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雨が歌う春の唄・ストーリー

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雨が歌う春の唄

プロローグ

星辰月五日昼

郊外

 

 墓石と枯木、少しの緑、そして霧雨がしとしと降っている。

 布の靴でぬかるんだ小道を踏み、雨音が響く。

 娘は傘を差しながらしゃがみ、かごと花を置いた。


よもぎ団子:また一年経ちましたね、御侍様。

よもぎ団子:時間が経つのは本当に早いですね。

よもぎ団子:……


 娘は多くの事を語った。

 まるで誰かが目の前にいるかのように。

 長い時間をかけて…


よもぎ団子:では……お先に失礼します。


 石台の上に置かれた花と食べ物は、霧雨に打たれ少しずつ濡れ始めた。

 娘の笑みもそれと共に消えていった。


よもぎ団子:ごめんなさい。

よもぎ団子:私を……恨んでますか……


 その呟きは雨音にかき消された。


よもぎ団子:帰ります……


 娘は背を向けて立ち去る。

 しかしある光景に出くわす事に。

 そよ風が頬を撫で、木陰を揺らす。しとしと降る霧雨が、庭を霞める。

 青年が木の傍に座り、幹にもたれて寝ていた。


ストーリー1-2

よもぎ団子の思い出


 さらさらと流れる渓流、雨が連綿と降り注ぐ。ゆらゆらと揺れる柳、草花の香りが芳しい。


よもぎ団子:秦艽扶羸鼈甲柴 地骨当帰紫菀偕(秦艽扶羸湯は鼈甲、柴胡、地骨皮、当帰、紫菀と…)

よもぎ団子:半夏人参兼炙草 肺労蒸嗽服之諧(半夏、人参、炙った甘草などで作られ…肺からくる気虚や咳を治める効用が…)

お屠蘇:……何ブツブツ言ってんだ?

よもぎ団子:処方薬の覚え歌のような物です。

お屠蘇:処方?

よもぎ団子:この一節で覚えられるのは、秦艽扶羸湯(じんぎょうふるいとう)の処方ですよ。

お屠蘇:こんな言いづらいもんよく覚えてられるな。


───

……

・<選択肢・上>これは御侍様から教わったんです。

・<選択肢・中>そこまで大変じゃないですよ。

・<選択肢・下>もう何回も暗記してるので。

───


よもぎ団子:医師は間違いを犯せないので、勉強した物は全部きちんと覚えなければなりません。

お屠蘇:そう……なのか。

お屠蘇:医師って……大変だな……

お屠蘇:ハァ……ハァ……

よもぎ団子お屠蘇姉さん?


 娘が振り返る。

 女性は草花の中に横たわり、いつの間にか寝てしまった。


よもぎ団子:もう……風邪引きますよ。


星辰月五日昼

郊外


よもぎ団子:……ここで寝たら風邪引きますよ。


 思い出の中の言葉を繰り返し…思い出の中の場面と重なる…

 娘は前に出て、青年のために風雨を遮ろうとした。


ストーリー1-4

星辰月五日昼

郊外


 青年は娘が伸ばした腕を握った。

 傘が差しだされた瞬間、彼は既に目を覚ましていた。鋭い目つきで娘を見回すが、すぐに冷静さを取り戻した。


黄山毛峰茶:あぁ!申し訳ない。


 青年はまるで人が変わったように、親しみやすい笑顔を浮かべた。


黄山毛峰茶:びっくりさせてないよね?

よもぎ団子:……いいえ。


───

……

・<選択肢・上>それなら良かった。

・<選択肢・中>本当に申し訳ない。

・<選択肢・下>ごめんごめん。

───


黄山毛峰茶:これはどうしたのかな?


 娘は傘を振る。


よもぎ団子:ここに居続けたら濡れますよ。


黄山毛峰茶の思い出

遥か昔の太雲観


 騒々しい雨音、霧が立ち込める。

 雨の中、少女は傘を差してゆっくりと青年に近づいた。


モクセイケーキ:雲峰、どうしてここに立ってるの?ずぶ濡れになるわよ。

黄山毛峰茶:罰として立たせられた。

モクセイケーキ:また何かやらかしたの?

黄山毛峰茶:聞き分けが良くないと言われた。

モクセイケーキ:はぁ……


 少女は身体を寄せ、傘を二人の頭上に広げた。


モクセイケーキ:わたくしが付き合ってあげるわ。


ストーリー1-6

黄山毛峰茶の思い出

近頃の太雲観


 山は高くそびえたち、天まで届いている。山には廃墟があり、瓦礫が散乱していた。

 かつて荘厳だった太雲観は、今や面影もなく残骸しか残っていない。


モクセイケーキ黄山毛峰茶、ここに立って何をしているんですか?

黄山毛峰茶:師の事を考えていた。

モクセイケーキ:師?

黄山毛峰茶:昔貧道が悪い事をしでかしたら、罰として立たされたんだ。


───

……

・<選択肢・上>……いい気味ですわ!

・<選択肢・中>罰を受けるのは当然だと思いますわ。

・<選択肢・下>相当罰を受けたんでしょうね。

───


 青年の顔に浮かんだ悲しみは、少女の言葉によって消された。


黄山毛峰茶:ハハハハハ

黄山毛峰茶モクセイケーキの言う通りだな。もしまだ師がいたら、きっと貧道は罰されるだろう。

モクセイケーキ:……また何か悪い事をしたんですか?


 青年は笑顔を収め、思い出に浸る。


黄山毛峰茶:もう悪い事をしていないから……かもしれない……


星辰月五日昼

郊外


黄山毛峰茶:微妙な思い出だな……


 青年は苦笑いを浮かべて、小さな声で呟いた。


よもぎ団子:今なんか言った?

黄山毛峰茶:なんでもない!


 顔を上げ、青年は朗らかな笑顔に切り替えた。


黄山毛峰茶:貧道は黄山毛峰茶。お主は?

よもぎ団子よもぎ団子です。


ストーリー2-2

星辰月五日昼

郊外


 雨で霞んでいるが、白い花が咲き誇っていた。石畳の上、二人は肩を並べて傘の下に立っている。

 二人の袂と、カラーの花びらが風と共に揺れる。

 娘の温柔と青年のあか抜けた洒脱で、墓園に煙雨の中の江南のような雰囲気を纏わせた。少しの薄暗さも感じられない程に。


黄山毛峰茶よもぎ団子は誰を参拝しに来たんだ?


 青年の声は、普段のだらしなさはなく平淡な物だった。


よもぎ団子:……私の御侍様です。


 娘の声は少し落ち込んでいるように聞こえるが、二人は今まで面識がないため変化には気付けない。しかしそれでも青年は娘の顔から何かを察した。


黄山毛峰茶:笑って?

よもぎ団子:えっ?

黄山毛峰茶:折角会いに来れたんだから。


 青年は顔を上げ、降りしきる雨を見つめた。まるで山水を覆い隠そうとする雨を見通そうとしているようだった。


黄山毛峰茶:清明は、一年に一回しか来ないから。


 娘は呆気にとられた。無意識に口元を歪ませ、無理やり笑顔を浮かべた。


───

……

・<選択肢・上>それもそうですね……

・<選択肢・中>はい……良いですね。

・<選択肢・下>貴方の言う通りです。

───


 娘の笑顔の下にある隠しきれない切なさを見た青年は、さっと手を叩き高らかに言った。


黄山毛峰茶:卦を立ててあげようか?

よもぎ団子:えっ?

黄山毛峰茶:貧道の占いは凄いぞ。


 青年は袖の中からみくじ筒を出した。


黄山毛峰茶:一本引いてみると良い。君の悩みを解決する答えが分かるだろう。


ストーリー2-4

よもぎ団子の思い出


よもぎ団子:御侍様は何故こんなに必死になって病人を救うのですか?

思い出の中の人:病気が治った後の笑顔を見ると、全ての苦痛と苦悩は解決出来る物なんだと、強く思えるから。


星辰月五日昼

郊外


 罪悪感、哀傷、後悔……青年は娘が引いたみくじを見つめながら、心の中で少しづつ解読する。


よもぎ団子:悪い引きですか?とても悩んでいるみたいですが…

黄山毛峰茶:ん?違うぞ。

黄山毛峰茶:むしろ答えが多すぎて、どれを言えば良いのか分からなくなってしまった。

よもぎ団子:えっと……そうなのですか?

黄山毛峰茶:しかし……


───

……

・<選択肢・上>少し問題が起きた。

・<選択肢・中>状況は少し微妙だ。

・<選択肢・下>注意すべき点がある。

───


黄山毛峰茶:どんな答えが出ようと、お主はまず悩み事を話すべきでしょう。大事なのは話す内容ではなく、口に出す事です。

黄山毛峰茶:山水に教え、御侍に教え、そして…自分に教える。

よもぎ団子:……


 娘はひとしきり躊躇った後、とうとう口を開いた。


よもぎ団子:私の命は御侍様に救われたのです。

よもぎ団子:堕神の手から。

黄山毛峰茶:人間が食霊を救った?


 青年は驚いた。


黄山毛峰茶:この恩が重いと思っているのだろうか?それとも御侍を守りきれなかった自分を責めているのか?


 青年はまるで先生のように、娘を導こうとしていた。


黄山毛峰茶:(こんな事をやるのはいつぶりだろうか?)

黄山毛峰茶:(普段は詐欺まがいの事ばかりしているし……)


 自嘲の笑みを浮かべた青年は頭を振り、意識を集中させた。


よもぎ団子:両方とも……あります……でも一番気がかりなのは…心配です。


 よもぎ団子は振り向き、彼女の御侍の墓石がある場所を眺めた。


黄山毛峰茶:心配?


 娘の表情は切なさを増した。


よもぎ団子:「御侍様は私を救った事を後悔しているのでは?」と、いつも考えます。

よもぎ団子:「生き残ったのが御侍様の方だったら良かったのに」と、思ってしまうんです。

よもぎ団子:だから……

黄山毛峰茶:だからなどない。


 娘が言い終わる前に言葉が遮られた。顔を上げて見ると、青年は既に彼女の傍から離れていた。

 傘の下から出て、彼は石畳の上に立ち、振り返って両腕を広げた。

 雨はいつの間にか止んでいた。雲間から差し込んだ金色の陽ざしが、青年の体に降り注ぎ、眩い光を放った。

 娘は驚き、一瞬固まってしまった。


ストーリー2-6

星辰月五日昼

郊外


 青年が差し出した手の平にはみくじが転がっていた。


黄山毛峰茶:貧道の御侍様は寡黙で厳しい人であった。貧道を大事にしてくれ、面倒も見てくれていた。だが時には、彼に裏切られる事もあった。

黄山毛峰茶:その時はより多くの他者のためだったから、いたしかたなかったのだが。

よもぎ団子:……


 話しながら、青年は話題をコロッと変えた。


黄山毛峰茶:これを話したのは、御侍の良し悪しを説明するためではない。

黄山毛峰茶:お主に言いたかったのは、人が何かを決める時、必ず深く考えた上で決めていると、だから……

よもぎ団子:違います!


 娘は急に声を上げて言葉を遮った。


よもぎ団子:違います!

よもぎ団子:あの時、御侍様は何も考えていなかった!

よもぎ団子:堕神が襲い掛かって来て、彼はただ無意識に……

よもぎ団子:無意識に……


 娘の声は弱くなっていき、微かにむせび泣きが聴こえてきた。

 青年は袖を差し出し、彼女の目元の雫を拭う。


───

……

・<選択肢・上>悲しまないで。

・<選択肢・中>大丈夫だ。

・<選択肢・下>泣かないで。

───


黄山毛峰茶:だから、答えはもう明らかじゃないか?

よもぎ団子:……


 娘は茫然と顔を上げた。


黄山毛峰茶:彼の心の中では、お主の存在は彼の安否よりも遥かに大事であると。本能でお主を救った事で、これが証明されているのではないか?

黄山毛峰茶:お主は彼にとってとても大事だ。だから躊躇なく自分の身を犠牲にしてお主を救った。


 青年は娘の肩を叩く。


黄山毛峰茶:罪を持って生きるな。自責と後悔だらけの人生は辛いぞ。


 娘はしばらく黙り込んだ。


よもぎ団子:……

よもぎ団子:では貴方は?貴方は貴方の御侍様を恨んだ事はありますか?

黄山毛峰茶:恨む……とは言えないだろうな?

黄山毛峰茶:なにせ、他の人もとても重要だったのだから。彼にとっても、貧道にとっても……だ。

黄山毛峰茶:むしろその後貧道がやらかした事の方が、彼に迷惑を掛けてしまった。

黄山毛峰茶:彼が貧道を恨まないだけありがたい物だ。


 ……


 会話の声は滴る雨水とそよ風の中に消えた。

 二人はその場で別れる事に。

 だが青年が墓園から出る前、後ろから娘の呼び声が聞こえた。


よもぎ団子黄山毛峰茶……

黄山毛峰茶:え?

よもぎ団子:誰しも深く考えた上で何かを決めていると、貴方は言いましたよね。

よもぎ団子:なら貴方の御侍様も、きっと貴方のその後の行動も考えた上で決めたんだと思います。

よもぎ団子:彼は貴方を恨んだりしないと思いますよ。

黄山毛峰茶:……うん、君の言う通りだ。

黄山毛峰茶:ありがとうございます。


 娘が見えない所で、青年は手首をひっくり返した。元々大凶だった彼女のみくじから柔らかな光が溢れた。

 光が散りゆき、そのみくじは大吉となった。


黄山毛峰茶:この世界はとても優しい。誰も誰かを恨んだりしない。


黄山毛峰茶√宝箱

星辰月五日昼

郊外


 少女と青年は肩を並べて街を歩く。

 少女は手で本の表紙をしきりに叩き、不機嫌な顔をしていた。傍にいる青年は気まずそうに、彼女の機嫌を直そうと笑顔を取り繕った。


モクセイケーキ:見張ってない間、どこに行ってたのかしら。

黄山毛峰茶:えっと……とても可愛い子を見つけたから、つい……

モクセイケーキ:黄ー山ー毛ー峰ー茶ー


 少女の鈴のように澄んだ声が急に低くなった。


モクセイケーキ:可愛い--ですって?

黄山毛峰茶:うーん……

黄山毛峰茶:っあぁ!あの、モクセイケーキぐらい可愛い子が道端で助けを求めて来たから、それで……


 パチッ--

 本で叩かれた青年の頭から鈍い音がした。


モクセイケーキ:帰ったら「君子礼法」を百回写してちょうだい。

黄山毛峰茶:痛っ!また頭叩くなんて。

モクセイケーキ:何かご不満でも?


 ……


 少し言い争っていたが、少女が急に黙り込んだ。

 しばらくの間--


モクセイケーキ:言えないのかしら?

黄山毛峰茶:え?

モクセイケーキ:あなた……どこかいつもと様子が違うような気がして……何かあったのかしら?

黄山毛峰茶:ハハッ、何か憑き物が落ちたからやもしれんな。

黄山毛峰茶:心配したのか?

モクセイケーキ:誰が心配するものですか!


よもぎ団子√宝箱

星辰月五日昼

郊外


お屠蘇:ここにいると思った。

よもぎ団子:来てくれたんですね。

お屠蘇:うん、通りがかりに寄ってみた。

お屠蘇:大丈夫か?

よもぎ団子:……なんでそう聞くんですか?

お屠蘇:墓園の外で見かけた。

お屠蘇:それとあの男も。

よもぎ団子:あっ、彼は食霊です。名前は黄山毛峰茶ですよ。

よもぎ団子:優しい人でした!

お屠蘇:そうか……

よもぎ団子:何か問題でもありましたか?

お屠蘇:いや、単純に危険だと思っただけだ。


 娘はそれを聞いて微笑む。

 傍らのお姉さんに小声で伝えた。


よもぎ団子:安心してください、お屠蘇姉さん。

よもぎ団子:彼は悪い人ではありません。

お屠蘇:そんな軽々しく人を信じるな。

よもぎ団子:ふふっ、分かってますよ。

よもぎ団子:彼は私を助けてくれたんです!

お屠蘇:……

お屠蘇:じゃあ、半分良い人って事で。

よもぎ団子:ふふふふっ。



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