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神隠し・ストーリー

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神隠し

彼岸之处

序章-再会


神国


 神国の昼時、美しいオーロラが鬱蒼とする中庭を彩る。腰まで届く草の葉がさらさらと揺れ、その中にしゃがみ込む人影が時折姿を現す。


りんご飴:うわーせんべい先生の花坊、おっきいねぇ!半日も除草してるのにまだーーヘックッシュン、ヘクシュン!

草加煎餅:……りんご飴、大丈夫?

りんご飴:なんか……空気中の花粉、多くなってないーーハクシュン!も、もうムリ、外出て一息つきに行くわ!


 茂密な草葉がワッと両側へ払われ、咲き誇った深い紫色の花が爛漫に舞い踊り、花坊から急いで飛び出した少女のくしゃみを誘った。


りんご飴:ふぅーー一気にくしゃみを35回もすると思わなかったわ……

りんご飴:せんべい先生、この「薬草」って一体なんなの?今まで花粉症になったことないのに、おかしいわ。

草加煎餅:さあ……でも、こんなに大きなではなかったはずなんてすが……。


 二人は黙って花坊を見つめ、ボウルのように大きな花が重なり、まるで甘い果実のように、ブンブン鳴る蜂や蝶を引き寄せている。そよ風が吹くと、りんご飴はすばやく鼻をつまんで、より遠くの隅っこに飛んでいった。


りんご飴:ん……そうだよね、このお花たち、ちっちゃくてかわいかったのに!なんでこうなったわけ……

かき氷:せんべい先生ーーりんご飴!やっぱりここにいた!


 庭の木製扉を押し開けるかき氷の後ろには弱々しい見知らぬ姿がついていた。


かき氷:森で迷子になった食霊に遭遇しちゃって、しかもワタシたちのことを知ってるみたいなんだけど、この人が誰だか全然思い出せないの。

かき氷:大事なことを私たちに教えたいっていうから連れてきたの……薬師さん、入って。


 青年は一瞬ためらった後、足を踏み入れた。オーロラが空から夢幻な光を注ぎ、目の前のこの優雅な庭をファンタジーな緑に染め上げた。懐かしい顔たちも、まるで別世界にいるように見えた。


ふぐ刺し:……コホッコホッ、せんべい、そしてりんご飴……

ふぐ刺し:久しぶり……


星象館

神国


 午後、ほうきを抱えた少女は庭の階段でうとうとしていて、後ろからこっそり近づく足音に気付かず、そして、軽く肩を叩かれた。


花びら餅:……!!

花びら餅:いいえ、シラムス様、あなたのプロポーズには応じられません、どうかお許しください。私にはすでに心を許した特別な人が……ええぇーー金平糖ちゃん?!

金平糖:えーっと、どれどれ……「REBORN:異世界へ行ってしまった姫とドラゴンナイト」、えぇタイトル長いですね……


 金平糖は地面に落ちた絵本を拾い上げ、困ったようにそこに並ぶ奇妙な文字たちをじっと見つめ、しばらく考えてムダだと思い、大人しく頭を俯いて必死に小言を言っている花びら餅に返した。


金平糖花びら餅お姉さん……もうご催眠はやめてください。まだ全然眠りたくないです。

花びら餅:うっ……わ、わかりました。

金平糖:このお姫様とドラゴンナイトの本のストーリーってどんな内容ですか?

花びら餅:えっとね……一人のお姫様が別の世界へうっかりと入り込んでしまって、そこで助けてくれる勇敢で善良なドラゴンナイトさんに出会った話です。

金平糖:ワクワクするような冒険物語じゃないですか!それで最後姫様は元のお家に帰れました?ドラゴンナイトさんも一緒についていきました?

花びら餅:まだ最後まで読んでいませんが、この作者はバッドエンドが好きなようで、彼の手にかかった主人公たちはいつも死んでいるか、傷つくか、またはお互いを裏切るかですよ……

金平糖:ええっ!じゃああたし、やっぱり読まないことにします……みんながハッピーになるお話の方が好きですから!

花びら餅:ええ、そうなんです、お子さん向けの本じゃないですよ……


 金平糖は眉をひそめて絵本を見つめ、物語の中の二人の主人公の未来を深く心配していた。花びら餅の「陰謀」がうまくいったかのようなお馬鹿さんみたいな笑顔を全く気づかずに。


花びら餅金平糖ちゃんが好きなら、今度、おとぎ話の絵本を見つけてきますね。たとえば、「お茶会の姫様」や「小さな花の妖精」とか、可愛らしい金平糖ちゃんにぴったりのものですよ。

金平糖花びら餅お姉さん、ありがとうございます。でも、お姫様より……本当は善良で勇敢なドラゴンナイトさんのほうが好きなんです。

花びら餅:え?でも、お姫様はきれいなドレスを着て、庭でおいしいお菓子を食べれるんですよ……ドラゴンナイトさんだと大変です。

金平糖:ううん、ドラゴンナイトさんはお姫様を助けられる人ですから!人助けは……きれいなドレスやおいしいお菓子より人を嬉しくさせるんです!

花びら餅:そうなんですね、金平糖ちゃんはやはり独特ですわね……わかりました、今度ドラゴンナイトの絵本を見つけてきますね!


 金平糖はうなずいて、天真爛漫な笑みを浮かべた。その時、庭の外から車輪のゴロゴロした音が近づいてくるのが聞こえた。

 少し開いていた扉から見やると、足早の人たちがスッと通り過ぎて、いい匂いしかそこに残らなかった。


金平糖:あれ、りんご飴じゃないですか?なんでみんな木車を押してるんでしょう……エックシュン!エックシュン!あれ、せんべい先生のお花ですよ!

金平糖花びら餅お姉さん、あたし、見に行ってきます!手伝いが必要かもしれませんからっ!

花びら餅:えっ……ゆっくり行ってね、早く戻ってきなさいよーーあっくしょん!!


 紫を身に着けた女の子は瞬く間に扉の外へ消えていった。空を彩るオーロラもだんだんと薄暗くなり、神国の夜の訪れを示している。


第一章-出会

異世界へさまよったお姫様……


和室

神国


水無月:神子様!面白い場所を見つけたよ、森の東にあるんだ〜

羊かん:……また特定の時間に現れる場所か。

羊かん:いや違う……特定の時間と言うより最近、通路が開く日がどんどん……規則がなくなっているような。

水無月:神子様、何ブツブツ言ってるの?あのさ、せんべいたちが森へ向かってんの見たよ、見知らぬ食霊も一緒に……

羊かん:見知らぬ食霊?

水無月:うん。みんなで花草がいっぱい積んでる木車を押しててさ、そこでピクニックでもするのかな?

羊かん:……

水無月:だとしても、新食霊を拾ったら真っ先に神子様に報告するべきじゃんね、せんべいたち、遊んでばっかだな!

羊かん:……それなら、私たちも見に行こう。

水無月:えっ、やったー!神子様、やっと一緒に遊びに行く気になっていただけたのか!巫女様たちも誘う?

羊かん:瓊子も天沼も休憩が必要だから、今回はやめとく。

水無月:そっか、巫女様たちはいつも寝てるもんな、疲れてんだろう……じゃあ、神子様、僕たち、今から出発しましょう!


神国


 広々とした森の上に、星々が海のように広がる。その間を垂れ下がるオーロラは海に映る色とりどりの光柱のようだ。

 魚たちは広い海の底を泳ぎ、この輝かしい国に消えていく。彼らは永遠に知らないのだろう。自分がいる場所は単なる偽りの水槽だったということを。


金平糖:はぁ……はぁ……りんご飴たちが見つからない……あたし、迷子になっちゃったのかしら?

金平糖:どうしよう、星象館に戻る道も覚えていない……そうだ、星!お星さまを頼ればいいんだった!


 女の子は見上げると、鬱蒼とした枝葉がドームのように、星空を遮った。


金平糖:そうするしか……ないね。


 少女は袖をまくり上げ、決然とした顔で木の幹にしがみつき、手と足を使って苦しそうに頑張って上に移動していく。


金平糖:頑張るのよ、金平糖!木のてっぺんまで行けば星が見える……うぅ!でも木の皮、すごいチクチクする!……もっと、もっとはやく上へ!!

???:……君、何をしているんだい?

金平糖:ひぃぃっーー!!!!


 木の幹に子猫のようにぶら下がる女の子が驚いた声を発し、そのままぽんと地面に落ちてきた。ふぁっと木の葉が舞い上がる中、女の子はやっと体の下の感触が固い地面ではないことに気付いた。

 まず目に飛び込んできたのは美しい瞳と、広がる真珠のような輝きを持つ長い髪。まるで、物語の一幕のようだったーー


金平糖:異世界へさまよったお姫様……

呼子イカ:あはは……おチビちゃん、僕の美貌は確かなものだが、僕はお姫様じゃないよ。

金平糖:えっ、ええ?あなたは……

呼子イカ:ふふ、そう〜女に間違えられるの、久しぶりだけどね……

金平糖:はっ、ご、ごめんなさい!すごくお綺麗で……お姫様みたいだから……本当にすみません!

呼子イカ:まあいい、褒め言葉として捉えよう〜ねえ、おチビちゃん、ここを離れる道、知らない?

金平糖:えっ……あなたも迷子?そういえば、この「神国」で見ない顔ですね?

呼子イカ:「神国」……?

金平糖:んん……もしかして、あなたも「外」から間違えて入ってしまいました?花びら餅お姉さんのように……


 呼子イカは何かを考えているように見上げ、繁茂した枝葉からは美しいオーロラがこぼれ落ち、不思議そうに不意の客の顔を撫でる。


呼子イカ:どうやら、僕は不思議な国に迷い込んで……しかも不幸なことに、おチビの君と一緒に迷子になってしまったみたいだね。

金平糖:落ち込まないで!北斗星を見つければ……道を教えてくれますよ!

呼子イカ:ふふ〜君は星の魔法に精通する巫女ちゃんのようだね。

金平糖:ううん、違います、あたしは星占い師なんです!

呼子イカ:そうか。じゃあ小さな星占い師さん……もう木登りはやめましょう。もっと簡単な方法があるかもしれないよ。

呼子イカ:僕が来た道に木々がまばらな空き地があった。そこでなら、君の星の友達を見つけるのがもっと簡単なのでは?

金平糖:えっ、そうですね!じゃあ早速向かいましょう!


 人声が次第に静まり、そよ風が木の葉と戯れる中、カラフルなまばゆい光がかすかに見える。小道に大きな影と小さな影が徐々に遠ざかり、落ち葉の中にしおれた深い紫の花があったことを、誰も気づかなかった。


第二章-神子

神子に守られている国は、白紙のように純粋だった。


 オーロラの輝きが照らす星空は、夢のように儚くて美しかった。暗くて広い森の中で、無数の運命の轍はいずれ交差する。

 狭い林間の小道には、砕けたオーロラの光が地面に散らばる。小さな女の子はぴょんぴょん飛び跳ねながら枯れた枝を踏みしめ、時折後ろを振り返り、その人に向かって喋る。


金平糖:……つまり、呼子お兄さんは……お医者さん?

呼子イカ:医者?ふふ、面白い考えだね……

金平糖:人間の容姿を変えるお手伝い……それ、花びら餅お姉さんの本で見たことありますよ。グレロという場所にその治療ができる病院があるそうです!

呼子イカ:……

金平糖:呼子お兄さんも人助けをしていますから……いい人ですね!

呼子イカ:そうかな、でもそういうお手伝いは常に高い代償が伴うんだよ〜それでも僕はいい人だと思うの?

金平糖:へ……?

呼子イカ:おチビちゃん、しっ!誰か来る。


 木の車輪がカリカリと落ち葉を踏みつけながら進む。金平糖は喜びの表情を浮かべたが、後ろの手が彼女のまん丸く開いた口を急いで塞いだ。美しい瞳がパチパチとし、彼女に声を出さないようにと合図した。

 少し離れた道から、馴染みのある声が断続的に聞こえてくる。


りんご飴:……ねえせんべい先生、薬師さんの言うことは本当なの?通路の外の場所は本当に……

草加煎餅:私もいろいろ記憶が曖昧ですが、でも……彼のことは知っている気がします。彼は嘘をついていないはずです。

かき氷:そうだよ……さっき百聞館でもあの薬草を見た。せんべい先生のと比べると栄養不良に見えるけど。

りんご飴:で、でももし本当だとしたら、桜ヶ島が二つあって……じゃあ「神国」はいったい何なんっていうの?

草加煎餅:どっちにも……属していないかもしれません。

りんご飴:……

りんご飴:もう……ごちゃごちゃし過ぎよ……

かき氷:ええ……確かに複雑だけど、少なくとも私たちは薬師さんのお役に立てた。あの薬草は「桜ヶ島」が困難を乗り越えるのに役立つはずだよ。

かき氷:あとは、戻って抹茶に伝えて、一緒に今ある手がかりを分析しましょう……ああ、あと、念のために他の人にはできるだけ秘密にしといたほうがいいね……

水無月:え?秘密?なに楽しそうなこと話してんの、みんな?僕にも聞かせてくれよ!


 木立の中から、水無月の無邪気な笑顔が突然現れた。その後ろの木々の枝葉がさらさらと分かれ、ゆっくりと出てきたのはオーロラに包まれた神子だった。


草加煎餅:……!!!

羊かん:みんなが困惑しているかもしれないが、大丈夫……私が悪いものを全部浄化してあげるから。

りんご飴:ちょっと待って!神子様……

羊かんりんご飴、わかるんだ。でも、これだけは教えたい、「神国」だけが私たちの本当の家なんだ、永遠に。

りんご飴:……

羊かん:それと、「神国」はこれから新しい食霊を迎え入れない。


 神子はいつも通りに無表情だったが、なぜか微妙な不快感が漂っているようだった。言葉を聞いた一同は皆黙ってしまった。


羊かん:その前に、水無月、みんなを巫女様のところに連れてって。

水無月:ええ〜冒険の時間がもう終わり?残念だね、まだあの場所に行ってないのに……

水無月:まあ、わぁった、わぁったわよ〜、神子様がおっしゃるなら。みんなも渋い顔をしてないで、木車を押して一緒に帰ろうよ〜!


 木製の車輪がキーキーと音を立てて遠くへ行き、残されたのは静寂な樹影とオーロラ。両者が交錯して不規則な光の跡を編み出した。

 少し離れた茂みの中で、息を殺してしゃがんでいた金平糖が長い息を吐き出し、困惑な眼差しで森へ消えていく轍を見つめた。


金平糖:神子様……お怒りのようです。それにりんご飴たちが言った「二つの桜ヶ島」ってなんでしょう……

呼子イカ:ふふ……君達の神子様は「民たち」をきちんと守っているね。何色にも染まっていない白紙のように。これが「浄化」の結果か。

金平糖:神子様は普段あたしたちにすごくやさしいんですよ……無表情だけど、本当は寛大なお方なんです!あたしたちがなにをしても怒りません。

金平糖:でも今日は……あっそうでした!神子様、新しい食霊を迎え入れないっておっしゃいました!じゃあ呼子お兄さんはどうしたら……

呼子イカ:そうだね、帰り道も全然覚えていないし、困ったなあ……


 呼子イカは苦悩したふりをして頭を抱えた。とても熱心な女の子がすぐに考え込んでしまうのを見て、彼は口元をわずかに引き上げた。


呼子イカ:これだけ歩いたし、今畳に座って、熱いお茶を飲みたいよ……どうする?やはり予定通りに星象館に向かいましょうか?

金平糖:うん……ああおっしゃってましたけど、神子様が知らないなら、少しの間だけ、大丈夫なはず……そう!とりあえず、星象館に行きましょう!

呼子イカ:ふふ、そうだね〜君が話していた館長さんもすごそうだし……陰陽師からの指導を受けているなら、僕の帰り道もすぐに見つけてくれるでしょう。

金平糖:そうでした!最中兄さんがいますよ!あたしも星占いを手伝います。絶対呼子お兄さんを無事……じゃなかった!絶対呼子お兄さんにお家に帰らせません!

呼子イカ:……?

金平糖:ごめんなさい……だってみんな、あたしが言うと縁起でもないことが起きるっていうから、逆に言ったほうがいいのかなと思いまして!

呼子イカ:ふふ、そうか……ありがとね、おチビちゃん。

呼子イカ:君が僕がこの「神国」でのはじめてのお友達だ〜


第三章-友達

それはね、僕も首座様も「黄泉」から逃げ出したいという、似たような願望があるんでね。


 星の海が空に煌めき、遠くから銀の光を放つ。神国の夜には月がなく、星々に寄り添うのは永遠のオーロラだけ。

 誰もいない中庭の回廊を曲がると、目の前の和室には豆のような小さな明かりが灯っていた。明らかに、夜更けで眠らなかった人はこんな時に予期せぬ訪問者が現れることは考えていなかったようだ。

 ジーーージーーーっと、断続的な電流の音が鳴り、あっという間に消えた青い火花が紙の引き戸を照らした。


???:……連絡が不安定になったね……まだ聞こえる?

???:あっ、また中断したのか……ちょっと待って、外にいるの、誰だ?!


 引き戸が開き、青い髪が乱れたまたの最中がのぞき出し、顰めた眉間からはまれな注意深さと疑念を表している。


金平糖最中兄さん、あたしですよ!あっ……あとこちらは、森で拾った……

呼子イカ:はじめまして、呼子イカといいます。森に迷い込んでしまい、こちらの親切なおチビちゃんに助けてもらいました〜

最中:森……?貴方は「あっち」の人?

金平糖:しーっ!最中兄さん、内緒!あのね……


 金平糖最中の袖をつかんで言葉を詰まらせ、緊張して左右を見渡した後、声を低くして続けた――


金平糖:あのね……さっき、せんべい先生たちが遊びに行ったら、神子様に怒られて、これから新しい食霊を迎え入れないとまで言われました……

最中:えっ……神子様らしくないなあ……

金平糖:でしょう?だから、呼子お兄さんがお家に帰る方法を見つかる前に、神子様にバレちゃダメなんです!

最中:なるほど、てことは誠実な金平糖ちゃんは新たなお友だちのために嘘をつく覚悟はできているんだな。

金平糖:え?う、嘘を、つく?神子様には……隠し事をしてしまったことになりますけど……あたしは、呼子お兄さんを助けたいです……

最中:わかったよ、今の冗談さ〜貴方の友達なら、私も手伝うさ。

呼子イカ:ありがとうございます、最中館長〜

最中:礼を言うべき相手は、誰にでも親切なこの金平糖ちゃんだ……ねえ金平糖ちゃん、貴方は先に戻ってお風呂に入って休みな。そっちの新しいお友だちとはまだ話したいことがあるから。

金平糖:わかりました!ありがとうございます、最中兄さん!


 女の子の姿が夜に消えると、最中は和やかでのんびりした表情を引っ込め、目の前の人をじっくりと見た。


最中:私の知る限り、今回の通路は百聞館付近に現れた。貴方、そこから?

呼子イカ:よくご存知で〜さすが大陰陽師のお弟子さん。ふふ……館長さんがどちらのお使い手でしょうか?式占?易占い?それとも星占い?

最中:貴方も陰陽術を……?

呼子イカ:ふふ、たしなみ程度ですね。かつての御侍も陰陽師だったので……

呼子イカ:まあ、探り合いはやめた。別の楽しいことを話そうか。たとえば……先ほど青光を通して通話していた相手のこととか……

最中:……?!

呼子イカ:あの方、噂の「黄泉」観星落の首座様なのでは?

最中:貴方はいったい何者だ?

呼子イカ最中館長、もう忘れたのか?僕は呼子イカと言うんだよ〜ふふ……そんな顔しなくても、悪気は一つもないよ。

呼子イカ:僕と首座様も友達でね〜よく夜通しでお茶会をする仲だ。

最中:貴方が百聞館の人だったら、鯛のお造りとお友だちなわけ無いだろう……?

呼子イカ:それはね、僕も首座様も「黄泉」から逃げ出したいという、似たような願望があるんでね。

最中:……


 庭はしばらく静寂に包まれた。夜風が虫の鳴き声を運んできて、揺れ動くオーロラが様々な形の光の影を生み出す。呼子イカはつい夜空を見上げたくなった。


呼子イカ:あっちにいた頃、首座様はこの場所について話してくれたことがあった……「神国」が、こんなところだったんだね、とても綺麗だ〜

最中:そうかな……偽っているから美しく見えるかもしれない。

呼子イカ:ふふ、哲理的な考えだね〜最中館長とはきっとお茶会ができる仲のいい友達になれるね。

最中:……仲のいい友達だなんて、まだ話が先だろう。今の貴方は星象館のお客にすぎないんだ。

呼子イカ:まあまあ、そんなに遠慮しなくていいのに〜手伝いが必要なときは、いつでもお声をかけてくれればいいよ。とくに「例の計画」に関しての……

最中:貴方も知っているのか……「例の計画」を?

呼子イカ:もちろんだ。こっちはすでに待ち遠しいんだよ。伝説の「現世の門」を通りたくて仕方がないんだ〜


第四章-計画

「現世の門」の向こう側に。


数日後

星象館


 ジーージーージーー青い電弧が絶え間なく跳ね飛び、最終的に水晶玉のような形になり、画面の中の、見慣れた安らかで満足そうな顔もだんだんとはっきりと見えてきた。


鯛のお造り:……最中、やっと連絡がついた。この間、肝心なことを話している途中なのに……

最中:とりあえず待ってくれ、鯛のお造り。大事なことが聞きたい……百聞館の呼子イカ、貴方は知っているか?

鯛のお造り:知っているけど、どうして……?

最中:先日、通路を通して「神国」に来た。

鯛のお造り:そうか、道理で百聞館に伝書鳩を送ったのに返信が戻ってこない……羊かんは彼の記憶を消してないんだよね?

最中:ああ、今は星象館に隠れてて、まだ気づかれてない……いやちょっと待て、百聞館への伝書鳩?貴方たち、本当に友達なんだ?

鯛のお造り:……正確に言うと、パートナーだね。ここ最近、百聞館の情報をいろいろ教えてくれてる。

最中:なるほど……だがあいつ、なんか怪しい気しかしないんだよな……あっそうそう、百聞館の神器の手がかりは言ってなかったか?

鯛のお造り:いいえ。彼の話だと、百聞館の下っ端から館主本人まで神器について全く知らないようだ。

最中:それ……信じられる?

鯛のお造り:今までの情報から見ると、ほぼ真実だった。だが、たしかに深く関わっていい相手ではない……協力の事以外、彼とはあまり関わりがなかったね。

最中:だと思った!なにが夜通しでお茶会だ、嘘ばっか……しかもいっつもコソコソして私の周りをうろちょろしてるし、なに企んでるやら。

最中:ったく、あいつのことはもういい!こないだはどこまで話した?ああそうだ……現世の門を通る方法!

鯛のお造り:ええ。天沼と瓊子が言ってた。すべての神器を集めて、彼らふたりの力も加えるしか、現世の門で「黄泉」の人を「現世」へ連れていけないと。

鯛のお造り:私は最近、各神器の所有者と交渉して、すでに成果を挙げている。

鯛のお造り:計画通りだと、今度、「神国」と「黄泉」をつなぐ通路が開かれる際に、こちらからまず月見の注意を引くよう人を送り込んで、その後、他のみんなと一緒に太子を説得に行くつもりだ……

鯛のお造り:その後、私たちは神器を持って「現世の門」で二人の巫女と合流する。貴方は勾玉で「神国」のみんなの記憶を回復し、羊かんを引き止める。

最中:ああ。だけど、百聞館の最後の神器がまだ本当の姿を現していない……なのに巫女たちの神力は日に日に衰えていっている。計画を急がなければならないぞ。

鯛のお造り:もうしばらく時間をくれ……必ずあの神器を見つける……


 ジジーーーブーーン

 水晶玉の中映像が再び点滅し、最中はあきれたように手を戻し、指の間に残る青い火花を見つめた。


最中:百聞館……誰も知らない神器……いったい何なんだ?


 庭から笑い声が聞こえ、最中は青い炎を消し、引き戸を開けて外を見ると、新しい客人と一緒に楽しんでいる人々が目に入った。


金平糖:あっ、最中兄さん!最中兄さんも手鞠をやりませんか?呼子お兄さんがいろいろ教えてくれましたよ……わあーーっ花びら餅お姉さん危ないっ!

花びら餅:ふぅ……ビックリしました……

金平糖:すごいです!花びら餅お姉さん、それが取れるんですね!!

呼子イカ:ふふ〜花びら餅もおチビちゃんもすぐ上達したね。あっ、最中館長も一緒に遊ぼうかい?

最中:また貴方なのか……私は結構。出かけるんで、貴方たちで楽しんでて。


 最中が急いで去ったのを見て、呼子イカは全然気にしてないように手に持っている手鞠をポンポンと軽く投げ上げ、扉が閉まったままの和室を見つめた。


呼子イカ:よし、じゃあ僕たちも少し休憩しよう〜

金平糖:うん!休憩タイ〜ム!あたし、果物を持ってきましたよ、みんなで食べましょうね!

花びら餅:あ……う、うん……

金平糖花びら餅お姉さん、今日ずっと上の空ですし、顔も真っ赤で……具合悪いんですか?

花びら餅:えっ、あっ……ううん、大丈夫……ですよ……


 花びら餅の頬にあやしい赤がかっていて、彼女はひそかに横の呼子イカをチラっと見て、また再び頭を下げ、真剣に和菓子を見つめて、すぐに耳元の女の子のおしゃべりの声を九重の天へ投げ捨てた。


金平糖花びら餅お姉さんまーたぼーっとしてますよ、全然人の話を聞いてくれませんね。

呼子イカ:ふふ、大丈夫。僕がおチビちゃんのお喋り相手になろう〜

金平糖:えっ、ありがとうございます!

呼子イカ:そういえば僕、「神国」に来て何日も経ったけど、ずっと星象館にいたでしょう?外でなにか特別なこと、起こってない?

金平糖:特別なこと……ですか?ないみたいです。最中兄さんは出かけるのを控えようっていうから、あまりみんなと会ってないんです……

呼子イカ:そうだ、神子様は寛大なお方だってチビちゃん言ったよね?

金平糖:うん、そうです!この前のこと以外、みんなを怒る神子様、見たことないですよ……

呼子イカ:じゃあ……もしも、「神国」の人が他のところに行きたいって、たとえば、あの「現世の門」の向こうとか、お願いしたら、聞いてくれる?

金平糖:聞いてくれないと思いますよ!海のあの扉にはみんな、近づけませんよ。それに、神子様はあたしたちを「神国」から離させてはくれないんです、「神国」はあたしたちの唯一の家ですから!

呼子イカ:そうだったのか……

金平糖:呼子お兄さんは扉の向こうに遊びに行きたいですか?

呼子イカ:いや……僕はそこに行って、重要なことを解決したいんだ。

金平糖:重要なこと……あたしが力になれること、ありますか?


 女の子が異常に真剣な眼差しで見つめてくるのを見て、呼子イカは思わず驚き、そして笑みを浮かべて、彼女の頭を軽くポンと叩いた。


呼子イカ:ふふ〜君はもうずいぶん、力になってくれたよ。さあ、花びら餅を起こして帰ろう。

第五章-異変

願いに惹かれるモノ、執念あるモノ。


神国


天沼:貴方はまだ……「黄泉」のみんなを受け入れたくないのですか?聞いた話だと、あっちの食霊まで「神国」に立ち入り禁止になっていると……

羊かん:このような制限をつきたくなかったのだけれど……誰かが別の目的のために、「神国」の民の優しさを利用するのが許せない。

瓊子:別の目的?どういう意味ですか?

羊かん:ある「黄泉」でめったに見ない植物がこの「神国」では好きなように育てている。あれはある特殊な薬の原材料だと知ったのは、ついこの間だ。

羊かん:その薬は、「黄泉」の人々を瘴気の毒から救うことができ、彼らが憧れていた「現世」へ逃げるのを助ける。

天沼:……そんなことが……。

羊かん:「黄泉」に「救世主」になりたい人はたくさんいるけど……私はそう思わない。

羊かん:あの植物はほかのと同じく、「神国」で普通に生長し、花が咲き、枯れていけばいい。よそのことは関係ないことだ。

瓊子:貴方にとって、「神国」の人々も……同じであるべき、ですね?

羊かん:ええ、悪くないではないか。痛み苦しみのないきれいな国……私はみんなを永遠に幸せで純粋な生活を送らせる。

瓊子:しかし……「神国」は貴方一人のものではありませんよ。みんながそれぞれの考えがあります……

瓊子:何度浄化されても、それらの考え方はあの人々を救うことができる植物のようにすぐ鬱蒼に生えてきます。

羊かん:それは違う。みんなが外の汚れに染まりすぎただけなんだ……もしかしたら、昔の「神国」を封鎖したくない考え方は間違いだったかもしれない。

天沼:……「神国」が貴方の目を晦まし、貴方はある種の危ない執着心に操られています。

羊かん:貴方たちにはわからない。これは……ある理想への強い意志だ。

瓊子:……

天沼:……!!!


 寒い風が吹き抜け、巫女たちの言葉は急に途切れ、上座に座る羊かんは神妙で知らぬ気配を敏感に感じ取った。


???:兄様……?!兄様なの……?!

???:あの女は誰ですか?!なんで……私のかわりにそこに立っているのです?あれは私の体なのに!

天沼:貴方は……いったいなにものです……瓊子?いや、違う……

瓊子:兄様……頭が、痛いっ……

天沼:瓊子……!!

???:兄様、どうして私のことを見ないのですか?私の方こそ、兄様の妹なのに……!!


 巫女たちは苦しんで座り込み、不気味な女性の聞き慣れない声は一層狂気じみて鋭くなっていった。

 ゴゴゴゴーー!紫の稲妻が神国の静かな空を横切り、美しかったオーロラが瞬く間に、割れたガラス玉のように裂かれた。羊かんの黒い瞳には荒れ狂う怒りがもはや抑えられなかった。


羊かん:侵入者ーー!おまえは巫女を傷つけ、「神国」を毀し……許せない!


数分前

神国の海辺


 オーロラが空から海へ降り注ぐ。静寂な水面には永遠に近づくことのできない鳥居が海市蜃楼のようにそびえ立っている。

 波が砂浜を洗い流し、表面に浮かぶ足跡たちを消し去ったが、砂礫に深く埋まっていた貝殻が露わになり、海辺を歩く者たちと鉢合わせする。


りんご飴:ねえかき氷最中兄ぃは「現世の門」を抜けると「現世」へ行けるって言ったよ……それ、本当だと思う?

かき氷:そうかな……でもあの扉、どうしても近づけないでしょー。あっちょっと待って……「現世の門」「現世」……?!

りんご飴:ちょっと、どうしたの急に?

かき氷:「現世」……「黄泉」!あたしの記憶が間違ってるのかな?誰かがあたしたちに「現世」と「黄泉」のことを話したような……

りんご飴:「黄泉」……二つの桜ヶ島?!


 曖昧な記憶が泥を洗い流すように徐々に輪郭を現したが、まだ靄がかかっている。二人は驚きと困惑の表情でお互いを見つめあって、しばらくの間、言葉を忘れていた。

 起伏する波が海岸を叩く。一方、砂浜の向こう側に、馴染みのある人影がのんびりと歩いていた。


最中:二人とも、ぼーっとしててどうした?呼んでたよ。

りんご飴最中兄ぃ……?

りんご飴:そうだ!最中兄ぃ!「現世の門」で「現世」へ行けるって言ったよね、じゃあ「黄泉」のことを聞いたことある?

最中:黄泉……貴方たち、覚えているのか……

かき氷:もしかして以前、本当に誰かがあたしたちに「黄泉」のことを教えてくれたことがあったの?

最中:巫女様たちの神力が衰えていて、浄化の儀もますます徹底的ではなくなっているようだ……貴方たちは確かに「黄泉」のことを知っている。

りんご飴:巫女様……?浄化の儀?

かき氷:待って……あたしたちの記憶って、わざと抹消されたの……?

最中:そうだ、だんだんたくさんのことを思い出すだろう。私がみんなにすべてを説明する……しかしその前に、絶対に神子様にバレてはならない。


 ゴゴゴゴーー!紫の稲妻が予期せずに空を切り裂いた。最中は一瞬、言葉を止め、空を見上げると、空の果てまで続いていたオーロラが二つに割れた。


りんご飴:こ、これは一体?!!オーロラが割れた……

水無月:おーい!みんな、聞こえるかーー?


 遠くの海辺で、水無月はすごく急いでいる様子で大きく両手を振っている。


水無月:さっき、「神国」に侵入者が入ってきて、巫女様を襲って逃げたって神子様が!!

最中:……どんなやつだった?!!

水無月:女の人だって神子様が言ってた、でも顔は見えなくて、声しか聞こえないみたいなんだ。あと、自分が天沼様の妹だって!!


第六章-真相

真実の下に潜む影。


 神国の空の中央に広がる裂け目が不規則のブラックホールのようで、美しくて穏やかなオーロラと入り混じって互いを映し出している。

 完璧だった偽りの均衡が崩れ、危険が機を伺っている。一堂に集まった人々も、異常な雰囲気を感じ取ったようだ。


草加煎餅:これは一体どういうことなんですか……

抹茶:巫女様方、すごくショックだったそうです。天象も異変が起きましたし、皆あの侵入者のせいらしいです。

ラムネ:天象に関することなら、星象館に聞くべきじゃないかな?最中兄ぃ、なにかわからない?

最中:まだわからないんだ……それに、今はまだ昼間で、星占いができない。

つじうら煎餅:この天才がさっき占ったよ、侵入者はまだ「神国」にいる!それに、一人だけじゃないみたいなの……

抹茶:もしかして、「神国」に入り込んだの、他にもいたのでしょうか……?

落雁:……お、お待ちください、今日私、見知らない食霊に出会いまして……

ラムネ:本当なの?!巫女様を襲った方?

落雁:ううん……カステラって言うらしいです。あの人、「館主」という人を探してて、瞬く間に消えてしまいました。

最中:……

草加煎餅:普通に「神国」に迷い込んだ食霊だったみたいですね……

ラムネ:ちょっと待って、なんか……空のあの裂け目に、何やら黒いものがサッと消えてったみたいだよ?最中兄ぃ、あれ何だったの?

ラムネ:え?最中兄ぃ、どこ行っちゃったんだろう……さっきまだここにいたのに。


この時

星象館


 最中が足早に中庭を横切る。指先で跳ねる青い電弧が珍しい焦燥感を示した。彼は急いで和室の引き戸を開けたが、近くに潜んでいる人影に気づかなかった。

 儚い水晶玉がついに掌に浮かび上がった。彼は声を低くし、水晶玉の中の画面に近寄った。


最中鯛のお造り、よく聞け。百聞館の最後の神器の正体を……わかった気がした。

鯛のお造り:なに……?百聞館の神器?!

最中:そうだ。今日突然、謎の侵入者が襲ってきた。二人の巫女様が「彼女」のせいで心神が傷つけられ、「神国」も異象を発生した。

鯛のお造り:巫女の心神に直接影響できるなんて……何なんだ、あの侵入者は?

最中:姿は見えないそうだ。声だけで判断すると、女の人だったらしい……

最中:しかし今知ったのだが、百聞館のカステラも後を追うように「神国」に入ってきて、百聞館の館主を探しているそうだ。

鯛のお造り:百聞館の館主……ってことは……?

最中:こんなに大きなエネルギーのぶつかり合いは神器同士の共鳴しか生まれない。百聞館館主の正体は、巫女様たちと同じなはず……

鯛のお造り:館主が……神器の化身……?そうだったのか、だから私は彼女が作った夢の深くにあれを見ることができたのか……

最中:大事なのは今、彼女がまだ「神国」にいることだ!「神国」と「黄泉」をつなぐ通路はもう開いている。今が計画実施の最高のタイミングかもしれない。

鯛のお造り:ええ、なら私は月見の注意を引いて……


 鯛のお造りが言い終わる前に、和室の外から意図的な軽い咳払いが聞こえ、最中はすぐに立ち上がって水晶玉を隠すようにした。


最中:誰だ……?

呼子イカ最中館長、緊張せずに行こう〜僕だよ。館長が戸締まりを忘れててね、軽く触ったら扉が開けちゃった。

最中:……ずっと外で盗み聞きしてたのか?!

呼子イカ:ふふ〜そんなことないよ。僕ら、協力相手ではないか、ねえ、首座様?

鯛のお造り:……呼子、久しぶりだ。

最中:……

呼子イカ:ところで〜月見の注意を引くって言ってなかったっけ?お手伝いしようか〜

最中:貴方が?

呼子イカ:そう。普段から月見と付き合いがあるんでね、一回騙すぐらい簡単だと思うよ。ちょうど首座様もより重要なことに取り組むことができるしね〜

鯛のお造り:そうだな……じゃあ呼子、頼んだ。

最中:待て、鯛のお造り……あっさりしすぎないか?!こいつのこと……本当に信用できるの?

呼子イカ最中館長、秘密話を大声で喋ると、僕、聞こえてしまうよ〜

最中:……

鯛のお造り:心配ない、最中。この件は呼子に任せるといい……ジジーージーー


 電弧は再び不安定に跳ね始め、水晶玉の映像も雪のように崩れ落ち、消えていく。


最中:またか……

呼子イカ:はあ、やはり首座様のおっしゃる通り、君たちの間のコミュニケーションには障害が多いようだね。

最中:……残念そうな顔しなくてよい……そうだ、今回の通路はまだ貴方が来た時の森にあるが、道、覚えてるか?

呼子イカ:もちろん、覚えているとも。今向かうつもりだよ。

最中:待て。……気をつけていけ、絶対に羊かんにはバレぬように。


第七章-逃亡

守りたいモノ。


神国


 裂けた空からゆっくりと暗闇が広がる。暗雲が本来輝かしいオーロラを覆い隠すかのように。神国の真の夜が、今迫り来ている。

 枯れた枝葉が足元でキリッとした音を立てている。呼子イカは足を止め、注意深く音を発せられた場所を聞き分けている。


呼子イカ:誰だ……?

金平糖:呼子お兄さん、やっと見つけました!


 茂みから出てきた小さな女の子が大きくホッとした。彼女の大きな帽子には落ち葉がいっぱい付いていた。


呼子イカ:おチビちゃん、どうした?

金平糖最中兄さんから呼子お兄さんがお家に帰るって聞きました!また森で迷子になったら大変だから、あたしが送ろうかなと思ったんですけど……

呼子イカ:ふふ、自分が迷子になるところだったんだね〜

金平糖:うぅ……なんでわかるんですか……

呼子イカ:大丈夫〜今回は道を覚えてるから。この小道を数百メートル行くと通路が見えるはず。

金平糖:じゃあ早速向かいましょう!神子様は「神国」の隅々を探してまで侵入者をあぶり出すっておっしゃいました。もしここに来ちゃったら……

羊かん:闇に隠れる虫けら、まだ姿を現さんか?

金平糖:……?!!呼子お兄さん、はやく、逃げて!


 茂る木立からは威圧的で冷たい声が伝わってきた。まるで怒りに燃える神が罰を下すかのようだった。呼子イカは顔を引き締めたが、金平糖はもう何もかまわずに彼の手を引いて小道に沿って走り出した。

 乱れた足音が見回りの者の注意を引いた。危険の風がしっかりと彼らの後を追いかけている。


金平糖:はやく……もっとはやく!通路はこの先です!キャーーー

呼子イカ:おチビちゃん、危ない!


 地面に横たわっていたつるが奮起した血管のように突然に立ち上がった。つまずいて倒れる寸前の女の子は横の腕に支えられ、何とか立ち直った。


金平糖:ば、バレちゃう……呼子お兄さん、足を止めちゃダメです!

呼子イカ:焦らないで、もう通路が見えてるよ。


 森の中の音が交差するつるを刺激し、数十メートルしかない道が非常に険しいものとなった。

 「通路」が枝葉の交わる小道の先に現れた。そこの景色だけが「神国」とまったく違うものだった。季節が異なり、昼夜が異なり、気候すらも異なっている。

 そこが、桜ヶ島が影に包まれた一角、忘れ去られた国ーー「黄泉」。


金平糖:つ、着いた……!呼子お兄さん、はやく入ってください!うわぁ――


 立ち直ったばかりの女の子が急に、再び奮起したつるにつまづかされた。呼子イカはこの時に気づいたーーこの一連の出来事で、彼女の大好きな帽子がひどく傷んだことを。


金平糖:行きますよ!神子様はすぐに追いついてきます!

呼子イカ:君も……一緒に来ないか?すべてが終わってからまた戻ればいいだろう。

金平糖:ううん……「神国」は問題が起きているって最中兄さんが言いました。オーロラも消えそうになっています……「神国」はあたしのお家です、こんな時に離れられません!

呼子イカ:……


 密林の枝葉が突然激しく揺れ出し、寒気が近づいているようだ。金平糖はなにか決断を下したように、頭を上げ、真剣な表情で目の前の人を見つめた。


金平糖:呼子お兄さん……出ていったあと、もしまた迷子になったら、頭の上のお星さまを見ましょう!あと、悲しい時、独りぼっちの時も、お星さまを見ると、元気が出ます。

金平糖:この間、ずっと一緒に遊んでくれて、ありがとうございました……


 次の瞬間、呼子イカは不意にその異色の景色に押し込まれた。あらゆるものを蝕む黒雨は、ここには届かなかった。

 女の子は叫びながら人の半分の高さある木立に転がり込んだ。わざと音を立てて追跡者をミスリードした。気狂ったつるが地面から勢いよく立ち上がり、一瞬のうちに「通路」は絡み合ったつるの壁に閉ざされた。


***


呼子イカ:……

呼子イカ:おチビちゃん、ありがとう……。


15分後

百聞館


 闇夜が深まり、百聞館の入り口の紙提灯が淡い光を発している。予想通り、既に客人がここで待っていた。


月見団子:呼子……?やっと帰ってきましたね。

呼子イカ:えっ、月兎?どうして来たんだい……?館主を探しにか?

月見団子:ええ、ですが館長の姿がいないようです……そういえば、貴方は数日の間百聞館に戻っていないと聞きましたが?

呼子イカ:道に迷っちゃっててね、変な場所に行ってしまったんだ。そこの食霊たちがそれを「神国」と呼ぶんだ……

月見団子:神国……?

呼子イカ:ええ。特定の時間で特殊な通路を通らないとそこへは行けないらしい。ちょうど今日通路が開いたから、急いで戻ったんだ。

月見団子:その通路は……どこにあるんです?

呼子イカ:百聞館近くの森の中に……ちょっと待って、月兎、君も行きたいのか?「神国」に……

月見団子:館主はそこに行ったのではないかと思います……数日前、薬師が「神国」と呼ばれる場所からたくさんの薬草を持ち帰ってから、館主もそこに非常に興味を持つようになりました。

呼子イカ:じゃあ……早速行ってみようか?通路が閉じたら、館主はしばらくこっちに戻れないからね。

月見団子:なら道案内を頼みます。


第八章-破壊

壊滅と新生、伴う犠牲と苦痛。


神国


 黒雨が森に降り注ぎ、緑の葉っぱが瞬く間に焦げ黒く変わった。神国の主はつるを指揮して大地を乱暴に掻き分け、木陰や草叢に潜む足跡を追跡しようとしている。

 怒りが彼の両眼を覆い、まるで影が穏やかなオーロラを汚すように、次第にすべてを飲み込んでいく。

 必死に逃げるその姿が、狂ったつるによってつまづかれ、地に倒れた。黒雨が鋭い刃物に変わろうとしたとき、一つの叫びが彼の意識を呼び戻した。


瓊子:やめてください!神子ーー貴方の民を傷つけないで……!


 互いに支え合いながら、壊された木々の間から出てくる巫女たち。その後ろには驚愕や困惑を隠せない顔が続いて出てきた。


ラムネ:ど、どういうことなの?どうして神子様が金平糖にこんなことをするの……

落雁金平糖……気絶したみたいですよ……

りんご飴:やばいやばい、怪我しちゃったのかな?はやくこれ解いちゃいましょう!


 みんなが議論する中、羊かんは地面につるや棘に絡まれているのが邪悪な侵入者ではなく、小さな女の子だったと、ようやく気がついた。


羊かん:……どうして……私は感じたんだ……あの「声」と似た気配が……彼らは同じ場所から来たんだ……

天沼:神子……貴方には休憩が必要です。

羊かん:だめだ……!あの者たちはまだ捕まっていない。あいつらに私の「神国」を汚されてたまるものか!貴方達には見えていないの?オーロラが消えているんだ……

天沼:……


 羊かんのめずらしい失態に二人の巫女は互いの顔を見合わせ、不安が彼女たちの青ざめた顔に浮かび上がった。


瓊子:「神国」は貴方の願いで築かれた国。彼は今、貴方に影響されているんですよ……

瓊子:あの「声」が入り込んだ瞬間、貴方も私たちを同じように……あの気持ちを感じたはず……あれが貴方を変えているんです。

羊かん:違う。私の願いは変わったことがない……「神国」は、いかなる者の踏みつけや汚しも許されない浄土ーー


 ゴゴゴゴーー!稲妻が空を照らし、薄暗いオーロラはもろくくだかれた。幽霊のような女性の声が再び現れた。


???:兄様……どうしてまた私を捨てたのですか……?私、こわいよ……

羊かん:……!!!

天沼:……貴方はいったい……誰なのです?!瓊子……瓊子!

???:お兄様、約束しましたよね……?ずっと、ずっと一緒だって……

羊かん:汚らわしい「神国」の侵入者、代償を払ってもらう!


 ゴゴゴゴーー!空を裂き続ける稲妻とともに、怒りに満ちた黒雨が再び降り注ぐ。黒雲は影のように神国を包み込んだ。

 人々の驚きと悲鳴の中、目に黒い炎を宿した羊かんはすでにその声を追って森の奥へ行った。彼は気づかなかったーー空の巨大な裂け目から、蠢く生き物が激しく湧き出ていることを。


つじうら煎餅:うわあーーっ!神子様やめてください。雨が体に当たって痛いよぉ!!あの黒いものはなにぃ?!

りんご飴:堕神だ……!堕神がいっぱいいるーーっ!みんな気をつけて!


***


 黒雨がすべてを溶かし、焦土に降り注いでいる。怪物が吠えながら人々に襲いかかる。最後の一筋のオーロラも汚された。

 巫女は目を赤くして必死に地面に落ちた神楽鈴と龍笛を拾い上げようとしたが、無駄な努力でしかなかった。

 咆哮を上げる怪物が彼らに向かって襲いかかろうとする瞬間、間一髪で駆け付けた最中が法印でその首を斬り落とした。


最中:瓊子様、天沼様!ご無事か?この怪物たち、いったいどういうことだ……!!

瓊子:……最中……大変です……羊かんが、危ない……

最中羊かん……彼はいったいなにをしたのだ!

天沼:彼の心神が……乱されました。最初の「願い」が恐怖の色に染められ、破滅の力を呼んでしまいました……

最中:……

天沼:すみません、計画は実現できないかもしれません……今は、「神国」を……みんなを、守らないといけない……どうか、力を貸してください。

最中:わかった。私はなにをすればいい?

瓊子:勾玉です……その力で……空を直します……

最中:だめだ!そんなことしたら、貴方たちは……

瓊子:この方法しかありません。急がないと、羊かんとあの怪物たちが……「神国」を壊してしまいますよ……

天沼:心配しないでください。私たちは体がなくても……ずっと「神国」を見守っています……形を、変えただけです。

最中:……

最中:……わかった。


***


 殺戮の音と悲鳴が焦げついた森を充満し、かつて活気に満ちた故郷は血に染まった煉獄となっていた。

 ゆらゆらと崩れそうな空の裂け目は、まるで泥を吐き出すようなブラックホールのように怪物をどんどん出してくる。

 みんながもう耐えそうにないという時に、森の隅から柔らかな光がゆっくりと昇り、暗闇の空に広がっていった。一瞬、強烈な光が人々の瞳に突き刺さり、怪物は激しく喚き、焦げた土を散らした。

 しばらくすると、微かな破裂音とともに、やさしい霧雨が降り注ぎ、涼しい雨のしずくがきれいな光を反射した。


りんご飴:怪物が……消えた?

つじうら煎餅:ほんとだ、みんな見てーー空がもとに戻った、オーロラも!

ラムネ:助かった、のか……?あれ、なぜなのかな……急にいろんなことを思い出したような……

つじうら煎餅:変だね……あたしもよ……あっ、最中兄ぃ?あんなところにひとりで座ってる……ビックリしちゃったのかな……


 みんなが互いに見つめ合う中、最中は彫刻のように固まって離れた場所に座り込んでいる。彼の周りには、巫女たちが持ち歩いていた神楽鈴や龍笛、そして輝く勾玉の欠片がわずかに散らばっている。


この時

森の奥


 やさしい霧雨が血に染まった大地を洗い流す。カステラは足で動けなくなった怪物に一蹴りを入れ、目を細めて再び輝き始めたオーロラの空を見上げた。

 狂暴なつるが既に消え去り、黒雨に侵された森は貧弱で原始的な姿を晒し、細かいことが次第に明確になった。

 小道の先のこことはまったく異なる光景や、足元の焦土に反射している小さな輝く欠片など……。


カステラ:……欠片?勾玉のもののようだ。

カステラ:勾玉……フフッ、そうか。無駄足じゃなかったようだね。


 カステラがオーロラに向かって手に持つ欠片を回転させ、何かを考えているように微笑みを浮かべた。欠片をきっちり集めて収めた後、彼は立ち上がり、乱れた服を整え、その馴染み深い風景の中へ踏み入った。


最終章-忘却

すべてが原点に帰る。


和室

観星落


 静かな和室の中で、鯛のお造りは絶えずに水鏡につながろうとしている。そばの寒ぶりも何度も何度もみくじ筒を振る。


寒ぶり:……二十回占ったが、全部大凶じゃ。鯛のお造り、今日はやるべきじゃないぞ、本当に……

鯛のお造り:私の占い結果もそうだった。さっき何度も出かけようとしたが、邪魔されて……しかし水鏡がずっと反応がないから、「神国」の方でなにかあったのかもわからない。

鯛のお造り:このままだと、向こうの通路が閉じてしまう……


 鯛のお造りが眉をひそめて考え込んでいる中、穏やかだった水鏡が突然、映像を浮かべてきた。


鯛のお造り最中……!やっと繋がった。そっちはどうだった?

最中:状況が変わった。計画を立て直す必要があるようだ……

鯛のお造り:なにがあった……そっちがなぜこんな様子になったんだ?


 水鏡の中の最中は苦笑しながら周りを見回す。焦げた大地、満身創痍の森、まるで天災が終わったばかりのようだった。

 彼は何か言おうとしたら、遠くから近づいてくる騒がしい音で彼は険しい顔で急いで手に持っていた水晶玉をそっと隠した。


最中:またの機会で説明する。とにかく、近くはそちらでも気をつけておけ……


 最中は声の方に向かって枯れ木が横たわる隅から出ていった。みんなが輪となっていろいろ議論しているが、なにやら焦っているように見えた。

 みんなの真ん中には、両目を閉じたまま微弱な呼吸をしている羊かんがいた。漂う彼の意識は焦げた大地の上にさまよい、帰り道を忘れてしまった。


***


 純粋で光のない暗闇の中、馴染みのある声が聞こえてきた。


???:哀れな人ですね。この国を作った神と自称しているのに……ここのすべてをコントロールできないなんてねぇ。

羊かん:貴方は……誰だ?瓊子か……?

羊かん:いや、巫女たちはもう逝った……彼らの破滅を感じ取ったんだ。

???:そうですね……何もかもが消えてゆきます、隠された未知の中へ……

???:月や、兄様みたいに……みんな突然、なのにとても自然に、消えていきました……

羊かん:……

???:こわいでしょ……?ふふ……これが世界の真実なの、誰も変えられません……

???:全部消滅しますわ、貴方の巫女たちも……今度は貴方の神国の番……

羊かん:黙れ。

???:本当は貴方だってこわいんじゃないのですか……?私に会ってから、貴方は「恐怖」を感じました……

???:わかりますよ、その感じ……闇に喉元を掴まれたように、烈火に内蔵を焼かれるように、逃げられず、自分を救うこともできません……

羊かん:消えろ!貴方になにがわかる……!

???:ふふ、わかりますよ……勾玉が願いの象徴なら、私が「恐怖」。

羊かん:貴方が……私の「神国」に不幸をもたらした。

???:私がもたらしたと言うよりむしろ……貴方の心の奥底に潜む「恐怖」がそれを呼んだのではないでしょうか……

???:永遠に存在できるものは何一つないのです、月すらできません……フフッ、貴方がこの国を創ったときにはすでに、すべてを失う可能性を埋め込んでしまったのです。

羊かん:貴方はいったいなにがしたい?「神国」を潰すつもりか?そんなの許さない……

???:いいえ、破壊には興味がありませんわ……私はただ、絶え間ない「恐怖」を味わいたいだけです……人が強いほど、彼が持つ「恐怖」がよりおいしいのですよ。

羊かん:貴方は殺す。

???:できませんね。なぜなら……貴方には私の力がまだ必要だからです、不幸に遭ってしまった巫女たちの代わりに……

羊かん:……

???:さあ、民のところへ戻りましょう、神子様……苦しい経験をした彼らには浄化を必要としていますよ。


***


 昏睡中の羊かんが急速に眼球を動かし、ゆっくりと目を開けた後、目に飛び込んだのが黒焦げになった木々と薄暗いオーロラだった。

 手元で異様な触感が伝わり、見やると、そこには精巧に作られた人形があった。


最中:神子様……ご無事だったか?

羊かん:うん……大丈夫。

金平糖:よかった……神子様が正気に戻りました。でも、巫女様たちが……


 みんなが悲しみを耐えきれず頭を下に向いた。幼い子供たちはヒソヒソと泣き始めた。羊かんは小さな人形を強く握りしめ、彼の目には何の喜びも悲しみもなかった。


羊かん:大丈夫……

羊かん:よくないことは、私がみんなのために消してあげる。

金平糖:消すって……?!ま、待って……!

つじうら煎餅:だ、だめっ!神子様!せっかくいろいろ思い出したのに……

最中:神子様、とりあえずみんなの意見を聞いてくれないか……みんなは浄化を嫌がっているようだ……

羊かん:いいえ、苦しみは……覚える価値などない。


 みんなの意見を聞かずに、羊かんは力強く人形を掲げた。そして、淡い黒い煙が広がっていく。最中は慌てて数歩後ろに下がり、いつもの清明呪を繰り返し唱えた。


***


 一瞬の間、焦げた森が急速に元の状態に戻り、人々の顔には戸惑いと茫然が浮かんだ。


金平糖:あれ、なぜみんなここにいるんですか……?

つじうら煎餅:そうだね、おかしいね……全然思い出せないや!

最中:意は散る花のように、流れる水のように、気まぐれな雲のように……

金平糖最中兄さん、何ブツブツ言ってるのですか?

最中:雲のよう……雲のよう……雲が?雲がどうした?

羊かん:よかった……覚える価値がないものは、忘れていいんだ。みんなも疲れたから、帰って休みましょう。

金平糖:はーい。ねえねえ最中兄さん、今日、星がいっぱいですよ!

金平糖:え?あたしの帽子……穴、空いてる?なんで……いつの間に……?

最中:ああ、めったに見ない良い星象だ……行こう、観星台に見に行こう!

金平糖:あっ、待ってください、最中兄さん!


 雨上がりの森は爽やかな香りを漂っている。人々の心の中の疑念もそれと共に消え去った。安らかなオーロラと星の川がともに、この幻想的で美しい土地をいつまでも照らし続けていく。


神隠し

「黄泉」

「黄泉」の生への望み。


薬園

百聞舘


 吹き荒ぶ寒風が薬園を吹き抜け、か弱い草葉が小さなつぼみを支えて舞う。時折、ほろ苦い香りを運んでくる。

 木車に積み上げられた大きい花草と比べて、薬園の中のものが一層弱々しく見えた。


ふぐ刺し:コホッ……コホッコホッ、皆さん、この度はありがとう……はい、お茶をどうぞ。

草加煎餅:……気にすることではありません。大事な薬草なのでしょう。私たちが力になれて、良かったです。

かき氷:せんべい先生の言う通りだよぉ。でも……ここには初めてきたんだけど、なんか、知ってる気がするぅ。

りんご飴:私も!さっき、せんべい先生と薬師さんがこの薬園の前で一緒にお茶を飲んでいる光景が頭の中にパッと出てきたんだよ……ホワイ?

かき氷:ふむふむ……これが噂の謎の既視感なのか。

ふぐ刺し:実は、皆さんは、初めてではないのだ、コホッコホッ……

ふぐ刺し:それなのに、皆さんが僕、そしてこの場所に関する記憶が、抹消されたみたいになっている。

草加煎餅:……抹消?

草加煎餅:うっすら……なにかを忘れたとはわかっています。しかし……あれは辛い思い出のはずでは?

りんご飴:そうだよ。「神国」のみんなもよく物事を忘れるわ……でも神子様が、よくないことを覚える必要はないって、いつもおっしゃってるもの。

ふぐ刺し:……「神国」の風土の特殊さと関係があるかもしれない。そこでは大きく育てる、この薬草みたいに……

草加煎餅:そう、かもしれませんね……

草加煎餅:「神国」で、この薬草は「黄泉」を救えると言いましたね……今、詳しく説明を聞かせてもらえないでしょうか?

ふぐ刺し:コホッコホッ……ご覧の通り、この場所は「神国」とまったく違う……戻ってくる途中も、何度か堕神に襲われたよね?

ふぐ刺し:それは……桜ヶ島がはるか昔に二分されたからだ。月が消えたあの夜から、ここは神に忘れられた地になった……

草加煎餅:……

ふぐ刺し:さらにひどいのは、そこから生まれた怪物、瘴気の毒、とこしえの夜が、少しずつ「黄泉」を食い荒らしている……

ふぐ刺し:でも幸い……コホッコホッ、神が我々に生きる可能性を残してくれた……

草加煎餅:それがこの薬草……?

ふぐ刺し:ええ。それと、僕が薬採りの時、「通路」に間違って入ってしまって、そしてあなた達に出会った偶然もだ……

ふぐ刺し:あなた達が不意に蒔いた種が、こんな立派に育って……こちらの緊急事態を解決してくれた。

かき氷:そうだったんだね……でも、不意に蒔いたと言っても、せんべい先生が毎日丁寧に世話したおかげだよ、害虫問題なんて一度もなかったから。

りんご飴:そうそう!せんべい先生はこれらの花草をとっても大事にしてるんだ。これも運命の導きかもしれないわね。

ふぐ刺し:せんべい……ありがとう。

草加煎餅:いいえ……いろいろ忘れていますが、この薬草たちが貴重なものだと知っているように、つい、大事に育ててしまっているんです。

草加煎餅:どうやら、勘が当たってるようで……良かったです。

かき氷:せんべい先生、もう日が暮れちゃう。「神国」への通路がいつ閉じちゃうかわからないから、急いで戻りましょう。

草加煎餅:ええ……

ふぐ刺し:道中、また堕神や瘴気に襲われるかもしれないから、コホッコホッ……僕が送ろう。


 揺れる提灯が百聞館の暗い小道を飾り、木製の車輪がキーキーと再び音を立てて、人の声とともに徐々に遠ざかっていく。

 闇の中、人影が静かに姿を現れた。彼は地面に落ちた紫色の花を拾い上げ、意味ありげに人が去った小道を見つめた。


呼子イカ:「神国」……?薬師が変なお友だちができたようだね。


「神国」

風土の異なる国。


和室

百聞館


 薄暗い和室に散らばった薬すり鉢や瓶が小山になっている。薬師はすり鉢の中のペースト状の物質を集中してすり潰している。数日の不眠不休で、本来青白い顔にさらに病的な色がかかった。


???:ふふ〜何日も我らが薬師様を見かけないと思ったら、閉じこもって修行しているのですね?

ふぐ刺し:館主……コホッコホッ、またこうやって無言で人の部屋に入り込んで……

???:まあ〜そんな顔しないで、貴方の顔色と合わせたら怪物並みにこわいですよ〜

ふぐ刺し:……

???:ところで、薬師さんはなにか私に知られちゃまずい秘密でもお持ちなのですか?貴方の部屋に入るのに、ノックが必要?

ふぐ刺し:秘密は……ないけど、いきなり声を出してくるものだから、危うく薬をこぼしてしまうところだったよ。

???:おや……大事な薬のようですね、実験がようやく結果が出始めたのですか?

ふぐ刺しあん肝がもうじき第三段階の臨界点を突破する。コホッコホッ……例の薬草のおかげで、実験時間を数倍も短縮できた。

ふぐ刺し:7日以内で、最後の調合が完成する。

???:あれ?薬草って……机に置いてあったこれのことですか?


 そよ風が机上に積まれた紫色の花草をやさしく撫でる。特有の花の香りが時折濃くなったり、淡くなったり……


???:あれれ……見覚えがあるような気がしますけれど……

???:薬師が育てた花と似ているけど違うでしょう……どこで見つけてきたのですか?

ふぐ刺し:コホッコホッ……友達が植えたものだ。育った国の風土がここと異なって、とてもきれいな場所だから、僕の薬園で育った物と違うんだ……

???:……道理で純粋な願いの気配がするわけですね。お友だちのいる国はなんていうのですか?

ふぐ刺し:「神国」。

???:ふふ、そう……じゃあ、私はこれで帰りますわ。薬師は実験頑張って〜


 そよ風が静かに和室を抜け出し、日差しに満ちた中庭へ向かった。ゆるりと舞い降りる紅葉の中、カステラはそれを楽しみながら散歩をしていた。


カステラ:おはよう、館主……

???:おはよ〜カステラの「お散歩」の時間が朝に変えました?それともわざとルートを薬師の庭に変更しました?

カステラ:通り過ぎた際に、薬師の庭の紅葉がきれいだから、つい紅葉狩りをしたくなったのだ。

???:そうなのですね〜薬師の実験に大きな進展があったから、誰かさんがもうじっとしていられないと思いましたの〜

カステラ:いえいえ、そんなことないよ?薬師の実験は館主の意志で、百聞館の利益を示しているんだから……

???:そう〜貴方も、私も、そして薬師も、似たような目的があったから……百聞館に集まりましたものね。

???:ですが、私たちの目的って似ているようで似ていないのです……薬師が救いたいのは自分だけではありません、一方、貴方はたくさんの人が救われるのが嫌のようです。

カステラ:だとしたら……館主の目的は、なんだ?

???:私はそんなの、気にしていないですよ〜人間、もしくは他の食霊、助かるかどうか、私には関係ないですもの〜

カステラ:……

???:私はただ、一刻も早く「現世」へ行きたいだけです。黄泉の扉を通しても、他のどんな方法を通しても、薬師や貴方、もしくは他の誰かの力を借りても構いません。

???:しかし、薬師の方法がもうすぐ結果が出ると分かれば、他人の邪魔は許されませんよ〜わかって?

カステラ:ふふ、もちろん……

???:ならいいです〜あ、そうそう、「神国」っていう場所、聞いたことあります?

カステラ:「神国」……?私が知る限り、「黄泉」にはそんな場所がないようだが。

???:「黄泉」にはもちろんないですよ……あの気配は、「ここ」に属するものではないですからね。

???:まあいいでしょう、私が自分で散歩してきますわ〜もしかしたら噂の「神国」への通路が見つかるかもしれませんしね〜


 風の音が遠ざかり、カステラの穏やかな笑みも次第に消えていった。彼は身についた紅葉を払い落とし、庭を後にした。


策謀

密会者たちの囁き。


極楽


 夜が深まり、三味線のしとやかで美しい音が赤い高欄を包み込む。起伏する笑い声が囁きや秘密話を遮り、この場所を最も華やかで秘密な場所に変えた。


稲荷寿司:めずらしいね。こんな遅い時間にここで首座様に会えるだなんて。

鯛のお造り:久しぶり。貴方が極楽の新酒が好きだと聞いて、注文しておいた。一緒に飲むか?

稲荷寿司:ふふ、好きな酒が飲めるなら、断る理由がないよ〜

鯛のお造り:じゃあどうぞ。


 酒をしばらく嗜んで、冷徹な酒の香りが化粧品の匂いと混ざり、甘ったるくなってきた。稻荷寿司は微笑みながら盃を押さえ、神色自若たる目の前の青年を見つめた。


稲荷寿司:酒ももうすぐ尽きたよ、首座様、そろそろ別の話をしない?このままだと、夜が明けるよ。

鯛のお造り:そう言うなら、ズバリ言うね。貴方にお願いしたいことがある。

稲荷寿司:え?首座様自ら説得しにくるほどのこととは、何事なの?

鯛のお造り:とても重要な件なので、ゆっくり聞いてほしい……

稲荷寿司:珍しく首座様がかしこまったご様子なので、では、お聞かせましょう〜

鯛のお造り:「神国」という場所を、覚えているだろうか。

稲荷寿司:もちろん。あっちのお客さんが極楽に……

稲荷寿司:ちょっと待って……「神国」?まさか……

鯛のお造り:そのまさかだ。「黄泉」を救う計画が、新たな進展があった……

鯛のお造り:しかし、実行したければ、貴方の同意が必要だ……八咫鏡を、貸してほしい。

稲荷寿司:……


 秘密の会話の声が次第に小さくなり、木々の影が揺れ動き、たくさんの灯りが飾られた極楽はまるで昼のように明るく。そして、もっと辺鄙な暗い場所で、別の秘密の会合があった。彼らは酒を注いでは談笑している。


月見団子:……「神国」?また大きなことが起こりそうですね。

カステラ:それより……心配なのが館主だ。彼女は「神国」という場所に異常な興味を示している。

月見団子:……そうなんですか。

カステラ:毎日狂ったように例の「神国」への通路を探している。

月見団子:それはめずらしいですね。「神国」というとこにいったい……なにがそんなに魅力的でしょう。

カステラ:「気配」とか、「呼びかけ」とか、館主から何度も聞いたことはあるが。

月見団子:……

月見団子:気をつけないとね。我らの館主……特別なお方ですから、もし、「神国」とかでなにかをバレたら、厄介なことになりますよ。

カステラ:こっちもそう思っている。なのでここ数日は館主のことをちゃんと見ておこうと思う。

月見団子:それと……「神国」の「呼びかけ」が何なのかも、機会を見て探ってみないとですよ。

カステラ:ええ……しかし「そっち」への通路は見つけにくい。薬師が薬採りの際にたまたま見て、私が向かったときにはすでに消えていた。

月見団子:本当に、不思議な国ですね……「神国」って。


流れ星

現実にいる人達は当然、虚ろな影には気が行かない。


観星台


 夜空にきらめく星の川とオーロラが入り乱れ、ホタルの楽園のように鮮やかだった。

 高い観星台が庭の池の間にそびえ立ち、見下ろすと、碧い波の中に砕けられた建物の影が見える。


金平糖:今夜は流星群があるって星象が示していましたのに、なんでまだ何もないのでしょう……あれ、呼子お兄さん、なにを見てるのですか?

呼子イカ:湖の中の影だよ。

金平糖:影……?

呼子イカ:ほら、下の湖。観星台と星空の影が映っているでしょう……

呼子イカ:風が凪いだ時、水面の中と外の景色は変わりなく、ぱっと見ると、影か現実かが分かりづらいんだよね。

金平糖:えっ?ほんとですね……全然気づきませんでした。

呼子イカ:現実にいる人達は当然、虚ろな影には気が行かない。

金平糖:……呼子お兄さん、今日の言う事なんか難しくて、あたし、分かりませんよ……

呼子イカ:ふふ〜おチビちゃん、流星群がまだ来てないなら、暇つぶしにお話をしてやろうか?

金平糖:やったー!花びら餅お姉さんもよく読み聞かせをしてくれますよ、あたし、読み聞かせが大好きなんです!

呼子イカ:昔むかし、豊かで神秘的な国があった。宮殿が金色に輝いていて、海の上に建てられていた。

呼子イカ:海面は静かで、鏡のように国と、国の中の人々を映していた。真偽の見分けがつかないほど、生き生きとした影だった……

金平糖:この湖に映ってる観星台の影みたいに?

呼子イカ:いいえ……みんなは知らないんだ。海の影は本当は幻ではなく、もう一つ実在している国だったってことを。

金平糖:えっと……影に閉じ込められちゃっている国ってことですか?

呼子イカ:そう。最初のときは、ほんの小さな目眩ましだった……

呼子イカ:二つの国は現実と影の間を行き来することによって、神々の罰から逃れ、二つの土地の生き物の生息し続ける権利を守っていた。

呼子イカ:しかし、「影」の中に縛られるのが嫌がる人が現れ、彼らが契約を破り、誓いを捨て……そして……

金平糖:そして……どうなりました?呼子お兄さん、続きは?

呼子イカ:今、湖の影からスッと過ぎてったものが見えた気がする。

金平糖:えーー流星群です!流星群が来ましたよ!

金平糖:呼子お兄さん、流れ星に願いをかけましょう!「神国」の流星群はご利益があるって有名なんですよ〜

呼子イカ:……


 興奮する女の子が、敬虔に目を閉じ、小声で星に対して願いをかけている。呼子イカは淡々と笑い、水面に映るぼんやりとした流れ星の影を見つめた。

 夜風が急に吹き始め、希望の輝きは建物と一緒に、揺れ動く波紋の中で一瞬で砕け散った。


迷いの境界

それぞれの思惑を抱える迷いし者。


百聞館付近


 夜は墨のように黒く、光のない大地を染まる。茂る密林の枝葉は、まるで悪霊の影のように歯向く。この地を彷徨う者は、最終的に果てしない迷いに陥ることだろう。


月見団子:……呼子、結構歩きましたよ。まだ例の「通路」に着きませんか?

呼子イカ:そんなに焦るなよ〜日が暮れてるし、森の道も複雑だから、時間が必要なんだ。

月見団子:……

月見団子:本当にこの森にあるんですか?

呼子イカ:おや?月兎は僕のことを信じてないの?だから、僕はここから百聞館に戻ったって言ったじゃないか〜

呼子イカ:あ、しまった……話してると、道がわからなくなってきた……

月見団子:……呼子、貴方の記憶力は衰えているようですね。

呼子イカ:まあ、心配するな、野外で迷子になったら、星を見上げれば方向がわかると、あるお友達から教わった……


 呼子イカはゆっくりと見上げると、空は真っ黒で、死の海のように波一つなかった。


呼子イカ:あちゃー、曇り空だったか、星一つ見当たらないね。

月見団子:呼子、正直に言います……

月見団子:今までの付き合いがなければ、貴方が私で遊んでるのを疑うところでした。

呼子イカ:ふふ〜そんなくだらない冗談を僕がするはずないじゃないか……月兎もよくわかっているでしょ?


 笑みを浮かべて見つめ合う二人の間は再び沈黙に包まれた。近くの森の陰から枯れ枝を踏む音が聞こえてくるまで。


月見団子:誰……?

カステラ:月見……呼子?こんな時間に、ここでなにしてた?

月見団子:……

呼子イカカステラ?こっちこそ聞きたいよ……あんな暗いとこから出てこられて。

カステラ:私は……館主を探しに行こうと思ったんだが、この近くで道に迷って、人が話す声が聞こえたからこっちに来たんだ。

呼子イカ:偶然だね〜こっちも迷子になってるとこだよ、一緒に道探ししようか。

月見団子:待ちなさい、呼子……忘れました、私たちは「通路」を探しに来ているんですよ?

カステラ:「通路」……?

月見団子:呼子が先日、「神国」に入り込んでしまったそうです。そして「神国」につながる通路がこの森にあると。

呼子イカ:あはは、月兎がカステラに知られたくないんだろうと思って、黙っておこうと思ったのに〜、仲が良かったんだね……なら僕も隠さない。

呼子イカ:そうだよ。僕は今日ようやく「神国」から逃げてこられた。あそこの「神子様」はやさしいやつじゃなかった。通路については……本当に見つからないみたい。

カステラ:「通路」なら探さなくていい、もう閉じたからね。

月見団子:……?

カステラ:さっき、館主を追ってたら変なとこに行ったんだ。あそこの景色は「黄泉」とはまったく違う。

カステラ:館主は私の目の前であの景色へ踏み入れたのだが、私が入ろうとすると、すべてが消えてしまった……まるで蜃気楼のように一瞬で消えたんだ。

呼子イカ:てことは……「通路」はまた閉じたか。

月見団子:じゃあ館主は……

カステラ:ええ、「神国」に閉じ込められただろう……なんとか館主を救い出さないと。

月見団子:……

呼子イカカステラの言う通りだね〜、とりあえず、百聞館に帰る道を探そう。


 それぞれ心に思いを抱く三人が再び帰路につく。暗闇の中で、カステラは服に隠している何かを握りしめ、鋭い破片がくれた痛みが不思議にも安心感をもたらした。


寝言

最も純粋な願いも、影を反射する。


???:最中……

???:最中最中……まだ目覚めたくないのですか……

最中:ぐうっ、頭が、いたい……貴方は……誰だ?

???:幻に浸るのは……非常に危険なことですよ……

最中:どういう意味だ……

???:私が教えたことをまだ覚えていますか……

???:意は散る花のように、流れる水のように、気まぐれな雲のように、星月のように……


***


 静寂な闇に騒音が突如刺し込み、混沌が潮のように引いていく。そして最中は畳の上でハッと目覚めた。


最中:……!!!

最中:変な……夢、なのか?


 やさしいオーロラの光は外から紙の引き戸を染まり、金平糖の陽気な声が時折遠く、時折近くに聞こえてくる。しばらくすると、やはり練切に厳しく止められた。

 星象館で聞き慣れた声たちが耳に入って、最中の心の中の異変が徐々に薄れていく。彼は微笑みながら軽く息を吐き、立ち上がった。そしたら、光るものが地面に落ちた。


最中:ん?なんだこれ……?

最中:勾玉……?砕けた後またくっつけたようだが、あと一欠片をかけている……

最中:私のものなのか?まったく印象がないな……

最中:いや、待て!意は散る花のように、流れる水のように、気まぐれな雲のように、星月のように……風雷雨雪のように……?

最中:なんだ……なぜ夢の中の言葉が急に思い浮かんだんだ?続きは……なんだったんだ……

金平糖最中兄さん!起きましたー?「浄化の儀」がもうすぐ始まりますよ。


 引き戸の外から元気な少女の声が聞こえ、さっきの叱責の影響は少しも受けていないようだ。

 これはまるで神国の住人に与えられた天賦。あらゆる感情、記憶、思考は一定の時間が経つと謎のように消え、リセットされる。


最中:ああ、わかった!すぐ行く。


 最中は少し服を整理し、しばらく考えた後、その奇妙な勾玉を戸棚の一番下にしまった。


――その頃。


 薄暗い和室にろうそくが灯り、埃一つない神龕の中央に居座る人形は精巧で青白くて、目の前の羊かんと見つめ合っていた。


羊かん:貴方の言う通り……私が「神国」を創った時から破滅の種が埋めてあった。

羊かん:しかし、それは「神国」最後の運命ではない……神はまだこの浄土を愛している。

羊かん:だから……勾玉が壊れた後、「貴方」がまた私のそばに訪れた……「神国」の運命の歯車は、止まらない。

羊かん:いいえ、勾玉より、「貴方」の方こそ、私に相応しい……一番純粋な願いも、影を反射する……

羊かん:いらないものの処理は、貴方以外に助けてくれる人はいないんだから……


 正座している羊かんはとても穏やかだ。彼は手を伸ばし、人形の頭に優しく置いた。しばらくすると、黒い霧が彼の手のひらから静かに人形の中へ入り込んだ。

 羊かんは手を下ろし、穏やかな表情にほんのりと安堵が見えた。彼は無言の人形を見つめ、独り言を続けた。


羊かん:……しかし、こんなことをする貴方の目的は、何なんだ?

羊かん:貴方にも、「願い」があるのか……?

羊かん:もしかすると……貴方がもう一度私と会話を交わすときしか、知る由がない。


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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
対応OS
    • iOS
    • リリース日:2018年10月11日
    • Android
    • リリース日:2018年10月11日
カテゴリ
  • カテゴリー
  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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