白き約束~ホワイト・トワイライト~・ストーリー
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白き約束~ホワイト・トワイライト~
聖剣騎士団の3人と、とある約束をめぐる、小さな愛の軌跡――
目次 (白き約束~ホワイト・トワイライト~・ストーリー)
プロローグ
蘇盛十二日、午後
某所ホテル
木製の窓から差し込む温かい日差しが、部屋のテーブルを照らしている。そのテーブルで、退屈を持て余したビーフステーキが居眠りをしていた。
カツカツカツ――
足音が部屋の前に止まる。そして、ゆっくりと部屋のドアが開かれる。そこに立っていた小柄な少女は、ビーフステーキの姿を認め、勢いよく室内に侵入してくる。そして、ビーフステーキの首根っこを掴み上げた。
ビーフステーキ:わっぷ!!
ジンジャーブレッド:相変わらずのバカ面ね、ビーフステーキ!起きなさい!依頼人が来てるわよ!
ビーフステーキ:ぐぅうっ!わ、わかった……から!その手を離……せぇ~!!
ビーフステーキは首を絞めあげられ真っ赤になって、興奮気味にジンジャーブレッドの腕を叩いた。
そんな様子を、後から入ってきた赤ワインが愉快そうに見ている。暴れるビーフステーキとは正反対に、優雅な仕草でハンガーにコートを吊り下げる。
赤ワイン:ジンジャーブレッド、その手を離さないでください。そうしたら、彼はもうその無様な嗚咽を上げることはなくなりますからね。
爽やかに放たれたその台詞で、ジンジャーブレッドはようやく状況を把握した。息絶え絶えになったビーフステーキを慌てて離す。
ジンジャーブレッド:……おい、大丈夫か?
赤ワイン:問題ないでしょう。ビーフステーキはとても図太い男です。そもそも彼は、繊細さのかけらも持ち合わせてはいない男ですしね。
ビーフステーキ:赤ワイン!良くも言ったな、この野郎!やるか!?
ビーフステーキが赤ワインの胸倉を掴んだ。その態度に赤ワインもビーフステーキの胸倉を掴んだ。
そのタイミングで、部屋のドアが開かれる。ドアの向こうには白髪の老人の姿があった。老人はビーフステーキたちに視線を向け、コホンと咳払いをした。
ビーフステーキは彼女が依頼人だと気が付いて、赤ワインの胸倉に添えた手を放す。赤ワインも同様にビーフステーキから手を放し、乱れた胸元を整えた。
ジンジャーブレッド:あなたはあたしたちに何か依頼したいことがあるとのことでしたね。どんな依頼でしょうか?
志夜:……あなたたちが、カナン傭兵団でしょうか?町でカナン傭兵団の噂を聞いてきました。
ビーフステーキ:いえ!我々は傭兵団などではなく、聖剣騎士団です!お金のために働く傭兵などと一緒にしないでもらいたい!
赤ワイン:……レディ、そこの野蛮人の言葉は無視して結構です。間違いなく、俺様たちはカナン傭兵団。安心して、依頼のことをお話ください。
ビーフステーキ:(この野郎……ふざけやがって。俺は傭兵団なんかに関係ないぞー!)
志夜:初めまして、わたくしは志夜と申します。私の依頼は、娘のことです。どうか娘を、お助けください……!
ジンジャーブレッド:志夜さん、詳細をお聞かせください。できる限り、我々はあなたに協力したいです。
志夜:わかりました。お話します……。
神妙な表情で、志夜はジンジャーブレッドたちの顔を見渡した。そして、娘とその恋人について、彼女たちに話し出す。
志夜が高齢になってから生まれた娘は、昔から病弱だった。そのため町の病院に通っており、そこで出会った若き青年と恋に落ちたと語った。
クエスト1-2
数年前
町の表通り
康:杏(あん)ちゃん、ごめんね。僕は、ホワイトデーの日にはもうここにはいない。一緒に過ごそうって約束したのに……本当に、ごめん。
杏子:ううん、わたしはわかってるから。康(こう)くんにはやらなきゃいけないことがあるんだもの。仕方ないよ!再会できる日を……ずっと待ってるから。
杏子:康くん、わたし、信じてるよ。康くんが、たくさんの人を救うんだって!
康:……杏ちゃん!ありがとう。僕は頑張るよ……!そして、必ずここに戻ってくる!そこから先のホワイトデーは必ず君と一緒に過ごすよ!
杏子:康くん……!待ってる……!わたしずっと。待ってるからね……!
一年後
町の病院
志夜:杏子(あんず)、今日の薬だよ。
杏子:お母さん、ありがとう……コホン、コホン……!
志夜:咳が辛いみたいだね、杏……。
杏子:コホン、コホン……だ、大丈夫。こんなの、全然平気なの……!康くんはもっと大変な筈だもん。それに比べたら、全然大したことないの……!
【それから数年経っても、杏子の彼は戻ってこなかった。それでも、杏子はずっと彼を信じて待ち続けている……。
杏子は彼と別れた町の門で、元気なときは毎日のようにそこにいた。それでも彼は戻ってこない。杏子の病気は日々悪くなっていった。
その後も彼女の病はひどくなる一方で、快復の兆しは見えない。杏子は、ただひたすら彼が戻ってくることだけを頼りに病気と闘っていた。】
志夜は目に涙を浮かべ、訥々と語る。その様子を黙って三人は見守った。
志夜:杏子は、もういつ死んでもおかしくない状態のようです。医師からそう宣告されています。今年のホワイトデーは越せないだろうと言われました。
ビーフステーキ:……。
赤ワイン:……。
ジンジャーブレッド:……。
ビーフステーキ:志夜さん、杏子さんの彼を探しましょう。彼の名前を教えてください。どこにいるかわかれば、いますぐ彼の元へ向かうべきです!
志夜:いえ、杏子の彼はもう戻ってこないと思います。ここまで杏子を待たせた彼には何の期待もしていません。これ以上、あの子に彼のことで悩んでほしくない……。
志夜:今、私が望んでいるのは、あなたが杏子の恋人として一緒に来てくれることです。
ビーフステーキ:あなた……?って、え?わ、私か?
志夜:はい。あなたは杏子の彼氏に見た目も身長の高さも似ています。病床に伏すあの子にはきっと、かつての恋人とあなたの区別がつかないはずです。
赤ワイン:確かにそれは手っ取り早い方法かもしれないが……いくら病気だからといって、愛する人を見間違うなんてことはあるでしょうか?
志夜は一枚の写真を取り出し、三人に見せた。そこには杏子と恋人であろう青年が写っている。
志夜:杏子の目は、薬の後遺症でもうよく見えていないようです。だから、彼女に恋人を認識することは難しいと思います。
その言葉に、三人は写真を覗き込む。そこには赤い髪の青年がにっこりと笑みを浮かべていた。
ビーフステーキは、「この依頼を受けよう」と笑顔を浮かべた。それは、写真の青年の表情を意識した笑顔だった。
契約が成立し、志夜は何度も頭を下げて帰っていった。そんな彼女を満足気に見送ったビーフステーキは、赤ワインとジンジャーブレッドが眉を吊り上げて睨んでいることに気が付いた。
ビーフステーキ:ん?どうかしたのか?そんな怖い顔をして……。
ジンジャーブレッド:なんで依頼を受けたの!?あんた、状況わかってる!?
ビーフステーキ:何か問題があったか……?
赤ワイン:ジンジャーブレッドは、我々がこの依頼を受けるべきではないと思っているんだ。
ビーフステーキ:依頼を受けるべきではない?何故だ?
ジンジャーブレッド:この話って、杏子を騙すことになるじゃないか!杏子は何年も好きな男を待ってたんだぞ!偽者でごまかそうなんて、あんまりだっ!
赤ワイン:とはいえ、彼女はいつ死んでもおかしくない状態だと話していた。彼氏本人を探し出すのは難しいと思うが……?
二人の話を聞きながら、ビーフステーキはどうするべきか改めて考える。だが、赤ワインの言う通り、今から本人を探している余裕はないだろう。
ビーフステーキ:なんだ?
ジンジャーブレッド:この依頼、本当に……引き受けていいって思ってるのか!?
───
(……私は……どう思っている?)
・もちろんだ。やり遂げてみせる。
・それなら、代わりに断ってくれればよかったのに。
・やはり、引き受けるべきではなかったな……。
───
クエスト1-4
翌日
――朝食の席にジンジャーブレッドの姿はなかった。二人は彼女のことが気になったが、直に現れるだろうと待つことにした。
しかし、ジンジャーブレッドは、やってこなかった。もうすぐ病院に行く時間である。
赤ワイン:我々は病院に行くのだ。彼女は子どもではない。放っておけばいいさ。
そんな赤ワインの言葉に、ビーフステーキはカッとなって剣の柄に手を当てるも、ぐっと堪える。
ビーフステーキ:ちっ……その態度は気にいらないが、時間がないのは事実だ。依頼主を待たせる訳にはいかないからな。
苛立ちを隠しきれないまま、ビーフステーキは赤ワインと共に病院へと向かった。
病院も門をくぐると、入り口に志夜が立っているのが見えた。待たせたか、と慌てて二人は足早で志夜の元へと向かう。
志夜:焦らないで大丈夫ですよ。ありがとうございます。ではビーフステーキさん、これをどうぞ。
ビーフステーキ:これは……?
唐突に渡されたのは、襟首にファーのついた白い外套だった。
志夜:このコートを着てください。あと、これを……。
それはかつて杏子の恋人が、この町に戻ってくるときに携えてくると約束したものだった。今でも、恋人がこれを手に戻ってくると信じて、杏子は窓の外を眺めているらしい。
ビーフステーキ:なるほどね……。
蘇盛十三日早朝
町の市役所
ジンジャーブレッドは早朝の市役所に来ていた。キーピックでドアをこじ開け、ひとり室内へと侵入する。杏子の恋人である康の居場所を突き止めるためである。
ジンジャーブレッドの手には、志夜から渡された杏子と康の写真があった。誰かが来る前に情報を得なければ、と必死に書類を漁る。
ジンジャーブレッドの読みは当たり、該当する青年の情報に行き着いた。しかし、そこで手に入れた情報だけでは、康の居場所はわからない。
そんなとき、市役所のドアが開いた。慌ててジンジャーブレッドは書類を元の場所にしまう。
町長:おや、貴方は……?すみません、どうやってここに?
ジンジャーブレッド:ドアが開いていたので、どなたかいるものかと。失礼しました。
町長:そうでしたか。役所の者が鍵を閉め忘れたのですね。何か御用でしょうか?
【ジンジャーブレッドは今さっき手に入れた康の情報を、まるで既に知っていることのように朗々と語る。すると、町長は康のことを話してくれた。その話に、ジンジャーブレッドは大急ぎで病院へと向かった。】
カツカツカツ-―
――バンッ!!
ジンジャーブレッド:ちょっと失礼!
ビーフステーキ:おっと!どうした、ジンジャーブレッド。そんなに急いで。
ジンジャーブレッド:ん?ビーフステーキ!なんだその格好……いや、そんなことより聞け!康を見つけたよ!
ジンジャーブレッドは、ビーフステーキと赤ワインに、役所で聞いた康のことを話した。更に、役所から掠め取ってきた書類を二人に見せる。
ビーフステーキ:……。
赤ワイン:……。
ジンジャーブレッド:康は戦死したらしい……でも死体は見つかっていないって。
そんなジンジャーブレッドを横目に、ビーフステーキは溜息をついて、髪を掻き上げた。康の死亡について、もうひとつ重要な事実がその書類には記されていた。
───
……どうする?
・志夜さんに伝えよう。
・その書類を志夜さんに渡そう。見るかどうかは、彼女次第だ。
・志夜さんには……このことは黙っておこう。
───
クエスト1-6
そこに志夜が現れた。ジンジャーブレッドの姿を見て、一瞬驚きを見せるもすぐ笑顔を浮かべた。
ジンジャーブレッドは緊張した面持ちで志夜に向き直る。
どうしていいかわからず、ジンジャーブレッドは手にした書類を慌てて後ろ手に隠した。
志夜:ああ、やっぱりとても似合うわね。このドレス、あなたにピッタリよ!
ビーフステーキ:ええ。丁度良いサイズでした。まるで、私のためにあつらえた服のようです。
志夜:……何故そんなことを言うのです?
ビーフステーキ:……それは。
ジンジャーブレッド:……。
ジンジャーブレッドは、動揺から手にした書類を落としてしまう。
志夜はその書類を素早く拾い上げる。そして、苦い表情で三人に向き直った。
志夜:お嬢さん、あなたが遅れてきた理由は、これだったのね。
志夜は悲しそうに肩を落とした。
ジンジャーブレッド:志夜さん、あたしたちは……。
志夜はジンジャーブレッドの言葉を手で制した。彼女は、康の死亡証明書を見ても驚いた様子は見せない。それは、このことを知っていたことを証明していた。
志夜:もちろん康の死についてはわかっていました。私は、彼の母親ですからね。その書類に記されていることは事実です。
ジンジャーブレッド:康は兵士としてではなく医者として戦地に向かったんじゃないの?本当に彼は死んだのですか?死体は見つかってないって市役所で聞いたよ。
志夜:けれど、いまだ彼は戻ってきていません。もとより、それが彼の意思ですから……もう戻ってくることはないでしょう。
そして彼女は懐から何通かの封書を差し出した。差出人は康――彼女の息子からだった。
志夜:徴兵された者は皆、家族や大切な人への手紙を残します。康からの手紙は、杏子を愛してしまった罪への謝罪で埋まっていました……。
志夜:彼は医師として杏子と知り合いました。ですので、すぐに杏子と自分の関係について知りました。それでも、杏子への想いを止めることができず――康は最後まで、杏子に真実を告げませんでした。
志夜:康は、彼女の恋人としてこの町を去ることを決めたのです。戦争が終わって、たとえ生きていたとしても、ここには戻ってこないと……私に手紙を残して。
志夜:杏子は真実を知らない。最後の最後に真実を伝えるべきか悩みましたが、康のためにもこの嘘を貫こうと決めました。
ジンジャーブレッドは低く唸った。感情の整理ができていないようだ。対して、ビーフステーキと赤ワインは表情を変えることはなく、淡々と志夜の話を聞いている。
康の願い、杏子の願い――そして、志夜の願い。すべてを叶えるなら、ビーフステーキが彼の代わりをすればよい。そこに嘘は残るが、真実が必ずしも人を幸せにするとは限らない。
ビーフステーキは、用意されていた薔薇とチョコレートの入ったお菓子の箱を手に取った。そして、杏子の病室へ行こうと志夜を促す。
志夜:よろしくお願いします、ビーフステーキさん。
志夜:康は、杏子を『杏(あん)ちゃん』と呼んでいました。あなたも、そう呼んであげてください。
そして、二人は病室の前に立った。そして、ドアをゆっくりと開く志夜の後ろで、ビーフステーキはこめかみを数回叩く。
───
(さて、どうしたものかな……)
・あ、あ……あんず…!
・杏ちゃん。
・杏子さん。
───
クエスト2-2
ビーフステーキは病室に入り、ベッドに腰掛ける少女を見た。そこには、写真とさほど変わらない容貌の少女がいる。
病気だと言うが、それほどやつれてはいない杏子に、ビーフステーキは少しだけ安堵した。だが、逆に不思議にも思う。杏子は今年のホワイトデーは越せないと医者に言われていたらしいが……とてもそんな風には見えない。
杏子:お母さんと……あなたは?ごめんなさい、あまり目がよく見えなくて――まさか、康くん?
ビーフステーキ:約束通り、戻ってきたよ。杏ちゃん、待たせてごめんね。
杏子はその言葉を聞いて、わっと泣き出してしまう。
顔は見えないが、その赤い髪を見たらわかる、と。何度も康の名を呼んだ。
泣き出した杏子にビーフステーキが戸惑い、居心地悪そうに俯いてしまう。その様子を感じっと杏子は涙を拭って大丈夫だと笑った。
杏子:良かった……戻ってきてくれたんだね。わたしね、ずっと待ってたの。もう会えないと思ってた……。
杏子:なのに、まさかホワイトデーの今日、薔薇とチョコレートを携えて戻って来てくれるなんて!わたしとの約束、覚えていてくれたんだね!」
そう叫び、杏子はビーフステーキに抱き着いた。その胸に頬を摺り寄せ、ホッとした様子で息をついた。
そんな彼女の背を、ビーフステーキはそっと撫でる。このやり取りに何かしらの違和感を感じながら。
ビーフステーキ:(この物語の行く末は……どこだ?)
杏子を落ち着かせるのに、若干の時間を要した。日が暮れる頃、ようやく杏子は穏やかな寝息を立て始めた。ビーフステーキは静かにそんな杏子を見つめていた。そこに、ジンジャーブレッドと赤ワインが入ってくる。
ジンジャーブレッド:おい、杏子ちゃん……大丈夫か?
ビーフステーキ:ああ。私を見て、大層感動していたよ。ただ……
ビーフステーキは、杏子がとても死と背中合わせの人間だとは見えないと伝えた。ジンジャーブレッドと赤ワインは訝し気な顔をする。
すると、ジンジャーブレッドが神妙な顔をして言った。
ジンジャーブレッド:このあと、どうしたらいいと思う?
ビーフステーキ:さあな。私も悩んでいる。
ジンジャーブレッド:康はさ……生きてるかもしれないんだろ?だったら、どんな事情があったって、やっぱり本人が出てきて説明すべきなんだ。お前が変わりになるなんて間違ってる。
赤ワイン:だが、病気で幸薄い少女に真実を知らせたところで何になる?彼女の幸せのために、我々にできることがきっとあるはずだ。
ビーフステーキ:(この余裕は、いったいなんだ……赤ワインは何を考えている? )
───
(私は……)
・黙ってうつむく。
・本当のことを伝えてあげるべきだ。
・やはり……彼女の願いを叶えてあげたい。
───
クエスト2-4
蘇盛十四日、朝
――ビーフステーキは、今後についてどうするべきかの答えを出せないでいた。
赤ワイン:貴様は難しいことを考える必要はない。所詮バカの浅知恵だ。無駄なことはやめろ。
ビーフステーキ:……もしかして、喧嘩売ってるのか?
ジンジャーブレッド:……ねぇ、詰まらないじゃれ合いはいいからさ。それより、ビーフステーキ。あんた、何折ってんの?
ビーフステーキ:千羽鶴だ。病人に送るものと相場が決まっている。
赤ワイン:貴様には随分と不似合いな行為だな!恥じて死すがいい!
ビーフステーキ:……もしかして、喧嘩売ってるのか?
一瞬立ち上がり掛けるも、ビーフステーキは後頭部をバリバリと荒々しく掻き、すぐにまた腰を下ろした。
杏子:康くんと赤ワインさんは仲良しだよね。
ジンジャーブレッド:ああ、そうだな。二人はとてもそっくりな馬鹿者たちだ。
ビーフステーキ:……。
赤ワイン:……この馬鹿と一緒にしないでもらいたいな。
杏子:あなたに、赤ワインさんのような親友がいたなんて……わたし、嬉しいな。コホン、コホコホ……。
笑顔で告げる杏子だが、そのまま激しく咳込んでしまう。そんな彼女に心配した様子でジンジャーブレッドが歩み寄る。
ジンジャーブレッド:大丈夫だ!きっと杏子ちゃんは元気になるよ!
杏子:コホン、コホン……そ、そうですね。康くんに再会できたんだもの、元気にならなくちゃ……!
ビーフステーキ:……しばらく横になって休んだ方がいい。
杏子:いいえ、大丈夫です。もう落ち着いてきました!わたし、もう少しあなたと一緒にお話したい……。
ビーフステーキ:……。
しかし、ビーフステーキはそれ以上何も言えない。そんな彼の前に出て、赤ワインは柔らかく微笑んだ。
赤ワイン:そうですね。彼にいろいろ話をしてもらうといいでしょう。これまでに彼が起こした、愉快で愚かな出来事を。
ビーフステーキ:(そんなこと言われて、一体何を話せと……!)
戸惑うビーフステーキを置いて、ジンジャーブレッドと赤ワインは病室を後にした。残されたビーフステーキは若干居心地の悪さを感じつつ、再び千羽鶴を折り始める。
杏子:わたし、あなたが会いに来てくれて、とっても嬉しいの。担当医からいつ危篤状態になってもおかしくないって言われてたから。
ビーフステーキ:貴方の病気はきっと治る……大丈夫だ。
杏子:ありがとう。でもね、わたし今年のホワイトデーも越せないって言われてたんだ。ねぇ、知ってる?今日がその『ホワイトデー』なんだよ。わたしの命は今夜、尽きちゃうの……。
ビーフステーキ:……医者の見立てが外れるときもある。
杏子:ふふ……だったら、いいけど。
ビーフステーキ:……どうしてだろうか。私には、貴方が今日を越せないでいいと思っているように見える。
杏子:うん、そうかもね。貴方に素敵な友達がいることも知れたし、安心してここを去れるなって思ってるのかもな。
杏子:そうなの?でも、信頼し合っているように見えたわ。そういう人がいるって、とても素敵なことよ⋯⋯コホコホ。
ビーフステーキ:……大丈夫か?もう寝た方がいい。
そう言って、ビーフステーキは杏子の背中を撫でる。そんなビーフステーキに、杏子は長い溜息をついた。
杏子:お願いがあるの――今日の夜、またここに来てくれないかな?貴方に、話したいことがあるから。
ビーフステーキ:夜に?杏ちゃんは病気なんだ。寝ていないと……
杏子:……いいから黙って言うことを聞いて。わたし、貴方の秘密を知ってるんだから――あなた、康くんじゃないでしょ?
杏子は笑顔を浮かべている。ビーフステーキは、彼女の真意が掴めない。
ビーフステーキ:……わかった。今日の夜、またここに来る。そこで、話の続きをしよう。
───
(杏子は……)
・当てずっぽうで言っただけで、偽者だと気づいていない。
・愛する者(康)への愛で、ビーフステーキが偽者だと気づいた。
・彼女の目は見えていて、だからビーフステーキが偽者だと気づいた。
───
クエスト2-6
ティアラでは、様々な場所でホワイトデーのパーティーが開かれる。町は薔薇の香りと熱っぽい恋人たちで溢れていた。そんな中、ビーフステーキは憂鬱な気持ちでホテルへと向かっていた。
カツカツカツ――
そこに、いつものように荒々しい足音を響かせ、ジンジャーブレッドと赤ワインがやってきた。
ジンジャーブレッド:ビーフステーキ!杏子ちゃんが倒れたらしいぞ!今、ホテルに連絡があった!
大急ぎで三人は、杏子の入院している病院へと駆け付ける。病室では、ベッドで杏子が眠っていた。看護師の話によると、ビーフステーキが帰って程なくして、杏子は血を吐いて倒れたようだ。
志夜:急な体調異変だったと担当医は言っていました。今は落ち着きを取り戻しています。ただ――もういつどうなってもおかしくないと。
杏子は今日の夜、康と過ごしたいと希望していた。杏子の担当医も母親の志夜もその希望を呑んで、杏子の望み通りにしてあげたいと言った。
志夜:楽しい時間を過ごさせてあげてください。杏子にとって、これが最後のホワイトデーになるでしょうから……。
ジンジャーブレッド:……。
ビーフステーキ:わかっている……。
志夜:神様は意地悪ですね……康の父親――かつて私の夫だった人は杏子のように、重い病気を患っていました。そして、康がまだ小さいときに亡くなってしまいました。
志夜:父親のことがあったせいでしょう。康は、医者になるために学び始めました。彼が立派な医師になるためには、お金が必要で……私は再婚をしました。その男は康のためにお金を出してくれましたが、康を息子とは認めてはくれませんでした。
康は既に成人していたため、そのことで志夜を責めなかった。むしろ自分のために申し訳ないと、何度も謝罪していたと言う。
ビーフステーキ:(うまく……いかないものだな)
志夜:その人も、杏子が入院する前に徴兵され……帰らぬ人となりました。私の望みは、康と杏子の幸せだけなのです。そのためには、どんなことでもします。
ビーフステーキ:それが杏子に嘘をつくことだと……康さんが戻ってきたと杏子に信じ込ませ、そうして死んでいくのが彼女の幸せであると……?
志夜は答えない。もう決めたのだと、その瞳には強い意志を感じた。
志夜:私をひどい母親だと、罵ってくれて構いません。
志夜:それでも私は、康を待ち続ける杏子を悲しませたくないのです。
ビーフステーキ:(真実が必ずしも人を幸せにするとは限らない……。そう思っている――が、本当にそうだろうか?)
志夜:杏子が真実を知って悲しまないように……どうか、よろしくお願いします。
杏子の病室に行くと、彼女は規則正しい寝息を立てていた。今日の夜、彼女は何を語るつもりだろうか?
たとえそれが何であったとしても、志夜の話を聞いてしまった以上、杏子を悲しませないようにしたい。
───
(私に……できることは)
・杏子と話して、別の解決方法を探すべきだ。
・赤ワインに相談する。
・彼女の望むままに。見届けよう……。
───
報酬2-8 赤ワイン√
蘇盛十四日――夜
ビーフステーキは、病院へと向かった。最高のホワイトデーを演出する……さて、どうしたら良いのか。そんなことに頭を悩ませていた。
ビーフステーキ:……ん?何かあったのか?
杏子:ビーフステーキさん、お待ちしておりました。
病室には、杏子だけではない。赤ワイン、ジンジャーブレッド、そして志夜、担当医の姿まであった。
いったい何が始まるのか――ビーフステーキは薄笑いを浮かべている赤ワインを訝し気に睨んだ。
赤ワイン:……決心はつきましたか。
杏子:はい。すべてお話します。
ジンジャーブレッド:何の話だ?
赤ワイン:それは、彼女に語ってもらいましょう。
赤ワインに促され、杏子は話し出す。自分の知っている――すべてのことを。
――康が兄であり、今も健在していること。志夜が康の母であること。杏子の病気は現在、快復してきていること。
その冷静な態度とはうらはらに、杏子の口から語られた話は、驚くべき内容であった。杏子は、病気が快復の兆しを見せたとき、康を探すために、康の先生だった担当医から、これらのことを聞き出したと言った。
ジンジャーブレッド:それ……本当の話なの?
ジンジャーブレッドは呆然としてそう訪ねる。これまでのことはすべて芝居でした、といきなり言われたところで、すぐに呑み込めなくても当然だろう。
杏子:……はい。すべて本当の話です。この目も、本当は見えています。
そして彼女の計画は、今日この病院で病死して終わりを迎える予定だった。そうしてこの町を出て行けば、康が戻ってくることができるからだ。
ジンジャーブレッド:う、嘘でしょ……!?
赤ワイン:フッ……関係者全員に確認した。これは、本当の話だ。貴様があまりにももたもたやっているのでな。独自で調査した。
ビーフステーキは知らなかったが、昨日の晩、赤ワインは杏子に会いに行き、この話を聞いたという。
そして、すべて話すよう、彼女を説得したそうだ。赤ワインは、杏子がこのような計画を練っていることを、昨日の時点で察したらしい。
赤ワイン:なに、俺様の観察眼を持ってすれば、この程度見抜くことは造作もないことだ!
その言葉に、ビーフステーキ、ジンジャーブレッド、そして志夜もただただ驚くしかできない。
ジンジャーブレッド:確かに、もう隠すべき秘密はなくなったんだ。だったら――杏子ちゃんは、この町から出ていく必要はない、だろうけど……。
赤ワイン:まだ話は終わってないぞ、ジンジャーブレッド。この話は、もっと大団円になる。わかるか?ビーフステーキ。
ビーフステーキ:…私には、何が何やらさっぱりわからない。この上で、まだ何かあると言うのか?
赤ワインは不敵に笑って、「さぁ……」と杏子を促した。杏子は、上目遣いでビーフステーキを見上げ、そっとその手を取る。
杏子:あの……わたし、ビーフステーキさんが好きです。この数日、わたしのために康くんとして傍にいてくれたあなたを……好きになってしまいました。
ビーフステーキ:……。
杏子:あなたといるととてもドキドキして……このままずっと一緒にいたいと思うようになって。それで、あなたに恋をしたんだって気づきました。
ビーフステーキ:私に恋をしたって……そんなこと、急に言われても。
どう答えるべきか。ビーフステーキは悩んでしまう。杏子には、いっさい浮ついた感情は抱いていなかった。
困り果てて、ビーフステーキは赤ワインに救いの手を求める。しかし彼はふてぶてしく笑っているだけだ。
そんなビーフステーキの手を、杏子がきゅっと握った。
杏子:……わたし、あなたに振り向いてもらえるよう頑張るから!これからもよろしくね、ビーフステーキさん!
杏子は一日も早く退院できるよう、治療に専念するらしい。それはとても良いことだと思う。だが――
志夜は改めてビーフステーキにお礼を言う。貴方たちに依頼をして良かった、と顔を綻ばせた。
そして志夜は、ビーフステーキを病院の入り口まで送ってくれる。
杏子が死なずに済み、康も帰ってくる――これはすべて貴方たちのお陰だと……志夜は深々と頭を下げる。
ビーフステーキ:い、いや……私もこんなことになるとは思っていなかった。だから、その……頭をあげてください。
志夜:ビーフステーキさん、本当は私、わかっていたんです。杏子の考えていることを……すべて。
ビーフステーキ:……え!?
志夜:安心してください、ビーフステーキさん。杏子が貴方を好きだというのは、たぶん『嘘』です。あの子は――まだ、康のことが好きな筈です。もう、諦めるつもりではいるでしょうけど。
ビーフステーキ:……は、はぁ。
志夜:杏子は自分がいなくなることでわたしたちの幸せを願った……わたしは思いました――これは『壮大な、愛ある嘘』なのだと。
ビーフステーキ:……。
志夜:ビーフステーキさんを好きだという、杏子の最後の嘘を授けてくれたのは、貴方ね?赤ワインさん。貴方たちに依頼をして――本当に良かったわ。本当に……ありがとう。
志夜は、これまで見せたことのないほどの安堵した表情で目を細めた――やっぱりこの物語は、ハッピーエンドだったのだ。この唐突な展開をまだ受け入れられてはいないが、それでいい……とビーフステーキは嘆息するのだった。
翌年、蘇盛十四日
町の表通り
ジンジャーブレッド:なぁビーフステーキ。あんた、去年のホワイトデーに、チョコレートと薔薇の花束を杏子に渡したことを覚えているか?
ジンジャーブレッド:今、その話が町で騒がれているんだ! 『癒しを求める女の子たちに愛をこめて、チョコレートと薔薇の花束を届ける王子さま』がいるってな!
ビーフステーキ:は?なんだって?
ジンジャーブレッド:馬鹿だな!あんたは今、注目を浴びているんだよっ!チョコレートと薔薇の花束は手配した!少女たちを幸せにするためにいざ行かん!カナン傭兵団のホワイトデー……今年は大忙しだ!
赤ワイン:聞いて驚け!なんと杏子からの依頼も来ているぞ。彼女は、本当に貴様に惚れたのかもな。嘘から出たまこと……現実は小説より奇なり、だ!この愚か者!せいぜい気張って働くがいい!
ビーフステーキ:赤ワイン……!この野郎!今日という今日は許さねぇ!血だるまになるまで切り刻んでやる!ウオォォオオォラァアアァッ!!
報酬2-9 ジンジャーブレッド√
蘇盛十四日――夜
ビーフステーキは、再び杏子の病室に訪れた。その手にはチョコレートと薔薇の花束があった。
ビーフステーキは、優雅な手つきでそれらを杏子に渡す。それを受け取った杏子は驚いた様子で目を丸くした。
杏子:これ、まさか貴方が選んだの?わたしにくれるために?
ビーフステーキ:貴方の母親から、貴方に最高のホワイトデーをプレゼントしてくれ、と頼まれたものでね。さすがに手ぶらでは来られないだろう?
杏子:そうなんだ。ふふ、嬉しいな……康くんからは、結局もらえなかったものだから。
ビーフステーキ:それで?貴方はどうして、私が『康くん』ではないと気が付いたんだ?
杏子:そんなの、最初っからに決まってるじゃない。あなた、康くんとまるで違うし。
そこで杏子は、ビーフステーキの角を指差した。
人間にはないビーフステーキの『角』――杏子には、見えているようだ。
ビーフステーキ:もしや貴方は――視力を患っていない……?
杏子:本当はね、わたしの病気は快復に向かっているの。これは、今日までわたしと担当医だけの秘密だったんだ。だけど今日あなたに教えちゃったから、三人の秘密になっちゃったね。
ビーフステーキ:(そうだったのか。だが、これで違和感の正体が少しわかった気がする)
杏子:そして、もうひとつ。わたし、知ってるの。康くんが『お兄ちゃん』だった。わたしとは、異父兄弟なんだって。
杏子は担当医から聞かされたその話を、信じなかったという。けれど、市役所で康の死亡証明書を見て、嫌でも認めざるを得なかった。母親の欄に『志夜』の名が記されていたから。
ビーフステーキ:……なるほどね。だが、まだわからないことがある。病状は快復に向かっているのに、どうして悪化しているなんて話になってるんだ?
その問いに、杏子は深呼吸した。そして、ゆっくりと話し出す。
病状が快復に向かったとわかったとき、杏子は康を探しに行こうと決意した。そして、担当医に康の居場所を教えてほしいと懇願する。彼は医者としての康の先生であり、師匠であったから、康の居場所を知っているに違いないと思った。
杏子:わたしね、康くんは絶対に生きてるって思った。だって、誰も悲しんだ様子を見せていないのよ?康くんの先生も、お母さんも……。きっと二人とも康くんが生きてるって知ってるんだって思った。
ビーフステーキ:……それは迂闊でしたね。まぁ、嘘というものは、よほど狡猾でない限り、自然と綻びが出るものです。
ビーフステーキ:さて……大分事情が呑み込めてきました。ただ……まだ気になることがあります。貴方の担当医は何故、康くんが兄であると貴方に教えたのですか?
いくら担当医が康の先生だとしても、そんな複雑な家庭の事情を易々と打ち明けるというのは、あまりにも不自然だ。
杏子:「教えてくれないなら死ぬ!」って訴えたら、すぐに教えてくれたよ。ふふっ、先生は、とってもいい人だよね。
ビーフステーキ:なるほど……貴方という人は。可愛い顔をして、随分と大胆ですね。
杏子:後は簡単だったよ。病状が悪化して、私は死ぬって筋書きね。そういうことにして、本当はこの町から出ていくってだけだけど。
母と、そして慣れ親しんだこの町を離れるのは寂しいが、現状よりはよほどまともな状態になる。自分がいなくなれば、康も帰ってこられる。いつか――この話が笑い話になって、この町に戻ってこれるかもしれない……そんな夢を杏子は語った。
そんな杏子に、ビーフステーキはなんとも言えない気持ちだった。皆、誰かを想い、その結果、嘘が積み重ねられただけだ。だが、その嘘は――なんとも温かい。この物語の結末は……ハッピーエンドだ。
ビーフステーキ:改めて自己紹介をさせてくれ――私の名は、ビーフステーキ。困った者を助ける『聖剣騎士団』の団員だ。旅先で困ったら、いつでも頼ってきてくれ。貴方に何かあったら、私が必ず助けると――ここに誓おう。
それから暫くして、杏子の病室に担当医と共に志夜、ジンジャーブレッド、赤ワインがやってきた。これから、杏子がこの町を去るための一芝居を打つためだ。すべてを知ったビーフステーキは、黙ってその様子を見守る。
杏子:康くんに……会えて、良かった……。ずっと信じて待っていて、良かった……。
これは、志夜のための嘘。志夜は、杏子が康が戻ってきてくれて、二人の愛は本物であった、と幸せの中で生涯を終えることを望んだ。
そして、杏子は町を出ていくのだ。これは、杏子が望んだ嘘。大好きだった康のために――彼がこの町へと戻って来られるための、優しい嘘。
杏子:お母さん、ありがとう……。ずっと、大好きよ……!
志夜:杏子ちゃん……!うぅっー!!
杏子:みなさんも、本当に……ありがとう。
赤ワイン:……。
ビーフステーキ:……。
ジンジャーブレッド:杏子ちゃん……!うぅっー!!
ジンジャーブレッドは号泣している。赤ワインは冷めた瞳で、杏子を見下ろしていた。
杏子:みなさんと出会ってからの数日間、僅かな時間でしたが、わたしはとても楽しかったです。
杏子:ビーフステーキさん、わたしは貴方に会えて本当に良かった……。数日間でしたが、私にとってはとても楽しい時間でした。
そんな杏子の手をビーフステーキはそっと取った。それが演技だったか、本気だったか、ビーフステーキ自身にもわからなかった。
杏子が死なずに済み、康も帰ってくる――これはすべて貴方たちのお陰だと……志夜は深々と頭を下げる。
ビーフステーキ:私は、貴方の願いを……果たせましたか?
志夜:何を言うかと思えば。杏子は幸せそうでしたよ。すべて、あなたのお陰です。それに本当は私、わかっていたんです。きっとあの子は何もかも知っているだろうと思っていました。
ビーフステーキ:……え!?
志夜:さきほど、あなたの名前を呼んでいるのを聞いて、確信しました。あの子には辛い想いをさせました。いつか、あの子の気持ちが落ち着いたら、またみんなで会えたらと思っています。
ビーフステーキ:……。
志夜:そのスーツは報酬として、貴方に差し上げますね。貴方によく似合っています。みなさん、本当にありがとうございました。貴方たちは、私が知っている中で、最高の傭兵団です。
ビーフステーキ:……。
普段なら、自分たちは『聖剣騎士団』だと言っている場面だ。だが、今日はそんな気分になれなかった。ビーフステーキは、深く志夜にお辞儀をし、ジンジャーブレッドたちと共にホテルへと戻った。
翌年、蘇盛十四日
町の表通り
ジンジャーブレッド:なぁビーフステーキ。あんた、去年のホワイトデーに、チョコレートと薔薇の花束を杏子に渡したことを覚えているか?
ジンジャーブレッド:今、その話が町で騒がれているんだ!『癒しを求める女の子たちに愛をこめて、チョコレートと薔薇の花束を届ける王子さま』がいるってな!
ビーフステーキ:は?なんだって?
ジンジャーブレッド:相変わらず馬鹿だな!あんたは今、注目を浴びているんだっ!チョコレートと薔薇の花束は手配した!少女たちを幸せにするためにいざ行かん!カナン傭兵団のホワイトデー……今年は大忙しだ!
赤ワイン:聞いて驚け!なんと杏子からの依頼も来ているぞ。彼女は、本当に貴様に惚れたのかもな。嘘から出たまこと……現実は小説より奇なり、だ!この愚か者!せいぜい気張って働くがいい!
ビーフステーキ:赤ワイン……!この野郎!今日という今日は許さねぇ!血だるまになるまで切り刻んでやる!ウオォォオオォラァアアァッ!!
(終)
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