創始頌・メインストーリー・9~16
希望Ⅲ
数千年前
精霊の生息地
風の精霊:聞いたか、あの神の使者のこと……
大地の精霊:始まりの神が憂さ晴らしに作っただけかと思ったら、まさか本当に自分の使者にさせるとは思わなかった……
風の精霊:オトヴィア様も不満そうだよな……神の使者は私たちのリーダーの上に立つのかな?
大地の精霊:そうだろう……あの神の使者は私たち精霊族よりも早くに誕生したらしい。
風の精霊:え?そんなに早く誕生したのに、最近になってやっと神の使者だと発表したの?
大地の精霊:もしかしたら彼に試練を与えていたのかもしれないな……だけど神の使者っていったい……何をするんだろう?
フィテール:……申し訳ない、私もあまりわからないんだ。
大地の精霊:わあ!
フィテール:ごめん、君たちを驚かせるつもりはなかった……
大地の精霊:いえいえ、謝るのは私たちの方です……先に失礼します、神の使者様……
フィテール:……
***
村人:神、神の使者様!神の使者様がどうしてこんなところに……まさか始まりの神が何かを言いつけたのかな……
フィテール:いや、私はただ……
村人:あ!すみません、人間として神の考えを勝手に推測するべきではありませんでした!神の使者様お許しください!
フィテール:……構わない、下がっていいよ。
村人:ありがとうございます!神の使者様ありがとうございます!わあ!私は神の恵みを受けたんだ!素晴らしい――!
フィテール:……
***
フィテール:……ただいま。
肇始之神:吾が霊よ、今回の降臨で、何か新たな収穫はあるか?
フィテール:はい……問題があります。神の使者として、私はいったい何をすればいいのでしょうか?
肇始之神:何もしなくていい。
フィテール:何もしなくていい?ですが……
肇始之神:何もする必要はない。神の意義とは存在することである。
フィテール:ただ……存在ですか?
肇始之神:万物を創造し、ただ存在する。吾の存在によってこの世は抑止され、生き物が悪事を働くことへの恐怖を抱かせるのである。吾の存在がこの世に希望をもたらし、生き物が必死にもがき、長く生きることができる……
肇始之神:吾が霊よ。吾らの力がどれほど強いか知っているであろう。もし吾らがただ存在するだけでなく、この世界に影響を与えたら、たとえそれが怪我人を助けたり、邪悪なものを取り除くというような「善」であっても、この世界は吾らの檻の中に閉じ込められ、「自我」はなくなるであろう。
フィテール:自我……みんなの「自我」は私を恐れているようです。いや、嫌っていると言えます。
肇始之神:嫌い?違う、吾が霊よ。吾は世界の始まりであり、あなたは吾が創造した最初の存在であり、万物の始まりである。すべての存在はあなたの美徳を讃え、それを絶やすことはない。
肇始之神:彼らはあなたが吾の使者であることに恐れているのかもしれないが、それは必然である。だが、あなたは善の集合体であり、この世界で最も純粋な存在である。「善」を嫌う生き物はいない。
フィテール:そうですか。ですが私にはみんなの好意が感じられません。
肇始之神:あなたは「善」そのものであるから、世の中のどんな善もあなたの関心を引くことはできない。
フィテール:……そうですか。
肇始之神:……ちょうどいい頃合いであろう。
フィテール:何ですか?
肇始之神:吾は何億万年の孤独からこの世界を創造した。吾はあなたの今の気持ちがわかる、吾が霊よ。
話し終わると、神の指先から黒い霧が流れ出し、広がって合体し、最終的にフィテールと同じような人の形になった――フィテールはそれを見て、瞳孔が微かに開いた。
肇始之神:これがモロヘイヤ、「悪」の集合体であり、あなたの究極の対立面だ。
肇始之神:モロヘイヤがいると、「善」をより深く感じることができるだろう。それはあなた自身を感じることでもある。
フィテール:自分を……感じる……
自分に似ていながら、全く違う存在を見て彼は初めて胸に痛みを覚えた。
***
モロヘイヤ:……へへ、こんにちは、私の……兄さん。
目の前の生き物は口角を上げた。眼差し、吐息、声全てが常に強く生きている生命力を示していた……
ドクン。ドクン。
胸から聞こえてくるのは、生命の音のようだ。
初めて呼吸を覚えた時のように、フィテールは深く深呼吸をして、相手のように微笑みながら言った。
崩壊前夜Ⅰ
モロヘイヤ:あああああ――本当につまらない……つまらない!!
フィテール:モロヘイヤ、そう叫んだら山の下の低等精霊たちがびっくりするよ。
モロヘイヤ:おお?彼らをびっくりさせられるなら、悪くないな。
フィテール:……退屈だと思うなら、何かしたいことはある?
モロヘイヤ:うん……えっと、始まりの神には「時空の輪」って呼ばれる神器があるんだよな?面白い?
フィテール:時空の輪はおもちゃではないよ。
モロヘイヤ:へ?この世界のすべては、私たちのおもちゃだろ?
フィテール:……時空の輪は重要で危険なものでもあるから、遊びで使うべきじゃない。
モロヘイヤ:べきじゃない?私は「悪」だよ。世の中で一番すべきでないことは、私がすべきことなんだ。
フィテール:だが……
モロヘイヤ:遊び終わったら、彼に返せばいいんじゃないの?始まりの神はそんなにケチなの?
フィテール:……時空の輪は始まりの神が自ら保管していて、そんな簡単に手に入るものではない。
モロヘイヤ:だけどお前は神の使者だ。始まりの神に最も近い存在だから、お前ならきっとできる、でしょ?
フィテールはモロヘイヤの邪悪で生き生きとした目を見てしばらく考えていた。再び口を開いた時もまるで重要でない些細なことを話しているかのようだった。
フィテール:もし私が君に時空の輪を持ってきてあげたら、退屈だからって騒いだりしない?
モロヘイヤ:もちろん~
フィテール:わかった……
***
しばらくして――
モロヘイヤ:これが時空の輪かあ……何ができるの?時空を操る?
フィテール:うん、それは非常に強い力があって、もし始まりの神が使えばティアラ全体を簡単に操ることができる。
モロヘイヤ:へえ、彼って本当に操るのが好きなんだ。
フィテール:なんて?
モロヘイヤ:何でもない。え、もし君がそれを操れば、始まりの神と同等の力を発揮できる?
フィテール:わからない……何がしたいんだ?
モロヘイヤ:へへ……お前も始まりの神のように生き物を創造したいとは思わない?
フィテール:生き物を創造……なぜ?
モロヘイヤ:お前が神の使者だからさ!世間の目から見たら、お前は地上にいる始まりの神で、始まりの神と同じことをするのは当たり前のことじゃない?
フィテール:だが始まりの神は私にそうしろとは言っていない……
モロヘイヤ:フン、何でもあいつの指示に従ってたら、お前に自我はあるのか?
フィテール:自我……
モロヘイヤ:お前も自分で何をするかも決められないただの傀儡で、無能な神の使者にすぎない。
フィテール:時空の輪は……生き物を創造できるのか?
モロヘイヤ:私も使ったことがない……試してみたらわかるんじゃないか?
フィテールはうつむいて自分の手を見つめた。それから何か決心をしたかのように再び顔を上げ、その目に微かな光が宿っていた。
フィテール:……私は生き物を創造したことがない。どこから始めれば?
モロヘイヤ:へへ、まあそれならいいが……まず生き物の姿だ……
モロヘイヤ:始まりの神の姿に基づいて創造するのはどう?
フィテール:始まりの神の姿か……どうしてかわからないけど、やってはいけないような気がする……
モロヘイヤ:おお?どうした、神の姿は耐えがたいと思っているのか?
フィテール:いや……わかった。
フィテールがゆっくりと目を閉じると、時空の輪は召喚されたかのように目の前に浮かび、しばらく振動しながら回転した。突然金色の光を四方八方に放ち、モロヘイヤは不快感に目を閉じた。
***
彼が再び目を開けると、なぜか息切れしたフィテールと時空の輪を抱いた「誕生」したばかりの生き物が見えた。
フィテール:これで……いいでしょ?
モロヘイヤ:ふ、これは本当に……そっくりだ。
???:……ここは……どこ?私は……誰?
モロヘイヤ:ここは神域で、お前は……へへ、小さな始まりの神で、私たちの妹だ。
???:妹……兄……兄さん……?
フィテールは始まりの神に酷似したその存在を見て、なぜか雷に打たれたかのように胸がドキドキし、奇妙な感覚が胸に広がっていた……
彼は無意識にモロヘイヤの腕をつかんで、急いで言った。
肇始之神:吾が霊よ。吾の呼びかけが聞こえなかったのか。
神の声は静かな夜に突然鳴り響いた巨大な鐘のようで、3人を思わず震え上がらせた。モロヘイヤだけは、驚きながらもすぐにまた軽蔑した表情を浮かべた。
モロヘイヤ:チッ。タイミングが悪い……
フィテール:始まりの神よ……すみません、私……
肇始之神:吾が霊よ、あなたが謝る必要はない。「悪」と一緒にいると、そうせざるを得ない。
モロヘイヤ:ふん、寛容なふりをして、誰を騙してるんだ……
肇始之神:だが神の権力を私的に使おうとするのは罪である。神罰が下るだろう。
フィテール:全て私が……
肇始之神:いや、吾が霊よ、あなたにはできないと知っている。あなたをそそのかしたのはモロヘイヤである。
肇始之神:神罰をありがたく受け取りなさい、モロヘイヤ。それからあなたは……
???:あれ?私?
肇始之神:吾が霊よ、吾と来なさい。
崩壊前夜Ⅱ
オトヴィア:神の使者?どうして来た……始まりの神が何かあるのか……
フィテール:いや、今回は「私自身」として来た。
オトヴィア:……
オトヴィアはこの高貴な客人を信じられないといった様子で見ていた。親切にもてなすことも、思うように追い出すこともできず、彼女の表情は硬かった。
フィテール:ごめんね、モロヘイヤが何度も訪れていたから、君に迷惑をかけるとは思わなかった。
オトヴィア:いえ、そんなことはありません……
フィテール:ならよかった……全ての星の精霊を率いるのは、簡単なことではないでしょう。
オトヴィア:まあまあです……あなたが来たのはいったい……
フィテール:実は私はずっと神の使者としての役割に戸惑っているんだ……
フィテール:始まりの神は私に命をくれたけど、「生」の使命が何かは教えてくれなかった……ただ私が存在するだけでいいと言った……でも……
フィテール:モロヘイヤが罰せられているのを見た時、私はただ存在するだけなのは嫌だと思った……自分が何をしたいかわからないけど、その感じは……苦痛だった……
オトヴィア:……どうして私にこれを言ったんですか。
フィテール:だって君は始まりの神とモロヘイヤ以外で、唯一私を恐れない存在だから。それに君は星の精霊もしっかりと率いていて、とてもパワフルな存在だ。
フィテール:強くて、簡単に揺らぐことのない存在になるために最も重要なことは何?
オトヴィア:……
オトヴィアの目はフィテールを通して遠くを見ていて、まるで誰かを見つめているかのようにその目は幸福と苦痛に満ちていた。
オトヴィア:愛だ。
フィテール:あれ?愛……?
オトヴィア:どうしてそんな顔をするんだ……愛が何かわからないわけじゃないでしょう?
フィテール:……始まりの神は私にこの言葉を言ったことはない。
オトヴィア:ふ、だから「神は世を愛する」というのは全て嘘か……
フィテール:神は世を愛する……それはどういう意味だ?
オトヴィア:私たちはみな神の子であり、子を愛さない母親はいない。だから神はこの世の万物や全ての存在を愛している。だからこそ、この世の全てのものが神を敬い、慕い、従い、全てをささげようとする。
オトヴィア:愛だけが愛と引き換えることができ、力と希望を育むことができる……だからこそ、私は「愛」が最も重要なものであり、神も「愛」を最も深く理解している存在であるべきだと思っている。
フィテール:なるほど……では、どうやって「愛」するの?
オトヴィア:「愛」する方法は人それぞれ違うから、これは教えられない。
フィテール:……わかった、ありがとう。
***
フィテールはうなずき、精霊の領地を離れ、神域に戻った。
モロヘイヤ:よお、今日機嫌は良さそうだな。
フィテール:うん、答えを見つけたからね。
モロヘイヤ:答え?
フィテール:「神は世を愛する」、私もそうすべきなんだけど……でもまだそんなに早く世の全てを愛す自信がないんだ……
彼はモロヘイヤの目を真っすぐ見上げて、微笑んで言った。
フィテール:じゃあまずは、生き物を「愛」することから始めるよ。
モロヘイヤ:わけがわからない……まあ、お前が楽しければそれでいい。じゃあな。
フィテール:オトヴィアのところに行くの?
モロヘイヤ:なぜ知ってる?つけたのか?
フィテール:いや、始まりの神が以前私にこの土地の感知を授けてくれたんだ。だから知ってる。
モロヘイヤ:……ああ、それはおめでとう。
モロヘイヤは神の使者の仕事には興味がないようで、彼は手を振って神域から外に出て行った。フィテールはその場に立ち尽くし、静かに彼の後ろ姿を眺め、しばらくしてからつぶやいた。
***
彼はゆっくりと暗闇の中に身を沈め、その声は自分にしか聞こえないほど沈んでいて、まるで自身に催眠術をかけようとするかのように何度も繰り返した。
フィテール:愛してる。
***
しばらくして
星の精霊の生息地
オトヴィア:……あなたが言ってることは本当か?
モロヘイヤ:確かに私は「悪」の化身だけど、この件は「嘘をつく」よりも忌まわしいんだ。お前を騙すわけないだろう。
オトヴィア:もしそうなら……アイルフを私のそばに取り戻せる……
オトヴィア:絶対に時空の輪を手に入れる。
「悪」は若い精霊王をじっと見つめ、さっき満腹になったばかりかのようにげっぷをし、軽くため息をついた。
モロヘイヤ:そうだ、お前は絶対に時空の輪を手に入れなきゃ……あの偉そうな神が怒っている姿が待ちきれないよ~
崩壊前夜Ⅲ
フィテール:……その後、オトヴィアはモロヘイヤの助けを借りて時空の輪を盗み出すが、彼の亡き恋人を救い戻すことはできなかった。時空の輪は始まりの神によって奪還され、オトヴィアもその罰として封印された……
フィテール:オトヴィアと違い、始まりの神はモロヘイヤに「死」の罰を与え、その執行を私に委ねた。
そこまで言うとフィテールはまだその記憶に不快を感じているかのように顔をしかめた。
フィテール:始まりの神が私を信頼しているのは、神が創造した中で最も究極で、最も自我がない「善」だからだ。全てを手配した後に、神は深い眠りにつかれた。
フィテール:そこで私は神を裏切った。
フィテール:私は確かにモロヘイヤの肉体を破壊したが、彼の「魂」を神の「意識」の中に取り込んだ。
カターイフ:な、何……?!そんなこと……
フィテール:できるよ。
カターイフ:世界の始まりの様々な生き物はある意味、始まりの神の力が分裂してできたもの……だから当時、私もその力を神に返しただけなんだ。
フィテール:彼を見くびりすぎだ、預言者よ。モロヘイヤは始まりの神の一部になることを甘んじなかったが、彼の力では始まりの神の肉体を奪えず、だから……始まりの神に飲み込まれる前に、彼は逃げた。
バクラヴァ:逃げた?
フィテール:実体のない形で、「悪」として世界中に逃げた……私の捜索を避けるために。
ファラフェル:捜索って……まさか……!
フィテール:うん、オアシス捜索隊の目的は君らのいわゆるオアシスを見つけることじゃなくて、私のオアシス――つまりモロヘイヤを見つけることだ。
フィテール:オアシス捜索隊は最初から破滅のために設立された。その破滅は短時間に大量の「悪念」を集め、モロヘイヤの散らばった意識をここに誘導することができるからだ。
ファラフェル:…………バカバカしい!バカバカしい!バカバカしい!愚の骨頂だ!!!
ファラフェル:アビドスが全力を尽くして結成した捜索隊……寿命が短い人間が全力で探し求めた希望……それが、なんとただの……神に死刑宣告されたただの「悪」だったなんて!!!
ファラフェル:アハ、ハハハハハ!これは吾が人生で聞いた中で最も愚かで最も退屈な話だ!!
フィテール:では、どんな話が聞きたい?
ファラフェル:なん……
フィテール:国同士の戦争?権力者が資源略奪のために殺し合い?仲間を救うために犠牲になったヒーロー?世界の頂点に立つために同族とも血を流してまで争う強者?
フィテール:そんな話はよくあることでしょう?なぜ周りを見ない?
ファラフェルは目の前にいる神のような存在が平然と恐ろしい言葉を口にするのを見て衝撃を受けた。さらに恐ろしいのは、その残酷な言葉が彼の口から吐き出された後に、それが現実になるようである。
ファラフェル:き……貴様……この狂人め!バカ野郎!ろくでなし!
フィテール:ろくでなし?いや……私は神の権力を代行する神の使者だ。
フィテール:私は世を愛したいが、その前に……誰かを「愛」することを学び、「自我」を持ち、始まりの神ではない自分の選択をしなければならない。
フィテール:だから私はモロヘイヤを取り戻す必要がある。彼は私の「自我」で、最初に「愛」した存在だ。
フィテール:これは私が「神は世を愛する」ためにした準備なのだ。
みんなは沈黙して聞いていた。たとえそれが間違っていたとしても、「神」の考えを揺るがすことは誰にもできないと彼らはよく知っているからだ。
そこで「神」はみんなの無力さを同意と受け取り、満足げにうなずいた。
フィテール:どうやらみんなが私のことを理解し始めてくれたようだ、よかった。
フィテール:ヴィダル、始めてもいいと思う。
ヴィダルアイスワイン:あ、そうだね、絶妙なタイミングだ。
その狂気じみたスピーチを黙って聞いていたヴィダルは夢から醒めた如く、自分の「目的」に視線を戻した。
彼はそばのフジッリにロボットを作動させるように目で合図し、すぐに石柱に縛りつけられた食霊たちが苦痛の叫びを上げた。
シャワルマ:うああ――!
ファラフェル:シャワルマ!う……貴様ら、いったい何をしている……!
ヴィダルアイスワイン:へへ、フィテールは誰も匹敵できない強い力を持っているけど、究極の「善」としてできないこともある……それは「悪」を創造することだよ。
ヴィダルアイスワイン:でも心配はいらないよ、これっぽちのことはパラダイスメイカーズが代わりにやるよ~
フジッリ:君らには理解できないかもだけど、食霊の体内にも堕神の「悪」はある。ただ質量が少ないだけが……このロボットは君らの体内にある「悪」、いわゆる「堕化」を最大限に引き出す。そうすることでパラタ内外から悪念を集め、君らの体乗っ取りを企てている……
フジッリ:君らの中で最も多くの悪念を耐えられた食霊が最終的に「器」になる。それからモントリオールらが耀の州の悪念を集めた聖主を連れてくるのを待つだけだ。
フジッリ:でもモントリオールからまだ何も知らせがないな、まさか……
ヴィダルアイスワイン:まあ、そろそろ大物たちがこの件に気づく頃だろう……誰かが彼女たちを止めに行ったのかもしれないね。でも大丈夫だ……
ヴィダルはフィテールの後ろ姿を見て、珍しく狩人の目をした。
ヴィダルアイスワイン:結局のところ、僕らの目的は「水源」を手に入れることで、「オアシス」全体ではない。
ヴィダルがこれほど悪意を露わにした表情を見せることはめったになく、フジッリにも思わず恐怖を感じさせた。普段であれば、どんな小さな悪意でもフィテールの前からは逃れられないが、この時の彼には構っている暇がなかった。なぜなら……
黒い霧のようなものがインクが水面に垂れるように、空中にゆっくりと広がり、フィテールの指先で集まり、人の形になった……
***
モロヘイヤ:……
モロヘイヤ:は、久しぶりの再会だがまったく……
モロヘイヤ:ついてないぜ。
終焉の時Ⅰ
フィテールはモロヘイヤがわざと嫌悪感をあらわにしても驚く様子はなく、気づきにくい興奮を除いて、彼の目は澄んだ水のように平然としていた。
フィテール:君が私の当時のやり方が好きじゃないって知ってる。でも同じように、私も君の計画が好きじゃない、
モロヘイヤ:へ?私の計画を知ってるのか?
フィテール:君は始まりの神によって創造されたこの世界を破壊して、廃墟の上に自分だけの新しい世界を創造しようとしている……
フィテール:でもそれは君が一番嫌いな神になってしまうだけだ。
モロヘイヤ:……ふ、お前に言いたかった言葉を私に思い出させてくれた。
モロヘイヤ:フィテール、お前はこの世界で始まりの神を除いて、最も憎んでいる存在だ。
フィテール:うん、理解できるよ。君は「悪」で、私は究極の対立面だ。
モロヘイヤ:そんなバカげた理由じゃない!私がお前を嫌っているのは、お前と始まりの神がそっくりだからだ……傲慢で、独裁的で、それを当然と思い、誇りにさえ思っている!
モロヘイヤ:お前はあくまで始まりの神じゃないし、時空の輪を使うとかなりのエネルギーを消耗し、苦痛さえ与える……だがお前は何も言わなかった……
モロヘイヤ:誰がお前の放任と寛容がいるか?お前は自分を無私無欲の神だとでも思っているのか……私はそんな気持ち悪い褒美など必要ない!
フィテール:あれは褒美じゃなくて、ただ君のためにしただけ……
モロヘイヤ:私のため?お前に自分の考えはあるのか?お前は今まで始まりの神の決定を疑問に思ったことはあるが、否定したことはない……
モロヘイヤ:バカげている。あの野郎の考えがどんなにでたらめかお前はわかっているのに、それでもまだ喜んであいつのペットになっている……お前は自ら喜んで犬になってるんだ!!
フィテール:……神を否定することは、それから抜け出せるというわけではない。
モロヘイヤ:だから屈服したのか?このままあいつの奴隷になって、代わりにこの混乱している世界を監視するのか?
フィテール:しないよ。私は神にとって代われる。もし君が望むなら、神を永遠に眠らせることもできる。
モロヘイヤ:私のために何か愚かなことをするって二度と言うな!お前の脳みそは未開の死骸なのか?!
フィテール:わからない。君はどうして私が君のために願いを叶えることを嫌っているんだ。君はオトヴィアを利用したように私を利用できるのに、どうしてしない?
モロヘイヤ:お前とは本当に話が通じない……もういい、終わらない口喧嘩をするよりも痛快に戦った方がいい!
この時のモロヘイヤはフィテールには到底敵わなかったが、同時にフィテールも彼と勝負する気はなく、守備だけしていた。それでも、2人の戦いにはハラハラさせられた。
ヴィダルアイスワイン:さすがとしか言いようがない……さて、十分に鑑賞したし、僕らも始めようか。
フジッリ:始めるって……フィテールのエネルギーを吸い取るのか?
ヴィダルアイスワイン:いや、ありえないよ。あれほどの強い力を僕らは耐えられないだろう。やはり今は不完全なモロヘイヤが操りやすいだろう……フィテールへの手助けってことでね~
フジッリがうなずき、ロボットを操作すると目に見えない強い吸引力がモロヘイヤに襲いかかる……
フィテール:どいてろ!
モロヘイヤ:う……バカ野郎!何をしたんだ!
強い力はモロヘイヤをほぼひっくり返した。彼は自分を押しのけたフィテールに目を向け、そのまばゆい金色がフィテールの体から剥がされ、そう遠くない場所にあるロボットに移るのを見て、かつてない怒りを感じた。
モロヘイヤ:本気で神気取りか?私を助けたい?ハハ、冗談はやめとけ。お前はただ自己満足してるだけだ!
フィテール:いや、私は過去を思い出しただけ。
フィテール:忘れたの?かつて君も私の前にこうやって立ちはだかった。
モロヘイヤ:……
***
……
フィテール:早く、始まりの神がオトヴィアを追いかけている間に……急いで……
モロヘイヤ:手を放せ!お前は頭がおかしいのか?オトヴィアが時空の輪を盗む手伝いをしたのは私だ。お前と何の関係がある?どうして私が逃げるのを手伝う?お前も神罰を味わいたいのか?!
フィテール:それらは後で全部答えるから、今は先に……
モロヘイヤ:私は逃げたくない!あの傲慢な神が怒りで正気を失い、制御不能になって私を創造したのを後悔している姿が見たくてこれらをしたんだ。口出しするな!
フィテール:でも……君は死ぬかもしれない……
モロヘイヤ:はっ、こうやって生きてるよりマシだ!
フィテール:……ダメだ、君を死なせない。
モロヘイヤ:私がどうなろうとお前に何の関係がある、いったい何を……
フィテール:愛してる。
モロヘイヤ:……
フィテール:愛してる。だから、君は消えてはダメだ。
モロヘイヤ:くっ、お前……。
肇始之神:吾が霊よ。
神の怒りの声はこの世の万物を戦慄させ、その怒りに最も近い存在であるフィテールとモロヘイヤは、地面に崩れ落ちないようにするために全力を尽くす必要があった。
肇始之神:ここまでだ。
一瞬にして天地は暗くなり、世界は黒い奈落の底へと落ちていった。
終焉の時Ⅱ
吾が霊よ。「悪」が創造されたのは、「善」が存在し、世界がバランスを必要としているからである。
吾が霊よ。「悪」の使命は確かに悪を行うことだが、その「悪」を神に向けてはならない。
吾が霊よ。あなたは「禁地」に踏み込んでしまった。その罪は許しがたい。
吾が霊よ。あなたは吾の権力の代行者で、「善」でありながら、「悪」側に立っている。有罪である。
吾が霊よ。あなたたち⋯⋯
モロヘイヤ:有罪?へ、私らが有罪なのか、それとも判決者がおかしいのか?
モロヘイヤ:この世界を支配せず、この世の人々に「自我」を持たせると言っておきながら、結局はあんたの思い通りにしないとだろ?
モロヘイヤ:私はまだ誕生してないのに、もうあんたに全てを決められた。「悪」って、ふ、どうして悪を行うのか自分でもわかっていないのに、ただあんたが「必要」だからっていう理解不明な理由だけで私は誕生したのか?わけもわからずに「善」の偉大さを示すために存在するのか?
モロヘイヤ:それで?私が世界を破滅しても構わないのに、あんたに厄介事が降りかかってきたら、死ぬべきなのか?ふっ大したもんだなあ、神よ!!!
フィテール:君は神とこの世の人々から慕われている名前で呼んでいるが、口調は軽蔑の念を込めている……私は今まで始まりの神に対してこのようにした人を見たことがないし、始まりの神がここまで怒っている姿も見たことがない……
フィテール:それと君は私の前の影に立ちはだかっている。万物は私の後ろに隠れているだけで、誰も私の前に立ちはだかったことはない。
フィテール:それはティアラで最も暗い日だった。だが、私の目と鼻の先には最も明るい恒星がある……
フィテール:だからこれは自己満足じゃない、ただ……そんな君が羨ましい。
フィテール:だから君が必要だ。ずっと、ずっと私の前で生きていて。
モロヘイヤがフィテールの目に「本心」を見たのは初めてだったが、残念なことに、彼は少しも動揺しなかった。
モロヘイヤ:羨ましい?ふ、嫌いじゃないのか?
フィテール:あれ?嫌い?
モロヘイヤ:じゃなきゃ、どうして私を始まりの神の意識の中に融合した?ああ、もちろん私を救うためにって言うよな……本当か?本当にあのやり方だけ私を救うことができたのか?
モロヘイヤ:お前はただ私が本当に始まりの神から抜け出して、「自我」を見つけて、自分がその場で取り残されるのを恐れているだけだ。
モロヘイヤ:何が愛だ……おかしくてたまらない。私はとっくにお前に一度殺されている!
フィテール:!
ガシャン。
フジッリ:し、しまった。吸収したエネルギーがロボットの限界値を超えた、こんなに早いわけがない……
ヴィダルアイスワイン:早く消せ!
フジッリ:間に合わなかった!
バタン――!
フィテールのエネルギーを吸収したロボットが突然中から破裂し、粉々になった金属の殻は溢れだした金色の光で燃え尽きた。
金色のエネルギーは急速にフィテールの体内に戻り、さらに強力な重力波が噴き出た。この時のフィテールは、邪悪な天神のようだった。彼はモロヘイヤに手を伸ばし、一筋の金色の光が矢のように彼に襲いかかった。
シュッ――ガンッ!
予想外にも、小さな短剣がフィテールの方向に飛んできた。短剣はフィテールを傷つけることなく、彼の周りの金色の光に直接跳ね返されたが、彼は不満そうに手を引っ込めた。
フィテール:誰だ。
フェジョアーダ:くそっ、当たらなかった……
御侍:こ、これはいったい何事?!
***
一日前
パルマが意気消沈して店から出ようとしたとき、背後から声をかけられた。
御侍:待って。あなたが言っていることは全部本当?
パルマハム:本当だ……でも証明できない。でも信じてくれる限り、俺に何をさせてもいい!
御侍:なぜかわからないけど、あなたは嘘をついていないと思うんだ……それに私は料理御侍としてティアラの平和を守る義務がある……
パルマハム:き、君は本当に俺を信じてくれるのか?
御侍:まあ、騙されていたとしても旅行と思えばいいし、どうせ今は商売も微妙だから……
御侍:その預言が本当かどうか自分の目で確かめに行こう!
***
バクラヴァ:パルマ……やっぱり君は俺を失望させなかった……
パルマハム:何も言うな……
ライス:……
御侍:ライス?
ライスはいつもの無邪気でしなやかな姿とは違い、フィテールとモロヘイヤを見た途端に別人のように、あるいは急に大人しくなり、目から悲しみの気持ちはにじみ出て来た。
ライス:兄……兄さん?
フィテール:まさか今日君に会えるとはね……でもどうして泣く?君の兄はもうすぐ「完全」な姿で戻ってくるんだ、喜ぶべきだろう。
ライス:い、いや……
フィテール:残念だけど、今の君に私を止めることはできない。もう誰も私を止められない。
モロヘイヤ:何をするつもりだ?
フィテール:いいことを教えてあげよう。あの時オトヴィアが簡単に時空の輪を手に入れることができたのは、私がこっそりと彼を助けていたからだ。
モロヘイヤ:いま、なんて……?
フィテール:私は彼と時空の輪の力を使って、始まりの神を弱体化させたい。ずっと前から神に取って代わりたかったんだ。だって神はいつか君を消し去るから。
フィテール:私は誕生してからずっと待っていた……何億年というのはあまりにも長すぎた。だから何があろうと……
フィテール:君はもう私から離れられない。
モロヘイヤ:お、お前何するんだよ?!!
フィテール:ふさわしい器を探す必要はない……時間がかかりすぎる……
フィテールの手がモロヘイヤの体を突き抜け、モロヘイヤの周囲の黒い霧が薄くなり始め、フィテールの体の金色もだんだんと薄まってきたが、彼は依然として動かなかった。
フィテール:もっと前にこうするべきだった。
モロヘイヤ:!!!
終焉の時Ⅲ
創世祭典翌日
帝国連邦宴会場
シャンパン:今年も創世祭典は無事に終了した。みなご苦労だったな。
ブランデー:不思議だ、目の前には美酒が並んでいるのに、どうしてオヤジ臭いんだ?
ポロンカリストゥス:ふふ、陛下も成長されるんですね。まあ確かにそんなことを言うのは陛下らしくないですけど。
クロワッサン:創世祭典も終わったし、皆さんもしばらくリラックスして楽しんでくださいね。
クレームブリュレ:やっぱり重要な任務をやり遂げた後に飲む酒は格別に美味しい~
ザッハトルテ:明日も仕事があるので、あまり飲みすぎないようにしてください。
クレームブリュレ:……はーい――わかってますよ……
白トリュフ:ふふ、今回は法王庁の招待にも感謝しないとね、ペリゴールもこの規模の宴会に参加するのは久しぶりよね。
ドーナツ:しかし……耀の州では最近突然、堕神が暴れ出したようで、状況はあまり芳しくないようです……
シュトレン:それはとても異様な力です……私たちが以前ずっと追っていた黒い霧以上の何かがあるような……
ドーナツ:はい、このような変化は今のところ耀の州だけですが、遅かれ早かれ、わたしたちにも影響を及ぼすでしょう。
アールグレイ:支援を送るべきかな?
クロワッサン:必要ないです。
ドーナツ:?
クロワッサン:耀の州の件は優先事項ではありません。今最重要なのは、なるべく早く黒い霧を追跡することです。
ワッフル:ええ。黒い霧は食霊を堕化させ、人々の心にも影響を与える力がある……とっても有害で、なるべく早めに制御しなきゃ。
ローストターキー:き、貴様ら今日はどうしたんだ、いつもと違うような……
クロワッサン:どうしました、私たちの言ってることが間違っていますか?
短い沈黙の後、その淡々とした声は何か魔力があるかのように、人々の疑念をいとも簡単に消し去った。
一同:うん、あなた方の言う通りだ。
一同:耀の州の安否は重要ではない。今最も重要なのは、黒い霧の行方を追うことだ。
一同:ティアラに乾杯。
一同:この世の万物と創始日に乾杯。
***
パラタ
アビドス
どこまでも続く砂漠にはいつものように太陽が照りつけていた。これまでと違うのは、まばらに廃墟が点在していて、神秘的なアビドスは巨大なゴミ捨て場と化していた。
風は静かに吹き、廃墟の上に白金色の影だけがぽつんとあった。彼はわずかに下を向き、足元に倒れている痩せた生き物を見下ろしていた。
フィテール:……本当に愚かだ。
ライス:……
彼女はその声に目覚めたかのように指が動き、命を吹き込まれるようにゆっくりと目を開けた……
***
十時間前
モロヘイヤ:バカ野郎!何するんだ?!私をお前の体内に取り込みたいのか?!!
フィテール:君と私は共生共存している、融合の何がダメなんだ。
モロヘイヤ:この狂人め!お前は究極の「善」で、強引に「悪」を入れたらどうなるか結果を考えなかったのか?!
フィテール:せいぜい全世界を破滅するくらいだろう、どうせ……全てはやり直せる。
モロヘイヤ:お前……狂ってる!誰がお前と一緒に滅ぼされるか!やめろ!
ライス:は、早くやめて!
ライスはフィテールとモロヘイヤの融合を阻止させるため、急いで2人に向かって走り出した。フィテールは振り向きもせず、ただ片手を伸ばして、ライスに金色の光が襲いかかるようにした……
御侍:ライス!これは……。
ライス:御、御侍、さま……!
フィテール:最も弱い生き物でありながら、身を犠牲にして食霊の前に立ちはだかる……人間よ、その抵抗がどれほど無駄なことか気づいていないようだな。
御侍:私……わかってる……
フィテール:では、そもそも生きたくないのか?理解できる、死は魂の終わりではなく、すべてはやり直せるのだから。
御侍:いや……私にとって死は終わりだよ。たとえ輪廻転生があったとしても、今生の私、それこそが私……
御侍:何があっても、あなたにこの世界を破滅させないし、私の友人を傷つけるのは許さない……!
フィテール:友人……私は彼女にダメージを負わせるつもりはなかったし、ある意味彼女も私の友人だ。
御侍:なぜかわからないけど、私もあの奇妙な記憶を見たんだ。ライスと似た少女との関係は知ってるけど、でも……あれは全然友人じゃない。
御侍:ごめん、でもあなたは確かに、抵抗しようとしてる始まりの神と何ら変わりはない……
フィテール:……人間よ、死を直接体験してから、やっとそれに恐怖を感じるのか?
御侍:たとえ私も死ぬことになったとしても……あなたたちに勝手に創造させたり、簡単に破滅させるわけにはいかない……「世を愛する」という口実で、「世の人々」を傷つけるな……
御侍様:私たちは誕生した瞬間から、自分自身のものなんだ!
フィテール:くっ、お前……。
シュッ――
フィテール:あぐっ……!
マティーニ:命中した!
フィテールが気を取られている隙に、一本の矢が彼の背中を射抜いた。それは普通の矢とは違い、矢じりには注射器が括り付けられていた。フィテールはその注射器の中の薬によって一瞬ぼんやりしたようだが、すぐに反応した。
フィテール:城は今、いかなる客人も歓迎しない。
カイザーシュマーレン:おや、それは本当にすまないね。
白トリュフ:……頑張ってみるわ。
ワッフル:準備できた!
話終わると、痩せた少女は奇妙な形の銃を担ぎ、引き金を引いた瞬間、白トリュフの周囲が聖なる白い光で照らされ、その光と同時に銃口から薬のようなものがフィテールとモロヘイヤに向かって飛び出した。
白い光が2人の融合しつつある体に注がれ、すぐにフィテールの体内にある黒色を消し去った……
クロワッサン:今よ!早くここから離れて!
モロヘイヤ:!!
徐々に融合していた2人は周囲の妨害によって再び離れ、モロヘイヤはその隙に自分を黒い霧に分裂させ、急いで城の外に逃げた。
フィテール:ダメ!
ワッフル:あなたに反撃のチャンスなんてあげないよ!
槍が再びフィテールに向けられたが、今回発射されたのは拘束ベルトのようなものだった。
ワッフル:食霊であれば、これに縛られると霊力は効かなくなるの……これで何もできないでしょ!
フィテール:……
フィテールは少女の言葉に何の反応もせず、自分が縛られていることも気にせず、ただ黒い霧が消えた方向を長い間ぼんやりと見つめ、呆然としていた。
白トリュフ:成、成功した……?
マティーニ:そのようですね。間に合ってよかったです。
クロワッサン:あれが黒い霧の「本体」……神が創造した食霊か、どうりで恐ろしい力を持っているわけですね……
ワッフル:強い力を持つことは悪いことじゃないけど、悪いのはその力を間違った場所に使うことだよ。邪教を組織し、人命を破壊し、食霊を堕化させる……このように悪事を働くのは、自分の野心のためだけで、本当に利己的だわ。
ヴィダルアイスワイン:ふ、神は孤独に耐えられず、この世界を意のままに創造した……そして神の子らも束縛に耐えられず、あのお高い祭壇をひっくり返し、創造者を罰したがっている……どちらが利己的かはっきり言えないね。
カイザーシュマーレン:あれ?いずれにせよ、もっと利己的なのは彼らのその不満を利用して、自分の目的を達成しようとする人でしょう?
ヴィダルアイスワイン:ハッ、世界がいつ破滅するかなんて誰にもわからない。今のうちに欲張ったとしてそれが何だ?
ファラフェル:おい、貴様らが助けたあいつは「悪」の集合体だぞ、このまま逃がしても大丈夫か……
カイザーシュマーレン:なにしろ今一番危険なのは彼ではなく、あの「神」だ……もし本当に彼らを融合させたら、世界の終わりよりも恐ろしいことが起きるだろう。
クロワッサン:「悪念」が打ち砕かれてからの力に限りがあります……あとで懸命に追跡すれば、また捕まえることができます。
カイザーシュマーレン:幸いなことに誰も完全に堕化してないし、これくらいの「汚染」ならペリゴール研究所で治療できるはずです。
白トリュフ:うん、姉が経験したあの苦痛を二度と繰り返させない……私たちに任せて。
ヴィダルアイスワイン:ふ……前にパラタに来た時にやっぱり君も何か見つけたんだね。でも、今回も少し遅かったね。
カイザーシュマーレン:ああ、結局何が起こるのか正確にわからないのに、事前にアビドスの一般の民衆を避難させないとだなんて大仕事ですよ。
ヴィダルアイスワイン:本当の大仕事は民衆の避難ではないでしょう……この「神」の今の状況はおかしいよ。
モロヘイヤが再び自分のそばから逃げ出したことをようやく受け入れたかのように、フィテールの周囲に突然、非常に強いエネルギーが溢れ出し、いとも簡単にその体を縛っていた束縛ベルトを灰にしてしまった。
ワッフル:あ、ありえない!
みんなはフィテールが不気味で恐ろしい形相で彼らを見下ろし、ゆっくりと冷たい言葉を吐き出すのを恐る恐る見ていた――
フィテール:……神罰。
神啓回顧
その強烈な光は殺意をもって周囲を攻撃し、みんなが踏んでいる地面が激しく揺れ、頭上から塵や瓦礫が落ちてきた。
フェジョアーダ:ここが崩れるぞ!
カイザーシュマーレン:そうだね、早く逃げださなかったら……
地下が間もなく崩壊する危険に加え、食霊たちは金色の光の攻撃に対してそれぞれの能力を駆使して、死闘を繰り広げなければならなかった……
ヴィダルアイスワイン:おや、この力はやっぱり……恐ろしいほど強い……
マティーニ:耐えられない……このままだとみんなここで死んでしまう!
パルマハム:力が……もうなくなる……
御侍:パルマ!私たちを守りながら、やっぱり……
ライス:ダ、ダメ……
痩せた少女は突然立ち上がり、その力に少しも影響されてないかのように率先して恐ろしい力に近づいていった。
すると、少女の胸から濃い青色の球体がゆっくりと出てきた……
パルマハム:あれは……
御侍:時空の輪……?
ライス:と、止まって……!
***
壊れた時空の輪がゆっくりと宙に浮き、少女の叫び声に一瞬時間が止まったように見えた。その瞬間、フィテール周囲の金色の光も限界まで強くなり、世界はまばゆい金色に包まれたが、次の瞬間には黒い奈落の底に落ちていった。
ライス:うっ……。
無数の人影が暗闇の中に倒れ、廃墟に覆われて埋もれたが、少女だけは完全に倒れることはなかった。
***
彼女は鋭利な破片の上にひざまずき、膝にはひどい切り傷ができたが、それでもただ痛みに身を丸め、耐えて、耐えて……
時空の輪と共に壊れた音がするまで……
フィテール:……
しかし、彼らが真ん中からバラバラに砕け散る一秒前、もはやまばゆくなくなった金色の光が、少女と球体を優しく持ち上げ、崩れ落ちる廃墟から遠ざかっていった……
***
……
フィテール:……今の君が強引に時空の輪を使うのは、とても痛いだろう……なぜ、あの日と同じ選択をする?
ライス:だって……あなたに後悔……させたくない……
フィテール:……
ライス:あなたはただ……方法……間違えただけ……チャンス……
ライス:まだ……チャンスが……ある……
フィテール:もちろん機会はある。
彼は待ちきれないように言った。広大な砂漠が一瞬にして流れ、渦の中心は彼の指先だけだった。
フィテール:私はモロヘイヤを取り戻すこともこの世界も諦めない。
フィテール:私は神だ。私はこの世界を自分のやり方で動かしていく。そう、私自身のやり方で。
ライス:くっ、お前……。
フィテール:私はとっくに始まりの神の傀儡じゃなくなった、だから神は君を選んだ……
フィテール:残念だが、神はもう目を覚まさない。だから今は私こそがこの世界の神なんだ。
流砂はぼんやりとした大きな人の形になり、すぐに黄砂の中に閉じ込められ、最終的にピラミッド型の物体となり、フィテールの手のひらに収まった。
ライス:いや……いや……
フィテール:とても疲れただろう。休みなさい、それから……全て忘れなさい。
流れる砂が止まった。彼は少女の頭上にそっと手を置くと、少女は思わず目を閉じた。
御侍:ラ、ライス……
フィテール:彼女は眠っただけだから大丈夫だ。
御侍:……あなたがどれほど強い力があるのかわかったけど……今でもあなたはまだ「善」ですか?
フィテール:そうだ、私の目的は終始「世を愛する」ことだから。始まりの神は世を愛さなかった、だからこそ私が神に取って代わる。自分が間違っているとは思わない。
フィテール:だが……ほんの少しかもしれないが、モロヘイヤは私の体の中に確かに残っている……
フィテール:今の私は「悪」を創造することもできるようだ……ある意味、私の力も始まりの神に近づいている。
御侍:……これで満足ですか?全員をあなたの力によって従わせる……ただ力によって従わせる……
フィテール:他人がどうだからという理由で自己満足することはない。逆に、満足しているのは君たちだろう。
御侍:なん……
フィテール:神の力がいかに強くてもその支配下にある生き物には抵抗する権利がある。
フィテール:いつか、どんなに卑しい命であっても、この世で最も強い力に打ち勝つことができる――そのような壮大な夢と希望が……君たちを前進させ、最終的に究極の満足を得ることができるだろう。
彼は再びその神聖で柔らかい笑みを浮かべた。
フィテール:人間よ、君にはとても興味深い力がある。君の言葉は確かにある時点では私の心を揺さぶったのかもしれないが、それは私にとってほとんど存在しないほど小さなものだった。
フィテール:残念だが、君はただの人間だ……だが…………………………
御侍:何を……言ってる……うっ……
フィテール:次に会える日を楽しみにしているよ。でも今は眠りにつきなさい……
フィテール:君たちも同じだ。神の存在を知る必要はないし、抵抗できない以上、神の思うままに行動すればいい。
***
言い終わると、廃墟に埋もれていた食霊たちも柔らかな金色の光に持ち上げられ、宙に浮いた。金色の光は彼らの周囲を巡り、傷や記憶を消し去り、最後には彼らの体内に潜り込んだ。
フィテール:君たちが戻るべき場所に戻りなさい、さあ。
そして、アビドスの廃墟の上にはフィテールだけが残った。
すぐにこの大陸からアビドスの名すら消えるだろう……
***
一方で、打ち上げは続いている。
フェジョアーダは集まって一緒に笑う食霊たちを見ていたが、なぜか心がふさぎ込んでいた。
フェジョアーダ:何か忘れてしまったような気がする……
バクラヴァ:おい、何ぼんやりとしてるんだ?今のうちにたくさん食べないのか?
フェジョアーダ:お前は食べることだけ……そうだ!どこかおかしいのか思い出した、お前の悪魔の目は?
バクラヴァ:ああ、縄がなぜ切れたのかわからないけど、ポケットにしまったぞ、安心しろ。
フェジョアーダ:縄が切れた?地面に落ちたのか?壊れないよな?
バクラヴァ:あっ?そんなにか弱くないだろ……う、預言をまた見てみる……
フェジョアーダ:どう?預言書は何か反応があったか?何が見えた?
バクラヴァ:……見えたのは……もし俺らが急いでサヴォイアに行かなければ、マキアートに殺される!
フェジョアーダ:……じゃあ急がないと!
バクラヴァ:まあ、急ぐことないぞ。急いでケーキ2個持ってきてくれ。俺は酒を何本か持ってくるから、路上で飲むぞ~
バクラヴァの説得の下、フェジョアーダは渋々パルマと一緒に食料を買いに出かけた。
バクラヴァは忙しくてイライラしているフェジョアーダの姿をニヤニヤと眺めながら、静かに預言者を閉じ、その不吉な「破滅」の二文字をページの中に隠した。
<創始頌>完。
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