マカロニ・エピソード
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マカロニのエピソード
生まれつき心臓を持たないため、人間の心臓を食べて生命を維持するしかない。悪役になる運命を恨んでいる。そのため、外見は狂気に満ちて危険に見えるが、自分なりのルールがあり、いかなる卑劣な行為もしたくないと願った。しかし、寂しさを恐れる「おもちゃ」に出会ってから、彼は再び運命という手のひらで転がされることとなった。
Ⅰ.死神
目を開けて周りを見渡すと黒い部屋が目に入り、私は再び目を閉じた。
疲れた……
今日は召喚されて三日目だ。胸元の巨大な穴がゆっくりと外に霊力を漏らしていく――
もう消費できる霊力は残っていない。目を動かすことすら激しい運動のように感じる。
「クズ。」
話している人は、薄暗い小さなランプに覆われ、ゴミ同然と化した帳簿から目をそらすことさえ嫌なようだ。
彼は帳簿の持ち主で、そしてこの部屋とランプの持ち主、つまりは私の主人だ。
「食霊は超人のような存在なんじゃないのか?どうしてお前みたいに弱いやつが!それと心ない裏切り者め……クズ、全部クズだ!」
怒鳴っている彼の掠れた声からは歯軋りのような音も聞こえる。そして尖ったペン先が素早い速さで木のテーブルに突き刺さり、タイプライターのような音が聞こえる。
かつては誇らしそうに本棚に飾られていたが、今となってはほこりを被りカビが生えた自伝となっているのを見たことがある。彼はなかなかの商売人だ。
ゴミ箱にくしゃくしゃに捨てられた新聞紙を見ると、彼は従業員を酷使し、最終的に従業員のみならず商界から見捨てられた悪徳商売人のようだ。
「たかだか数時間多く働かせただけだ。こうでもしないと利益がないだろ?!チッ……あんなクズ、こっちから願い下げだ。俺一人の力でもう一度成功してやる!」
彼は怒鳴った。自分を鼓舞しているようだが、恨みのこもったただの愚痴にしか聞こえない。
そして彼に召喚された私は、物理的に心臓がないだけではないようだ。
彼への怒り、軽蔑、恨み、何ら感情はない。
新聞に書かれているように、彼の違法な労働環境で多くの罪のない人が命を失ったり、彼が今私を傍に放って無視し、通りかかる際にわざと私の足を踏んだりしようと、私は何ら感情がない。
ただ彼の愚痴を聞きながら、時々目を開いて彼の精神が錯乱した姿を見て、時間と共に彼の命が流れ去っていくのを見ていた。
そして、私が召喚されてから七日目、彼は死んだ。
死体は机の下に倒れ、百枚近くのロジックの欠けた契約書の上に横たわっている。
汗と疲れの臭いが次第に蔓延した――エアコンは節約のために電源が切られているため、しばらくすればもっと強烈な臭いが広がるだろう。
この世界で、彼はあらゆる策略と手段を尽くしたが、最後に残ったのは恨みと異臭だけだった。
私は突然苦しみを感じた。
彼の死が痛ましいのか?いや、それはないだろう。まず、私に「心」というものはない。
自分は一体どうしてしまったのか。生きることを渇望しているのか?しかし私にとって、生きる意味などあるのだろうか?
短い余生の中、汚れた空気を吸いながら死神の到来を待つしかない。
カタッ。
死神の足音だろう……
カタッ。カタッ。
しかしその音は私に近づくことなく、止まっている。
何とかうっすら目を開けると、暗い影がちょうど私に背を向けて地面にしゃがんでいるのが見えた。
記憶が確かなら、彼の前にあるのは……御侍の金庫だ。
死神ではなかった。大きな会社にも関わらず、人の出入りが見られないがために運試しにやってきた泥棒だ。
しかし残念ながら、彼の運勢は味方してくれなかったようだ。
御侍である彼は、たとえ1週間高温の環境に置かれても耐えられるが、誰かが金庫の前に立ち止まるのは1分も耐えられないのだ。
すぐに、強盗は御侍の死後も稼働を続けていた金庫のからくりによって殺された。
空気に生臭い血の臭いがまた一つ増えた。
私の苦しみも強さを増した。
胸元の巨大な穴の周りに言葉に表せないほどの痛みが広がった。突然そこに心臓ができ、それに適応できない骨格に包まれ、爆発しそうな風船に押し潰されているかのようだ。
私は口を開き、大きく息を吸ったが、酸素はその穴から逃げていく。
どうにかしてこの穴を埋めないと……
私は手足を持ち上げ、錆びついた機械のように契約書とカビだらけの床を這いつくばった。
死神は来ないようだ。だが、私はどこに行けばいいのか、何をしたらいいのかわからなかった。
幸い、体は知っているようだ。
長い間換気をしていなかった部屋には吐き気を催すほどの臭いが充満し、私は吐き気を我慢しながら暗闇と腐敗に向かって手を伸ばした。
これが、初めて人間の心臓を食べたときだ。
そうか、私が死神だったのか。
Ⅱ.善良
強盗の心臓のおかげで、体に再び力が湧き出る。私はその部屋から飛び出した。
初めて走った。初めて風を感じたのだ。
しかし、だからといって喜びは感じなかった。
初めての食事を経験し、私も「空腹」というものを知った。
体が教えてくれたのだ。さらに多くの心臓が必要だと。
しかし、吐き気は消えずただただ気持ち悪い。
人間の心臓はこんなにもまずいのか。
どうしてこんなものを食べなきゃならないんだ?
どうして……どうして……
私は路地裏、ゴミ捨て場、さらには排水溝にまで身を隠した。
しかし、どんなに汚く、どんなに気持ち悪い場所でも、人間の心臓と自分がそれを渇望していることのほうが気持ち悪い、考えるだけで吐き気を感じる。
しかし、空腹感がますます増し、再び力を失った。
汚く、臭いものに囲まれながら横たわり、だんだん自分もその一員になっていくのを感じた。御侍のように、自分の命が素早い速さで消滅に向かっているのをただ感じていた。
「うわ!びっくりした。ど、どうしてこんなところで倒れてるの?」
頭の上から突然こどもの声が聞こえた。
驚いたのはこっちだ……心の中で文句を言った。
「ま、まだ生きてるの?」
彼にかまいたくない。それにかまう気力もない。
すぐに自分から離れるだろう。
しかし、予想に反して小さな足音が聞こえた――彼は上から滑ってくると、この汚い排水溝の中に立った。
「うわ!心臓がない!」
そうだ。私は心臓のない怪物だ。だから、早く泣きながら逃げるんだ……
「すごい!童話に出てくるブリキみたいだ!じゃあ君の願いも心臓を手に入れること?」
ブリキだと……何を言ってる?
私は錆びた頭を必死に回転させたが何もわからなかった。今は、目を開く力すらない……
「お前……私が……怖く……ないのか?」
たった数文字なのに、今ある全ての力を使い尽くしたようだ。
こどもが聞き取れたのかはわからない。もしかしたら、聞き取れなかったから近づいてきたのかもしれない。
「だいぶ弱っているね……もちろん怖くないよ。だって君はブリキみたいに、きっと優しい人だから!ブリキは虫を踏んじゃった時も悲しくて涙を流すんだよ!」
優しい?
彼の言葉は人に力を与えるかのようだ。私も、この錆びきった喉から再び音を発することができるとは思わなかった。
「優しさとは……なんだ……」
「うーん……優しいっていうのは、いい人には優しくて、悪い人には悪いってことかな。」
悪い人……あの強盗みたいなやつのことを言うのか?じゃあこれからも食べていいのか……そういうやつの……
「あ!いけない、こんな時間だ……早く帰らないとパパとママが心配しちゃう!」
こどもはそう言いながらその場を離れた。私は彼を引き留めるか、明日また来てもらいたかったが、口を開けない。
私は気づいた。彼の言葉が力を与えるのではなく、彼がたしかに「力」を私に与えてくれたんだ。
彼も食霊なのだろうか……
彼の姿が消えた方を向き、必死に目を開けると、とても小さい影がぼんやりと見えた。
こどもがいなくなり、排水溝に再び寂しさと異臭が充満した。まもなくして、彼がくれた力が底を突いた。
やはり、心臓を食べなければ……
「うお!」
また驚いた声が聞こえた。まさかこの小さい排水溝が、こんなにも賑わうとは。
相手が私を死体だと思って自ら離れるのを待ったが、その人はゆっくりと私のそばまで近づくと、私を蹴り飛ばした。
「ツイてねえな。こんなゴミみたいなやつと寝床を争うなんて……もっと遠いところで死ねばいいのによ。」
彼はそう言うと、再び私を蹴った。彼はその場から離れない。音を聞くと、布袋から何かを取り出しているようだ。
「一日中探し回ったのに、お前みたいなちっぽけなやつしか手に入らなかった。これじゃ小腹も満たせねえよ……そうだろ?こっちは外で寝泊まりしてんだ。お前は金持ちの家で気持ちよさそうにして、不公平だと思わねえか?」
それからぼんやりと鳴き声が聞こえた。どうやら小動物のようだ。その後、重い衝撃音が2回聞こえ、音がしなくなった。
……
被害の対象を「悪人」に定義し、「傷つける」行為を「優しさ」と呼べるとは思わない。
傷は傷だ。「仕方なかった」や「悪人を傷つけた」からといって何かが違うわけではない。
しかし、全てを平等に傷つけるよりも。「悪人」を選んで傷つけた方が心が楽だ。
もしくは、あのこどもが言っていた「ブリキ」のイメージから離れ、彼をがっかりさせてしまいたくないからなのかもしれない……
どちらにせよ、これが二回目に人間の心臓を食べた時のことだ。
やっぱりまずい。だが……
悲しさが和らいだようだ。
Ⅲ.怪物
「く、くるな!怪物め!」
男が叫びながら、床に倒れている妻の死体を踏んでベランダへ逃げた。
「私のことをそう呼ぶのなら、『怪物』らしいことをしてあげないと失礼だろう?なんせ……私は無実の罪を着せられるのが嫌いなのだよ。」
私は笑いながら夜の雨に打たれるベランダに足を踏み入れ、彼の前に立った。
「君のトイファクトリーは繁盛しているらしいな。安い材料を使っておもちゃを作るのは、やはりコストを削減できるようだ。しかし……その材料に毒があることはご存知かね?」
「い、いや……何が欲しい!なんでも渡してやる!殺さないでくれ!」
「本当に?ならよかった。私はたしかに欲しいものがあるんだ。」
死を迎えようとしていたが、一筋の生きる希望を見つけた男に寄り添い、耳元で囁いた。
「心臓だよ。君の心臓が欲しい。」
悪徳商人の心臓はとっくに腐りきっている。腐敗させた人間の体内にいるより、私の腹の中で私の力になった方がいいだろう……
私は男の首を掴み、私と同じように彼の胸にぽっかりと穴が開くのを見ていた。
いつもだったらこんなことはしない。
私に心臓を食べられた多くの人間は、魂の一部を失うだけで死ぬことはない。まして、その魂はとっくに腐りきっている。
しかしこの男は違う。こいつのせいで、私は無実の優しそうな女性を殺してしまった――彼らを起こすと、男は真っ先に自分の妻を私に突きつけてきたのだ。
まったく、どちらが怪物だ……
ガチャッ――
頭上で雷が鳴ったが、その耳をつんざくばかりの激しい音はドアが開く音をかき消すことはなかった。
私は驚いた様子で扉の外にいるこどもを見た。
心臓が二つもあれば今日の分のエネルギーは十分だろう。彼の心臓を食べる必要はないが、彼の表情を見て、私は悪い考えが浮かんだ……
ほらみろ。やはり私は悪役になる運命なのだ。私が生まれる前、悪の種はすでに埋められていたのだ。
私はどこから食べようかと彼の体に近づいた……こんな温かさに触れたのはいつぶりだろう。いや、温かさに触れたことはないはずだ。
こどもは恐怖で震え上がり、まるで屠殺場に押し込まれた羊のようだ。
この時、以前排水溝の中で出会った、人のペットを虐待して食べていた変態を思い出した。
私は瞬時につまらなくなった。
生きるために仕方なく人間の心臓を食べるのと、快感のためにか弱い生命を殺すのとでは、どちらも悪に変わりはないが違うものだ。
私はすでに悪人だ。もう二度と意気地なしの卑劣な人間にはなりたくない。
「……では、残りの人生のために精一杯呼吸するがいい。」
こどもを降ろし、その場を離れようとすると、意外なことに彼は私を掴んだ。
「待って……お願いだから……」
「僕も殺して……どうせ一人じゃ生きていけないし……」
私は眉をしかめた。こちらは生きるためにわざわざあんなにも気持ちの悪いものを食べているというのに、彼は死を願っている。とても不愉快だ。
私は彼の手をほどいた。私の足首を必死に掴むその小さな手を。
「私は変態殺人鬼じゃないんだ。そんなに死にたいなら、自殺すればいいだろう?」
「い、痛いから……」
「私に殺されるのも痛いのだぞ。」
「でもその方が早いから。僕がやる必要もないし……そ、それか……」
彼は突然私の方を見た。目が輝き、声も少し昂っている。
「今、僕を殺したくないなら、ここに……ここに残ってくれない?」
突然、どこかで彼の声を聞いたような気がした。
それに……
ここに残る。
それは、私のかつての願いだ。
思わず目の前にいるこどもをまじまじと見た。彼なのか?排水溝に降り、自分の数少ない霊力を分けてくれたあの子なのか?
だめだ、わからない。当時は顔すら見れなかったのに。それにあまり時間も経っていない、彼はどうしてこんなに臆病で言いなりになるんだ?
前まで私を怖がっていなかったのに……
不愉快でたまらない。
「はは……わかった。ここに残るとしよう。だが……」
「私は君を殺さない。殺してほしい者がいれば殺してあげよう……どうだ?」
こどもは不思議そうな顔をしたが、私はそれ以上説明しなかった。
この悪徳工場には、悪徳な協力者がまだ多くいるはずだ。ここを、私の「食糧庫」にしよう。
もう一つの理由は……もう怪物になりたくないからだ。
だから君を守り、君に新しい命をやる。君が二度と孤独と雨夜を怖がらないように、君のそばにいる。
その代わり、君も私の罪を、私の苦しみを分け合うのだ……
そして最後に……私という怪物を殺すのだ。
Ⅳ.温もり
予想通り、こどもは経営について何も知らない。しかし、これからもトイファクトリーで新しい従業員を採用し、彼らの心臓を食べて生きていかなければならない私は、書斎に置かれていた帳簿とおもちゃ販売の方法論が書かれた本を拾い上げた。
幸い、御侍の事務室で商売に関する本をペラペラとめくったことがあった。生まれてから今まで、悪徳商人の手口はたくさん見てきた。トイファクトリーを再開させるのもそう難しいことではない。難しいのはこどもの面倒を見ることだ。
クマのぬいぐるみを抱きながら座り込んで泣いているこのガキ――サスカトゥーンのせいで、ため息もままならない。
彼が排水溝で私の命を救ってくれたこどもじゃなかったとしても、このような大きな家で贅沢な暮らしをしていた子だ。トイファクトリーにだって彼の名前が付けられている。だから、今のようになんでも言いなりの泣き虫な性格であるべきではない。
幸い、いくらもしないうちにその原因がわかった。
この家でまだ「生きている」使用人は、彼らの主人が突然亡くなったことの真相を知らない。だが、彼らは食霊よりも、夫婦が残した人間の子供こそが継承者になることを知っている。
だから彼らは今でもお互いを蹴落とし合い、さらには人間のガキにサスカトゥーンをいじめるよう仕向けたのだ。私に見つかるまでな。
こちらは指一本で倒せるというのに、私におもちゃの剣を向けてくるなんて……面倒を見るのもなかなか手が焼ける。
私はおもちゃの剣についた血を振り落として、サスカトゥーンに渡した。どうやって自分を守るのか、教えなければならない。
彼の命は私を殺すためにあるのだからな。
「ど、どうして殺さないといけないの?」
「君のお父さんを殺したから……」
自分が生きるために、多くの人を殺した……だから最後は殺されて終わるのが、筋というものだ。
鼻をすする子供を見て、途端に言葉の説得力がなくなったような気がした。
「少しも憎まないのか?」
「え?なんだと!そうじゃないよ。」
彼の驚く顔を見ると、まるで私の話が幻想で、彼が現実のようだ。
「パパは自分でベランダから落ちて死んじゃったんだ……マカとは何の関係もないでしょ?」
私は呆然とした。彼が私の手を握るまで、私は何も反応できずにいた。
一瞬、彼の話が本当だったらどんなに幸せかと、そんな考えが頭をよぎった……
だが、私は自分に嘘をつけない。
どうして彼がそう思っているのかわからないが、彼を騙すしかない。のぼせ上がったこの子供を騙し、手のひらの温もりをもう少し長く感じていたい……
「君はブリキ……がどんな物語か知っているのかい?」
「え?ブリキはたしか……魔女に心臓を奪われて、全身が鉄に覆われた主人公が、心臓を取り戻すために女の子をお家に帰す物語だよ。」
「……彼は成功したのか?」
「成功したよ!」
突然、彼の嬉しそうな声を聞いて、一瞬だけ幻覚が生まれた――胸元に空いた穴が、鼓動するかのような感覚だ。
私も……もう一度心臓を持てるのだろうか?
そうなれば、もう人間の心臓を食べなくて済むんじゃないか?
チリンチリン――
突然、家の正門にある来訪者を伝えるベルが鳴った。すぐに、この家の数少ないメイドが慌てて走ってきた。
「は、はだかの男性が外に!」
裸の男?変態か?
私は眉をしかめた。
「放っておけばいいじゃないか。」
「い、入れてくれなければ、ベルに拡声器をつけて、付近の全住民に彼がベルを鳴らしていることを知らせると……」
チッ。
私はサスカトゥーンの手を離し、身を起こしてメイドとその変態に会いに行った。
扉まで行くと、私は引き返し、サスカトゥーンの頭を撫でた。
「ここでいい子に待ってなさい。すぐに戻ってくる。」
そう言うと、サスカトゥーンは初めて私の前で笑顔を見せた。ウジウジ泣いている時よりよっぽど可愛い。
よし、決めた。これからも彼を笑顔にしよう。
急いでメイドと扉までやってくると、確かに裸でバタフライの羽をつけた変態男がいた。
一瞬で気分がどん底に落ち、思わず嘲笑った。
「ベルを鳴らすなど、死にたいのか?」
「死ぬ?いいや、私は商売しに来たんだ。」
意外なことに、変態男の顔から下品さは全く感じられず、むしろひどく冷たい目つきをしている。彼の口調は落ち着いており、本当に営業マンのように見える。
「商売って……何も持っていないようだが。」
「薬がある。自分で作ったんだ。これがあれば、もう人間の心臓を食べなくても生きていける。」
そばに立っていたメイドが驚いて震えている。実際、私もかなり驚いた。だからメイドを気絶させるのに2秒ほど遅れてしまった。
「……私がそのような気持ち悪いものを食べていることを、どうして知っているんだ?」
「食べられた人の中に、私の友達がいた。だが、それは重要じゃない。」
重要じゃない?
びっくりして彼を見ると、彼は自分の言っていることに何ら違和感を感じていないようで、私の胸元を指さした。
「薬を飲めば、心臓が生えてくるかもしれない。欲しくないのか?」
「……はは、そんなすごい薬、きっと高いんだろう?」
「金はいらない。」
「なんだと?」
「金のためじゃない。ただ、約束してほしいんだ……」
「なら諦めてくれ。」
私は体を翻し、変態の相手をするのをやめた。
タダより高いものはない。何を約束されるかわかったものではない。それに……
私は拳をきつく握りしめ、指の腹を手のひらにしっかりとくっつけた――まだ少し温もりが残っているようだ。
「今の私にとって、もう心臓は一番重要なものではない。」
Ⅴ.マカロニ
マカロニは運命をひどく恨んでいる。
運命によって彼は心臓を失い、人を殺す道へと進むことになった。そして彼には通常の食霊にある感情がないが、苦痛だけが与えられた。
人に恐怖の目で見られるたび、相手に完璧な心臓があるのを見るたびに、彼はこの世界を恨んだ。
だが、彼は世界を恨むだけで、人間を恨んではいない。
彼は善良な死神、温もりがある怪物なのだ。
「悪人」の心臓がこの世で最も不味くても、彼は「善人」の命を食べようと思ったことはない。
なぜなら、彼はその子を笑顔にさせる「ブリキ」でありたいからだ。
「食霊の外見は変えられないが、社長としての気質を持たないと。これからは泣いてはいけないよ。隠れるのもダメだ。」
泣くなら、必ず私の前で泣くんだ。
なんせ君は死よりも孤独を恐れるほど臆病だからね。
しばらくして、マカロニは心の中でもう一言付け足した。
孤独を怖がって死んではいけないよ。君の命は、私を殺すためにあるのだから。
「君が大人のふりをして商売の交渉をするのは無理そうだ。それなら、これからの商売は私に任せて。君は贅肉だらけの社長の前でそれっぽくしていればいい。」
君が悪徳商人になる必要はない。「悪事」は全て大悪人である私に任せればいいんだ。
いや。マカロニは心の中でもう一言付け加えた。
君のような度胸と頭じゃ悪徳商人になれるはずもない。普通の子供として元気に成長してくれればいい。
「私は君の銃弾だ。君はただ、交渉で彼らを踏みつけるだけでいいのさ。」
もういじめられっ子になる必要はない。これからはいじめる番だ。
嬉しいか?満足か?
満足なら、早く私を殺してくれ……
マカロニはサスカトゥーンが初めて自分が心臓を食べる様子を見た時のことを思い出しながら、辛そうに今日の夕飯を飲み込んだ。
彼はこんなにも「死」の到来を渇望、そして恐怖に思ったことはない。
「お客様がお見えです。」
「今日は予約がないはずだが、誰だね?」
「……」
工場のチームリーダーが歩く屍のように扉の前に立ち、何も言葉を発さない。
マカロニは思わず舌打ちしながら、立ち上がって客室の方へ向かった。
彼は、サスカトゥーンよりほんの少し年上であろう少年が、首を傾げながら彼に向かって笑っているのが見えた。
「気分が悪いみたいだね。じゃあ、挨拶はほどほどにして、本題に入るね。」
「僕は、ある力を知ってるんだ。その力があれば、あなたは体の穴が埋まり、心臓を食べる必要がなくなるよ。」
マカロニは眉を吊り上げた。目の前にいる無邪気な少年は、以前の変態男に比べてそれほど信頼できそうには見えない。
しかし、偶然心臓を食べているのを目撃してしまったサスカトゥーンの恐怖に染まった目を見てから、彼は考えが変わったのだ。
今は死よりも心臓が欲しい。自分の心臓を。
「どんな力だ?」
「その力は……契約を結んだら教えてあげるよ。そんな怖い顔しないでよ。単なる機密保持だよ。」
少年は自信があり気に、狡猾な目つきを見せた。それを見てマカロニはほんの少し安心感を覚えた。
いい人ではなさそうだ。ならば何かあったときはこいつを食べてしまえばいい。
「わかった。何が欲しい?」
「ここで働いている人、あなたに心臓を食べられてしまった人を生贄として、その力を召喚したい。」
短い沈黙の後、少年は再び無邪気な顔に戻った。
「彼らはみんな悪い人、もしくはかつてあなたを傷つけた人。あなたを気持ち悪い怪物だって言ってる人たちでしょ?」
「彼らの中でとっくに悪人にされているなら、実際に悪いことをしないと損でしょ?」
「彼らが死なずに生きていても、あんな貧相な命じゃ、誰にもメリットはない。」
「あなたをこんな苦しい運命から助け出せるなんて、彼らは光栄に思うべきだよ。」
決めた。
マカロニは頷いた。
「同じ考えなら契約を結ぼう。」
目の前の天使のような少年に向かって、マカロニは死神のように微笑みかけた。
最後の心臓は、こいつのものを食べてやろう。
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