コーンブレッド・エピソード
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コーンブレッドのエピソード
いつも明るく、何をするにも大胆。誰にでも気軽に接し、性別や人種には囚われない。皆が友達になりたいと思える食霊。
Ⅰ.これまでのこと
陣営に叫声が鳴り響き、軍は長きに渡る戦いの歴史からついに、確かな休息の時間を迎えた。
ある兵は野営テント近くの草はらで語らい合い、またある兵は愛しい人の写真をじっと見つめる――
グルイラオとパラータ、この人類間での戦争は、堕神が跋扈する環境においても、なんと4年も続いていた。
「これは理解できないだろう、お嬢ちゃん。人間は利益のためなら、なんでもやるんだ」
「お嬢ちゃんじゃないよ。食霊だ!」
こういう複雑な問題は答えられないとわかっているからこそ、ミーは自分が反論できることをひたすら言う。目の前にいる髭の濃い老人もどうやらそれほど役には立てなそうだ。
だが彼は戦争開幕当初から戦線に参加しており、他の兵士から見たら頼れる存在で、ミーからしても唯一気軽に話せる人間ではあった。
「はははは、負けを認めないのはいいことだが、まさかこの戦いは食霊が介入するところまで来ているとは未だに信じがたいな。ミーたち人間はこのままいくと本当にろくな未来はないだろうな」
「どうだか、あんたはこの状況を楽しんでるように見えるけどね!」
まずミーは人間を手助けするためにこの軍へ入った。だが、人間相手に戦うとは思ってもみなかった。そして人間たちの争いがどういう結末を迎えるかも、ミーにはなんとも言えない――とにかく、戦いさえあればいい!
「これは食霊からしたらなんの問題でもないだろう。だが人間にとっては、それじゃ足りない。理由もわからずただ戦いだからと命を投げ出せる奴なんてほとんどいないんだ」
「今は、そんな細かいことを気にするより人間が存続するために戦うべきなんじゃないのか?もし戦争をやめて、ミーに堕神と戦わせてくれたならもっと気分がいいのに、どうして戦争をやめないんだ?」
「上の奴らがいいと思える結果が出るまで、状況は変わることはないんだろうな」
「ならあんたは、この何年もの間、何のために戦ってるんだ?」
髭の老人はしばし沈黙し、気怠そうにミーを見る。
「理想論に過ぎないかもしれないが、ミーは本当に平和のために戦ってきたんだ。だがこの目標はこの戦争が終わらない限り実現できそうにはないな」
理想を持つ人間はミーたち食霊から見てとても魅力的に見える。彼の言葉はミーたちにとってもある種の鼓舞となる。だがその理想は実現が難しいか、もしくは不可能なものなのだろう。
次の日の戦闘中、髭の老人は戦死した、残されたのは彼の娘からの便りだけだった。
Ⅱ.浅はかな人間
髭の老人を襲撃した兵は、ミーがすぐさま捕えた。人間からすれば食霊の力は契約の制限がなければ堕神のそれと同じで、人間が敵うはずのない相手だ。だから目の前のパラータの若い兵もただ睨むことしかできない。
「グルイラオのクソ野郎、いつか必ずお前らを!」
もしミーが人間なら、間違いなく相手をズタボロにして、髭の老人の仇を取るべきなのだろう、だがこの時の心境はどうしてか、自分でもうまく理解できない部分が多く、もやもやしたものだった。
――パチンッ!
平手打ちが決まる。相手はさらに暴言を吐き続け、それはまるで流水で人を殺そうとするかのように絶え間ないものだった。
ミーは彼が一言口を開くたびに、平手打ちを見舞う。それは彼の顔が腫れ上がり口を開けられなくなるまで続いた。
「まだ何か言いたいかい?」
「……」
「戦場ではお互いに殺しあう……人間にとってはおかしなことではないんだろう。でも今日になってミーは少し嫌気が差したんだ。この4年、ミーたちの兵士は戦場ではなく大半は進軍中に現れた堕神にやられている。こんな状況なのに……」
相手の憎しみのこもった目を見ながら、ミーはずっとしたかった質問をする。
「どうして戦争をやめて、協力して堕神を打たないんだ?」
「平和を望むのか?甘いんじゃないのか、簡単に考えすぎだ……」
「人間は自分たちは頭がいいと思ってるみたいだけどさ。戦争に何を期待しているのかミーの考えが及ぶとこじゃない。でも、人類存続の危機ってときにまだ戦争のことしか考えられないようなのが頭がいいって言うんなら本当に滑稽だよ!」
「食霊に何がわかる!?」
ミーの言葉に刺激されたのだろう、拘束されていたこともあり、彼はただただミーを睨みつけることしかできなかった。
「なにもわかる必要なんてない。ただあんたたち人間を守りたいだけさ。ミーはそんな理想を掲げてここにいる!でも現実は、堕神を倒すために利用されている……ミーたち食霊は人殺しの道具じゃないんだよ!こんな簡単な道理、滅亡しなきゃわからないのかい!」
このパラータの若者はそれ以上何も言わなかった。だが表情には不満が残っているように見えた。ミーも言い終えて何を思ったのか。
ミーは刀を抜き、彼を縛る縄を切って後ろに下がる。
「……行きなよ」
「逃がしてくれるのか?まさか、恩でも着せようと……?」
「余計なことを言うな!」
ミーが腕を振りかぶる素振りを見せると、彼はさっさと逃げていった。まさかそれがパラータ聖王の息子だったということは、陣営に戻ってから知ることとなった。
Ⅲ.彼方の騎兵
もしこの戦争が続くのなら、今誰を捕まえても意味がない。人間同士の殺し合いよりも、もっと気にすべきことがある。
早朝、陣営は再び襲撃を受けた。だが今回の敵は人間の天敵——堕神だ。
本来皇都から前線の間に物資補給のルートを確保していたが、堕神の来た方向から見て占拠されてしまっただろう。
混乱の中、ミーと陣営の食霊たちで堕神を倒した。だが状況は好転せず、逆に次々と堕神が現れ、ミーも少し消耗していた。
「守りきれない、撤退だ!」
陣営長が馬に飛び乗り、耐えられなくなっていた軍を指揮して撤退を図る。だがこの時、地面の揺れる音が皆の注意を引く。パラータの方角からこちらに向かう軍勢があった。
「なんてことだ、パラータの騎兵だ!堕神の迎撃をしつつ、残りの者は遊撃に出るぞ!」
「待って!」
命令が下されたその時、パラータの軍勢に白旗を掲げている者を見つけたミーは急いで命令を止めるように呼びかける。
陣営長にどうして止めたのか、と問われる前に敵の軍勢はすでに目前まで迫っていた。そして、その先頭にいたのは、以前に平手打ちを何度も食らわしたパラータの王子だった。
「……」
彼は遊撃に出ようとしていた兵を見た後、目線をミーの背後に向ける。
「考えはまとまったか?」
この質問に、自分がどんな表情をしていたのかは想像に難しくない。敵だと思っていた彼は、そんなミーの問いに刀を抜いて答えた。
「目標堕神、いくぞ!」
Ⅳ.共闘
パラータ騎兵の機動力を借り、堕神を翻弄する。ミーたちの戦闘はかなり楽になり、何とか今回の襲撃を凌ぐことができた。
その後、パラータ王子は四年以上戦った宿敵たちと多くの交流は持たず、ミーと単独で話をしにきた。
「なかなかやるじゃないか」
彼は馬を降りた後も下を向いており、仕方なくミーから口を開くことにした。
「ある知らせを受けた……父の体が悪く、兄がその座を譲り受けると思っていた矢先、弟に罠に嵌められ、毒で自害してしまい、どうしようもない弟が王となってしまった」
「……それから?」
「本当なら戦争が終わった後、兄が聖王の地位に就くことでパラータは安心して堕神に対抗できると考えていたが……今じゃ全てがおじゃんだ」
一息ついて、王子がミーの顔を見上げた。
「オレはあなたの言ったことが正しいのだとこうなってやっと気づいた。たとえ戦争が終わろうと、オレたちはこんな無意味な戦いを生む……それなら、独り善がりな戦争より、堕神を滅ぼし、少しは有意義なことをすべきだと考えた」
「っぷ、はははは!それでいいんだ。戦うなら、相手を間違えちゃあいけない。それがわかればこの戦争も終わりが見えるってもんだよ!」
ここで、王子はやっと少し笑顔を見せる。
「食霊に褒められる日が来るなんて思ってもみなかった……でも確かに、これだけ続いた戦いもそろそろ終わらせねば。だがオレ一人では無理だ、今回の襲撃のようにな」
そこで、瞳に熱い決意を宿らせて、王子が強く頷いた。
「きっとオレたちはいい協力関係ができると信じている、だがそれにはまず身内の問題を解決しなければな」
ミーはそんな王子の手を取って、強く握る。
「ああ、幸運を祈るよ!」
遠くで、王子の騎兵が集まっている。それを見て王子は馬に跨った。
「いつか肩を並べて戦える時を信じている。きっとそれは遠くない未来だ!」
Ⅴ.コーンブレッド
「……てなことがあってさ」
コーンブレッドはカウンターで自身の御侍を見ながら過去の経緯を語った。
「そんなことがあったのですか」
「ああ、思い残すことがないっていうのはいいことだね!」
「私はてっきり失恋でもしたせいで、それほど開放的なのかと——」
「ちょっと!ミーのあんたへの気持ちを疑ってるの!?」
コーンブレッドが銃を構えるのを見て、御侍は急いで話題を変える。
「そ、そうだ!その王子はその後どうなったの?」
「あいつね……あんたと一緒になるまで、なんにも言ってこなかったんだよね。でも、頑張ってたよ。平和になるために尽力してくれたのは確かな話だ」
もう懐かしい話だけどね、とコーンブレッドは笑った。
「まあ、なんにせよ戦争は終わったわけよ。ミーとしては一安心って感じかな!」
人類の平和はコーンブレッドが何よりも望んでいたことというのはいうまでもない。
「ただパラータが未だにグルイラオと協力関係にないのは、少し残念だよね」
「ミーがあの時代にできることは全部やったつもり。今後こうした心配ごとがいい方向に転ぶかは、あんたたち人間の選択次第だね」
「君は?これからどうするの?」
「ミー?当然ボスと一緒に戦い続けるに決まってるじゃん!」
コーンブレッドは拳を御侍の胸に当てる。それは言葉なんかなくても二人の間に確かな絆があるという証拠だ。
「わっと!?」
不甲斐ないことに、御侍はコーンブレッドの拳を受けて、尻餅をついてしまう。
「大丈夫?ボス、ほら!」
コーンブレッドが御侍に手を差し出して目を細めた。
「だ、大丈夫……ありがとう、コーンブレッド」
「ボスにはミーがいるからね!いつでも頼ってね、ボス!」
コーンブレッドはそんな御侍を助け起こしながら、笑顔でそう告げるのだった。
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