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鵲と銀河・ストーリー

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鵲と銀河

プロローグ

『雷雲六日 朝 光耀大陸のとある小さな町』


 それは、もう随分と昔のこと……モクセイケーキがまだ前の御侍の元にいた、七夕祭りの時期の話である。荷物の整理をしていたら見つかったという玉佩を手でそっと撫でながら、彼女は懐かしい想い出を_name_に向かって、ゆっくりと語り始めた――

 その日、モクセイケーキは御侍の奥様から頼まれた品物を買うために町へと出た。翌日、七夕祭りが行われることになっていた町は、いつも以上の賑わいを見せていたという。よろず屋へと入ると、店の中では客が楽しそうに話をしている。


客人甲:なぁ、今年の七夕祭りの話、聞いたか?えれぇ騒ぎになってるじゃねぇか。双頭蓮のうち二本を見つけるってアレだ。

お客様:あの一本の茎から二輪の花を咲かせる蓮を探せって件だろう?探し出した者には、織姫様からご褒美が貰えるだけでなく、願い事も叶えてもらえるらしいな。

客人甲:ああ!だが、家の予定で手いっぱいだ。じゃなきゃあ、俺も蓮の花を探しに行くんだけどなぁ。

お客様:やめておいた方がいい。あの三つの詩を見たか?あの謎が解けなきゃ、蓮の花が何処に咲いているかすらわからない。お前はあれが解けるのか?

客人甲:いやぁ、言ってみただけさ。だがそのために大勢の人が町に来てるんだぜ。新年だってここまで賑やにゃあならねぇよ。

お客様:そうだな。しかし双頭蓮と言ったら、稀世の珍品だ。謎解きは無理だが、その蓮を一度見てみたいな。

客人甲:そうそう、今年の織姫様に選ばれたお嬢様の話、お前知ってるか……


 モクセイケーキはこれ以上この話は聞きたくないと、その店から出ることにした。他の店で頼まれた品を調達しなくてはならない――モクセイケーキは深い溜息をついた。

 そんなモクセイケーキと入れ替わるように、重陽糕が店へと入ってくる。渋い顔で目を細め、彼女はここまで強引に連れてきた黄山毛峰茶を見上げた。


重陽糕:お主、本当にその双頭蓮を探しに行くつもりか? よもや、お金のためではあるまいな?

黄山毛峰茶:そうだ。だが、それがすべてではない。双頭蓮は一心同体、一蓮托生……見た者に吉をもたらすと言われている。しかも毎年織姫様は、由緒正しい家柄のお嬢様が選ばれると聞いた。

黄山毛峰茶:そのようなお方に卦を立てて差し上げらたらば、さぞ儲かるであろう……。

重陽糕:……。

黄山毛峰茶:ほら、見てくれ。この花灯の中に詩の謎が隠されているのではないか!?


 黄山毛峰茶は近くの枝に飾ってある花灯の中から紙切れを取り出し、それを開いて読み上げる。

『あたたかき東風に染まりし千頃』『往日の禽鳥双木を啄く』『秋後落日峰前を照らす』……その姿だけ見ればまるで美を愛する詩人のように見え――重陽糕は深い溜息をついた。


ストーリー 1-2

『雷雲六日 正午 御侍の家』


御侍夫人:モクセイケーキ、さきほど教えたことは全て暗記しましたか?

モクセイケーキ:はい、奥様。お祭りでは粗相の無いよう努めます。その旨、心得ております。

御侍夫人:そう願いたいわ。我が一族の顔に泥を塗ることになりますから。

御侍夫人:これは明日の衣装です。これを着て、しっかりと明日の練習をしてちょうだい。

モクセイケーキ:奥様はひとつ教えていただけませんか。一族の名誉に関わる織姫様という大役を、なぜわたくしなぞに託すのでしょうか?

御侍夫人:織姫様を演じることは、華々しく映りますか?けれど、私にとっては煩わしい見世物にすぎません。そのような苦労は避けたいと望みました。何か問題が?

御侍夫人:けれど貴方のような美しいお嬢さんならそのような衣装を着られたら喜ぶかと思いましたが……どうにも不満げな顔ね。何か思うところがあるなら聞きますよ?

モクセイケーキ:……いいえ、わたくしめから奥様に言うことなんてありません。


 奥様は僅かに口の端を上げ、目を細めてモクセイケーキを見つめた。そして、美しい布で覆われた慶典用の衣装をモクセイケーキに渡した。それを受け取り、モクセイケーキは深々とお辞儀をして、大人しくその服に着替えた。


 ――二時間後。


御侍夫人:ふぅ……私は少々疲れました。本日はここまでとしましょう。


 モクセイケーキはその言葉に感情を抑えてお礼を伝える。その一言が、なおもモクセイケーキを疲れさせた。

不満を抱え、機嫌が良くないモクセイケーキは、気晴らしをしようと屋敷から出た。


 雷雲六日 昼過ぎ_when_青畑


???:うわぁぁぁああん……!


 その泣き声にモクセイケーキはハッとする。気づけば、いつの間にか広い田んぼの近くまで歩いて来ていた。


───

「……。」

・<選択肢・上>まず周囲の環境を観察する。 モクセイケーキ+15

・<選択肢・中>避けて通る。 黄山毛峰茶+5

・<選択肢・下>泣き声の出所を確認する。 黄山毛峰茶+15

───


 モクセイケーキは一瞬悩んだが、すぐに周囲を見回す。すると少し離れた田んぼに、何か探しものをしている者たちの姿が見えた。彼女はその様子に、この七夕祭りで探し出したら褒美を与えられるという蓮の花の在処を示した詩の一句目を思い出す。


モクセイケーキ:(『暖かき東風に染まりし千頃』――東風とは春風のこと。そして百畝の畑は、一頃と呼ばれ、染まると言えば紺……つまり、青色のことよね。だからあの詩句は、ここの青畑を指し示しているのでは……?)


 町の南側にあるこの田は、一年中青々としているため、『青畑』と呼ばれていた。モクセイケーキはこの答えはきっと合っていると確信する。


???:うえぇぇぇぇん……


 そのとき、泣き声が大きく響いた。モクセイケーキは、声の主を探そうとしていたことを想い出し、再び辺りを見回す。そして、道端の盛り土に泥まみれの男の子が座っているのを発見した。目には涙を浮かべている。慌ててモクセイケーキは少年に駆け寄った。


ストーリー 1-4

『雷雲六日 昼下がり 茶屋の個室』


 黄山毛峰茶は手に持ったみくじ筒をじゃらじゃらと響かせて、部屋の中をうろうろと歩き回っている。しかし、どうにも思考はまとまらない。そのきっかけすら、掴めなかった。

黄山毛峰茶は妬ましい表情で、部屋の一角に座る重陽糕を睨みつける。だが、彼女悠々とお茶をすすっている。彼の恨みがましい視線なぞどこ吹く風、と言った様子だ。


───

……。

・<選択肢・上>考え続ける。 モクセイケーキ+5

・<選択肢・中>重陽糕に助けを求める。 モクセイケーキ+15

・<選択肢・下>占ってみる。 黄山毛峰茶+15

───


重陽糕:わしをそんな目で睨んでも答えは出ぬのではなかろうか?

黄山毛峰茶:どうか知恵を貸してくれぬか、重陽糕。こういう言葉遊びは、お主の方が向いている。そもそも貧道よりも、遥かにお主のほうが賢いではないか……頼む、この紙の謎をちょちょいと解いてくれ。そしたら特別に、卦立てを一回タダにしてやろう。どうかな?

重陽糕:……よくまぁ、それだけ減らず口が回るものだ。仕方ない、その紙、見せてみよ……ああ、言っておくが、卦立てはいらぬぞ。


 重陽糕は一瞥して、紙に書かれた三つの詩句の謎を完璧に解いてしまう。その答えに黄山毛峰茶は意気揚々として、舞うように茶屋から姿を消した。


黄山毛峰茶:(フッ、まず三つ目の場所に行こう。その方が勝算があるだろう)


 ひとり茶屋に残された重陽糕は、瞳の奥に集まった霊力をゆっくりと解放してゆく。そうして彼女は災厄を見るのだ。


重陽糕:(さて、この縁――吉と出るか凶と出るか……)

重陽糕:(まぁ、多くの善事を多く為せば、悪いほうには転ぶまい……)


 窓から外を見ると、黄山毛峰茶の姿は既に人混みに紛れていた。彼の行く末は彼のみぞ知る。小さな嘆息と引き換えに、重陽糕はひとりお茶を楽しむことにした。


 雷雲六日 午後 香山観


 町中の小さな山の上に、香山観と呼ばれる寺がある。そこは年中、雲と霧に覆われおり、檀香の薫りが満ちている。


黄山毛峰茶:(『秋後落日峰前を照らす』――『秋』の文字を前後に分けると『禾』と『火』になる。後ろの文字である『火』を落とすと『禾』が残り、『日』と合わせると『香』になる。そして『峰の前』……これ即ち『山』のこと。なるほど、それで「香山」となるのだな?ふむ……さすが重陽糕と言ったところか)


 三つ目の詩の解読を済ませた黄山毛峰茶は香山観へとやってきた。

 寺ではちょうど弟子たちが道法の修行をしている。そんな光景にふと昔の記憶が蘇り、黄山毛峰茶は足を止めた。

 たとえ払子であっても、心の曇りを払いきることはできない。気がつけば誰もおらず、斜陽のみが寺を照らしている。

 はたと我に返り、黄山毛峰茶はもう一度手元の詩句の書かれた紙に視線を落とした。


 雷雲六日 夕方 香山観


 黄山毛峰茶はいくつもの建物の屋根を身軽に飛び越える。そして、すぐに裏山の高所にある練武場に辿り着いた。周りに人の気配はない。


黄山毛峰茶:(あぶない、あぶない……間違えるところであった。ここはいわゆる落日の地、そして『秋後』は『寒暮』や『氷雪』のことを指し、十二時辰に重ねれば、亥の刻を指す……だからそれまでここで張っていればいいだろう)


 黄山毛峰茶は木の枝に登り、横になってのんびりと待つことにした。すると、背後から幼い幼子から声をかけられた。


???:道士のお兄さん……あなたも双頭蓮を探しに来たの?


ストーリー 1-6

 雷雲六日 日暮れ 御侍の家


 モクセイケーキは急いで来るように、と奥様から呼び出された。慌てて奥様の部屋に向かい、恭しく頭を下げながら広間へと入る。そこにはゆったりと座っている奥様の姿があった。


モクセイケーキ:奥様、急にわたくしをお呼びになって、いかがなされましたか?まさか御侍様の身に何か――

御侍夫人:彼の身に何があると?これからお客様をもてなします。そこで人手が足りないから、あなたを呼びました。


───

「……。」

・<選択肢・上>黙り込む。 黄山毛峰茶+15

・<選択肢・中>大声で問いただす。 モクセイケーキ+15

・<選択肢・下>黙って承認する。 黄山毛峰茶+5

───


モクセイケーキ:御侍様は……本当にご無事なのでございましょうか?

御侍夫人:無事よ。これで安心した?だったら、すぐに裏庭に手伝いに行きなさい。

モクセイケーキ:……はい、かしこまりました。


 モクセイケーキは不安を拭えないままだったが、どうすることもできずにそう告げて、頭を下げた。


 雷雲六日 日暮れ 自室


 モクセイケーキは部屋に戻って、着ていた衣装を脱ごうとした。そのとき、ふと気がついた。


モクセイケーキ:(あら?裾についていた玉佩はどこに……)


 帯についていた玉製の装身具がない。モクセイケーキは、衣装の上から下まで念入りに調べ、室内も一通り探した。


モクセイケーキ:(まずいわ……外に落としたのかしら……ふぅ、また奥様に怒られちゃう……)


 そのときだった。部屋の扉がノックされた。


御侍夫人:モクセイケーキ、何をしているの?早く手伝いに行ってちょうだい。私の用事よりも優先することがあると言うの?

モクセイケーキ:い、いいえ!そんなことは……すぐに行きます。


ストーリー 2-2

『雷雲六日 夕方 香山観』


 黄山毛峰茶がゆっくりと振り返ると、衣を身にまとった少年がおどおどしながら彼を見あげていた。


???:道士のお兄さん……あなたも双頭蓮を探しに来たの?

黄山毛峰茶:おや少年。お主も双頭蓮について知っているのか?もうすぐ日が暮れるが、なぜ一人でこんなところに?

???:ぼ、僕は……小霖と言います。双頭蓮を探しに来たんだけど、そこの青畑でたくさんの人が喧嘩をしてたんだ……僕は怖くて、ずっと草むらに隠れてた……そしたら織姫様もどこかに行っちゃって……


───

ふむ……それはそれは。なかなか大変な目に遭ったようだ。

・<選択肢・上>怖がらないで、お兄さんが守ってあげる。 モクセイケーキ+15

・<選択肢・中>どうかお名前を教えてくれますか? 黄山毛峰茶+15

・<選択肢・下>どうやら激しい争い合いみたいだ。 モクセイケーキ+5

───


黄山毛峰茶:それで……今――織姫様と言ったか?お主、織姫に会ったことがあるのか?

小霖:え、えっと……織姫様とはその先にある青畑で会いました。青畑で蓮の花を探していたら、泥穴に落ちてしまって。そしたら、織姫様が助けてくれて、新しい服をくれて……その上、双頭蓮探しも手伝ってくれるって約束してくれたんです。

黄山毛峰茶:ふむ。だがその者が織姫だと何故わかった?その女性は、自分は織姫だと言ったのか?

小霖:いえ……ただ、彼女はとても綺麗な衣装を着ていました。僕がその衣装を褒めたら、七夕祭りの衣装だと言われました。七夕祭りであんなに綺麗な衣装を着るのは織姫様だけです。


 更に少年は、織姫様を『胡桃色の長い綺麗な髪』で、『碧い瞳の少女』だと言った。黄山毛峰茶は、その風貌にとある食霊が頭に浮かぶが、黄山毛峰茶は苦笑いをして頭を振った。


黄山毛峰茶:それで、蓮の花を探しているのは何故だ? 織姫に願って、叶えたい願いがあるのか?

小霖:は、はい……お母さんの病が早く治って、お父さんが早く家に帰ってこられるようになれば、お姉ちゃんはもう苦労しなくて済みます……もしかして、道士のお兄さんも織姫様にお願いしたいことがあるんですか?


 目の前の少年から澄んだ瞳で見つめられて、黄山毛峰茶はさすがにその心を動かされた。金のために双頭蓮を見つけようと思っていたが、その欲は引っ込め、少年に協力してやることにした。


黄山毛峰茶:ゴホン……実は本日の占いで、香山観に助けを乞う者ありと出た。つまり……少年がその助けを乞う者であろう?貧道はお主を助けに来た者だ。

小霖:ほ、本当ですか?道士のお兄さん、ありがとうございます!実は僕、青畑から織姫様の後をつけてここに来たんです……織姫様はここに来てすぐ血相を変えて戻ってしまいましたが、僕はどうしても双頭蓮を探したくて……!

黄山毛峰茶:うむ、小霖くん、安心するといい。貧道がいる限り、必ず双頭蓮は見つかるであろう……。


 そう仰々しく告げたとき、目の端に光っているものが見えた。なにかと気になり、黄山毛峰茶は近づいて、手を伸ばしてそれを拾う。

 それは、小さいがかなり凝った細工の施された玉佩だった。裏側には二匹の鵲(カササギ)が彫られている。それは、夕日の光に照らされて、温かく柔らかな光を放っていた。


黄山毛峰茶:(カササギ……?)


 その模様に心当たりがあった黄山毛峰茶は、その玉佩を丁寧に布で包んでから、懐にしまう。きっと彼女のものだろう、と思ったから。


ストーリー 2-4

『雷雲六日 夜中 御侍の家』


 モクセイケーキは奥様から頼まれた皿洗いを済ませた。気づけば服に油染みが付いている。だが気にしていられない。慌てて香山観へと向かった。


『雷雲六日 夜中 香山観』


 目的地の香山観までやってきたモクセイケーキは、迷わず裏山を上り、練武場の前までやってきた。建物の中は静まり返っており、観星台の貯水池には明月だけが映っている。

 その傍で、ゴソゴソと動く音がする。驚いて息を呑み、注意深く辺りの様子を見守った。


───

……。

・<選択肢・上>近くに行って質問する。 黄山毛峰茶+15

・<選択肢・中>警戒し続ける。 モクセイケーキ+15

・<選択肢・下>大声で呼び止める。 黄山毛峰茶+5

───


 しかし、怪しいものは視界に映らない。安堵してモクセイケーキは振り返る。その瞬間、目の前に人が飛び出してきた。


通りすがりの人:うわぁ!びっくりした!……もしやあんたも、双頭蓮を探しに来たのか?

モクセイケーキ:そ……そうですけど。どういうことですか?

通りすがりの人:俺も話を聞いてここに来たんだけどよ。道衣を着た蓮の花を持った男がいて、そいつが周りに群がってた数十人の屈強な男たちを一瞬で叩きのめしちまったんだよ!

通りすがりの人:で、その後そいつは、傍にいた少年を連れてどっかに行っちまった……俺はすぐ隠れたお陰で気づかれなかった、よかったよ……。


 額の汗を拭って男が言った。モクセイケーキは『道士』という言葉に引っかかりを覚えた。だが、その正体は導き出せない。

 それよりもモクセイケーキは『少年』の方が気になった。眉を寄せて、上目遣いで男を見上げた。


モクセイケーキ:その子はどんな子でしたか?彼らはどちらの方向に行きました?

通りすがりの人:んー……同じように道衣を着ていたな。その男を怖がってるようには見えなかった。知り合いなんだろう。それと、奴らは町に戻っていったが……どう見ても、女のあんたじゃ、あの道士にゃ叶わんよ。蓮の花は諦めた方がいい。

モクセイケーキ:……ご忠告、ありがとうございます。


 モクセイケーキはその話に困惑してしまうが、直感で小霖は安全だと思った。それが少年への信頼か、見知らぬ道士に何か感じたのか――彼女には、判断がつかなかった。


 雷雲七日 夜明け前 青畑


 時刻を確認したモクセイケーキは、町には戻らず、もう一度青畑に向かった。

 風の向きに従って東の方角へと向かい、程なくして小さな洞窟に辿りつく。洞窟の奥にある池に、朝露をまとった一本の双頭蓮が咲いている。

 一つ目の詩にあった『東風』は、『春の初風』のことで、初春の終わり頃、蘇生の時節に吹く風だ。十二時辰に当てれば寅の刻、即ち朝三時から五時を指していることがわかる。この時刻に青畑へと行き、風の方向――東に進め、というのが一つ目の詩句の正解である。

 今年の祭りは、奥様の一族が主催している。たぶん部下の者たちがご機嫌取りのために、どこからか双頭蓮の種を三つ探してきて、このような謎掛けをしたのだろう。

 かなり特殊な種であり、また蓮の花は特定の時刻にしか咲かない。謎を作成した者はその蓮の咲く時間と場所を詩句の中に隠したのだ。

 モクセイケーキは奥様の代わりに祭りに参加することになったため、その件を知っていた。その状況から、詩句がわかれば答えを導き出すのはそう難しいことではなかった。


ストーリー 2-6

『雷雲七日 早朝 カササギの林』


 一本目の双頭蓮を見つけたモクセイケーキは、二つ目の詩に出てくる場所――カササギの林へと向かった。

 しかしここの双頭蓮も誰かに先を越されて取られていた。香山観と同じ者たちだろうか……?


モクセイケーキ:(わたくしがもう少ししっかりしていれば……双頭蓮を手に入れられたはずなのに……情けないわ……)


 蓮の葉だけが浮かぶ池を眺めながら、モクセイケーキの自責の念は止まらない。その場でガックリと項垂れてしまった。


『雷雲七日 朝 光耀大陸のとある小さな町』


 モクセイケーキは落ち込んだ状態で町へと戻ってきた。そのまま彼女は、昨日会った少年の小霖から聞いた住まいまでふらりと歩いてきてしまう。


小霖:織姫様!?


 その驚いた声にモクセイケーキが顔を上げると、笑顔で走ってくる小霖が見える。彼の無事を予感していてはいたが、実際に元気な姿を見た彼女は、ホッとして微笑みを浮かべた。


『二時間前 カササギの林』


 黄山毛峰茶は小霖を家まで送り届けると、すぐにカササギの林に向かった。

 『往日の禽鳥双木を啄く』――『往日の禽鳥』は『昔の鳥』即ち『鵲』のことである。『双木』が『林』というのは言わずもがな。この町の西側には「カササギ(鵲)の林」と呼ばれる林地があった。カササギの群れが棲みついていることからそう名付けられた。

 そうして黄山毛峰茶はカササギの林へと向かったのだが、その途中で重陽糕とばったりと出会った。何故彼女がそこにいるのかわからず、黄山毛峰茶は大きく目を見開いた。


黄山毛峰茶重陽糕ではないか、なぜここに?


 重陽糕は無言のまま、そっと手を差し出し、黄山毛峰茶に渡した。


黄山毛峰茶:そ、双頭蓮ではないか!!なぜ……?

重陽糕:それが欲しかったのだろう?だから摘んできてやっただけのこと。菡萏(かんたん)同心……わしの仲間であるお主に、災厄が見えたのでな、厄除けをしてやった。


───

ハハハッ!なるほど……道理で卦象に異変が生じたわけだ。

・<選択肢・上>あなたもこの蓮の花を取りに行くとは。 モクセイケーキ+5

・<選択肢・中>福のある人生は天ありき、良きかな〜 黄山毛峰茶+15

・<選択肢・下>すでに知っていたのですか。 モクセイケーキ+15

───


黄山毛峰茶:お主の協力に感謝する――と、重陽糕!先に行くな!厄除けのお礼に、卦を立ててやろう。ん?いらない?そう言うな、タダで占ってやるから!


 黄山毛峰茶は袖を振って、彼女の後をついていく。そのため、手に持った花の露が袖口から落ちて、空中にキラキラと虹を描いた。


『雷雲七日 朝 光耀大陸のとある小さな町』


 黄山毛峰茶がゆっくりと小霖の家まで行くと、少年がちょうど外へと出てくる。黄山毛峰茶はフッと微笑み、手に入れた蓮の花を少年に渡した。


鵲と銀河・ストーリー・宝箱


黄山毛峰茶√ 宝箱

 雷雲七日 朝 光耀大陸のとある小さな町


 小霖は黄山毛峰茶から渡された双頭蓮を一度は受け取ったが、そのまま差し出してきた。どうしたのかと小首をかしげた道士に少年は言った。


小霖:道士のお兄さん、お母さんとお姉ちゃんが、神頼みなんかしないで、自分のやれることをしたほうがいいって言ってくれたんです。だから、これは受け取らないでおきます。

小霖:そもそもこの蓮はお兄さんが探してくれたもので、自分で手に入れたものではありませんから。僕は自分の力で、やれることをしようと思います!

黄山毛峰茶:ふむ……では、ここで占いをひとつ――天道無情なれど、常に善人に施す。一家安泰、家族団欒の日々が訪れる――これが今日の卦象である。さて、この占いのお礼として、蓮の花を一本もらおうか。もう一本はそのままお主が持っているといい。

小霖:い、いいの……?ありがとう、道士のお兄さん!


 深く頷いて、黄山毛峰茶は香山観で拾った玉佩を懐から出した。


黄山毛峰茶:そうだ。この玉佩を持ち主に返したいのだが、小霖くんに頼んで良いかな?

小霖:いいけど……誰に渡したらいいの?

黄山毛峰茶:これはきっと、お主が言っていた織姫様のものだ。

旁白 黄山毛峰茶は、そこで柔らかい表情を浮かべて目を細めた。

小霖:なんでこれが織姫様のものだとわかるの……?

黄山毛峰茶:これが彼女のものかは、渡せばわかることだ。お主はただ、彼女にこれを渡してくれるだけでいい。


 黄山毛峰茶は、玉佩を少年に握らせた。そして払子を一振りし、くるりと背を向けた。そして数歩歩いたところでピタリと立ち止まり、ゆっくりと少年に向き直った。


黄山毛峰茶:そうだ小霖くん、もうひとつ頼みがある。その織姫様は、貧道の昔の知り合いによく似ていてな。縁があれば、いずれまたどこかで会えるだろう……そう、伝えてくれないか?


 小霖は玉佩を握りながら頷いた。よくわからないが、いろいろしてくれた道士からの頼みだ。伝言くらいなら、いくらだって頼まれようと思った。そんな小霖を見て満足そうに黄山毛峰茶は再び背を向ける。

 まだ彼にはやらねばならない大事なことがある。それを終えたら、またこの町に来ようと思った。そのときは、自ら彼女に話しかけようと思った。その日はいつくるか――この時点では、まだわからなかったけれど。

 ふと見上げれば、通りに花灯が見える――町を賑わせる人の声が、七夕祭りの開始を告げるのだった。


モクセイケーキ√ 宝箱

 雷雲七日 朝 光耀大陸のとある小さな町


モクセイケーキ:小霖くん……ごめんなさい……。貴方と約束したのに……蓮の花を探すって。

小霖:織姫様、知ってますか?双頭蓮は一心同体、一蓮托生……見た者に吉をもたらすといいます。織姫様、この双頭蓮をもらってください。そして、どうか元気を出してください!

モクセイケーキ:え?ど、どこでこれを……?

旁白 小霖は香山観のでとある道士に出会ったことを話した。モクセイケーキにあげた蓮の花も、道士のお兄さんが探してくれたのだ、という事実も明かす。

小霖:蓮の花を持って帰ったら、お母さんとお姉ちゃんに、神頼みなんかしないで、自分のやれることをしたほうがいいって言われたんです。その言葉に、僕は神頼みをする前に、まだやれることがあるって気が付きました。

小霖:お母さんが元気になるように看病して、お姉ちゃんの手伝いをして……そうしたら、お父さんが帰ってきてくれるのを待つだけです。だからもう、この蓮の花は僕の願いを叶えてくれました。だから、これは織姫様にあげます。

モクセイケーキ:そう……ありがとう、小霖くん。きっと本物の織姫様が小霖くんの願いを叶えてくれますよ。小霖くんのお母様の病気は良くなって、お姉さんも楽になって、お父様も家に帰ってきてくれると思います。

小霖:うん!ありがとう織姫様!それと、これ。道士のお兄さんから預かった玉佩です!

モクセイケーキ:えっ……こ、これはわたくしが無くした玉佩?

小霖:やっぱり織姫様のものだったんだね!道士のお兄さんが言ってた通りだ!お兄さんは香山観でこれを拾ったんだ。それで、これを織姫様に渡してほしいって僕に頼んできてさ。

モクセイケーキ:そう、なの……?

小霖:お兄さんは、織姫様がお兄さんの昔の知り合いに良く似てるから、縁があればまたどこかで会えるだろうと言ってたよ。

モクセイケーキ:縁があれば……また……?


 モクセイケーキはその言葉が誰に向けられたものかわからない。どうしていいかわからず、モクセイケーキは少年から受け取った玉佩を優しく撫でた。きっとこの玉佩を見るたびにこの日のことを想い出すだろう――そう思ってモクセイケーキは柔らかな笑みを浮かべる。



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