食霊フェスティバル・ストーリー
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目次 (食霊フェスティバル・ストーリー)
食霊フェスティバル
Ⅰ『食フェス』開催!?
春一番も吹き、桜の島もあたたかくなってきた。日が暮れて夜が深まった時間の今も、町中には人が溢れていた。
そんなある日の晩、めずらしく○○(主人公名)がおでんの店に顔を出す。そこには、土瓶蒸し、うな丼、湯葉の野菜春巻きと厚揚げ豆腐がいた。
蘇生十日
桜の島 おでんの店
湯葉の野菜春巻き「何かあるときは、お呼びくだされば良いものを。ご足労頂き、申し訳ありません。」
主人公「いやいや、頼み事があったんだから、こっちから出向くのは当然。それにこういう機会でもなきゃ、おでんの店にもなかなか来れないしね。」
おでん「いつでも気楽によってくださいな。時間など気にせず。御侍様がいらしてくれたらあたしも嬉しいですし。」
○○に頼まれた飲み物をテーブルに出し、おでんは優しい笑みを浮かべた。
厚揚げ豆腐「………………。」
そんな様子を、湯葉の野菜春巻きの影に隠れてじっと見つめている少年の姿が、御侍の目に入る。
主人公「厚揚げ豆腐も、こんな遅い時間に呼び出してごめんね。今日はなかなか仕事が終わらなくてさ。」
厚揚げ豆腐「……まだ全然遅い時間じゃねぇよ。見た目がガキだからって、ガキ扱いすんな!」
主人公「ご、ごめん……そんなつもりはなかったんだけど。」
うな丼「ハハッ! 御侍、気にするな。こいつはいつだってこんな感じだ。お酒も飲めないお子様だ。100パーセントのオレンジジュースはうまいか?」
厚揚げ豆腐「うな丼……テメーはいっつも俺をバカにしやがって! 酒が飲めないんじゃねぇ、うまいから飲んでるんだ! この、100パーセントオレンジジュースをな!!」
ジロリとうな丼を睨みつけ、そう主張する厚揚げ豆腐に、うな丼は堪えきれず、笑ってしまった。
うな丼「こういう奴だ。御侍、あまり真剣に取り合わない方がいい。まぁ、慣れれば可愛いものだ。」
土瓶蒸し「たまに厚揚げ豆腐が来ると、ふたりはこんな様子ですよ。まぁ、もはやここでは、当然の光景ってやつですね。」
キリキリした表情で御侍を睨みつける血気だった厚揚げ豆腐以外は、皆穏やかなムードだった。
おでん「さて……御侍様。どうぞ、こちらを。お前さんの好みと、今日仕入れた商品から、簡単なおでん盛り合わせを用意しました。他に食べたいものがあれば、言ってくださいな。サービスしますよ。」
主人公「ありがとう、おでん! ここの地酒は美味しいし、おでんも美味しいし、言うことなしだね!」
ご機嫌な様子でそう言ってから、○○は真剣な顔で湯葉の野菜春巻きと厚揚げ豆腐に向き直って背を正す。
主人公「それで……その。ふたりに、相談なんだけど。」
湯葉の野菜春巻き「ああ、はい。売り上げ向上のための企画でしたっけ?」
主人公「そうそう。今期はうちのレストラン、売り上げが悪くってさ。何か、派手な企画を……って考えてるんだけど。」
湯葉の野菜春巻き「ああ、その為の良い案が浮かばない、と言うことでしたね。けれど御侍様、ひとつお伺いしておきたいことが――何故、その相談を私に?」
主人公「何故って? もしかして、困らせたかな……?」
湯葉の野菜春巻き「そういうことでなく。商売のことでしたら、それこそここにいる土瓶蒸しでも、光耀大陸の佛跳牆でも良かったのでは、と思いましてね。」
主人公「うん。最初はそう思ったんだけどさ。商人のウイスキーに声をかけたら、「自分はイベントを企画するような大事には不向きだ」って断られてさ。」
主人公「彼のことだから謙遜だと思うけどね……どっちにしろ、確かに私が相談したいのは『イベント企画』だ。それなら、君たちのような『なんでも屋』に相談した方が、面白いアイデアを提供してもらえるかなって。」
湯葉の野菜春巻き「なるほど。そういうことでしたら、私たちは相談に乗れるかもしれません。」
湯葉の野菜春巻きは目を細めて深く頷く。
湯葉の野菜春巻き「我々はイベント企画のようなことも頼まれることが間々あります。今回お声かけ頂けたのも何かの縁。全力でお手伝い致しましょう。」
厚揚げ豆腐「……ま、湯葉の野菜春巻きがそういうならな。俺も仕方ねぇから協力してやるよ。」
あからさまな不満顔で、厚揚げ豆腐は口先を尖らせてそう言った。
湯葉の野菜春巻き「さて、話を戻しましょう。実は、御侍様から相談があった段階で、何か良い企画がないか考えてみました。」
湯葉の野菜春巻き「そこで提案したいのが、『食フェス』です。」
主人公「『食フェス』?」
その単語で御侍の頭に浮かんだのは、『食スタ』である。星辰に行われたとある企画番組だ。
湯葉の野菜春巻き「『食フェス』……正式名称は『食霊フェスティバル』。このティアラには、芸事に優れた食霊たちがたくさんいます。彼らに出演頂き、一芸披露してもらいます。」
その企画内容は、こうして耳にしただけでもとても楽しそうだ。食霊たちの芸を一か所で見られるとなれば、確かに集客も見込めそうだ。
湯葉の野菜春巻き「御侍様のレストランには、広い庭がありますね。そこに、舞台を作ります。ビュッフェスタイルにしておけば、より多くの客を呼べることでしょう。」
主人公「いいね。でも……みんな、参加してくれるかなぁ。」
湯葉の野菜春巻き「御侍様に頼まれたら、無下にする食霊はそうそういませんよ。」
厚揚げ豆腐「断られるとしたら、テメーの人望がないせいだな!」
主人公「うっ……! それがはっきりしちゃうのはイヤだな。私の誘いに、食霊のみんなは乗ってくれるのかなぁ……無理強いはしたくないからな。」
湯葉の野菜春巻き「御侍様、ちょうどここに芸達者な者がいるではありませんか。彼らに参加について頼んでみたらどうでしょう?」
うな丼「ん?」
土瓶蒸し「それは、よもや我々のことでしょうか?」
うな丼があからさまに面倒くさそうな顔で御侍を見る。土瓶蒸しはまんざらでもない様子でニコニコと笑顔を浮かべていた。
うな丼「御侍。拙者はそのような申し出、勘弁願いたい。」
土瓶蒸し「そうですねぇ……私は、御侍の為とあらば、新作和歌を作らせて頂きますよ?」
主人公「ひゃっ、交渉前に結果が出てしまった……!?」
湯葉の野菜春巻き「話が早くて助かりますね。御侍に人徳があるおかげでしょうね。」
主人公「うな丼にはにべもなく断られたけど?」
湯葉の野菜春巻き「まぁまぁ。彼は人前に出るのは得意ではないみたいですからね。」
主人公「……うな丼。」
うな丼「そんな悲しそうな顔をされても、答えは変わらぬ。」
そういいつつも、御侍の視線に耐えかねたのか、うな丼は長い溜息をついた。
うな丼「わかった、わかった。『食フェス』への出場は無理だが、その代わり、何か拙者で手伝えることがあれば手伝おうぞ。」
主人公「え? ホント?」
うな丼「荷物持ちとかどうだ? 今回は陰ながら御侍を支えさせてくれ。」
主人公「うな丼……! ありがとう!」
土瓶蒸し「御侍はん、桜の島での食材手配は私にお任せを。商人としても、御侍はんの企画に協力できたら嬉しく思います。」
主人公「ありがとう! 土瓶蒸し! 嬉しいなぁ……!」
おでん「良ければあたしも協力しますよ。『食フェス特製おでん盛り合わせ』を提供させてください。」
主人公「えー!? ホントに!? ありがとう!! みんな優しいなぁ……!!」
感動で胸を震わせる御侍は、うな丼に振り返って、真剣なまなざしでまっすぐに彼を見つめる。
主人公「――うな丼。」
うな丼「な、なんだ。」
主人公「一旦、君の『食フェス』参加は諦めようと思う。でも、完全に諦めたわけじゃない……当日まで、口説かせてもらおうと思う!」
うな丼「それは……なんとも迷惑な。」
あからさまに迷惑そうにうな丼は呟き、苦い表情を浮かべる。
土瓶蒸し「御侍はん。光耀大陸には佛跳牆という商人がいます。彼は御侍はんが頼めばきっと手伝ってくれると思いますよ?」
主人公「そっか! ひとりで食材探しは大変だもんね。景安商会にも声をかけてみよう。」
湯葉の野菜春巻き「では御侍様、さっそく行きましょうか。善は急げです。今からなら、船の最終便に間に合いますよ。」
湯葉の野菜春巻き「チケットは手配済です。ご安心を。」
主人公「そ、そうなの? すごいな、湯葉の野菜春巻きは。」
湯葉の野菜春巻き「フフッ、御侍様の手伝いをすることはわかっていましたからね。当然です。」
主人公「でも、うな丼の分は? そこまではわからなかったよね?」
湯葉の野菜春巻き「ひとりくらい追加でチケット手配はできますよ。そのあたりはお任せを。」
うな丼「拙者は、今晩はゆっくり酒盛りをする予定だったのだが……。」
湯葉の野菜春巻き「お酒は船でも飲めます。うな丼はご存知ないかもしれませんが、最近の船は洒落たラインナップを揃えておりますよ。」
うな丼「ほう……そういうことなら、やぶさかではないな。」
湯葉の野菜春巻き「では、おふたりとも、行きましょうか。おでん、今日の分はつけでお願いします。また近いうち来ます故。」
おでん「はいはい。近いうち、お待ちしてますよ。」
うな丼「ふむ? 何かありそうか?」
土瓶蒸し「御侍様の行く先、平穏であるとは限りませんからね。」
うな丼「なるほど……それは確かに。」
主人公「ちょっと!? ふたりとも、人をトラブルメーカーみたいに言わないでくれない!?」
そうして『食フェス』の開催を決めた御侍は、湯葉の野菜春巻きと厚揚げ豆腐、そしてうな丼の三人とともに、船着き場へと向かうのだった。
Ⅱ.参加アーティストは誰?
コーラ、ハンバーガー……芸達者な食霊はたくさんいる。○○には頼みたいと思う食霊ばかりだった。だから、誰に声を掛けるかを相談することにした。
蘇生十日 夜
桜の島 船着き場
湯葉の野菜春巻き「ブルーチーズの演奏会に厚揚げ豆腐と一緒に行ったことがあります。あれは、大変素晴らしかったです。ねえ、厚揚げ豆腐?」
厚揚げ豆腐「……まあ、悪くはなかったかな。俺が一応、席を立たずに最後まで聞けたし。」
うな丼「ブルーチーズが出るならオペラも外せないであろう! 彼らは同じ劇団だからな、ブルーチーズと一緒に出演交渉をしてみたらどうだ?」
主人公「いいね! でも、困ったな。参加者の確保は最優先――けど、皆がすんなりOKしてくれるとは限らない……参加してほしい人が多すぎて、料理を手配する時間をとれるかなぁ……。」
湯葉の野菜春巻き「では、彼らとの交渉には私がまわりましょうか?」
主人公「え? 良いの!?」
湯葉の野菜春巻き「勿論ですよ。私たちは御侍様のサポートをするために雇われたのですから。」
厚揚げ豆腐「湯葉の野菜春巻きは口がうまいからな! 皆騙されて誘いに乗ってくれるぜ!」
湯葉の野菜春巻き「……厚揚げ豆腐、その言い方はどうかと思いますよ。」
厚揚げ豆腐「へへっ! 事実じゃんか!!」
湯葉の野菜春巻き「ふぅ……貴方にはいろいろ教えなければならないことがありそうですね。」
湯葉の野菜春巻き「さておき。話を進めましょうか。厚揚げ豆腐。貴方は御侍様と共に光耀大陸へと向かってください。私と貴方は別行動となります。」
厚揚げ豆腐「え! なんでだよ?!」
湯葉の野菜春巻き「おや、自信がありませんか? 貴方には、是非とも御侍様の傍で直接のサポートをお願いしたいのですが……。」
そう朗らかに笑って、湯葉の野菜春巻きが厚揚げ豆腐の肩に手を置いた。そしてその耳元に顔を近づけ、小声で何やら呟いた。
厚揚げ豆腐「……よ、余裕に決まってんだろ! 俺を誰だと思ってんだよ!!」
湯葉の野菜春巻き「ええ、ええ。厚揚げ豆腐ならそう言ってくれると思っていました。」
湯葉の野菜春巻き「頼みましたよ。御侍様から今回のイベントについて手伝いを頼まれたのは、私たちふたりですからね。」
厚揚げ豆腐「ま、任せとけ! 俺はしっかりこの仕事をやり遂げてやるぜ!」
厚揚げ豆腐は強く胸元を叩いてみせる。何を言ったのかわからないが、すんなりと湯葉の野菜春巻きは厚揚げ豆腐を説得してしまった。
うな丼「厚揚げ豆腐、お主、随分と声が震えているようだな。不安なのか?」
厚揚げ豆腐「む、武者震いだ!! ざっけんな!」
主人公「さて、これで今後の方針が決まったね。『食フェス』の出場メンバーとの交渉は湯葉の野菜春巻きに頼んで、厚揚げ豆腐には私についてきてもらう……。」
湯葉の野菜春巻き「お任せ下さい。私たちふたり『なんでも屋』として、御侍様のお役に立てるよう、力を尽くしましょう。」
主人公「ありがとう。それで、うな丼は……どうする?」
うな丼「言うまでもないであろう? 拙者ができるのはお主の荷物持ちくらいだ。だから、御侍と共に行こうぞ。」
湯葉の野菜春巻き「御侍様、レストランの準備は私の方で手配しておきます。なかなかゆっくりできる時間を取れないでしょうし、今回は食材探しを兼ねて旅を楽しんできてください。」
主人公「あははっ! ありがたい申し出だけどね、そういう訳にはいかないよ! 食材を手配したら……うん、二週間ももらえたら十分!!」
湯葉の野菜春巻き「いえいえ、もっとゆっくりしてきてくださいませ。私も参加者に声を掛けるのに、それなりの時間を要しますしね。ええ、一か月くらい、旅行気分で漫遊してきたら良いかと。」
主人公「うん、ありがとう! でも、ホントすぐ帰るから! だから、勧誘は頼んだよ!」
○○は皆の顔を見回してから、深く頷いた。
主人公「……そういえば。さっき君、厚揚げ豆腐に何を言ったの? 厚揚げ豆腐がすぐ私の同行にOKをしたからビックリしたんだけど。」
湯葉の野菜春巻き「ああ……そんな大したことは言ってませんよ。」
湯葉の野菜春巻き「彼は、まだ一人前ではないと自分で思っているらしく。御侍様の傍でのサポートは重要な任務、それをやり遂げられなければ、未熟者だ、と。」
主人公「そんなこと言ったの!? 厳しいなぁ!!」
湯葉の野菜春巻き「いえ、さすがにそこまでは。ただ、重要な任務だから、無理にやれとは言わないと伝えました。私としては、彼に無理をさせたくありませんので。」
主人公「なるほどねぇ……。」
その手腕に○○は驚きつつも、むしろ安心して勧誘を任せられるなと思う。
主人公「あ、そろそろ乗船の時間だ。湯葉の野菜春巻き、レストランのほう、よろしくね!」
○○は、湯葉の野菜春巻きに手を振った。そして、厚揚げ豆腐とうな丼に振り返る。
主人公「私たちは光耀大陸へ向かおう!! 食材探し、頑張るぞー!!」
こうして、『食フェス』に出演メンバーへの交渉は湯葉の野菜春巻きが担当し、御侍は厚揚げ豆腐、うな丼のふたりと光耀大陸へと向かうことになった。
Ⅲ.会談
今日も麻婆豆腐の店は賑わっており、軽快な声が響き渡る。
麻婆豆腐「夕ー! 三番テーブルさんの料理、できたよ!!」
夕「ああ、わかった。麻婆豆腐。」
これはこの店ではよく見る光景だった。かつて町で暴れた夕であったが、そんな彼の事情を理解してくれる町民も増えてきている。
蘇生十一日 昼
光耀大陸 麻婆豆腐の店
夕「待たせたな。特製激辛麻婆豆腐だ。」
テーブルの中央に置かれた麻婆豆腐は見るからに辛そうで、○○は「うっ」と小さく声を漏らし仰け反った。
北京ダック「『辛くてうまい』とここの女主人は良く仰っていますね。」
佛跳牆「麻婆豆腐は、放っておくと果てしなく辛くしてしまうからな……。」
微笑む北京ダックと対照的に、苦い顔を佛跳牆は浮かべた。そこに、麻婆豆腐がやってくる。
麻婆豆腐「御侍、今日は来てくれて嬉しいよ。特別辛くしておいたからね、食べて食べて!」
主人公「う、うん……そう、だねぇ……。」
満面の笑みを浮かべる麻婆豆腐に、まさか『無理』とは言えずに、○○は覚悟を決めて赤く染まる麻婆豆腐に手を伸ばした。
主人公「よしっ! はむ……!! うぐっ……!? くぅ~! い、いたた……!!」
勢いよく一口食べて、○○は全身を震わせる。辛すぎるものは『痛い』。それをまざまざと経験させられる。
麻婆豆腐「どう? 美味しい?」
主人公「お、美味しい……けど、辛い――ね。」
震えながら答えた○○に向かって、麻婆豆腐が満面の笑みを浮かべ、サッと指を立てる。
麻婆豆腐「『辛くて、美味しい!』でしょ? 御侍、言葉には気を付けてよね?」
主人公「……そうだね、言葉の選び方、間違えたよ。」
北京ダック「フフッ……よく同じようなことを言って麻婆豆腐に怒られてますよね、佛跳牆は。」
佛跳牆「俺は、真実を口にしただけ……痛っ!」
麻婆豆腐「さっき御侍にも言ったけど! 言葉の選び方を間違えないでくれる?」
バシッと容赦なく、麻婆豆腐は佛跳牆の頭をはたいた。そして、口先を尖らせ、ムスッとした表情で麻婆豆腐はキッチンへと戻っていく。
北京ダック「さて御侍様、いつもの茶番も済みましたし、話を始めましょうか。」
北京ダック「佛跳牆に頼み事があると聞きました。ここ――光耀大陸での話なら、吾らも協力できるかと思い。良ければお話聞かせていただけませんか?」
主人公「竹煙質屋の皆にも協力してもらえたら嬉しいよ! えっと……私のレストランでイベントを開催しようと思っていてさ……。」
○○は『食フェス』の詳細を話し、そこで光耀大陸の料理も提供するため、食材探しを現地の者に頼みたい旨を説明する。
佛跳牆「なるほどな。ここでの食材収集は、景安商会に任せてもらおうか。」
北京ダック「ふむふむ……でしたら、吾ら竹煙質屋はナイフラストで食材集めをしましょうか。ここからも近いですし。」
主人公「ありがとう、ふたりとも!! ここまで足を運んだかいがあったよー!!」
獅子頭「話は聞いたよ、御侍様! 僕たちも頑張って協力するよ。ね、松鼠桂魚。」
松鼠桂魚「うん! なんでも頼んで!!」
笑顔のふたりがテーブルの傍にやってきてそう告げる。
主人公「あ! そうだ、獅子頭には、別に頼みたいことがあるんだ!」
獅子頭「僕に? なに?」
主人公「獅子頭はさ、からくり作ったりできるんだよね? それで舞台を作ってほしくて。」
○○は簡単に『食フェス』についての説明をする。
獅子頭「御侍様の頼みだし、できることはするけど……からくりが必要な舞台なの?」
主人公「勿論! 舞台が変形したらかっこいいよね? それだけで大入り満員御礼だね!」
子どものように目を輝かせる○○に若干引きつつも、獅子頭は頷いた。
獅子頭「わかったよ、御侍様の要望なら、頑張って作るよ。」
主人公「ありがとう、獅子頭!! それでね、追加でもうひとつお願いがあるんだけど……花灯篭を舞台で作ってもらえない?」
獅子頭「え? 舞台で……?」
主人公「獅子頭の作る花灯篭はすごく綺麗で、見事だからさ!」
獅子頭「花灯篭は確かに綺麗だけど……作る過程見て、楽しんでもらえるかなぁ。」
主人公「うん! 絶対、楽しんでもらえると思う!」
獅子頭「でも……黙々と作ってるだけになっちゃうと思うし、見世物としてはどうかなぁ。」
主人公「だったらさ、松鼠桂魚にその様子をスピーチしてもらうのはどう? 何してるかがわかれば、更に楽しめること間違いなし!!」
自信満々に胸をたたいて言い放った御侍に、松鼠桂魚は頷いた。
松鼠桂魚「御侍様のお願いなら、勿論あたしは協力するよ! 一緒にがんばろうね、獅子頭。」
その言葉に、獅子頭も不安げな表情を浮かべながらも、コクリと頷いてくれた。
厚揚げ豆腐「……テメー、結構図々しい野郎だったんだな。」
それまで黙ってテーブルに座ってオレンジジュースを飲んでいた厚揚げ豆腐が、ポソリとそう呟く。
主人公「え!? 嘘!? 私、図々しかった!?」
うな丼「ハハッ! お主らしいな。そういうところが食霊を引き付けているのやもしれぬ。」
主人公「笑うなんてひどいよ、うな丼。」
うな丼「いやはや……御侍よ、なかなか見事な勧誘であったぞ! 拙者は、荷物持ちとしていればよさそうだな。」
それまでお酒を飲まずにいたうな丼は、手元のお酒を一気に飲み干した。そして空いたグラスに瓶からお酒をトクトクと注ぐ。
うな丼「さすがに今日は泊まりであろう? 光耀大陸の地酒なんぞ気楽には飲めぬからな。この機にいろいろ試したい。」
主人公「……いいけど、ほどほどにね。明日は早いよ?」
ご機嫌な様子で酒を飲むうな丼の隣で、○○は大きなため息をついた。
うな丼「どうした、御侍? 順調に事が運んでいるのに、何か憂うことでもあるのか。」
主人公「うーん……さっき、厚揚げ豆腐が言ったことが気になってさ。私、確かにちょっと図々しかったのかなって思って。ほら、食霊って御侍に逆らえないのに、それを利用してるのかもって。」
厚揚げ豆腐「OKもらって凹む奴がいるかよ! 変な奴だな、テメーは!!」
主人公「そ、そうかな?」
厚揚げ豆腐「どうするか決めるのはいつだって自分自身だ。テメーが心配することじゃねぇ。」
キッパリと言い切られ、○○は感心した様子で厚揚げ豆腐を見る。
主人公「……厚揚げ豆腐って、見た目と違って大人なんだね。すごいや、尊敬する。」
厚揚げ豆腐「そ、尊敬……!? なんだ突然……。」
困惑した様子で呟いた厚揚げ豆腐は、その直後にハッとして声をあげる。
厚揚げ豆腐「て、テメー! 今、何気に俺をガキだって、ディスりやがったな!? クソッ!」
主人公「え? え? そ、そんなつもりは……。」
厚揚げ豆腐「いーや、はっきり言ったぞ、『見た目と違って』ってな! 謝れ!!」
主人公「あ、うん。それは確かに言ったね。ごめん、私が悪かった。」
素直に謝った○○に、困惑を極めた表情で、厚揚げ豆腐は頭を掻きむしる。
厚揚げ豆腐「す、素直に謝るくらいなら、最初から言うんじゃねぇよっ!!」
それを見て、うな丼が楽しそうに笑う。
うな丼「湯葉の野菜春巻きと別れて大丈夫かと心配していたが、いらぬ世話だったようだ。安心したぞ。」
厚揚げ豆腐「うな丼、テメーまで俺をガキ扱いしてんじゃねー!! 貸せっ!!」
そう叫び、うな丼が飲んでいたグラスを奪った厚揚げ豆腐は、その中身を一気に飲み干した。
うな丼「おい……! 人の酒を……!!」
厚揚げ豆腐「うっ……!? ぐあーっ!! なんじゃこりゃあっ!! 喉が焼ける……!!」
厚揚げ豆腐はそう叫んで、そのままバタンと○○に向かって倒れ込む。
主人公「だ、大丈夫!? 厚揚げ豆腐!!」
厚揚げ豆腐「く……っ! こ、これくらいどうってこと、ね……え、よ……。」
荒い息をしながら呟いた厚揚げ豆腐は、次第にその目が閉じていく。暫くすると○○の胸の中ですぅすぅと寝息を立て始める。
うな丼「こいつは腐っても食霊だ。この程度で死ぬことはない。それより○○、今晩は一緒に食って騒ごうぞ!!」
酒に酔ってご機嫌なうな丼に、○○はがしっと肩を引き寄せられた。そんなうな丼に、○○は覚悟を決める。
主人公「……そうだね、こうしてゆっくり君たちと話せるのは久しぶりだし、積もる話でもしながら楽しく飲み食いしようか!」
そして夜遅くまで、彼らは飲み明かす。翌日、頭を抱えることになるだろうことからは目を逸らして。
Ⅳ.『食フェス』準備開始!
湯葉の野菜春巻き「ふむ……準備は万端。御侍様の名前を出せば、皆すぐに『食フェス』参加についてOKしてくださった。あの方は食霊から多大なる信頼を得ているようですね。」
目の前にはたくさんの食霊が集っている。まとめて説明をして許可を得ようとしたのだが、皆二つ返事で引き受けてくれた。
蘇生二十日 昼
グルイラオ 御侍のレストラン
湯葉の野菜春巻き「さて、皆さん。御侍様は現在、食材の調達に出掛けています。私たちはここで会場準備をしながら待つことになります。とはいえ、『食フェス』開催まで約一か月ほどあります故。各々の生活を優先してください。」
ハンバーガー「なんだよ、御侍。買い出しなら、俺にも声かけてくれたらいいのによ。久しぶりに御侍に会えるの楽しみにしてたのに、まさかいないなんてな。」
コーラ「そうだな! 御侍の奴、水臭いぜ!!」
ハンバーガーとコーラは最初に○○が参加者として名を挙げた食霊だ。その事実を知った彼らは、今すぐにでも自分たちの技を○○に見てもらいたく、うずうずしていた。
獅子頭「こんにちは。御侍様に頼まれて、舞台を作る為に来たよ。」
酸梅湯「申し訳ありません、もっと早く伺えたら良かったのですが。いろいろ準備に手間取ってしまいまして。」
湯葉の野菜春巻き「おや、酸梅湯ではありませんか。どうなさいました? 獅子頭のことは御侍様から連絡がきたので知っていましたが……。」
酸梅湯「うちのボスに、この子の付き添いも兼ねて、レストランのほうを手伝ってほしいと言われまして。」
湯葉の野菜春巻き「ふむ、そうですか……北京ダックがそのようなことを――いえいえ、貴方のように有能な方が手伝ってくださるのは、とても助かりますよ。」
一瞬意外そうな顔をするも、すぐに湯葉の野菜春巻きは笑顔を取り戻す。そしていつもの優しい微笑みを浮かべた。
湯葉の野菜春巻き「御侍様の開催するイベントです。御侍様に仕える、我々食霊、皆の力を合わせて、必ず成功させねばなりません。共に、頑張りましょう。」
僅かに口端を上げて、湯葉の野菜春巻きが手を差し出した。その目は笑ってない――そのことに気づいて、酸梅湯は小さく嘆息する。
酸梅湯(なかなか、食えない男のようですね)
酸梅湯「そうですね、よろしくお願いします。」
酸梅湯は湯葉の野菜春巻きの手を取って、同じように笑っていない瞳を向けて、強くその手を握り返した。
Ⅴ.見知らぬ土地にて
竹煙質屋の面々がナイフラスト方面の食材集めを買って出てくれたため、○○は厚揚げ豆腐、うな丼と一緒にパラータへと来ていた。
蘇生二十四日 昼
パラータ 町のカフェ
厚揚げ豆腐「俺、パラータって初めて来たんだけどよ! 結構面白れぇ土地だな!!」
主人公「そうなの? 『なんでも屋』をやってるくらいだから、いろんな場所に行ってると思ってたけど。」
厚揚げ豆腐「湯葉の野菜春巻きはそうかもしれねぇけど。俺はアイツと一緒にいるようになったの、最近だからな。」
主人公「へぇ……随分長く一緒にいるように見えるけど。」
厚揚げ豆腐「最近っつっても、テメーが生まれるずっと前から、アイツとは一緒にいるからな。俺たち食霊と人間は、寿命が違うんだ、忘れんじゃねぇぞ。」
厚揚げ豆腐「とにかく。湯葉の野菜春巻きと会うまでは、俺は基本的に寺で過ごしてたんだ。だから、外に出るようになったのはこの仕事を始めてからだ。」
厚揚げ豆腐「とはいえ、アイツは遠出するときはあんまり俺を連れていってくれねぇ。ガキ扱いしてんだ、クッソ!!」
主人公「なるほど、大事にされてるんだねぇ。」
厚揚げ豆腐「……テメー、俺の話ちゃんと聞いてたか!? なんでそういう話になるんだよ!!」
主人公「あはは! ごめんごめん。まぁ、それはそれとしてさ、食材もあらかた揃ったね。ちょうど二週間経ったし、明日レストランに戻ろうと思うんだけど。」
厚揚げ豆腐「え!? まだ早くねぇか!?」
主人公「そう? 予定通りだけど……むしろのんびりし過ぎたかなって思ってるくらいだ。」
厚揚げ豆腐「湯葉の野菜春巻きが言ってたじゃねぇか! テメーはいっつも忙しいから一か月くらいのんびりしてこいってよぉ!!」
主人公「で、でも……レストランのことが気になるしね?」
厚揚げ豆腐「俺さぁ、パラータも初めてだったけど、西パラータにも行ったことがねぇんだ! せっかくここまで来たし、行っておきたいぜ!」
主人公「う~ん……でも、西パラータの食材はここでもだいたい手配できちゃったからし。一応食材集めが理由の旅だから……。」
厚揚げ豆腐「現地に行かなきゃ手に入らねぇモンもある! 行くぞ、西パラータ!!」
主人公「もう……しょうがないなぁ。でも、確かに君の言う通り、現地でしか手に入らない食材もあるだろうしね。」
厚揚げ豆腐「やったぜ!! 御侍、テメー結構話がわかるじゃねぇか!!」
めずらしく満面の笑みを浮かべて、厚揚げ豆腐が叫んだ。そんな厚揚げ豆腐に、それまで黙っていたうな丼がため息交じりに呟いた。
うな丼「西パラータはここと変わらぬ砂漠地帯だ。それほどここと変わらぬと思うが。」
厚揚げ豆腐「なんだ、うな丼! うっせぇな!! 御侍がいいって言ったんだぞ、西パラータに行くんだ!!」
うな丼「御侍がいいなら、拙者は反対せぬがな。」
主人公「ご、ごめんね……うな丼。勝手に決めちゃって……もしかして、都合悪いかな?」
うな丼「拙者の用事はお主のお供だ。だから、すべてはお主次第。気にしなくて良い。」
主人公「くっ……! なんという優しさ……! うな丼、ありがとう!!」
潤んだ瞳で訴える○○に、うな丼は困った様子で眉を寄せた。
うな丼「そんな風に感謝されることは何もない。お主、よもや茶で酔ったか?」
主人公「お茶で酔うはずないでしょ。うな丼が私のこと慕ってくれてるって感じたからさ、嬉しかっただけだよ。」
そう告げて、○○は照れ臭そうに慌ててお茶を飲み干した。
蘇生二十五日 朝
パラータ 町の宿屋
主人公「おはよう~。ふたりとも、どうしたの?」
宿屋のカウンターにいた厚揚げ豆腐とうな丼を見かけ、○○はそう声をかける。
うな丼「ああ、手紙の発送を頼んでいた。」
主人公「へぇ、誰に出したの?」
うな丼「水信玄餅や土瓶蒸し……旅先からの手紙を喜ぶ者は意外と多いようでな。」
主人公「へぇ……。厚揚げ豆腐も手紙を? 誰に出したの?」
厚揚げ豆腐「あ? テメーには関係ねぇだろ。湯葉の野菜春巻きが離れて行動するときは報告を怠るなってうるさいんだ!! 仕方なく手紙を出してやってるだけだ!!」
主人公「……本当に大事にされてるんだねぇ。子どもを旅に出す親みたいだ。」
厚揚げ豆腐「だから!! ガキ扱いすんな!!」
主人公「あははっ! ごめんごめん。つい、ね。」
○○は厚揚げ豆腐の頭を撫でて、更に怒らせつつも、一息ついてふたりに向かって言った。
主人公「馬で移動できるよう、手配しておいたよ。いざ、行かん! 西パラータへ!」
Ⅵ.御侍様
レストランは食霊が集まり、騒がしくなっていた。
獅子頭が作った舞台は完成し、○○の希望通りの『変形移動舞台』。時間の関係でロボット型にはできなかったが、見事な出来栄えである。
蘇生二十八日 昼
グルイラオ 御侍のレストラン
湯葉の野菜春巻き「これは素晴らしい出来ですね。舞台の移動ができれば、どの席に座るお客さんにも傍で楽しんでもらえますよね。」
獅子頭「うん。御侍様の狙いもそれみたいだね。」
コーラ「それにしても、御侍のヤツ、まだ帰ってこねえのか?」
ハンバーガー「御侍なら店の様子が気になって、さっさと戻ってくると思ったけどよ。」
湯葉の野菜春巻き「そうですね……御侍様は二週間ほどで戻られると仰っていました。まぁ、当日までには戻られるとは思いますよ。」
コーラ「Too……Bad……さすがに当日いなかったら、オレは舞台には出ないぞ。」
ハンバーガー「それはさすがに異常事態だぜ。のんびりイベントなんかやってる場合じゃねぇ。」
湯葉の野菜春巻き「私の仲間が御侍様に同行しています。何かあれば彼から連絡が来ます。何かあればすぐに連絡をするよう、伝えていますから。」
ハンバーガー「実際に何かあったら、連絡なんてできねぇだろ。」
湯葉の野菜春巻き「仲間に連絡を取ってみますね。彼からは定期的に連絡があります故、現在御侍様がどちらにいるか、場所の把握は大体できていますので。」
湯葉の野菜春巻きの言葉に、一旦その場は落ち着きを取り戻す。
酸梅湯「………………。」
その様子を、酸梅湯は静かに見つめていた。
酸梅湯(彼の狙いは一体なんでしょう……これは、北京ダックに連絡をしておいたほうが良さそうですね)
Ⅶ.手紙
佛跳牆は、ひとり難しい顔をして、手紙を読んでいた。
それは、昨日麻婆豆腐の店に届いた手紙だった。その内容をどう解釈すべきか、佛跳牆は判断しかねていた。
蘇生三十一日 昼
光耀大陸 景安商会
魚香肉糸の後ろには北京ダックの姿がある。あとから竹煙質屋の面々と叫化鶏、松鼠桂魚も入ってくる。佛跳牆は視線だけ彼らに向ける。
叫化鶏「麻婆豆腐の店にいたらよォ、こいつらと鉢合わせてさ。」
北京ダック「そなたの元に手紙が届いていると聞き、寄らせていただきました。ちょうど、吾のところにも手紙が届いていましたので。」
佛跳牆「ほぉ……誰からの手紙だ。」
佛跳牆は顔を上げる。そして慎重な声で訊ねた。
北京ダック「手紙の主は、先達て御侍様のレストランに行かせた酸梅湯からです。少々気になる内容が書かれておりまして。」
北京ダックは一通の封書を佛跳牆へと渡す。代わりに佛跳牆は、先ほど見ていた手紙を代わりに差し出した。そして、互いに受け取った手紙に目を通す。
北京ダック「ええ、勿論ですよ。なので、ここに来ました。」
佛跳牆「すぐ御侍のレストランへ行こう。詳しいことは道すがら話せばいい。」
叫化鶏「いいけどよォ、何がどうなってンだァ?」
佛跳牆「いいから、黙って俺の言う通りにしろ。のんびりしている暇はない。」
叫化鶏「はいはい。わかりましたよ、ボス。オラはいつだってオメェの忠実な部下だ。」
半ば諦めた顔で肩を落とし、叫化鶏は答えた。そしてすぐに部屋から出て行く。
佛跳牆「行くぞ、グルイラオにある御侍のレストランへ。なにもなければ……いいがな。」
Ⅷ.探り合い
竹煙質屋の面々と景安商会の面々が、○○のレストランに着いたとき、店は騒然としていた。
ハンバーガー「マジかよっ!! 御侍が行方不明って!!」
コーラ「ヘイユー! 一体何がどうなってんだ!?」
星辰一日 朝
グルイラオ 御侍のレストラン
湯葉の野菜春巻き「先週、西パラータに行くという連絡が来て以来、仲間と連絡が取れません。ただの杞憂なら良いのですが……。」
湯葉の野菜春巻き「これまで彼は、場所を移動したら必ず報告の手紙を出してきました。西パラータに着いたなら、居場所を報告する手紙を必ず送ってくるはずです。」
湯葉の野菜春巻き「勿論、郵便事故の可能性は拭えません。けれど、あれから一週間……西パラータの食材はパラータからでも手配は可能。それほど長く滞在するのかと考えると、少々疑問です。」
ブルーチーズ「……確かに。御侍様は慎重なお方。何かあった可能性は否定できませんね。」
オペラ「ああ、心配だな。」
プリン「御侍様、大丈夫でしょうか……。探しに行くべきでしょうか?」
ゼリー「その方がいいかも! ゼリッチ、すっごい心配だよぉ~。」
マンゴープリン「フン! 御侍様は子どもじゃないんだから、そんな必要ないわよ!!」
ゼリー「マンゴープリン、すごく声震えてるよ~。やっぱり、御侍様が心配なんだね!」
マンゴープリン「だ、だだだ、誰の声が震えてるですって!? いい加減なこと言わないで!!」
レストランに集まった食霊たちが騒いでいる。湯葉の野菜春巻きの話を聞いて、どうするべきか、判断がつきかねているようだ。
湯葉の野菜春巻き「……そうですが――貴方は?」
北京ダック「私は北京ダックと申します。これは、何の騒ぎです?」
湯葉の野菜春巻き「ああ、貴方が――あの光耀大陸の情報屋ですか。お噂はかねがね。まさか、ここでお会いできるとは思いませんでした。」
北京ダック「形式的な挨拶はやめておきましょう。それより状況を教えていただけませんか? 御侍様が行方不明とのお話ですが。」
湯葉の野菜春巻き「……現在、御侍様と連絡が取れておりません。二週間程度でお仕事は終えられると仰っていたので何かあったのではないか、と。」
湯葉の野菜春巻き「私の仲間が御侍様に同行しているのですが、彼からの定期連絡も途絶えてまして。御侍様の身に、何かあったのかも、と。」
佛跳牆「なるほどな。」
湯葉の野菜春巻き「貴方は?」
佛跳牆「『初めまして』だろうか。俺は佛跳牆。光耀大陸の商人だ。」
湯葉の野菜春巻き「ああ、あの『景安商会』の……貴方のことも、よく聞き存じております。」
佛跳牆「ハッ! 悪い噂でないといいがな。それで、貴様は確か、桜の島を拠点にしている『なんでも屋』だったな。」
湯葉の野菜春巻き「知ってくださっているとは、なんとも光栄ですね。まぁ、要は小間使いのような、下働きを主として活動しています。」
佛跳牆「ふん、大した謙遜だ。まぁいい。それでこの騒ぎをどうするつもりだ?」
湯葉の野菜春巻き「どうする、と言われましても。現状では『様子見』としか答えられません。現在、確かな情報が何もないのです。今は『待ち』の状態です。」
佛跳牆「御侍の身に危険が迫っている可能性があるのに、随分と悠長だな。」
北京ダック「佛跳牆、ここは二手に分かれましょう。吾らはここで待ちます。そなたは御侍様を探しに行ってください。」
佛跳牆「ああ、そうしよう。」
佛跳牆「異論はないな?」
湯葉の野菜春巻き「……ええ。こちらとしては貴方が動いてくださって状況がわかれば、万々歳ですよ。」
湯葉の野菜春巻きが柔らかな声で笑う。その態度に、佛跳牆は綺麗に整えられた片眉を吊り上げた。
佛跳牆「気に入らないようだな? 文句があるなら聞いてやるから言ってみろ。」
湯葉の野菜春巻き「そんな怖い顔をなさらなくとも。行動が早いな、と感心しただけですよ。」
佛跳牆「じっと待っているのは性に合わないタチでな。気になることがあれば、己で動いて手に入れる。ずっとそうやってきた。」
佛跳牆「今回も同じだ。ここで呆けているよりは、よほど成果があるだろう。」
北京ダック「待っているほうが良い場合も、ありますけどね。」
佛跳牆は茶々を入れてきた北京ダックをジロリと睨む。だが北京ダックはまるで気にしていない様子で、鼻を鳴らしている。
佛跳牆「とにかく、俺は御侍を探しに西パラータへ向かう。叫化鶏、行くぞ!」
叫化鶏「え? オラも行くのか?」
佛跳牆「お前の力が必要だ。」
叫化鶏「オラの力が必要? いったい何があるんだよ、佛跳牆よォ?」
佛跳牆「何かあったときの保険だ。あの地域の堕神も強い。いいから、黙ってついてこい。」
叫化鶏「……へいへい。」
ボスに逆らっても無駄なことが身に染みている叫化鶏は、大人しく佛跳牆の後をついていく。
叫化鶏「あ、竹飯。今日の約束は、戻ってきてからで頼む。次は、朝まで飲もうぜェ。」
竹飯「わかったぜ! 御侍のために、頑張ってこいよ!」
タンフールー「タンフールーの大好きな御侍様、見つけてきて~!」
魚香肉糸「佛跳牆、ここのことは私たちに任せて。貴方は御侍様探しに集中してね。」
佛跳牆「ああ、助かる。」
佛跳牆「ああ、任せろ。」
仲間から見送られ、佛跳牆と叫化鶏のふたりは、○○のレストランを後にし、西パラータへと向かった。
Ⅸ.再会
西パラータで新たな食材も手配できた○○は、厚揚げ豆腐とうな丼のふたりとご機嫌な様子で夕飯を食べていた。
星辰一日 夜
西パラータ 町のレストラン
主人公「西パラータまで出向いて良かったな。新たな料理をレストランに追加できそうだ。」
厚揚げ豆腐「だろ!? やっぱ現地に足を運ぶって大事だよな!!」
主人公「あはは……ま、厚揚げ豆腐も楽しかったみたいだし、それが一番良かったよ。」
厚揚げ豆腐「あ!? べ、別にそんな楽しんでなんかいねぇよ! ちょ、ちょっとな? 初めて来る土地だし、浮かれちまったかもしんねぇけど!!」
うな丼「それで御侍、明日にはグルイラオに戻るってことで良いのか?」
主人公「うん、さすがにのんびりしすぎたからね。食フェスも来週から始まるし、朝イチで帰ろうか。」
厚揚げ豆腐「そんな急いで帰ることないだろ!? 『食フェス』はまだ先だ。だったら、ギリギリまでここにいたって……。」
うな丼「厚揚げ豆腐、もういいだろう。さすがに拙者もこれ以上看過できぬ。」
厚揚げ豆腐「あ!? な、なんだよ、うな丼! 何が言いたい!?」
うな丼「お主、激しく動揺しているではないか。拙者には手に取るようにわかる。お主は、嘘をつけるタチではない。嘘をつくのはやめておくほうが賢明だ。」
厚揚げ豆腐「はぁ!? お、俺が何の嘘をついてるっていうんだ!!」
うな丼「『嘘』は正確ではなかったかもしれぬな。言い直そう……『お主は、ここ最近は、ずっと本心では喋っていない』。」
厚揚げ豆腐「ど、どういうことだよ!?」
うな丼「御侍は食霊には優しいからな。騙されてくれるかもしれんが、拙者はお主のことを御侍よりもよっぽど理解しているつもりだ。」
うな丼「お前は易々と他人に懐かない。湯葉の野菜春巻きにすら、甘えた態度は見せない。天邪鬼なお前が、御侍に甘えている様子、おかしいと思わぬとも?」
そのときだった、店のドアが勢いよく開かれたのは。
厚揚げ豆腐「な、なんだ!?」
うな丼「ふむ、良いタイミングじゃないか。あとは、彼らに任せようか。」
佛跳牆「うな丼、手紙を送ってくれたことには感謝する。だが、書き方には疑問が残る。」
うな丼「ハハッ! 正解だったと思うぞ。ここに、お主を呼びだせたではないか。」
主人公「佛跳牆! それに叫化鶏まで! どうしてここに!? うな丼が呼び出したの?!」
訳が分からず目を丸くして、○○は叫ぶ。
うな丼「いやいや、拙者は近況報告をしたまで。水信玄餅や土瓶蒸しに手紙を出すときに、ついでに光耀大陸の麻婆豆腐経由で景安商会へも手紙を出しておいた。」
主人公「『御侍に危機の予感。可及速やかに行動を』を?」
佛跳牆が、うな丼から受け取ったと思われる手紙を見せてくれる。その内容に、○○はぽかんとしてしまう。
うな丼「秒を争うほどでもないが、拙者としては一秒でも早く動いてもらいたかったのでな。その想い、見事伝わる文面になったと自負している。」
うな丼「そのお陰でお主はすぐに動いてくれたではないか。拙者は今日あたりレストランで何かが起こるだろうと思っていたのでな。」
主人公「んん? ねぇ、今日、レストラン何かあったの?」
叫化鶏「あァ……レストランは今大騒ぎだぜェ、御侍が行方不明になったかもってよォ。」
主人公「ええ!? わ、私……行方不明になってるの!?」
困惑して、○○は叫ぶ。
叫化鶏「あァ、レストランにいる食霊、みーんな御侍のこと、すっげぇ心配してんぜェ。」
佛跳牆「西パラータに向かったことまではわかっていたからな。すぐにここへと向かった。グルイラオから来た料理御侍がいないか聞いて回って、ここを割り出した。」
主人公「そうなんだ……な、なんかひどく手間を取らせて、申し訳ないことを……。」
主人公「っていうか! グルイラオにすぐ帰ろう! 早く戻って皆を安心させなくちゃ。ねぇ、まだグルイラオの最終便ってあったよね!?」
○○は残りのご飯を急ぎかっこんで、急いで会計をし、店の外へと出た。
主人公「え、えっと……宿屋のキャンセルをして、船便の手配もしないと……。」
叫化鶏「ああ、船便の手配は良かったらオラがやるぜ。」
主人公「ホント!? 叫化鶏、すっごい頼りになる!! ありがとう!!」
叫化鶏「……御侍は優しいなァ。うちのボスにも見習ってほしいぜェ。」
叫化鶏「独り言さァ、ボス! 気にしないでくれ!」
そうして○○は厚揚げ豆腐、うな丼、佛跳牆、叫化鶏たちと大急ぎで、自分のレストランへと戻っていった。
Ⅹ.帰宅
○○は久しぶりに己のレストランへと戻ってきた。
到着が明け方になったので、皆寝ていると思って静かに家に入った○○だったが、そこには沢山の食霊たちの姿があった。
星辰二日 夜
グルイラオ 御侍のレストラン
ハンバーガー「御侍!? 良かった、無事だったか!!」
コーラ「ヘイユー! 心配したぜ! このまま永遠の別れになっちまったらどうしようかと思ったぜ!」
○○が室内に入った途端、ハンバーガーとコーラが抱きついてきた。
タンフールー「御侍しゃま~! 元気そうだ! 良かった~!」
焼餅「ああ、怪我もないみたいで、あっし、安心しやした!」
竹飯「だな! お帰り、御侍!」
酸梅湯「良かったです、御侍様。何事もなかったようで。昨今、どのような悪い輩がいるかわかりませんから……。」
魚香肉糸「本当に。良かった。」
寝ずに起きていたのだろう食霊たちが一瞬で御侍の周りに集まってくる。見れば周囲には眠気に勝てずに寝てしまっただろう食霊たちの姿も見えた。
北京ダック「御侍様、ご無事でなによりです。」
佛跳牆「俺が探しに行ったんだ、当然だろう。」
北京ダック「西パラータで情報を得やすいよう手配した吾の貢献をお忘れなく。」
佛跳牆「ふん! お前はいちいちうるさい奴だ……。」
主人公「聞いたよ、私と連絡取れなくてみんなに心配かけちゃったんだね。ごめんね……。」
魚香肉糸「いえ、私たちが心配し過ぎてしまっただけですわ。御侍様にもしも危険があったら……と、皆常に気にかけていることですから。」
竹飯「御侍は、俺たち食霊と違って、体力も生命力も弱いからな。」
酸梅湯「その基準がわからず、我々は心配し過ぎてしまうのです。ですのでこれは御侍様の落ち度ではございません。」
主人公「みんな……ありがとう。嬉しいよ……でも、心配かけて、本当にごめん。」
がっくりと項垂れて、○○はあたたかな言葉をかけてくれる食霊たちに深々と頭を下げた。
湯葉の野菜春巻き「御侍様。今回のことは完全に私のミスです。深く謝罪します。」
主人公「どうして君のせいなの?」
湯葉の野菜春巻き「御侍様は二週間ほどで戻られると仰っていました。ですから、私はそれを皆に伝えてしまったのです。ゆっくりしていいと伝えたのは私なのに……。」
湯葉の野菜春巻き「また、西パラータに向かうという手紙が厚揚げ豆腐から届いた後、連絡がなかったこともあり……事故か彼が出し忘れたかはわかりませんか……その辺はあとで彼に話を聞くことにします。」
厚揚げ豆腐「ひえっ! お、俺は悪くないぞ!! 俺は――」
湯葉の野菜春巻き「とにかく、御侍様が無事でよかったです。ホッとしました。」
朗らかな笑顔を浮かべ、湯葉の野菜春巻きがそう告げる。
主人公「君にここのことをお願いしたのは私だ。こちらからちゃんと確認するべきだった。」
主人公「でも……こんなこと言うと怒られるかもだけどさ。個人的には今回のこと、結果的には良かったよ。みんなにどう思われてるか、正直心配してたんだよね。」
主人公「御侍からの頼み事ってさ、きっと食霊の皆は断れないよね。だから、意思に反して無理矢理従わせてないかってさ。」
主人公「でも、私がいなくなったこと、皆本気で心配してくれてたみたいだった。」
主人公「心配かけたのに、こんなこと言うの良くないってわかってるけど……でもさ、皆に好かれてるんだってわかって、今すごい嬉しい。ありがとう、皆!」
うな丼「お主は相変わらず能天気だな。まぁ、そういうところが食霊に好かれるのだろう。」
土瓶蒸し「おや、お戻りになりましたか、御侍様。」
主人公「あ、土瓶蒸し! 君も来てたの? まだ『食フェス』まで日があるのに……。」
土瓶蒸し「ええ、桜の島での食材の手配も終わりましたので。グルイラオの空気を感じながら、新たな詩を書きたくなりましてね。」
主人公「もしかして……君にも心配かけた?」
土瓶蒸し「いえ。うな丼が同行してましたからそれほどには。佛跳牆にも連絡をしたと手紙をもらっていましたのでね。」
主人公「そうだったね。」
うな丼「土瓶蒸しはどちらかというと『待ち』のタイプだ。反して、佛跳牆は『動』のタイプ。すぐに何かしら手を打つだろうと思ってな。」
佛跳牆「麻婆豆腐の店経由で送れば、北京ダックにも伝わる。そこまで計算していたな?」
うな丼「協力者はひとりでも多いほうがいい。可能性が高まる場所に連絡するのは、当然のことだろう?」
北京ダック「土瓶蒸しがやけに落ち着いていたのも頷けますね。なるほど、うな丼はなかなかに頭の回る男のようです。」
うな丼「やめてくれ、俺はただの呑兵衛だ。」
土瓶蒸し「立派な剣士でもありますよ。彼が傍にいたら、御侍様を危険にさらすようなことはありません。でしょう? うな丼。」
うな丼「……そうだな。」
うな丼「あまり過去を知りすぎる者が近くにいるのはやっかいだな。まぁ、拙者が傍にいる限り、御侍の安全は、この命に代えても補償する。」
苦笑してうな丼は後ろ頭を掻いた。
主人公「さて……来週にはいよいよ『食フェス』が開催される。皆、協力よろしくね。皆の協力があってこそ、成功に繋がる企画だからさ!」
主人公「私も観客のひとりとして、皆の芸が見られること、楽しみにしてるよ!!」
Ⅺ.エピローグ
「ヘイ、マイパートナー、レッツミュージック!」
「ヒャッハー! いくぜ、相棒! オレたちのコンビネーションを見せてやろうぜ!」
主人公「うわぁ……! ハンバーガーもコーラもすっごいカッコいいねぇ……!!」
感涙して、○○はひとりそう呟く。グルイラオ料理御侍支部である○○のレストランでようやく『食フェス』が始まったのだ。
星辰十日 昼
グルイラオ 御侍のレストラン
土瓶蒸し「皆さんは、ご存知でしょうか? 私の住む桜の島には『侘び?寂び』という美意識があります。今回は、和にちなんだいくつかの新作の詩を用意致しました。その詩を皆さんに聞いていただくためのゲストをお呼びしました――同郷の、おせちです。」
おせち「ふむ! わたくしはおせち! 此度、土瓶蒸しに頼まれて、詩を読むこととなった……土瓶蒸しの詩の内容が、より多くの者に伝わるよう、努めようぞ!!」
村人「まぁ……! なんと見事な着物姿なの!! 美しいわ!!」
職人「そうだな……その辺の者とは品格が違う……あれが、桜の島の『おせち』か!!」
観客は大喜びで拍手喝采を舞台に向けて送る。その様子に、○○はただただ感心してしまう。
主人公「さすが土瓶蒸し。詩を読むという一見地味になりそうな舞台でも、おせちがいればこうなるよねぇ……。」
うな丼「あれは、なんとも図々しい――人を食った男だが、なかなかどうして芸術を理解して良い詩を読む。」
主人公「あ、うな丼。来てくれたんだ?」
うな丼「まぁ、御侍のイベントだ。直前まで手伝ったんだ、その成果は見届けたい。」
主人公「どうもありがとう! ねぇ、うな丼。見届けるだけじゃなくっていいんだよ?」
うな丼「お主、まだ諦めてなかったか。パラータでどれだけ断ったか忘れたか?」
主人公「うーん、一度は諦めようかなぁ……と思ったけどね。こうしてまた会ってしまうとどうしてもまた口説きたくなってしまう……。」
うな丼「言葉の使い方を気を付けろ、御侍。誤解を招く。」
主人公「え? 何の誤解?」
うな丼「……お主は、本当に天然だ。いや、もしかしてわかってやっているのか?」
何を言われているかわからず、○○は小首を傾げた。そして、すぐにうな丼の言わんとしたことを理解する。
主人公「あ! ち、ちちち、違うよ! 『口説く』っていうのは、舞台に上がらないかって話だよ!?」
うな丼「……わかっている。だが、誤解する者やその誤解を利用する者もいるだろう。気を付けろ。」
ため息をついてうな丼は苦笑する。すると、背後から急に声を掛けられた。誰だろうと、○○は振り返る。
オペラ「御侍。なんとかしてくれないか。」
主人公「どうかしたの?」
主人公「ああ、それね……うん、スフレが店員もするなら同じ時間にしてって頼まれてさ。」
オペラ「それだけじゃない。彼は私が舞台に出るとき、常に最善席で見られるように御侍に手配してもらったと言っていた。そのようなことは如何かと思うが。」
主人公「それもね……悩んだんだけどさ。スフレに頼まれてさ。もし私が言うことを聞いてくれないなら、前日から店の前に並ぶって言って聞かなくって……。」
スフレ「悪かったな。」
スフレ「なかなか意識を奪えなくてな。オペラのこととなると、どうも常軌を逸した行動に出る……。」
スフレ「とにかく。こいつのことは俺の責任でもある。なるべく迷惑をかけないよう、俺が出てくるようにする。」
オペラ「いや……君のせいではない。彼も、悪い人ではない……それは、わかっている。」
スフレ「御侍にも謝っておく。悪かったな。」
主人公「い、いや。私は……別に、いいけどね。」
主人公「ブルーチーズ! そうか、君たちは一緒に舞台に立つんだっけ。」
オペラ「彼のバイオリンで私がひとり芝居をします。御侍にも楽しんでもらえたら嬉しい。」
主人公「うん! 楽しみにしてるよ。」
ブルーチーズ「では、御侍さん。よろしければ是非、僕たちの舞台を見てください。」
深くお辞儀をし、ブルーチーズとオペラは、一緒に控室へと向かっていった。
主人公「それにしても、私と契約してくれている食霊たちは、すごい食霊ばっかりだ。まだまだ未熟な私の手助けをしてくれるし、ホント……私も御侍として頑張らなきゃ!」
うな丼「そうした前向きな姿勢を失わない限り、御侍は大丈夫だろう。」
主人公「あはは……ま、じゃあ今はひとまず、舞台を楽しませてもらおうかな。」
主人公「そうそう、結構美味しそうなお酒を集めてもらってるんだ。うな丼のお気に召すといいけど……。」
うな丼「おお、舞台の誘いはうんざりだが、酒の誘いは大歓迎だ。舞台を見ながら、一緒に飲むか、御侍!!」
うな丼は、御侍が選んでくれたお酒をご機嫌な様子で受け取って、美味しそうに飲み始めた。
舞台では、食霊たちが次々と芸を披露している。その様子を眺めながら、湯葉の野菜春巻きは、満足げに頷いた。
湯葉の野菜春巻き「ひとまずは……あの方に仕えるのも、悪くはないかもしれませんね。」
召喚されたものの、果たしてどのような人物か――人間には、様々な者がいる。平気で食霊を利用する者……とても仕えるに値しない人間は山のように存在する。
湯葉の野菜春巻き(私は己が認めない者には、決して心を許さない。勿論、食霊として契約をすれば仕事として仕えることはしますがね)
厚揚げ豆腐「アイツは、悪い奴じゃないみたいだ。お前がアイツに仕えるなら、俺もそうする。変な奴に仕えるよりは、あれくらい単純なヤツの方が楽だしな。」
湯葉の野菜春巻き「御侍様は、そう単純ではないと思いますよ。」
厚揚げ豆腐「そうか? 俺の頼みを、疑う様子もなく、あっさり聞いてくれたぞ?」
湯葉の野菜春巻き「それは、貴方があの方の食霊だからでしょう。あの方にとって、食霊は家族以上に大切な存在のようです。そういう感覚を持てる人間は、なかなか珍しいですけど。」
しみじみとそう呟いたそのとき――背後から何者かの気配を感じた。ゆっくりと湯葉の野菜春巻きは振り返る。
湯葉の野菜春巻き「誰かと思えば……佛跳牆でしたか。どうしました?」
佛跳牆「今回はよくも振り回してくれたな。その礼をしていなかった。」
湯葉の野菜春巻き「待ってください。私は無意味な喧嘩は好みません。可能なら話し合いで解決を。」
佛跳牆「誰が喧嘩をすると言った? 御侍の企画したイベントを潰すようなこと、何故俺がしなければならない。」
湯葉の野菜春巻き「あまりに怖い顔をなさっていたのでね。それで? なんでしょうか?」
佛跳牆「今回の件、お前の仕込みであることはわかっている。ただ、疑問も残る――何故、中途半端な『嘘』をついた?」
湯葉の野菜春巻き「……さて、なんのことでしょう?」
佛跳牆「一度話せばわかる。そいつがどんなヤツであるかはな。お前は、もっと賢い奴だ。本気を出せば……今回、本当に御侍の失踪事件を演出できたはずだ。」
湯葉の野菜春巻き「なるほど。手緩かった、と仰りたい?」
佛跳牆「そうだ。」
佛跳牆「今回のお前の目的は――御侍の願いを聞いたという体で、御侍の周りにどんな者がいるか、どんな力関係なのか……そうしたことを知りたかったのではないか?」
湯葉の野菜春巻き「さて、なんのことやら……。」
北京ダック「佛跳牆、そなたはまっすぐすぎます。こういう手合いはストレートに糾弾しても、のらりくらりとかわしますよ?」
佛跳牆「……北京ダック。今は俺が話をしているんだ。邪魔をするな。」
しかし北京ダックはそんな佛跳牆を無視して、湯葉の野菜春巻きの前に立つ。
北京ダック「湯葉の野菜春巻き……準備期間に、私の部下がこのレストランに来ましたよね? そして、貴方の部下だけでなく、御侍様にはうな丼も一緒でした。」
北京ダック「そなたはうな丼とは知己でしょう? 彼が頭の切れる者だと知っているはずです。何より御侍様が絡んだ件です。失踪事件など、起きようもありませんよ。」
湯葉の野菜春巻き「さすがは情報屋。うな丼のことをよくご存知のようで。」
北京ダック「さて。吾の情報網などさほど大したことはありませんよ。それより、何故そなたはこんなことをしたのです?」
北京ダック「そなたなら、わざわざあのような詰まらぬ『嘘』を作り出さなくとも、いくらでも御侍様を見極める手段はとれたはずです。」
佛跳牆「……貴様も大概ストレートだと思うが。」
そんな佛跳牆の突っ込みを、北京ダックはまるで気にならないようだ。変わらず彼の視線は、目の前の湯葉の野菜春巻きに向けられていた。
湯葉の野菜春巻き「お二人とも、知っていますか? 桜の島には『エイプリル?フール』という行事がありましてね。」
湯葉の野菜春巻き「あの日は折しも四月一日――エイプリルフールでした。「御侍様が行方不明だ」と言った日です。」
湯葉の野菜春巻き「御侍様は、食霊の皆様に愛されているか、不安に感じておられたご様子。ですから私は今回の件、反省はしておりません。」
湯葉の野菜春巻き「御侍の不安も解消でき、皆さんを驚かすこともできて楽しい嘘を提供できたと自負しております。」
厚揚げ豆腐「騙される方が悪いんだ! あの程度の『嘘』、誰が損した訳でもねぇし!」
そんなふたりに佛跳牆は顔をしかめる。だが、北京ダックはそんな彼らの態度にその張り付いたような笑みを崩すことはなかった。
湯葉の野菜春巻き「それに、御侍様も私の『嘘』にはうすうす感づいていたようでしたよ? その上であの方は私を不問にした……それなのに、貴方がたはそんな私を糾弾しますか?」
北京ダック「……なかなか楽しい仲間ができましたね。悪くない。」
嘆息して、北京ダックが言った。すると、湯葉の野菜春巻きが舞台を指さして、皆の視線を促した。
湯葉の野菜春巻き「舞台をご覧ください。うな丼が舞台で剣技を披露しております。」
湯葉の野菜春巻き「かたくなに舞台にあがるのを嫌がっておりました彼を、御侍様は酔っぱらわせて、舞台にあげたようですね……我が御侍は、なかなかの曲者のようです。」
うな丼「ハハッ! 拙者にかかれば、切れぬものなどないのだよ!」
主人公「おー!! うな丼!! さすがー!! 最高ー!! かっこいいー!!」
舞台の真下では、無事己の願いを叶えられた○○が、ご機嫌な様子で手を叩いて、舞台の上のうな丼に喝采を送っている。
湯葉の野菜春巻き「私は……あのような御侍様に仕えられること、楽しみになってきました。御侍様を慕う食霊が沢山いるようですしね。」
湯葉の野菜春巻き「それに、あの方に仕えれば、貴方がたのような、手応えのある仲間もできますし。そのあたりも含め、これからいろいろ楽しい時間を過ごせそうですね。」
湯葉の野菜春巻き「これから、よろしくお願いしますね。」
そう言って、湯葉の野菜春巻きはふたりに向かってスッと手を差し出す。だが、北京ダックは笑顔を浮かべてはいるものの、その手を取ろうとはしない。
佛跳牆「そうだな……貴様が御侍の敵に回らない限り、良い関係が築けそうだ。」
しかし佛跳牆は、そんな湯葉の野菜春巻きの手を取って強く握った――
春を迎え、これから○○には沢山の仲間が増えるだろう。それは、いつか来る平和な日々の為……そのことを頭の片隅では決して忘れることはない。
しかしひとりの料理人として――仲間の食霊たちとこんな日々を過ごすことも、○○は決して忘れない。
日常の中に戦いは存在する。だからこそ、こうした日々が一層まぶしくなる。
○○はその現実から目を逸らすことなく、それでも笑顔で舞台にあがる食霊たちに拍手を送るのだった。
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