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白木蓮のささやき声・ストーリー

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作成者: 時雨
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白木蓮のささやき声

プロローグ


清明節前夜

とある村


 冰粉(びんふぇん)が機関城の帳簿を片付けて一息ついていると、扉を叩く音がした。


冰粉:どちら様ですか?

と:冰粉先生、私です。お邪魔してすみません。おや……お一人だけですか?

冰粉:機関城の修繕工事はほとんど終わりましたので、城主たちは暇を持て余して、一緒に遊びに行きました。帰るのは清明節の後になるでしょう。某は元々静かな方が好きですから、ここに残りました。

冰粉:村長は何故ここへ?もしや城主たちが発つ前に、また何かやらかしたのでは……

と:とんでもない、城主様には大変よくしていただいております。城主様に頼みたいことがあったのですが、仕方がないですね……

冰粉:村長、遠慮しないでください。ここ数日居候させてくださり、大変お世話になっております、何かお手伝いできることがあれば、遠慮なく言ってください。

と:はぁ、実は最近この村で……良くない噂が出ておりまして……なんでも山の前の桃林にお化けが出たらしいんですよ!

冰粉:これは……誰かが見たり、聞いたりしたのでしょうか?

と:その通りです。林の中からいつも変な声が聞こえるんです!何か不浄なものがやってきたと言う人もおり……今や誰もあそこへ近づけないのです。しかし、あの道を使わないと、村の出入りも、荷物や食料の運送も大変で……

と:機関城の先生方は凄腕だと存じております、桃林の中に一体何があるのか、先生方の力を借りて調査できればと。もちろん、謝礼はお出しします!

冰粉:村長、安心してください。某は謝礼など求めていません、必ず善処いたします。

と:ありがとうございます、冰粉先生!しかし……木こりから、近頃桃林近くに怪しい人がいると聞いたので、どうかお気を付けください!


少し後

桃林


 桃林の中、鳥が囀り、花が咲き誇っている。冰粉は細かく見て回ったが、特に変わったところは見当たらなかった。


冰粉:おかしいですね……もしかして来た時間が悪かったのでしょうか……


 静かな桃林を見つめながら、思わず考え込んでしまった。すると次の瞬間、彼は不思議な香りを嗅いだ。


───


 香りを辿ると、やがて近くの川辺に青緑色の髪をした人影を見つけた。その人は葉っぱや枝に埋もれながら、何かを摘んでいるらしい。


冰粉:(まさか……彼女が村長が言っていた怪しい人なのでしょうか?とりあえず、話しかけてみましょう)

冰粉:お嬢さん……お尋ねしたいことが……

碧螺春:……ぷっ、久しぶりにそんな風に呼ばれたよ。

碧螺春:公子はもっとよく見てみたらどうです?


 突然男性の声に遮られた冰粉は、ギョッとして顔を上げた。吸い込まれそうな青い瞳を見て、その時やった目の前の人は美しい男性だと気づいたのだ。


冰粉:コホンッ……失礼いたしました!見間違いでした、怒らせるつもりはありません。

碧螺春:ふふっ、問題ない。ところで、公子は……うーん、なんだか特別な香りがするね〜

冰粉:……!貴方様、何を!

碧螺春:あら、驚かせてしまった?すまないね、香りを嗅いで人を見分ける癖がなかなか直らなくて……怖がらないで、貴方のその香りはとても爽やかで心地よいと思うのだが、どんな宝物なのかな?

冰粉:……その香りは恐らく、某の大千生の匂いだと思います、特段珍しいものではありません。

碧螺春:おや、そうなのか?では、どうしていきなり私に声を掛けたんだ?貴方のせいで、危うく香り高い露を採取しそびれるところだった。


 目の前の男が勝手に喋っているのを見て、冰粉は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに自分の用事を思い出した。


冰粉:失礼しました……某は冰粉と申します。村民に頼まれて、この桃林に来たのですが、近くに怪しい人がいると聞いて……ここで何をされているのでしょうか?

碧螺春:ほう?貴方の言葉からすると、私がその「怪しい人」ってことになるね?

冰粉:いえ、そういう意味ではありません、ここにはたまたま貴方様しかおられず……他に怪しい人を見かけませんでしたか?

碧螺春:待って、貴方様はやめてくれ。なんだか老けた気がしてしまう、碧螺春(へきらしゅん)でいいよ。

碧螺春:ここ数日、私は確かにこの桃林を歩き回っていたが、珍しい露を取るためで、それ以外は全く目に止めていない。

冰粉:そうですか……失礼いたしました……

碧螺春:でも……


 明らかにもったいぶるような声が、冰粉の足を引き止めた。声の主は真剣に考えている様子で、視線を巡らせている。


碧螺春:今公子に言われて、怪しい人を見たのを、ふと思い出した。


ストーリー1-2


碧螺春:今公子に言われて、怪しい人を見たのを、ふと思い出した。

冰粉:?!碧さん、教えていただけるとありがたいです。

碧螺春:ちょっと、その呼び方も気に入らない……まあいい、貴方はあの頑固者とそっくりだな、文字面にばかりこだわって、強情で……

碧螺春:教えてもいいけど……先に露取りを手伝ってくれないか?

冰粉:えっ?

碧螺春:この露はね、蕾の間に凝結した一番澄んだ露でなければならない……ほら、来て、見分け方を教えてあげる。

冰粉:……


 しばらくして――

 碧螺春は満足げに銀の小瓶を持ちながら、目を輝かせていた。しばらくして、嬉しそうに口角を上げ、ゆっくりと言った。


碧螺春:まさか公子がこんなに手際がいいとは思わなかったよ、絶境で私と一緒にお香を作らないか?

冰粉:……用件を話してくれませんか?

碧螺春:そうだね。ここ数日、毎日青い服を着た書生のような男が桃林を彷徨っているのを見かけたよ。通りすがりの人皆近づこうとしない桃林なのに、あの人だけはまったく怖がらない様子だった。

冰粉:青い服の書生……他に怪しい物事を見かけませんでしたか?

碧螺春:他は特にないな。

冰粉:……教えてくれてありがとうございました。


 これ以上聞くことはないと思った冰粉は、お礼を言って立ち去ろうとするが、いきなり碧螺春に袖を引っ張られた。


碧螺春:そう慌てるな。貴方が助けてくれたから、私も何かお返しをしないと。今日は暇だから、一緒にその人を探してあげようか?

碧螺春:ぷっ、どうして困ったような顔をするんだ?私のことが、そんなに嫌い?それとも……実は、人に見られては困る何かがあるのか?

冰粉:……違います!


―――

だったら迷うことはないだろう?

・少なくとも私はあの書生と会ったことがある、目撃証人だ。

・ふたりで探せば、効率が倍になるよ。

・私は借りを作りたくない。

―――


冰粉:それは……わかりました。手伝っていただけるのなら、一緒に行きましょう。


───


 冰粉は事情を碧螺春に伝えた。それからしばらくして、二人は運よく村の入口で手がかりを手に入れた。


村人:あんたらが言っている書生は、多分曽先生のことだと思う。

冰粉:先生?

村人:ああ、あの人は村の学び舎の先生で、普段は妖怪に関する小説を書くのが趣味だ。しかし書いているうちに、段々とおかしくなっていって、授業以外は無口で、村の人ともあまり交流をしないんだ。

村人:最近、彼はいつも桃林の近くをうろうろしていると聞いたことがある、桃林で何かを企んでいるから、不浄なものを引き寄せてしまったのじゃないかと疑っている人もいたよ。

冰粉:そうですか……ありがとうございました。

碧螺春:どう?なにか分かったか?

冰粉:今のところ、他の手がかりもありませんので、まずは曽先生という人を訪ねてみましょう。

碧螺春:ふふ、同意見だ。じゃあ行こうか〜


少し後

曽家


冰粉:すみません、曽先生はいらっしゃいますか?


 素朴な扉を冰粉が軽く叩きながら、優しく聞いたが、長い間待っても誰も出てこない。


冰粉:まさか出かけたのでしょうか……

碧螺春:玄関前の足跡を見てごらん、まだ帰ったばかりだよ。泥がついているから、家にいないわけがない。多分、私たちを避けているのでは?

冰粉:……コホンッ、曽先生、我々に悪意はありません。ただ桃林の件で来ただけです……


 ギシッ――不意に扉が開き、手のひらくらいの隙間から、少し老けた中年男性の顔が見えた。その怪しく光る目が、探るように彼らを見据えている。


曽先生:何の用か?

冰粉:曽先生、某は桃林にお化けが出る件について知りたいのですが、最近よくあそこへ行かれると聞いたので、何かご存知でしょうか?

曽先生:……知らん、もう来るな。

冰粉:えっ……?待ってくだっ……


 冰粉の言葉は、閉ざされた扉に遮られ、二人は玄関前に立ち尽くし、しばらく黙っていた。


冰粉:どうやら、先生は我々に会いたくないようです……今の反応は一体、どういうことでしょう……

碧螺春:ふふっ、慌てて否定した様子から見ると、何も知らない訳じゃないみたいだ。

冰粉:もう一度……村民が言っていた学び舎に行ってみたらどうでしょう?


ストーリー1-4


 二人が学び舎に着くと、既に授業を終えているため誰もおらず、明るい教室に綺麗な机だけが置かれていた。

 顔を上げた瞬間、二人は隅に置かれた新旧の紙の束に目を奪われた。それは周りと相容れないように見える。


碧螺春:おや?これは……曽先生の手稿?

冰粉:貴方様……人のものを勝手に見ない方が……

碧螺春:ああ、これに書いてあるのはほとんど妖怪に関する話だね。村民が言う曽先生の小説は、これのことでしょう。

碧螺春:おや、小説だけではないようだ……これを見てみろ、実に面白い。


 それを聞いた冰粉は、渡された紙を受け取った瞬間、目をわずかに見開いた。

 それは公文書だけではなく、時代の悪弊を批判する文章もあり、紙は既に黄ばんでいて、何年も前のもののようだ。


冰粉:これらの文章は……言葉が鋭いだけではなく、行文と条目もはっきりしています。当時、先生の筆力と志は相当なもののようですが、何故今になって……

男の子:貴方たち……機関城の人?


 二人が振り返ると、学童のような少年がおそるおそる彼らを眺めていた。


碧螺春:ふふ、今から機関城に入るのも、まだ遅くないはずだろう?

冰粉:コホンッ、某は機関城の冰粉、彼は「絶境」から来た碧螺春です。我々に何の用でしょうか?

ショウ:よかった、本当に冰粉さんだ!僕の名前はショウ!あの……冰粉さんに……一つ頼みたいことがあるの。

碧螺春:どうやら、冰粉さんのお人よしな性格は、この村で知れ渡っているらしいね。

冰粉:……手伝うのは構いませんよ、どんな頼みでしょうか?

ショウ:冰粉さんに……先生を助けて欲しい!

冰粉:貴方様の先生は……曽先生ですか?詳しく聞かせてください。

ショウ:桃林のお化け事件は先生に関係があるってみんなが言うんだけど、先生はそういう妙なことをするような人じゃない、僕はよく知っているんだ!

冰粉:では……ショウくんから見て、先生はどんな人ですか?

ショウ:僕の心の中で、先生は一番すごい人だ!先生は本当にみんなが思っているような人じゃないんだ……!

ショウ:先生は元々玉京城の壮元で、城の悪い奴らを気に入らないから、よく文章を書いて彼らを批判したんだけど、そのせいで、散々虐げられたあげく街から追い出されてしまったらしい……幸い、親切な人に助けられたから、ここの先生になれたんだ。

ショウ:先生は少し変な性格をしているけど、僕たちにとても優しいんだよ!読み書きを教えてくれるだけじゃなくて、自分で書いた物語も読んでくれる……大人になったら悪い奴になるなといつも言ってくれる先生が、そんなことするはずがない!

冰粉:落ち着いてください。その言葉を信じますが、どうすれば貴方様を助けられますか?


 急に目が覚めたように、ショウは慌てて手に持ったものを渡した。


ショウ:これは先生が書いた桃林の物語。昔、先生が酔うたびにこの物語を話していたけど、この物語を書き終えたところを見たことがないんだ……

冰粉:桃林?それって……

碧螺春:ああ……この手稿に書いてあるのは、偶然にも桃林に迷い込んだ書生が仙霊に導かれて高官になり、数年間政治と教育をしていたが、悪党に中傷され、降職され家に帰ることになった。目を覚ますと、盛衰も栄光も不名誉も、すべて塵と化していた、という話だな。

碧螺春:まるで曽先生のことではないか。


―――

しかし、この物語は書生が目を覚ましたところで終わっていますね

・まさか先生はこの中で何か暗示しているのではないでしょうか?

・まだ知らない何かがあるかもしれません……

・この桃林は曽先生にとって、何か特別な意味があるかもしれません……

―――


冰粉:ショウくん、安心してください。某は隠された真相を突き止めるために、最善を尽くします。

碧螺春:ちょっと待って、私は?公子は私を置いていくのかい?

冰粉:これは某の仕事です。貴方様は既に恩を返した故、これ以上一緒に来る必要はありません。

碧螺春:しかし、問題はまだ解決してないよ。貴方から見て、私はそんなに無責任な人に見える?

冰粉:そんな風に思っていませんが……

碧螺春:それは良かった。じゃあ、私も一緒に行くよ。ショウくん、これらの手稿は大切に保管しておいてね、後で役に立つかもしれないから。

ショウ:うん、わかった!ありがとう、冰粉さん、碧螺春さん!


ストーリー1-6


 少年と別れた後、二人は桃林へ戻った。日が沈み、桃林は怪しげな色に染まっていた。


碧螺春:おやおや、真っ暗で、本当にお化けが出てきそうな雰囲気だね。

碧螺春:あの書生は、桃林の美しい妖怪に心を奪われ、この場所を忘れられないんじゃないか……

冰粉:……勝手な推測はやめた方がいいですよ。

碧螺春:退屈な人間は、老化が早まるよー

冰粉:某はただ……

碧螺春:シーッ、誰か来た。


 冰粉が反応する間もなく、肩が強く押されるのを感じ、茂みの中に隠れた。

 茂みの隙間から見ていると、やや細い人影がゆっくりと前を通り過ぎた。その人影は、やはり曽先生のようだった。


碧螺春:おや……こんな夜中に、何をうろうろしているんだろうね?

冰粉:なんだか……誰かを待っているように見えます……


 人影は桃の木の下を彷徨い、月がすっかり沈んでから立ち去った。残った冰粉碧螺春が見つめ合っている。


碧螺春:あれ?そう言えば、今夜の森は何も起きなかったようだ。まさか……

碧螺春:先生は村民が言うお化けを待っているのか?今夜は来なかったから、寂しそうに帰ったのかな?

冰粉:……根拠なく憶測で話さないでください……

碧螺春:まさか、ここで一生待つつもり?あいつが待っているのは人かお化けかはともかく、いつまで経ってもその人が現れなかったらどうするんだ。

冰粉:某は……

碧螺春:私に言わせれば、直接聞いた方がいい。

冰粉:しかし、先生の性格からして、正直に教えてくれるとは思えません。

碧螺春:はぁ……几帳面なのはいいけど、時々固すぎるね。

碧螺春:先生が話してくれないのなら、他の人に聞けばいい。彼が待っている人を誘き出そう。

冰粉:誘き出す……?


翌日の夜

桃林


冰粉:本当にこの香りを使えばいいのですか?万が一……


 冰粉は躊躇いながら渡された小瓶を見つめている、そしてもう一人は落ち着いた様子で笑っている。


碧螺春:試してみないとわからないよ。苦労して作ったものだから、ちゃんと使って欲しいな。

冰粉:……まさか、碧さんが火薬の匂いの「お香」も作れるとは……

碧螺春:香りなんだから、原理はほぼ同じだ。調香師の腕前を侮らないで……へくちっ!も、もっと離れて持って!キツ過ぎる……

冰粉:……まだ何もしていませんが……


 まだ開けていない瓶と、数十メートル離れていてもハンカチで鼻を覆っている碧螺春を見て、冰粉は最初言葉を詰まらせていたが、その後、笑わずにいられなくなった。


碧螺春:何を笑っている……コホンッ、誰もいないうちに、早く済ませよう!

冰粉:わかりました。では碧さん……って、いない……?

冰粉:この匂いに耐えられないのなら、しばらく大千生の中に避難した方がいいと言おうとしていたのですが……

冰粉:ふふっ……もし大千生の汁を付けたら、彼のような気ままで颯爽とした人が、いきなり落ち込む様子も、さぞ面白いのでしょう……


―――

まあ良い、まずは計画通りに動きましょう。

・このまま行動しましょう。

・少し遠いところの川辺に行きましょう。

・まずは周りを観察してみましょう。

―――


 碧螺春を探す暇もなく、冰粉は自ら瓶を開け、桃林の周りを何度も回っていた。しばらくして、濃い煙と赤い炎のような香りが草原を燃えるような勢いで広がっていった。


冰粉:(煙の匂いを使って、桃林に火事が起きたような錯覚をさせる方法が、本当に効くといいんですが……)


 しかしどれだけ待っても、桃林は静かなまま。冰粉は香りに耐えながら回り続けるしかない。すると突然、遠くからか細い声が聞こえてきた……


???:うわ……大変!桃林が燃えておる!


ストーリー2-2


???:うわ……大変!桃林が燃えておる!

碧螺春:なるほど、桃林に隠れていたのは、小娘だったのか。

冰粉:碧さん……?


 聞き覚えのある声に、冰粉は急いで駆けつけると、桃の木の下で碧螺春が落ち着いた様子で何かを眺めているのが見えた。

 その向こうには、整えた髪に簪をつけ、桃色のような顔をした「小娘」がいた。ただし彼女は桃の枝を持ち、慌てて宙に浮きながら回っている。


???:わっ、妾は小娘ではないぞ!

冰粉:これは……!?

???:うわ!ひ、人が増えおった!そんなことより、火を消すのが先じゃ!ここを燃やしてはならん!うぅ……まずは水おじさんを探しに行った方がよいのか……


 ぶつぶつ言いながら、慌てている小娘を見て、冰粉碧螺春はお互いに顔を見合わせて、すぐに全てを理解した。


碧螺春:ふふっ、落ち着いてよく見てごらん、どこも燃えていないだろう。

???:えっ……???


 冰粉から香りに関する説明を聞いて、娘はようやく泣き止んだが、それでも少し怯えた様子で二人を見ていた。


冰粉:申し訳ございません、貴方様の気を悪くするつもりはありません。某とあの者は食霊です。貴方様も……普通の人間ではありませんよね?

桃花仙霊:ええ……わたしは桃の木から化けたの、みんなは妾のことを「桃花仙霊」と呼んでいるわ。あなたたち、どうして夜中にこんなところに……


―――

話せば長くなりますが⋯⋯

・お嬢さんは曽先生をご存知でしょうか?

・事のきっかけは、曽先生という人に起因します……

・今夜こんな策を使ったのは、曽先生という人のためだったのです……

―――


桃花仙霊:曽先生って……曽兄さんのことを知っておるのか?!


 思いのほか嬉しそうな顔をしているのを見て、冰粉は希望が見えたような気がして、この機会にすべてのことを話した。

 話終わると、桃花仙霊の目がわずかに赤くなっていたのに気づいた。


桃花仙霊:実は……妾があなたたちの言っている……曽兄さんが探している人だ……


 その答えを既に予想していたが、二人は黙ったまま、彼女が話を続けるのを待っていた。


桃花仙霊:当時、妾はまだ霊力の低い桃の木で、土の中におるしかなかった……

桃花仙霊:ある日、隣で一人の人間が倒れており、いくら呼んでも起きん故、妾が草たちの露を借り、自分の実を彼に与えたのだ。

桃花仙霊:彼が目を覚ますと、助けてくれたから、もう友だちだと言ってくれた。

冰粉:では、ショウくんが言っていた、曽先生を助けてくれた親切な方というのは、貴方方のことだったんですね……

桃花仙霊:我々も曽兄さんに助けられた……曽兄さんが水や肥料を与えてくれなかったら、とっくに死んでいたに違いない。

桃花仙霊:曽兄さんはいつも、自分のことや他の人のことをたくさん話してくれた。あの時、我々は力不足で人型になれず、霊体のままで言葉を交わすしかなかったのだが、彼は一度も怖がることはなかった。

碧螺春:ふふっ、それは確かに良い話なんだけど、どうして今はこんなことになったんだ?

桃花仙霊:その後、曽兄さんが、この土地に城を建設されると教えてくれた、どこか他の場所へ逃げろ、と言われたので……

桃花仙霊:気は進まないが、命を守るため、立ち去るしかない……そして、我々は約束したのだ。十年後の春、人型になる修行をしたら、また彼に会いに来ると。

碧螺春:待って、貴方は「我々」と言い続けているが、どうして今は一人なんだ?

桃花仙霊:それは……ここ数年で、皆の霊体が消えてしまったんだ……草や木々の霊はもともとか弱い、霊識を少しでもあるだけでやっとだ……

冰粉:なるほど……ご愁傷様です。しかし、貴方様は戻ったのに、どうして隠れ続けて、姿を見せようとしなかったのですか?

桃花仙霊:曽兄さんはこの桃林で何度も言ってくれた……彼は力のない、腐った命を持った凡人で、遅かれ早かれ土になるだけ……しかし純粋で優しい我々が、この世に長くとどめることができるのを思うと、少しの慰めになると……

桃花仙霊:彼に会って、伝えたいのだ。彼は腐った命などではない、とても良き人であると!彼こそがこの世に必要とされる、純粋で優しい人だと!しかし……


 桃花仙霊は喉を詰まらせながら、綺麗な目には涙が溢れていた。


桃花仙霊:妾も、もう長くはない……

冰粉:なっ……

桃花仙霊:妾は……この最後の慰めまで失って欲しくない……枯れていく姿を見せたくないのだ……だけれども消える前に、やはり彼とお別れがしたい……だから長い長い間、この桃林で彷徨っておる……


ストーリー2-4


桃花仙霊:だけれども消える前に、やはり彼とお別れがしたい……だから長い長い間、この桃林で彷徨っておる……


 桃花仙霊は悲しみに浸り、彼女につられて、冰粉の目も潤んだ。小さな桃林の雰囲気は一瞬重くなったが、長いため息がそれを破ってしまった。


碧螺春:はぁ……やれやれ……世の中って、どうして頭でっかちな奴がこんなにも多いんだ?人間ではない仙霊もそうだったなんて、嘆かわしい、嘆かわしい……

冰粉:碧さん……?

碧螺春:彼に失望させたくないのなら、その考えをやめて、彼に会わないように、さっさとこの桃林から立ち去るべきだ。自分が後悔したくないなら、あれこれ言わずに会いに行けばいい。


―――

⋯⋯

・世の中にいる様々な難題はどれも簡単に解けるのに、心は複雑で、いつも多くを求めてしまうものだ。

・予測できない未来にこだわって何の意味がある?そのせいでこの機会を逃した方がもっと悔しいじゃないか?

・私に言わせると、遥々この場所に来たんだから、今を楽しんで、好きなようにしたらどうだ?

―――


曽先生:彼の言う通りだ……


 会話は突然かすれた声に遮られ、三人が一斉に振り返ると、素朴な服を着た曽先生がいつの間にか桃林に姿を現した。


桃花仙霊:曽兄さん……?!


 桃花仙霊は涙を浮かべ、言葉を詰まらせた。そして男はそっとため息をつき、苦笑いを絞り出した。


曽先生:数年間姿を見せなかったのは、そういう理由だったのか……すまない……気づいてあげられなくて。それどころか、お前たちの負担を増やすとは……

桃花仙霊:うぅ……ごめんなさい……我々は……

曽先生:桃、謝る必要はない、お前が元気そうで、何よりだ……

曽先生:残り僅かな時間であっても、最後まで一緒にいよう。

桃花仙霊:曽兄さん……

曽先生:もう泣くな……あの時、お前たちに助けられなかったら、私はここまで生き長らえることはできなかった……

桃花仙霊:違う……曽兄さん……違うの……

冰粉:先生はそう言っていますが、貴方様は……生き長らえたのではない、きちんと生きて来たのです。そうでなければ、あの原稿たちが存在するはずがありません。

曽先生:やはり見たのか……実は、予測ができないのはお化けではなく、ばかげているのは伝説に過ぎず、人間の心だと理解したのは、桃たちに出会ってからなんだ。事実を述べないのなら、怪談や逸話でも書いた方が、余生の慰めになる。

冰粉:しかし、某は先生の文章から怪談や逸話だけでなく、草木のロマンや狐とお化けの情も見ることができました。仙霊と会話することは、自身と会話することでもあります。

冰粉:きっと先生は、一時的の失意に負けず、やり方を変えて、もっとこの世を変えていこうとしているのでしょう。

曽先生:知己に出会い、これ以上何を望むのだろう……ありがとうございます、冰粉さん。先ほど、何も言わずに追い返してしまって、申し訳ございませんでした……


 冰粉は慌てて両手を上げてお礼をしようとする曽先生を阻止した。隣でそれを見た碧螺春は、ゆっくりと笑いながら言った。


碧螺春:貴方たちのことは一件落着だけど、桃林にお化けが出る問題はまだ解決してないよ。公子はこの桃花仙霊を捕らえて、村民に謝罪したらどうだ?

桃花仙霊:うわあ……やめて……!こ、こんなことになるとは思わなかった……皆に一番良い桃をあげる、許して欲しい!

曽先生:桃を困らせないでくれ……それに、この件は私のせいでもある……私から村民たちに謝りに行こう。


 二人の申し訳なさそうな顔を見て、冰粉はしばらく考えると、何か思いついた様子で優しく言った。


冰粉:某に一つ方法があります……


ストーリー2-6


清明当日

桃林


 森は光に照らされ、良い香りがする桃の花はまるで雲のように咲き乱れ、青空も幾らか緋色に染まった。次々と足を運んできた人たちは、美しい風景に魅入られ、林は賑わいを見せていた。


碧螺春:まあ、本当にいくらお金があっても、こんなに美しい風景を買うことはできないよね。


 碧螺春は桃林の中をのんびりと歩き回っていると、人混みの中から見覚えのある姿が見えた。


碧螺春:ふふっ、新しい服を着た公子はとても優雅だね。

冰粉:コホンッ……碧さん、服を貸してくれてありがとうございます……

碧螺春:公子は相変わらず遠慮ばかりだね。前に着た服はもう煙の匂いがしみついているだろう、放っておくわけにはいかないでしょう?

碧螺春:今回は急いで出かけたのが残念だ。そうでなければ、あの長袖錦織りの長着を持ってきて、早春に調合したあんずの花の香りに合わせると、貴方にぴったりなはずだ。

冰粉:コホッ……碧さんがそこまで考えていたとは思いませんでした、某は今のままで十分です。

碧螺春:そうだな、まだ機会はあるかもしれないし。それにしても、貴方が村長に何を言ったのか気になるね。まさか本当に村民たちを説得して、貴方の言う祭りに参加しに来るなんて。

冰粉:少し話を盛っただけですよ。清明節とは、草木が生い茂る節気ですから、万物や自然の霊が蘇り、活動する気配を感じる、この桃林にいるものは悪いものではありませんとね。

冰粉:そしてこれをきっかけに村民たちに清明節を過ごし、幸福を祈って、景色を楽しむことで、きっと自然の霊は人々の気持ちを感じ取ることができます。

碧螺春:さすが機関城の先生。しかし、すべてが片付いたというのに、どうしてまだ浮かない顔をしているんだい?

冰粉:少し感慨深くて……この世はまだ無垢な草木があり、人々も天地に気持ちを込めることができる。それは実にいいことです、このことが出来るだけ長く続くのを願うばかりです。

碧螺春:ふふっ、官界の浮き沈みだろうが、草花との約束を果たすのも、すべてが皆の選択に過ぎない、今の風月を楽しむといいよ。

碧螺春:さて、風月と言えば……貴方の友だちはつれないな、自分たちだけ遊びに行って、貴方をここに残して苦労させるとは……今は問題も解決したし、私と一緒に楽しい時間を過ごさないか?

冰粉:楽しい……時間?

碧螺春:ふふっ、公子は知らないよね。お香以外に、私の最も知っている場所は……優しい女の子に囲まれる遊郭なんですよ。

冰粉:あっ……あ、貴方様、何を品のないことを!

碧螺春:ぷっ、はははは――!沈着冷静な先生が、この一言で顔が湯を沸かしたように赤くなるなんて。品のないことを一回、ゆっくりと教えてあげようか?

冰粉:某は……

ショウ:冰粉さん、碧螺春さん!ここにいたんですね。


 二人が話していると、人混みからやってきた小さな人影が見えた。


碧螺春:ショウくんじゃないか。よく来てくれた、ちょうど今冰粉先生と……

冰粉:ゴホンッ……そ、そのような品のないことは、子どもに聞かせてはいけません。ショウくん、今日は曽先生と一緒じゃないのですか?

ショウ:えへへ、先生が二人にお礼を言いに来させてくれたんだ。僕は二人に言われた通り、先生がこれまで書いた手稿を一冊にまとめて、みんなに読んでもらったんだ。やっぱりみんな先生が書いた物語を気に入ったみたい!


―――

⋯⋯

・良い文章は、埋もれることはありません。

・それでいいです、某たちはほんのわずか力添えをしたまでです。

・偏見を捨てると、視野が広がることがあります。

―――


碧螺春:そう?それは良かった。そうでなければ、冰粉先生は白髪が生えるぐらいに悩んでいたところだったかもしれないね。

ショウ:今、先生がみんなに囲まれてて抜け出せないから、僕に伝言を伝えて欲しいって。ありがとう、冰粉さん、碧螺春さん。先生の文章がみんなに読んでもらえて、本当に嬉しいです!僕も将来、必ず先生のような立派な人になるよ!

冰粉:曽先生が聞いたら、きっと喜びます。


 少年の熱意と確信に満ちた声が耳に響き、冰粉は思わず笑みを零した時、遠くないところから感嘆の声が聞こえてきた――

 桃の木が風に揺られ、緋色の花が華やかに咲き誇り、桃の香りが漂っていた。


村人:わあ、綺麗だな!きっと山の仙霊たちが応えてくれているんだ!

碧螺春:ふふっ、面白い、来た甲斐があったな。


冰粉√宝箱


 暇になった冰粉は、一人で桃の木の下に寄りかかり、周りの笑い声に耳を傾け、とても安らかな気分になっていた。すると突然、誰かが彼の肩を叩いた。


桃花仙霊:冰粉兄さん、桃林の件ありがとう!この桃をあげる!全部妾が選んだ桃だ!


 山ほど積んだ果実を必死に自分で運んできた姿を見て、冰粉は驚きを隠せない。


冰粉:いいんですよ、これは頼まれたことですから。

冰粉:それに、人々の祭祀があったので、貴方様の亡き仲間たちの慰めにもなれたはずです。

桃花仙霊:うむ……妾は信じている……あいつらにもきっと見えたはずだ!


 励まされたように、少女は再び甘い笑顔を浮かべると、周りの桃の花は雨のように舞い落ちて、人々がまた感嘆の声をあげた。


桃花仙霊:うぅ……だが、妾はやはりわからない。なんで冰粉兄さんの言う通りに花を咲かせれば、皆はこんなにも喜ぶんだ?


 冰粉はそっと肩の花びらを払い、行き来する人たちを眺めてから、優しく答えた。


冰粉:人間にとって、天地や自然は彼らと共生するもの、畏敬するもの。人間の体では探索できない力を恐れていると同時に、自分たちに生活を与えてくれた土地に感謝しています。

冰粉:貴方様の応えで、彼らに自分が天地と通じることを知らせることができたので、和解ができたのですよ。

桃花仙霊:うーん……やっぱりよくわからない……ただ、今は皆の笑顔が見れて幸せだ!それに、妾が呼んで遊びに来た友だちも、とても楽しそうだ!

冰粉:……賑やかなのはもちろんいいんですが……


 冰粉はどこかに咲いている梅の花と秋菊を黙って眺めながら、上げようとする眉を抑えてため息をついた。


冰粉:……森の花を咲かせると頼んだのは某ですが、季節外れの花まで咲かせる必要はないと思いますが……

冰粉:碧さんが、自分のお香が植物の成長を促すことができるという言い訳で誤魔化したのは良かったのですが……そうでなければ、どう説明すれば……

桃花仙霊:えっ……?わっ、妾が、また迷惑をかけたのか?ううっ……どうしよう……嫌われてしまうではないか……


 中途半端にしか理解していない桃花仙霊は、焦り過ぎてその場でぐるぐる回り、また涙が出てきそうになった。冰粉が反応するまもなく、次の瞬間、あちこちから悲鳴が聞こえた――


村人甲:うわっ!こっ、この桃の木、急に動き始めたぞ?!

村人乙:それに、回っているみたいだ!不思議だな!

冰粉:待ってください、そういう意味ではないです!貴方様は皆さんに嫌われていません!お嬢さん、落ち着いてください……あの木が人を怪我させたら大変なことになります!

桃花仙霊:ほ……本当か……?えへへ……


 冰粉は揺れ動く桃の木を素早く止めると、さっきの言葉を聞いた桃花仙霊は、最初のように喜んでいた。すると、桃の木はますます嬉しそうに揺れ動いた――


冰粉:……某の腰が、木の枝に絡まれている……!ちょっ、やめてください!

村人甲:この桃の木、また動き始めたぞ?はは、踊っているように見える。

村人乙:山の仙霊様が喜んでいるかもしれない。ほら、見て、冰粉先生も踊っているじゃないか。

村人:まさか冰粉先生が踊るとは!その身のこなし、やはり私たちとは違うな!

桃花仙霊:あれ?冰粉兄さんは踊りたかったの?任せて!

冰粉:……ちっ、違います……!!!


碧螺春√宝箱


 昼が長く、雲のように鮮やかな桃林に、村の外からも人が集まり、すぐに林は賑やかになった。

 一本の枝で遊んでいた碧螺春は、人々と共に曽先生の語る様々な物語や逸話に耳を傾け、思わず浸っていた。


碧螺春:ふむ……この奇妙な物語は面白い……絶境に帰ったら、玉麒麟たちに話してみよう。


 一人で浸っていた碧螺春は、聞き覚えのある声に引き戻された。


曽先生:碧螺春さん、ここにいたのですか。よかった、先程まで囲まれていた故、まだきちんとお礼が言えていませんでした。

曽先生:おや……冰粉さんはいないようだが……

碧螺春:ふふっ、気にしないで。先ほどショウくんが、冰粉さんは木と一緒に踊っていると伝えに来ました。

曽先生:それは……はぁ……また桃が何かをやらかしたに違いない……

碧螺春:まあまあ、ため息はそれくらいにして、美しい風景が台無しになっちゃうよ。

曽先生:確かに……こういう賑やかな日にはまだ慣れなくて。

碧螺春:いいじゃないですか。昔の誤解はすべて解けたんだから、今から慣れていくのも遅くないよ。


 碧螺春は、ようやく安堵の微笑みを浮かべた男を見て、続けた。


碧螺春:私はお香を調合することが好きなただの暇人だけど、玉京に長年いるうちに何人かの文士と役人に顔見知りができました。貴方の集めた弾劾の証拠をもう一度調べれば、何かできる事があるかもしれない。

曽先生:なっ……碧螺春さんが言っているのは……!まさか……疑いが晴れる日を待てるとは……思いませんでした……

曽先生:この御恩、どうお返したらいいでしょう……碧螺春さんの力を借りる事ができるのなら、また全力を尽くせます!

碧螺春:お礼なんて必要ないよ……


 いつものようにゆっくりと口を開いた碧螺春は、枝を回しながら、青い瞳を揺らした。

 この桃の香りは元々私のものではない、私はただ……


碧螺春:春風に乗じて、この香りを遠くまで漂わせていただけだ。



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