キャンディケイン・エピソード
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目次 (キャンディケイン・エピソード)
キャンディケインのエピソード
自分の意見が反駁されたら言い返すことができない。他人の見解に対して不満があっても申し立てない。でもキャンディケインはがんばって成長している。
Ⅰ.責任
※再翻訳につき修正に合わせて更新しました。
わたしの名前はキャンディケイン、村の聖歌隊の一員。
そして食霊でもあります。ですが、不器用な食霊です。
他の食霊のみんなみたいに勇敢じゃないし、戦闘力も持っていない。
だけど村のみんなは、わたしのことを受け入れてくれた。
法王庁によって守られているわたしたちの村はとても平和で、定期的に強い食霊が村の外にいる堕神を退治しに来てくれる。
そしてたまに、村人が解決できない問題も助けてくれた。
わたしとわたしの御侍さまは、中央法王庁にとても憧れていた。わたしたちをたくさん助けてくれる法王庁って、一体どんなところなのか知りたかったし、私たちの想像よりも遥かに良い所なのだろうか。
でもこの願いは御侍さまがこの世を去っても、叶うことはなかった。
「機会があれば、私の代わりに見てきてね」
と彼女は言っていた。
中央法王庁から来た食霊の皆さんは全員強くて、わたしにはできないことができちゃう。
怖い堕神の前にいても、彼らは決して怖がることはなかった。
フィッシュアンドチップスさんはよく来てくれる方の一人。
ですか。
彼を治療する時、こっそり尋ねたことがある。
「堕神が目の前にいる時、怖くはないのですか?」
「怖いですよ。だけど俺の肩には“背後にいる貴方たちを守らなければならない!”という責任があるんです。もし俺が怖がっていたら、他の人はどうしようもないじゃないですか」
「そうですよね、わたしたちは食霊です!人間のために生まれた食霊です!」
フィッシュアンドチップスさんのキラキラとした目を見つめながら、わたしは自分のステッキを握り締めた。
(わたしにも、背負うべき責任はあるの?じゃあ、わたしだけの責任ってなんだろう?)
週に一度の聖歌隊のお稽古の時間がやってきた。わたしが教会に駆けつけた時、みんなはもう支度ができていた。慌てて自分の立ち位置に向かうと、何かに躓いてバランスが崩れてしまった。
「あっ!」
「キャンディケインちゃん大丈夫!?」
「ケガしてない?」
「相変わらずおっちょこちょいなんだから、気を付けてね」
心配してくれているみんなの顔を見て、わたしは自分の服の裾を握りしめて、落ち込んだ。
(いつになったら、わたしも責任を負えるようになるの?)
Ⅱ.変化
辺鄙な場所にある小さな村落は、大都市にはない静けさがある。だけど世間から切り離されたみたいに、情報は全部遅れてやってくる。
わたしたちも、外の情報が欲しいと思ったことはない。
こんな生活が一番心地がよかった。
だから、わたしたちが安定した生活を過ごしている時、外でどれだけ大きな変化が起きているなんかなんてまったく知らなかった。
法王庁から事情があって、数か月に一回の堕神退治が少し延期になってしまうという連絡が来た時、わたしたちは特に何も思わなかった。
フィッシュアンドチップスさんは責任感が強いから、いつも堕神を全部綺麗に退治してくれる。
だから少し遅くなっても、わたしたちに影響はないと思っていた。
だけど、二回目の延期連絡が届いた時、わたしは少しだけ不安になった。
もしかしてフィッシュアンドチップスさんに何かあったから、来れなくなったんじゃないかって。
気付けば村の外の堕神が少しずつ増えてきた。わたしの力じゃ他人を癒すことしかできなくて、フィッシュアンドチップスさんみたいにあの怪物たちを倒せない。
そして、法王庁でかつてない戦争が起きたという情報が入ってきたから、村のみんなが不安な気持ちを抱えることになった。
(もし法王庁の人が堕神を退治してくれなかったら、この村はどうなっちゃうの?)
幸いにも、三か月目には見知らぬ食霊が私たちの村に来てくれた。
フィッシュアンドチップスさんと同じ金色の髪をしていたけど、性格は全然違った。
「今回の総統任務を担当する、プレッツェルと申します」
「あの……フィッシュアンドチップスさんは……」
「フィッシュアンドチップスは怪我をしたため、来られなくなりました」
これ以上話す気はない感じがして、口から出かけた言葉を飲み込んだ。
プレッツェルさんが任務から戻ってきた時、堕神がたくさん集まっていたからか、彼は結構な傷を負った。
彼を見つけた時、彼は眉をしかめて自分で傷の手当をしていた。
わたしはおそるおそる彼の傍に近づいて、まだ使いこなせていない力で傷を癒してあげた。
傷が治っていくのを見た彼は、少し驚いた顔でわたしの顔を見た。
「ど、どうかされましたか?」
「いや……なんでもありません」
プレッツェルさんは村から離れることを誰にも言わなかった。
堕神を退治したその日の内に帰っていったことは、彼の手当てをしにいったわたししか知らない。
わたしは彼を村の入口まで見送った。
彼はわざとゆっくり歩いてわたしに合わせてくれた。冷たい人のように見えたけど、そうではないみたい。
「より多くの人のためここから離れるようになったら、どうしますか?」
「……こ、ここから離れる?」
「そうです」
「も、もしそうすることでより多くの人のためになるのなら……わたしには……まだわかりませんが……だけど、それがわたしの責任なら……わたしは……頑張ってみようと思います!」
わたしの言葉を聞いたプレッツェルさんは頷いてから、夜の中に消えていった。
Ⅲ.教会
わたしが聖歌隊のお稽古に行くと、教会の入口には豪華な馬車が止まっていた。
馬車から降りてきた方は、この村では見たことがないような洗練された服を着ていて、教会の前で神父さまと何か相談していた。
「よく来ました、キャンディケイン。この件はやはり貴方自身で決めてください」
「自分で決める?」
神父さまの前に立っている方が振り向いた。
気のせいかな、その方はわたしを見ているけれど、その目にはわたしの存在なんて映っていないような気がした。
誰も眼中にはないみたいな傲慢な感じじゃなくて、他人はどうでも良いというような感じだった。
彼の視線はプレッツェルさんのとは似てない、もっと冷たい感じがした。だからわたしは前に出る勇気がなかった。
「この方は中央法王庁の司教、クロワッサン様でございます。クロワッサン様は貴方を中央法王庁へ招待しにきたのです」
「中央法王庁!?」
クロワッサンさまは頷いて、神父さまのお話を否定しなかった。
御侍さまの最後の願いを叶えるチャンスが目の前に、だけどその時、わたしは迷った。
本当にずっと生活してきた村を離れるの?
中央法王庁に行ったら、何をするべきなの?
「前法王が法王庁を離れ、神子であるフォンダントケーキも戦争で傷を負い、引退を決め、彼女の国を守るために力を尽くそうとしています。今、法王庁は神子を失い、皆が不安を感じています。皆の気持ちを落ち着かせるためにも、新たな神子が必要なのです」
「どうして……わたしをお選びになったのですか……」
「プレッツェルから、あなたは食霊を癒す力を持っていると聞きました。一日だけ時間をあげましょう、明日の正午までここであなたを待ちます」
クロワッサンさまは質問のチャンスもくれず、去っていった。わたしはその場に立ち尽くして、突然の出来事に戸惑っていた。
そばで会話を聞いていた村人たちと聖歌隊の仲間たちが続々とわたしを取り囲んだ。
「キャンディケインちゃん、村を離れるの?」
「行かないで、お願い」
「中央法王庁に行ったら危険な目に遭うかもしれないよ……」
心配してくれているみんなの顔を見たら、ますます動揺が止まらなくなった。
その夜は、ずっと眠れなかった。
小屋を離れて、いつの間にかクロワッサンさまの馬車のそばまで歩いてきてしまった。
豪華な馬車には明かりが点っている。窓の影を見ると、クロワッサンさまがまだ起きていることがわかる。彼は俯いて何かを読んでいるみたいだ。
ドアを軽く叩くと、すぐに開いた。クロワッサンさまから眠気は一切感じ取れない。
まったく休んでいないかのように見える。
「どうかしましたか?」
「クロワッサンさま、どうして……お休みにならないのですか……?」
「法王庁の事務作業が終わっていないからです」
「……それは大変ですね」
「これが私の役目ですから。あなたも決められましたか?」
「わたしは……まだ……」
わたしは服の裾をぎゅっと握りしめて俯いた。しばらく考え込んでから顔を上げて、ずっと悩んでいた事を口にした。
「ちゃんと神子の役目を果たせるか、心配です」
クロワッサンさまの瞳はとても透き通っていた、まるで海のように澄み切っている。だけど彼の瞳に映っている物は見えない。
「どうしてですか?」
「私は……不器用なんです……堕神も倒せない……治療も、毎回安定して力を発揮できるわけではないんです……わたしは……」
「もしあなたが怖いと感じているのなら、堕神の討伐任務はしなくても良いです。あなたはあなたの存在で、人々に法王庁にはまだ神子の存在がいるという事実を伝えてくれるだけで良い、それだけで十分です」
「それは……」
「それはあなた自身で選んでください。逃げるのか、立ち向かうのか、はたまた立ち止まるのか」
クロワッサンさまはわたしの返事を待たず、馬車に戻った。すぐに、馬車の中からページをめくる音が聞こえてきた。
Ⅳ.新たなスタート
翌日教会の前に行くと、たくさんの村人が心配そうにわたしを見ていた。
街の見回りを担当している村人が「クロワッサン様は一晩中寝ていないはずだ」と教えてくれた。だけど馬車の前に立っているその姿は、誰よりも凛々しく、少しも疲れが見えない。
わたしがやってきても、クロワッサンさまは表情一つ変えることはなかった。
「もう決めたようですね」
「はい!」
わたしは振り返って、少し緊張している村人たちを見て、丁寧にお辞儀をした。
「みなさんの心遣い本当にありがとうございました。ここから離れて、中央法王庁に行きます。長い間色々お世話になりました。また会いに戻ります!」
「キャンディケインちゃん!」
「本当に行くのかい?」
「中央法王庁は危険だよ、あの怖い怪物と戦うことになるんだよ!」
「先任の神子様も大変な怪我をされたようだし、行かないで……」
引き留める声を聞いても、わたしは揺らぐことはなかった。クロワッサンさまの手を掴んで、わたしは馬車に乗り込んだ。
馬車はずっと揺れていた。
わたしが深夜の夢から醒めても、クロワッサンさまは綺麗な姿勢を保ったまま仕事を続けていた。
突然彼が声を掛けてきた。馬車に揺られて、うつらうつらとしていたわたしは驚いて顔を上げた。
クロワッサンさまは手元の仕事を続けながら、淡々と尋ねてきた。
「あなたはあの村に残るのかと思っていました。どうして?」
「……わたし……」
「あなたは知っているはずです。私と一緒に来ると、将来直面するのは堕神だけではないことを。それとも、あなたは傀儡になっても良いと言うのですか?」
わたしは自分の指を掴んでしばらく考えこんだ、そして首を横に振った。
「どうしてクロワッサンさまと一緒に中央法王庁に行くと決めたのか、自分でもわかりません。だけど、お声掛けをいただいたということは、わたしが必要とされている証なんだと思いました。そこでなら、わたしが背負うべき責任とわたしが生まれた意味を見つけられるんじゃないかと、思ったのです」
ずっと止まらなかった筆が止まった。クロワッサンさまは顔を上げてわたしの方を見て、しばらくして頷いた。
「あなたにもう少し期待しても良いかもしれませんね。将来の活躍を期待しています。中央法王庁へようこそ」
朝一番の陽ざしが窓を通って車内に注がれた。
わたしは窓を開けて、外に顔を出して、どんどん近づく中央法王庁の方を眺めた。
そこが、わたしの新たなスタートだ。
Ⅴ.キャンディケイン
キャンディケインは法王庁の庇護下にある極めて平和な村で生まれた。村で起きるいざこざは、大きくても酒飲みの言い争いくらいだった。
このような平和な生活をしている人々にとって、堕神は億無の中にさえ現れない存在だ。
キャンディケインの御侍は、優しくて温和な老婦人であった。近所でも有名な良い人であり、教会のシスターでもあった。
彼女にとって、カワイイキャンディケインは自分の子供のような存在だった。
彼女はキャンディケインを堕神との戦いに参加させなかった、更には普通の人間の子どもに見せかけ自分の保護下においた。
彼女はキャンディケインを未知の危険に直面させたくなかった、たとえ能力があると知っていても。
そして法王庁の存在もあって、村人たちも彼女のやり方を黙認してきた。
どうせ……怪物たちは、彼らを傷つけられない……
どうせ……怪物たちは、遅かれ早かれ誰かによって処分される……
どうせ……いつか解決する。
自分の御侍がこの世を去るまで、キャンディケインは一回も怪我をしたことがなかった。
彼女は、自分はこのような生活に満足しているのだろうと思っていた。
しかし、いつしか、法王庁からやって来た食霊たちによって、彼女の考え方は変わった。
前までの彼女は、何も知らずただ法王庁から与えられた安寧を享受していた。だが、そこの食霊たちが村のために血を浴びて戦っている姿を見てから、彼女は自分を疑うようになった。
自分も食霊なのに、どうしてずっと他人の庇護下にいるのだろう?
フィッシュアンドチップスが怪我するまで、彼女は自分の力で他人を守ろうと考えたこともなかった。
あたたかな光が彼女の手から溢れ出て、友人の身体にある酷い傷が治るのを見て。
その瞬間、彼女の心にはかつてない満足感が生まれた。
フィッシュアンドチップスやプレッツェルたちがやって来たことで、キャンディケインに自分を変えたいという思いを芽生えさせた。そして、クロワッサンの到来は、彼女に自分を変えるきっかけを与えた。
村人たちの引き留めと自分の動揺から、彼女は自分の弱さを感じた。
クロワッサンと手を繋いで別のスタートに向かうことは、彼女の生涯を通して最も大きな冒険なのかもしれない。
中央法王庁に行ったキャンディケインは相変わらず臆病で不器用だった、いつもおどおどしながら見知らぬ全てを見ていた。
しかし、以前と違い、彼女は一生懸命自分を変えていた。
彼女は自ら進んで、彼女にとって避けられない相手である怪物の事を知ろうとし始めた。
そして、自分の意見も口にするようになってきた。
中央法王庁に来たばかりの頃は、
部屋への帰り方がわからなくなって泣いたこともあった、
何もない所で転ぶこともあった。
まだ法王庁の皆と完全に打ち解けていないし、
自分の未熟な考え方を忙しいクロワッサンに無視されることもあった。
しかし、全員が彼女の成長を感じていた。
元々彼女に期待をかけていなかったクロワッサンですら、彼女の成長を見て時折淡い笑顔を浮かべるようになった。
もしかすると彼女は、自分の力だけで皆の希望を追えるほどの存在に、いつかなれるかもしれない。
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