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【黒ウィズ】Abyss Code 05 Story

最終更新日時 :
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最終更新者:にゃん
2015/03/25






story



その異界は善悪や聖邪といった不完全で矯小な概念の還く及ばぬ彼方に存在する。

あるいは、それ自体を概念とでも表現する方が相応しい場所なのかも知れない。

空はいかなる夜よりも重く深い闇に著われ、大地は、果てしなく無限に広がっていた。


そこには光が無いのだ。生命が無いのだ。音が、時が、風が、全てが――無いのだ。

それが冥刻の主神、ニレイヌの統べる世界だった。


もっとも、純粋な無の空間において、彼女自身の存在を区別して切り出す事は不可能であり、

その意味においてニレイヌは世界そのものであるといえた。

それほどまでにその異界――ニレイヌは暗く、静かで、果てしなかった。


「……美しい。」


彼女にとって、闇はどこまでも純粋で、澄み渡る静寂は究極的に美しかった。



そこにある日、ひとつの柩が流れついた。

どこかの異界の大魔道士が封じた魔神の骸だった。


骸の名はテネブル。

ある異界において、長らく死の象徴として君臨していた魔神だ。


彼は骸と成り果てた後も、生を強く欲した。

そしてその意志の力は、重く厚い柩の董を押し上げた。

それはその世界――ニレイヌにとって初めての音となり、彼女の鼓膜を叩いた。


「何だ? 今のは?」


ニレイヌにとってそれは耐え難い、不快な感覚だった。


「……うるさい。」


彼女は怒りに身を任せ、その音のした方へと翔んだ。


そして流れついた柩を見つけた。


「お前か? 我が世界の静寂を乱すのは……。」


そう言って、ニレイヌはその不吉な柩を見下ろした。


「私はニレイヌ。この美しき世界を統べる者。我が安息を乱す者よ。早々にここを立ち去るがよい。」


その時、テネブルの抱く強烈な生への執着、命に対する渇望が一条の光となり、

わずかに開いた柩と蓋の間から、外の闇を照らした。

それは世界に初めてもたらされた光であり、命だった。


「クッ……!目が、目が開かぬ。」


その瑞々しく輝く生命の一筋が、彼女の眼を眩ませた。

そしてようやく開いたニレイヌの瞳の前に、光はその世の全てを晒した。



「醜い……なんと醜い……。」


それはあまりにも酷い光景だった。朽ちた船、崩れた城、忘れ去られた街……

ありとあらゆる事物の墓場……闇の中に轟く死の気配そのものだった。


「これが……私の世界……だと……。」


唐突に映しだされた現実に、ニレイヌは絶望し、怒った。

そしてその屈辱的な光景を晒した存在を呪い、滅することに決めた。


「お前は、我が愛おしき闇を殺した。私はお前を許さない。」


ニレイヌの怒りに呼応する様に、テネブルはゆっくりと柩の蓋を押し上げ、その姿を現した。


「ほう……。私に向かってくるか?」


今、ニレイヌの冷たき眼差しが、静かにテネブルを捉えた。







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