【HoK Wiki】世界観解説ガイド:沙海
【掲載日:2026年1月22日(木)】
「Honor of Kings@人物百科事典」のYouTubeチャンネルを開設いたしました。
こちらのチャンネルでは、本ゲームの各種公式アニメの日本語字幕付き動画を制作しています。
本Wikiと併せて、よろしくお願いいたします。
Honor of Kingsに登場する舞台「沙海(さかい)」についての解説ガイドを載せています。

目次 (世界観解説ガイド:沙海)
- ① 沙海(さかい)の概要
- ② 砂民組織
- ❶ 瀚海(かんかい)トゥーラーン
- 瀚海トゥーラーン
- 据点の入口
- 生活区
- 会議室
- 小餐吧(しょうさんば)
- 種植区
- 工坊区
- 戈婭の部屋
- 瀚海トゥーラーンの砂民
- ❷ 鉄壁
- 鉄壁
- 鉄壁の入口
- 鉄壁の据点
- 議事堂
- 鉄壁の建築
- 室内構造
- アンゴ
- 鉄壁の戦士
- ❸ 砂蛇(すなへび)団
- 砂蛇要塞
- 永夜の別院
- 永夜の酒場
- 月の祭壇
- 望月回廊
- 永夜の酒場の大広間
- 永夜の酒場の侍女
- 砂蛇団の首領
- 砂蛇団の構成員
- ③ 文化習俗
- ❶ 点火の儀式
- 点火の儀式
- 儀式の会場
- 市集の一角
- 駅站
- 羯飯館(けつはんかん/けっぱんかん)
- 周囲の建築
- 移動商人
- 聖火台
- 霊泉祭司
- 飛賊(ひぞく)団
- 旅人
- 舶船使(はくせんし)
- 灯籠上げの少年たち
- 醸酒師
- 薬剤商
- 辺塞からの詩人
- 道具商
- 滑砂者(かっさしゃ)
- ❷ 戦争遺跡
- 戦争遺跡
- 遺跡探索
- 月神台(げつしんだい/げっしんだい)遺跡
- 神隕戦場
- 雲篆儀
- ④ エネルギーと交通
- ❶ 黒晶砂(こくしょうさ)
- 黒晶砂
- 黒砂暴(こくさぼう)
- 「風捕り」の者たち
- 捕風船
- ❷ 瀚海の心
- ❸ 骨錆(こつさび)
- ❹ 交通と乗具
- 砂舟
- 砂舟の様式
- 出行の習慣
- 甲虫駄獣
- ⑤ 砂海の物語
① 沙海(さかい)の概要
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沙海は、王者大陸において、雲中(うんちゅう)砂漠に位置する荒れ果てた砂漠地帯である。この地は城邦の統治から独立した、無数の砂民組織が群雄割拠する自由の地であり、文明の枠組みから外れたもうひとつの世界でもある。
「神隕(しんいん)の戦い」の後、かつて豊かであった雲中古国は四方を閉ざされた荒漠へと変貌し、砂嵐が荒れ狂い、資源は極度に枯渇した。統一王朝の崩壊は、終わりなき戦乱と争奪を呼び、大小さまざまな「船団」と呼ばれる勢力が台頭した。彼らは「盗賊」の名を冠してはいるが、必ずしもそう振る舞うとは限らない。幾多の苦難を乗り越えた砂民たちは、強靭な意志のもとでこの砂漠に生き抜き、やがて「真王(しんおう)」が現れ、砂漠を災厄から導き、再び栄光を取り戻すことを信仰している。
② 砂民組織
❶ 瀚海(かんかい)トゥーラーン
瀚海トゥーラーン
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雲中砂漠の中央には、年中黒き砂嵐に覆われた危険地帯が存在し、「湮滅の地」と呼ばれている。神隕の戦いから幾千年、この地を生きて越えた生物は一つとして存在せず、まさに死の領域と化していた。しかしその内部には、奇妙にも風が止み、静寂に包まれた「風暴の眼」と呼ばれる場所が点在している。
かつて戈婭は、失踪した海都の調査隊を探すため、何度も「砂舟(さしゅう)」を操り湮滅の地に挑み、九死に一生を得てこの秘密を突き止めた。その後、彼女は自らが率いる組織「瀚海トゥーラーン」の拠点を、ある風暴の眼の内部にある窪地のオアシスへと築き上げた。伽羅やハロルドらは、雲中蝶の手がかりを追う中で戈婭を訪ね、この湮滅の地への侵入方法を聞き出そうとする。
据点の入口
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瀚海トゥーラーンの拠点がある風暴の眼は、常に砂嵐に囲まれており、防御に適した難攻不落の地形である。唯一の出入り口は、狭く半地下状になった峡谷の回廊で、そこを通ることでのみ安全に出入りできる。地勢が低く、地下水が集まるため、砂漠の中でも比較的豊富な資源が得られる区域となっている。
生活区
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他の船団とは異なり、瀚海トゥーラーンの戦闘員は全体の三割に過ぎず、残る大多数は流民で、女性や子供が中心である。彼らには自然環境を大規模に改造する能力はなく、地形に合わせて峡谷(きょうこく)内の長廊や洞窟を居住空間へと作り替えている。女性らしい美的感覚と、生活を楽しむ姿勢が融合し、簡素な洞窟の住まいでさえも美しく快適に仕立てられている。
会議室
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会議室は生活区の最下層に位置し、平時は大食堂としても使用される。船団の利益や未来に関わる重大な事案が発生した際には、各小組織の代表がここに集い、戈婭と議論を交わす。岩壁には「雲気紋(うんきもん)」のタペストリーが吊るされており、これが瀚海トゥーラーンの象徴である。
小餐吧(しょうさんば)
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公共食堂の一角には、酒や軽食を提供する小さなバーが併設されている。戈婭が掲げる「家族」という理念の影響により、瀚海トゥーラーンの構成員たちは互いに助け合い、和気あいあいとした家庭的な雰囲気に包まれている。精鋭の「風捕り」たちは危険な任務を終えた後、ここでひとり静かに杯を傾けることも多く、それが何よりの休息となっている。
種植区
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食料不足を補うため、瀚海トゥーラーンの内務組は拠点内に栽培区を設けた。峡谷内の平坦な地面を整地し、小規模な段々畑を作り、豊富な日照と昼夜の激しい温度差を利用して耐乾性の穀物や野菜を栽培している。中には、肉や毛織物を得るために家畜の飼育を提案する者もいる。
工坊区
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峡谷の狭い通路の中央に足場を組み上げ、職人たちは巨大母艦「瀚海トゥーラーン号」を建造している。制作資材は足場から直接船体へと引き上げられ、効率的に組み立てが進む。「トゥーラーン」という語は、古代東方の文献に由来し、「人の目に見えぬ幻想郷」を意味するとされる。かつて海都の学者であったニッコロ・ポーロが、自らの調査隊を「瀚海トゥーラーン」と名付けたのは、「無限の沙海に希望を探す旅」という意味が込められていた。未来、この砂の海を進む巨艦は、幾千もの砂民たちをどのような新たな道へ導くのだろうか。
戈婭の部屋
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峡谷の奥深くに位置する戈婭の私室は、自然光がよく差し込む設計になっている。吊るされた寝袋やハンモック型のテントが、彼女のわずかな休息の時間に彩りを添えている。壁に掛かる雲気紋の絵画や絨毯は首領としての威厳を示すが、床に無造作に並べられたクッションや観葉植物は、雷霆のような彼女の行動力とは対照的な、意外に穏やかな一面を映し出している。
瀚海トゥーラーンの砂民
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瀚海トゥーラーンに暮らす砂民の多くは、かつて家を失った流浪者たちである。彼らは互いを家族とみなし、それぞれができる仕事を分担しながら、このかけがえのない「家」を守っている。衣装は混成的な意匠で、破線や断片的な装飾が多く、砂漠の絶え間ない風と、砂に埋もれた遺骸を象徴している。
❷ 鉄壁
鉄壁
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鉄壁は、現在の砂漠で最強と称される船団である。その創設者・アンゴは、かつて後・金苑城(きんえんじょう)の高位将軍であったが、末代の王が「至高の力」を得るために手段を選ばぬことに反発し、流刑に処された。王朝の崩壊と都市の群雄割拠の中で、彼は旧友たちを集め、自らの勢力を築き上げ、流民や軍人を多く受け入れた。4年前に発生した「変異魔族の暴動」では、彼の軍が多くの魔族を討伐し、砂漠に一時的な秩序をもたらした。
多くの城邦が彼を勧誘しようとしたが、アンゴはすべてを拒絶し、その結果「盗賊」として公に分類された。だが、同時にアンゴを敬慕する砂民たちは、自らを「鉄壁の支部派閥」と称し、各地でその名を掲げ活動している。
鉄壁の入口
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鉄壁の拠点への入口は、長城の西に広がる断崖の下にある。巨大な岩を積み上げた堅牢な城壁と、全身武装の衛兵たちが立つ門が、その圧倒的な軍事力を示している。
鉄壁の据点
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鉄壁の本部は断崖の頂に築かれ、天然の地形を活かした防御拠点となっている。攻めるは難しく、守るには容易という優位を誇る。
議事堂
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アンゴは16名の分隊長たちとこの議事堂に円卓を囲み、鉄壁の重大な方針を決定する。この場所は高所にあり、眼下には拠点全体と果てしない砂漠を一望できる。円卓の中央には鉄壁本部の模型が置かれており、戦略の要である。若き後継者としてアンゴが特に目をかける戈婭もしばしば招かれるが、彼女はいつも苦笑しながら彼の長話を聞くことになる。
鉄壁の建築
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鉄壁の主建築は、布製の天幕屋根と石造の壁によって構成される。丸形の天幕は採光と通風に優れ、砂漠の烈日を遮る機能も果たす。厚みのある石壁は昼夜の温度差に対応し、昼は暑さを防ぎ、夜は急冷を防ぐ。高塔の風車や屋根の垂幕は、沙海文化特有の装飾として印象的である。
室内構造
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鉄壁の建築内部は、堅牢でありながらも温かみを帯びた構成となっている。床は主に木製で、中央には食事や来客のための円卓が据えられ、その周囲に家具が配置されている。装飾には鮮やかな帷幕が多用されるが、全体のデザインは幾何学的な模様を基調としており、秩序と規律を重んじる鉄壁の精神が随所に表れている。
アンゴ
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鉄壁の首領であり、かつて後・金苑城の将軍として名を馳せた男。末代の王の暴走に反旗を翻し、流刑に処された後、荒れ果てた砂漠で再び旗を掲げた。王朝崩壊の混乱の中、彼は鉄のような意志と冷徹な判断力で鉄壁を築き上げ、変異魔族の討伐を通じて沙海に一時的な秩序を取り戻した。
砂民たちは皆、彼こそが「真王」の再来であると信じているが、アンゴ自身はそれを否定し、「未来は若者の手にある」と語る。その言葉の中には、戈婭のような次世代に託す希望が込められている。
鉄壁の戦士
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鉄壁に属する兵士の多くは、かつて後・金苑城で鍛えられた歴戦の戦士である。彼らは戦術に長け、失われた戦場の遺構から拾い上げた機械の破片を再利用し、独自の装備を作り上げている。鉄壁の戦士たちは大きく三つの部隊に分かれており、拠点を守る駐屯小隊、外へと出て遺跡を探索する探査小隊、そして物資の運搬と供給を担う輸送小隊で構成される。いずれもアンゴの鉄血の統率下にあり、命令への忠誠と規律の厳しさでは他のどの船団にも劣らない。
❸ 砂蛇(すなへび)団
砂蛇要塞
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ここは、砂漠の北部において最も強大な砂民勢力・砂蛇団の根拠地である。彼らは神々の遺した「魔神の宝」を探し求め、雲中砂漠の各地にその影を落としている。残忍な手段を好み、情けを知らぬ冷血な集団として恐れられている。元来、彼らには正式な名がなかったが、その凶行と存在感が沙海を呑み込む黒き砂嵐「砂漠の玄蛇」を思わせることから、いつしか人々は彼らを「砂蛇団」と呼ぶようになった。
永夜の別院
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砂蛇団の首領・エイアは、かつて海月のために砂漠の中に一つの別院を築いた──それが「永夜の別院」である。そこは、彼が天闕山(てんけつざん)の「骸爆(がいばく)」で初めて海月と出会ったときの幻景を再現した場所であった。千年前、望月(ぼうげつ)の海辺にて、神女は海上に浮かぶ月を静かに見つめていたという。今や砂漠には海が存在せず、エイアは代わりに地面いっぱいに琉璃を敷き詰め、月光が差すたびにその輝きが海面のように波打つ光景を作り出した。
永夜の酒場
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海月は永夜の別院の一角を改装し、「永夜の酒場」を開いた。そして「この酒場の酒は千の憂いを癒す」という噂を意図的に流布し、雲中各地の人々を引き寄せることで、真王の「烙印」を持つ者を探していた。酒場は幻術によって黄砂の中に隠されており、旅人の目には映らぬが、運命に導かれた者の前にだけ姿を現す。
この奇跡のような性質から、永夜の酒場は雲中砂漠において最も神秘的な存在の一つとされている。真王の烙印が集結した後、一度は閉鎖されたが、後に「朔(サク/ついたち)」の集会所として再び姿を現した。今では、朔月の夜ごとに海月の指令を受け、神の大業に身を投じる者たちがここに集う。だがこの酒場は、もはや凡俗の者には開かれていない。
月の祭壇
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永夜の酒場の内部、琉璃海の下に隠されるようにして「月の祭壇」は存在する。酒場が再び稼働し始めた後、海月は帝俊(ていしゅん)復活のためにこの祭壇を築いた。普段は静寂に包まれ、海月がひとり過去を偲ぶ場であり、祭壇の上空に浮かぶ満月は琉璃の海を照らし、彼女の歩む運命を見守るかのように輝いている。
望月回廊
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永夜の酒場の外側には広い回廊が設けられており、どんな天候でもそこからは最も美しい月を見ることができる。地面は琉璃で覆われているが、遠目に見ればまるで千年前の望月の海がそこに蘇ったかのようである。
永夜の酒場の大広間
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酒場の中央には巨大な貯酒装置が設けられており、異なる風味の酒液が琉璃の管を通じて滴り落ちる。暗い店内でその雫は光を受け、まるで砂漠の露のように煌めく。調酒師は瓶を操作して配合を調整し、客の望むあらゆる味を生み出す。
この酒場には「忘憂酒(ぼうゆうしゅ)」という伝説の酒があり、一口飲めば深い夢に落ち、その中で望みを叶えるとされる。ただし、いつ目覚めるのかは誰にもわからない。かつて長安から訪れた一人の棋士が、この酒場で「終わりなき対局」を交わしたという逸話も残っている。
永夜の酒場の侍女
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永夜の酒場の侍女たちは、皆が顔を覆う面紗と頭紗をまとい、淡い光の下で神秘的な印象を放つ。衣装は清らかな白を基調に、外側は淡灰、内側に進むほど純白となる──まるで、欠けゆく月から満ちる月への移ろいを表すかのようだ。訪れた客もまた、この色調の変化とともに、いつしか深い陶酔へと引き込まれていく。
砂蛇団の首領
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砂蛇団の首領は、常に月の刻印が彫られた白い仮面をかぶり、その素顔を知る者はいない。彼は砂漠の影を渡る幻のように姿を現し、冷血な蛇のように無慈悲に敵を討つ。時が満ちれば、砂蛇は牙を剥く──それが彼らの掟である。その正体について多くの噂が飛び交うが、未だ真実を知る者は誰一人としていない。
砂蛇団の構成員
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砂蛇団の構成員は数こそ少ないが、いずれも一騎当千の猛者たちである。彼らの衣装は黒と深緑を基調とし、外出時には首領と同じ白い月面の仮面を着ける。その姿は恐怖と畏敬の象徴であり、彼らの行くところ、静寂と死風が支配する。
③ 文化習俗
❶ 点火の儀式
点火の儀式
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毎年七月、砂漠の大半は風が止み、暴風の季節が終わり、変異魔族たちも潜伏期に入る。この時期、かつての王都は砂民たちに門を開き、「点火の儀式」によって高塔の聖火を点し、ひと月のあいだ燃やし続けた。人々はこの機会に王都を訪れ、壮麗な景観を眺めるとともに、嵐の季節を越すための物資を整えた。ゆえに、点火の儀式は一年で最も賑わう交易祭でもあり、沙海における「繁栄の象徴」でもあった。
王朝の崩壊とともに、この伝統は人々の記憶から薄れ、やがて忘れられた。だが鉄壁の首領・アンゴが儀式を再興したことで、再び王都の許可と砂民たちの支持を得て復活を遂げた。それは、滅びかけた文明の灯を絶やさぬという意志の表明でもあった。
儀式の会場
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点火の儀式が行われる場所は、かつて王都の商隊が拠点とした遺跡群の上に築かれている。最初にこの地を発見したのはある商人団であり、彼らは地下に眠る古代の構造物を利用して市場を作り上げた。これが後に各地の商隊を呼び寄せ、巨大な集市へと発展していったのである。
市集の一角
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現在の点火の儀式では、商人や旅人が集まり、品々が所狭しと並ぶ。ここでは売買の制限はほとんどなく、双方の同意があればどんな物でも「合法的」に取引される。珍しい鉱石や古代の遺物、情報、さらには法具まで、取引の対象は実に多岐にわたる。戈婭もまた毎年この市集を訪れ、砂蛇団や行方不明となった海都調査隊に関する情報を買い求めている。
駅站
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儀式の会場近くには、荷物の中継と文書の伝達を行う宿場が設けられている。ここでは旅人たちに宿と食事が提供され、大型の駅站では簡易商店も併設されており、砂漠での日常生活に必要な道具を販売している。広大な沙海を行き来する者たちにとって、駅站は命綱のような存在である。
羯飯館(けつはんかん/けっぱんかん)
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市集の周辺には、羯飯館と呼ばれる食堂が建ち並ぶ。これは中原(ちゅうげん)と雲中双方の料理を取り入れた飲食店で、衛生的で快適な上に、やや高価ではあるが人気が高い。建物の塔屋には色鮮やかな風車が取り付けられ、砂嵐の訪れを警告すると同時に、旅人に避難場所の存在を知らせる役割を持つ。
周囲の建築
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大商隊たちは聖火台の周囲に布製の多層建築を建て、来賓をもてなし、商品を保管する。儀式の際には建物の軒先に雲中特有の彩布を垂らし、日差しを遮ると同時に客を引き寄せる装飾として機能する。七月の砂漠を彩るこの光景は、まさに「生命の祝祭」と呼ぶにふさわしい。
移動商人
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儀式の中心である点火台を囲むように、数千もの移動商人たちが店を構える。彼らには定住の店舗がなく、木柱や布幕、掛け布を使って簡易的な日除けを作り、そこに商品を並べて即席の市を開く。中には沙海様式の丸屋根のテントや、荷車をそのまま店舗に仕立てた者もおり、まさに「流動する商都」そのものである。
聖火台
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儀式の中心にそびえる高台で、聖火が灯される場所。古代の王都では、点火の儀式の初日に火がともされ、一か月の間絶えることがなかった。その光は夜の沙海を照らす灯台となり、遥か遠くを行く旅人たちを導いた。
アンゴが儀式を再興した際、彼自身が聖火台に登り、火を掲げた。その行為は「希望の火は決して消えぬ」という象徴となった。砂民たちにとってアンゴの点火は信仰の対象に近くなっており、毎年多くの者がその光を一目見ようと訪れる。もっとも、戈婭にとっては聖火よりも自分の焼き台の方が大事らしく、アンゴは「雲中蝶」の情報を餌に、彼女を次の点火者に説得したという。
霊泉祭司
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自然信仰を受け継ぐ部族の祭司であり、今なお砂漠の一部の民は動物崇拝を続けている。その中でも甲虫を神聖視する者は多い。霊泉祭司が戴く角状の頭飾りは甲虫の角を模し、首飾りは甲殻の縁を象ったものだ。掌の紫水晶には市集を行き交う人々の影が映り、彼らの過去と未来を垣間見るという。
飛賊(ひぞく)団
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点火の儀式の喧騒の裏には、「飛賊」と呼ばれる盗賊団が暗躍している。彼らは普段は平民の姿で市場を歩き、商人の雑務を引き受けるふりをしているが、実際には盗みを生業としている。棒付き飴をくわえるのが彼らの癖で、仕事の際にはその飴を噛み砕き、空洞の飴棒から特製の開錠器具を取り出す。市集に彼らの開けられぬ鍵は存在しないと言われる。もっとも、彼らの多くは孤児や流浪者であり、生きるために盗みに手を染めているにすぎないため、鉄壁の治安隊も黙認している。
旅人
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古くから毎年の点火の儀式に姿を現す謎の旅人がいる。彼の足跡は王者大陸の隅々にまで及ぶが、記憶は曖昧で思考も混濁している。ただ、話しかければ必ず過去の物語を語ってくれる。背の巻物にはその年の旅の計画が書かれており、忘れっぽい彼がそれを確かめるために常に持ち歩いているという。永遠を生きるがゆえに記憶を失った存在とも噂され、砂民たちは彼を「椿(チン/つばき)」と呼んでいる。
舶船使(はくせんし)
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市舶司に所属する商船の登録官であり、点火の儀式に参加する船はすべて彼のもとで登録しなければ停泊を許されない。記録には耐久性の高い紫色のパピルス紙が使われ、舶船使は刻筆を用いて船番号と所有者の名を刻みつける。その光景は、古き時代の商海の名残を今に伝えている。
灯籠上げの少年たち
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七月の昼は酷暑であるが、夜が訪れると市集の賑わいは最高潮に達する。各店は少年たちを雇い、灯籠を掲げる役目を担わせる。彼らは高い棒の先に花火を仕込み、火花を打ち上げて開店を告げる。競争心の強い店主は、灯籠の装飾を競い合い、その華やかさが客を惹きつける宣伝ともなっている。
醸酒師
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交易の宴に酒は欠かせない。醸酒師たちは軽装の衣をまとい、大きな酒壺を頭上に掲げて通りを歩く。注がれる酒は香り高く、透明で、沙海を渡る旅人の喉を潤す。酒の香りは祝福の合図でもあり、異郷の客人たちを歓迎する象徴とされている。
薬剤商
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市集の片隅には、穏やかな笑みを浮かべた老婆が自作の薬を売っている。彼女は小型の機械蝎に薬瓶を積み、あちこちを走らせて客を引き寄せる。緑がかった薬液は奇妙な光を放ち、勇気ある者がそれを一口飲めば、思いがけない効能を得ることがあるという。
辺塞からの詩人
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交易に集まるのは商人だけではない。遠方から詩人たちも訪れ、市集の光景を詩に記す。彼らは筆と巻物を携え、見聞を歌にして旅路で吟じる。やがてその詩は砂民たちの間で語り継がれ、雲中砂漠のあらゆる角まで広がっていく。
道具商
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奇妙な品を売る行商人も多い。彼らは大きな箱を背負い、雲中の各地を渡り歩いて珍しい道具を集める。点火の儀式は彼らにとって在庫を整理し、新品を披露する絶好の機会だ。彼らは金銭よりも「物々交換」を好み、時に珍しい機巧品や玩具を民へ分け与えることもある。
滑砂者(かっさしゃ)
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市集の外れにある岩が露出した砂丘では、若者たちが新たな遊びに興じている。彼らは保護ゴーグルと軽装のスーツを身につけ、自作の板で砂を滑り降りる。その姿はまるで波を切る航海者のようであり、砂の海に新たな風を吹かせている。
❷ 戦争遺跡
戦争遺跡
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神隕の戦いが終結した後、雲中砂漠には無数の遺構が残された。破壊された機械兵器、巨獣の骸、魔道の武具──それらはすべて古代文明が生み出した遺産であり、同時に呪いでもあった。多くの遺物には古の機械術や禁断の魔術が刻まれており、極めて危険でありながらも貴重な研究対象として扱われている。風に晒された巨大な機械巨人の腕や歯車の残骸は、今もなお沙海の地平を見守り続け、かつての雲中がどれほど栄華を誇っていたかを静かに物語っている。
遺跡探索
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今日では、各地の船団、商隊、そして拾荒者たちが命懸けで遺跡へと赴き、そこに眠る資源を探し求めている。遺構の内部には、機械部品や魔力の結晶、さらには未知の物質が埋もれており、それらを回収することで一攫千金を狙う者も少なくない。長安と海都はこれらの資源を巡って競り合い、価格を吊り上げている。また、各地の魔道勢力は巨獣の遺骸を奪い合い、千窟城(せんくつじょう)の学者たちはその下に眠る「失われた知識」を解き明かそうと躍起になっている。
月神台(げつしんだい/げっしんだい)遺跡
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湮滅の地の風暴の眼、その中心部にある砂漠の地には、不自然な凹凸が続く一帯がある。そこには黄砂の下に埋もれた古代遺構──「月神台」の廃墟が眠っている。伝承によれば、月神台は古雲中が最も繁栄していた時代に建てられた観測施設であり、帝俊が「望月海」と呼ばれる巨大な湖の中央に築いたとされる。当時の雲中は水草豊かで、気候も穏やか、生命と文明に満ちた楽園であった。
だが、そのすべては神隕の戦いによって終わりを迎える。天地を巻き込むほどの戦いが雲中を焼き尽くし、月神台は崩壊、望月海も砂に埋もれた。今、そこに残るのは際限なく吹き荒ぶ黄砂と、月の名を冠した廃墟の残影のみである。かつて天を観測した塔は、今ではただ静かに、砂の下で永遠の眠りについている。
神隕戦場
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神隕の戦いの終盤、帝俊は陥落した。しかし、その身に宿っていた神力は完全には消滅せず、陥落の瞬間に放たれた莫大な力は世界そのものを荒廃へと導くほどの威力を有していた。その時、女媧は逸散した神力の奔流を封じるべく、己の奇跡の力をもってその膨大なエネルギーを「雲篆儀(うんてんぎ)」に封印した。一方で海月はその一瞬の間に己のすべての力を使い果たし、帝俊の神識の一片──すなわち、彼の「意志の残響」を保存したと伝えられている。
これらの出来事の地こそが「神隕戦場」と呼ばれる場所であり、天地の秩序が崩れ、神々の記憶と「波流(はりゅう)」と呼ばれるエネルギーの断片が今なお漂い続ける禁忌の荒野である。
雲篆儀
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雲篆儀とは、神明の時代において「情報」と「波流」を蓄積・制御するために用いられた法具である。神々が創世を行っていた頃、この装置は天と地を繋ぐ記録媒体として、奇跡の運行や神訓を篆文として封じていたと伝えられる。しかし、神隕の戦いの勃発により雲篆儀は破砕し、その核の部分は地中深くに沈んだ。数千年の歳月を経て、ようやく稷下(しょくか/しょっか)学院の稽古隊によって再発見されることとなる。
現在、各地に散らばったその残骸は「天書の断片」と呼ばれており、王者大陸のあらゆる地に眠っている。これらの断片には古の神々が刻んだ知識や波流の痕跡が封じられているとされ、建木(けんぼく)の秘宝の中でも最も危険かつ貴重な遺産として崇められている。
④ エネルギーと交通
❶ 黒晶砂(こくしょうさ)
黒晶砂
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黒晶砂とは、独特の磁場を発する鉱物結晶である。千年前の神隕の戦いにおいて、未知のエネルギーが地表に漏出し、それが雲中の土壌を汚染した結果、生じた特殊な鉱石だとされている。黒晶砂は磁石のように互いを引き寄せる性質を持つが、地中から掘り出されて砂漠の表層に出ると、逆に砂を弾き返す反発特性を示す。この反砂作用を利用し、砂民たちは防具・天幕・武器など、さまざまな黒砂製品を作り出してきた。雲中砂漠における第一号の「砂舟」も、この反砂性を応用した黒晶砂の竜骨によって浮上を可能にしたものである。
黒砂暴(こくさぼう)
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黒晶砂が大量に集積し、さらに強い対流気流が発生すると、黒い砂塵嵐──すなわち「黒砂暴」が形成される。これは自然災害の中でも最も凶悪なものであり、砂の摩擦によってスパークを生じ、進路上のあらゆるものを飲み込み、破壊し尽くす。その姿は大地を這う巨大な蛇のようであるため、砂民たちはこの現象を「砂漠の玄蛇」とも呼ぶ。
「風捕り」の者たち
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黒砂暴は極めて危険であるが、その内部には莫大な富が眠っている。暴風に混じる黒晶砂の純結晶や、風に巻き上げられた資源を求め、多くの冒険者が命を懸けて嵐の中に飛び込む。彼らはアースアンカーと鋼線で身体を固定し、特製の風凧状の網で砂を濾して黒晶砂を捕らえる。成功すれば莫大な報酬が得られるが、失敗すれば命を落とす。ゆえに、彼らは「風捕り」と呼ばれ、尊敬と畏怖の対象となっている。戈婭の率いる瀚海トゥーラーンは、この風捕りの精鋭を数多く抱えており、そのために勢力の中でも特に強大な影響力を持つ。
捕風船
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風捕りのために特別設計された砂舟であり、鳥や昆虫といった自然界の生物を模した形状を持つ。巨大な翼と軽量な船体を組み合わせ、黒砂暴の気流の中を自在に飛び交う。船体には黒晶砂の反発層が施され、砂塵を避けながら資源を採取することが可能である。捕風船はまさに「沙海の翼」と呼ばれる存在であり、砂民の技術力の象徴でもある。
❷ 瀚海の心
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瀚海の心とは、古代の禁術によって生み出された水の結晶である。神隕の戦いの後、かつて肥沃だった雲中は荒れ果てた砂漠と化し、水資源は極端に失われた。その惨状を見かねた女媧傘下の聖職者の一人が、他地域の水を集め、それを魔力によって凝縮・結晶化したものがこの「瀚海の心」であった。
この結晶を砂丘に埋めると、枯れた土地は再び緑を取り戻し、オアシスが生まれ、人々はそこに住まうことができた。つまり、瀚海の心こそが文明の再生装置であり、神々の慈悲の結晶なのである。
しかし、やがて誰かがこの結晶をオアシスから剥ぎ取る術を見出し、それを砂漠の船団たちに伝えた。結果として、水をめぐる奪い合いが始まり、瀚海の心を巡る争奪戦は千年にわたり続いている。水は命であり、瀚海の心を持つ者は、すなわち「砂の王」と呼ばれるに至った。
❸ 骨錆(こつさび)
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骨錆とは、魔族の体内に蓄積される「原初の息」が長い年月を経て凝結した結石である。魔族は原初の息を糧として生きるが、そのすべてを消化することはできず、体内に残滓が沈積する。千年、万年の時を経てそれが化石化し、最終的に生物起源の鉱物資源へと変化する。
沙海の亡命者たちは天闕の遺跡にて、この「骨錆」を発見した。風化した巨獣の骨の間に、錆びた結石のように埋もれていたことから、その名が付けられたという。
ニッコロによる研究の結果、骨錆を高温で精製・抽出すると、油状の燃料が得られることが判明した。これは砂舟のエンジンに使用可能であるものの、安定性と燃焼持続時間に難があり、実用化には課題が残る。だが、それでも骨錆は「砂の血液」と呼ばれ、最も貴重な燃料資源の一つとして扱われている。
❹ 交通と乗具
砂舟
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およそ十年前、海都の学者・ニッコロが黒晶砂の反砂特性と骨錆燃料を組み合わせ、初の浮遊砂舟を完成させた。以来、その技術は広まりつつあるが、黒晶砂や骨錆の入手が困難であり、さらに燃料の不安定性もあって、砂舟の普及率はいまだ二パーセントに満たない。
戈婭はニッコロの養女であり、最初に砂舟の操縦技術を学んだ人物でもある。彼女は今や砂漠随一の競速者であり、「沙海の覇者」と称えられている。
砂舟の様式
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雲中の砂舟は主に木材で作られており、骨錆エンジンを搭載するものは少数派である。多くは大型の帆を装備し、風向を利用して航行する。形状や規模は用途によって異なり、旅客用の客船、商隊の貨物船、そして貴族階級の豪奢な私有砂舟など、目的に応じた多様な設計が存在する。
出行の習慣
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砂舟の保持者は限られており、操縦を許されるのは二つの階層に属する者──風暴地帯を行き来する風捕りと、砂漠を横断して略奪を行う船団の戦士たちである。彼らは奪い取ったエンジンを改造し、驚異的な速度で獲物を追う。ゆえに、砂舟が現れる場所には常に危険と混乱が伴う。
一方、一般の砂民は移動に駄獣を用い、長距離を行く商隊は駄獣と風力帆船を併用するのが一般的である。
甲虫駄獣
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巨大な甲虫は、沙海における代表的な駄獣である。六本の脚で砂の上を素早く進み、硬い背甲は人や荷を載せるのに十分な強度を持つ。中には背中に植物を植え、移動式庭園や観光用の乗り物として利用する者もいる。
⑤ 砂海の物語
| 「沙漠の息」 |
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| ティーグに特別な才能があるとすれば、それは間違いなく「運の良さ」である。 幼い頃から砂漠の荷運び人たちに混じって生きてきた彼は、砂漠のすべてを自分の体毛のように知り尽くしていた。時折、彼は自分が砂漠と共に呼吸しているような感覚を覚えた。これは天命のような「気」の繋がりだと彼は信じていたが、その話を信じる者はほとんどいなかった。 彼が金苑城を離れ、アンゴに従って鉄壁にやって来たばかりの頃、彼と李おじいさんはアンゴと最も親しい仲だった。だが、やがて現れた新兵のエイアが少しずつアンゴと李おじいさんの信頼を勝ち取っていく。 ティーグはどうにもあの若者の「気」が合わないと感じていたが、その理由をうまく説明できず、結局は李おじいさんに「小心者め」とからかわれた。 腹を立てたティーグは後方勤務へ回り、怠けることにしたが、ある日ラクダを洗っている最中、発情したラクダに蹴られ脚を折ってしまう。 ベッドに寝たきりのティーグがうめき声を漏らすと、李おじいさんは罵りながらも世話を焼いた。 「働きたくねぇなら正直に言え! その足じゃ、春まで寝たきりだな」 ティーグは天幕の天井をぼんやり見つめるだけで返事をしなかった。その横でエイアがにこにこと笑いながら水を差し出していた。 やがて秋が訪れたが、一滴の雨も降らなかった。冬が来る頃には多くの牛や羊が凍死した。天が人を見放したかのように厳しい年であり、砂漠に詳しい者を派遣して調査させねばならなかった。大帳の中の空気は重く、アンゴと片脚を引きずるティーグが目を合わせ、互いにその意図を悟った。だが、ティーグが口を開くより先に、エイアが立ち上がった。 物資は戻ったが、人は戻らなかった。 それから幾星霜が過ぎても、ティーグはアンゴ以外の誰よりもその件を口にしたがらなかった。彼の胸には今も痛みがあったが、同時に「それでいいのかもしれない」と思うこともあった。彼は鉄壁の後方で花を育て、草を植え、群れから離れて孤独に暮らすようになった。そして二度と「気」について語ることはなかった。 そんなある初夏のこと、長城の方角から使者がやってきた。背の高いピンク髪の女が何度も訪れ、ある長安人の行方を尋ねていた。恩を返すため、アンゴはティーグを案内役として彼女を導かせることにした。ティーグは何年も鉄壁の門を出ていなかった。沈黙のまま門を跨いだとき、周囲の砂がまるで生きているように息づいているのを感じた。初夏の風の中、彼の腕の毛が総立ちになった。 「アンゴ」 振り返ったティーグは、しばし彼を見つめ、丁寧に編まれた藤甲を差し出した。 「もう若くないんだ。丸腰で動き回らない方が良い。お身体をお大事に」 ティーグはそのまま数ヶ月の旅に出た。戻ってきた時には、炎はすでに鎮まり、小さな戈婭も遠くへ旅立っていた。李おじいさんが忙しなく働きながら愚痴をこぼすのを黙って聞き、アンゴの肩の裂けた服を見つめ、ティーグは言葉を失った。 もしティーグに悩みがあるとすれば、それはやはり「運の良さ」だった。今ならわかる──自分の運の源は、砂漠との不可思議な共鳴にあるのだと。だが彼は李おじいさんのように、何も考えず人を信じて生きる愚かな老人になりたかったし、アンゴと共に若い頃のように焚き火の光の中で動き回りたかった。だが、年を重ね砂漠に溶け込むほどに、恐怖もまた強まっていった。 今夜のように、逃げ場のない恐れが全身を覆うこともある。鉄壁の厚い壁に守られ、風と砂を遮る奇妙な花々に囲まれていても、外の砂が震えているのを感じ取れるのだ。その夜、雲の下を覆う悪夢が、静かに彼へと這い寄ってきた。小さな戈婭たちは成功するだろうか? きっと成功して、無事に戻ってくるだろう。彼は心の中で必死に祈り、自らの「幸運」をすべて彼らに分け与えた。 ![]() 太陽の光が再び砂漠を包んだ時、昨夜の巨大な悪夢も霧のように消えた。砂の同盟が魔女を打ち倒したという報せは真っ先に鉄壁へ届いた。お喋りたちは様々な噂話を広めた──三百年に一度現れるという天狗の「日蝕」が昨夜だったとか、湮滅の地の奥深くに古代遺跡が眠り、そのエネルギーが無限の虚空へ放たれたとか、神が雲中に刻印を残し、選ばれし者は「栄耀の王者」となる運命だとか。やがて「あの五人の英雄のうち、誰が雲中を統べるのか」をめぐる口論や憶測が絶え間なく飛び交った。 李おじいさんは上機嫌で酒壺を手にし、ティーグにそれらの噂を笑い話として聞かせようと部屋へ向かった。だが扉を開けると、室内は薄暗く、ティーグは毛布にくるまり、窓辺で身動きひとつせずに座っていた。 「もう終わったんだ、ティーグ」 李おじいさんはそっと肩に手を置いたが、その身体は氷のように硬直していた。腕の毛は依然として逆立ったままで、血走った目は昇る太陽を凝視していた──それは、月が太陽を呑んだ方向──すなわち、日蝕のあった空。彼はそこに「気」を見ていた。すべては昨日と同じように見える。だが彼にはわかっていた──この砂漠の「気」が、どこか欠けていることを。まるで、何かに引き裂かれたように……。 「いや、これからが始まりだ」 |



































































