ポーローパーウ・エピソード
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ポーローパーウのエピソード
インドア派の怠け者、他人に任せられることは決して自分ではしない。
外の世界には興味津々だが自分で見にいこうとは考えない。
だからか旅の書籍を出すタピオカミルクティーのファンでもある。
Ⅰ 快適な日常
ふかふかなソファーの上に寝転がり、身体を沈める。まるで飲み込まれてるみたいだ。
あまりの気持ちよさに、思わず小さくうめいてしまう。
体の向きを変え、隣で本を読んでいる御侍様に声をかけた。
「御侍様〜」
「うん?」
御侍様は顔を上げずに返事をする。
「何か飲み物もってきて〜」
ウチが言い終えるよりも先に断りの返事が飛んできた。
「やだ」
まるで条件反射のような返し。
どこか避けられているかのような冷たさも含んでいる。
「お〜ん〜じ〜さ〜ま〜」
それでもめげずにお願いしてみる。
「ね〜ね〜お〜ね〜が〜い〜」
「ポーローパーウ」
御侍様は本を置いて、含みのある笑みを浮かべながらウチの名前を呼んだ。
「自分で行きなさい」
御侍様はそう言うと、また姿勢を直して本を手に取った。
「ううう、御侍様に嫌われちゃったっすよぉ〜」
顔をソファーにうずめて、ウチは悲しげな声を出す。
「こんなことで嫌いになるはずないでしょ」
御侍様は無表情でそう返した。
こっそりと顔を上げて御侍様を見ると、未だに本を読む手を止めていなかった。
「この前は取ってきてくれたのに」
様子を伺いながら、ウチはさらに駄々をこねてみる。
「はあ……」
御侍様は盛大にため息をつく。
そして無気力そうに本を閉じて立ち上がり、冷蔵庫へ向かった。
「へへ〜」
ウチはソファーの上で我慢できずに体を揺らし、楽しげな声を出す。
「ほら!」
御侍様は冷えた缶をこれでもかとウチの顔に押し付ける。
「ふふ〜ん」
ウチは全く気にせずそれを受け取った。
缶を開ける音と一緒に、御侍さまの愚痴も始まった。
「はあ、たまにはお手伝いしてくれたら嬉しいな〜。ほんと、怠け者なんだから」
「怠け者じゃないもん!」
ウチは再びソファーに身体を預ける。飲み物を少し口にしながら《タピオカ旅行記》と記された本を開き、口を尖らせてつぶやいた。
「ウチの夢は、世界中を見て回ることだもんね」
「はいはい。それならふかふかの車椅子でも買っておかないとね。家でも外でも使えるし」
「わあ、御侍様が押してくれるっすか?」
「甘いな。自分で漕ぐんだ。歩かなくていいんだから、怠け者の君にピッタリでしょ」
「えっへん!」
「えっへんって……もう。ジュースばっかり飲んでないの! もうすぐご飯にするよ」
「は〜い……」
Ⅱ 飴と鞭
「今日もいい天気だな~。出かけないなんて、もったいないな~」
ある日の午後、ソファーで寝転ぶウチの耳に何度も聞いた言葉が入ってきた。
「心配しなくていいっすよちゃんと出かけるから」
いつもと同じような返事を返し、ウチの注意は手元の旅行記に戻る。
ウチは知っている。
愚痴をこぼすのも少しの間で、結局最後は御侍様はウチを甘やかしてくれる。
でも今回は……
御侍様はウチの後ろに腰を下ろすと、そのままウチを抱き寄せた。
頭に顎を乗せながら、御侍様は旅行記をめくる。
「もう60日も外に出てないよ?」
本から手を離し、旅行記を御侍に委ねる。ウチは御侍様の懐に体を寄せて、小さな声で返した。
「出ない出ない。外に出たら負けっすからね」
「ふぅん。なんだそれ」
言いながら、御侍様の手は旅行記のあるページで止まった。
「おっ、知ってる?ここ」
「知ってるよ」
御侍様の質問はあまりにも簡単だった。
ウチは自慢げに言う。
「小仙山、光耀大陸で有名な山でしょ。景色が良くて、《タピオカ旅行記》でも隠れた秘境だって言ってた」
「よく知ってるな」
御侍様は意外そうに言う。
「ふふん。この辺の場所の名前はぜんぶ知ってるっすよ」
ウチは得意げに眉をクイっとあげる。
「じゃあこれは知ってた?小仙山はこの家からすごく近くて、東の城門から出てすぐだってこと」
御侍様はそのまま話を続ける。
ウチは雷に打たれたかのように固まってしまった。まさかこの家からあの山に行けるなんて。
「どう、行ってみない?」
御侍様は旅行記を閉じ、ウチの顔を引き寄せて私の目を見つめた。
ただ、ウチの気持ちはそう長持ちしなかった。
「で……でも外出は面倒だなあ」
「このままじゃダメ食霊になっちゃうよ?」
「お……おおお御侍さまが傍にいるからいいもん」
「……ちょうどそのことなんだけどね……言おうか迷ってたんだけど」
「な、なに……?」
「今はまだ冗談だよ。でもこのままずっと外に出ないつもりなら……」
「……」
「最近、ギルドの同僚から新しく他の食霊を召喚したらどうかって、勧められてるんだよねぇ……」
「わわわ分かった、外に出るっすよ!」
「わぁ、ほんとに?約束だよ?」
「は~い…」
Ⅲ 旅へ
「もう10時だよ」
御侍様は椅子に腰掛けて時計を見ながら言う。
「まだ10時でしょ……」
ウチは布団の中にもぐりこみ、もごもごとこもった声で返事をする。
「もうちょっと寝る~」
「昨日、なんて言ったっけ?」
御侍様の声が近づいてくる。ベッドが沈み込むのと同時に声はもう耳元まで来ていた。
「で……でも」
ウチは少しだけ顔を出す。
「起きたくないよぉ……」
「じゃあ他の人と出かけてくるから。ご飯は自分で用意してね」
御侍様はそう言うとそのまま立ち去ろうとする。
「あああっ!ご、ごめんなさい!」
慌てて跳ね起き、御侍様の服の裾を掴む。
「おはよ」
御侍様はニヤリと笑うと、ウチの顔を撫でた。
だらだらと、支度を済ませるのにかなりの時間を使った。玄関へ向かう足が重い。
「本当に行くの?」
「行かないの?」
御侍様は笑いながら聞き返してきた。でもその目はとても真剣にウチを見つめている。
「だって外に出たって意味ないっすもん。山の景色は旅行記で見れるし」
ウチは試しに最後の悪あがきをしてみた。
「ポーローパーウそれは違うよ」
御侍様はまったく動じず、ウチの目をまっすぐ見つめている。
「うう……今度、今度にしてもいい……?」
御侍様の厳しい表情を見て、ウチの声はみるみる小さくなる。
「怒らないでよ……一緒に出かければいいんでしょ……」
「うん!そうそう」
御侍さまはニッと笑うと満足げに頷き、ウチの手を引いて歩き出した。
「行こう」
ウチは俯きながら御侍様について外に出る。
日の光が眩しい。無意識に手で遮った。
鳥の鳴き声、やわらかい風のにおい。
……本当に長い間外に出てなかったんだなあ。
ウチは御侍様の手をギュッと握った。
Ⅳ 本の外の世界
城下町の喧騒の中、ふらふらと御侍様の後ろについて行く。
意識はとうに朦朧としており、体は惰性のまま無意識に動いていた。
「し……死んじゃう……」
唇をもごもごと動かし、苦痛の叫びをあげる。
ウチにとって外出はあまりにも難易度が高かった。
それに、こんなにも長い間歩いたんだから苦しいのは当然だ。
ウチの悲痛な声が聞こえたのか、御侍様は足を止め、心配そうな顔で振り返ってウチを見た。
ウチは内心で御侍様が慰めの言葉をかけてくれることを期待した。
例えば休もうかとか、それか……いっそ直接帰ろうとか。
「ねえ……」
御侍様は胸元の時計を手に取りウチに言う。
「まだ5分しか歩いてないよ」
言い終えると、何事もなかったかのように歩き出してしまった。
「……あああ!」
ウチはただただ、悲痛な叫びを上げ続けることしかできなかった。
「もう見逃して~!!」
ウチはそんな風に長い時間歩いた。一週間?もしかして一ヶ月?
ずっと同じ天気だったからか、この苦しみはまるで一世紀近く続いているようにも思えた。
だからこそ、あの「小仙山」の三文字が彫られた大岩を見た時、ウチは感極まって涙を流してしまった。
「まさか、小一時間も一緒に歩いてこれるなんて」
「がんばったね、ポーローパウ」
御侍様は胸元の時計を閉じて待ち望んでいた言葉を口にする。
「じゃあ、少し休もうか。」
その言葉はまるで砂漠のオアシスを見つけたかのようだった。
体の力が急に抜け、ウチはそのまま、その場に倒れこんだ。
目を閉じる。意識が少しずつ薄れていくような感覚があった。
目を覚ました時、目の前には山道の景色があり、視界の端には御侍様の髪が見える。
「う~ん……」
ウチは無意識に小さなうめき声をあげる。
「うん、起きた?」
振り向いた御侍様の横顔は優しかった。
「相当疲れてたんだな。急に返事がなくなっちゃったから、びっくりしたよ」
「うう……言ったじゃないっすか。出かけて良いことなんてないっすよ」
顔を御侍様の髪に押し付け、妬みがましく言う。
「無理させちゃったね、ごめんね」
御侍様は笑顔を見せ、ウチを背負う手で背中を撫でた。
「でもね、ほら見てごらん、ここが一体どこなのかを」
ウチは御侍様の髪から顔を離し、言う通りに周りを見渡してみた。
見たことのない壮大な景色が、目に飛び込んできた。
清らかな風が吹き抜ける。木の葉が舞い、日差しが樹木の下に斑点のような影を作り出す。
山に沿って渓流が流れ、鳥が水面を飛びながら、透き通った声で鳴く。
遠方の山は雲の間で見え隠れし、まるで墨で描いた絵のようにぼんやりとしている。
…………
「きれいでしょ」
御侍様が、小さな声で問いかける。
「うん……本当にきれい。」
しばらくぼーっとしていたが、無意識にそう答えた。
「本で見るのと、全然違うでしょ」
「違う……」
「気に入った?」
「うん……」
御侍様はウチを地面にゆっくりと下ろして、一緒に草原に腰掛けた。
「こういう景色、これからも、もっといっぱい見ようね」
「う……うん……」
心をくすぐるような甘い花の香りに囲まれ、ウチは御侍様の肩に寄りかかり、静かに自然を感じる。
ウチは世界のことなんて、これっぽっちも知らなかったんだ。
Ⅴ ポーローパーウ
「ポーローパーウ……」
無気力な声が部屋に響き、声には絶望や失望の念が含まれている。
「どうしたんすか?」
ポーローパーウと呼ばれている可愛い少女がソファーで寝転がっている。足をブラブラさせながら、お菓子と飲み物を頬張り、本を読んでいる。
「少しは動いたらどうかな?!!」
「うん?」
ポーローパーウは少し考えて、何かを思いついたのか御侍の方を向いて足をぶらつかせる。
ポーローパーウは言い訳がましく答える。
「ほら、動いてるでしょ!ほら、見てよ!」
言いながら、力強く足をばたつかせた。
御侍はそれを見て何かを言いたげだったが、しばらく固まって、結局無気力に歩き出す。
御侍はポーローパーウのそばに来て、遊記を取り上げ、しゃがみこんで彼女を見る。
「な……なに……」
ポーローパーウは御侍の行動に驚いて怯えた様子を見せる。
「君は……」
御侍の表情は無気力な上どこか引きつっていた。言いたいことは山ほどあったが最終的に全てため息となって出ていった。
「前に出かけた時にこれからは動くって言ってたじゃないか?どうして帰って1日2日でこんな。」
「だ……だ……だからほら……動いてるっすよ?」
ポーローパーウは体をゆらゆら揺らし、可愛く甘えてみる。
「……この怠け癖はどうしようもないみたいだ。」
御侍はこれが定めかと愚痴をこぼし、そのまま立ち上がって立ち去ろうとする。
「あ……あの……」
そんな時だった。ポーローパーウは御侍の服の裾を揺らし申し訳なさそうにしている。
「どうした?」
「あの……御侍様、ポテトチップス食べ終えちゃった。えっと……持ってきてもらえる?」
「……」
「ねえ……いい?」
ポーローパーウは無垢な表情で目をパチパチさせる。
「……」
「お~ん~じ~さ~ま~」
「ああもうわかったよ。待ってて。」
「へへへ。」
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