊方蔵魚:もちろんさ!正直なところ、ちょっと有名な画家だぞ。

餅米蓮根:本当……?どんな作品がありますか?

羊方蔵魚:えっと……実はね、光耀大陸の歴代の名家の作品を全部描いたことがあるんだ……

餅米蓮根:うーん、つまり……模写しかできないんですね。

羊方蔵魚:なにが模写だよ!これは職人芸だよ……!あ、そういえば、今、俺はちょうど助手が欲しいんだ。興味あるか?

餅米蓮根:助手……?

羊方蔵魚:そうだよ。この書院の給料も少ないだろう、ここで先生をやるのは、才能を無駄にしていると思わないか?俺と一緒に騙……稼ごう!

餅米蓮根:だめです……

羊方蔵魚:本当にいいのか?儲かったら、美味しいものをたらふく食べさせてやるよ。

餅米蓮根:いいえ、書院に残ります。院長との約束ですし……父さんの望みでもあります。それに……

餅米蓮根:父さんは、私がお金に不自由はないと言いました……私を書院に送る前に、玉京の家、畑、店を私の名義にしました……

羊方蔵魚:……!?

餅米蓮根:それがどれくらいの価値があるのかは分からないけど、父さんの言うことは、いつも正しいです。

羊方蔵魚:……

餅米蓮根:大丈夫ですか?急に顔が青くなりましたよ?え?え?なんでないてるんですか?

羊方蔵魚:うう……神様、なんで俺にもそんないい「父上」がいないんだあああ……



10.暖かな春の息吹・五

お久しぶりです……可愛い子。


 静かな部屋中に芳香が漂い、片児麺は古画の研究に没頭していたが、寒さで頬を赤く染めた豆沙糕が暖簾をめくり、太った伝書鳩を両手で抱えて入ってきた。


豆沙糕片児麺様、書院からお手紙が届きました。

片児麺:うん、この鳩は……前回会った時よりずいぶん丸くなったようですね。

豆沙糕:そうなんです、さっきいきなり肩に乗ってきた時、私もびっくりしました!うーん、書院の食事はきっと美味しいんだろうな……

豆沙糕:しかし今回、その方から新しい書画は送られてこなかったようです。


 片児麺は手紙を静かに読み終えると、笑って机の前の燭の上に置いた。その瞬間、貴重な便箋が火の舌に溶け込んだ。


片児麺:書院は最近、ずいぶん賑やかになったようですね、一気に新人が集まってきて……あの方も喜んでいるはず。

片児麺:……

片児麺:……豆沙糕、どうしてそんなに私を見つめているのですか?

豆沙糕:うーん、片児麺様がようやく笑ったからです!ここ数日、副館長様が持ち帰った書画の修復に忙しく、いつも不機嫌そうだったので。

豆沙糕:やはり、あの人から手紙を受け取るたびに、片児麺様の気分は良くなるみたいですね!

片児麺:……あの、豆沙糕、先月書院から送られてきた書画を整理しましょう、もう数日遅れてしまったので、今日中に急いで送ってください。

豆沙糕:はい!今すぐ行きます!

豆沙糕:ちょっと待って、私の便せんも持ってきて……先日のあの絵に問題があるかもしれないので、ちょぅと手紙で彼に伝えます……

豆沙糕:はい!


 豆沙糕が去って書斎に入ったのを見送り、片児麺は思わず唇の端を上げ、机の上に太った鳩のふわふわし顔をそっと撫でた。


片児麺:お久しぶりです……可愛い子。



11.暖かな春の息吹・六

そのうちなにか面白いことが聞けるかも……


 活気のある骨董品街のはずれで、羊方蔵魚が歩きながら、買ったばかりの古画を眺め、なにかをつぶやいた。


羊方蔵魚:この絵の用紙と印鑑……やはりあの宝の地図とそっくりだな……

羊方蔵魚:ふふ、素晴らしいビジネスチャンスだ……書院のカモどもが、この絵をいくらで買ってくれるのか。

羊方蔵魚:おっと――


 考え込んでいる羊方蔵魚は、街の角から突然現れた少年にぶつかってつまずいた。


村中孩童:すみません……ちょちょっと待って!その手に持っている絵……どこで手に入れたの?

羊方蔵魚:え、おいおい……いきなり他人のものを触るな!これは俺が買ったばかりの絵だ!

村中孩童:うーん、ちょっと古く見えるけど、本当にそっくりだ……お兄さん、絵を売ってくれないかな?

羊方蔵魚:ガキ、この絵は高いぞ。お兄さんは用事があるから遊んでる時間はないんだ。

村中孩童:ちょっと待て、銀2両で……足りるか?

羊方蔵魚:……!?

村中孩童:足りないのか……じゃあ、銀三両だ……!今日はこれしか持ってないんだ……

村中孩童:それでも足りなければ、家に帰って盗む……もらうしかないんだ。だめだ、父さんに会ったら……

羊方蔵魚:もういいもういい!この坊ちゃん、本当に品があるんですね。ほら、この絵は売ってあげるよ!

村中孩童:ふぅ……よかった。これで祠堂のこともバレないはずだ……

羊方蔵魚:祠堂って……?


 羊方蔵魚は詳しく聞こうとしたが、子供は絵を抱えて一目散に去ってしまった。


羊方蔵魚:へへ、十数銭で買った絵が、こんな高値で売れるなんて、今日は本当に運がよかった……鬼谷書院の連中は、こんな簡単に騙されないからな。

羊方蔵魚:まさかこんな小さな村で、子供でもこんなに金持ちになれるとは、あの子供が言った祠堂って、なにだろう……?

羊方蔵魚:ともかく、あらかじめあの絵に手を加えておいてよかった。へへ、そのうちなにか面白いことが聞けるかも……



12.暖かな春の息吹・七

彼にマーキングしておくべきだった……


深夜

鬼谷書院


 誰もいない庭に忍び込んだ羊方蔵魚は、中庭の岩場に忍び寄り、爪先立ちで湖中にある書閣を眺めた。

 建物の中にある宝物に思いを馳せていた時、暗い影が忍び寄ってきた。


羊方蔵魚:助け……

ヤンシェズ:黙れ。

羊方蔵:ん……んん……

羊方蔵魚:ふぅ……ヤンシェズ!?俺を殺したいのか……

ヤンシェズ:うるさい……

羊方蔵魚:おい、手加減してよ……声を小さくすればいいだろう、な、なんであんたがここに現れたんだよ!

ヤンシェズ:あなたこそ、……なんでここにいる。

羊方蔵魚:ええと……それは話せば長くなる。

ヤンシェズ:……また盗みか。

羊方蔵魚:な、なにが盗みだよ!?おいおい、そんな納得した顔しないでくれよ……

ヤンシェズ:……

羊方蔵魚:はあ、正直に言おう。実は俺、この書院の裏山で不思議なことに遭遇したんだ。偶然にも、ここの食霊たちに助けられた。

ヤンシェズ:食霊……

ヤンシェズ:「白酒」という人は、……いるか?

羊方蔵魚白酒……名前は聞いたけど、会えなかった……

ヤンシェズ:……彼はどこだ?

羊方蔵魚:ひっ――いてててて!そ、そいつは麓の村にいるはずだ、今書院のほかの連中も全員そこにいるんだよ。

ヤンシェズ:麓の村……


 ヤンシェズはなにかを考え込むようにつぶやくと、振り向きもせずに屋根の上に飛び上がり、夜の闇に消えた。羊方蔵魚は腫れた手首を撫でて、仕方なさそうに舌打ちした。


羊方蔵魚:なんだ……ヤンシェズは本当にどんどん乱暴になっていったな、まさか明の旦那はこんなのが好きなのか……?それにしても……

羊方蔵魚ヤンシェズはいったいなにをしに?なんで白酒を探すんだ……こんなに速く走られたら、ついて行くこともできない。彼にマーキングをしておくべきだった……次回は、必ず!



13.暖かな春の息吹・八

ただ……彼の演技を静かに見ているだけ。


深夜

鬼谷書院


 一日のいたずらが終わってご機嫌なクラゲの和え物は、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら帰って寝ようとしていたが、書閣の前を通りかかった時、見覚えのある人影がコソコソと歩いているのが見えた。


羊方蔵魚:今度は……順調に入れるだろう……


 クラゲの和え物は一瞬固まったが、すぐにいたずらをしそうな「邪悪」な表情を浮かべた。計画を実行する寸前、ふと背筋が寒くなるほど見慣れた視線を感じた。


クラゲの和え物:!!


 ふと振り向くと、金駿眉が向かいの小部屋で窓にもたれて、感情が読めない笑みを浮かべて書閣を眺めているのを見えた。


クラゲの和え物:(ひっ、金駿眉に見つかるところだった……こいつ、またなにか悪いことを企んでいるようね……)



 そう思ってクラゲの和え物は君子危うきに近寄らずと思い、こっそりと金駿眉のところに向かった。


クラゲの和え物:ねえ、金駿眉、あいつがまた門を見張ってるのに、あなたは見てるだけなの?

金駿眉:ふふ、彼は気にしなくていい……

クラゲの和え物:この前、犬小屋の穴からこっそり書閣に侵入しようとしたら、捕まってしまった。さらにその前、窓からそこに入ろうとしたる、川に落ちて溺れるところだった……うーん、それから、さらにその前のことも……

クラゲの和え物:あいつ、頭おかしいんじゃない。書閣にはただのがらくたと字画しかないのに、すごい執着だね?

金駿眉:なんのためにかはどうでもいい……ただ、彼が自分のすべてを出し尽くすのを見るのは面白いと思うだけだよ。ついつい見てしまう。

クラゲの和え物:ふん、本当に悪いやつ……あなたも人をからかうのが好きなんてね。

金駿眉:からかってるわけじゃない。ただ……彼の演技を静かに見てるだけ。

クラゲの和え物:へへ、それなら――

金駿眉:また悪だくみか?

クラゲの和え物:最近はちょうど書院には一緒に遊んでくれる新しい子供がいなくて、あいつは頭が良くなさそうだけど、一緒に遊ぶのは面白そうね……

金駿眉:ふふ、悪ガキだな。

金駿眉:あんまり遊びすぎないよいにね。一応書院のお客さんだから。

クラゲの和え物:えへへ……安心して、院長様!



14.今日はいつの日か・一

お前が彼女そばにいてくれるなら、俺も安心だ。


 大晦日が近づき、賑やかな通りや路地はイルミネーションや花飾りで飾られ、状元紅はたくさんのお正月用品を持って、屋台から離れようとすると、思いがけず見慣れた人物に出会った。


状元紅:また会いましたね。

白酒:……

状元紅:あなたも……年越しの買い物にしているのでしょうか?

白酒:いや。

状元紅:……


 気まずい沈黙が流れ、ふたりは近くの豊富な商品を陳列した屋台へ視線を向け、その静寂を、行商人あいの大きな声が埋めていく。


白酒:……今日は一人なのか。

状元紅:ああ……女児紅は家の中で掃除をして、近所の人たちと一緒にお年越し料理のために豚や羊をさばいています。

白酒:豚や羊を……彼女はそんなことができるのか?

状元紅女児紅は村に長く住んでいるので、それらのことに慣れています。それに、彼女は見た目よりも弱々しくないんです。

白酒:知っている……彼女は弱々しくない。

状元紅:まるで最初から彼女を知っているような口ぶりですね。

白酒:……

状元紅:……実はずっと聞きたかったのですが、以前女児紅とは知り合いですか?

白酒:いや、俺と彼女とは知り合いではない。

状元紅:でも、あなたに関することを口にすると、女児紅は別人のようになってしまいます。

白酒:恐らく、俺を一人の故人と間違えているだけだろう。

状元紅:故人……?

白酒:でも、彼女はいつか気づくだろう。

状元紅:あなたが彼女やその故人となんからのかかわりがあるかはわからないが、言いたいことは言います……

状元紅:前回、あなたが助けてくれたことは、私はちゃんと覚えています。でも、もし将来あなたが彼女に危害を加えたら……私は許しません。

白酒:……

白酒:ふ……お前が彼女のそばにいてくれるなら、俺も安心だ。

状元紅:……?

白酒:俺は用事があるから、長居はできない。お前も早く帰れ――

白酒:後、豚や羊をさばくのは、次から女の子一人ではやらせないように気をつけろ。

#include(稔歳之佑・ストーリー・サブ15~28,)

※誤植等が多いため、文脈的に正しいと思われる部分を差し替えたものを表記しています。

15.今日はいつの日か・二

なにか秘密があるのかな?


とある日

鬼谷書院


餅米蓮根:昨日、雪掛姉さんが踊ったあの踊り、本当に最高でした……

蛇腹きゅうり餅米蓮根、彼女の前でそんな風に褒めたら……

餅米蓮根:えっ……?

蛇腹きゅうり:「かわいい餅米蓮根ちゃん、この踊りはあなたにもとっても似合うよ!お姉さんと勉強しようか!」……と彼女は言うだろう。

餅米蓮根:なら……私は、や、やはり勉強しません……

餅米蓮根:でも……蛇腹きゅうりさんが雪掛姉さんをまねて話すと、本当に似ています。狗ちゃんたちの言った通り、あなたたちは本当に仲良しみたいね……

蛇腹きゅうり:ふん、どこが仲良しなんだ。書院の子供たちは勉強もせず、こんなくだらないことばかり考えているのか……

クラゲの和え物:あれ、なにがくだらないこと?

餅米蓮根:うわ―クラゲの和え物お姉ちゃん……音を立てずに近づかないでよ。

クラゲの和え物:へへへ、幽霊だから、浮いて歩けるよ。

蛇腹きゅうり:もう幽霊のふりをしないで、その浮遊をなんとかしろ……!

クラゲの和え物:ふん、あなたがあの笠を被ってカッコをつけるから、知らないもん〜自分でなんとかしてね。

蛇腹きゅうり:おい、早く俺の笠を返せ!

クラゲの和え物:ふん、冗談がつうじないや。あいつらをいじめないで!これあげるから――

クラゲの和え物:ところで、蛇腹きゅうり……最近、老虎菜を仕立屋に行かせてなにがしたかったのか?

蛇腹きゅうり:……ん?もちろん、新年の衣服を縫うためだ――って、あんたはそれをどうやって知ったんだ?

クラゲの和え物:もちろん、老虎自分が話してくれた。うーん……陳記甘栗一袋の代償がかかったって。

蛇腹きゅうり:あいつ……

クラゲの和え物:でも……彼が行ったのは女性ドレスを専門に扱う洋服屋だと聞いたけど。しかも、誰かさんはわざわざ注文する柄も指示したとか。なにか秘密があるのかな?

蛇腹きゅうり:どこに秘密があるんだ!くだらない……突然思い出した、金駿眉に仕事を頼まれてたんだ、失礼!

クラゲの和え物:ええー逃げないで!

餅米蓮根蛇腹きゅうり兄さんは急に変になったみたい……顔が真っ赤になっちゃったよ。

クラゲの和え物:あの強情な男は、嘘をつくとすぐそんな風になっちゃうんだよ……ふん、絶対に秘密がある。


 ふたりが話している時、中庭の隅にある梅の木の間から、新しい服を着飾った雪掛トマトが歩いて来るのが見えた。


雪掛トマト:なんでここはこんなににぎやかだと思ったら、あなたたちだったのね。

餅米蓮根:わー、雪掛姉さん!あなたの新しいドレス……本当に素敵!

雪掛トマト老虎菜からもらったんだけど、光耀大陸の正月の風習で、みんな新しい服を作るんだって……

クラゲの和え物:……老虎菜

雪掛トマト:あいつはきっとパラータの新年の食事を作って欲しくて、私を買収しようとしたのね……

雪掛トマト:まあいいわ、餅米蓮根ちゃん、ちょうど踊りの練習をするつもりだけど、一緒に来ない?

餅米蓮根:え……え?待って、雪掛姉さん、私はまだほかのよ、用事が――



16.今日はいつの日か・三

あれは……とても奇妙な夢だった。


大晦日夜

鬼谷書院


 夜空には花火が打ち上げられ、みんなが酒を飲んでご飯をいっぱい食べて、横になり寄り添っている。


蛇腹きゅうり老虎菜、覚えてる?……この前、地宮に入った時、奇妙な香りで気を失ったことがあるよね。

老虎菜:うーん、おいしい――覚えてるよ、どうした?

蛇腹きゅうり:その時、みんなは奇妙な夢を見たと。雪掛は書院で授業をしている夢を見た、八宝飯たちは墓の夢を見た……あんたはどんな夢を見たんだ?

老虎菜:コホンコホン……お、俺は……食べる夢を見たかも、コホンコホン――

蛇腹きゅうり:おいおい落ち着け、大袈裟に反応すんなよ……

老虎菜:あれは……とても奇妙な夢だった。

蛇腹きゅうり:ん?どこが奇妙だ?

老虎菜:夢で見たのは……テーブルいっぱいに美味しい料理が並んでいるのに、その真ん中の大きなお皿に一本のレンコンがあった。

蛇腹きゅうり:レンコン……!?

老虎菜:うーん……甘い香りがする……でも、食べようと思ったら……

老虎菜:あいつは餅米蓮根の声でしゃべって、老虎菜兄さん、私を食べないでって……

蛇腹きゅうり:……

蛇腹きゅうり老虎菜、いつもはなにを考えているんだか……

老虎菜:い、いや……どうしてあんな夢を見たのかわからない、本当だ……目が覚めてから、2日間なにも食べたくなくなったんだ……

老虎菜:なんだか、妙に罪悪感がする……

蛇腹きゅうり:はあ……あんたの気持ちは分かるよ……

老虎菜:え?

蛇腹きゅうり:そう考えると、俺の夢もそんなに奇妙じゃなかったかもしれないな……

老虎菜:あれ……どんな夢を見た?

蛇腹きゅうり:あ、いや、なんでもない……って、あの新しいパラータの焼き羊、いい匂いがするんだけど、食べないか?

老虎菜:いいよいいよ!



17.今日はいつの日か・四

彼は……ずっとあなたを探している。


大晦日夜

鬼谷書院裏山


 灯りが灯る書院の中で、半分酔った人々が酒盃を片手に語り合う。真っ赤な服を着ているふたりが爆竹の音に合わせて庭で遊び回っている。

 遠くから、このすべてを眺めている白酒が微笑む。手に握られて、しわくちゃになった新年の年賀状が風に舞い、やがて影の中の誰かの足元に転がる。


白酒:長い間隠れていただろう、出て来い……

ヤンシェズ:……

白酒:お前を覚えている、いい刀だ。やはり普通の護衛じゃなかったんだな。

ヤンシェズ:……ここでなにを?

白酒:ここ数日俺を尾行して、なんのつもりだ。

ヤンシェズ:……

ヤンシェズ:……書院に行かないのか。

白酒:ふん、まさかあそこの大晦日の宴に誘いに来たわけじゃないだろうな。

ヤンシェズ:……

ヤンシェズ:……あなた、明四喜を知ってるか。

白酒:知らない。

ヤンシェズ:……?

白酒:なんだ、信じないのか。

ヤンシェズ:彼は……ずっとあなたを探している。

白酒:……お前も、あの明四喜も、人違いだ。

白酒:他に用がなければ、失礼する。それと……もうついてくるな。



18.今日はいつの日か・五

一人の男が……


大晦日夜

聖教


冬虫夏草:今日はあのしつこい子犬を見かけないな。

ハイビスカスティー:ふふ、君の手下とまた一緒に遊びに行ったのかな……うちの蛇スープに悪影響を与えたら、君の責任ですよ。

冬虫夏草:どう考えても、うちのピータンが悪影響されるほうだろう。

ハイビスカスティー:そういえば、虫茶は?大晦日なのに、私たちふたりで酒をとは寂しいな。

冬虫夏草:ふん、へんなことを考えるなよ。女の子は夜中に男と酒を飲むわけがないだろう、虫茶はもう休んでいる。

ハイビスカスティー:ほおぅ、厳しすぎる兄だな。かわいそうな虫茶


 バタン、とドアが勢いよく開いて、蛇スープ虫茶は顔色が青ざめたピータンを引きずって入ってきた。


冬虫夏草虫茶!?どうしてここに?

虫茶:兄さん……あたし……

ピータン:痛い……うう……ご主人様……

ハイビスカスティー:君の手下の様子がよくないようだ、彼を構ってやれ。

冬虫夏草:彼はどうした……?

蛇スープ:一人の男が……

冬虫夏草:男?

虫茶:さっき、屋上で月を見てたとき、チキンスープの部屋から一人の男が出てきて、あの人を見たら、ピータンがこんな状態になったの。

冬虫夏草:……彼を横にしてやってくれ、今すぐ生薬を調合してあげるから。

虫茶:うん……

冬虫夏草蛇スープを……虫茶、君はこっちに来い!

虫茶:え……!?兄さん……

冬虫夏草:月を見に行ったって?今日は月があるのか?それに、なんで全身がお酒臭いが?虫・茶―兄さんが怒らないと、ボクを馬鹿にするつもり!?

虫茶:い、いや……違う……

ハイビスカスティー:もういいよ、大晦日だし、泣いてたらまた慌てるだろう?



19.今日はいつの日か・六

まるで昔の恋人に会いに行くみたいに。


大晦日夜

南離印館


京醤肉糸:はあ〜なんだか今年の大晦日はいつもより寂しくなった気がするな。もしかして年を取れば、年越しの感じも薄くなるのか?

松の実酒:……部屋中に舞姫や踊り子たちがこんなにいるのに、寂しいですか……?

京醤肉糸:なんだか機嫌が悪そうだな〜ほら、泉ちゃん、うちの服館長様にお酒をいっぱい注いで!

松の実酒:必要ない……自分でやります。

京醤肉糸:お正月くらい、楽しむべきだぞ。

松の実酒:貴方……まあいい。

京醤肉糸:ほらほら、約束だ。今日は説教は禁止だ。

松の実酒:……

京醤肉糸:乾杯〜はあ、残念なことに、片児麺が子供たちを鬼谷書院に連れて行ってしまった、琴を弾いてもらえないなあ。

松の実酒片児麺は普段は真面目なのに、友達をこっそりと作っていたとは驚きましたね……うーん、なかなかうまくやっているようですね。

松の実酒明四喜も一緒に行ったのですか……?

京醤肉糸:そうです……不思議ですが、片児麺の話によると、明四喜は今回招待されていないのに、自分から書院について行きたいと言い出したそうだよ。まさか、年越しの食事を食べたかっただけ?

松の実酒:私の知る限り、明四喜は鬼谷書院とは付き合いがないはずです。

京醤肉糸:確かに怪しいですね……彼は出発する前におしゃれをしていた、まるで昔の恋人に会いに行くみたいに。

松の実酒:昔の恋人……?

京醤肉糸:ヒック……まあいい、今日はお祭りだ。美しい景色を前に、彼のことを考えるよりも、楽しもう。もう一杯一緒に飲みますか!



20.今日はいつの日か・七

どうやら、内面に柔らかいところがあるようだ。


大晦日夜

鬼谷書院


金駿眉:やっと会えたね、片児麺さん。思っていたより、かなり気さくな方だね。

片児麺:気さく……もしかして、私の手紙の文面に、院長様は私を「付き合いにくい人」と誤解したのでしょうか?

金駿眉:そういうわけでもない。手紙の文言が堅かったから。実際に接してみたら、手紙に書いたような堅苦しさは感じませんね。

片児麺:実を言うと、院長様も私が想像したよりもずっとお若いです……お会いできて、私も手紙のように堅苦しくなくなりました。

金駿眉:ふふ……どうやら片児麺さんは、わたしを深山の書院に隠居しているおじいさんと間違えたらしい。

片児麺:ち、違います……書院の主人が徳の高い長者だとばかり思っておりましたし、お手紙を見ても、見聞が広い方だとわかりました。

片児麺:でも、食霊は人間と違い、見た目で年齢を判断するわけでありません……

金駿眉:そう、食霊にとっては……そんなことはどうでもいい。

片児麺:ええ、書院の古物を拝借したいという手紙を書いたときも不安でしたが、幸いにも院長様が快く貸してくれました。

金駿眉:あなたもいろいろ助けてくれたよ。ここ最近、書閣の破損した古画のほとんどはあなたが修復してくれて……

金駿眉:この度書閣のことも、あらかじめ注意してくれたあなたのおかげだ。

片児麺:それぐらい簡単なこと……あれ……


 話しているうちに、片児麺は手元に毛むくじゃらの柔らかい感触を覚え、言おうとした言葉を忘れて、思わず手を伸ばしてそれを強く揉んだ。


片児麺:これは……あの猫耳麺っていう子のペットですか、やわらかい……

金駿眉:あなたもこのようなペットが好きらしいね。

片児麺:その……いえ、ちょっと目新しいと思っただけで……

金駿眉:ふふ、片児麺さんはモフモフが好きなんだね……どうやら、内面に柔らかいところがあるようだ。



21.雪が降りそうな夕方・一

俺様の面子を立ててくれるよな?


大晦日夜

地府


辣子鶏:お前、お正月なのに、なぜまだそんなに悲しそうな顔をしてるんだ?さあ、一緒に飲もう!

高麗人参:ゲホゲホ……残念ながら、今はお酒を飲める状態ではありません。

辣子鶏:この病人……まあいい――そうだろうと思って、いいお茶を持ってきた。お茶なら大丈夫だろう?

高麗人参:……

辣子鶏東坡肉が作った豚肉の煮込みも持ってきた。食べていいぞ!

高麗人参:……本当はここで吾に付き合わなくてもいい。そなたは賑やかなのが好きでしょう?機関城は……今日はたくさんの人が集まっているはずです。

辣子鶏:知っていればいい!俺は忙しい。ここでお前と年夜飯を食ってから、機関城へ帰って、あいつらと食べたり飲んだりしなきゃならないんだ。

辣子鶏:だから、俺の時間を無駄にするなよ――料理がテーブルいっぱいに並んでいるだろう、さっさと食べろ!

高麗人参:……

辣子鶏:これでいい。地府はいつも陰気だろ?せっかくのお祭りだから、もっと盛り上がらないと……

高麗人参:……

辣子鶏:お前な、地府の他の者にお前の相手をさせないが、俺様の面子を立ててくれるよな?

高麗人参:そなたは酔っ払っている。しゃべりすぎです。

辣子鶏:フン、お前は話が少なすぎるから、こういう病気にかかるんだよ!これからはなんでも抱え込むな。

高麗人参:……

辣子鶏:聞こえたか!?

高麗人参:もうわかりましたから、早く食べましょう……



22.雪が降りそうな夕方・二

その中にいると、いつも悩みやトラブルが絶えないんだよ。


大晦日夜

機関城


金華ハム:なぜかわからないけど、今年の大晦日は例年より静かな気がしないか?

冰粉:たぶん、騒ぐ奴らが貴方様だけになったからかもしれませんよ。

金華ハム:え、先生、それはどういう意味……?

東安子鶏:うう……そのとおり。八宝飯マオシュエワン、城主、そして君、適当に組み合わせただけで、火の粉が飛び散る。

金華ハム:おい、このガキ、さっさと肉を食え!

東安子鶏:うんうん、君も食べたい?僕が取ってあげるよ!

金華ハム:必要ない……俺も手があるから!

東坡肉:ふふ、今回は特に手間をかけて煮込み肉を作った、皆もしっかり味わってくれよ。

東坡肉:……あれ、回鍋肉、さっきから落ち込んでいるけど、もしかして料理が口に合わないの?

回鍋肉:いいえ……ただ、八宝飯マオシュエワンが鬼谷書院に大晦日のお祝いに招かれたと聞いたのですが……

東坡肉:恐らく、吾のあの後輩は相変わらず短気なので、事前にお知らせを忘れたかもしれない……心配するな。彼は今地府にいるはずだ、もうすぐ帰ってくるだろう。

回鍋肉:そうでしたか……

冰粉:そういえば、あの地府の方は……

東坡肉:……ああ、世の中のことは、その中にいると、いつも悩みやトラブルが絶えないんだよ。後輩が少し彼を説得できるといいが……

東坡肉:さて、今日は酔って帰ると約束しただろう。さあ、まずは乾杯――



23.新年を迎える・一

親分のセンスが悪いとは言ってないから!

大晦日前

景安商会


 年の瀬が近づき、景安商会は商売が繁盛している。麻婆豆腐が門に入る時、佛跳牆はいつものように山積みの商品を棚上げしている。


麻婆豆腐:対聯(※ついれん:中国の伝統的な建物の装飾のひとつ。門の両脇などに対句を記したもの)、花火、砂糖菓子……今年の年越し品もとても充実しているようだ。

佛跳牆:ああ、中には海外に販売するものもある、物が多すぎるので手伝ってもらうことになった。


 佛跳牆は顔も上げずに言ったが、麻婆豆腐は豊富な商品に惹かれて、興味深そうに棚を眺めている。


麻婆豆腐:待って……この門像は、あまりにも凶悪すぎるだろう……

佛跳牆:……家を守り、魔除けのために使っているのだから、威厳と迫力が当然必要だ。

麻婆豆腐:門像はともかく、どうしてこの年賀の紅包(※ホンバオ:ご祝儀やお年玉のこと)にも妖魔や鬼ばかり描かれているんだ?

佛跳牆:なにが妖魔だ、これは……

麻婆豆腐:忘れるな。今年は卯の年だ。うさぎは可愛らしく、もちろん可愛いものと一緒に描けば、お客さんはもっと気に入ってくれる。

佛跳牆:……

麻婆豆腐:とにかく、あたしの経験では、このような怖いものは絶対に売れない。もっと好かれそうなものを用意しないと。例えば……あそこのやつ。


 佛跳牆麻婆豆腐の視線が向いている方向に目を向けると、玄関の前にちょうど小さな屋台があり、そこには愛らしいうさぎのグッズが並べられ、客が押し寄せていた。


佛跳牆:……景安商会の前で、堂々と客を奪う奴がいたとは……

麻婆豆腐:ふふ、でも相手のほうが商売は上手だな。

佛跳牆天津煎餅、ちょっと来い。

天津煎餅:え?親分?なにか用ですか?

佛跳牆:エヘン……俺が選んだものは、本当に売れないのか?

天津煎餅:親分、正直いうけど、怒らないでくださいね……売れないとは言わないけど、毎年同じものを売ってるから、麻婆姉さんのアドバイスを聞いて、品物を変えてもいいかと思います……

天津煎餅:ええっと、親分のセンスが悪いとは言ってないから!

佛跳牆:……わかったから仕事を続けろ。



24.新年を迎える・二

会長様の好感度が上がるでしょう。


大晦日前

景安商会


天津煎餅:親分、麻婆姉さんの指示で作ったものは全部完成しました!


 テーブルいっぱいに並んだうさぎのぬいぐるみなどの品物を眺めていると、佛跳牆は真っ白で小さなうさぎのぬいぐるみを手に取って、眉間に皺を寄せた。


佛跳牆:……こんなに柔らかいぬいぐるみ、本当に好きな人はいるのか?

天津煎餅:わたしは好きなんだけど、ふわふわして可愛いですよね。

佛跳牆:……見た目がいいだけだ、役に立たないだろう。

天津煎餅:ふふ、親分、そんなこと言わないでよ、この帽子を試してみてください!とても快適ですよ〜

佛跳牆:貴方!

北京ダック:ふふ、最近景安に新しい品物が入荷したと聞きましたけれど、それは……


 心地よい音楽と共に、懐かしい姿が部屋に入ってきた。佛跳牆が自分の頭にうさぎ耳のモコモコ帽子をつけられたことに気づかず、相手はもうからかい始めている。


北京ダック:ふふ、会長様もこんなかわいいものが好きなんですね〜

佛跳牆:……


 佛跳牆の顔色が予想どおり怒っているのを見て、北京ダックは目を細め、白や緑色のうさぎのぬいぐるみの中に隠れている佛跳牆を興味津々で見つめた。


北京ダック:まあ、焦って脱ぐ必要はないでしょう、たまにはスタイルを変えるのもいい、会長様の好感度が上がるでしょう。

佛跳牆:……

天津煎餅:ダックさんの言う通り……!……うわぁ、親分、殴らないで!



25.酒飲んで楽しむ・一

やっぱり龍井は信頼できるな。


大晦日

湖畔の小屋厨房


 煙がゆらゆらと立ち昇り、湯気が酒や料理の香りとともに厨房にただよっている。


雄黄酒:ふぅ……これでよし……

ロンフォンフイ:いい匂い……なんだこれ!食べてやる!


 雄黄酒ロンフォンフイの手を叩き、呆れた表情を浮かべた。


雄黄酒:……さっきも同じこと言ったでしょう。子推が君をこちらに押し込んだのも無理はありません。

ロンフォンフイ:オレは……味見してやろうと思っただけだ。

雄黄酒:本当に手伝いたいなら、先に作っておいた薬膳を持ってきてくれませんか。ここに置いてあったはずです……あれ、なくなっちゃった……

ロンフォンフイ:ベタベタした緑色のものってことか?あれ、オメェが作った薬膳か……

雄黄酒:……ロンフォンフイ、まさかまた盗んで食べちゃったんじゃないでしょうね?

ロンフォンフイ:あんな臭いものを食べるわけないだろう……

雄黄酒:なら、どうして消えてしまったのですか?

ロンフォンフイ:あははは……部屋の隅に積み上げられているのを見て、なにかの失敗作かと思って捨ててしまった……

雄黄酒:な、なんだって……ロンフォンフイ……!

ロンフォンフイ:いつも薬を試すために、オメェがいろいろなものを食べるから心配で……いたっ!また殴られた……

雄黄酒:……そうでしたか……でも、薬膳がなくなってしまうと、今夜の宴会の料理が足りなくなってしまう……

ロンフォンフイ:じゃあ山に行ってキジを狩ってくるか!

子推饅:なんでキジを狩るんですか……外にはたくさんの食材があるじゃないですか。

雄黄酒:子推?どうしたんですか?

子推饅:龍井は人間がたくさんの謝礼を贈って来たと。新鮮な食材がたくさん入っているようです。

雄黄酒:え?それはよかった!

ロンフォンフイ:やっぱり龍井は信頼できるな。オレも手伝ってやろう!

雄黄酒:だめだ、貴方は台所から離れた方がいい。

ロンフォンフイ:……わかった、じゃあ火を起こすのを手伝ってあげたらいいだろう!



26.酒飲んで楽しむ・二

それなら彼らの好意を裏切らないように。


大晦日前

湖畔の小屋厨房


 細かい雪が降り積もり、梅の香りが池を包み、西湖龍井武夷大紅袍が亭の中で向かい合わせに座っている。


武夷大紅袍:また、良い雪が降りました。今年も幸運な一年でありますように。

西湖龍井:ああ、今年は年獣に襲われることもなく、人々は良い年を過ごせます。


 ふたりが話していると、遠くから誰かが雪を踏む足音が聞こえてきた。


武夷大紅袍:雪の日にやってくる人もいますか……お祈りに来た人でしょうか。

村人甲:龍神はご存知ですか?……あ、あも、もしかしてこの方が……!

村人乙:龍神様は青い衣を着て、角がふたつあると言われています……こんな仙人の姿、確かに神様だと思います!

村人甲:心を込めて祈れば、龍神様が現れると言われています!本当にそうですね!

村人乙:となると、龍神様の傍にいるこの方は、薬草に長けていると噂され、よく龍神様と一緒に現れる戦神様でしょう!

武夷大紅袍:……

村人甲:わ、私たちは隣の村の村民で、龍神様に1年間お世話になり、お礼を言いに来たのです!今年は怪物が出なかっただけでなす、土地も豊作になりました!

村人乙:これらは全部村の特産品で、村全体の気持ちです。ささやかな供え物ですが、龍神様、受け取ってください!

西湖龍井:いいえ、私は……


 西湖龍井は好意を断ろうとしたが、そばにいた人にそっと止められ、間を置き、彼は理解した。


西湖龍井:好意はありがたいですが、骨を折る必要はありません。私がいる限り、できる限りのことはします。そして……豊作はあなたたち自身の努力で、私はなにもしていません。

武夷大紅袍:雪が積もっているので、帰り道はお気をつけてください。

村人甲:龍神様と戦神様、ありがとうございます!ふたりの神様のご加護が永遠に続きますように!


 村民ふたりの喜びの表情を見て、ふたりは思わず笑みがこぼれた。ふたりの人影が遠くに消えた後、武夷大紅袍は思わず感嘆した。


武夷大紅袍:以前は、自分たちがただやれることをやっただけと言いましたが、人間たちにとっては、数十年にも及ぶものでしょう。

西湖龍井:しかし……彼らががんばっている限り、私の力は存続できたのかもしれません。

武夷大紅袍:ふふ、それなら彼らの好意を裏切らないように。ついでに、これらの食材をどうするかを考えてみましょう。



27.お年越し・一


湖畔の小屋


 冬の雪の日、小屋は穏やかな静けさの中に包まれている。北京ダックは庭内に入ると、見えたのはロンフォンフイが退屈して庭にしゃがんで雑草をかき回し、顔にはちょっと不満があふれている。


北京ダック:ふふ、どうかしましたか?

ロンフォンフイ:――ダック!ようやく来たか!来てくれないと死ぬほどつまらないよ!……雄黄酒も台所の手伝いをさせてくれないし……っていうか、なんでこんな多くの荷物を持っているんだよ!

ロンフォンフイ:いい香りだ!お餅、サクサク団子……ちょっと待って、なんでうさぎの形ばかりなんだれ?うさぎから奪ってきたのか?

北京ダック:単にとある会長さんから贈られたものですよ。

雄黄酒ロンフォンフイ――!まだ皮付きのジャガイモと切ってないキュウリをそのまま鍋に……あ、ダ、ダックさんが来ました……すみません、失礼しました……

北京ダック:大丈夫、迷惑ではありませんか?

雄黄酒:もちろん、みんなダックさんが来るのを待っていました。

ロンフォンフイ:そうだよ、前回約束した酒は忘れてないよね?

北京ダック:もちろん忘れてませんよ。

ロンフォンフイ:へへ、それならいいよ〜ここに飲める人は一人もいないんだ。今晩はふたりで酔いつぶれるまで飲もう!

雄黄酒:あんまり飲みすぎないように……前回のことを忘れていないでしょう……

ロンフォンフイ:もう、何回注意されたことか……あれ、なんだか焦げ臭いが、スープを煮てたんじゃないのか……

雄黄酒:……しまった!ダックさん、失礼します!

北京ダック:大丈夫、気にしなくていいです。

北京ダック:そういえば、辣子鶏たちが見当たりませんね。いつもなら庭にはみんなが来ているはずですが。

ロンフォンフイ:最近修復する必要がある石碑がたくさんあるらしい。いつ来るかわからないな。あの法陣はいつも事故を起こすから、本当に頼りないんだよ。

北京ダック:そうなんですか……なにせ山河陣ですから、大変でしょう。無事であって欲しいです……



28.雪が降りそうな夕方・三

たまには髪型を変えたらどうだろう〜


大晦日

忘憂舎


 新年にあたり、赤い提灯が山の雪色に映え、この小さな桃源地にも生気を与えた。

 廬山雲霧茶が細く指を奏で、澄んだ琴音が雲のように流れ込んでいる。池のほとりに立つ西湖酢魚は、魚尾を軽く揺らしながら、音楽に浸っている。


西湖酢魚廬山雲霧茶の演奏はますますうまくなってきましたね……

廬山雲霧茶:一緒に練習してくれてありがとう。


 ふたりは静かにわらったが、遠くから騒がしい声が聞こえてきた。


亀苓膏:……これがあなたの言うサプライズ?

ワンタン:気に入らなかったのか、よく似合っているぞ。

カニみそ小籠包:ハハハハ!このマントにあるうさぎの刺繍、表情が亀苓膏とそっくり!

小籠包:このうさぎ耳帽子を合わせたら、もっと似合うよね〜

亀苓膏:……君たち!これらの変なものをどこで見つけたんだ?

ワンタン景安商会の会長様からのプレゼントだ、捨てるのは悪いだろう。

亀苓膏:……佛跳牆?いつからこんなものが好きになったのか……

亀苓膏:待て……ワンタン!私の髪に触るな!

ワンタン:でもこのヘアロープも似合うよ〜たまには髪型を変えたらどうだろう〜

亀苓膏:君……!これ以上ふざけたら今日の晩ごはんはなしだ!

#include(稔歳之佑・ストーリー・サブ29~42,)

※誤植等が多いため、文脈的に正しいと思われる部分を差し替えたものを表記しています。

29.雪が降りそうな夕方・四

うん……あなたの言うとおりにする。


聖教


ハイビスカスティー:小毛は最近また太った、大毛は白くなったみたいだ〜、ほら、抱っこしてやろう〜

蛇スープ:……


 ハイビスカスティーは雪のように白い2匹のうさぎを抱きしめてからかうと、隅の方にただならぬ冷たい気配をかすかに感じた。


ハイビスカスティー蛇スープ、隠れてないで、この可愛い子たちを見てみて。

蛇スープ:……もふもふして、嫌い。

ハイビスカスティー:……まだ怒っているのか?

蛇スープ:……怒ってない。

ハイビスカスティー:ふふ、昨日……青ちゃんと白ちゃんがこの子たちを食べてしまいそうになったよね。

蛇スープ:……すみません……

ハイビスカスティー:気にしないで、君に誤って欲しかったわけじゃないよ。ただ……これは聖女から送ってきたものだと知っているよね。

蛇スープ:……

ハイビスカスティー:言いたいことはわかる。彼女のために、この子たちの世話をしているわけではない。一時的なものだよ……

ハイビスカスティー:それに、この子たちをもっと丸く太らせたら、青ちゃんと白ちゃんも美味しく食べられるだろう?

蛇スープ:……うん……あなたの言うとおりにする……

ハイビスカスティー:ふふ、わかってくれたらいい。さあ、触ってみようか?



30.新年を迎える・四

現実的すぎる……


数日前

南離印館


蟹醸橙:……幽霊の谷のうさぎは虎のように強く、赤い目と鋭い歯を持っていると言われている!毎晩、真夜中になると……村民の家に忍び込み、子供たちを奪ってしまうんだと……

蟹醸橙:うさぎの妖怪は血に飢えていて、子供たちの血を吸い尽くしてしまう……わああ――?!だ、誰が殴った!?

彫花蜜煎:……真っ昼間に仕事をしないで、またどんなでたらめな話をでっち上げているのですか。

蟹醸橙:ああ……びっくりした……誰がでたらめだって?全部最近町で噂になっていることだよ。

焼き小籠包:最近厄除けのお守りがよく売れてるのも納得ですね……

彫花蜜煎:まあ……こんなにあやふやに伝えられている話は、ほとんど嘘だろうな。

焼き小籠包:でも、子供が行方不明になるは確かだし、夜に外出するときは注意が必要ですよ。

蟹醸橙:このうさぎの妖怪の正体はいったいなんなのだろう……待って……夜になると、いっそう僕ら……いたいっ、彫花蜜煎、また僕を殴ったな!

彫花蜜煎:そんな大胆なことができるのは、でたらめを言ってるときだけだよね。うさぎの妖怪を捕まえに行く?妖怪が現れないうちからビビっちゃった?

焼き小籠包:こ、これは確かに危ないですね……それに、そこは鬼谷書院の管轄下だから、本来なら私たちの管轄範囲でありません。

蟹醸橙:もう見破られた……いつか館長たちのように強くなれたらいいのに……

彫花蜜煎:うさぎ妖怪だかなんだか知らないけど、このままさぼったら、今日の仕事が終わらないよ。あなたのために松の実酒さんに嘘をつくとは思わないで。

蟹醸橙:……うう……現実的すぎる……



31.新年を迎える・五

朱雀様って?


大晦日前

景安商会


 月が輝き、雲が晴れる。全身が炎に包まれた鳳凰が羽ばたき、通りすぎたいたるところには輝かしい光が燃え上がる。

 しかし、鳳凰はしばらく飛んでいたが、突然力を失い、よろめきながら落ちてしまった。同時に、ふたりの姿が急いで近づいて来くる――


獅子頭:あ、また落ちた。やっぱりなにかが足りないみたい……

松鼠桂魚:だから鳳凰に余分な燃料を入れちゃいけないって。この火は翼にある機械仕掛けまで燃やしてしまうじゃない。

獅子頭:それはだめだ!火がないと、鳳凰って言えないじゃないか。大晦日までまだ数日あるし、必ず改良するから!


 その時、突然美しい鳴き声が聞こえてきて、ふたりは思わず顔を上げた。夜空の下、大きな鳥が自分たちに向かって飛んで来た。


東安子鶏:――見つけた!朱雀の吉兆が現れたところ!!

獅子頭:え?朱雀?


 ふたりが反応する前に、鳥の背中に乗った少年が急いで近づいてきたが、散らばっている鳥型の仕掛けを見ると、彼は思わず目を見開いた。


東安子鶏:こ、これは仕掛け?……朱雀様じゃなかったのか……

松鼠桂魚:朱雀様って?

東安子鶏:知らないのか?みんながここに朱雀様が天から降りた吉兆が現れたと言っているから、ここまで追ってきた……

松鼠桂魚:ぷっ……はははは!うちの鳳凰はいつ天から降りた吉兆になったの?

東安子鶏:え?鳳凰?

獅子頭:そう、これは僕たちが作ったら機械仕掛けの不死鳥で、まだ飛行テスト中なんだよ。

東安子鶏:なんだ……そうだったのか……

獅子頭:まあ、あなたも食霊だよね。あなたの後ろにいる大きな鳥は、もしかしたら伴生獣?

東安子鶏:うん、名前は重明の鳥っていうんだ!

獅子頭:えへへ、あの……鳳凰にはちょうど改善すべきところがあるので……翼の構造を見せてくれないか、報酬は払うから!

松鼠桂魚獅子頭、よだれが垂れてるよ!



32.酒飲んで楽しむ・三

これは提灯より重いぞ。


大晦日

夢回谷


エンドウ豆羊かんロイヤルゼリー、もっ左に下げて!斜めになっている!

エンドウ豆羊かん凍頂烏龍茶、こっちの年画は歪んでいる!掛け方がなっとらん。

ロイヤルゼリー:……めんどくさい。

凍頂烏龍茶:床を掃いても花瓶を割るくせに、人をこき使うのだけは上手になったものだ。

エンドウ豆羊かん:……と、とにかく、其方らは賭けには負けたんじゃから、今日の仕事は全部妾の言うことを聞くのじゃ!


 いつもは威勢のいいふたりが反論できないのを見て、エンドウ豆羊かんは思わず口角を上げ、ゆったりと生花の皮を吐き出し、指示をつづけた。


エンドウ豆羊かん:最後に、この提灯は君山姉さんが作った故、ちゃんと掛けるのじゃ。提灯……えっ、提灯はどこに行ったのじゃ!?さっき足元に置いてあったのに。

ロイヤルゼリー:……あそこだ。


 ロイヤルゼリーが指さした方向を見ると、空中に一列の赤い提灯が浮かんでいて、ふたつの見慣れた姿はその中に囲まれ、はしゃいでいた。


エンドウ豆羊かん:あれは、……凍頂烏龍茶の蛇じゃ!

凍頂烏龍茶:うむ……どうやら、天雷と地火はあれをおもちゃと思ったみたいだな。

エンドウ豆羊かん:やつらを止めぬから壊れたら大変じゃ!

凍頂烏龍茶:おや?親王さまと呼んでくれれば、止めてあげるが。どうだ?

エンドウ豆羊かん:……いやじゃ!!凍頂烏龍茶のバカ!!


 ふたりがいがみ合っている間に、提灯はすでに2匹の小竜に高く投げられ、縄の結び目が絡み合って、既に掛けられている彩色の布に結びついてしまった。

 がらがら――


エンドウ豆羊かん:わあ、まずい!落ちてくる!

凍頂烏龍茶:気をつけろ!

ロイヤルゼリー:あっちに行って、俺が自分で……うっ!

 絡み合った飾りは、天女が花を散らすように落ち、一瞬の後、ロイヤルゼリーは自分の下にいる人が凍頂烏龍茶であることに気づいた。


凍頂烏龍茶:……やっぱり武術の修行を怠ってないみたいだな。これは提灯より重いぞ。

ロイヤルゼリー:……てめぇ!!


 ロイヤルゼリーは思わず身を起こそうとしたが、乱雑な紐で引っかかってしまった。動いて引き離そうとしているうちに、彩色の紐がますますきつくなり、ふたりは美しい繭のように絡み合った。


エンドウ豆羊かん:ぷははは―――!これでふたりとも蛇になったな!

凍頂烏龍茶:……動くな、もっと絡まってしまうぞ。

ロイヤルゼリー:……てめぇがあばれてるんだろ!手を離せ!こんな紐など切って……

凍頂烏龍茶:君山さんが作ったんだぞ?切ってはさすがにかわいそうだろう?

ロイヤルゼリー:……

凍頂烏龍茶:急がなくていい、時間をかければ必ず解けるよ。ふふ……



33.酒飲んで楽しむ・四

正式に夢回谷に客として行くわけだ。


大晦日

絶境


 晴れた日差しの中、一行の霊鶴が車を乗せて雲霧を超え、空を飛んでいる。


碧螺春:貴方の霊鶴がこんなに役に立つなんて知ったら、私が島を出るときにあんなに苦労する必要はなかったのに。

松鶴延年:……一度きりです、彼らは人を運ぶためには使われるものではありません。

碧螺春:ふふ、私も適当に言っただけだ。それにしても、この車の速度は遅すぎる。

松鶴延年:……誰かが大量の酒をつんできたからでしょう。

玉麒麟:どこかの頑固者が書画の巻物を年越しの手土産として持って来たからじゃないか?そんなものよりも、うまい酒のほうが使い道はあるだろう?

松鶴延年:……お酒はあまりにも適当すぎる、器物こそが気品を表している。

玉麒麟:プレゼントはもちろん誠意が大切だ。取り繕ったものなどつまらんだろ。

松鶴延年:貴方……!

碧螺春:貴方たち、喧嘩はやめて、私の作った香料をプレゼントするほうが、よっぽど特別に決まっている。

普洱:……絶境はみんなの持って来たせいで、車は重くなったじゃない。

玉麒麟:……

松鶴延年:……

碧螺春:まあ、正式に夢回谷に客として行くわけだ、プレゼントを多く持っていくことも悪くない〜そうだ、みんなは自分のことで忙しいようだけど、今、誰が車の操縦をしている?


 碧螺春が話した瞬間、車内が静まり返った。みんなが一斉に車の前にいる如意巻きを見ると、周りの景色がいつからか寂しくなっていることに気づいた。


松鶴延年:……さっき、ちょっと霊鶴を見てもらっただけだったのに、なぜ道がはずれたのか……

如意巻き:わ、わからない……先生のおっしゃるとおり北に行ったのに……

松鶴延年:……まあいい、私の不注意だった。

玉麒麟:平気平気、外出すると、思わぬ事故に遭遇するものだ。日没前に着ければいい。



34.酒飲んで楽しむ・五

これは生まれ持った呪いだよ……


大晦日

夢回谷


エンドウ豆羊かん:だから……普洱が生き物に触れたら、本当に枯れさせてしまうじゃろ?

金糸蜜棗:麒麟島主が嘘をつくわけがないから、むやみに聞くのはやめよう……


 金糸蜜棗は好奇心旺盛なエンドウ豆羊かんを引っ張ったが、普洱は平然と、意外そうな様子はなかった。


普洱茶:大丈夫、あたしもたくさんの人にそう聞かれた……これは生まれ持った呪いだよ……

金糸蜜棗:まさかこんな変な呪いがあるなんて、行動するのも不自由になるよね。

普洱茶:もう慣れたよ……少なくとも絶境では、砂時計が助けてくれる。

エンドウ豆羊かん:大丈夫、絶境みたいなすごいところじゃ。きっとなんとかなる!

金糸蜜棗:そうだよ、麒麟島主もとても強いし!

普洱茶:うん……ありがとう……

エンドウ豆羊かん:でも……妾もこの技で凍頂烏龍茶を怖がらせることができたらようのう。さすれば、もう妾をいじめる勇気がなくなるだろう、ふふ〜

凍頂烏龍茶:ほう、客をもてなすよう頼んだのに、貴殿のその態度はなんだ?

エンドウ豆羊かん:わ、妾たちの話を盗み聞きするな!

凍頂烏龍茶:ただ偶然通りかかっただけだ。誰かさんがそんなことを考えていたとは思わなかった。

エンドウ豆羊かん:聞き間違いじゃ……そういえば、君山姉さんに頼まれていたな。先に失礼するぞ……!



35.雪が降りそうな夕方・五

白髪の英雄?


大晦日

夢回谷


玉麒麟:一年ぶりだな。夢回谷は今も平和か?

君山銀針:島主、お気遣い痛み入る。前回の虎蛟事件を解決して以来、谷内はとても平和であった。

君山銀針:ん……麓で堕神が出てきたことは一度あるが、みな駆けつけたときには、とある白髪の英雄が既に解決しておった。

玉麒麟:白髪の英雄?

君山銀針:うーん、近くにいた者たちが言うに、堕神をあっさりと倒したらしいんだが。彼の後ろには赤い服を着た男がおり、彼を追いかけて「玄武」と呼んだとか。

玉麒麟:玄武……?

玉麒麟:(まさかあのバカ龍の言う玄武神君か……ふふ、おもしろい……)

君山銀針:麒麟島主?いかがした?

玉麒麟:いや、なんでもない……ただ、これから面白いことが起こりそうだと思っただけだよ。じゃあ、飲もうか。



36.雪が降りそうな夕方・六

毎年こんな感じだったらいいのに……


大晦日夜

夢回谷


 花火が輝かしく燃え続け、爆竹の音が梅の枝に落ちて喧騒を引き起こし、屋内では食事の香りと酒の香りが濃厚に漂う。人々は既に酔い潰れ、一面に倒れてた。


エンドウ豆羊かん:ふふふ……妾は凍頂烏龍茶よりも強い!げっぷー、知ってるか?妾は劇場でタヌキを倒したことがあるのじゃ!

如意巻き:うーん……なんの焼肉?

エンドウ豆羊かん:タヌキじゃ!

如意巻き:焼肉……美味しい……!

エンドウ豆羊かん:このバカ、食べることしか考えていないな!

松鶴延年:ふたりとも……まず手すりから降りなさい……不思議ですね、自家製の桃汁なのに、どうしてふたりはこんなに酔っぱらって……

君山銀針:麒麟島主……持ってきた酒……実にうまい……

玉麒麟:当然だ、やはり頑固者にはその良さがわからない……

ロイヤルゼリー:……臭い、酔っぱらいは部屋に帰れ、近づくな。

凍頂烏龍茶:なにを言ってる……それなら余を連れて帰ってくれるか……

ロイヤルゼリー:……あっちへ行け。

エンドウ豆羊かん:はは!凍頂烏龍茶はまた叱られた!

冰糖燕窩:いいですね……毎年こんな感じだったらいいのに……



37.新年を迎える・六

うさぎのぬいぐるみを使って謝るなんて。


大晦日前

ある城の中


 街はにぎやかで、様々な露店が並んでいる。モクセイケーキはその賑わいの中を散歩し、祭りの雰囲気に包まれ、心も穏やかになってきた。


店主:お嬢さん、この雪玉うさぎ毛かんざし、今年の街で一番人気商品で、これが最後の一つですよ、逃したら手に入りませんよ!

モクセイケーキ:ありがとうございます……わたくしはちょっと見てるだけです……

店主:このかんざしは、お嬢さんにぴったりですよ!買って帰ったお嬢さんは、みんな自分の旦那様から褒められています!

モクセイケーキ:わ、わたくしは……本当に彼は好きになってくれるでしょうか……


 モクセイケーキは頬を赤く染め、視線をそらすと、隣にいた人がいなくなっていることに気づいた。


モクセイケーキ:え?黄山はどこに行ってしまったの?


 彼女が振り向くと、黄山毛峰茶は人々に囲まれ、熱心に話していた。なぜか彼女の胸には、羞恥心と怒りがこみ上げてきた。


店主:……おい、お嬢さん!どこへ行くのですか!このかんざし、もう要りませんか?


 モクセイケーキが気がつくと、周りはもう賑やかな様子がなくなっていた。彼女は指を絡めながら、失望と後悔の感情が押し寄せるのを感じた。

 しかし次の瞬間、前方のなにもなかったところから、手のひらサイズのうさぎのぬいぐるみが飛び出してきた。その後ろには、さっきの露店に置いてあった、あの真っ白なかんざしを抱えている。


うさぎのぬいぐるみ:美人のお姉さん、怒らないでください。このかんざしをあなたにあげるよ〜

モクセイケーキ:なに?

うさぎのぬいぐるみ:彼はあなたがこのかんざしを気に入ったと思って、謝罪の意味も込めて買ってあげたんだピョン〜


 可愛らしいぬいぐるみは、気取ったような声で話しながら揺れ動き、モクセイケーキは思わず笑ってしまった。


モクセイケーキ:うさぎのぬいぐるみを使って謝るなんて。

黄山毛峰茶:あら、もう怒ってないみたいだね?

モクセイケーキ:わたくしは、ぬいぐるみを許しただけで、あなたを許したわけではありません……

黄山毛峰茶:急に起こったことで、貧道も思い及ばなかった。さきほど、鬼谷の近くに住まうと申す者が貧道に占いを頼み、やはり鬼谷で異変が起きると見えた。恐らく、災難が起こるだろう。

モクセイケーキ:え?

黄山毛峰茶:まあ、幸いにも解く方法があり、最後には凶から吉に転ずる。しかしお主に話す前に、振り返ったら、その者はいなくなってしまった。

モクセイケーキ:……もうわかりました……!

黄山毛峰茶:いたっ……なにゆえ貧道は殴られたのだ……はあ、かんざしを受け取ったのに、こんなに急いでどこへ行く?



38.新年を迎える・七

書院の先生がみんなきれいだって聞いたよ!


大晦日前

墨閣


 パチンッ――


茶糕:あの鬼谷書院といえば、大したもので……


 一幕が終わると、小さなふわふわした頭がふたつ、待ちかねたように台の前に寄ってきた。


餃子茶糕姉さん!……あの鬼谷書院ってところはすごいね、オイラたちも……あそこで勉強できるの?

湯圓湯圓は、書院の先生がみんなきれいだって聞いたよ!

茶糕:鬼谷書院の学生は大半人間ですが、食霊も拒否しませんよ。でも、鬼谷書院に入るには厳しい試験を受けないと……

湯圓:試験?ええと……湯圓は高く飛べるし、文字もたくさん書ける!

餃子:オイラは重い麺棒を持ち上げられる!

茶糕:ぷははは、鬼谷書院の試験は四書五経、六芸を問うものですよ。これらに合格しなければ、正式な書院の学生にはなれません。

茶糕:先生というと、もっと厳しいですよ〜

餃子:四五六ってなに……それじゃあ希望がないじゃないか……


 悔しそうに頭を下げるふたりを前に、茶糕はにっこり笑い、冷静に扇子を振った。


茶糕:実はさっきのは嘘ですよ。鬼谷書院は常にあらゆる立場の生徒を受け入れ、平等に扱っております。本当に勉強する心があるならば、心配する必要はないよ。

湯圓:ほ、本当?それならがんはらなきゃ!

餃子:もし鬼谷書院に入れたら、必ず茶糕姉さんに報告するね!

茶糕:いいよ、では、朗報をお待ちしていますね〜



39.新年を迎える・八

これは「大吉大利砲」って言うんだ、見た人に幸運をもたらすんだよ〜


大晦日

墨閣


臘八麺:兄弟子――兄弟子――!

臘八麺:おかしいな……兄弟子がどこにも見当たらない……大晦日の宴会はもうすぐ始まるのに……


 臘八麺は庭をうろつきながら探していたが、オレンジの姿が見あたらなかった。彼が頭を抱えている時、足元の雪の中にオレンジ色の果物が埋まっているのを見つけた。


臘八麺:あれ?誰がこんなところに果物を捨てたんだろう……わあ!


 臘八麺が果物を手に取った瞬間、パチパチと爆発音がして、手にした果物が不意に火花を散らした。


柿餅:はははは〜!どうだ、俺が作った花火だ。驚いただろう〜

臘八麺:……兄弟子?こ、これは危なすぎる!他の人だったら大変ですよ。

柿餅:大丈夫、俺は試しているだけだ、あちこちに投げ捨ててるわけじゃない。

柿餅:杏仁ちゃんが言ってたけど、最近台所には盗み食いのネズミがいっぱいいるんだって。それを壁に埋めて、おどかしてやるつもりだ!

臘八麺:そういうことでしたか、じゃあ私も手伝うよ!

柿餅:へへ、いいよ〜


 臘八麺はそう言って足をあげようとしたが、足元がガリッと音を立てた。彼は瞬間で跳び退き、踏んだ雪が爆発して、火花を散らした。


臘八麺:うわーっ!

柿餅:プッハハハハ!今回は本当に驚いただろう!これは「大吉大利砲」って言うんだ。見た人に幸運をもたらすんだよ〜


臘八麺:兄弟子……!



40.雪が降りそうな夕方・七

みんなで踊らないと〜


大晦日夜

ある城の中


 大晦日の夜、小さな町は華やかな飾りと花火で盛り上がっている。お屠蘇よもぎ団子臘八粥が街を散策していると、そう遠くないところに小さな広場があり、そこでたくさんの人と音楽で賑わっているのが見えた。


よもぎ団子:前が賑やかですね、誰かが踊ってるようです。

お屠蘇:この踊り、すごく新鮮だし、面白そうだね。

通行人:へへ、お嬢さん、ご存じない?これは古の山霊祭祀舞で、鬼谷書院の雪掛先生が最近復元したものだそうだ。

臘八粥:動きが普通の踊りと違って見えると思いましたが、そういう意味があったんですね。

通行人:一緒に勉強しに来ない?踊る人が多ければ、祭りの力が強くなるって言われているよ。

臘八粥:いいよ、祭りなら得意ですもの〜

よもぎ団子:で、でも……私、踊りとかできないし……

お屠蘇:私を見るな、戦うのは得意だが、踊りは無理だ。

通行人:心配しないで、試してみて。とっても簡単だよ!

臘八粥よもぎ団子、来て!祭祀というものは、踊りよりも、誠意のほうが大事だよ。

よもぎ団子:じゃあいいよ、うーん、ちょっと、臘八粥、そんなに急がないで……

臘八粥お屠蘇も逃げないで!みんなで踊らないと〜

お屠蘇:……やめろ!

臘八粥:ふふ、よもぎ団子、手をもっと高く上げて、お屠蘇、動きが硬い〜

お屠蘇よもぎ団子、カゴが私にぶつかったぞ!

よもぎ団子:うわっ!すみません……!


 月明かりが照らす中、3人は町の人たちと一緒に踊り、かがり火は人々の喜ぶ顔をさらに明るく照らした。



41.お年越し・二

それも一種の守るということだろう。


数日前

ある城の中


 カチンッ


茶糕:前回、その素敵なカップルが玉泉村で悪人を倒し、盗賊団一味を壊滅させたが、町の人からお金を受け取らずに去ったという話をいたしました。今日は、彼らがどのような妙策で怪物を捕まえたかという話でござい……


 簡素で上品な茶屋の中で、語り手の生き生きとした挨拶に、客たちは心を奪われ、次第に喝采の声が聞こえ、賑やかだった。


甘酒団子紹興酒兄さん……このふたりの英雄、本当にすごいですね。

紹興酒:ああ、最近どこへ行っても彼らの話を耳にする……ふふ、聞くことに夢中になって、またお菓子が顔についてしまったぞ。


 甘酒団子が気づくと、口元に残ったカスはそっと拭かれていた。向こうの紹興酒が諦めたような笑顔を浮かべるのを見て、甘酒団子の頬が赤くなった。


甘酒団子:私も……あんなにすごい人になれたら……よかったです……

紹興酒:でも俺様から見れば、今の酒醸は十分すごいぞ。

甘酒団子:え……でと、ずっと紹興酒兄さんが私たちを守ってくれたじゃないですか?

紹興酒甘酒団子もいつも自分なりの方法で周りの人に温かさを与えてるんだ。それも一種の守るというのとだろう。

紹興酒:人を温かい気持ちにさせるのは簡単なことじゃない。戦いや殺し合いは、俺様に任せればいい。

甘酒団子紹興酒兄さん……わかりました!私もがんばって、皆を守ります!



42.お年越し・三

人を騙すやつ。

数日前

南離印館


生姜牛乳プリン:この絵を見せるために、わざわざあたしを?うーん……でも、君のスタイルにも似ていないようね。

ヨンジーガムロ:もちろん私のじゃない。手に入れるのに一苦労したんだけど、作者はグルイラオ王宮の宮廷画家よ。

生姜牛乳プリン:でも、どうして外国のものなのに……光耀大陸の文字が書いてるのだろう……

ヨンジーガムロ:……なんだって?

生姜牛乳プリン:ほら、この絵の隅のページの隙間に。

ヨンジーガムロ:そんなに目立たない場所でも気づくなんて、さすが時計修理師!どれどれ……特別な印鑑のようね……羊……羊六なにか魚……

生姜牛乳プリン:……羊方蔵魚だよね、あのよく荷物を背負って館内を徘徊して、人を騙すやつ。あたしも彼に騙されそうになったの。

ヨンジーガムロ:思い出した!この絵、彼から買ったのだ!

生姜牛乳プリン:……あんた、彼に騙されたんじゃない?

ヨンジーガムロ:そんな……買った時は大丈夫だったのに……

生姜牛乳プリン:とにかく、彼に責任を取らせに行かなきゃ。



しばらくすると――


片児麺羊方蔵魚豆沙糕の話を聞いていますが、先程彼が一枚の絵を持って、ニヤニヤしながら出てい行きました。あの人を探して、なんの用事でしょうか?

ヨンジーガムロ:私が不注意だった。ニセの絵を売られてしまった……

片児麺:……前回の古画の授業、よく聞いていなかったようですね。確かに海外の絵画は光耀大陸の絵画とは異なりますが、古代の絵画はそれでも共通の……

ヨンジーガムロ:まずい……、片児麺さんが古画の話になると止まらなくなるよ……

生姜牛乳プリン:……それじゃあ、あたしが彼を探してくるよ。まだ近くにいるかもしれないし!

ヨンジーガムロ:え?もう行ったの?



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