レザール・思い出

レザールの思い出とボイス

思い出1

――邪悪な妖気を身にまとった、
ドラゴンとその乗り手が
いつの間にかたたずんでいる……！

キャトラ

！？

アンタ、だれっ！？

いつからそこにいたの？

アイリス

キャトラ！
うかつに近寄らないで！

キャトラ

え！？

アイリス

強い……力を感じる……！

しかも……！

アイリス

善なるものじゃない……！

レザール

……我が名はレザール。

邪龍を駆り、災禍を運びし者。

レザール

人問たちから見れば、

俺の所業は、闇と変わりない。

レザール

……憎悪を！　猜疑を！　戦火を！

この黒翼で巻さ上げ――

レザール

生ける者から、
その先の未来を奪う――

キャトラ

敵だ！　敵が来た！
やるわよ、主人公！

レザール

――が――

アイリス

……？

レザール

それも、過去のことだ。

アイリス

……どういうことですか？

レザール

娘よ、俺の気配に闇を見たのは、

間違いではない。

レザール

俺も、この＜シャグラン＞も、

永らくその身を

闇の世界に置いてきた。

レザール

薄まるには、

相応の時間がかかるだろう……

キャトラ

……ん？

てことは……

キャトラ

アンタたち、ワルっぽいけど、

足は洗ったってことなの？

レザール

そうだ。

アイリス

そうだったんですね……！

レザール

―度生まれた疑念は、

膨らみ続ける――

レザール

新たなる宿命と向き合うために、

これまで歩んできた魔の道に――

――背を向けたのだ――

キャトラ

ふむふむ！

イーコトじゃないかしら！

キャトラ

事情の説明は
おいおいでいーわよ！

アイリス

キャトラったら……

レザール

しかし、ここで

―つの問題が浮かび上がった。

キャトラ

ひとつのもんだい？

レザール

これまで闇に生きていた俺たちが、

急に光の下には行けない。

キャトラ

そう……かなぁ？

アイリス

それなら……？

レザール

冥界の颶風、

このレザールは、次なる

己の棲家として――

レザール

――＜灰色の世界＞――

レザール

＜演劇界＞に足を踏み入れたのだ！

思い出2

レザール

あ一、るるるるるるる、

とぅるるるるるるるる、

あ一、あー、ん一、ん一。

レザール

よし。

レザール

ア、エ、イ、ウ、エ、オ、ア、オ！

キャトラ

ちょっと！　レザール！

レザール

辛抱してくれ。

発声練習なのだ。

キャトラ

アタシが言いたいのは
そんなことじゃーないの！

レザール

ん？

キャトラ

アンタはこれまで
なにをしてきたのかとか、
結構興味あったんだけど、
もっとデカい疑問があるわ！

キャトラ

演劇界に足を踏み入れた、って、
一体どういうことよ！？

レザール

先日言った通りだ。

演劇界こそ、この世の

闇と光をつなぐ、灰色の世界――

キャトラ

アタシはそうは思わないけど！？

レザール

無論、現実にその色が

目に映るわけではない。

比喩表現だ。

キャトラ

それくらいはわかってるし！

レザール

ならなんだ？

アイリス

どうして、演劇界が

灰色の世界だって思うんですか？

レザール

表現の曖昧さ故。

キャトラ

ひょ一げんのあいまいさ？？？

レザール

人の気持ちを動かすために、

こうすればいい、などという

答えはない。

レザール

白なのか黒なのか、

定かならぬ世界――

レザール

ならば、＜灰色＞と

いうことになろう。

キャトラ

同意しかねるわ！

レザール

そういうこともあるだろう。

俺と君とでは、これまで

歩んできた人生も違う。

レザール

見解に相違もあろうというもの。

キャトラ

……な～んか、

コムズカシク言ってるけど、

ヘリクツっぽいのよねえ……

レザール

端から理屈ではないのだ。

些細なきっかけがあり、

選択の瞬間がある。

レザール

そして、選んだからには、

いかなる道であろうとも、

全力を尽くさねばならん。

レザール

持って帰らねばならん。

なにかしらをな。

キャトラ

演劇界に、アンタのためになる

なにがあるって言うのよ？

レザール

それを見つけるためにも、

稽古に励んでいるのではないか。

レザール

さあ、シャグランよ！
次は感情解放だ！

レザール

チョコレーーーーーーーート！！！

キャトラ

なによ突然！？

レザール

これは『チョコレート』という

メソッド、稽古のーつだ。

レザール

あらゆる言葉に、

思い通りの感情を乗せる

訓練だな。

レザール

次は『哀』でいくぞ。

レザール

チョコレーーーーーーーーート……

キャトラ

こ、コイツは……！

アホだわ！

思い出3

レザール

深淵なるは芸の道、か、

キャトラ

あ、アホのレザールだ。

アイリス

ちょ、キャトラ……

レザール

お！　俺には喜劇役者の

才能かあるということか？

キャトラ

わかんないけど。

あるんじゃない。アホだし。

レザール

喜ばしいことだ。

手段は問うべきではない。

レザール

『笑わせるのではない。
まず、笑われること』

レザール

それか芸の最初のー歩だと、

不死者の帝王も言っていた。

アイリス

演劇界に足を踏み入れた……

ということは、どこかの

劇団員さんになったんですか？

レザール

そうだ。俺の所属する劇団は、

『劇団びたーちょこれーと』

という。

キャトラ

ダサ――！

アイリス

キャトラ、ダメっ！

レザール

売出し中の劇団でな。

知名度はないに等しい。

レザール

俺は、新入団員募集の

黒いフライヤーに魅かれ、

門を叩いたのだ。

アイリス

黒……かったから……？

レザール

そう。黒かったから。

レザール

劇団員は六名。あとは、公演の度に

客演を呼んだり、スタッフを

外注したりしている。

レザール

まあ、よくある

プロデュースユニット形式だな。

キャトラ

よくある……のか、

アタシにはわかんないけど……

レザール

劇団では俺はー番新入りだ。

だから、稽古場の掃除など、

雑務も多い。

レザール

プライベートを削って

稽古や勉強に励まねば、

先輩方に追いつけん。

キャトラ

なにしとんじやアンタは……

レザール

郷に入っては郷に従え。

慣習に異を唱える趣味はない。

レザール

先人たちも、皆同じ道を

歩んでいったのだからな。

アイリス

真面目、なんですね……

キャトラ

というかアホというか……

レザール

愚直にも、愚直なりの

力というものがある。

レザール

さあ、筋トレを再開だ！

キャトラ

い、いまさら筋トレっ！？

レザール

そうだ。そして、それが終わったら

『石』になる。

キャトラ

石？

レザール

これだ。

レザールはドラゴンから降りると、
地面に額を付けて
丸まった……

キャトラ

…………

レザール

この状態で呼吸を整えていると、

火照った体と頭が調和し、

芝居についてより深く

考えられる気がするのだ。

キャトラ

気だけじゃないの？

レザール

試してみるか？

キャトラ

いい。

思い出4

レザール

ふぅ……

キャトラ

ため息なんてついて、

どうしたのよレザール？

レザール

実は昨日、

劇団の飲み会に行ったのだが。

キャトラ

ど、ドラゴンとー緒に！？

レザール

心配はいらない。

演劇人は、皆変人だからな。

この程度、誰も気にしないさ。

キャトラ

そういう問題かしら……！

アイリス

それで、どうして

そんなにくたびれてるんですか？

レザール

……無駄だった。

レザール

座長はじめ、劇団員も皆、

酒に酔い、夢を語っていたのだが。

キャトラ

ほうほう？

レザール

やれ、いつかは売れるぞ、

有名になるぞ、

最高の芝居をするぞ……

レザール

などと……のたまうが……！

レザール

俺は知っている！
その場にいた、誰―人
売れていない！

レザール

全員、演劇で食えていない！

レザール

なのに……酒場に

飲み代を払い、

努力もせずに、展望を語る……

レザール

あの時間は……

いったいなんだったんだ？

キャトラ

なんだったんだ、

と聞かれても……

レザール

俺は悟った。

レザール

＜演劇界＞は、灰色ではない。

レザール

闇社会よりもなお、
黒く染まっている！

アイリス

そ、それは……

キャトラ

さすがに……

キャトラ

そんなにイヤなら、

やめたら？　劇団。

レザール

……そうもいかない。

俺はまだ、辞められるほどの

何も得ていない。

キャトラ

はあ……

レザール

だが……なんだろうなあ！

この、なんとも、罪悪感とも、

敗北感ともつかぬ苦しみは？

キャトラ

わかんないけど……

レザール

同じ志を抱いた仲間なのに、

いやそれだからこそ、

なんとも、煩わしい。

レザール

劇団員の皆は好きだ。
好きだが、酒の席での、
あの態度はどうだ！？

レザール

しかも、店員に対しては
妙に横柄だったりするんだ！

キャトラ

……よっぽどだったのね。

レザール

闇夜に身を溶かしていたときにも、

これほどの苦悩はなかったぞ。

キャトラ

まあ、種類が違うわよね。

レザール

まったくもって……

＜演劇界＞、恐るべし……！

キャトラ

ソーネ。

思い出5

キャトラ

あっ、レザールだ。

アイリス

なんだか……

深刻な様子ね……？

キャトラ

お一い！　どったの～！？

レザール

お前たちか……実はな……

レザール

今度、ウチの劇団の

本公演があるんだが……

キャトラ

ふむぅ？

レザール

本公演とはつまり、

みんなで金を出し合い、

小屋を借りて芝居を打つのだが。

キャトラ

え！？　おかね払うの！？
稼ぐんじゃなくて？

レザール

チケットノルマを達成すれば

多少のバックはある。

アイリス

つ、辛い世界ですね……

キャトラ

……で？

おかねのことを

悩んでたわけじゃないでしょ？

レザール

俺が主役に選ばれてしまったんだ。

キャトラ

お～♪すごいじゃ～ん♪

いついつ～？　いくいく～♪

レザール

来ないでくれっ！！

アイリス

どうしてですか？

レザールさんの晴れ姿、

是非見たいですけど……

レザール

……っ……！

キャトラ

どうしたのよ？

レザール

脚本が……

キャトラ

脚本が？

レザール

つっっっっっまらないんだ！！！

キャトラ

ほ……ほほぅ……

レザール

座長かスランプでな。

俺のーつ上の先輩か

初めて脚本を書いたんだ。

レザール

これがまぁ、つまらない！

レザール

どこかで見たようなキャラクター！
お決まりの展開！
浅い信念！

レザール

あんなものでお客様の時間を

奪うかと思うと……！

レザール

しかも俺が主役だと思うと……！

アイリス

れ、レザールさん……！？

レザール

さすがに堪えきれる気がせん！

レザール

我が黒さ鎌で死を呼び、
客共の最後の見世物と
してしまうかもしれん！

キャトラ

ちょ、ちょっと待ってよ！

アイリス

レザールさん！
まだ早いですよ！
まだ何も得てないのでしょう！？

レザール

……芝居というものが、

ここまで人を追い詰めるとは

思ってもいなかった……！

レザール

毎晩悪夢を見るんだ！
―切セリフを覚えていないのに、
本番の幕が上がる夢だ！

キャトラ

こりゃ……相当ねぇ……

レザール

現実は、

もっと悲惨なことになる……

レザール

俺のギャグで客は白け、

決めのセリフで

失笑するだろう……！

キャトラ

それはさすかに、

かわいそうかも……

アイリス

ええ……続けていく自信を

まるごと失っちゃいそう……

レザール

おいお前！

レザール

お前は芸がわかっている！
と、聞いたことがある！

キャトラ

どこでそんな噂が流れてんのよ……

レザール

なあ、何かないか？
頼む、アドバイスをくれ！

レザール

この絶望的な状況で、
俺はいったい、
どうしたらいいんだ！？

思い出6

レザール

この光は……！

ころがし……？

キャトラ

ちがうよ。

レザール

サス？

キャトラ

ちがうよ。

レザール

ムービング？

キャトラ

全部違うよ。

舞台用語使わないでくれる？

レザール

そうか……しかし、
いまのでわかったぞ……！

キャトラ

なんでよ。

レザール

『幕が上がれば、
舞台は役者の物』……

という、言葉かある。

キャトラ

へ？　なにそれ？

レザール

つまり、それまで何をどう

演出しようと、本番か始まれば

誰も手が出せないということだ。

キャトラ

ふむう。

レザール

これを逆手に取り……俺は……

レザール

インプロで勝負する！

アイリス

いんぷろ……？

レザール

アドリブ、とも言うな。

即興劇のことだ。

キャトラ

ダメ！！！
それだけはダメな気がする！！！

アイリス

考え直して、レザールさん！！！

レザール

な、ど、どうしたんだ！？

キャトラ

『本筋がツマンナイから
アドリブでどうにかしよう――』

キャトラ

コレ危険！
コレがー番危険なの！

キャトラ

上手くいった試しなんか、
聞いたことないわっ！

レザール

そ、そうなのか……？

アイリス

そうですよ！
そんなことするくらいなら、
じっくり、じっくり！

アイリス

脚本か寒くたってなんですか！
大丈夫！　人を笑わせるには
『ひと間』あればいいんです！

レザール

お、おぉ……

アイリス

アドリブなんかやめましょう！
きっちり、いきましょう！

キャトラ

脚本がヤバくてもさ！
真っ剣にやれば、
なんとかなるから！

キャトラ

その方が、被害は
最小限におさまるから！

キャトラ

問違っても、本番のアドリブに
頼っちゃダメ！

キャトラ

―番傷つくのはアンタよっ！

レザール

…………

レザール

……そうか。

レザール

ありがとう。

俺が間違っていたようだ……

アイリス

よかった……

レザール

もはや負けの確定した

舞台ではあるが、それでも……

レザール

実直に稽古を重ね……

……誠心誠意、演じてみよう……

キャトラ

うん……がんばってね……

心を強くもってね……

レザール

――ありがとう。

おかけで、覚悟が出来た――

レザール

もはや、決してウケない

この舞台――

レザール

逃げずにスベって
こようではないか！

ボイス

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