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かけがえのない宝物・ストーリー

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かけがえのない宝物

プロローグ

二月十三日 夜

ホルスの眼


 夜の葬儀館「涅槃」は、まるで静かに佇む獣。誰も思いはしないだろう…食霊独立調査機関--「ホルスの眼」の秘密会議がここで行われていると。


パフェはっきり言わせて頂きます、今の綿あめへの処置案に私は納得出来ません。

フランスパンパフェ先輩、綿あめを引き取ってからもう一年経ちましたが、彼女は未だ記憶を取り戻せていません。私たちも彼女の身元を調べられませんでした。これ以上彼女をホルスの眼に滞在させるのは、ミドガルに潜伏している先輩にとって不利になる可能性が高いと考えます。

パフェ:だから彼女を「あそこ」に送って、調査を受けさせようとしているの?「あそこ」がどんな場所なのか、二人とも分からないはずないでしょう。

パフェ綿あめを「あそこ」に送って最終的に記憶を取り戻せたとしても、無事出てこられるの?誰かさんがきちんと頭を使えば、この決定がどれ程馬鹿げた事かすぐ分かるでしょう!


 パフェは眉をひそめ、殊更ずっと黙っているザッハトルテを睨み付けた。


パフェ:他に議題が無いのから、お先に失礼しますわ。そろそろ舞踏会の休憩時間なので、遅れるとあの貴族一家に疑われるかもしれません。

フランスパンあの……もう少し待って、ください……ザッハトルテ先輩……


 マントを羽織って立ち去ろうとするパフェを見ても、何のアクションも起こさないザッハトルテにフランスパンは困惑した。この時、黙っていたザッハトルテは急に笑い始めた。

 そして彼の笑い声はパフェの動きを止め、引き戻した。


パフェ:私の話が面白いとでも?

ザッハトルテ:いや、嬉しかったんだ、やっぱりあなたは僕の命令を拒んだ。

パフェ:……


 パフェはザッハトルテの言葉の意味が分からず一瞬固まってしまったが、すぐに真意を理解した。


パフェ……ザッハトルテ!--また私を試したのね?あと貴方、フランスパンも!どうして彼の悪趣味なんかに付き合っているの!

フランスパン:えっと……

ザッハトルテ:まあ落ち着いて、今のあなたはミドガルで最も優雅なクリステン嬢だろう?

パフェ:フフッ、長官のご忠告痛み入りますわ。


 パフェは感情なく鼻で笑い、怒りを抑えて再び座った。


ザッハトルテでは、本題に戻ろう。パフェ、別に理由なくあなたを試した訳じゃない。


 フランスパンが一通の手紙を取り出し、パフェに渡す。彼女は目を細め、手紙を広げた。


パフェ……月末までに彼女の身元が判明しなければ、この案件は本部が引き継ぎます」……「鹿」が綿あめを連れ去ろうとしているの?

ザッハトルテ:そうだ、だからもう時間がない。

パフェ:あの人のやる事は相変わらず腹立たしいわ、酌量していないとも言えないですし……あと半月……こんな短期間で調査できる可能性はほぼゼロよ。


 パフェは手紙を下ろした。


パフェ:二人が考えた対策を教えて。今夜の会議は、私の態度を確認するためだけではないでしょう?

ザッハトルテ:僕はバックトラックルームの利用を検討している。

パフェ:バックトラックルーム……あの新人をテストするための事件模擬空間?

フランスパン帝国所定の規則により、ザッハトルテ先輩はホルスの眼の人事権を持っています。前提は、そのメンバーがホルスの眼の模擬テストに必ず合格している事です。

フランスパン:このシステムが収納している事件は全て本物であるため、空間には一定の危険性が存在します。そのため、正式メンバーによる監督及び学生の安全の確保が必須となります。

ザッハトルテもし綿あめがテストに合格したら、正式メンバーとして残ることが出来る。今彼女を助けられるのはパフェ、あなたしかいない。

パフェ:……確かにミドガルの正式メンバーで、彼女で唯一正体を知らないのは私……分かったわ、このクエストを受けましょう。模擬事件はどれ?日時は?準備をしなければいけないわ。

ザッハトルテ:明日だ--バレンタイン・オークション舞踏会事件。

パフェ:明日!?

ザッハトルテ落ち着け、綿あめを起こすな......


 隣の部屋で、くまのぬいぐるみを抱いている綿あめは、まだ甘い夢の中にいた。この時の彼女は、まだこれから起きる事について何も知らない......


ストーリー1-2

二月十四日

ローズホール


 ここは豪華なパーティホール。楽団は美しい舞曲を演奏し、人々は酒を楽しんでいた。真正面、ダンスエリアを通り過ぎた向こう側に、まだ幕で閉ざされているステージがあった。

 綿あめはふらつきながら、人ごみの中に立っていた。手にはまだ昨夜抱いていたくまのぬいぐるみがあったが、服装は昨夜の物からガラッと変わっていた。


綿あめ:……これは夢なの?


 綿あめは困惑しながら身に着けている華麗なドレスを触り、それから自分の頬をつねった。


綿あめ:いっ……痛い……夢じゃない……

パフェ:何をされているのですか?


 綿あめは顔を上げた。貴族の装いを身に纏った綺麗な女の子が、眉を上げながら疑わしい目付きで彼女を見ていた。綿あめは彼女に見覚えがあった、少しだけ考えて、すぐに思い出した。


綿あめ:……クリステンさん?


 クリステンはザッハトルテの友人、舞踏会を開催する事が好きな貴族の女の子。

 綿あめはザッハトルテと一緒に彼女の舞踏会に何度か参加した事があったが、深く関わった事はない。彼女はどうしてこんな所にいるのだろうか?


パフェ:先程も伝えたように、クリステンと呼んでいいわ。友達ですもの、敬称はなくて結構よ、良いわね?

綿あめ:わ、わかった……


 理由は分からないが、クリステンは親しい態度で綿あめに接した。彼女はそのまま返事をするしかなかった。


パフェ:よろしい。


 クリステンは満足そうな笑顔を浮かべた。綿あめは周りをざっと見たところ、ザッハトルテとフランスパンの姿を見つけられなかった。彼女は今の状況を把握するため、仕方なく唯一の知り合いであるクリステンに尋ねた。


綿あめクリステン、あの、ここはどこ?綿あめ気付いたらここにいたんだけど……


 綿あめの言葉が終わった瞬間、クリステンは信じられない目で彼女を見た。


パフェ綿あめ、今さら何の冗談を言っているの?

綿あめ:……えっ?


 クリステンの表情が険しくなったのを見て、綿あめは事態は自分の想像よりもっと厳しい物だと気付いた。


綿あめ:ごめんなさい、本当に何も思い出せない……ごめんなさいごめんなさい、また発作が起きたのかも……前にも急に思い出せない事があって……あの、何があったか教えてくれませんか?


 クリステンはため息をついて、仕方なく手を振ると、綿あめを人気のない隅に連れて行った。


パフェ:まあいいわ、今回が最後よ。この情報は重要だから、きちんと覚えて頂戴!

綿あめ:うん!

パフェ:ここはローズマナーハウス。毎年バレンタインに、ここで特別なオークション舞踏会が行われるの。出品される商品は三種類だけ、全て「愛情」に関係のある品々で、若いカップルがたくさん集まるわ。

パフェ:去年、私と私のダーリンも申し込んだの。だけど舞踏会が終わってすぐ、彼は行方不明になり、今でも彼を見つけられていないわ。

綿あめ:ゆ、行方不明?

パフェそうよ、私は直感的に行方不明の理由はこのオークションに関係あると思ったわ。だから今年はホルスの眼に調査を依頼したの。ザッハトルテはこのクエストを貴方に任せ、私のために真相を究明しにここに来たの。そのドレスも私が選んだのよ。

綿あめえっ?私?ザッハトルテが綿あめに任せるって言ったの?

パフェ:ええ、ドレスのポケットにはまだ私が送った招待状があるはずよ。


 綿あめがポケットを触ってみたところ、本当に何かが入っている感触があった。取り出してみると、あったのは金色に光るカードと、何かが入っている小さな箱だった。その箱を揺らすと、シャカシャカと音が鳴った。

 綿あめはまずカードに書いてる文字を読み始めた。招待されたのはやはり自分で、そしてカードの裏にも文字が書かれてあった。



綿あめの初ソロクエストが成功するようお祈りします。

ザッハトルテ&フランスパンより



綿あめ:わぁ、本当だ……

パフェ:当り前ですわ。もういいかしら?そろそろオークションが始まる。真相究明をどうかお願いしますわ!

綿あめ:はい!頑張ります!そうだ、これは何だろう……


 綿あめは不思議そうに箱を開けた。次の瞬間、彼女は顔色を変えて、箱を捨てた。隣のクリステンが素早くそれをキャッチした。


パフェ:これを捨ててはいけないわ!

綿あめ:ど、どうしてマッチが……

パフェ:これはオークションのチップ。マッチの数はこのローズマナーハウスが承認した貴族の財産を示しているわ。入札にはこのマッチに火を付けて行う、落札出来なくても、付けた分は返されない。マッチを全部使ってしまうと、入札資格も失うわ。


 綿あめはクリステンがマッチ箱を自分に渡そうとするのを見て、思わず後ずさりした。


パフェ:……どうしたの?

綿あめ:火……私は火が怖い……

パフェ:……本当に要らないの?これは真相に辿り着くために必要なアイテムかもしれないのに?

綿あめ:………………


 クリステンは眉を上げて綿あめを見つめていた。彼女は手を伸ばしては引っ込め、迷っているようだった。心を決めたのか、最後は深く息を吸いこみ、目を閉じてマッチ箱を受け取り、それを素早くポケットの中に仕舞った。

 綿あめは目を閉じていたため、クリステンが浮かべた安堵の表情を見る事はなかった。

 綿あめがホッとした所で、会場の演奏がぴたりと止まった。次の瞬間、照明も消えた。

 ステージにスポットライトがあてられ、閉じられた幕に大きな人影が映った。司会者らしき男性が、幕の後ろから進行を始めた。


司会者:レディース&ジェントルマン、ローズマナーハウスへようこそ。これからオークションを始めさせて頂きます。買い手の皆様のプライバシーを保護するため、オークションは全て暗闇の中で行わせて頂きます。

司会者:では早速今夜最初の商品をご紹介しましょう!告白香水――こちらを貴方の思い人にお使いになられますと、三日以内に必ず思い人から告白されます。

司会者:開始価格はマッチ一本となります。では、オークションスタート!


───

マッチ一本を擦って、「告白香水」に入札しますか?

・<選択肢・上>入札する、そして必ず落札する。

・<選択肢・中>まず他の人の入札価格を見る。

・<選択肢・下>興味ない、私とは関係ない。

───


ストーリー1-4

ローズマナーハウス

ローズホール


 真っ暗なホールでは、ステージ上の幕の裏で入札価格を更新していく司会者のシルエットしか見えない。不思議な事に、綿あめがいくら探しても、誰がマッチを擦って入札しているのかは見えなかった。

 やっと落札者が決まったためか、照明が明るくなり、楽団はまた演奏を始めた。


綿あめ:終わったの?


 綿あめは目をこする。周りを見渡してみたところ、ステージの幕は閉ざされたまま、ホールにいる人々も何もなかったかのような振る舞いをしていた。

 綿あめが振り向くと、パフェが自分を見ている事に気づいた。そして彼女の口元には怪しげな笑顔が浮かんでいた。


綿あめ:クリステン、何を笑ってるの?

パフェ:いいえ、ただ貴方は私の想像よりもっと頼りがいがありそうだと思ったの。オークションが始まると暗くなる事を伝え忘れたけれど、急に何も見えない状態になったのに貴方は落ち着いていたわ。その調子よ、貴方の力を信じてみようかしら。

綿あめ:あっ……大した事じゃないよ……ミドガルに来る前に住んでいた森は、急に真っ暗になる事が多かったから、もう慣れたの。


綿あめは恥ずかしそうに鼻を触った。


パフェ:うん?森に……住んでいたの?

綿あめ違うよ、森には綺麗な御菓子の家があるの!綿あめはそこに住んでいたの!

パフェ:フフッ、なるほどね……では、その後は?どうしてミドガルに来たのかしら?

綿あめ綿あめも覚えていないの……ただ何かが起きたって事だけは覚えてる……その後誰かが私を連れてきたの……

パフェ:(森……御菓子の家……何があったのかしら……)


 パフェは、綿あめがマッチに怯えていた事を思い出した。


パフェ:もしかして……火事?

綿あめ:何?


 クリステンの話を聞いて、綿あめの動きが止まった。彼女の頭の中に、色んな場面が縦横無尽に飛び交った。炎が見えて、悲鳴が聴こえて、全てを呑み込む怪物がいた……そして誰かが……誰かが青い光の中に立っている……あれは誰?


綿あめ:うっ……うう……誰?誰なの?

パフェ綿あめ?綿あめ?


 綿あめは頭を抱えてしゃがみ込んだ。パフェは驚いていた、自分の問いかけで彼女がここまで過剰反応するとは思わなかったのだ。


パフェ綿あめ、大丈夫?


 しばらくしてから、綿あめはやっと落ち着きを取り戻した。彼女は立ち上がって頭を振った。


綿あめ:頭がちょっと痛いだけ……休めば大丈夫!平気だよ!心配しないで!ほら!

パフェ:……


 無理やり笑顔を取り繕っている綿あめを見て、パフェは心を痛めた。


パフェ:(ホルスの眼が一年間掛けて調査しても、綿あめが言っていた森をまだ見付けられていない……唯一の鍵はその誰か……一体誰なの、どうしてあの森から綿あめを連れてミドガルに来たの……


 パフェは手元の扇を撫でながら考えていた。

 その時、ホールの照明は再び消えた。


パフェ:(忘れる所だったわ!今最も大事な事は……)

パフェ綿あめ、先程のオークションで手がかりを見つけられなかったみたいね。

綿あめ:そうだね……もうちょっとステージに近づいて見てみる?

パフェ:そうね、そうしましょう。


 暗闇の中、二人はステージの光を頼りに前に進んだ。


司会者:レディース&ジェントルマン、続いては二つ目の商品でございます。

司会者:去年はこちらの商品が過去最高の落札価格を叩き出しました。皆さま、お手元にマッチのご用意を。

司会者:この商品を使うと、簡単に自分に言い寄る人を追い払えます、或いは飽きてしまった伴侶と別れる事も出来ます――断絶の石。


───

マッチを擦って、断絶の石に入札する?

・<選択肢・上>入札する、そして必ず落札する。

・<選択肢・中>まず他の人の入札価格を見る。

・<選択肢・下>興味ない、私とは関係ない。

───


ストーリー1-6

ローズマナーハウス

ローズホール


 暗闇の中、二つ目の商品「断絶の石」のオークションがまだ続いていた。


綿あめ:これって……?!


 突然、ステージに近づいていた綿あめが何かに気付く。次の瞬間、前に進もうとしていたパフェを引き止めた。


パフェ:(やはり、何かに気付いたの?)


 照明が戻り、二つ目のオークションが終了した。綿あめの顔色は良くない、彼女はパフェを連れてステージから遠ざかった。


パフェ綿あめ?どうしたの?

綿あめ:シー!――


 綿あめは声を抑えた。


綿あめ:クリステン、このオークションは怪しいと思う。ステージに近づいたら、堕神の気配を感じたの!

パフェ:堕神?やはりあいつらの仕業だわ!私のダーリンが行方不明になったのはきっとあいつらのせいよ!

綿あめ:今はまだ言い切れない……でもここは本当に危ないよ!クリステン!先にあなたを連れて安全な場所に行かなきゃ!

パフェ:えっ?堕神がいるなら、すぐに倒すべきではないの?


 パフェが驚いたフリをする。綿あめはそれを聞いて首を横に振った。


綿あめザッハトルテが言ってたの。この場合、不用意な事をして相手に気付かれてはいけない、まず自分の実力で相手を倒せるか確かめてから戦うの。

パフェ:(あいつはちゃんとした事も教えていたようね。でも、危機意識を持っているだけでは足りない。一時的な退避は、根本的な問題を解決できない……)


 この時、照明がまた消えた。暗闇の中、綿あめは歩みを止めるしかなかった。


綿あめ:えっ?三回目はこんなに早く始まるの?

司会者:レディース&ジェントルマン。まもなく今回最後の商品が登場します。去年は誰も落札出来ませんでした……今年は、無事落札する勇者は現れるのでしょうか?


 幕に映る大きな影は、ゆっくりと手元の商品を持ち上げた――あれは一本のバラのシルエット。


司会者:今回最後の商品、得る事の出来ない愛を抹消し、自分を裏切った伴侶を抹殺出来る毒薬――夭折薔薇(ようせつばら)!

綿あめ:何!?毒薬!?

司会者:特殊な商品のため、開始価格はマッチ三十本となります。では、オークションスタート!


───

マッチを擦って、「夭折薔薇」に入札する?

・<選択肢・上>入札する、そして必ず落札する。

・<選択肢・中>まず他の人の入札価格を見る。

・<選択肢・下>興味ない、私とは関係ない。

───


綿あめ:(……本当に毒薬なら、謀殺に使われちゃう!)


 司会者の声はホールに響き渡り、入札価格はどんどん競り上がっていく。綿あめは下唇を噛み締め、ポケットに手を伸ばした。

 綿あめがマッチ箱を触った時、あの金色のカードにも触れた。彼女はザッハトルテとフランスパンが書いた励ましの言葉を思い出していた――


綿あめ:……怖くない、怖くない……頑張って……自分は焼かれない……


 隣のパフェは綿あめの呟きを聞いていた。


パフェ:(貴方は出来る、自分の恐怖を乗り越えましょう)

司会者:良いですね、この方はマッチ五十一本で入札しました、他の方はいかがでしょうか――

綿あめ:はい!待って!


 人々が騒ぎ始めた。綿あめはそれらを無視して、目を閉じて自分のマッチを擦った。


ストーリー2-2

ローズマナーハウス

ローズホール


司会者:マッチ六十二本でございます――

綿あめ:また高くなった……他の人が落札するのを避けなくちゃ!

綿あめ:あれ?


 綿あめは既に自分のマッチ箱を空にしていた。


司会者:マッチ六十二本、一回目――


 綿あめはマッチ箱を握って、居ても立っても居られなくなっていた。


綿あめ:どうしよう……どうしよう……

司会者:マッチ六十二本、二回目――

綿あめ:クリステン、傍にいる?あの、私にマッチを貸してくれませんか?

パフェ:ごめんなさい、私のも全部使い切ってしまったわ。

綿あめ:……わかった……大丈夫よ……

司会者:マッチ六十二本――落札!


 ハンマーの音が鳴り響いた。


綿あめ:(やばい……!)

綿あめ:(落ち着いて、綿あめ、まだ終わってない。照明がついたら、ホールの出入口を塞いで、毒薬を落札した人を絶対逃がしちゃダメ!

司会者:レディース&ジェントルマン――


 でも照明は、前のようにすぐつくことはなかった。


司会者:続きましては、今夜のスペシャルコーナーでございます。皆様、是非盛大な拍手でスペシャルゲスト――幻楽歌劇団をお迎え下さい!

綿あめ:幻楽歌劇団……?


 突然、ステージが照明によって目まぐるしく照らされ、幕には人影が複数映し出されていた。その中の一際背の高い影は、バイオリンを持ってゆっくりと弓を構えた。

 綿あめの心が波打った、その人を知っている気がした。とても懐かしい感じはするが、どこで会ったのかは思い出せないでいた。

 弓の動きに合わせて、美しい旋律が突如ホールに響き渡った。綿あめが息を呑んだその瞬間、歌声も響いてきた。彼女の表情は最初の困惑から段々と驚きに変わっていった。


オペラ:薔薇は枯れたい、だから世界が壊れたと嘘をついた;恋人は逃げたい、だから消えてしまった――

綿あめ:……「モラー」?


 揺蕩(たゆた)う旋律の中、気付けば綿あめは自分でも意味が分からないまま、知らない単語を呟いていた。


ブルーチーズ:………………


 ステージ上では、バイオリンの音が少し止まっていたが、歌声に紛れ誰も気づかなかった。


オペラ:愛:心を奪い、香水の匂いが散るまで:見えないもの、探せないもの、全て炎に呑まれた――


「火事だ!」


 ホール内の誰かが叫んだ。綿あめはバイオリンの音から意識を取り戻して、ようやく照明が消えたホールのあちこちで火が燃えている事に気付く。炎が巨大な獣のように、彼女を呑み込もうと虎視眈々としていた。


綿あめ:……やめて……もうやめて……焼かないで…………!!!


 他の事はもう考えられないでいた。綿あめの瞳孔は開き、突然の猛火は彼女の心の奥から恐怖を呼び起こした。彼女の頭には、失われた記憶が戻ってきていた……


綿あめの記憶

闇の森林


 炎が空を突くと、目の前の一切が歪んだ。御菓子の家が溶けていき、シロップが土に落ちて、二度と本来の色鮮やかな姿には戻れない……


綿あめ……綿あめの御菓子の家……御菓子の家……やめて!やだ!やめてよ!!


 取り返しのつかない事態を目の当たりにして、綿あめは自分の感情を制御できないでいた。

 この時、バイオリンの音色が響き、火が燃える音に被さった。それによって、綿あめは少しずつ冷静さを取り戻した。


ブルーチーズ:無事ですか?

綿あめ:……ありがとうございます……急に火事になって……大きな炎が……

ブルーチーズ:落ち着いてください、火はもう消えましたよ。


 荒んだ心は目の前の人物によって丁寧に慰められた。綿あめはおどおどしながら相手を観察した。髪長い青年に何があったかは分からないが、彼も顔色が悪く、服もボロボロだった。そして――


綿あめ:あの、怪我してるよ!


 青年は胸を押さえて、首を横に振った。


ブルーチーズ:僕は大丈夫です。君は食霊ですか?どうしてこんな暗い森林にいるのですか?

綿あめ:わ、わからない、ずっとここに住んでいるの……

ブルーチーズ:……ずっと?

綿あめそう、ここは私の家、綿あめの家……ううっ……私の家……私の御菓子の家……なくなった……家がなくなっちゃった……


 火事のせいで溶けた御菓子の家の事を思い出して、綿あめが泣き出した。ブルーチーズは彼女の頭を撫でる。


ブルーチーズ:泣かないでください。僕は君を連れてここから出る事が出来ます。外の世界で生活を送る事になりますが、それでもいいですか?


───

ここから出ますか?

・<選択肢・上>出る。

・<選択肢・中>もう少し状況を尋ねる。

・<選択肢・下>出たくない。

───


綿あめ:外の世界?外はどこ?外の世界にも御菓子の家があるの?

ブルーチーズ:ええと……おそらくありません。

綿あめ:じゃあ、どうして外に行くの?

ブルーチーズ:……外の世界に御菓子の家はないですが、光はあります。炎と違い、人を傷つけない光です。

綿あめ:……わかった。

ブルーチーズ:しかし、外の世界に行くには時空トンネルを通らなければならないです。そして、流されて別の場所に辿り着く可能性もあります……なので、この選択は、君自身で選ばなければならない。


 綿あめは悩みながらブルーチーズを見ていた。彼女は躊躇った結果、彼に手を伸ばした……


 突如戻った記憶と目の前の炎で、綿あめは一時的に現実と過去を区別できなくなっていた。

 彼女はゆらゆらと前に向かって歩きながら、手を伸ばした。もう少しで炎に焼かれそうになっていた所、温かく優しい手が彼女を引き留めた。


ストーリー2-4

ローズマナーハウス

ガーデン


 ブルーチーズは綿あめの手を引いて、炎に呑まれたホールから離れ、誰もいないガーデンに出た。


ブルーチーズ:お久しぶりです。


 綿あめの意識はまるでベールに包まれたように、何か重要な事を忘れている事に気付けないでいた。彼女はつま先を立てて、ブルーチーズの顔をつついた。


綿あめ:本当にあなたなの!?

ブルーチーズ:フフッ、本物ですよ。

綿あめ:ど、どうしてここにいるの?

ブルーチーズ:君が難題に立ち向かっている事を知ったので、手伝いに来ました。

綿あめ:手伝い?

ブルーチーズ:クリステン嬢の恋人が舞踏会の後行方不明になり、そして彼女はホルスの眼に依頼を出したのでしょう?

綿あめ:その事も知ってるの!?

ブルーチーズ:その事だけではありません、クリステン嬢に一体何があったのかも知っていますよ。


───


ローズマナーハウス

ローズホール


 パフェは煙の中、口と鼻を覆いながらボーっとしていた。この時、二つの影が彼女の傍にやって来て、彼女を起こした。


ザッハトルテパフェ、大丈夫か?

パフェゴホゴホッ、平気よ。私の事はいいから、綿あめが誰かに連れて行かれたの!どういう事?テストはまだ途中なのに、何で急に火事が起きたの?あの事件で、こんな出来事は起こっていなかったはずだわ!

フランスパン申し訳ございません、パフェ先輩。これは僕のミスです……誰かがこの空間に乱入し、霊力でこの空間で起きる出来事を変えました。

パフェ:なんですって?つまり、今この空間には私たちとNPC以外の第三者がいるというの?

ザッハトルテ:そうだ。だが相手は上手く隠れているようで、見つけるのにまだ時間が掛かりそうだ。

フランスパン:突破口を探すため色々試してはいます。

パフェ:最悪……一体誰なの……何をするつもり?


───


ローズマナーハウス

ガーデン


 綿あめはまだホール内の出来事を知らない。彼女は今ガーデンのベンチに座って、ブルーチーズの分析を聞いていた。


ブルーチーズ:事件の本当の真相は、去年の舞踏会が行われた頃、クリステン嬢はまだ「恋人」と付き合っていなかったのです。

綿あめ:まだ付き合っていなかった?

ブルーチーズ:つまり……お互い相手の事を好きでしたが、正式に告白をしていなかった。今夜の最初の商品を覚えていますか?

綿あめ:うん、「告白香水」!

ブルーチーズ:いつの間にか、彼女の恋人は「告白香水」の秘密を知ってしまった。彼は腹を立てた、自分の感情は操られていた物だと思ったのです。

綿あめ:お互いが好き同士なら……どうしてこの魔法の薬を使うの……?

ブルーチーズ:彼女に自信が足りなかったのかもしれません。とにかく、彼は「告白香水」の秘密を知り、自分の感情が操られていたと思い腹を立てました。

ブルーチーズ:彼女は彼に謝り、彼の許しを乞いました。しかし、彼女が思いもよらなかったのは、彼も実はそのオークションに参加していた事。更には二番目の商品――「断絶の石」を落札していたのです。「断絶の石」の効果は覚えていますか?

綿あめ:覚えてる、自分の恋人と別れられる!だから、彼はこの石を使った……でもどうしてクリステンは自分の恋人は行方不明になったと言っているの?

ブルーチーズ:「断絶の石」の別れは、本当の意味での別れです。誰かがこの石を使用して恋人と別れた場合、その恋人は永遠に自分の姿が見えなくなるようになるそうです。ですので、クリステン嬢にとって、彼女の恋人は確かに彼女の世界では行方不明になっています。


 綿あめは驚いて自分の口を覆った。全てを信じられないでいた。


綿あめ:……そうすると……どうしてクリステンは私たちに調査依頼を出したの?

ブルーチーズ:彼女の目的は事件の調査ではありません、ただ助けを求めていたのです。

綿あめ:え?私たちによる助けは、真相の究明じゃないの?

ブルーチーズ:いいえ、思い出してください、彼女は舞踏会に来て何をしていましたか?


───


ローズマナーハウス

ローズホール


パフェ:どうやってこの空間の突破口を探すの?

ザッハトルテ:バックトラックルームはテスト会場としての公正性を守るため、改竄を許さない仕組みになっている。もし空間が改竄されていれば、必ずどこかに痕跡が残されているはず。その痕跡を見つける事が出来れば、元の空間に戻せる。

ザッハトルテパフェ、空間に入ってから起きた全ての出来事を出来る限り思い出せ。僕たちは記録と照らし合わせて確認する。


 パフェは珍しく反論しなかった。彼女は頷き、思い出していた……


───

次の出来事の中で、改竄されたのはどれ?

・<選択肢・上>オークションが暗闇の中行われていた事。

・<選択肢・中>ステージの幕は締め切っていた事。

・<選択肢・下>マッチがオークションのチップになっていた事。

───


ストーリー2-6

ローズマナーハウス

ガーデン


 パフェは今日の出来事を精一杯思い出していた。同時に、綿あめもクリステンの今日の行動を振り返っていた。


綿あめ:そうだ、彼女にマッチを借りようとした時、彼女は自分のマッチは前の二つ商品で使い切ったって言ってた--彼女は入札したかったんだ!

ブルーチーズ:彼女は嘘をつきました。

綿あめ:え?

ブルーチーズ:商品は三種類あります。一つ目の効果は告白、これは去年彼女が落札した物です。二つ目の効果は別れ、今の彼女にとって意味がありません。彼女が欲しいのは、最後の商品ーー裏切り者に罰を与える「夭折薔薇」です。

綿あめ:あの毒薬!?

ブルーチーズ:そう、彼女がホルスの眼に依頼した理由は、君たちに彼女が毒薬を落札する時......彼女を止めて欲しかったのです。


 ブルーチーズは頷きながら、ゆっくりと話した。


ローズマナーハウス

ローズホール


パフェ:......そして、司会者が登場した。彼は幕の後ろにいて、最初の商品「告白香水」を......

ザッハトルテ:待て。

パフェ:何か問題があったかしら?

ザッハトルテ:幕......去年の本物の事件だと、これらの違法薬物を売っていた堕神は、仮面を被って人間の男性を装っていた。幕の後に隠されていなかった!


 ザッハトルテが振り向く。フランスパンも自分の銃を持ち上げていた。彼の法典は自動でページがめくられていた。


フランスパン:テスト会場の秩序を乱し、受験生を連れ去った罪を、私が裁く!


 フランスパンの法典から、文字が浮かび上がると、弾となり銃に入っていった。彼はトリガーを引き、炎の向こう側に見えるステージに向かって銃弾を放った。三人を囲んでいた、風も通さない炎の障壁の一部が欠けた。


パフェ:正解だったみたいね!


 三人は炎の障壁を突破した。障壁の外のローズホールは既に色を無くし、静かになっていた。周りに見える貴族たちは全て彫刻のように当時のまま止まっていた。

 三人はステージに向かった。フランスパンが開けた大きな穴から幕を引き裂くと、ステージには焼けた人と同じ大きさの紙人形が倒れていた。それはまさに、先程まで幕の後にいた司会者と同じ姿形をしていた......


ローズマナーハウス

ガーデン


 銃声が聞こえてきた。ブルーチーズは目線を後ろの建物に向けた。


ブルーチーズ:(早いですね......時間が足りない)


 綿あめは先ほどの推理に浸っており、ブルーチーズの怪しげな視線に気づかない。


綿あめ:だから、クリステンの願いは、毒薬を入手する事、そして自分の恋人を殺す事......だけど、これは正しい事ではないと知っているから、最後に誰かに止めて欲しかった......

ブルーチーズ綿あめ。

綿あめ:はい?


 綿あめは顔を上げ、ブルーチーズの表情を見ると、ある直感が湧き上がってきた。


綿あめ:ま、また行っちゃうの?


 ブルーチーズは無言で頷いた。そして、彼女に手を伸ばした。


ブルーチーズ:君を連れて行く事を約束しました。以前、闇の森林から出る時ははぐれてしまいましたが......今でも僕と一緒に行きたいと思っていますか?今回は、時空トンネルではぐれない事を保証します。

綿あめ:……


 綿あめは呆然とブルーチーズを見て、ゆっくりと手を伸ばした。

 しかし、綿あめの手はブルーチーズの手に触れた瞬間引っ込められた。彼女は首を振り、懐にあるノートを抱き締めた。


綿あめ:ダ、ダメ。私はまだクリステンと話をしていない。彼女が毒薬を落札した人がどうか関係なく、私は彼女に会いに行かなきゃいけない。

綿あめあと、ザッハトルテ、フランスパン、ターダッキン、アンデッドパン......今日出掛ける時、彼らにお別れを言ってなかった。こんなの、礼儀正しい事じゃない。それに、それに......綿あめはまだ調査員に合格してない......綿あめは......


 綿あめは焦って、うまく話せないくなっていた。突然、彼女の言葉が止まったーー初めて会った時と同じように、ブルーチーズは彼女の髪を撫でていた。


ブルーチーズ:泣かないでください。ここで良い生活を送れているみたいですね。僕は嬉しいです、君が森から出て良い仲間たちに出会えた事を。これからも彼らを大事にしてくださいね。

綿あめ:ほ、本当に行っちゃうの?

ブルーチーズ:君と同じように、僕の仲間たちが僕を待っていますから。

綿あめ:じゃあ、また会える?


───

ブルーチーズはどう返事をしますか?

・<選択肢・上>もちろんですよ。

・<選択肢・中>時間に任せましょう。

・<選択肢・下>会わない方がいいですよ。

───


 ブルーチーズが返事を口にした瞬間、綿あめの背後から馴染みのある声が聞こえてきた。


ザッハトルテ綿あめ!


 綿あめは無意識に後ろを向いた、自分に向かって走って来るザッハトルテとフランスパンが見えた。

 彼女がまた振り返ると、そばにはもう誰もいなかった。ブルーチーズの姿は既になかった。


ブルーチーズ√宝箱

ミドガル

幻楽歌劇団


 激しいバイオリンの演奏と共に、青く波打つ光が浮遊する逆ドロップ型の水晶の中で激しく動いていた。それは閉じ込められた獣のように、音楽の枷から解き放たれようと、水晶の壁を突き破ろうとしていた。

 しかし最終的に降伏したのか、音楽に導かれて柔らかな液体になり、水晶の先端から一滴ずつベッドに横たわる患者の体に注入された。

 この患者は10歳にも満たない男の子だった。彼の首には一本の長く、そして深い傷口があった。そしてその傷口から、霊力が絶えず漏れ出ていた。

 幸いにも、あの水晶から注入された液体によって、霊力の漏れだすスピードは段々と遅くなっていった。

 ブルーチーズが演奏を止めた。隣のパエリアとシフォンケーキは急いで男の子の様子を見に駆け寄った。彼、ムースケーキの体調が少しずつ安定していく姿を見て、安堵が漏れた。


シフォンケーキ:よかった、よかった!

パエリアふう……しかし僕の紙人形はまだ燃え切っていないのに、撤退せざるを得ないなんて……ブルーチーズ、そちはどうだ、発見されなかったか?

ブルーチーズ:(まさか、闇の森林から出た綿あめがホルスの眼に行っていたなんて……当時の予想はやはり正しかった、確かに違う時間軸に流された……

パエリアブルーチーズ?何を考えているんだ?

ブルーチーズ:うん?ああ、何でもありません。


 ブルーチーズがバイオリンを収めると、ムースケーキの体温を測りに行った。


ブルーチーズ:今回は確かに緊急事態でした。そうでなかったら、これ程のリスクを冒してまで、ホルスの眼が持っている時空エネルギーを貰いに行こうとはしませんでした……なのでミスをするのはしょうがない事です、自責する必要はありませんよ。

ブルーチーズ:そして今、ホルスの眼の連中は僕たちがそのエネルギーを持ち出したという直接的な証拠を持っていません。僕たちは活動の頻度を普段通り維持して、彼らに異常を勘付かせなければ問題ないでしょう。ただ時空エネルギーを集める計画は一旦中止しましょう。

パエリア:うん、今の状況から見ればそうするしかない。けど団長の体は、今回どのくらい持つかわからない……

シフォンケーキ:おいっ!なんだこの悲しい雰囲気!今回は勝利しただろう!お祝いしよう!行くぞ、団長の休養の邪魔をしないで、食事でもしよう!今回は僕が奢るから!

パエリア:おい!あたしを引っ張るな!


 シフォンケーキは笑いながらパエリアとブルーチーズを引っ張ってドアに向かった。彼がドアを開けた時、外で立っている人を見て驚く。


オペラ:……

シフォンケーキあの……こんにちはオペラさん……えっと、これから食事に行くけど、一緒に来る?


 オペラは三人の顔を一人ずつ見ていき、最後は後ろのベッドに視線を止めた。しばらくして、再びブルーチーズに視線を向けた。


オペラ:団長の体調はどうだ?

ブルーチーズ:やっと安定してきました。今回は本当にありがとうございます。

オペラ:……

ブルーチーズ:「幻楽歌劇団は一体何をやっているのか?どうしてあなたを加入させたのか?団長の病気はどういう事なのか?」と聞きたそうな顔をしていますね。

オペラ:私は合理的な説明を求める。


 ブルーチーズは頷く。


ブルーチーズ:話は長くなりますので、食事の時に詳しい話をしましょう。今、まず簡単に言える事は――

ブルーチーズ:ご覧の通り、僕たちがやっている事は――時間を留める事です。


「無価の宝」・完


綿あめ√宝箱

ミドガル

ホルスの眼


綿あめ:えーっ!?さっきのは、新人テスト?ローズマナーハウスの事件は去年起きた事?


 綿あめの声で、外にいるカラスたちが驚いて飛び立っていった。


綿あめ:じゃあ、本当の事件でクリステンは最後どうなったの?

ザッハトルテ:毒薬を手に入れた直後、僕たちに気付かれたので、それで彼女は自主的にこの計画をやめた。

綿あめなるほど……よかった……そうだ!綿あめあそこで堕神の気配を感じたの!

ザッハトルテ:あれは人間の愛情に対する歪んだ欲望から誕生した堕神。普段は人間を装って自分の正体を隠していたが、バレンタインで高まった愛情への飢えに乗じ、違法薬物を売っていた。事件の後、あの堕神は全部駆逐された。

綿あめそうなんだ……本当に強そうだった……あの、ザッハトルテ……綿あめは……テストに合格したの?

ザッハトルテ:自分でどう思う?

綿あめ:……えっと……多分ダメだったよね……


 言いながら俯く綿あめ。彼女の頭にはまるで垂れ下がっている「ウサギの耳」があるようだった。


ザッハトルテ:……ゴホゴホッ、今回のテストは途中で事故が起きたが……総合的に見て、最後まで事件の真相を究明出来てはいないが、素質はあった、だから――


 綿あめの「耳」が立ってきた。


ザッハトルテ:だから、あなたを特別にホルスの眼の正式メンバーとして採用する事を決めた。ただし、今はまだ単独でクエストを受ける事は出来ない。しばらくは以前と同じように資料の整理を行う、いいか?

綿あめ:いいよ!もちろん!喜んで!超!喜んで!

綿あめ今すぐターダッキンとアンデッドパンに報告してくる!綿あめ正式メンバーになったよ!


 綿あめはがぱっと飛び起きて、走って行った。

 ザッハトルテは微笑ましそうに首を振った。彼の背後の闇から、パフェがそっと出てきた。


パフェ:私はなんやかんやで元彼を毒殺したい悪女になったの?

ザッハトルテ:彼女が僕たちについて知らなければ知らないほど、彼女は安全だ。あなたの正体を彼女に教えるより、この方がもっと良いだろう。

パフェ:フンッ、本当はこのためではないでしょう?

ザッハトルテ:何?

パフェ綿あめが、彼女をミドガルに連れてきた人に会ったと言っていた――これと関係しているんでしょう?貴方は最初から彼女の事を本当の意味で信じていなかった。

パフェザッハトルテ……今回の事件、乱入者と火事を含めて、全部貴方の計画でしょう……綿あめに探りを入れているの?


 ザッハトルテは答えない。彼はあの招待状をテーブルに置いた。裏にはまだ励ましの文字が書かれているが、カード本体は金色から生気のない灰色になっていた。


ザッハトルテ:数日前、未知の霊力がずっと僕たちのバックトラックルームに侵入しようとしていたが、成功しなかった。

パフェ……だから、今回の綿あめの危機を利用して彼らを誘き出そうとしたの?

ザッハトルテ:バックトラックルームには、ホルスの眼の事件資料が全て揃っている。最高機密の資料がなんなのか、知っているか?

パフェ:それは貴方の役目だから、私が知る訳ないでしょう。

ザッハトルテあなたの映像だ。特に去年のバレンタイン、あなたがローズマナーハウスの外で昏睡状態の綿あめに出会って、彼女をホルスの眼に連れ戻った映像。

パフェ:……何ですって?待って、あの事は、事件の範疇に入れるべきではないわ!

ザッハトルテ詳しい事は僕も分からない。バックトラックルームは意識を持っている。あの日、綿あめから何かを感じたから、この事を記録したのかもしれない。

パフェ:あの霊力がバックトラックルームを探っていたのは、帝国に潜んでいる者を探していた…?

ザッハトルテ:そう考えていた。だからあの映像を隠し、この事件をきっかけに彼らの正体を探し出そうとした……でも、少し意外な事が起きた。

ザッハトルテ:この霊力は、資料が目当てではなかった。ただこのルームのエネルギーを奪い去ろうとしただけ。

パフェ:……野蛮なやり方ね。そうだわ、火事が発生する前、幻楽歌劇団という名前を聞いたわ。

パフェ:私が知っている限り、あれはとても有名な移動歌劇団で、謎は多いけど違法行為はしていないはず。

ザッハトルテ……いや、彼らはグレーと言える。フランスパンが調査した時の館の事件にも彼らの姿があった。ただし証拠が足りないせいで正式に捜査出来なかった。


 ザッハトルテはあの灰色になった招待状を持ち上げて、裏の励ましの文字を触った。その瞬間文字が浮かび上がり並び変わって特殊な暗号になった。


ザッハトルテ:今は……足りるかもしれない。


 二人が話している時、ホルスの眼から遠く離れた所で招待状に浮かび上がった物と同じ暗号が、誰もいない隅でゆっくりと起動した……



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ゲーム情報
タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
対応OS
    • iOS
    • リリース日:2018年10月11日
    • Android
    • リリース日:2018年10月11日
カテゴリ
  • カテゴリー
  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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