タロ芋シーミール・エピソード
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タロ芋シーミールのエピソード
タロ芋シーミールは現在、同慶旅館の番頭を務めている。見た目はかわいいが、決断は迅速で果断である。経営の才能はあるが、非常にケチで、けちなところまである。一方で、服を買うことだけは非常に熱心で、人にプレゼントすることも惜しまない。さらに、ごく一部の人しか知らないが、彼女の本来の名前は「芋頭糖水」である。しかし、何らかの過去の経験が理由で、ずっと自らを「タロ芋シーミール」と呼び続けている。
Ⅰ.芋頭糖水
「魚頭!魚頭!魚頭糖水(ぎょとうとうすい)!」
聞こえない……聞こえないわ……
「デブ魚頭!でっかい魚頭!臭い魚頭!」
バシッ!
私がハサミを机に叩きつけると――
我慢の限界だ!
「あたしが臭いわけないでしょ!どこが臭いのよ!このガキ共が……!」
「わあ!魚頭が怒ったぞ!逃げろ!」
窓の外で騒いでいたガキは、私が袖をまくり上げて怒り顔を見せるなり、笑って散り散りに逃げ出した。
あいつらはヒマ潰しに、私が仕事で構ってられないのをいいことに、つけあがってるだけなんだ。
「親のいない子」とか「地味」とか……そういうイタズラが私にしか向かないなんて、本当に弱い者いじめよ。
それに人の名前をバカにするなんて……失礼すぎる!いつかきっちりお仕置きしてやるんだから!
脳裏に浮かぶのは、彼らが泣きべそをかきながら頭を押さえられて謝罪する姿。それを想像するだけで満足して、私はハサミを手に取り御侍の裁縫仕事を手伝い始めた。
私の御侍は白髪まじりだけど元気いっぱいのお婆さん。
私が召喚される前から、御侍はご主人と、決して豪華じゃないけれど温かい小さな家に住んでいた。
夫婦の間には一人息子がいるけど、遠い望京で役人をしているから、生活費は送ってくれるものの、そばにいてあげられないんだ。
暇な時間には手工芸品や飲み物を作って、近所の人に安く売るのが御侍たちの楽しみ。
それに古書に載った民間療法とか、失われた陣法の研究とか……商売じゃなくただの趣味なのに、なぜか私を召喚しちゃったらしい。
もちろん大切にされてるけど、立派な役人を育てた二人が甘やかすわけもなく、好きな服やアクセサリーは買ってくれる代わりに、仕事を手伝ってお小遣いを稼ぐシステム。
この生活に不満はない、むしろ結構気に入ってる。ただ……
御侍のように子育てが上手な親ばかりじゃない。この辺りの家には、ろくに勉強もせずイタズラばかりのガキ息子が大勢いる。
たぶん食霊が珍しかったから、最初は好奇で近づいてきたのに、だんだんいじめに変わったんだ。
私が気さくで大人しいからって、舐めてかかってるだけよね。本気の実力を見せてやれば……
……いや、私にそんな実力あるっけ?
伝説の食霊みたいに戦えもしないし、特別な能力もない。見た目だって普通の人間と変わらない。
強いて言えば、商売の才能だけはあるかも?
御侍たちも年だから、屋台で立ちっぱなしの商売は無理。商品の売り歩きはほぼ私の仕事で、どうやら期待に応えられているみたい。
「芋頭糖水(いもとうとうすい)、今日は何か新しいものあるかね?」
「もちろん!この巾着、刺繍は粤繍の技法で、中には香料も……」
(※粤繍/えつしゅうは、中国四大刺繍の一つで、蘇繍(そしゅう)、湘繍(しょうしゅう)、蜀繍(しょくしゅう)、粤繍(えつしゅう))。粤繍の特徴は華やかで装飾性が高く、色彩豊かで、しばしば金糸なども使われます。)
「ダサッ!」
客に説明している最中、聞き覚えのある声が乱入してきた。
振り向くと、いつものイタズラガキの一人だった。
「壮児、余計なこと言うな」
「何が余計だよ!お母さん見てよ、今どきこんな真っ赤な花にデブ鳥の刺繍?グルイラオやナイフラストから輸入した香料は琉璃瓶に入ってるんだぜ?こんな地味臭いゴミ、誰が買うもんか」
「……これは芍薬と白鷺よ。それに琉璃瓶だってグルイラオやナイフラストだけのものじゃ……玉京にもあるのに……」
「とにかくダサい!じいさんばあさんの作ったものが、よくもまあ人に売れるもんだな!奸商!」
(※奸商/かんしょうとは悪賢い商人、悪徳商人という意味)
「あんた……!」
「芋頭糖水さん、すまないね。壮児がまた子供でな……気にしないでやってくれ……さあさあ帰るよ」
「お前も早く帰れよ!そんな貧乏くさいもの、絶対売れないからな!」
母親に引きずられていくガキは、最後までベラベラ文句を言いながら、あんまりな顔をして去っていった。
目をつぶり「子供の言うことだ」と自分に言い聞かせる。だが目を開けると、差し入れの糖水を持ってきた御侍の、がっくりと肩を落とした姿が飛び込んできた。
「そうか……我々老人の好みは、もう若い人には合わないのか……こんな手仕事も、もう必要とされていないのだな……」
御侍が灯りの下で真剣に巾着を刺繍する姿。お爺さまが汗だくで鉄細工を溶接する姿が浮かぶ。
材料選びはいつも妥協なし。儲けよりもずっと多くのお金と手間をかけている。
誰かの手に渡り、喜んでもらえることを夢見て作った品々が――
たった一言の「子供の戯言」で台無しにされた!
「違う!そんなことない!」と御侍に叫びたい。流行りのものだけが価値あるわけじゃない、子供たちがわからないだけだって!
でも言葉だけじゃ足りない。
私の力で、この「ダサい」商品の価値を証明してやるんだ!
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
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