ヴィダルアイスワイン・エピソード
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目次 (ヴィダルアイスワイン・エピソード)
ヴィダルアイスワインのエピソード
「パラダイスメーカーズ」は新進気鋭の企業、様々な企業、工場と手広く仕事をし、その社員と顧客ひとりひとりにとっての夢のようなパラダイスを創造することを目指している。そして、その創設者であるヴィダルアイスワインは、穏やかで優しい可愛らしい人物である。ビジネスパートナーというより長年の友人のように感じさせる。しかし、この若く優秀な起業家の本性はほとんど知られておらず、彼に信頼を寄せるということは、彼の周到に計画された罠に足を踏み入れるということなのだ。
Ⅰ.淘汰
「クレメンス家に居て、いつも嬉しいと感じますか?」
「うん…でも生まれながらクレメンス家の一員だから、それでいつも嬉しいと感じるのは可笑しい話ではないですか?」
僕は服の袖で止められない笑いを隠し、心理士の穏やかで心を探ろうとする目に向けて。
「僕にとってクレメンス家に居るのが当たり前だから、もっと別の言葉でこの感覚を例えるのならーー」
「心地よい。」
テスト終了のアラームが時間通りに鳴り、僕は親切な心理士さんと握手した後で部屋を離れた。
これで約一ヶ月のクレメンス家の食霊全員が参加する年度テストも終了した。
「ヴィダル!どうだった?最後の問題は何て答えたの?」
家の膨大な財力を示したいだけの鬱陶しい階段を降りたところで、とある声に呼び止められた。
僕は一瞬だけ悩み、あごを触れながら考えている振りをした。
「そうだねーー僕たちの問題が全部同じかどうかはまだ分からないよ。」
「あれだよ、家に居ていつも嬉しいと思うか…ってやつ、僕は「嬉しい」って言ったよ、終わった後良く考えたらこんなに簡単な答えは面白くないじゃないか?どうしよう、これで減点されるのかな!」
「安心しなよ、これは僕たちがどの仕事に合うかを判断するための心理テストだから、減点はないよ。それに、たとえ君が何点か減点してても、他のテストは優秀だから大丈夫だよ!」
「君にそう言われたら安心できるね!」
僕は微笑みながら、名前も知らない食霊を見送った後、彼の外見すらも自分の記憶から削除すると決めた。
どうせ彼は絶対このテストを通過できないから。
自信が無い且つ警戒心が薄い、肝心な時に慌てて手足も回らない…クレメンス家にこの様な食霊は必要ない。
似たような役立たず共を減らすために、家族は毎年大げさなこのテストを行ったーー
戦闘面だけでも力、持久力、速さ、テクニック、対応能力など十項目。それ以外に服従性、機動性、発展性…
人間が考え出したテストは自分の食霊に優劣をつけるための手段でしかない。
テストの結果は明日発表される。長い一枚の羊皮紙で百人ぐらいの食霊のランキングが書かれる。
僕は一番上の座に興味を持った事は無い。優秀過ぎるのは良い事ではない。不出来すぎるのも同じくらい面倒な事だが、こういう時僕は自分の中でとあるゲームを遊ぶ。
真ん中になろう。
そうすれば、僕より優秀なのは前に優秀ではないのは後ろに、どうでもよく見えるけど、家族の中で食霊の優劣を測れる、極めて重要な役割。
それに真ん中になる事は一位になるより遥かに難しい。なぜならこれは事前に全ての食霊の成績を予想する必要があるから、また獲得した点数を丁度真ん中にしなければならない。
さらに、予想外の面倒な事に対応しないといけない、例えば…
僕は今回のランキングで自分の後ろに並びながら、丁度ランキングの真ん中に居る名前を見て少し微笑んだ。
彼の事は当然知っている、先代の当主に召喚された、ローマ生まれの幸運な人。名前だけで注目を集める、人柄はもっと…
そう遠くない所に吐き気がするぐらいの笑顔を見た、僕は手を振って彼に気持ち悪いぐらい甘い微笑みを返した。
「最下位?」
「そう、何十人もの食霊を淘汰した後、今の食霊のランキングを見るからには…お二人は下から一番目と二番目になる。」
僕たち食霊の総管理者である白髪だが年をとっている感じがしない人間にそう言われた後、それを聞いた僕は思わず笑った。
どうやらずっと真ん中を狙うのはリスクがあるようだ。
「ふふ、どうやら真ん中を狙い続けるのはリスクがあるようだ。」
カイザーシュマーレンが笑ってそう言った。
彼の瞳は普通だったら「友好的」に見えるが、僕にはそれが「欲望」に見えた。
勿論彼は僕と仲良く成りたいわけではないだろう、自分の目的を達成したいだけーー僕にはよくわかる。
「君たちの次の任務はパラータへ訪問し、そこに紛れているメンバーを見つけ出し彼の家族に対する忠誠心を測ること。」
総管理者は何かを意味ありげに僕を見る、カイザーシュマーレンは共同になるかどうかは微塵も気にしていないみたい。
「任務の結果は次回のランキングに影響を及ぼします、では…二人の幸運を祈る。」
Ⅱ.忠誠
特別な目的がある人を除いて、恐らくパラータに行きたい人は誰もいないだろう。
干魃、炎熱、且つ荒廃した土地。
窓にもたれかかりながら太陽と黄砂の匂いを嗅ぐ、景色に飽きて眠ろうとしたとき僕は確信をした、これは上層部が長年のテストを娯楽として扱った僕たちへの罰だ。
「まるで罰みたいだね。」
カイザーシュマーレンはタイミング悪く長い沈黙を破った、さらに僕の心の中と同じことを語る点も少しイラっとする。
なので彼に賭けをしないかと提案した。
「これは協調性を調べるテストの可能性が高いけど、別々行動して、先に任務を達成した人が相手に一つ命令することができるってのはどう?」
「面白そうだ。」
「駆け引き成立かな?」
「いいよ。」
家族から提供されたこの資料があれば、広いパラータの地でも一人のメンバーを探すのは難しいことではない。
相手がモンカラ国王が一番頼りにしている大臣の一人だしても。
僕は重たいドアを開き、口から出そうな血を抑えながらソファーに座って驚いている男性に歩み寄った。
「僕は…クレメンス家の、ヴィダルアイスワインだ…今回の任務は、君は…家族に対し…忠誠かどうかを試すこと…」
肩から鈍い痛みがして、止むを得ず素手で体の中の弾を抉り出した。
「僕は仲間と…賭け事をした…彼は、先に、任務を達成し…僕に勝つため…、殺そうとしている…」
綺麗なソファーに制御できない体をもたれかけながら、止まらない血で高級そうなベルベット生地が赤黒く染まっていった。
「君も同じだ…一人の忠誠を証明するには…その人を殺し、さらに、裏切者であると告げればいい、嘘をつくより、面倒な事だ…」
ゆっくりと傷が治り始めた。息を吐き、僕は彼の手をしっかり握って。
「僕に付いてこい。」
男は手を握ったまま、そのままそこに座り少し首を横に振った。
「家族が僕に与えた命令は、ここにいる事だ。」
「でも誰かが君を殺そうとしているんだぞ、自分の身を守ってからでも任務を達成することは出来るだろう。」
「…これが本当に家族の意思なら、委任状を持ってるはずだ。」
「さっき言ったよ、僕の仲間が任務を達成させる為に委任状を奪った。」
「君のその仲間、名前はなんていうんだ?」
「カイザーシュマーレン。現在一位の食霊だ…あいつは狂人だ。」
「それならば…僕はなおさらここから離れることができない。」
男は僕の手から離れた。
「僕の家族の地位では、当主様の食霊を反発することは出来ない。もし彼が僕を殺そうとして、僕が逃げると選択したらそれは家族を裏切るのと同じことだ。」
「それに…君が言っていることが本当とは限らない、僕に家族を裏切るように誘導して、そのまま僕を殺す…君にとって、これこそが僕が家族に忠誠があるかどうかを検証する手段ってこともある、これなら僕を守ることより簡単でしょう。」
彼はソファーの真ん中に座る、後ろにある高そうな油絵が彼の誇らしげな表情を引き立たせる。
傷口は完全に治り、痛みは消えた。僕は背筋をのばし彼を見下ろして
「違うよ。君を殺す理由など必要ない。」
男の呼吸は止まっていた。
彼の表情は彼への試練を予測したかの様な自信ありげな表情で止まっている。
彼からはクレメンス家を信頼、寵愛、崇拝している様に見えた。
良かった、間違った人を殺してない証明だーー
僕の目的がクレメンス家を潰すことであれば、主人に忠実な犬を残す訳がないでしょう?
Ⅲ.パラダイス
「もし天国が存在するとしたら、クレメンス家の屋敷の中に建てられるべきだ。」
家族、或いは傍系の家族になるほど、この言葉を口にする者が多い。
なぜなら彼らは名のある家に隠された真実を知らないから。
ーー貪欲故にすべてを飲みつくしたい怪物。
遠すぎて暗く見える金色のドームを見て、どうすればこの滑稽な誕生日パーティーから逃げられるかを考えている。
よし、先ずはこの目立つ食霊から逃げよう。
「覚え間違えがなければ、お前がヴィダルだね?お坊ちゃんをお祝いしないのか?」
残念なことに、足を運んでいる途中で皇帝の様な格好の食霊に話しかけられた。
驚いた様子をしつつ、礼儀正しそうな微笑みをしておく。
「今向かうところですよ。」
「でもそっちは料理場の方向では?お坊ちゃんはロビーにいますよ。」
「おや、すみません、召喚されたばかりなので、まだ此処に馴染んでいなくて。」
「そのようなことでしたら、私が此処を案内しましょうか?」
「是非お願いします。」
カイザーシュマーレンの「親切」な案内のもと、僕はガラス窓に釘付けにされ展示されている食霊を見かけた。
その緑色の目は悲しみと喜びも無く、ただ淡々と何処かを眺めている、まるでただの芸術のサンプルのように。
「これはお坊ちゃんの食霊です、後何年か経ったら私とて同じような姿になってしまうかもしれません、こんなふうに…」
「彼は綺麗だ、でも…悲しい感じがするね。」
「悲しいですか?」
「美しいものは一旦狭いところに閉じ込められると、このような感じになりますよね。」
「なるほど…君はお坊ちゃんが当主の座を継ぐのが心配なのだと思ってました。」
僕は驚きながらカイザーシュマーレンを見た、彼は何かとんでもないことを言った気がした。
「もしかすると、この食霊は貴方と私より強大な力を持っているかもしれない、だけど食霊は数え切れないほどいる、彼らにとって食霊はどれも同じなのでしょう。」
「人間は大切さを分からなくなり、慎重さを失い傲慢になったとき、それは既に末路を踏み出している。」
「美しいものは元々このような狭いところに閉じこめるべきではない。そうではないか?ヴィダル。」
彼は自分勝手喋り、主に反逆になれるような発言を他の人に聞かれてしまうことなど全く気にしてない。
なんで僕にこんなことを話すんだろう。
狂ったのか?
僕はカイザーシュマーレンの目を見たが、残念ながら、彼の瞳にはいつも通りの冷静さしかない。
「ふふ…まさか当主の第一食霊の趣味が反逆することだとは?」
「反逆とはとんでもありません、私はただ貴方の心の内を代弁しただけですよ。」
「申し訳ないが、僕はガラス窓の中に閉じ込まれたくないので、家族に忠誠心を捧げる以外のことは考えていませんよ。」
「それは何よりです。何もない土地からはより良い新しい花が成長しますからね。」
僕は笑みを収めて。
カイザーシュマーレンの言葉が危険なわけではなく、それを危険なことと知りながら、僕は恐れ、或いは緊張など感じてない。
他人の警戒心を緩めるやつこそが一番怖いんだ。
「これは君の能力なのか?」
「能力?人の心を見破ること、それとも人の警戒心解くことでしょうか?いえ…私の言葉はあくまでも自分の本心に過ぎません。」
「うるさい…」
ぼんやりとした声が僕とカイザーシュマーレンの対話を中断させた。
僕らは同時にガラス窓の中に閉じこまれた食霊を見ると、僕とカイザーシュマーレンを見下ろす視線には、僕たちの方が壁に釘付けられた蝶を見るに冷酷さを感じた。
「うるさ過ぎて頭痛くなったよ…ここから離れた後、お前たちにも分けてあげるよ。」
僕は我慢出来ず笑ってしまい。
「楽しみにしてるよ。」
素晴らしい、もしクレメンス家を天国としたら、三人のサタンがここにいる。
残念なことに僕たちは協力することができないーーなぜなら、僕たちは初めて見た時からお互いのことを凄く嫌がっている。本能から。
どうせこの天国はもう既に腐りかけている、そのうち上から下に落ちるのを見れれば良いな。
そのとき…
夜中のモンカラは昼間と比べると、冬とも言えるくらいに寒い。
僕は思わず身に付けているマントにくるまり、烈風の中で同じ分厚いコートを着ているカイザーシュマーレンの前を歩いた。
「どう、そっちは順調か?」
「どうやら…貴方はもうやり終えたようですね、ヴィダル。では任務はもうこれで終了です。」
「ふふ、君は据え膳食わないつもりですか?賭けはもう良いのかい?」
「私はただ無意味な競争に参加したくないだけなので。それに、貴方に命令するよりも、貴方が私に何をさせたいのかに興味あるので。」
「では、今君の好奇心を満足させてあげるよ。」
僕は自分が頑張って任務を達成させる時、相手が知らないところでぶらついた事に対して不愉快な気持ちはない。それどころか、これ以上ないくらい嬉しく笑い始めている。
この腐った天国が雲の上から落ちた時、新しいパラダイスがそれに代わる。
新しいパラダイスはもちろん新しい主が必要だ。
クレメンス家が過去に侵奪したすべてのものを目に映さず、より貪欲な主に。
僕は月明かりにいるカイザーシュマーレンを見つめて、彼の察することができない細かな表情を観賞している。
「僕は君にクレメンス家に留まることを要求する、一生ね。」
クレメンス家と一緒に落ちろ。
何故ならサタンは一人で充分だから。
Ⅳ.力
カイザーシュマーレンをクレメンス家に「捕らえた」報酬として、僕は「自由」を得た。
総管理者は僕と関わりがある全ての資料を消した、そして僕の肩を叩いて声のない別れをした。
僕たちはもう一生会うことはないと分かっていた。
クレメンス家を離れた後、僕はまたモンカラに戻った。
この地に紛れ込んだやつが僕を殺し、今は丁度クレメンス家の監視力が最も弱い時だからってだけではなく。
それ以上に、ここで面白いものを見つけたから。
広いパラータの中心にあるのはアバドスという名の神秘な国だ、クレメンス家で力を尽くしてた一名のメンバーを王都モンカラに送った。
だが、モンカラ国王はアバドスの真の統治者ではない。
国王を含めてアバドスにいる全ての人はある存在を神として、完全に崇拝している。
命の危険を冒しても家族との誓いを守る男は、モンカラに10年以上留まりながらこのことに関しては一切口にしたことがない。
クレメンス家の洗脳を上回る力、もしあれを手に入れることができたら…
だがしかし、この存在に接近することは決して簡単ではない。
僕が数日の調査で知ることが出来たのは、「城」と言うところに住んでいるということ。
王室が結成した「オアシス捜索隊」を見ると、もしかするとあれは何か隠したいものなのかもしれない。
あれはオアシスではない。
手詰まりの状況化で、僕は一通の手紙を城に送ってみた。
その手紙の内容は非常に簡単で、「僕は君の欲しい『もの』を持っている。」ーーメッセージは少なければ少ないほどいい、相手は君がどれ程の情報を持ってるか興味があるから、早めに返事が来る。
それもリスクがある、相手は君が嘘をついていて、実際は何も知らないということを勘づくかもしれない。
意外なことに、すぐに僕のことを見つけた。
「どこだ?」
あれはホワイトゴールドな男、いや…まだ彼は「人」或いは食霊かも確定出来ない。
とにかく、彼は僕が思ったより単純で、一人でここに来た。疑いもせず躊躇いもしない、なんなら少し暴れている。
「どこにある?」
「焦らないで…僕が言った『もの』とは情報の事。」
「騙したな。」
僕はその瞬間気づいた、彼は慎重さが欠けているわけではなく、慎重になる必要がないんだーー彼には全てを破壊する力がある。
これほど緊張するのは久しぶりで、少し笑みがこぼれた、まさか家族を離れた後一番にやることが、神になる存在の情緒を安定させることとは。
「騙す?僕が何故そんなことをする必要があるのですか?僕はただ本心で協力したいとおもっています。良い方法はまだみつかっていませんが。」
「協力?」
「あなたは女王陛下を軟禁したと聞きました、それは彼女が君の意思に背いたからですよね?」
「…彼女は「器」になりたくない。」
「器…それは器になると、彼女が彼女では無くなってしまうことが原因ですか?」
「僕は彼女ではないから、どう考えているかは分からない。」
彼は否定していない、それから察するに「器になる」ことは恐らく人の魂を奪い、人の体を乗っ取ることだ。
僕は笑いながら頷き、彼の言葉に賛同の意思を現した。
「だけど、彼女が囚われることであなたの意思が変わることはない、ならばいっそのこと彼女を利用してより良い器を探すのがいい。」
彼は明らかに動揺した、瞳の中に微かな光が現れた。
驚いた、彼の体にある力が膨大すぎるのか、まさか知恵は微塵も無いのか?
「お前はどうして俺に知恵を貸してくれるんだ?何が欲しい。」
よかった、本当のバカではないみたいだ。
「ふふ、僕はただビジネスチャンスを得たいだけです。アバドスの地は荒廃しているように見えるけど、実は数え切れない財宝が隠されている。」
「見つけ出したら…お前にあげる。」
「では協力関係を結ぶということですね?」
「あとは何をするの?」
僕は少し同情した。
この「神様」はきっと無力だったのだろう、強大すぎて、こんなに甘い者だとは誰も思っていないんだろう、助けを必要しているとも思わない。
まあもちろん、僕もそうしないが。
その後、彼は隠すことなく僕にもの語りを話してくれた。彼の力の源、そして彼が探し回った「オアシス」について。
僕は笑みを浮かべた、それは財宝への渇望にみせかけるため。
当然それは教えない、実はアバドスの黄砂の下に埋められた財宝には少しも興味がない。
僕は彼の「オアシス」が欲しい。
その強大な力、世界の始まりからの力、神の力、それを見たからには欲しくならない人はいないよね?
「ご安心ください。僕の他の地方での権力は、君がアバドスへの揺るぎない絶対的支配力とは比べられないですけど、でも…使える『道具』があります。」
僕はその「神」を慰めていた。
「僕は必ず、必ず「オアシス」をあなたのもとへお連れします。どうかご安心ください。」
Ⅴ.ヴィダルアイスワイン
実はヴィダルアイスワインはカイザーシュマーレンと同じく無意味な争いが嫌いだ。
だから、彼は召喚されてすぐにクレメンス家からどうすれば抜けられるかを考えてた。
食霊たちがここで激しく争いをしたとしても、最後は一番使いやすいやつを使うだけに過ぎない。
ヴィダルアイスワインは道具になりたくない、けれどそれはクレメンス家のやり方を否定するというわけではなく、彼はただ自分は他のやつよりも上だと思っているからーー
クレメンス家より貪欲で、より情けがいらない道具を使う。
彼は自分のパラダイスをつくり上げる。その時になれば、クレメンス家もただの使いやすい道具に過ぎない。
パラダイスメイカーズ。
「神を…直視できぬ?なにこれ?」
モントリオールスモークミートは手元にある分厚い資料を見て、珍しく真剣な表情で尋ねた。
それが重い話だとヴィダルアイスワインは思わない、彼はCDプレイヤーから流されたクラシック音楽に沿って、透明な指揮棒を振りながら少し自慢気な笑顔をしている。
「それは古くからの戒めだ、ある神は敬われず、ある神は触れられず、そしてある神は直視することさえ罰を受けることになる…その神を直視できぬ。大げさに聞こえるでしょう?あれこそ僕が言ったアバドスに隠された宝物だ。」
「…狂ったのか。あなたの発狂に付き合うためだけに、わたしをここへ誘ったのか?」
「そう焦らないでよ、その資料に描かれている怖い光景は当時の召喚士が間違った方法を使ったから。正しい方法で召喚出来れば、そいつから驚くほど強大な力が手に入るよ、魅力的じゃないか?」
「あなたは正しい方法を知ってるの?」
「アバドスにいる僕の友人が知ってるよ。」
「…どうすればこの資料に書いてることが本物だって信じられるの?神を直視できぬ…邪悪な宗教の人を騙す言葉に聞こえそうだけど。」
「安心して、その資料は前の雇い主からもらったんだーーあれは世界で一番使いやすい道具だから、偽物な訳がないよ。」
ヴィダルアイスワインは立ち上がって、彼は「パラダイス」のてっぺんで明るい窓ガラスから見える雄大な風景を眺める。
「それに、僕たち自ら試す必要はないよ、何せそのための「道具」だから。君はただ、僕の代わりにその道具の保管と鍛錬をして、最後まで用意してあげるだけで良いんだよ。」
「…あなたは相変わらず情けのない人だね。これで安心だ。」
モントリオールは重い空気を一掃して、微笑んで資料を下しヴィダルの後ろ姿に礼をして離れた。
モントリオールが離れた後、ヴィダルアイスワインのオフィスはすぐに二人目のお客を迎えた。
「サスカトゥーントイファクトリーは現在グルイラオにいる工場の中で一番労働者が多い、オーナーは子供で…私達の目的に最に適してる。」
彼は単刀直入に言った、そして少ない資料を机において、ヴィダルの前で軍人のようにしっかり立っている。
ヴィダルは資料を手に取って、ゆっくりと相手の無表情な顔を見終わった後微笑んで、純真無垢な目で、からかうような表情をして。
「協力するんじゃなく、彼らを生贄にするんだ。」
「…なるほど。」
「僕を残酷だと思うか?何の罪のない何も知らない一般人を使って、僕の夢のために生贄になる…モカ、これは君の理念と反しているんじゃないのか?彼らは可哀想じゃないのか?」
それを言ってヴィダルアイスワインの綺麗な目は、今にも涙がこぼれそうな様子で目の前の食霊を見ている。
モカは変わらずそこに立ち、揺るぎもしない。
「僕には理念がない。」
「それなら良かった。なんにせよパラダイスは無数の死骸の重なりでここにいるんだ…その意志を分からないやつは邪魔になるから、パラダイスは地面から遠ざけとかないと。でも…」
ヴィダルは少し首をかしげ、先生に空はどうして青いですかと質問する無垢な子供のように。
「君に理念がなくても、ラテがどう思うのかは分からないよね?」
「彼はこの事を知らない。」
「じゃお願いするね。」
ヴィダルは満足そうにCDプレイヤーのCDを換え、激しいシンフォニーは囚われた獣のように、広いオフィスで暴れている。
モカは少し唇を噛み、暫くして再び口を開き。
「でも『カーニバル』がおもちゃ工場に近いてる、だからもし行動するなら我々も急がないと。」
「カーニバル?」
「娯楽をする街で…」
「何かは知ってるよ、ただ何故かが分からないけど。」
「まだ完全に調べていないですが、カーニバルはおもちゃ工場のオーナーのアシスタントにある薬剤を売り出している。」
「薬剤?」
それを聞いてヴィダルは夢から覚めたように。
ヴィダルはガラス窓の中に釘付けにされた蝶を覚えてる、彼もその後クレメンス家から離れ、その上魔導学院に入った。まさか…
「ふふ、これは本当に…困ったな。」
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